その日の夜はいつもどおり、仲の良い妹の静菜と一緒にゲームをしていた。
「そこで術だ! あー、ちょっと遅い!」
「あぁっ、ごめんごめん!」
可愛らしく謝ってくる静菜。
実際に顔も幼くて整っているし、発展途上の身体も中学年二生らしい良い線を描いてる。
三歳年上の俺に影響されてかゲームとかマンガが好きなのに、下から数えたほうが早い俺と違って学年トップの成績。
更には、ちょっとツンだけど純粋すぎかつ人が良すぎる性格と、本当に俺の妹なのか疑わしくなるやつだ。
「――おっ、ボスんところまで着いたけど、そろそろいい時間じゃん?」
「えー? もうちょっとやろうよぉ」
さて、今が何時なのかといえば……午前二時すぎ。
親は寝てるし、明日は日曜だからいくら起きててもいいけども……
「いやぁ、さすがに兄ちゃんも疲れちゃったし、あした続きやろうぜ?」
「うーん、そうだね。お兄ちゃんが言うならそうしよ」
素直でけっこう。
ちなみにここは俺の部屋だが、オタクを自称する自分にしては結構殺風景な部屋かもしれない。
テレビ、ゲーム、勉強机だけがこの和室に配置されているものであり、あんまり見られたくないものは押入れの中にはいっている。
「さて、セーブすっか」
「あした起きたら、さっそく続きやろ!」
「おお……明日なんか予定とかあんの?」
静菜は非常に社交的な性格なので、友達も多く、休日は八割方遊びにでかける。
最初はあまりの成績よさに遠慮する子がたくさんいたみたいだけど、話してみれば案外普通の女の子なので驚いた人も多いんだろうなあ。
「うん。あしたは鈴香の家に遊びに行くから、十一時くらいまでだね」
「ふうん。分かったよ……」
「じゃあ、おやすみ!」
あどけないおもてに微笑を湛えながら、元気よく自分の部屋に戻っていった。
かわいいなあ……。
それに比べて俺は…………そんな静菜を真逆にしたようなヤツで、本当に同じ親から生まれたんかな? って思うほど酷い男さ。
自分でも正視するのが嫌になるほど、不細工で汚い面。
‘モヤシ’とよく揶揄される体は細っこく、男としてどうかと思うほど頼りない外観。
挙動不審極まる態度、学校では根暗なせいか、ボソボソとはっきりとしない話し方。
趣味は「キモい」の一言で斬り捨てられる二次元オタク、成績も逆学年トップに近い有様……親も半ば諦めかけてる。
でも、静菜は……彼女はそんな俺を慕うかのように仲良くしてくれる。
俺の顔は気持ち悪いだろうに、「顔なんてどうでもいいじゃん」といいながら励ましてくれる。
凄くありがたいって思ってる。
なのに最近、そんな妹に対して抱いてはならない欲望が、俺の中に渦まいているんだ。
俺は、親に隠れて見たエロサイトを見て初経をむかえた。
もちろんバレてさんざん殴られたけど、その場に静菜がいなかったのは幸いだったかな。
けど、あれを見て、あの気持ちよさを体験してからというもの、誰かでそれを試したい気持ちでいっぱいだった。
当然わるいことだと分かってるから、さすがの俺も下手な行動はおこさない。
なんども手を出したいと考えたけど、その度なんとか思いとどまって、抜くことで静菜に対しての情欲を抑えてきた。
だってのに…………
たった一つの行動で、その全てが台無しになってしまったんだ……
―――
翌朝。
自然に起きた俺は時計を見ると、短針はぴったし8に向いている。
と、唐突にオナニーがしたくなった。
昨夜は眠たかったからすぐ寝ちまったので、してなかったんだ。
さて、いそしむ前にすることは、家族の状況を確かめること。
布団から起き上がり、自室を出る。
俺の部屋に対面する位置にあるのは静菜の部屋。
ノックもせずにこっそりとドアノブに手をかけ、押し開けてゆく。
すぐにも視界にかわいい寝顔がとびこんできた。
「っふぅ……」
思わずため息をつく。
変な気を起こさないうちに、つぎつぎ。
今度は、親二人が一緒に寝ている寝室へと様子をうかがいに行く。
あんまり想像したくないけど、俺の父さんと母さんが‘ピー’して、俺と静菜ができたんだよな……
それとは関係ないけど、ある時その部屋に足をはこんだら空のペットボトルに精液としか思えない、白くてどろどろした液体が入ってたときがあったなぁ……
あれには驚いた。
――ありゃ、ドアが開いちゃってるよ。
ということは、母さんいないな。
……やっぱりだ。
母さんは奔放な人で、よく黙ってどっか出かけたり飲み会行ったり、父さんを右往左往させてるんだよなぁ。
ま、ともあれ父さんは寝てるな。
「ぃよしっ!」
思わず喜びの声が出てしまった。
何しろゲームに出てくる美少女キャラに加え、隣に座ってた静菜もかわいいもんだから、昨日寝る前は抜くことばっか考えてたんだよなぁ。
でもかなり眠かったみたいで、すぐ寝ちゃったけどな。
俺は足早に自室に戻って、ゆっくりと引き戸をしめた。
「ぬふふふ……」
薄ら笑いしつつ布団にもぐりこみ、すぐにパジャマとパンツをおろした。
俺は早漏なので、最初っからティッシュを五枚ほどとって、布団の中に忍ばせた。
おかずは、いつも傍らにおいてある、とあるSRPGのイラスト集。
はっきり言って、このゲームに出てくる女の子のカッコはエロ過ぎだと思う。
ミニスカ・太もも・きょぬー・ロリ・シスターetcetc……
属性の多さもさることながら、戦いに赴く少女があんな装備では仲間もたまんないだろうなぁ。
自分のモノをつかみながらパラパラページをめくる。
止めたところで誰が出るか……お、今回はロリきょぬーへそだしルックの踊り子さんだ。
……冷静に考えたくはないけど、こんなエロいカッコした女の子が戦場にいるとか……ありえないって。
なんて思いつつ、この子を犯す想像に耽りながら陰茎をしごき始める。
………………ものの三分ほどで、もうイきそうだ。
くる直前になると、俺は掛け布団をはだけてチンコを自分に見えるようにする。
そうしないと、精液がうまくティッシュに放れず、掛け布団にぶっかけてしまう恐れがあるからだ。
俺は全神経を短小包茎(泣)に集中させ、眼を閉じて一心不乱に擦りまくった。
…………!!?
それはまさに、果てようとした一瞬におこった。
部屋の外から足音が聞こえた瞬間、俺は中途半端な快楽につつまれた。
途中でしごくのをやめたからなわけだが、無駄なあがきであることに気付いた。
「お兄……………………――!!!」
勢いよく引き戸を開けてきた静菜は、今まで見たこともない表情で固まってしまった。
「………………ごめ……ん」
本能的に、かすれるほどの声で非礼を詫びる俺がいる。
……………………。
何秒経過したろうか?
妹は、異常なまでの虚無感を覚えたような顔色のまま、ゆっくりと引き戸をしめた。
のこされた俺は、まるで機械のような動きで事後処理をしたあと、ふたたび布団の中にはいった。
――なぜだろう?
ふいに込み上げてきたのは、とめどなく溢れる涙だった。
しゃくりあげた。
声を上げて泣きながら、枕に突っ伏して妹の名前を呼び続けた。
―――
俺は、静菜が親に言いつけでもしないかとビクビクものだったけど、来ないのを鑑みるに告げなかったらしい。
それは良かったけど……当然かもしれないが、口をきいてくれなくなった。
一緒にゲームもやらなくなった。
もの凄いショックだ。
言葉を交わすどころか、メールで謝ろうという勇気すら、俺にはなかった。
それでも、家族が一同に会する夕食の時だけは、ぎこちないながらも喋ってくれる。
でも、それはあくまでも親の目があるからだ。
帰ってきてから静菜に近づくと、うつむきながらさっさと俺から離れてしまう。
もうどうしようもない――
自暴自棄になってリストカットに及んだり、思わず遺書をつづってしまうような鬱々とした日々が一週間つづいたあとの、日曜日。
俺は一抹の希望を込めて、静菜がでかけた後の部屋にある物を置いて、帰りを待つことにした。
―――
「ただいま〜!」
午後五時、妹がかわいい声をあげながら帰って来た。
心臓の鼓動が一気に速まる。
どうかこれで心を動かして欲しい。
俺は芯から願った。
しめきった部屋の外から足音、次いでドアを開ける音が聞こえた。
……。
もう目に入っただろうな……あれが。
破ったりしないで、ちゃんと見てくれるかな……?
そう想うと、また視界がかすんできてしまう。
俺は傷つきやすい人間だ。
自分の口でなにか伝えて拒絶されるのを、病的なまでに怖がってる男だ。
だから、メールで意思を伝えることすらできない、哀れで、弱すぎるクズ野郎だ。
それでも……それでも自分の想いを乗せた物を、静菜の部屋に置いてくるのをやっとのことで叶えたんだ。
どうか、これで俺への疑惑を拭い去ってほしい――
「お兄ちゃんっ!!」
あの日と同じように、静菜はまたもや勢いよく引き戸を開けてきた。
幼いけど端麗な顔には、真にせまる雰囲気をまとわせている。
その小さな手に持つのは……
「…………ごめ、ん……下手くそで……」
「ううん……じょうずだった。お兄ちゃんの絵、すごくじょうずだったよ」
彼女に贈ったもの……それは、静菜の好きなキャラクターのイラストだ。
俺の特技といえば、ゲームと絵を描くことくらいしかない。
だから、それこそすがるような想いで、腕によりをかけて絵を描いた。
そしてイラストのそばには、口にはできない深謝の言葉を多くつづったんだ。
「そっか…………ほんと、ごめん。あんな……あんなもの見せて、ごめ――」
「お兄ちゃんは悪くない!」
静菜が声を張り上げたのに、俺は胸をうたれるような気がした。
「だって……しょうがないよ。この年頃になったら、男の子はみんなそうなるんだよね?」
妹も真っ赤になっているが、俺もかなり恥ずかしい思いだった。
後ろめたさを感じるものの、ゆっくりと頷くしかできない。
「……気持ち、悪かったろ…………?」
俺がしぼり出すようにして吐く台詞に、なんと静菜は首をぶんぶん振ったではないか。
「だって、しょうがないことだよ! 保健の先生が、男の子はみんなそうだって言ってた。ガマンしてるんだって……」
事実として理解できても、それをすぐに受け止めることは易くない。
なのにこいつは……静菜は、こんな醜い行為に耽っていた俺を見て、許容してくれるというのか。
あぁ……また涙腺が緩んできてしまう。
酷い面が余計際立つだろうに。
そんな感動に打ち震える俺に、さらなる衝撃の言葉がかけられた。
「だから、もうお兄ちゃんがガマンしないで済むように……わたしと……――」
静菜が放った単語に、俺は絶句してしまった――