「ちょっとすみません質問です。あなた人間ですか?」
「・・・?人間ですけど」
「またまたぁ、ご冗談を。エイプリルフールだからって嘘はいけませんね嘘は」
「一体何を言っ・・・グ、ガ・・・!?」
反論しようとしたあたし喉の奥で、『それ』は始まっていた。
いがらっぽい、と言うより熱っぽい。
今まで感じたことの無い違和感。
「げほっ、がぁッ、うぅがぁああッ!?」
咳払いをしても一向に改善のきざしは見えず、
それどころかますます”言葉”からかけ離れていく。
声をかけてきた男が、うすく笑っているのが見える。
その表情の中に見えた悪意が、あたしの身体を貫く。
ダメだ。
こいつに関わっちゃ、ダメだったんだ。
変化は喉にとどまらず、身体のそこかしこから獣毛が湧き出す。
筋肉が、骨格が、聞いたことも無いような音を立てながら変形してゆく。
服が、きつい。
そう思った次の瞬間、
急激に質量を増したあたしの肉体が、いとも簡単にはじけ出る。
ボロきれと化した服の下から現れたのは、いつの間にかみっしりと生え揃っていた毛皮。
「グァアああッ! あががぁああああああああっ!!!!」
助けを求めてあげたつもりの悲鳴までもが、
いつか動物園で聞いた獣のそれとほとんど同じになっていて……
惨めさが涙になって、あたしの新しいマズルを伝う。
……あたし、人間だよ?
嘘なんか、ついてないよ?
ほんとだよ、誰か、ねえ誰か、聞いてよ、信じてよ!
ねえってば!!!
「そうそう、そうやって鳴きわめいていればいいんですよ。
嘘なんかついちゃいけません。
あなたは人間ではない。
今までも、そしてこれからも、永遠に……ね?」