世の中美男美女ばかりじゃない。むしろお前がプリクラに載るのかと突っ込みたくなる  
ぐらい醜い外見の人間が幾人も集まって社会はできている。つまり、ブスは美人を助けて  
いるのだ。  
 私立海の花女学園。「ごきげんよう」もマリア様もないとはいえ、指定の制服着用が義  
務付けられているこの学園で、唯一例外を認めれている部がある。相撲部だ。  
 朝六時に近くの公園で相撲部の女子はジャージ姿で集合し、その巨体を揺らしてジョギ  
ングをしながら登校する。正門の半分近くを取る馬鹿でかい部員が残す足跡の溝は時に三  
センチ以上に及び、大雨の時など部員の走った道が雨の通り道となる。  
 彼女達の奇声は高く低い。「ハナチュー、セイ!」「オウ!」「セイ!」「オウ!」  
「パンティー!」「いらない!」「褌!」「一枚ッ!」「褌!」「一枚ッ!」「ハナチュ  
ー、セイ!」「オウ!」「セイ!」「オウ!」「オオオオ、ハナチュー!」  
 ソプラノからアルト、テノール、バスまで様々な声が雄たけびをあげ学園外を周回して  
朝錬が始まる。  
 部の成績は一昨年が団体で全国3位。去年が2位と、めざましいかった。部員それぞれ  
が実力者だったが、中でも飛びぬけていかつい顔した女子がいた。花園薫だ。  
 なお、これは本名ではない。「花園さんに似てるよね」という呟きが学園中に広まって、  
そのあだ名がついたに過ぎない。本名は誰も知らない。誰も訊けない。「制服はお持ちな  
のかしら?」などと聞こうものなら「どすこーい」と張り手を受けて失神するだろう。訊  
けたとしても、張り手のショックで記憶が飛ぶ事うけあいだ。  
 そんな花園薫、実は困っていた。学園が異世界に飛んでから腹が減って減って仕方がな  
いのだ。  
 花園はいつもの習慣で朝錬を終えた後で、目の前の僅かな食事にため息をついた。ご飯  
がお椀一杯。たくあんと味噌汁。味噌汁の中には茄子が二切れ。いつもの一回分の食事の  
五分の一にも満たない。花園は陶器のお箸を両手に持ってお茶碗を叩いた。  
 ちゃん、ちゃん、と音が鳴った。  
「ちゃんこ食いたいどごすえ」  
「だーな」  
 隣の仲間も同様の顔をしていた。腹が減って仕事もままならない。このままでは死んで  
しまう。  
「若葉」  
 
「んん?」  
 花園は隣の若葉に問うた。「あんた、このままここで痩せていっていいと思ってるん?  
 死ぬぜ。二週間で死ぬ」  
「……」  
 花園の口調は真剣だった。若葉も思わずごくりとつばを飲み込む。死ぬ。たかだか二週  
間で死んでしまう。確かにこの空腹はありえない。このまま生きられるはずがない。  
「どうする?」  
 若葉は問いかけた。  
「出よう。もう耐えられない」  
「ん」  
 即決だった。二人は立ち上がり、職員室の先生に事情を説明した。腹が減って仕方がな  
いのに学校は何もしてくれない。ならば自分たちで生きる、と。先生はあまりの話にあっ  
けに取られ、「確かに今まで通りの食事は提供できないけれど」と断ったうえで、外の世  
界は危険だと口を酸っぱくしていった。  
「望むところです」  
 二人は言ってのけた。「かの師匠は熊に勝ったといいます。私たちだって熊に勝たなく  
ちゃ」「んだ。化け物食って、あまったら持ってくるから先生」  
「……」  
 化け物だって食べられる、とは考えもしなかった先生は口をぽかんと開けて、「本気な  
の?」と言った。  
「勿論」  
「ならばこうしましょう。貴方たちに外出許可を与えます。でも危険だったら帰ってきな  
さい。あと、外の状況をメモして簡単な地図を作って、あとで教えてくれるかしら」  
「お安い御用です。それだけでいいのですか」  
「校長先生に、出る事を言っておいて」  
「分かりました」  
 二人は校長先生に会い、事情を説明した。校長は眩しそうに二人を眺めた。  
「本学園でも指折りの実力者を養えないというのが、情けないです。貴方たちさえいれば  
怪物も簡単に倒せるかもしれないのにね」  
 二人も微笑んだ。「しかたねーです。メシがなければうちら役立たずですから。メシ食  
って考えます」  
「……なるほど、分かりました。いつでも帰ってきなさい。歓迎しますよ」  
「ウォッス!」  
 こうして花園と若葉は学園を去った。もし二人がいればかなりの淫獣が食料に変わった  
だろう。だがそうだとしても、淫獣を毛嫌いする大多数の生徒が貴重なそれを食べないだ  
ろうことは、今更言うまでもない。  
 
完  

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