スーパーで夕食の献立を考えているうちに、山崎加奈子はふと恐ろしい妄想にかられ  
た。学生時代、悪い友人にそそのかされてやった万引きのスリル、それが力強く甦っ  
てきたのである。  
(駄目よ、駄目)  
頭では分かっているが、万引きが成功した時の高揚感が、加奈子は今も忘れられな  
かった。勿論、悪い事をしたという気持ちもあり、必ず後で罪悪感に苛まれるのだが、  
麻薬中毒者のようにその瞬間の興奮を求める為に、人の道を外そうとしてしまう。  
 
加奈子はもう学生ではなく人妻だった。夫と五歳になる子供があり、自他共に認める  
良妻賢母でもある。財布の中に金はあり、生活苦の為にやるのではない。単調な生活  
にほんのちょっと刺激が欲しいだけの話である。夫との見解の相違によるストレスや子  
育ての悩みなど、加奈子は色々と自分に都合の良い言い訳をし、調味料が置いてある  
棚からオリーブオイルを手に取った。それを一旦、かごに入れてから監視カメラの死角  
に入り、他の商品を選んでからレジへと向かった。途中でオリーブオイルの瓶を、そっ  
と手提げ鞄に入れ、レジの中でもやる気の無さそうな田舎臭そうな小娘の列に並び、  
知らぬ顔で精算してもらう。  
 
「四千三百五十円です」  
加奈子は無事にレジを通り過ぎる事が出来ると、エコバックに商品を詰めて出口へと  
向かう。この瞬間が万引き犯にとって、最も緊張する瞬間だ。最近では商品管理シス  
テムが充実し、未清算の物を持ったまま外へ出ようとすると、アラームが鳴る場合が  
あるが、この店ではその機器が無い事も、加奈子は知っている。そうして出口から足を  
一歩、踏み出した。  
 
(やったわ。ちょろいもんね、うふふ)  
だが、自家用車を停めてある場所まで行き、ドアを開けようとしたその時である。  
「お客さん」  
野太い男の声だった。振り向くとよれよれの服を着た、五十がらみの男が立っていて、  
加奈子を睨みつけている。  
「お会計の済んでいない商品があるでしょう」  
その言葉を耳にすると加奈子はエコバックと手提げを落とした。そして手提げからは  
先ほど失敬したオリーブオイルが転がり出たのである。  
 
「住所とお名前をお聞かせ願えませんか」  
男は私服警備員で、斉藤と名乗った。スーパーからの依頼で派遣されており、万引き  
犯を捕まえるのが仕事だという。斉藤は反省文と銘打たれた一枚の紙切れを差し出し、  
それに住所と名前、電話番号を記入し、免許証などの身元の分かる物を提示しろと言  
った。  
「・・・」  
加奈子は黙ってうなだれている。身元を知られるわけにはいかず、そうする他無かった。  
連れて行かれた事務所の机の上には、加奈子が買った商品と万引きしたオリーブオイ  
ルの瓶が置いてある。警察ではないので無理矢理、身分証を見るという事は出来ず、  
斉藤はあくまでも自主的に身元を明かして欲しいようだった。  
 
「奥さん、かな。お子さん用の品物も買っておられますものね。失礼ですがお金に困って  
いるようにも見えませんが・・・」  
斉藤はオリーブオイルの瓶を手に取り、弄ぶようにして眺めている。  
「どうしてこういう事をなさったんです?」  
「・・・申し訳ありません」  
加奈子は謝るしかなかった。謝り抜いて金を払い、どうか穏便に済ませて貰いたい。し  
かし、それは加奈子の身勝手な都合でしかなかった。  
 
「初犯ですと反省文だけ書いて帰って貰う事になりますが、身元だけはどうしても知りた  
いんですよね。奥さん、そろそろ教えて頂けませんか」  
犯罪者を捕らえたというのに、斉藤の口調は穏やかだった。だが、その裏には絶対に自  
分の信念を曲げないという力がこもっており、一筋縄ではいかないように思える。この手  
の事に慣れているのだろう、斉藤は激昂したり机を叩くような事はしなかったが、加奈子  
にしてみればその方が余程、不気味だった。  
 
「このままだと警察行きですが、よろしいんですね?」  
その言葉に加奈子は顔を上げ、目を見開いた。警察に行けば捜査権を持つ警察官が  
自分の身元を調べるだろう。そうすると事は大きくなり、前科者にもなりかねない。  
「身元を明かせば、警察は無しにしてくれますか?」  
加奈子が藁にも縋る思いで斉藤に問うと、  
「ブラックリストに載っていなければ、の話ですがね。私どもも事を荒立てたくはないん  
ですよ。書いて頂けますね?」  
「・・・はい」  
警察沙汰を免れたい一心で、加奈子は例の紙切れにサインをした。だがこれは後に  
彼女が味わう地獄への片道切符だったのである。  
 
数日後、加奈子の携帯電話に一本の電話が入った。発信者は斉藤である。  
「奥さん、すいません。ちょっとご足労願えませんか。この前の覚書をお返しします。  
奥さんはブラックリストにも載っていませんし、反省文を預かる理由がありませんから」  
それを聞き、加奈子の表情は明るくなった。あの日、加奈子は紙に署名した後、精算を  
済ませた商品だけを持たされ帰宅しており、別れ際に万引きの一件は不問にしておき  
ますと斉藤は言ってくれたのである。  
 
店から出る時、加奈子は斉藤に何度も頭を下げ、二度とこのような真似はせぬと誓い、  
警察沙汰にしなかった温情に感謝した。実際、そのおかげで平穏な生活が営めるので  
ある。そして、覚書が返却されれば、何もなかった事になる。斉藤は言わば恩人であり、  
加奈子はあの五十男に心から感謝するのであった。  
「分かりました。いつ、お伺いすれば・・・?」  
「出来たら今から。場所はあの店ではなく、店の総合的な商品管理をする事務所に来  
てください。場所は駅裏にある崩落ビルって所の三階にあります」  
「すぐにお伺いします」  
「それでは、お待ちしております」  
電話を切ると加奈子はすぐに出かける用意をし、車を走らせた。  
 
崩落ビルに着くと、加奈子はすぐに三階の事務所に向かった。築三十年は経ってそう  
な佇まいでやたらと陰気臭いが、加奈子の気分は晴れやかである。三階のそれらし  
い事務所の前に立つと同時に扉が開いて、中から斉藤が現れた。  
「お待ちしておりました。さあ、どうぞ」  
「失礼します」  
室内は薄暗く、日用品が散乱していた。どちらかと言えば事務所ではなく、普通のアパ  
ートのようで妙に生活感が漂っている。  
 
思えばこの時、加奈子がこの怪しい雰囲気に気がつけばよかったのかもしれない。しか  
し、負い目がある以上、斉藤に何かを尋ねる気も起こらず、ただあの覚書を返して貰える  
という事だけで有頂天になっていた。  
「ま、お座りください。コーヒーはいかがですか?ビールもありますよ」  
「あ、コーヒーで・・・」  
安堵するあまり、加奈子は斉藤という男の人柄をまったく疑ってかからなかった。出され  
たコーヒーはやたらと苦く、佐藤とフレッシュを入れて、やっと飲めるくらいである。  
 
「では、これがこの前の覚書です。おや、奥さん、どうかされましたか?」  
「ちょっと眩暈が・・・おかしい・・・わ」  
斉藤が差し出す紙を加奈子は受け取ろうとするのだが、頭がぼんやりとしてそれもま  
まならない。おかしいと思ったのも束の間、加奈子は椅子に座っている事すら出来なく  
なり、床に身を横たえてしまった。その直後、別室の扉が開き、見るからに柄の悪そう  
な三十前後の男が現れて、  
「薬が効いたようだな」  
「準備は万端か」  
「当たり前だ」  
「よし、運び込め」  
先ほどとは打って変わって、ドスの利いた声で斉藤が男に命令すると、加奈子は男に  
肩を抱かれて、隣室へ連れ込まれていく。  
 
「あ、あ・・・う・・・」  
体が言う事をきかず、加奈子はされるがままである。あのコーヒーを飲んでからやけに  
眠くなり、体に力が入らなくなった。うっすらと開けた目も、斉藤の顔をぼんやりと見るだ  
けで、まるで視点が定まらない。  
「今回のは極上だぜ、野下」  
「ああ。たっぷり稼がせてもらえそうだ」  
野下と呼ばれた男は加奈子を隣室に運び込むと、やけに大きなベッドへ寝かせ、着てい  
る物を脱がし始めた。  
 
「あ、あ、あ・・・」  
体が弛緩し、声を出すのも難しい。どうやら睡眠薬でも飲まされたらしいが、抗えるほど  
の力も無く、加奈子はブラウスにスカートを奪われ、ブラジャーとショーツのみの格好と  
なる。  
「良い体だ。これは楽しめそうだ」  
「がっつくな、野下。俺はカメラを回す」  
良く見ると加奈子は何かの撮影でもするかのような機器に、ぐるりと囲まれている。そし  
て斉藤がカメラを構えた時、野下という男が服を脱いで裸になった。  
「!」  
加奈子は目を見開き、股間から生えている異様な物体に恐怖した。それはまぎれもなく  
肉棒なのだが、大きい上に人工的な細工が施されており、肉傘周辺に幾つもの突起が  
あった。おまけに野下の全身には鮮やかな入れ墨が入っていて、一目見て堅気ではな  
いのが分かる。  
 
「じゃあ、さっそく味見させてもらうかね」  
野下は加奈子に覆い被さり、ブラジャーのホックを外し、カップを左右に開いた。熟れた  
人妻の乳房は大きめだが型崩れも無く、乳頭は少女のように美しい色である。  
「いいねえ、これは」  
野下が乳房を揉むと、餅のような弾力が味わえる。乳首に口をつけてまずは吸い、軽く  
噛んでから引っ張ってやると、加奈子がうめいた。  
 
「あ、あうう・・あう・・・」  
「やめて、とでも言ってるのかな、へへへ」  
左右の乳首を交互に弄んでいると、次第に先端が尖ってくる。野下はそれを指で弾いた  
り抓んだりして、再び口をつけて今度は強く吸った。  
「ひいッ!」  
「良い感度だ」  
薬の効き目が弱くなってきたのか、加奈子は次第に意識がはっきりしてきたが、まだ体  
には力が入らない。それゆえ、糸の切れた操り人形のように、ベッドの上で身を捩らせる  
くらいの事しか出来なかった。  
 
「遊んでないで、下も責めな」  
「分かってる」  
カメラを構える斉藤に促され、野下はショーツを脱がしにいった。そして両足を開かせ、  
女園をあからさまにすると斉藤はため息を漏らした。  
「ほーう、こいつは上玉だ」  
「これで子持ちの人妻とは信じられねえ」  
野下も同じ意見らしく、指で花弁を開いたりしてその造形の見事さに感じ入っている。  
 
事実、加奈子の女園はしとやかで幼い印象を抱かせるほど、清楚だった。醜くはみ出た  
物は無く、二枚貝がぴたりと合わさっている感じであるが故に、処女ではないかとすら  
思えるのだ。次に野下は指を女穴そのものに移動させ、  
「問題はここだ。ここの具合が悪くちゃあ、何にもならねえ。おっと、いきなり締めやがっ  
た。ふふふ、悪くねえ。しっかり締めやがる」  
「ああ、や、め・・・て」  
指は二本束ねられ、女穴を優しく穿った。随分、女慣れをしているようで、野下の指使い  
はピアノを弾くように優雅ですらあった。  
 
「赤ん坊が指しゃぶりするみてえな音がしてるぜ、奥さん。ふふふっ、こりゃ、楽しみだ」  
「あ、あーん」  
野下は右手を女穴、左手を乳房にやって加奈子が感じる部分を執拗に責めた。特に爪  
の先で乳首を弾かれたりしながら、女穴をいじられた時の刺激がたまらず、加奈子は  
その度に体を震わせて身悶える。そのうちに斉藤が、  
「オモチャは使うか?」  
「いや、まず俺の本身をぶち込んでやる」  
そう言って野下は加奈子の両足の間に入り、肉棒の先を女穴の入り口にぴたりとつけ  
た。そしてゆっくりと腰を前に出し、肉棒で加奈子を串刺しにする。  
 
「入っていくぜ、奥さん」  
「駄目、駄目・・・」  
加奈子は女穴が円を描くように満たされていき、ミシミシと音を立てているような気がした。  
「ああッ・・・ふうううッ・・・」  
ズーンと脳まで響くような衝撃だった。野下の肉棒は見た目どおりの逸材で、特に肉傘  
周辺の突起は女殺しの素養を十分に生かしている。  
「どうだ、お味の方は?」  
「恥ずかしそうにきゅっと締まりやがる。いいねえ、男を知ってるのに、この奥ゆかしさ」  
「そいつはいい。俺も後で楽しませて貰おう」  
 
斉藤はカメラで加奈子が犯される様を収めつつ、右へ左へと動いた。女穴を貫かれ、うめ  
く女の肌は赤らみ、次第に汗を含んでくる。それがやけに色っぽく、斉藤の情欲をかきた  
てるのである。  
「奥さん。悪いがしゃぶってくれるか」  
斉藤がズボンを下ろすと、野下に見劣りしない程の肉棒が現れ、それが顔の前へ突き出  
されると、加奈子は反射的にそれを手で掴み、口元へ持っていった。  
 
(私は何をやっているのかしら・・・)  
男二人を相手にする女、いやらしい女と自責の念を抱きつつ、加奈子は野下と斉藤に奉仕  
する喜びに震えた。  
(これは薬のせい、きっとそうよ)  
鼻を抜けていく逞しい男の性臭に心を惑わされながら、気がつけば加奈子は野下の肉棒  
を女穴で食い締めていた。あの突起が肉洞の中を行き来し、素晴らしい官能を与えてくれ  
ている上に、唇で包んでいる五十男の肉棒だって、少しも嫌悪感を抱かない。加奈子は  
不思議な快楽に浮かれ、自分を見失いかけていた。  
 
気だるさが加奈子を包んでいた。この事務所に来てから二時間ほどが過ぎ、裸のまま  
でベッドに横たわっている。斉藤と野下は部屋の片隅でビールを飲みつつ、録画した  
加奈子の痴態を確認していた。二人の話によるとこれはアダルト動画として、世に流通  
するという。  
「今、人妻物は大人気なんだ。奥さん、美人だから売れるぜ、こりゃあ」  
「野下はそれ系の男優なんだ。どうだ、奥さん。気持ち良かっただろう?」  
斉藤の下品な質問に加奈子は答えなかった。しかし、女穴に今も残る鈍い疼きが、自分  
の身の上に何が起こったのかを教えてくれていた。  
 
男二人に犯されたのである。それも二時間ばかりで二度ずつ犯された。女穴には大量  
の子種が放たれ、今もシーツを汚している。  
(どうしてこんな事に)  
加奈子は己の軽率さを悔やんだ。もっといえば万引きさえしなければ、こうはならなか  
ったのである。頬を伝う涙は止め処なく流れた。  
 
「おっと、奥さん。万引きの一件だがな。あれは俺の一存で、店長には報告しなかった  
ぜ。ありがたく思いな」  
斉藤はそう言って笑った。  
「そ、それじゃあ・・・」  
「覚書は奥さんをここへ呼び寄せる為に、俺が勝手に書いて貰っただけさ。もしババア  
や男が万引きしたら、すぐさま警察を呼んでいたぜ。奥さんみたいないい女は別だがね。  
まあ、これを見てみな」  
斉藤が立ち上がり、棚のガラス扉を開けるとDVDのパッケージが所狭しと並んでいた。  
 
そのすべてにタイトルが記されており、どれにも必ず人妻誰某と書いてある。  
「俺が警備員をやってるのは、これの為さ。別に食うに困ってもいねえ人妻が、月に何人  
も万引きしてやがる事実を逆手にとってね。奥さんみたいな人は、結構いるんだよ。遊び  
でやるやつが。まあ、その代償がこれなんだが」  
斉藤の指差す先には、加奈子がいずれ辿るであろう道を先に行った女性たちの姿があ  
る。誰も皆、裸にされ、野下に組み敷かれていた。中には妊娠させられた人妻の姿もあ  
った。  
「こいつは野下が孕ませたんだ。まったくひでえやつだ」  
「お前のかもしれないだろう」  
二人はそう言って顔を見合わせ、笑った。  
 
「奥さんは稼げそうだから、当分は孕ませないぜ。こいつを飲んでおきな」  
斉藤は棚の引出しから薬らしき物を取り出し、加奈子に手渡した。  
「アフターピルってやつだ。俺たちのガキをこさえたければ、別に良いけどな」  
「の、飲みます」  
夫以外の子供など産みたくはなかった。それ以上に、斉藤みたいな五十男に孕まされ  
てはかなわない。多少は若いが野下だってお断りだ。加奈子は慌ててそれを飲んだ。  
「ほれ、ビールをやりな」  
野下がビールを差し出すと、加奈子は避妊薬と一緒に流し込んだ。  
 
「この事務所はアダルト動画の撮影所さ。まあ、奥さんはしばらくここへ通う事になるだ  
ろう。長い付き合いになりそうだ。今後ともよろしくな」  
斉藤に肩を抱かれた時、加奈子は自分が今後、彼らの玩具として生きねばならぬ事を  
悟った。そして、万引きをしたあの時の自分の気持ちを、心の底から後悔するのであった。  
 
おしまい  
 

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