「…でね、驚いてみんなで職員室行ったらね…」  
 
練習を終えた『人間影絵部』キャプテンの榊麗奈と、五年生の桜野ハルはお喋りに花を咲かせながら、体育館から部室に続く静かな渡り廊下を歩いていた。  
ユニフォームである全身タイツの生地に包まれた二人の胸は対照的だ。最上級生にもかかわらず少年のような慎ましい平らさを保つ麗奈の胸に比べ、  
ハルの全校屈指の偉容を誇る雄大な乳房は、タイツ地の窮屈な締めつけの下でも歩くたび上下にゆっさゆっさと揺れている。  
 
「…待て待てお前たち!!ちょうど良かった!!」  
 
背後から大声を上げ、バタバタと走って来たのは人間影絵部の顧問教師大山田だった。背中に怪しげな登山用リュックを背負っている。  
己の色欲に果てしなく忠実なこの問題教師は、彼の心がエロスの歓喜に満ちている時特有の晴れやかな笑みを浮かべ、猛スピードで二人に追いすがってきた。  
 
「うふ。頼みがあるんだ。君たちにとっても超ラッキーな話だ。」  
 
大山田の頼みが大抵、性に直結したものであることをよく知っている二人は、疑わしげな視線と共に防犯アラームを取り出す。人間影絵部の児童で彼から身を守る護身具を持っていない者は皆無だろう。  
 
「…何ですか大山田先生。乳ビンタなら死んでもしませんよ。」  
 
「わはは。馬鹿だなハル。そんなこと頼む教師がいるわけないだろ?」  
 
ハルの冷たい視線と言葉に、大山田は大袈裟に笑いながら部室のドアを空ける。先日まで自分が執拗にハルの乳ビンタをねだり、恫喝と哀願を繰り返したことは都合よく忘れているようだった。  
 
「…まぁ部室に入れ。祖先の恥骨に誓ってセクハラはしないから。」  
 
ため息をついた麗奈とハルは、大山田と登山用リュックに激しい不信の目を向けながら、踊るように部室に飛び込んだ彼の後に仕方なく続く。  
 
よいしょ、とリュックをテーブルに降ろした大山田は、うきうきと二人を部室に引っ張り込み、内部からガチャンと施錠した。  
 
「さて…」  
 
ハルと麗奈は警戒を露わに手にしたアラームのボタンに指をかけたが、大山田は両手を挙げて堂々たる声を発する。  
 
「落ち着けって。順を追って話すから…」  
 
大山田はテーブルに置かれたリュックを愛しそうに撫でた。二人の女子児童が怪訝な表情でそれを見つめたとき、ごそり、と謎のリュックは蠢いた。  
 
「きゃ!?」  
 
驚く二人に構わず、大山田はごそごそとポケットから取り出した菓子を少し開いたリュックの口から放り込む。再びリュックがうねうねと蠢き、少し緊張を解いたハルは好奇心に満ちた瞳で叫んだ。  
 
「動物だ!! 犬か…ネコかな!?」  
 
生き物好きな彼女が嬉しげにリュックに近寄った瞬間、狭いリュックの口から、にゅっ、と白く小さな人間の足が突き出され、ハルは仰天してぺたりと尻餅をついた。  
 
「ひぃ!?」  
 
すっくと伸びた柔らかそうな足は、明らかにハル達くらいの幼い少女のものだ。しかしその足先は、どう考えても不自然な角度で突き出ていた。  
リュックの容量から考えても、中国雑技団なみの軟体人間でなければ不可能な芸当だろう。  
 
「な、何!?…」  
 
目を見開いてハルたちがリュックと足を見つめ続けていると、やがて小さな足裏は、現れたときと同じようにしゅっ、とリュックの内部に消えた。  
 
「わはは。驚いたか。先日、カーセックスの名所になってる港の堤防へ盗撮に行ってな。そこで偶然見つけたんだ。」  
 
「み、見つけたって…」  
 
「リュックの中の女の子だよ。十歳くらいかな…埠頭の古コンテナに潜んでたんだ。言葉がぜんぜん通じないから外国人だと思うが、水と食いものをやったら元気になったんで連れて帰ってきた。」  
 
顧問教師の人権意識の低さに呆れながら、麗奈が恐る恐る呟く。  
 
「…先生、それって、密入国者じゃ…」  
 
自分を眺める二人の凍てついた眼差しを無視し、嬉しそうに大山田は続けた。  
 
「はは。先生だってそれ位の察しはつくさ。そこでだ、警察や入国管理局にバレないよう、この部室で飼おうと思うんだ。ほら、先生のアパートじゃ周囲の目もあるしさ。」  
 
「ば、馬鹿なこと言わないで下さい!!なんで私たちが不法滞在の片棒を…」  
 
「…『木の葉を隠すなら森の中』だ。人間影絵部には四十人も女子児童がいるんだ。見つかりっこない。見つかる…もんか…」  
 
最近心なしかやつれたように見える大山田は突然、ガクリと膝をついてふらふらと床に倒れ込み、呆気にとられてリュックと彼を交互に見ているハルと麗奈に情けない声を掛けた。  
 
「…すまんが…お前たち、何か食べものを持ってないか?…ずっと、水しか飲んでないんだ…」  
 
「…行こ、ハル。関わり合いにならないほうがいいよ。」  
 
軽蔑と怒りに満ちた顔の麗奈は冷たく背中を向けようとしたが、ハルは少し大山田に同情した視線を向けて麗奈を止める。  
 
…少ない給料で難民少女を養い、自分は飢えているのかも知れない…  
 
「…練習終わったら食べようと思ってたパンだけど…」  
 
ハルが差し出した菓子パンを、大山田は引ったくるように奪うと、ビニール袋を破る手ももどかしくパンにガツガツと食らいついた。  
 
「…なんでその子、リュックに入ってんの?」  
 
大山田の姿を眺めるハルの口から出る、当然の疑問。  
 
「…見つからないよう運ぶ為でしょ。」  
 
心底蔑んだ口調の麗奈の答えを、顔を生クリームだらけにした大山田が補足した。  
 
「…それもあるが、恥ずかしがりなんだ。ま、服なんか着せて、逃げられても困るしな。」  
 
「は、裸で入ってんの!?」  
 
…恐らく密入国者とは言え、遥か異郷の地でよりによってこんな変態と関わってしまった同世代の少女がつくづく不憫になり、ハルはもうひとつ、そっと菓子パンを取り出した。  
 
「…リュックの子もお腹空いてるでしょ?はい、パン。」  
 
おずおずと伸びた愛らしい手がパンを掴み、リュックの中からは、ガサゴソとパンを食べる音が響く。  
しかし慌ただしく自分のパンを食べ終えた大山田は、ハルが勝手にリュック少女にパンを与えた事に気付いて血相を変えた。  
「ああああっ!! なぜ勝手に餌をやるんだ!!餌をやるのは俺だけの特権なだぞ!!」  
 
「…なに訳の判んないこと言ってんですか!! だいたい先生、『児童憲章』とか知ってます!? 警察に連絡して…」  
 
そのとき静かに、ついに堪忍袋の尾を切らし、大山田に詰めよった麗奈とハルの背後、テーブルの上のリュックから、そろそろと二本の腕が伸びた。  
ハルがその気配に気付いた瞬間、華奢だが力強いその腕はハルの無防備な巨乳を後ろからむんずと捕らえていた。  
 
「きゃああああ!?」  
 
「ハ、ハル!?」  
 
「せ、先生!! キャプテン!! 助け…」  
 
ハルの乳房をしっかりと掴んだ手はずるずるとイソギンチャクのように彼女の上半身をリュックの中に引きずり込み、やがてハルの小柄な身体は、黒いタイツに覆われた二本の脚だけを残して、すっぽりとリュックの中に収まってしまった。  
 
「むふうぅぅ!!」  
 
ハルの籠もった悲鳴。そして、じゅうじゅうと何かを吸う音。ちょうど布地越しに何かに吸い付くような…  
 
「せ、先生!! 一体…」  
 
取り乱し立ちすくむ麗奈に、大山田は慌てもせずまた自慢げに説明した。二人の視線の先では、リュックから黒くにょっきりと飛び出したハルの脚が、はしたなく股を開いてばたついていた。  
 
「…与えたカロリーに相当する性的サービスをするよう仕込んだんだ。俺は今月の生活費と横領した部費すべてを餌代に注ぎ込んだ。…うひひ。彼女、軟体動物みたいに身体が柔らかいんだぞ。カツ丼を食わせた時は凄かったなぁ…」  
 
ぐう、と鳴る腹を抱えながら陶然と『軟体少女大サービス』を回想する大山田を睨んで、ほとほと呆れつつ麗奈は数日前の職員室での騒ぎを思い出す。  
あの時、同僚教師の弁当を盗み食いした大山田は、もうしません心を入れ替えますと泣き喚きながら職員室の床に這いつくばっていた…  
そこまで飢えてもなお、性欲の為ならどんな労苦も厭わない大山田のある意味真摯な性への姿勢に、麗奈は今更ながら足元が震えるのを感じて言葉を失う。  
 
「む…ふぅ…んんん!!」  
どんな姿勢で収まっているのか見当もつかない少女と、ハルの上半身がすっぽり入ったリュックの中からは、切なげな呻きが響き続ける。  
じゅっ、じゅっ、という汁気を帯びた吸引音から推察するとハルは恐らく全身タイツの薄い生地の上から発育過剰の乳房、そして乳首に、菓子パン一個分にしては濃厚過ぎる舌と唇による愛撫を受けているに違いなかった。  
 
「ん…ふうぅぅ!!」  
 
やがて部員随一の脚線美を誇るハルの両脚がぶるぶる小刻みに震えながらピンと伸び、小さく締まった尻と共にキュッ、と硬直する。  
そしてじゅうっ!!とひときわ高い吸引音が響き渡った後、ハルの無防備に開かれたタイツの股間に、じゅわっ、と小さな染みが滲んだのを、教師大山田の鋭い瞳は見逃さなかった。  
 
「おお見たか榊!!、ハルが、ハルがイったぞ!!」  
 
慌てて携帯を取り出し、パシャパシャとハルのタイツに残る染み跡を撮影し始めた大山田の横で、キャプテン榊麗奈はもはや普段の明晰な思考力すら失いながら、この『児童ポルノ規制法』などつゆ知らぬであろう問題教師に訊ねた。  
 
「…で、一体何が『私たちにとっても超ラッキー』なんですか?」  
 
「馬鹿だなあ。この子の柔らかい身体を使えば、『人間影絵』の演技の幅が自由自在に広がるだろ。色々試したが、自分で自分のケツを楽々と…」  
 
「…もういいです…」  
 
卑猥きわまる大山田の長広舌を麗奈が遮ったとき、リュックサックがまるで食べ滓を吐き出すように、ぺっ、とハルの脱力した上半身を放り出した。  
濡れたタイツ地がぐっしょりと貼りついた巨乳の中心に堅く岐立した乳首をくっきりと浮かべたハルはペタンと座り込み、恍惚と潤んだ瞳を二人に向けてから、恥ずかしそうに火照った赤い顔を手で覆った。  
 
「…やだぁ…」  
 
息も絶えだえの彼女がそのまま物憂げにぐったりと床に臥せてしまったとき、ふと時計を見た大山田が飛び上がって叫ぶ。  
 
「あ、いかんPTAが乗り込んでくる時間だ!!…『三組ボイン体操』の件で、ムチムチの人妻たちが俺を懲戒免職にしろ、ってカンカンなんだ。」  
 
「…はあ?」  
 
もはや麗奈はまともに相手をする気力すら失っていた。三組ボイン体操…  
 
「…うまく煽れば、ヒールでぐいぐい踏みつけて貰えるかもしれん。急いで行ってくる。」  
 
「ち、ちょっと待って先生!!リュックサックの子は…」  
 
我に帰った麗奈の叫びを背中で聞き流し、走り出した大山田は朗々と答える。  
 
「甘えるなキャプテン!!たとえ先生の玩具であっても、その子は今日から人間影絵部の仲間だ!!言葉の壁などガッツで乗り越えろ!!」  
 
…猛ダッシュで去りゆく大山田の背中を見つめ、キャプテン榊麗奈はいつかこの淫行教師が、法の下で厳しい社会的制裁を受けたらいいなあ、と激しい疲労感のなか、ぼんやりと考えた。  
 
 
おわり  
 
 

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