「はぁあ……はぁあ……」  
私は今、自室のベッドの上で旦那様に貫かれながら後ろから抱きしめられている。  
きっかけは奥様の命令だった。  
 
「この人起たせるのめんどくさいからさぁ、あんた準備しといて」  
そう言う奥様の後ろから、旦那様が奥様の両胸を鷲掴みにした。  
「駄目だろ。そんな高圧的に言っちゃ」  
「ひぁあん!ご、ごめんなさぁいっ」  
「どうせ逆らえないんだから、乱暴に言う必要はないんだよ」  
瞳を潤ませた奥様がもう一度言われた。  
「お願いします」  
 
旦那様はベッドに座ったまま、私を抱きしめているだけだ。  
「準備」とはつまりこういうことだったのだ。  
「だ、旦那っ様ぁ!動いてくだっさ」  
抱きしめられている私は腰すら動かせない。  
イくことも出来ずに、疼きだけが貯まっていく。  
一時間は経ったのではないだろうか。  
旦那様がゆっくりと腰を引いた。  
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん」  
支えを失った私は床に転がった。  
「じゃあ、お休み」  
旦那様がドアの所で振り返った。  
「自分で慰めちゃ駄目だからね」  
「そっ……そんな!」  
私は今にも胸に触れそうな手を止めて戸惑った。  
「じゃ、改めてお休み〜」  
そう言って旦那様はご自分達の寝室に向かわれた。  
「自分で慰めるな」  
つまり誰かに頼めという意味だ。  
一体誰にこんな事を頼めば……。私は上気した身体を引きずって廊下をさ迷いだした。  
 
(旦那様のところに戻って、お情けをすがる……?)  
いや、そんな事は無理だ。  
旦那様は奥様との営みの「準備」に私を使っただけで、私を抱くつもりなどない。  
そして、私が慰めを求めて他の人と交わるのを楽しみにしていらっしゃる。  
やや悪趣味な旦那様の性癖だ。  
 
(それなら若旦那様……?)  
こんな一メイドにも優しく接して下さる若旦那様。  
頼めば、この疼きを鎮めるのをお聞き届け頂けるだろうか……  
だが、旦那様はともかく奥様はそれをお許しにはなるまい。  
またこんなはしたないお願いをすれば、失望される事だろう。  
いい考えではない。  
 
(伊頭さん……は、ありえない)  
なぜ一瞬でも頭に浮かんだのだろう。  
運転手や力仕事を担当している方だ。  
私の事をよくイヤらしい目つきで眺めてくる。  
慰めを頼めば二つ返事で引き受けるだろうが、今後もその事を元に関係を迫られるだろう。  
そもそもあまり触られたくないタイプの人だ……頭の中で即座に却下した。  
 
(村上くん……村上くんなら)  
このお屋敷では、私より後に勤めはじめた執事補の村上くん。  
私の一つ年下で、普段からお互いよく話す気心の知れた同僚だ。  
ちょっとワイルドな感じで、十分イケメンの範疇に入る顔。  
爽やかな外見と気さくな雰囲気で、男性使用人の中では女性使用人達にウケの良い方だ。  
若手使用人同士の飲み会で盛り上がり酔った時、いいムードになった事があった。  
彼はかなり私を口説きに入っていたと思う。  
次の日はお互い素知らぬフリをして無かった事にしたけど、酔った勢いでキスされた事もあるし。  
……いいよね、村上くん。  
……こんな事を頼めるのは村上くんしかいないし。  
 
使用人棟の村上くんの部屋へ私の足は向かった。  
 

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