ふわふわとした、なんとも言えない心地良い感覚。  
いつまでもこの感覚を味わっていたい。  
 
『………』  
 
……?  
なんだろうか。  
 
『………!』  
 
そうか、音だ。  
音が聞こえる。  
だけども、この響きはどこかすごく懐かしく、なんとも言えない切なさを感じさせた。  
 
『…お……ゃん!』  
 
違う。 声だ。  
その音は、誰かが俺を呼ぶ声だ。  
その時俺は、今自分が夢の中にいるのだとなぜか漠然と理解した。  
 
『…お兄ちゃん!』  
 
はっきりとその声が俺の意識の世界に響いた。  
俺のことを兄と呼ぶのは、誰か。  
まだぼんやりとした意識の中で、俺は記憶の断片から、声の主を引き出す。  
そうだ、俺のことを兄と呼ぶのは、この世界でただ一人だ。  
それを理解した俺は、爆発したかのように溢れ出した光の奔流に飲み込まれていった。  
 
 
 
 
「起きて! 起きてよ、お兄ちゃん!」  
妹が寝ている体を激しく揺すっている。  
「んん……あぁ……すまんが、揺するのやめてくんねぇか?」  
「お兄ちゃん!」  
俺が起きるやいなや、今度は思いきり抱き着いてきた。  
「って、おいおい……朝から勘弁しろよ……」  
「え〜だってぇ………ん……お兄ちゃんの匂いだぁ」  
「全く……ちったぁ兄離れしろよな」  
「いや〜。んん〜……お兄ちゃん」  
そういうと俺の胸にさらに自身の顔をこすりつけてきた。  
だが、これが俺の日常であり、当たり前の一日の始まりだ。  
ならば、次に放つ俺の言葉もまた当たり前になった日常だ。  
「おい、さっさと離れやがれ」  
「あ………」  
語気を強めながら、強引に妹を引き離す。  
 
するとこいつは、その可愛らしい顔を、引き攣らせる。  
まるで絶望の淵に追いやられたかのような顔をするのだ。  
いつからこんな顔をするようになったかは覚えていないが、えらくこっちが戸惑ったのは覚えている。  
「んな顔すんなっていつも言ってるだろ? さっさと着替えたいんだよ」  
毎度思うが、まさか演技なんじゃないかと思ってしまう。  
大体、兄である俺にちょいとばかし語気を強められたくらいで、そんな顔をする方がおかしいというものだ。  
 
「ほら、早く出てくれ」  
毎朝のことなので、苦笑しながら言う。  
「うん……」  
妹は、さっきまでの引き攣らせた顔を、今度はしゅんとさせ、うつむく。  
「お兄ちゃん」  
「ん?」  
今度は、再び可愛さいっぱいの笑顔で、  
「おはよう」  
朝の挨拶をしてくる。  
「ああ、おはよう」  
俺が挨拶を返すと、満足げに部屋を出ていった。  
ここまでが、俺の部屋を出るまでの日常。  
これまでずっと続いてきた、代わり映えすることなく続いてきた、儀式のようなものだ。  
 
制服に着替えた俺は、1階のリビングへ降りていく。  
リビングに降りたところで、母親が出迎えてくれる。  
「あら、おはよう。今日はいつもより早いのね」  
「ん、おはよう」  
時計を見ると、まだ7時を少し過ぎたところだった。  
いつもは7時半前くらいに起きてくるから、確かにいつもより早い。  
「まぁ……たまには、早起きもいいかな〜とね」  
「ふふっ、というよりも沙弥佳に早く起こされたから早くなっただけだろ?」  
父が笑いながら、コーヒーをすする。  
「く……まぁそうだけどさ」  
「何お兄ちゃん。言っとくけど私が起こさなかったら、いつも遅刻だよ?」  
そんなことはない、と言おうとしてやめた。  
確かにこいつのおかげで、今まで無遅刻でいられているのは事実だからだ。  
「ま、一応感謝しておいてやる」  
「お兄ちゃん可愛くな〜い」  
やかましい!  
 
 
そんなやりとりをしながら、顔を洗い、テーブルにつく。  
「「いただきます」」  
うむ、今日の飯もうまいな。  
「ん? どうした?」  
隣に座っている妹が、俺の顔をやや上目使いに覗き込む。  
「あのさ……今日のおかずの味、どうかな?」  
「おぉ、いつも通りにうまいぞ。こんな美味いもん食える俺は幸せもんだ」  
すると妹は、とたんに顔を赤らめながら、そっか良かった、とだけ言った。  
だが妹よ。  
いつものこととは言え、兄相手にそんな風に顔を赤らめるなよ。  
その様子を見て、両親は微笑んだ。  
これが九鬼(くき)家の朝だ。  
 
「ごちそうさま」  
「お粗末さま〜♪」  
歯を磨きに洗面所に行く。  
「あ。そうそう、新しい歯ブラシってもうなかったっけ?」  
「何? もうダメにしちゃったの?」  
「なんかすぐダメになっちまうんだよ」  
「あんた少し強く磨きすぎなんじゃない?」  
「んー……そうなんかな。そういうつもりはないんだが」  
母とそんな会話をしていると、妹がやけにそわそわとしているのが目に映った。  
「お、後一本あった」  
新しい歯ブラシを見つけたので、古い方は捨てることにする。  
「あ…! ダメ!!」  
突然妹が声を張り上げた。  
綺麗な声で、発音が淀みないためすごく迫力があった。  
思いがけず両親も驚いた顔をしている。  
「あ? なんでだ妹よ」  
「え? あ……え、えっと……その……えとね……そ、そう! その歯ブラシ私のなの!」  
「そうなのか? いや、まとめて買ってあるんだから別に誰のとかってな――」  
「私のなの!!」  
今日はやけに言い張ってくるな。  
「はぁ……分かった分かった。そんじゃぁ今日まで古いやつ使う。それでいいだろ」  
「ぁ……うん……。……ごめんなさい」  
「謝るんなら最初から言うなって。また別の新しいのに代えればいいんだしな。  
というわけでお母さん、新しい歯ブラシ買ってきてもらうと助かる」  
「はいはい。今日ちょうど病院の日だから、ついでに買ってくるわ。他にも何か欲しいのある?」  
俺は首を横に振った。  
母である九鬼遥子(くき ようこ)は、いつも気丈にしているが昔から体が弱く、  
どこの器官が弱いのか詳しくは知らないが、月に1度医者にかかっている。  
 
「さて、私もそろそろ出勤するとするか」  
7時40分を過ぎた頃、父・真太朗(しんたろう)が出勤の準備を始めた。  
とは言っても持っていく物の確認くらいなものだが。  
「はいあなた、お弁当」  
「おお、いつもすまんな」  
「今日のメインは私が作ったんだよ〜。楽しみにしててね、お父さん」  
「そうか、楽しみだな。……では、いってくるよ。それと今晩は遅くなるから先に寝てなさい」  
「分かったわ。気をつけてね」  
「いってらっしゃ〜い」  
母と妹は、そうやって毎朝父を玄関でお見送りしている。  
歯を磨き終えた俺は、家族のやりとりを見ながら仲の良い家族だとしみじみ思った。  
 
玄関で靴紐を結び終えたところで妹に声をかける。  
「おーい。もう行くぞー」  
「はーい。ちょっと待っててぇ」  
「早くしろよー」  
ったく。  
いつも俺よりも早く起きているくせに、どうして俺より遅くなるかね。  
ま、その辺は女の事情ってやつなんかねぇ。  
「ごめん、お待たせっ!」  
2階から駆け降りてきた。  
見えるぞ。  
「うしっ。んじゃま今日も学生しに行きますか」  
「いきましょ〜♪」  
「「いってきま〜す」」  
ハモる。  
言っておくが、別に合わしたくて合わしているわけではない。  
毎朝思うことだが、こいつ、わざわざ俺のタイミングに合わせてるんじゃないか、と。  
 
 
九鬼沙弥佳(くき さやか)―――俺の2歳年下で、現在中学3年生。  
容姿端麗、成績優秀、性格良しの三拍子揃っている。  
趣味は、料理と適度な運動、歌を唄うことと読書。  
特技は、英語他、外国語の習得、ピアノと美術鑑賞と家事。  
好きなもの、お兄ちゃん。………。  
嫌いなもの、お兄ちゃんを傷つける人と泥棒猫。 ……泥棒猫??  
なんかデジャブが……。  
 
そんな妹と二人揃って登校する。  
俺の腕に抱き着き歩くのにも、もはや慣れてしまった。  
これが恋人ってんなら、なんとも嬉しいことなんだが……。  
 
「なぁ」  
「んー?」  
「お前さ、高校どこ受けるんだ?」  
なかば予想はできるが聞いてみる。  
「もちろんお兄ちゃんと同じ金城高校だよー♪」  
「はぁ……やっぱそうか……」  
「何よお兄ちゃん、私が同じ高校行くの嫌なの?」  
こいつは、俺が少しでも否定的だったり曖昧な態度をとると、途端に不機嫌になる。  
事実、喋り方がいつもののんびりした話し方でなくなり、鋭い喋り方になる。  
抱き着いた俺の腕に力が込められ、少し痛い。  
「おい、手が痛いぞ」  
「だって……」  
まただ。  
またこいつは、すごく淋しそうな顔をする。  
俺は小さくため息をついた。  
「別に。 たださ、お前なら少なくとも金城より2ランクは……もうちょい頑張れば3ランク上狙えるだろ」  
「だ、だってそんなことしたらお兄ちゃん……ゴニョゴニョ」  
「あ? なんだって??」  
「な、なんでもないよ! とにかく私はもう金城って決めてるんだから!」  
「……さいですか」  
「そうよ! それにあそこの制服ってすごく可愛いし!」  
「ん、それに関しては否定しない」  
そう、うちの高校の女子の制服はこの辺りじゃ、ちょっとしたブランドだったりする。  
しかも通っている女の子も、割と可愛い子が多かったりと、男としては最高の環境なのだ。  
 
しかし、もしうちに通うようになったら、学校着くまでずっとこうなんだろうな……。  
そう考えるとまたため息が出た。  
いや、沙弥佳に好かれるのは全然構わない。  
実際見た目は可愛いし、もしこれで妹でなければこの環境は最高だろう。  
とうの妹を横目でちらりと見ると、頬を緩ませながら顔を少し赤らめさせていた。  
どうせ、俺と学校まで腕を組んで登校している妄想でもしてるんだろう。  
もしそいつが実現したら、また何かと友人連中から色々と聞かれるんだろうな。  
面倒臭いぜ、全く。  
 
沙弥佳は、小学生の頃から俺と手を繋いで登校していた。  
おかげで、俺も沙弥佳もガキ大将のいじめの対象だった。  
だけども、俺はそのつど沙弥佳を守った。  
しかし、それがいけなかったのか、歳を重ねるごとに俺への依存が強くなっていったように思う。  
今なら解るが、ガキどものいじめの理由は、対象への嫉妬だとか、対象が可愛いからなのだ。  
そして、異質と思われるようなやつ―――せいぜいこれくらいだ。  
それなりに整った顔をしているらしい(妹談)ので、そのやっかみもあったのかもしれない。  
沙弥佳は、幼稚園に入る前から可愛い容姿をしていたし、学校でも昼休みとなれば俺のクラスに来た。  
俺も俺で、恥ずかしいから来るなと言っても、毎日のようにクラスに訪ねてくる沙弥佳を無下にはできなくなった。  
となると、兄妹でいじめられる要素が揃っているならば、ガキどものそういう対象になってしまうわけで。  
ただ俺自身、わりと好戦的な性格をしていたし、負けると分かっていても、絶対に逃げなかった。  
もし逃げたりしたら、沙弥佳にそのとばっちりがいってしまうからだ。  
 
だが、物事には絶対はない。  
いじめる側にとって、いじめられる側が反旗を翻し、自分達の立場が代わるなど考えもしなかったんだろう。  
確か、俺が小5の時だ。  
ついに俺もキレた。  
残念な事に、あまり覚えていないが恐れおののき、逃げ惑ういじめっ子達の背中だけは覚えている。  
後には泣きじゃくる妹と、地に平伏すいじめっ子達……元いじめっ子達と言った方がいいか……という有様だ。  
冷静さを取り戻した沙弥佳は、これをきっかけに俺が理想のナイトになってしまったらしい。  
それからの沙弥佳は、それはそれはバカップルも恥じる超絶ブラコンになっていったのだ。  
おかげで中学3年になった今では、周りからの好奇の目なんてなんのその、お構いなしに手を組んでくるようになった。  
 
「ねぇ、お兄ちゃん」  
「なんだ?」  
「今日暇? 絶対暇だよね」  
「おいおい、勝手に決めるなよ」  
「用事あるの?」  
「……いや、ないけどな」  
こいつがこんな風に聞いてきた時は、用事があろうとなかろうと結局付き合わされるハメになる。  
もう経験上分かっていることだ。  
だからついつい話のこしを折ってやりたくなる。  
ささやかな抵抗というやつだ。  
「もう! なら最初っから話し折らないでよ。……それで、学校終わったらちょっと付き合ってほしいんだけど」  
「なんだ、買い物か? 買い物なら先週行ったろ?」  
「ううん、そうじゃないの。 えっと……、あのね―――」  
 
 
今俺は一人で駅のホームにいる。  
沙弥佳とは駅まで歩き、そこで別れる。  
いつも駅が見えてくると、淋しそうな顔をするから周りの視線が色々と痛い。  
俺は一人改札を抜け、駅のホームへ出る。  
だが、ここでの注意点がひとつある。  
それは人込みに紛れ込むこと、だ。  
なぜかと言うと………  
チラリとホームの外をフェンスごしに見遣る。  
視線の先に、沙弥佳が立っているのが見える。  
あいつはいつも、俺が電車に乗り込むまでそこにいるのだ。  
もしかしたら、電車が見えなくなるまで……いるのかもしれないが……。  
だが今日は不運なことに、紛れる人垣がなかったため沙弥佳に見つかってしまった。  
「お兄ちゃ〜ん!」  
その美声が、大きな声で俺を呼ぶ。  
いつもより人が少ないとはいえ、さすがにこんな公衆の面前で振り向ける勇気は俺にはない。  
沙弥佳はそんな俺のことなど知る由もなく「お兄ちゃ〜ん! どうしたのー? 私ここだよー!」  
先程よりも大きな声で、俺を呼びやがった!  
頼む後生だ、妹よ……そこにいるのはいい! だが大声で俺を呼ぶな!!  
俺の気持ちなど察することもなく、まだ「お兄ちゃん、 お兄ちゃん」言ってる沙弥佳。  
いい加減周りも妹に応えてやれよ、みたいな雰囲気になった。  
羞恥に耐えられなくなり、俺は仕方なく少しだけ後ろを振り向き、右手をあげた。  
「やっと振り向いてくれたー♪」  
言う沙弥佳の顔は、見る者を引き付けてやまない、最高の笑顔だった。  
 
程なくして来た電車に早々と乗り込み、運よく空いていたシートに座り瞼を閉じ寝たふりをする。  
そうでもしないと、この羞恥に耐えられそうになかった。  
俺は、動き出した電車に揺すられながら、せめて直に呼ぶのではなく、  
携帯にかけてこいと今日こそ言ってやらねばと心に誓った。  
 
昼休みのチャイムが鳴り、皆一目散に食堂へ向かう。  
うちの学校には週に1度、メニュー半額の日があるためだ。  
今日はその日で、教室には殆ど人が出払っている。  
今頃食堂ではいつも以上に人がごった返していることであろう。  
弁当のある身には関係のない話だが。  
 
さて、今日の弁当は、と。  
蓋を開けた―――瞬間に閉じてしまった。  
おいおい、マジかよ。  
もう一度開けて確かめてみる。  
間違いない。  
弁当には見事に、そぼろでハートマークが作られ、『兄らぶ』などと書かれているではないか。  
妹よ……お前はどれだけ兄を辱めれば気が済むのだ。  
「よぉ九鬼ぃ。どうしたん?」  
クラスメイト―――斑鳩孝晶(いかるが たかあき)が声をかけてきた。  
こいつはクラスは当然、学年でも一、二を争うほどのイケメン野郎で、毎月のように女からコクられている奴だ。  
こいつはいつも、いてほしくない時に限って俺の前に現れる。  
ちっ。 なぜいつもタイミング良く…!  
そう、こっちのタイミングを図っているんじゃぁないかと思うほどに。  
「い、いや、なんでもねえよ?」  
「本当か? ならなんで弁当の蓋閉めたん?」  
「見てたのか……お前」  
「たまたまだけどな。 で、どうしたん?」  
「いや……なんて言うかな。ほらよ」  
観念して再度弁当の蓋を開けて見せてやった。  
「うおっすげぇな、これ。『兄らぶ』って…」  
斑鳩はクックックと笑う。  
「すごいなんてもんじゃねぇ。……最近どんどん手が込んできてる気がすんだよ……」  
「相変わらずの超絶ブラコンぶりだな」  
「何をどう間違えたらあんな風になるんだか……はぁ」  
「くくくく。愛されてんなぁ、お兄ちゃん!」  
「やかましい!」  
そしてこいつは、俺の妹を知る数少ない人間の一人だ。  
俺は、そぼろをかきまぜて飯に食らいついた。  
 
一日の終了を知らせるチャイム。  
生徒たちは思い思いに散って行き、瞬く間に教室から人が消えていった。  
俺は妹との約束の時間までしばらくの間、学校で暇をつぶすつもりだった。  
今にして考えてみると、学校では必要最低限の場所にしか行ったことがないことに気が付いた。  
ならば、時間が許す限り校内探険と洒落込もうではないか。  
特に技術棟には、数える程度しか行ったことがない。  
大して何かあるわけでもないのかも知れない。  
だけども、普段寄り付かない場所というのは、自分にとって非日常な空間になるのだ。  
技術棟は4階まであり、普通科以外の科の連中が何やら色々な実験をしたりしている。  
一応念のために、教室が開いてないか確認しながら、一人探険する。  
 
………全くしけてやがんな、この学校。  
結局どの部屋も閉まっていて、何かありそうな雰囲気がある部屋も確認のしようがなかった。  
それと同時にちゃんと管理がなされていることは分かった。  
気付けば、技術棟の屋上への階段の前まで来ていた。  
携帯で時間を見ると、まだ時間があったのでこのまま屋上に行ってみる。  
この学校は丘に立っており、屋上は見晴らしがいい。  
それに技術棟からなら、普段は技術棟そのものが影になって見えない、遠くのビルなんかも見えるかもしれない。  
まぁ、屋上の扉が開いてるかは分からないが。  
階段を1番上まで登っては見たものの、結局扉には錠がおりていた。  
しかし扉の窓からは、遥か向こうに街のビルを望むことができた。  
 
「にしてもここは静かだ……」  
1番上の階段に腰を降ろし、一人ごちた。  
殆ど人が来ないのであろう。  
良く見れば埃が溜まっており、おまけに蜘蛛の巣までしっかりできていた。  
「でも……良い場所だ、ここは」  
今度から何かあった時は、ここで暇つぶしすることにしよう。  
 
「誰かいるの??」  
突然階段の下から声がした。  
階段の途中の踊り場には、いかにも優等生といった風な眼鏡をかけた、知的そうな少女が立っていて、こちらを見上げていた。  
 
 
 

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