そろそろ何らかの進展があってもいいよね、意気地なしのキミたちでも。
「いきなり何を言いだすかと思えば……」
だってさ、僕があれだけ忠告したんだよ?
このまま何もしなかったら、いつか彼女が誰か取られちゃうよって。
普通ならすぐに告白して、そのままラブラブ街道一直線だろうに。
「ら、ラブラブ街道?」
それなのに、2週間経った今も、未だに彼女のこと避けっぱなしで。
本当に彼女のこと好きなのかと、小一時間問いつめたいね。
「だ、だからオレは別に」
顔に出てるんだよね、『オレのモノを取る』って。だいたいこの前認めてたし。
「う、ぐ……」
……全く、面倒な性格だね。
普段は邪険に扱ってたくせに、彼女が取られそうになると拗ねるわけだ。
で、自分が彼女を好きなことは認められない、と。
「う、うるさいな!オレだって色々複雑なんだよ。それに……」
それに?
「……自信が、ない」
…………自信、ねぇ。何の自信さ。
「朝は弱いし、面倒くさがりだし、大した才能があるわけじゃない。
アイツに対していつも辛く当たるくせに、大事なことは何でもアイツにフォローされる。
……自発的な行動ができるわけでもない、何かあったら文句言うだけの、自分勝手な男だ」
……それで?
「そんなオレがアイツと恋仲になったとして、更に負担かけるのも迷惑だろ?」
……さぁね。
「……ちょうどいいのかも知れない。オレがアイツから離れたほうが。
アイツがオレを気に掛けなくて済むからさ」
…………本当、自分勝手だよね。
「な、何だよ」
いや、別に。テンプレだなぁと。
本当、嫌になるくらい。
……よし、決めた。僕、委員長に告白する。
「……は?」
だってキミ、彼女から身を退くんだろ?
だったら彼女は今はフリーなんだし、僕が付き合ったって問題ないよね。
「な、だってお前、この前冗談だって」
告白はまだしてないけど……、好きっていうのは、別に否定してないよね?
「な……っ!?」
僕は今まで、キミの親友ポジションだった。
親友の恋路を応援するのは吝かじゃなかったから、黙ってた。
けど、キミが退くなら話は別だ。僕は僕の好きなようにやらせてもらうよ。
「ちょっと待て!何でそうなる!」
キミが彼女から離れたここ2週間、彼女は寂しそうだった。
いるはずの人間がいない。存在の欠如。まぁ、人恋しくなるだろうね。
そんな委員長の隣にいたのは……この、僕だよ。
「……!」
この半月でわかったことがある。
やっぱり、委員長は素敵な女性だ。
美人で有能、気配りができて、誰にでも親切で。笑顔も素敵だ。
そんな女性を好かない男はいないよ。それは、僕も例外じゃない。
「…………」
言っておくけど。
キミが何もしない限り、僕はもう気にしないから。
せいぜい自分の身勝手を後悔するんだね。
「……ま、まて」
あ、委員長?ちょっと話があるんだけどー
「あ、おい!……くそ、勝手にしろよ……」
……そうそう、今日の放課後。……本当?なら屋上で……
「何なんだよ、どうしろってんだよ……」
「で、こんなところに呼び出して、何の話?」
いやまぁ、ちょっとみんなには秘密にしたくて。
「なに、クラスで問題でもあった?だったら今なら誰もいないでしょうし、教室で……」
いやいや、個人的に大事な話なんだよ。聞いてくれるかな?
「……まぁ、いいけど。何を話すの?」
……コホン。
単刀直入に言うね?……僕、委員長のこと、好きだよ。
「……………え?」
あれ、聞こえなかった?僕は、キミを好きだ、って言ったの。
「え、え?ぇえっ!?」
この半月、結構長いことキミと一緒だったでしょ?
その間に、キミという存在がどれだけ素敵か、改めて理解したんだよねー。
「あ、え、ぅ……」
だから、僕は委員長とはもっと仲良くしたいんだよ。わかる?
「で、でも!あなた、私の気持ち、知ってるじゃない……」
関係ないね。僕は僕のやりたいようにやるよ。
「けど、わ、私は……」
まぁ、困るのもわかるけどね。
でもさ、あんなヘタレより、僕を選んだほうが絶対にいいよ?
「……え?」
だってさ、彼ってヘタレじゃない。
朝は弱いし、面倒くさがりだし。さして能力があるわけでもない。
キミには文句ばっかり言うくせに、失敗はキミにフォローしてもらってる。
自分の意見はないくせに、何かあれば文句をいう。
そんな、自分勝手な人間だよ。彼はね。
「…………」
それに比べれば、僕はキミの負担にはならない。
お互いがお互いを思い合う、いい関係を築けると思う。
キミもお荷物が減って、今よりずっと楽に……。
「……じゃ、ない」
ん?
「アイツは、お荷物なんかじゃない!」
……わからないなぁ。
キミだって理不尽に思うでしょ。彼は人の好意に気付かない人間だよ?
キミがいくら行動したって、返ってきたものは何かあった?
「ないわよ、そんなもの!」
でしょ?そんなの、苦しいだけじゃないか。
僕は、恋愛関係ってお互いがお互いを大事にすることで成り立つ思う。
キミがいくら彼を大事にしたって、彼はキミを大事にしてくれない。
いいの?キミばかり損だよ、それって。
「いいわよ、別に!」
……やっぱりわからないなぁ。何でそんなに好きなの?
「な、何でって……」
どうしてそこまで好きになれるか。聞かせて欲しいね。
「……理由なんて、ないわ」
あらら。それなら、僕にもチャンスはありそうだけど。
「強いて言うなら、ずっと一緒にいたから、かな」
……ずっと一緒にいたから?
「言っておくけど。私、アイツとは幼い頃からずっと一緒にいるの。
アイツのことはあなたよりもずっと知ってる。悪い部分なんか、星の数ほどわかってるわ」
うん、確かに一理あるね。
「アイツはいつも私の傍にいてくれた。
……遠くの街で、迷子になったときも。可愛がってたペットが死んだときも。
仲良くしてた子が転校しちゃったときも。怖い夢を見て、一人で泣いたときも。
アイツは、いつも私と一緒にいてくれたの」
………。
「私の傍にはアイツがいて、あなたはアイツにはなれない。
……ごめんなさい、あなたの気持ちは受け取れない。
私が好きなのは、アイツなんだから」
……いや本当、うらやましいことで。
「それにしても、あなたずいぶんアイツを悪く言うのね。友達でしょ?」
親友だよ。そこは訂正しとくけど。
……まぁ、あれは彼の言葉だし。
キミには関係ないことを、ちゃんと言ってもらわないといけないね。
「え?」
さぁ、終わったよ。そろそろ出てきたらー?
「……何でわかるんだよ」
そりゃまぁ、聞こえるように言ったし。キミが来るのは予想済みさね。
「え、え?ど、どうして!?」
どうして、って。まぁ、理由は彼にでも聞いてよ。
「ちょっと、ちょっと待ってよ、え、えぇ!?」
ねぇ、これでわかったろ?
「……何がだよ」
キミの心配なんてその程度のもんだってことさ。
彼女はそんなの気にしない。彼女が嫌なのは、キミが離れてしまうこと。
他の誰でもない。キミがいるから、彼女は頑張れるんだよ。
「……そう、なのか」
負担だと思うなら、できることから始めればいい。
うらやましいよね、それを支えてくれる人が一緒なんだから。
「お、お前……」
「ちょ、ちょっと!あ、アンタどこから聞いてたの!?言いなさい!!」
ほら、キミの不安は払拭されたんだし。
さっさと気持ちを伝えること。誰かに取られないうちに、ね。
「で、でも。お前はいいのか?」あぁ、彼女が好きって話?
そりゃ好きだよ、友人としてね。
「……は?」
素敵な人だし、仲良くしたいよ。でも別に恋仲までは想定してないし。
「だ、だましたな!?」
「ちょっと、本当にどこから聞いてたのよ!?
ぜ、全部忘れなさい、今すぐ!?」
だまされるキミが悪い。
じゃ、あとは頑張れ。お邪魔虫は撤退するからねー。
「ま、待てこら!」
「こら、無視するな!わ、私はアンタのことなんか、何とも思ってないんだからぁ!!」
「あーもう、うるさい!オレだってお前のことなんか好きじゃねーよ!」
「何ですってぇ!?」
「何だよ!」
ありゃりゃ。先は長そうだなぁ、これ。
それにしても、本当、幼なじみっていいよね。
僕もあんな幼なじみが欲しい……え?従妹?「幼なじみ優性の法則」?
……ま、それはそれ、これはこれ。
その話は、また気が向いたときにしようか。
とりあえず今は、あの二人を見守ろうよ、ね?
「好きって言え!」
「言わねーよ!バカ」
「言いなさいよ!!」
「絶対言わないからな!!」