夏の日差しが肌を焼き、火照った肌をそよ風が冷ます。
蝉が短い余命を振り絞って夏を叫び、むっとするような草いきれが辺りを満たしている。
比較的田舎のこの辺は、都会と違って季節ごとに違った匂いがする。それも、当たり前のことと思っていると気づかないのだけれど。
太陽が眩しい。今日は確か、日中35度以上になるとか言ってたっけ。道路には逃げ水が見えるし、まさしく真夏日だ。
こんな日は家に篭って、クーラーをガンガン効かせてアイスクリームを食べつつ、のんびりプレステでもやっていたいところだけど、
今日ばっかりはそうもいかない理由がある。
うっかり蟻が上ると焼け死にそうな道路を歩き、夏の草の匂いを嗅ぎながら、この後食べる西瓜の味を想像しつつ、やや早足で歩く。
どこもかしこも、窓全開の家をいくつか通り過ぎ、目的の家の前に立つ。俺はチャイムも鳴らさないで、自分の家のようにドアを開けた。
「ワンコ、おっはよー」
「おー、もう来たの?早いねー」
俺の声に応えたのは、もちろん犬じゃない。れっきとした人間の女の子だ。
家の奥から、パタパタと『ワンコ』が走ってくる。その顔は、何とも嬉しげだ。
「……うん、間違いなくタカちゃんだ。あ〜っと、ちょっと待ってね。まだ何も言っちゃダメ」
俺は何も言う気はなかったんだが、彼女はそう言うとしきりにフンフンと鼻を鳴らした。
「これはわかりやすいねー。タカちゃんの今日の朝ごはんは、納豆ご飯とお味噌汁、具は……わかめと油揚げってところかな?」
「さすがワンコ。相変わらず冴えてるね」
「えっへへ〜、『ワンコ』だからね」
自分でそう言いつつ、嬉しそうに笑う彼女。よく変わる表情とは裏腹に、その目は俺の遥か向こうを見ているようであり、
まるで義眼のように動くことはない。
「そうそう、昨日のワールドカップ聞いた?」
「んー、お父さんがテレビで見てたから、一緒に聞いてたけど、やっぱテレビはダメダメだねー。『ゴールゴールゴール!!』とか
騒がれたって、状況が全然わかんないんだもん。本人の心境の実況はいいから、ちゃんとプレイの実況して欲しいよ」
「ああ、あれは確かにちょっとうるさかったね」
「やっぱり、私は野球派だなー。それをラジオで聞くのが一番!」
喋りながら、彼女はどんどん先を歩いていく。俺は当然のように、その後をついていく。ワンコは階段を昇り、部屋のドアを開け、
中に入るとベッドにポンと飛び乗る。俺は彼女の前の床に腰を降ろす。
「ああっと、ジュース探すの忘れてた!悪い、タカちゃん探して持ってきてくれる?」
「まったく、この家は客にお茶も出さないのか〜?」
「当家はセルフサービスとなっております。予めご了承ください」
「はいはい、わかったわかった。ワンコのグラスも持ってくるよ」
俺は再び立ち上がり、階段を下りて台所へと向かう。勝手知ったる他人の家、とはよく言ったもので、この家のことは我が家のように
よく知っている。何か変化があれば、恐らくはここに住んでる彼女よりも、だ。
グラスとウーロン茶のボトルを取り、彼女の部屋に戻る。
「ほい、ウーロン茶とグラス」
「ありがとー」
嬉しそうな顔で、しかし目だけは全く動かさず、ワンコは手を前に伸ばす。それにグラスを触らせてやると、ようやく彼女はそれを掴む。
彼女は、視力というものを持っていない。生まれつきそうだったらしく、だから『見える』というのがどういう事かも、彼女は知らない。
相当不便があるとは思う。が、それは目の見える立場から見た時の話であり、元々見えないのが普通である彼女は、そうでもないらしい。
「……あれ?これウーロン茶じゃないよ。麦茶だよ」
グラスに中身を注いだ瞬間、ワンコが言った。
「え、マジで?でも、ウーロン茶のボトル…」
「あー、そういやお母さん、麦茶淹れといたって言ってたっけ。ラベル剥がさないでそのまま淹れたなぁ〜」
彼女に視力はない。しかし、その代わりに残った4つの感覚は、恐ろしく敏感だ。彼女の場合、特に嗅覚が敏感で、それがあだ名の
由来の一つでもある。
彼女の本名は、『椀田 香奈子』という。ずば抜けた嗅覚と、この『椀』と『子』あるいは『香』を取って『ワンコ』とか『ワン公』が
本人公認のあだ名になっている。ただ、さすがに『ワン公』はちょっとあれなので、俺はもっぱら『ワンコ』と呼ぶことにしている。
「そうだ、西瓜はお風呂場で冷やしてあるよ」
「よっしゃ、それマジで楽しみなんだ。あとで塩取ってこようか?」
「あ〜、塩振るなんて邪道〜。西瓜はやっぱり、そのままかぶりつきでしょ!」
ワンコとの付き合いは、幼稚園の頃からになる。
当時、俺は彼女が盲目だなどということは知らず、また知ってもそれがどういうことなのか、よく理解できなかった。
「椀田ちゃんはは目の見えない、可哀想な子なので、みんな仲良くしてあげてね」
これが、俺達の保母さんの言葉。でも、ワンコは『可哀想な子』という扱いをされるのを嫌った。そして俺は、あっちこっち普通に
歩き回り、遊びまくる彼女の目が見えないなんて信じられず、他の友達とまったく同じ扱いをしていた。
それが功を奏した……という言い方はおかしいが、とにかくそれが彼女とその親御さんに気に入られ、いつしか俺は彼女と大の親友に
なっていた。
そのおかげで、多少のいじめみたいなものは受けた。『可哀想な子』に対して、『とても親切にしてあげてる』自分達はなぜか
受け入れられず、その可哀想な子を他とまったく同じ扱いをする俺だけが好かれたのだから、それはわからないでもない。
おまけに、だ。ワンコは結構可愛い。目がいつも真っ直ぐ遠くを見つめている以外は、それこそ10人中8人が可愛いと言うほどだろう。
そのせいもあって、男連中からは、はっきりといじめられたと断言できる。小さい頃から可愛かったが、あれから10年以上経った今は、
その可愛さにさらに磨きがかかっている。
彼女の気性は真っ直ぐで、俺がいじめを受けるようになってから、ますます周りを嫌い、相対的に俺と仲良くなった。そしてさらに
いじめが悪化し、という悪循環に陥ったが、卒園後に彼女が盲学校に行ったことで、それもやがて消えた。
しかし、俺とワンコの付き合いは途切れず、家が近いこともあって、今ではこうしてお互いの家を行き来するほどの仲になっている。
他人から見れば付き合っているように見えるかもしれない。実際、俺はそうありたいと常々思っているのだが、ワンコの態度を見る限り、
ただの幼馴染止まりの気がする。昔はお互い『大きくなったら結婚しよう』みたいなことを言ってたんだけどな。
まあ、それはそれでいい。変に意識しない分、こうしてお互いの家に平気で出入りできるわけだし。一緒にどうでもいい話をして、
西瓜でも食べてジュース飲んで、ロケット花火を聞くのも、なかなか幸せだ。普通の高校と盲学校の授業の違いとか、何気に興味深い
話も色々と聞けるし、ワンコも普通の高校の話を聞きたがる。
「にしても、あっついよぉ〜。クーラーかけてるのに、どうしてこんな暑いの〜?」
不意にそう言いだすワンコ。言われてみれば、確かに異常に暑い。エアコンは壊れているのか、それとも外が暑すぎるからなのか、
その吹き出し口からは熱風しか流れてこない。俺は設定を見ようと、リモコンを手に取った。
「そりゃ、今日は真夏日……おいおいおい、いくら設定温度18度にしたって、これ暖房になってるぞ」
「うっそ!?あー、そういえば変なボタン押したような気はしたんだよね。こういう時ばっかりは、目が見えないって嫌だね」
「見えなくっても、エアコンから熱風が出てる時点で気付けよな」
二人とも、おかげさまですっかりつゆだくである。効きが悪いとは思ってたが、まさか真夏に暖房をかけているとはビックリだ。
「う〜、エアコン効くようになるまでは地獄だぁ……扇風機とかも使おうかな〜」
言いながら、ワンコはTシャツの裾をパタパタやっている。
ワンコはベッドに座り、俺は床にいる。つまり俺は彼女を見上げる形になっている。その状態で裾をはためかせるものだから、
ちらちらとおへそが見え、膨らみかかった胸までがたまに覗く。もちろん、彼女は気付いていない。
おまけに、汗だくになっているせいで、ワンコの白いTシャツはその下にある物を透けさせてしまっている。家にいるからか、ワンコは
ノーブラだ。白いシャツの中に、僅かにピンク色の突起が見える。
「あっつぅ〜。麦茶飲んでも体冷えない〜。もういっそ、麦茶頭から被ろっかな?あはは」
笑いながら、ワンコはベッドの上で体育座りに座り直した。健康的な半ズボンの隙間から、これまた白い生地が覗いた。
正直、俺には刺激が強い。おへそに胸チラにパンチラのトリプルパンチだ。健康優良日本男児がそんなものを見せられれば、当然のように
生理現象が起こる。止めようとしても、こればっかりはどうにもならない。
普段は剥けていない俺のブツが完全に戦闘態勢に入った瞬間、ふとワンコの表情が変わった。
「……ん?」
「え、な、何?」
彼女はしきりに、クンクンと匂いを嗅ぐ。そしてベッドから立ち上がり、少しずつ俺に寄って来る。
「な、何だよ!?」
「……なんか、知らない匂いがする。何の匂い?」
何となく想像はついた。が、その正体など言えるわけがない。だが、言わなければワンコは絶対に匂いの元を突き止めようとする。
言うも地獄、言わぬも地獄。絶体絶命とはこういうことを言うのかと、俺ははっきりと悟った。
どうにも出来ないまま、ワンコが俺の体の匂いを嗅ぎ始める。困ったことに、俺達が気になった物を見なければ気が済まないように、
彼女は気になったものの匂いの元を突き止めないと気が済まないのだ。
「おい!ちょっ……ワンコ、やめっ…!」
「ん?あれ?」
俺の膝にでも付こうとしたのだろうか。ワンコの手が、狙いを逸れて俺の股間に触れた。
「……何だろ?なんか硬いよ?」
「い、い、い、いや、その、それは……その…」
「……匂いも、これかな?何、これ?何持ってるの?」
言いながら、ワンコはこともあろうに、それが何か確かめるように撫で始めた。ジーパンの上からとはいえ、初めて他人に、しかも
女の子に、その上他ならぬ彼女に触られ、俺は一気に限界を迎えそうになり、必死で叫んだ。
「おい、よせってば!お、お前が触ってるの、俺のっ……そ、その、チンコだよっ!」
「え、チン……きゃあっ!!」
ワンコは手を放し、慌てて飛びのいた。そして、何か恐ろしいものでも触ってしまったかのように、俺のあそこを触った手を胸に
抱えている。
しばらく、気まずい沈黙が流れた。何を言っていいのか、まったく見当もつかない。
やがて、ワンコが恐る恐る口を開いた。
「……タカちゃんのこと、全部知ってるつもりだったん……だけどな」
「そ……そうか」
「でも、さ」
少し言いよどんで、ワンコは恥ずかしそうな笑みを浮かべた。
「まだ、知らない匂い……あったんだね…」
「そりゃ、まあ……こんなとこの臭いなんて、普通嗅がねえし」
「……あの、さ…」
「な、何?」
「それ……触っても、いい?」
「はっ!?」
予想を遥かに超えた質問に、俺は思いっきりうろたえた。だが、彼女は少し恥ずかしそうに笑う。
「だぁって、タカちゃんのこと、全部知りたいんだもん」
「だ、だからって、何も触ること…!」
「触らないと、よくわかんないもん。ほら、昔はお医者さんごっことかやったじゃない?あれの延長ってことでさ」
「高校にもなって、お医者さんごっことかできるかよ!」
「いいでしょー!私とタカちゃんの仲なんだから!」
言い出したら聞かないのは、ワンコの困った気性の一つだ。もう、こうなってしまうと手がつけられない。
少し考えて、俺は口を開いた。
「……んじゃ、触ってもいいけど、俺もワンコの見たい」
「ええっ!?そんなの不公平だよー!」
「どこが不公平だ!?ワンコのは不公平どころか理不尽じゃないかっ!」
「だ、だって、見られるんだよ!?」
「触られるんだよ!?」
「私は見ないもんー!」
「見えないだけだろっ!ワンコが触りたいのと同じで、俺は見たいんだよ!」
ワンコは、むうっと頬を膨らませている。こう言えば、さすがに諦めてくれるだろう。
と、思ったんだが。
「じゃ、いいよ」
「えっ!?」
「だって、そうじゃないと触らせてくれないんでしょ?だ、だったら、別に、その、それぐらい、いいかなって」
「い、いやいや。そんな無理しなくたって…」
「うるっさいなー!いいって言ってるんだからいいの!その代わり、ちゃんと触らせてもらうからね!」
ダメだった。逆に、彼女をムキにさせてしまった気がする。
止める間もなく、ワンコはズボンを脱ぎ、パンツに手をかける。さすがにそれは一瞬躊躇ったが、えいっとばかりに引き下げた。
昔は一緒にお風呂入ったりしてたが、さすがにその頃の記憶とはだいぶ異なっている。ただの筋一本だったのが、今ではぷっくりと
丸い突起が見え、何よりつるつるではなく、薄っすらと毛が生えている。あだ名の割りに成熟は遅いらしい。
「こ、これでいいんだよね?」
「え……あ……ま、まあ…」
「じゃ、タカちゃんも早く脱いでよ。私だけじゃ馬鹿みたいじゃない」
さすがに、ここまで来ると俺も諦めざるを得なかった。いくら見えていないとは言え、彼女の目の前で脱ぐのは抵抗があったが、仕方なく
ズボンとトランクスを脱ぎ捨てる。それを音で察知すると、ワンコは恐る恐る俺のモノに手を伸ばした。
僅かに、手が触れる。それに反応してそこがビクンと震えると、ワンコは驚いて手を引っ込めた。
「い、いきなり動かさないでよー」
「しょうがないだろ、それは勝手になるんだから」
「ふ、ふーん、そうなんだ?ま、それじゃ、しょうがないけど…」
もう一度、ワンコは手を伸ばす。今度は動いても驚かず、形を確かめるように柔らかく握ると、そっと撫で始める。
「うわぁ、何かすごくあっつい……動いてるっていうか、脈打ってるし、硬いし。何だろ、先っちょの方はつるつるぷにぷに」
「あ、あまり動かすなよ」
「棒、だね。あ、何か筋みたいのがある?ふーん、先っちょのぷにぷにのとこは少し膨れてるんだ」
ゆっくりと撫で続けるワンコ。それだけでもかなりの刺激なのに、彼女は俺のそこに顔を近づけ、ふんふんと匂いを嗅ぎだす。
その吐息がまた、俺のモノを刺激する。
「んー、何て言えばいいのかな。いい匂い、ではないよね。でも、タカちゃんの匂い…」
言いながら、ワンコは愛おしむように撫で続けている。別にエロい事を意図してるわけじゃないんだろうが、その拙い刺激がたまらなく
気持ちよく、俺の我慢もとうとう限界が来た。
「や、やばいっ!ワンコ、出る!」
「えっ?出るって何……きゃっ!?」
直後、俺は彼女の顔に思いっきりぶっかけてしまった。ワンコは弾かれたように身を引き、動悸を鎮めようと、胸に手を当てている。
「おしっこ……じゃ、ないね。すごい匂い……栗の花そっくり」
言いながら、ワンコは顔にかかった精液を指で掬い、それを摘むように触っている。
「ぬるぬる……だけど、ちょっとべたべた?なんか、ペリッて感じもする。これ、確か精液、で、いいのかな?」
「う、うん。ごめん、その……って、おい!?」
精液を掬った指を、ワンコはそのままぱくっと口に咥えた。
「ん〜、口に入れると生臭くってえぐい味〜。でも、これが、タカちゃんの味……えへへっ」
顔にかけてしまったことを怒るでもなく、むしろそれを舐め、嬉しそうなワンコ。その姿に、治まりかけていた俺の愚息が再び勢いを
取り戻していく。そして、一つの衝動が、俺の中でどうしようもないほどに膨らみ始める。
「ワンコっ!!」
「きゃあっ!?」
気がついたときには、俺は彼女を押し倒していた。俺の体の下に、驚いた彼女の顔がある。その目は見えてはいないが、彼女は確かに
俺を『見て』いる。
勢いで押し倒しはしたものの、すぐにはその先に移る勇気がなかった。ワンコはワンコで、びっくりしたような、怖がっているような、
そんな表情をしている。
自分の心臓の音がうるさい。こんなにでかい音が出るんだと、初めて知った。彼女にもそれが聞こえてそうな気がして、
何だか気恥ずかしくなる。実際、ワンコのことだから聞こえているかもしれない。
しばらく、俺達はそうして見詰め合っていた。やがて、沈黙が気まずさを帯び始めた辺りで、俺は口を開いた。
「……俺、ワンコとしたい」
「え……え、えっと、それじゃその辺で野良犬…」
「茶化すなよ!俺、本気で言ってるんだぞ!」
俺の腕の下で、ワンコの体が、かぁっと熱くなった。
「大体、あんなことされて、我慢しろって方が無理」
「そ……そう、なの?」
ワンコは相当にうろたえているようだったが、よくよく考えてみると抵抗というものを一切してこない。
そのことに気付いた瞬間、彼女は恥ずかしげに微笑んだ。
「でも、ゴムとか持ってないよね?」
「え?あ……まあ、確かに…」
「それでも、する?」
「……いや、その…」
俺が言葉に詰まった瞬間、彼女は思いもよらない台詞を吐いた。
「私は、いいよ」
「えっ!?」
「なぁにそんなに驚いてんの。だってほら、覚えてない?」
ワンコはややうつむき加減で、顔を真っ赤にしながら続ける。
「私さ、幼稚園のとき、絶対タカちゃんのお嫁さんになるって、言ってたんだよ」
「あ、ああ、それは俺も覚えてるよ。てか、俺もワンコと結婚するって言ってたよね」
そう言うと、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「あの気持ち……今も、変わってないんだよ」
一時は鎮まりかけた衝動が、再び凄まじい勢いで頭をもたげてくる。もはや、俺の中にはここでやめるなどという選択肢はなかった。
「……ワンコ」
赤みの差した頬を撫で、そっと頭を抱く。その意図を察してくれ、ワンコは形式的に目を閉じてくれた。
頭を抱き寄せ、震える唇を重ねる。彼女の唇は柔らかく、温かかった。その温もりが、お互いの震えを鎮めてくれる。
いつしか、ワンコも俺の首に手を回している。自分から積極的に唇を押し付け、俺の首を強く抱き寄せてくる。
少しだけ、舌を入れてみる。ワンコの体が一瞬ピクリと震えたが、すぐに自分からも舌を絡めようとしてきた。俺もそれに応え、
彼女の舌に舌を絡める。その柔らかい感触は、今まで感じたことがないほどに、気持ちいい。
舌でじゃれあい、互いの口の中を味わうように、口蓋を、歯を、舌でなぞる。時には呼吸も忘れ、俺達は互いの温もりと感触を求め合う。
一体どれぐらいそうしていたのか、俺達はどちらからともなく唇を離した。互いの唾液がつっと糸を引き、切れて落ちる。
「タカちゃんの味……また、知っちゃったね」
俺の遥か向こうを見るような目で、しかし声だけは、しっかりと俺に向けられている。そんな彼女が、たまらなく可愛い。
「……その、今日は、お父さんとお母さんは?」
いきなり気になった疑問を、ワンコに尋ねる。すると、彼女は恥ずかしげに笑った。
「今日は、二人ともお出かけだから、夜まで帰ってこないよ。だから、気にしないで大丈夫。それより、さ」
「ん?」
「続きは、ベッドで……ね?」
言われてみれば、床でするのもないもんだ。軽く謝ってから、俺はワンコを抱き上げ、ベッドに寝かせた。
ついでに、着たままだったシャツを脱がし、俺自身も裸になる。
「や、やっぱり恥ずかしいねー。こうやって二人して裸になるのなんて、何年ぶりだろ?」
「10年は経ってないね。お互いだいぶ変わってるけど」
言いながら彼女の体に手を這わせると、ワンコはその手を掴んできた。
「あ、待って。私も、タカちゃんの体、触りたい」
「見られて触られて、じゃ、不公平だって?」
「ん、そういうこと」
ワンコが触りやすいように、隣に寝転がる。彼女の手が、俺の顔を撫で、頭を撫で、体を撫でる。
「やっぱり、じっくり触ると違うね。ほんとに、なんて言うか、男の子の体って感じ」
独り言のように言うと、ワンコは俺の胸に顔を埋めた。そして、大きく息を吸い込む。
「それに……男の人の、匂い…」
「……ワンコだって、だいぶ変わった」
頬からうなじをなぞり、肩を通って僅かな膨らみ程度の胸を触る。
「んっ…!」
ピクンとワンコの体が震える。一瞬手を止め、そして全体を手で包むと、優しく捏ねるように揉みしだく。
「んあ……あぅっ!」
「ここだって、前より大きくなったし……昔より、もっと可愛くなってる」
「はぅ……う、ん…!も、もう〜、うまいんだからぁ」
彼女の胸は、すごく柔らかい。ふわっとした感触で、程よく俺の力に抵抗する張りがある。あまり大きくはないが、これぐらいが
ちょうどいい気もする。
「それに、ここ」
胸から手を滑らせ、お腹を撫でながら腰に移り、そして申し訳程度の茂みに覆われた割れ目に触れる。
「あっ、やっ…!タ、タカちゃんん…!」
途端に、ワンコの体がビクンと跳ねた。空いている手で彼女の体を抱き締め、俺はその割れ目を何度もなぞるように撫でる。
指を割れ目に沈ませると、全体がじっとりと指を包んでくる。そのまま軽く擦ると、その締め付けがきゅっときつくなる。
その締め付けを楽しみつつ、そこで存在を主張する小さな突起を撫でてやると、ワンコはビクビクと体を震わせる。
「や、やだっ!タカ……タカちゃっ……そ、そんなしちゃダメぇ!私だけイッちゃうよぉ!」
叫ぶように言うと、ワンコは俺の腕を捕らえた。
指を離してやると、割れ目から粘り気のある液体が糸を引く。
「はぁ……はぁ……タカちゃんに触られると、すごく気持ちいい…」
それを聞いた瞬間、ちょっと意地悪な質問を思いついた。
「じゃ、俺以外が触るとどうなの?」
「え、ええ!?そこ突っ込むぅ!?」
ワンコは顔を真っ赤にし、明らかにうろたえたが、すぐにどこか開き直った表情になる。
「ま……いいや、言っちゃう。自分でするより、ずっと気持ちいいよ」
「え……あ、そう…」
「何よ〜!タカちゃんだって、どうせしてるんでしょ〜!?わ、私だって、その、しないわけじゃないんだから!」
「へえ、ちょっと意外」
「もう〜、雰囲気ぶち壊し〜」
そう言って、ワンコは笑う。釣られて俺も笑う。
「でも、俺もワンコのこと、まだ知らないところあったんだね」
「……そうだよ。私だって、タカちゃんのこと全部は知らない。あんな匂いがして、あんな味がして……どんな顔、してるのかも」
その言葉に、少しだけ胸がちくりとした。
「私だってそんななんだから、タカちゃんだって、私の知らないところ、いっぱいあるよ。匂いとか、タカちゃん鈍いもんね」
「俺が鈍いんじゃない、ワンコが敏感すぎるだけだよ」
「今はさ、もう一つ、お互いのこと知ろうよ。タカちゃんは私の、私はタカちゃんの……あそこの、感覚」
意外にストレートな誘いに、霞みかかっていた雰囲気が復活する。
そうだ。俺がワンコを抱きたいのと同じで、彼女も俺に抱かれたいと思ってるんだ。だったら、もう遠慮することはない。
「そうだね。なあ、ワンコ」
「ん?なぁに?」
「大好きだ」
「……改めて言われると、恥ずかしいけど、嬉しい」
ワンコの体に手を触れたまま、彼女にのしかかるように位置を変える。それを感じると、ワンコは自分から僅かに足を開く。
いよいよ、俺自身をそこに押し当てる。ワンコの体がピクンと震え、その手が不安げに俺の体を掴む。
「大丈夫、ゆっくりするから」
「う、うん。あんまり、痛くしないでね」
どうにも不安げなワンコ。そっと、お互いの肌を合わせる。そうすると落ち着くのか、彼女は俺の首にしがみつき、ぎゅっと自分の方へ
引き寄せてくる。
俺の胸に、彼女の胸が当たる。柔らかくて、温かい。そして、彼女の鼓動が、俺の胸に伝わる。
「……あ、あはは。タカちゃんも、心臓ドキドキ言ってる」
「そりゃ、俺だって初めてだし。ワンコ……いくよ」
「……うん」
ゆっくりと、腰を突き出す。割れ目が少しずつ開かれ、先端にぬるぬるしたのが絡みつくと同時に、中がぎゅっと締め付けてくる。
「あっ……は、入ってきてる、入ってきてるよぉ…!」
少し怖いのか、ワンコの腕にぎゅっと力が入る。少しでも落ち着かせてあげたくて、俺も彼女の体を抱き返す。
ゆっくりと腰を進めていく。彼女の中はやはりきつく、俺の侵入を拒もうとするように蠢動している。
「んっ……うくっ……あっ…!」
ワンコは目をぎゅっと瞑り、その眦には涙が浮かんでいる。やはり痛いのだろうか。
そう思った瞬間、不意に何か中で引っかかったような感触と、それを強引に押し分けたような感触が伝わってきた。
「うあぁっ!い、痛ぁっ!」
「いてっ!?」
俺の背中に、ワンコががっちりと爪を立てた。なんか、爪が肉に食い込んだような感触があったが、気のせいだと思うことにする。
何かが、俺のモノを伝う感触。ふと目を落とすと、俺とワンコの繋がっているところから、一筋の血が流れてきた。
「あっつつつ……タ、タカちゃん…!ごめん、ちょっと……動かないで…!」
「ワンコ、大丈夫?」
俺が尋ねると、ワンコは目にいっぱいの涙を浮かべつつ、嬉しそうに笑った。
「えへへ……私、本当にタカちゃんとしちゃってるんだね。私、今までで、一番嬉しいよ」
痛みを堪えて、それでもそんな事を言う彼女の姿は、とても可愛かった。思わず気の済むままに腰を動かしたくなったが、その衝動を
全力で抑え込む。
「ワンコ、大丈夫?」
「ん、平気…。血出ちゃってるみたいだけど、タカちゃんにも血出させちゃったから、おあいこ」
一瞬何のことかと思ったが、どうやら背中の話らしい。血の臭いがするんだろうけど、俺と自分の血の臭いをどう嗅ぎ分けたのやら。
最初は荒かった彼女の呼吸も、少しずつ落ち着いてくる。中は時々、痛みを堪えようとするように、ぎゅうっと締め付けてくる。
「動いても、いい?」
頃合を見計らい、尋ねる。ワンコはまだ少し辛そうだったが、嬉しそうに微笑み、こくんと頷いた。
ゆっくりと腰を動かす。途端に、彼女の中は強く締め付けてきた。中はぬるぬるしていて、痛いほどにきつく、温かい。
「んあっ、あっ、うぅ…!タ、タカちゃん…!」
ワンコが俺の名を呼び、強く抱きついてくる。触れ合った肌の暖かさが気持ちいい。
部屋の中に、ベッドの軋む音と湿った音が響く。彼女の肌は汗でじっとりと濡れ、流れた汗が俺の汗と混じる。
根元まで突き入れれば、先端が奥にぶつかり、ワンコが喘ぎ混じりの息を吐く。抜き出せば、それを引き止めるように膣内が締め付け、
苦しそうに息を継ぐ音がする。
「ワンコ、好きだ、好きだよ…!」
「あんっ!あっ!タカちゃん……わた、私もぉ…!」
汗で湿った体を抱き合い、どちらからともなく唇を重ねた。必死に舌を絡めてくる彼女の姿が可愛らしく、俺はその顔を見ようと、
大人しめのキスをする。ワンコは俺を感じようと、激しく舌を絡め、時には頬までもを舐めてくる。
無意識のうちに腰の動きが速く、強くなり、彼女を気遣う余裕もなくなっていく。
「ワンコ、もうやばい…!また出そう…!」
「タカちゃん……タカちゃんの、感じさせてぇ…!私の中で、タカちゃんもっと感じさせてぇ!」
いつしか、ワンコは足を俺の腰に絡め、自分から腰を動かしていた。さすがに中で出すのはまずいと一瞬思ったが、抜こうにも腰を
がっちり捕らえられているので無理な話だった。
「ワンコ、ほんとにもう出る!う、ぐっ……ああっ!」
最後に、一際強く腰を叩きつけ、俺はワンコの中に思い切り精液を注ぎ込んだ。俺のそれに合わせて、彼女の膣内もヒクヒクと震える。
「うぁ…!じわって、温かくなったよぉ……私の、中に……体の中に、タカちゃんのが出てるぅ…」
放心したように、ワンコは呟いた。その顔には、想いを遂げられたという喜びの表情が浮かんでいた。
彼女の中で、何度も何度も俺のモノが跳ね、その度に精液を吐き出す。その動きも少しずつ弱くなり、やがて止まる。
それでもしばらくの間、俺達はそのままだった。二人して荒い息をつき、快感の余韻に浸っている。
「タカちゃん……好き」
俺の顔を、見えない目で見つめながら、ワンコが呟いた。
「俺も、大好きだよ」
俺達はまた、キスをした。今度は軽くて、唇を啄ばむようなキス。恋人同士の、ほんのじゃれあいのような、そんなキスだった。
お互いを気遣うように、俺達はずっと、そうしていた。
ワンコと結ばれてから、もう二ヶ月になる。あの後、俺達は汗だくのままクーラーを効かせた上に西瓜を食べ過ぎてお腹を壊し、
しかも夏風邪を引き、散々な目に遭った。まあ、それは大した問題でもない。
中に出した時は、俺は本気で責任を取る覚悟だった。が、冷静になってよくよく考えると、この後の学校とか仕事とか、色々厄介な
問題が出てきたため、正直毎日が戦々恐々と言った感じだった。が、つい先日ワンコから『生理来たよー』と明るい報告があったので、
その心配からも解放された。
で、今俺はワンコの家にいる。恋人同士と言ったって、俺達の場合、付き合いが長い。結局、呼び方が変わっただけで、関係はほとんど
変わっちゃいない。
「いや〜、それにしてもお互い若かったよねえ。ほんとに赤ちゃん出来ちゃってたら、タカちゃん高校中退しなきゃかもだもんね〜」
「たかが二ヶ月で、若かったもないもんだろ。はい、麦茶」
「ありがとー。……でもさ、赤ちゃん出来なくて、私もホッとしたけど、だけどちょっと残念、かな」
いたずらっぽい笑みを浮かべ、彼女は続ける。
「だって、ねー?赤ちゃん出来てたら、私タカちゃんのお嫁さんになれたんだもんねー」
「本気でその覚悟はあったけどさ。でも、やっぱりまだ早いよ、俺達には」
「だよねー。それに、よく考えたら、タカちゃん法律的にまだ結婚できないや。あはは!」
一頻り笑ってから、ワンコは少し表情を改めた。
「でもね、また別のとこでは、やっぱり出来なくて良かったって思ってる。だって、これは私の夢だもん」
漠然として、抽象的で、だけど最も的確な表現だと俺は思った。
「なんで、夢のままがいいか、わかる?」
「ん?……その方が、楽しいから、とか?」
「ぶっぶー。残念。正解はね…」
今までの表情から一転、ワンコはにやりと笑った。
「この夢は、私でも『見られる』夢だから、でしたー」
「とんちかよ!」
「でも叶うって確定してるし、夢とも違うっぽい?うーん、でも夢が叶うのが確定なんて、私の人生バラ色って感じ」
「お前、バラがどんな色か知らないだろ」
「赤いって事ぐらい知ってますー。……赤ってどんな色か知らないけど」
「知らないのに使うなよ」
「はいはい、言い直せばいいんでしょ〜?『私の人生バラの香り!』これでどうだ!?」
「……聞いたこともない表現だ…」
「まあいいじゃん、なんかすごそうで。にしても、タカちゃんって他の人が言わないような暴言、普通に吐いてくれるから好きだよ」
「それは褒めてんのか、貶してんのか」
ものすごく、いつも通りの光景。恋人同士とは言うけれど、何だかあまりピンと来ないというのが本音。
でも、それはそれでいい。変に意識しない分、俺も彼女も居心地がいいんだから。
ただ、最近少しだけ、ワンコに対しての認識が変わった部分がある。
彼女の目は、俺の方を向いていても、その遥か向こうを見ているように見える。
その目は見えていない。だけど、彼女の言葉通り、『夢を見ること』は出来る。
きっと、彼女は匂いを頼りに俺を探し、その目は俺のいるその先にある、彼女の『夢』を見つめているのだろう。
こんなこと、恥ずかしくて口には出来ないし、ましてワンコに言えるわけもないけれど。
「それより、さ。今日も、お父さんとお母さん、帰りが遅いんだけど…」
ワンコが、顔を赤らめながら言う。
「ちゃんと、ゴム持ってきてる?」
「もちろん。そこは、男の義務としてね」
「えへへ。また、タカちゃんのこと、いっぱい感じられるね!」
今は、これでいい。彼女の夢見た夢を、現実のものにしてあげられるまで。
『家族』になるまでは、『恋人』でいよう。お互いの匂いを、隣同士に感じていよう。
それまでは、彼女と一緒に、夢を見続けていよう。俺は、密かにそう思っている。