「・・・・申し訳ありません。」
暗い茂みの中で、俯き言葉少なめに謝る。
怪我をした右足が心なしか痛みを増した。
その足先には黙々と包帯を巻き、自身の持つ魔術療法の呪文を呟く男がいた。
呪文を終え、しばし噤んだ口が開き、重い言葉が流れる。
「・・・お前は、何の為に隊長になったんだ・・?」
「すいません・・・。」
「誰が謝れといった。質問に答えろ。」
「・・・・・・。」
「答えろ!前に話したことがあっただろうが!!!」
ざわついていた木々の音が、その声で一挙に静まり返った。
自分の口が、肩が、全身の筋肉が恐怖に震えている。
怖い。目が見れない。
ここに連れて来られた直前から、同じように怒りに燃えていた。
指揮官の補佐である彼には、今回の任務は特別なものだった。
海洋部隊の指揮官は高齢のため、次期指揮官の任命時期が迫っている。
補佐である彼が適任だろうが、何故か有能な隊長格も名乗りを上げていた。
それには、彼の弱点でもある、一つの原因があった。
皆、彼を「指揮に甘さがある」と言う。
それは、ついこの間まで「優しさ」という言葉には転換されなかった。
訓練にしても、彼は個々の能力を最大限に引き出す方法をとる。
精度を高め、かつ強靭な体力を身につけるための訓練。
ところが、これは受け継がれてきた訓練とは正反対。
「根性」をプロセスとした指揮をする者の反感を買うのも無理はない。
むしろ、その訓練がこの国の強固な軍事力を保ってきたのも事実だけど・・。
あの時、ノイズにより指揮が聞こえなかったと言えば言い訳になる。
部下を守るためと言っても、口合わせに変わりはない。
あの艦隊の暴発装置を打てたら・・・そう思って近づいた。
そうすれば、同時に透明に輝くこの海の景観も守れるだろう・・・・と。
暴発装置は、接近していた私をいとも簡単に吹き飛ばした。
幸い後方の崖に足を打撲した程度だった。しかしその後の衝撃波による津波が襲い、
死を覚悟した瞬間、彼により助けられた。
女性隊長という事に反発があった任命直前の議会でも、彼が助てくれた。
それは彼が私の全責任を負うという事。
つまり、今回の事件で首を切られるかもしれない。
私の所為で・・・・。
いつも自分は、恩返しができない。
それどころか――――。
ふと、頬を暖かく湿った指が触れた。
その方向には、いつもの彼がいる。
あの優しい、大きな目をして。
「泣くな。俺も少し大人気ない言動だったな。すまない。」
いつもの口調に戻って安堵したのか、一気に胸に詰まった物が溢れ出す。
必死に堪えようとするほど、流れ落ちる涙。
私はただ、そっと腕を回して胸に抱いてくれた彼に甘える。
何とか質問に答えたい。
答えたいけど・・・涙が・・・。
優しく頭を撫でられる。
私はただ泣いた。咽る程に。
そんな不甲斐ない私を、彼は泣き止むまでジッと抱いていてくれた。
―俺は本当に補佐という座にいてよかったのだろうか・・・。
この、長年心の奥底に塞ぎこんだ悩みは今、春の陽気に溶ける雪のように消えた。
そうなったのも・・・こいつのおかげだ。
今胸に抱くこの部下・・・否、彼女が居なければ、俺はとうにこの座を降りたかもしれない。
任命当初、格下の隊長格に罵倒され、胃の痛い日々が多かった。
指揮官が自分の親戚であるが故に「コネ」と噂さえ流れていた。
「まだ15歳」
そう嘲笑された任命式。
それが非常に悔しくて、自室で壁を殴り続け、もともとあった傷口が開き出血多量で搬送された。
血のシミはまだあの壁に残っている。
それを見るたび、そんな自分が情けなく感じた。
それから3年経ち、俺は彼女・・・ハッチに出会った。
同い年ながら大人びた精神力、指導力。
隊長候補生試験もトップで卒業。
俺は彼女ならいい隊長として指揮ができるだろう・・と思い始めた。
それでも、女性は隊長になることはできないという規律がこの国にはあった。
その原因は過去に、敵軍に姦淫されて身籠った女性隊長を上司が惨殺したという暗黙の歴史の所為。
そしてその上司は異質なことに、殺して血まみれになったその隊長を犯した。
俗にいう、「死姦」。
この上司も事件発覚後に上官に首を落とされ、絶命した。
これ以来、断固として女性に昇格制度を施さない。
俺はどうにかできないかと模索していた。
しばらくして、俺は彼女が上官の前で、「なぜ女性が隊長になれないのか」聞いていた。
上記のとおり、暗黙の事実に加え、勧誘で昇格させようとした上官を、
俺は渾身の力でぶん殴った。
もちろん、これはクビ同然の行為である。
しかし。
―俺はどうなってもいい。彼女が隊長になるなら―――。
この時はまだ、自分の気持ちに気付かなかったのだが。
なりふり構わず総合指令部に駆け込み、説得した。
自分の首は飛んでも構わない、彼女の腕を見てほしい、と懇願した。
「贔屓するのは好きだからだろう」と嘲笑されても、構わないほどに。
むしろ恥じなかった。いや、恥じることではない。
それから数十年ぶりの女性隊長になれた彼女は、立派な指揮をしている。
時折こちらから補助をしないといけない時もあるが、それでも男には気付かない、
女性特有の指導力が、次第に評価を上げていった。
この頃だった。上司と部下でなく、もっと身近な関係でありたいと思ったのは・・。
「泣きやんだか?」
「・・・はい。」
静かに流れる小川の音と、風に揺れる木々の音しか聞こえない。
ハッチは涙を拭うと、鼻をすすって立ち上がろうとする。
しかし、クロッグはハッチの手を掴んで強引に座らせた。
「・・補佐官?」
「そのまま座ってろ。」
疑問を持ちながらも、静かに腰をおろした瞬間、肩を押され仰向けに倒れる。
驚いて何も言えないハッチを見て、クロッグは「ふぅ」とため息をつき、前を見据えて口を開いた。
「・・ほ・・・補佐官?」
動揺するハッチは、突然の行動に戸惑いながらも、やっと言葉を返す。
しかし、それ以上に驚いた事。
ー手でも足でもない・・・・脈打つ・・・それはまるでーーー。
「え・・・・!?」
「・・・分かるか?この意味が。」
「あ・・あの・・・。」
丁度自分の股間部に当たる、雄の象徴。
時折脈打つその硬い棒は、自らをこれでもかと主張していた。
「お前に対してのお返しだ。」
「お・・お返しとは・・?」
「以前、自室で俺を呼んでたろ?嬉しかった。」
「・・・・・!」
過去に遡った瞬間、ハッチの顔がみるみる赤くなる。
「無理もない。俺もそうだ。発情期があるから耐えるのは難しい。」
「・・・なんでそんなところを・・・」
「いや・・・隣の部屋だろうが。」
「寝てなかったんですか・・・。」
「ああ。」
顔を手で覆い、真っ赤になって押し黙るハッチに、クスリと笑いを見せるクロッグ。
「・・・なあ、ひとつお願いしてもいいか。」
「え・・?」
ようやく熱が引いてきたころ、クロッグが静かに口を開いた。
「今は名前で呼んでくれるか?それに、同い年なんだから。」
「・・・はい。」
「こら。早速守ってない。」
「急には無理ですって。」
「・・・・・まあ、そうだな・・。」
しばらく見つめあい、やがて重なる唇。
まだ若い2人にとっては若干違和感があった。
それでも、本能に宿る行為の伝承は、しっかりと残っている。
裸になった2人。
空は月の光が振り注いで神秘的な光景を醸し出していた。
クロッグはハッチの尻尾を撫でながら、舌を体に這わす。
長く太いその舌は、じっとりと暖かく、卑猥な感じであった。
時折漏れる幼い喘ぎ声に、心臓の鼓動も早くなる。
我慢できないとばかりに、秘部にたどり着くやいなや舌を奥まで侵入させる。
「!!ぁ・・・クロッグ・・・ま・・・っ!」
にちゃにちゃと音を立てる秘部は、次第に潤っていく。
締めつけたり弛んだり、変則的な動きにを繰り返している。
「クロッグ・・・駄目・・・・・もう・・。」
頭を掴み、首を横に振って悶える。
あまりの快感に達しそうになるが、必死に耐えた。
自慰ではない、本当の性行為で初めて達するのなら、彼と一緒に、と思っていた。
クロッグはそれを察してか、ゆっくり舌を抜き、一呼吸置いてから、自身の肉棒を挿入した。
小さな体にそぐわない、舌より太いその肉棒は、ハッチの膣内にめり込んでいく。
初めて味わう女性の中に、クロッグは溜息を洩らして身を震わせた。
「っ・・は・・ぁ、なんか変な感じ・・・。」
「・・・俺もだ。気持ち良すぎて・・・う・・動いても平気か・・?」
「・・・・いいけど・・さ、その前に聞いてもいい?」
「?」
「女性の隊長任務期間って・・5年だよね?」
「え?・・・そう・・だな。」
「じゃあさ、もし。」
「うん。」
「・・・5年経って・・・二人とも経済的に余裕ができたらさ・・。」
「・・・そうだな。きっと・・・な。」
それ以上、言葉を出さないハッチ。
だがクロッグには、予測がついた。
経済的な自立、そして任期満了とともに退職となった時、女性が選ぶ道・・。
―結婚。
この先どちらかが、あるいは二人とも戦禍に巻き込まれて命尽きるかもしれない。
それでもいつか平和が訪れ、治安もよくなったら幸せな家庭を築こう、と誓い合う二人。
そして軽くキスを交わし、再び見つめ合った。
クロッグは一度腰を引くと、慎重に奥まで挿れていく。
ゆっくりとしたストローク。高まる感度。
それは次第に早く、強くなっていく。
月明かりに照らされた二人の息遣いと、ねちゃり、ぐちゃりと響く音が生々しい。、
そして時折聞こえる空気が抜けるような卑猥な音、体のぶつかり合う音。
誰かが通れば確実に気付くであろうが、それを意にも介さず本能のままに没頭する。
そして迎える、終息の時。
眉間にしわを寄せ、何かに耐えているようなクロッグを見て、ハッチは射精が近い事を悟った。
達しそうなのかと聞きたくても、自分の口から声が出ない。
自分も限界が近いと言いたくても、口がそれを許さない。
開いていた足をクロッグの腰に回し、腕を首に回してしがみつく。
できる事なら一緒に達してみたい。精一杯の受け答えだった。
喉元からグッと声を絞り、ピタッと動きを止めるクロッグ。
彼の名を呼ぼうとした刹那、膣内に己の精魂が大量に飛び出す。
クロッグは射精の律動に合わせて再度腰を打ちつける。
吐き出す息と同時に聞こえる、快楽の声。
その様子を目の当たりにし、膣内を熱い液で染め上げられたハッチも声なく達した。
収まった律動。それでもなお味わいたいと衰えを知らないその性欲の根幹は、膣内で硬さを保っている。
ハッチは虚ろに空を仰ぎ、初めて感じた『愛の行為』の快楽に浸っていた。
「子供できるな、これ・・・・。」
「・・知らないよそんなこっ・・・・あ痛たた・・・。」
何度か肌を重ね、いつの間にか眠ってしまった二人を起こした朝日。
あまりに没頭しすぎて、起きた時には痛みさえ感じた。
お互いの欲望の痕跡が辺りに、体に残り、糊のようにべとべとして気持ち悪い。
二人はじっくりと昨晩の行為を思い出しまい、大汗をかいていた。
無論、恥ずかしさの余りである。
近くの池で体を洗い、身支度を整える。
ハッチも怪我の具合が良好のようであった。
歩きながら、ハッチの足の具合を見るクロッグ。
「背負ってやるよ。まだ完全には治ってないしな。」
「あ、うん・・・。」
「で、気持ちよかったか?」
「・・・そりゃあ、ね。クロッグは?」
「最高。まだ足りないかも。」
「この馬鹿。変態。」
親指をつきたて、にこりと笑うクロッグに軽く小突く。
クロッグはハッチを背負う。少し重かった。
と同時に、自分の首元に愛すべき者の温もりを感じる。
後ろから抱きよせるように、クロッグに身を寄せるハッチ。
少しばかりの静寂の後、ハッチが口を開く。
「・・・じゃあ、クロッグ。」
「・・。」
「ひとつだけ・・お願いしてもいい?」
「・・何だ?」
「無茶しないでね。私ももうしないから。」
「・・・ああ、心配するな。」
頬笑みながら、基地への道なき道を歩いて行く2人。
それは二人がこれから築く道を、作っているかのようだった。
END