(落ち着け、落ち着け、俺……)  
 視線を膝に落とし、彼、新田哲平はとにかく平静を装おうとした。  
 座りごこちの良い、高級感溢れるソファ。磨かれて、ホコリ一つ無さそうな大理  
石風プラスティックのテーブル。加えて、室内に軽く香るフローラル。  
 そんな中にいる、みすぼらしいワイシャツにジーンズの自分自身が、あまりにも  
場違いに思えてしかない。  
 出された烏龍茶に、喉も渇いていないのに口をつける。  
 度を越えた緊張のせいか、その茶色の液体は、粘土のような味がした。  
(落ち着け、落ち着け……)  
 念仏のように、心の中で唱える新田。  
(いくら、はじめてだからって。いや、はじめてだからこそ、こんなに緊張して  
ちゃ……)  
 震える体。落ちつかずに周囲を見渡した。  
 内装は応接間のそれである。ただ一点、違う場所はその壁面に張られた、写真た  
ち。それも普通の写真ではない。下着姿の女性達と、その下の名前、そしてスリー  
サイズが簡潔に記されている、ポラロイド。  
 そんなモノを見ているだけでも、彼の心臓が早鐘を鳴らす……  
 ソープランド『フライマンタ』。新田がここの存在を知ったのは、自転車置き場  
においておいた、自転車のカゴに投げ込まれた、一枚のチラシからだった。そこが  
どういう行為を行なうための場所なのか、その知識が彼にはあった。いつもだった  
ら、手に取ることなく、丸めて棄てる類のシロモノだったのだが、その日はそれを  
何の気なしポケットにねじ込んだ。自室に戻ってまじまじと眺めて、思い浮かんだ  
思考が、  
行ってみよう……  
 だった。  
(ハタチ越えて童貞もあれだしな……)  
 
 高校時代、部活一直線だった自分には、その手の縁がなかった。そんな風に半ば  
思い込んでいる新田。もちろん部活に熱心ったって、要領の良い奴ならば、彼女の  
一人くらい作ることができるもんだ。実際、彼の所属した剣道部の中でも、それな  
りの数の男達が彼女もちだった。同じ学校の子だったり、剣道の大会を通して他校  
の子と付き合っていたり。  
 要は、自分はストイックだ!と思いきることで、彼女なしの辛さから目を背けよ  
うとしていただけなのかもしれない……  
 とにかく、新田は自分の『はじめて』を棄てようと、チラシに引かれて大枚抱え  
て『フライマンタ』を訪れたのだった。  
 いわゆる進んだ友人や、世の中に溢れる情報から、色事について新田は、聞きか  
じりの知識だけはあった。高校の時分は、HOWTO本を回し読んだりしたもんだ。  
だからこそ、『本番』を前に、気持ちははやる一方だ。  
(深呼吸でもして……)  
「お客様?」  
 びく!突然暗幕の向こうから訪れたボーイに声をかけられ、新田は椅子からずり  
落ちんがばかりにおののいた。悪いことをしているわけでもないのだが……  
「は、はぃ!?」  
 声も裏返る。  
 しかし、向こうもプロなわけで。微笑とともに、そんな新田の様子を受け流し、  
「お写真を見て、女の子をお選びになられますか?一応、こちらの子になりますが」  
 言いながら、ボーイがテーブルに数枚の写真を並べる。いずれも、壁の写真と同  
じ、下着姿。  
(くぅ……)  
 新田は、まじまじとそれらを見ることができなかった。  
 
 この時点で、半ば挫けそうになっていた。自分には、まだ早かったのだ。刺激が  
強すぎる。もっと馴らすように、ストリップとかそういうのに行き、慣れてからに  
すればよかった……いきなりソープで女の子を選べと言われて、新田の脳内は困惑  
でぐにぐにうねりつつあった。  
 ごめんなさいと謝れば、お店の外に出してもらえるだろうか?  
「その、あの……」  
「はい、なんでしょうか?」  
 相変わらず笑顔のボーイ。  
「あっと……おまかせ、で」それが彼の精一杯だった。  
「おまかせ、ですか……はぁ」すこし困り顔になるボーイ。「すぐにでもご案内で  
きる女の子が一人いますので、彼女でよろしいでしょうか」  
「は、はい」ろくに写真も見ずに、頷き返す新田。  
「わかりました。それでは、少々お待ちください……」  
 ボーイが暗幕の中に消えていく。  
(ふぅ……)  
 ようやく、新田は人心地ついた。再び、烏龍茶に手を伸ばす。  
(こんなんで大丈夫だろうか……)くしゃり、人知れず泣きそうな顔になる。  
「お客様」  
 再び、ボーイの声。  
「女の子の準備できました。突き当たりの階段を上がって、一番目の部屋にお入り  
ください。中で女の子、お待ちしていますから」  
「は、はい!」  
 必要以上に元気な声で返した新田は、ボーイのお辞儀に送られて、待合室を後に  
した……  
 
 赤絨毯の上を歩く新田。階段を上る。  
(一番目の部屋……)  
 階段は不必要に灯かりが落とされていた。それが、なんだか新田の期待感を掻き立てるよ  
うで、一歩進むたび、どくっどくっと心臓が高鳴った。  
 そして、その部屋。  
 扉は既に開いていた。部屋の向こう端に、浴槽が見える。  
「はじめまして、よろしくお願いします!」  
 ドアの側で躊躇する新田に、部屋の中から、女の子の明るい声がかけられた。  
(あれ?)  
 この声、どこかで聞いたことが。  
 そんな感慨に囚われ、視線を声の主に向ける。  
 たっぷりの広さを持った個室。半分が浴場、そしてもう半分が寝室といったつく  
りの部屋。そのベッドに、ちょこんと腰掛けるように、キャミソール一枚の少女が  
いた。こんな場所で働いているのに何だが、彼女には少女と言う呼称がふさわしい。  
百五十に届くか届かないかの身の丈に、笑顔の似合うベビーフェイス。肩までのびた  
黒髪は首元でまとめられ、垂らされている。薄暗い照明とあわせて、ベッドで微笑  
む彼女の姿は、たまらなくコケティッシュだった。  
だが……  
 その姿を見た、新田は硬直してしまう。  
「お前、石井……か?」  
 新田の、高校時分の知りあいそっくり、いや、当人としか思えない少女。  
 その言葉を聞いたとき、少女の表情から作り物の笑顔が、すうっと消えた。  
「新田、先輩……?」  
「そうだよ!剣道部の!いやぁ、懐かしいなぁ……」懐かしいその顔に、自然と笑  
みが浮かぶ新田。だが……  
 
「……嫌ぁ」少女が小さく呟いた。  
「石井?」  
「嫌ぁぁぁ!」  
 つんざくような声。そして突然、少女はベッドサイドから立ち上がった。ドア側  
に突っ立っている新田を突き飛ばすように、部屋から飛び出すと、あっというまに  
階段の方へ廊下を走りぬけていった……  
 残された新田。ただ呆然とするばかりだった。  
(石井……)  
 声、姿。あれは確かに、彼の知る石井汐見そのひとだった。新田としては、ただ  
懐かしさにかまけて、軽く声をかけただけだった。なのにあの嫌がりよう。そして、  
突き飛ばされるように交差したとき、一瞬見えた、彼女の表情。  
(泣いてた……)  
 どうして?なぜ?途方に暮れる新田の背中に、先ほどと同じボーイの声が。  
「お客様」  
「……」  
「お客様?」  
「あ、はい」  
 振り返ったところには、同じ笑顔のボーイ。ただ、どこか発す迫力が違う。  
「……事務所の方へ、よろしいですか?」  
「事務所ですか……?でも、なんで?」  
 聞き返して、自分の置かれた立場に気がついた。泣きながら走っていった女の子、  
個室の中は自分と二人だけ。はたしてこの局面、言い訳なんぞ、できるものだろうか。  
 
「いや、俺、何もしてないですし」思わず、あたふたしながら言う。  
「ですから、そういった話は向こうの方で伺いますので……」  
 語尾のトーンが下がり、どすが利いた声になる。有無を言わさない、という雰囲  
気だった。  
(どどどどど、どうすれば!?)  
「矢沢さん!」  
 途惑う新田に天の助けか、ボーイの背後から、少女の声が。ボーイがそちらに視  
線を移す。  
「あんりちゃん……」  
 源氏名で呼ばれた石井汐見。先ほどの我を失って走り去った様子が嘘のように、  
平静を装っている。  
「すいません。何でもないんです」  
 ペコリとボーイにお辞儀をする少女。  
「でも、あんなに慌てて……」  
「知りあいに似てて、ちょっと慌てちゃったんです。よく見たら、違う人だし。あ、  
本当に大丈夫ですから!」  
「……そう……ならいいけどね」  
 頷くながらも、ボーイは釈然としない表情。とはいえ、当事者がそういうならば、  
彼も引き下がるしかないのだろう。振り返る前に、新田にいぶかしげな表情を向け  
て、のろりとした足取りで、階段へと向かった。  
 廊下にのこされた二人。対峙して、沈黙。  
「とりあえず……」先に口を開いたのは、少女の方からだった。「お部屋の中に、  
入りませんか?ここでは話も落ち着いてできないでしょうから……」  
 
 再び、個室の中へ足を踏み入れる新田。  
「……ベッドにでも、腰掛けていてください」  
 彼女に促されるままに、新田はベッドに腰掛けた。  
 かちゃり。汐見が後ろ手に、部屋のカギをかける。  
 これで、個室に二人きり。しかし、新田の中には、興奮よりも苦悩の方が多かった。  
 彼女は、確かに石井汐見その人だ。あの慌てる様子が、なにより物語っている。新  
田が高校の時分、その剣道部のマネージャーだった少女。働き者で、気がきいて、  
屈託のない笑顔で誰にも愛されていた、剣道部のマスコット、男子部員の憧れ、ア  
イドルだった少女。もちろん、新田も彼女のことは憎からず思っていた。  
 その彼女が、どうしてソープランドに?  
 新田の横に、彼女が腰掛ける。柔らかいベッドが、軽く、沈んだ。  
 再び、二人の間を沈黙が包み込む。耐え切れないくらいに、重く、暗い雰囲気。  
「何か、飲みますか……」  
 先に口を開いたのは、汐見の方だった。消え入りそうに小さな声で、そう聞いて  
くる。  
「あ、うん……烏龍茶で」  
 部屋に備え付けられている冷蔵庫へ向かう汐見。手慣れた手つきで、グラスに  
ロックアイスを入れる。琥珀の液体の注がれたグラスが、新田の前に置かれる。  
 そして、また沈黙の時間……  
 彼女に、なんて言葉をかけたらいい?自問を繰り返す。「元気だった?」「久しぶ  
り?」世間話のお決まりの、始まりの言葉を口にするのが、なんだか残酷に思えた。  
いたわりの言葉は皮肉にしかならない……結果、新田は待つしかなかったのだ。彼  
女が口を開くのを。  
 
「幻滅しました?私がこういうところで働いているって知って」  
「……いや……」  
「……先輩が卒業して少しぐらい経ってから、お父さんが倒れたんです。それで、  
そのまま呆気なく……私と、年の離れた三人の兄弟を遺して。保険金も入ったんで  
すけど、お父さん、前の仕事で抱えていた借金があって、それを返すとほとんど残  
りませんでした。頼れる親戚もいません。でも、あの子達にはキチンと学校に通っ  
て欲しかったから……」沈んだ調子で、訥々と語る汐見。  
「石井……」  
「名前も変えてるし、知っている人と会うなんて思ってなかったんですけどね。ま  
さか、新田先輩が来るなんて」  
「いや……」  
「写真見て、私と知って、選んでくれたんですよね」  
 そうだ、そうじゃない。どちらを答えても、彼女を傷つけるような気がした。だ  
から、新田は素直に話す。  
 事の顛末を。極限まで、あがっていた自分は、下着姿の写真をマトモに見られな  
かったこと。おすすめを、と口にして、すぐに用意できる女の子を紹介され、勧め  
られるがままに頷いたことを。  
「……信じられないかもしれないけど」情けない自分自身を、頭を掻きながら説明  
する新田。  
「……おすすめを、ですか?」  
「こういうところ初めてだからさ。どうしたらいいかわからないから、聞いてみりゃ  
いいかなぁって」  
「なんだか、レストランのオーダーみたい」  
「やっぱ、変だったかなぁ?」  
「そうですね」そう、口にしながら小さく微笑む。蔭っていた彼女の表情、必死に  
語る新田の様子を見ると、少しだけ明るくなったようにみえた。  
 
「なんか、悪かったな」  
「何がですか?」  
「石井の顔見てさ、舞い上がっちゃったんだろうな。場所弁えずに、懐かしいみた  
いなこと口にしてさ」  
「……気にしないで下さい。私の方こそ、あんなふうに逃げちゃって、気を悪くし  
ませんでした?」  
「いや、まぁ、正直驚いたけどね」  
「知っている人には会わないだろうとは思っていましたけど、地元で働く限りは、  
少し覚悟してたんですよ。でも、それがよりにもよって、新田先輩とは……」  
「よりにもよって、俺とは?……まぁ、高校のときの俺は、こういうところに来そ  
うなタイプじゃなかったからな」  
「そうじゃなくて……」汐見がうっすらと顔を赤らめて、くちごもった。  
「……?」  
「気付いてませんでしたか?ずっとあなたのこと、見てたこと」  
「……え!?」絶句する、新田。  
「初めて見かけたのは、剣道の大会でした。中学校の友達の付き添いで見に行った  
その大会に、新田先輩が出てたんですよ」  
 中学の頃の大会、うっすらとそのあたりのことを頭の中で思い描く。  
「素敵でした。速さとか、勢いで勝つ乱暴な剣道じゃなくて、流れみたいのにのって、  
抜き胴や、出小手を決める先輩の姿。きっと一目惚れ、だったと思います。高校の名  
前調べて、そこに通うって決めちゃうくらいでしたから……」  
「そうだったのか……」新田にとって、寝耳に水の話だった。  
 
「剣道部のマネージャーになったのも?」  
「はい。剣道はできないですけど、先輩の側に行きたいなと思って……」  
「知らなかった……でも、高校のとき、そんなこと全然言わなかったよな?」  
「はい……先輩、剣道に夢中でしたから。私なんかがそんなこといったら、負担に  
なるかなと思って」  
(石井……)  
「はは、なんか、いまさらそんなこと言われても、萎えちゃうよって感じですよね」  
「いや……」  
「いいんです。ところで、どうしますか?マットとベッド、どっち先にしますか?」  
「石井……」  
「マットは良く褒められるんですよ。巧いねって……」  
「いいんだ……」  
「お風呂の潜望鏡もできますよ。二回戦OKのコースですから……」  
「できないよ」  
 新田は、彼女から目を逸らしながら、そう小さく呟いた。  
「できない……そう、ですよね」笑顔のままに、汐見が答える。本音を覆い隠して  
無理矢理作る、商売用の、哀しい、作り笑顔。その表情を張り付かせたまま、「嫌、  
ですよね。毎日、他の男とお金のために寝るような女」  
 哀しい、身を切るような自嘲だった。声の調子は無理からに明るいまま、に。  
「違う!そうじゃない!」  
 伏せた顔を上げ、汐見を見る新田。彼女の頬に、一条の涙が流れている……  
(クソ!何で何回も泣かせなきゃいけない!?俺は馬鹿か!)  
 不甲斐ない。思慮のあまりにも足りない、己自身を呪う言葉を脳内で吐きながら、  
新田は続けた。  
 
「気になってた!高校のときから!可愛いなって思ってた!洗濯物を洗ってくれる  
姿とか、ひたむきな応援とか!付き合いたいとか、思わなかったことはないさ!で  
もさ、石井は、良い子すぎたから、絶対、彼氏いると思ってて!それで……」  
「先輩……」  
「好きだったから!いや違う、今も好きだから、だから軽々しく抱けないんだ。本  
当に思っているからこそ、お金を媒介にするような抱きかたはできない。それに……  
俺は、その、初めてだし……ああもう!俺ってカッコワルいなぁ!」  
「そんなこと、ないですよ……」ここで浮かんだ汐見の笑顔。それに新田は、確か  
に高校時代の彼女の姿を見た。「先輩は、今も変わらず、カッコイイ先輩です」  
(両思いだったのか……)  
 彼女のことを思い忍んでいた、あの頃がなんだか馬鹿らしいものにすら思えてく  
る。今や無い物ねだりになってしまったが、あの時、手を伸ばせば、それは手に入  
ったものだったのだ……  
「……先輩、なら、一人の女の子としてなら、抱いてくれますか」  
 汐見が擦り寄ってくる。その顔が近くなる。真っ直ぐ、見返してくる、真摯な瞳  
だった。「私、先輩の特別な存在になりたいです。だから、その……先輩の、はじ  
めてを、ください」  
 真っ赤になりながら、汐見は、そう口にした。  
「……むぅ、それは、男の方のセリフじゃないか?」なんとなく、気恥ずかしいま  
ま、新田は鼻の頭を掻いた……  
 
 そのまま、二人の顔が近づいていく。  
 目を閉じ、くちびるを差し出す汐見。おずおずと新田は自分の口を押し当てた。  
 にむ。柔らかい、感触。  
 軽い接触で、二人はくちびるを離す。  
「キスも、はじめてですか……?」  
「恥ずかしながら」  
「じゃ、次は……」  
 再び、目を閉じ、朱色のくちびるを近づけて来る汐見。受け身に、くちづけを待  
つ新田の後頭部に、突然汐見の腕が回された。  
「ん………!」  
 身動き取れなくなった新田。そのままキス。ただ、先程のようにすぐ離れたりしな  
い。閉じた新田の唇を割り、汐見の舌が入りこんでくる。  
「ん…、ぐ……む!」  
 ざらりと、湿り気をもったそれが、唇の上を舐め、そして口内を蠢く。絡ませるよ  
うに舌先を求めて動く。面食らっていた新田だが、次第に余裕が生まれて来た。蠢く  
汐見の舌に、自分のモノを絡ませていく。ざらりとしたふたつのものが、唾液に溢れ  
ながら新田の口内で、絡み合う。  
……ちゅぷ、れる……。  
 いやらしい水音をさせながら、深いキスは続いた。  
「ん……ふぅ」  
 ちゅぱ。ようやく汐見が口を離す。半開きの新田の口から、汐見の唇に、てろり  
と涎の銀糸が伸びていた。  
「これが、はじめての……ディープキス」上気した声で、耳元で汐見が小さく呟い  
た。「先輩のはじめて、みんな貰いますから……ね」  
 
 もう、新田は彼女のいいなりだった。言われるがままに、ベッドへと横たわる。  
 その体の上に「よいしょ」と汐見はまたがった。そのまま、キャミソールの肩紐  
を落とす。見上げる新田には、果てしなく扇情的な光景だった。紐の降ろされたキャ  
ミソールが、腕にあわせて汐見の体を滑っていく。そして、その女性らしいなだら  
かな曲線が姿を現した。  
 あざやかな朱色の乳首を真ん中に置いた、二つの膨らみ。そして腰に向けてのく  
びれ。そこから魅惑的な尻。薄紐のような下着が、秘所を見えぬように、微かなが  
らも隠している。  
「胸が、もっとあったら、いろいろできたんでしょうけど」なんだか残念そうな調  
子で、自分の胸を見下ろしながら、汐見は呟いた。  
「いや、気にすることないと思うよ。石井は十分可愛い」嘘偽りのない、心からの  
セリフ。  
「……ありがとうございます、先輩」  
 またがった姿勢のまま、ワイシャツのボタンを外しにかかる汐見。丁寧に、慈し  
むような手つきで。  
「まだ剣道、続けてるんですか……」  
 露出した胸板を見て、汐見が尋ねる。  
「大学でも一応ね。高校ほど熱心に打ち込んでないから、腕は落ちたかもしれない  
けど」  
 そのまま、つーと汐見の細い指が、新田の胸板を滑った。  
「ぅ!」  
 くすぐったいとも、キモチイとも微妙に違う、なんともいえない刺激に、新田が  
身悶えした。  
「男の人でも、こういうとこ気持ちいいんですよね」  
 つい、と体を低くすると、汐見が新田の胸に舌を這わせた。ざらりとした感触、  
指よりも強い刺激が走る。とくに、乳首に当ったときに。  
「くぅ!」  
 あまりの快感に、体が浮いてしまう。  
 
「先輩、結構、敏感ですね……」  
「そうなのか?」  
「はい。だから、攻めがいがあります……」  
 汐見が舌での責めにあわせて、体を新田の下半身へずらしていく。いとおしげに、  
ジーンズのボタンを外し、チャックを降ろす。  
 トランクスの下で、モノはもうはちきれんばかりの自己主張をしていた。押し上  
げて、形がくっきり浮き出るくらい。  
 すぅ、汐見の手がトランクスに伸ばされた。ゆっくりそれが降ろされる。  
 勢いもって、屹立したそれは、戒めを解かれた瞬間に、飛び出した。  
「うわぁ……準備万端ですね。先輩」  
「面目ない」  
 ぴと。露出した亀頭に、汐見の手が伸ばされる。優しく、包み込むようにてのひ  
らを押し当て、それから弱い力でつかむ。しゅに、しゅに、上下にすられる。先走  
りの液体がとぽとぽと零れる亀頭の先を、躊躇うことなく、  
「あむ……」  
 汐見は口に咥えた。  
 途端、新田に、今まで感じたことない感覚が走った。自分のモノを、柔らかで、  
そして湿り気のあるもの包まれる感触。舌が亀頭に触れるたび、快楽が背筋を突き  
抜けていく。  
「はむ……ちゅぷ、れる……ん、くちゅ……」  
 唾液、そして先走り。それらが混じった、汐見の口の中で、ストロークにあわせ、  
じゅぷじゅぷとした淫音が発される。  
 
 ただ呑みこむだけの動きにとどまらない。口内で留めたモノを、れるれると舌先  
でころがす。また、ときおり口から出すと、カリから下の部分を、ハモニカを吹く  
ように甘噛みしながら動く。とわたり、カリに舌先を当て、唾液を潤滑に舐める……  
そんな責めに、新田はただ、翻弄されるだけだった。  
 横にされた姿勢、少し無理をして顔を持ち上げると、必死に自分のモノに奉仕す  
る汐見の顔が見える。その熱心さが、自分のためのもの、彼女の思いゆえのものだ  
と思うと、すこしばかり面映ゆいような……  
「くぅ!」  
 絶頂が近いらしい新田が軽くうめく。すると、それを察した汐見が、  
じゅ、じゅ、じゅ………  
 ストロークの、速度が上げる。  
「やば、で、出る……離して!?」  
 新田の制止の声を聞くことなく、汐見はほお張り続けた。  
(口の中で、良いって事か!?)  
 しかし、もう新田に選択の余地はなかった。  
……びくん、びくん。  
 汐見の口の中で、新田のモノが爆ぜる。堪えきれなくなった白濁が、先端から迸っ  
た。一度、二度……蠕動するたびに、尿道に生ぬるい液体が通り過ぎていく感触が  
走る。  
「ん……!こぷ……ん……く!!えほ、えほ!!」  
 余りにもそれは量が多かったらしい。汐見の小さな口には収まりきらず、白濁が  
口の端から零れた。  
 
 それでも、ほとんどを口内に収め、あまつさえ嚥下する汐見。  
「ん……こくん……。先輩、量が凄いですよ……」  
「いや、ここ来ると思ったら、溜めとかないといけないかなぁっとおもってさ……」  
「あ!悪いことじゃないですから。一杯出してくれると、それだけ気持ち良かった  
んだと思えますし。でも……」あれだけの放出をしながら、今だ勢いを保ったまま、  
屹立する新田のモノを手に、汐見は苦笑いの表情を浮かべた。「まだ、満足してな  
いみたいですね。よっぽど溜めたんですね」  
「それもある。けど……やっぱ、相手が石井だから、さ」  
「結構言いますね、先輩。あ〜あ、高校のときにそういうセリフは言って欲しかった  
かも」  
「いや、なんつーか……面目ない」  
「なーんて、冗談ですよ。じゃぁ、元気な先輩のこれ、このまま『はじめて』貰っ  
ちゃいますね……」  
 言うなり、汐見は、身につけていた最後の一枚を脱いだ。うっすらとした茂み、  
そしてあざやかな秘貝で包まれた、秘部が姿を現す。  
「先輩は、そのまま寝ててください。私が上になって、動きますから」  
 何処に入れるか、すら自信のない新田にとっては、願ってもない展開だった。ただ、  
気になるのは一つ。  
「……いいの、付けなくて」  
「先輩は、特別です。それとも、心配ですか?」  
「そういうわけじゃないけど」  
「それじゃ、このまま」  
 屹立した新田のモノに、狙いを付けるように汐見が腰を浮かす。遠目で、暗い照  
明で、よくは見えないが、細い汐見の体の、小さな秘部。新田は、そこが自分のモ  
ノを呑みこむということが、信じられないでいた。  
 
 体重を勢いにして、腰を落としていく。  
ず……にににに……  
 秘肉を押し広げ、汐見の膣内に、新田のモノが侵入していく。狭い膣内を、広げ  
ながら無理矢理に進む大きなモノ。  
 しかし、抵抗は、新田にとって締め付けに、刺激に変わる。  
(うぁ、膣内って熱い……それにキツイ!?)  
 下半身を襲う、明言できないはじめての感触に、新田は驚いた。  
「くん……あ……くぅ……全部、ぜんぶはいりましたよぉ……先輩の……」苦悶の  
吐息を混ぜた、絶え絶えの声で、汐見が呟く。「これ、先輩の…はじめて、なんで  
すよね……」  
「ああ、そうだ……」  
「んぅ!……私、せんぱいの……特別に、なれましたよね……はぅ!」  
 ゆっくりと、汐見が腰を動かした。上下へのグラインド。ぎちぎちに広がって、  
モノを受け入れている秘部。苦悶の声と、額に浮かぶ脂汗。明らかに、無理をして  
いる様子が見て取れる。  
「ねぇ…先輩、気持ち良くなってくださいね……」  
 それでも、そんなに辛くても、この子は自分のことを第一に考えてくれている。  
思われている。初挿入の感激以上に、それは新田の心を揺さぶった……  
「はぁん!」  
 ぐ。深く、少しでも深く、交わりを密にするため、新田は腰を突き出した。下か  
らの衝撃に、汐見の小さな体が浮く……  
「ん!はぁん!……凄!……せんぱい、突き上げて……わたし、おかしく、なるぅ!」  
 結合部、注送をなめらかにするための愛液が、じゅぷじゅぷとした淫音を奏でる。  
泡立ち、零れたそれが新田の下半身を伝って、ベッドに染みを作る……  
 
「くぅ!好きだ!好きだよ……石井!」  
「私もぉ……好きです、大好きですせんぱい!」  
 二人の動きが重なる。お互いがお互いをより深く、より密へと誘うための上下動。  
そしてそれは、新田をエクスタシーに達っさせるまで、それほど時間を必要としな  
かった……  
「出る、出る!」  
「いいですよ、先輩!膣中に、膣内に出してください!!」  
 きゅう、汐見の膣中が、さらに新田のモノを強く締め付けた。  
 体面、常識、将来……そんな言葉が彼方へ飛び、肉欲だけに脳内が染まる。ただ、  
その行為を当たり前のことに捉えて……  
びゅく、びゅく……  
「あはぁ……出てます、先輩の……中で……」  
 蕩けたように呟く汐見。彼女が腰を上げると、こぽり、秘部から白濁したものが  
滴り落ちた……  
 
 しばらく、ベッドにくるまって、二人はだらけた雰囲気を味わっていた。  
 お互いを理解しあい、体を重ね会った二人には、沈黙は苦痛でなかった。同じ布  
団へ入り、互いの体温を感じあえる。それで充分だ。  
「俺……」  
 新田が口を開いた。  
「大学でめっちゃ勉強する。で、就職活動頑張って、すんごい会社入るわ……だか  
ら、あと一年、待ってくれないか」  
「先輩……」  
「悔しいけどさ、学生の俺にゃ、石井とか、兄弟を何とかする力、無いからさ。で  
も、頑張って凄い給料貰えるようになれば、そういうこともできるようになると思  
うんだ。だからそれまで、待ってて欲しいんだ」  
「………」  
「駄目かな」  
「そんなの、返事は決まってるじゃないですか」  
「……?」  
 
――もう私は、三年間も待ってたんですよ?あと、一年待つくらい、どうって事無  
いですよ……  
 

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