はじめて君に出会ったとき、その表情をまじまじと見た。
ああ、この人のこれまでの人生は、長く、暗く、
そして笑ったことなどなかったんだろうなあ…。そんな印象だった。
その時、どうやら君は自らいのちを絶つことを考えていたんだね。
そんな悲しい悲しい時期に、僕と君は出会ったんだ。
ふたりだけの、幸運な世界と時間が目の前に広がった。
ボクは君を笑わせることに、しがない人生を賭けた。
遊園地にデートに行った。君は遊園地なんて初めてだったんだね。
夕焼けの観覧車から眺めた海の光景は一生忘れない。
その時君はいった
「あたしは昔は夕焼けが好きじゃなかった。だって暗く嫌な夜が来るんですもの。
でもね。今はへーき。好きな人ができたから。また明日が来るって思えるの」
初めての夜。
ボクは君を抱いた。なにもかも引き裂くように君の中に入った。
うれしいとほほ笑んだ君の顔を見て、僕は泣きそうになった。
君の壊れそうで神々しいまでに綺麗な裸体。世界にひとつのかけがえのないもの。
そうして幸福な時間はいつまでもいつまでも続くように思われた。
海ではしゃいだり、いっしょにご飯を作ったり、さわりっこしたり
お金なんかじゃない、ささやかながら本当の幸せをみつけたんだ。
でも
ボクは君の病気のことを知った。ああ、君にも分かってしまったんだ。
決して助からない心臓の病。
ボクは君より先に死なない。君を笑顔で最後まで看取ってやる。約束する。
こんな悲しい指きりが世界のほかのどこにあると言うのだ!
君はあの晩、病室でいつものようにやわらかいおやすみのキスをしてくれた。
しかし、朝 もう君が目覚めることはなかった。
安らかに 苦しんだり怖がったりすることなく…。
今日はもっと朝寝坊してもいいよ。病室のざわめきをよそにそっと耳元でささやいた。
数日後、君が死の前に必死に書き綴っていた日記を見つけてしまった
彼女も、同じ境遇であと2,3年のうちに病魔に負けてしまうであろう、
僕に宛てたものだった 君を喪って 孤独で 死にそうな僕に
○○○(僕の名)・・・
もしも あなたの 人生がこの先
痛くて 苦しくて
ひとりぼっちだったとしても
こわくはありません
だいじょうぶです。
あたしが かならず
ここで 待っています
どんなことになっても
あなたの○○○(彼女の名)が
ここで待っています
「おかえりなさい」って 言います
だから
だいじょうぶです。