美
エヌ氏は権威ある美容外科医である。
世界中のありとあらゆる美男美女はエヌ氏の超人的な怪腕によって生み出されたと言っても、過言ではない。
ある日、女がやって来た。
「私を世界で最も美しくして頂戴。」
「それは難しい注文ですね。美しさには個人の主観がかなり絡んできますので。」
「それならばあなたの観点から見た美しさで構わないわ。」
それを聞いたエヌ氏は、部屋の奥から一本のアンプルを持ち出した。
「これは私が開発した、『私の考える世界一の美しさ』を手に入れることのできる薬です。未だ人体実験をしていないので、なにが起こっても責任は取れませんが…。」
「構わないわ。それで私が美しくなれるのであれば。」
早速エヌ氏はアンプルの中身を女に注射した。
「如何ですか、気分は。」
「なんだか段々暖かくなってきたわ。」
「これからの変貌に向けて、体中の代謝を高めているのです。」
「全身の骨が軋んでいるみたいだけど…。」
「あなたの骨格から何まで全てを美しくさせますので。」
「ちょ、ちょっと、何!?毛が生えてきたわ!」
「世界一の美しさには不可欠なものです。」
「い…いやぁ!手が…足が……私の体がぁ…!」
「確かに変貌の途中は醜いものかもしれませんが、これはあくまで過程に過ぎません。おぉ、なんと美しい尾なのでしょう…。」
「あ…あなタ…やクソくとちガうじゃない…」
「言ったでしょう?『私の考える世界一の美しさ』と。さあ、その醜い顔と声など捨ててしまいましょう。」
「い…やァ…ガゥ……グルルルルル…」
全てが終わったとき、エヌ氏の前には一匹の豹が倒れていた。
「やはり、人間など醜いものだ。獣こそが美しい…」