それから一週間がたつ。
ストーカー野郎は、今のところ不気味なくらいに姿を見せない。
奴の姿を見たのだって、たった一度きりだが、例のコールタールのような視線を、
ここ数日間、ただの一度も感じなかったためだ。
だがしかし、こういう時こそ油断してはいけないのだ。
この数日間は、言うならば嵐の前の静けさといったとこのはずだ。
計算高い奴のことだから、何か企てる準備をしているに違いないのだ。
この一週間は、こちらを油断させ、陥れるための準備と潜伏期間なのだ。
この期間が後どれほどなのかは分からない。
だが俺には、決して油断はないと思うんだな、ストーカー野郎。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「なんだ?」
「例のあやちゃんのストーカー……最近何も音沙汰なくなっちゃったけど、諦めたのかな?」
沙弥佳の言葉に、綾子ちゃんもこちらをうかがっている。
「まだなんとも言えないが……俺は諦めてなんかいないと思う」
綾子ちゃんは、もしかしたらと思っていたのだろう、その整った眉を眉間によせた。
「あれだけのことをするような奴だ、多分諦めることはないはずだ」
時間は遡るが、俺は誓いを立てた翌日、休日ということもあり青山を引き連れ、綾子ちゃんのうちに再び訪れた。
本格的に家の中にあるであろう、盗聴器や例のカメラを探すためだ。
青山は、俺にはよく分からない道具を使い、盗聴器を探し始めた。
沙弥佳と綾子ちゃんは、初めて会った青山に戸惑いはしたが、その内に打ち解けたようだった。
沙弥佳も綾子ちゃんも、元々人を外見だけで判断しないため、青山の仕事を興味深げに見ていた。
結果、家の中には、ほぼ一部屋に一つから二つもの盗聴器がしかけられていた。
例のカメラも、綾子ちゃんの部屋は言うに及ばず、二階のトイレや洗面所、脱衣所と風呂にあったのだ。
しかも、それらはうまくカムフラージュされ、青山の言うところでは、
完全に新しい物に取り替えられていたのである。
そして、その新しく取り付けられた物に、高性能カメラを仕掛けたのだ。
全く……あまりの徹底ぶりに俺はもはや、呆れてものも言えない。
当然、綾子ちゃんはそれらが見つかっていく度に、顔面を蒼白とさせていったのは、言うまでもない。
さすがの妹も、最初のように興味津々とは行かなかった。
綾子ちゃんの家を出て、再びうちにもどってきた。
もちろん、青山も一緒だ。
今度はうちを、例の機械を使って探索してもらう。
綾子ちゃんがうちに来てから、そういったものが仕掛けられていないと限らない。
それに、うちは綾子ちゃんの家に比べ、比較的侵入しやすい作りなのだという。
なるほど、ならばうちにもそれがないかどうか確かめてみたくなったのだ。
うちは昼間は、誰もいなくなりがちだ。
それを考慮すれば、しておくに越したことはない。
案の定、早速いくつか盗聴器がしかけられていた。
数そのものは、綾子ちゃんの家の比ではなかったが。
カメラも一応探してみはしたが、見つけられなかった。
カメラは、かなり徹底されたカムフラージュが施されていたことを考えると、
そう簡単に、取り付けられるものではないと言う。
青山は、一通りの仕事を終えると、俺に機械の使い方を教え、帰っていった。
俺は帰り際に、移動中に青山の姉貴が、なぜか事あるごとに視界に映っていたことを告げると、
綾子ちゃんに代わって、今度は青山が顔を青くしていた。
「……でも、とりあえず今すぐにでも、奴が何か仕掛けてくるとは思えないけどな」
二人を少しでも安心させようと言うが、そんなのは気休めに過ぎないのは分かっているつもりだ。
二人を学校に送り届け、俺も高校へと向かう。
青山に依頼した件も、まだ全容は掴めていないし、奴も何も仕掛けてこない。
正直、八方塞がりと言った状態だ、どうしようもない。
(とにかく、今は青山の結果待ちだな……)
俺は小さくため息をついた。
放課後、出ようとした教室で、青山によって呼び止められた。
「九鬼くん。ちょっといい?」
この数日、青山は人が変わったように思う。
まず、喋り方が前のようにボソボソとしたものではなくなった。
依然、小声ではあるが。
どうも聞くところによれば、彼女ができたということだった。
最初は、その話を聞いて羨ましいと思ったりもしたが、相手のことを聞いてゾッとした。
ショートパンツを履いた、溌剌とした年上のお姉さんだったという話だったからだ。
この先、こいつがどういう人生を歩むかは知らないが、決して穏やかなものではないと悟った。
「ん? おお……ここじゃちょっと無理そうな内容か?」
青山は頷いた。
今、掃除当番達が教室を掃除し始めようとしていたので、例の技術棟へと赴いた。
「ね、ねぇ……ここって入っちゃいけないんじゃなかったっけ?」
「まぁ、本当はな。でも結構大丈夫みたいだからさ」
俺達は、技術棟の屋上への扉がある場所まできた。
それにここなら、気兼ねすることなく話せると思ったからだ。
「例の件のことだろ? 話を」
聞かせてくれ、とまでは言えなかった。
「あなたたち、何してるの?」
俺達は、驚いて階下に目をやった。
そこにはあの女、藤原真紀があの時と同じく、そこにいた。
「とりあえずあのカメラのことだけど……」
あの後、藤原真紀に屋上の扉を開けてもらい、屋上で話を聞くことになった。
「どうもある大企業が依頼して作ったものらしいんだ」
「ZONYとかか?」
青山は首を横に振った。
「分からない。それ以上は無理だったみたいだから。でも、逐一監視する目的で作られたのは、間違いないよ」
「使ってみたのか?」
「試しにね。はっきり言ってただの監視カメラのレベルじゃないけどね、あれは」
青山が言うには、昔の劣化したビデオテープから、一気に最新のブルーレイにまで飛躍している程だと言う。
「……何か別の目的があって作られたってことか?」
「分からない。でも、友達も同じことを言ってたよ」
「まぁいい。問題はどうしてそんなものを、何台も奴が持ってたかってことだ」
「いくつか推測はたつけどね。そもそも、その依頼した企業の人間だったとか」
「……もしくは元々非合法のものを売りさばく売人、か」
「それもありうるね」
「本当に自分の商品なら、売らずにあんなことに使ったりするものかな?」
「どうだろ? でも、九鬼くんの言うストーカーなら、ないとも言えないかも」
確かにそうだ。
奴は、邪魔になった俺を殺そうとしたのだ。
利益うんぬんなんてものは、どうでもいいのかもしれない。
もちろん、それは推測の一つに過ぎない。
奴は、ただの客の可能性だってある。
「奴が客の可能性もあるよな?」
「ないとは言えないね。今だったら所謂株長者っていう人種もいるしね」
「なるほど。株で稼いだ金で、趣味の悪いことにつぎ込んでいるわけだ。全く、金遣いのいいこったな」
「それに、あれはかなり法外の値段がするみたいだから、一台だけならまだしも、
個人で何台も所有するには、相当なお金が必要なのは間違いないよ」
青山が数秒考えて、口を開きかけたとき、真紀が口を挟んだ。
「それはどうかしらね」
「なんだ? ……部外者が口挟むもんじゃないぞ」
「そうね。でも考えが纏まらない時こそ、第三者の意見も取り入れるべきじゃない?」
「あんた、話聞いてたのか」
「別に聞きたくて聞いてたわけじゃないわよ。たまたま耳に入ってきていただけ」
青山は、どうもこの女が苦手のようだ。
俺だって正直、あまり好きではない。
「……そうかい。で? その第三者の意見ってのを聞かせてくれよ」
「あら、聞く気になったの?」
「あんたが言い始めたんだろ。さっさと言いなよ」
「もう。せっかちね。まぁいいわ。あなたたち新聞は読む?」
「一体なんの話だ。俺はそんなことこれっぽっちも聞いてないぞ」
「いいから。新聞は読む?」
「ちっ……読むけど、それがどうした」
青山もそれに肯定する。
「新聞って、いかに早く、いかに正確に情報を伝えるかというのが、役割よね」
俺と青山の顔を交互に確認して、話を続ける。
「でもね、その情報がもし必ずしも本当でなかったら? 起こった事柄が本当でも、
その内容が歪められていたら? ……そう考えたことはない?」
一体何が言いたいのだ、この女は……。
「誰かに意図的に、情報操作されてると言いたいのか?」
「まぁ、そうなるかしらね」
真紀は、俺の目を見据えながら言った。
「……ない……とは言えないと思う」
「おいおい。青山はこんな女の言っていることを、信じると言うのか?」
「もちろん、全て信じているわけじゃないけど、例えば内容をぼかしたりなんかはあるかも」
「内容をぼかす………?」
「うん。こういった情報操作なら、現代に限らず、昔から行われてることだしね。歴史だってそうだよね?
実際には違ってもその時代の権力者によって、良いように歪められてる部分って結構あるからね」
「た、確かにそうだが……」
かと言って、それを今当たり前のように言われても俄かに信じがたい。
「それで君は……それが今回のことと何かが関係してると?」
青山が、遠慮しがちに真紀に問い掛ける。
「つまり、入手方法よ。必ずしも売人だとか客とは限らないでしょ?」
「なんだそれは? だとしたら後は盗っ人くらいしか考えつかないぞ」
「ちゃんと分かっているじゃない」
真紀は、薄く笑いを浮かべた。
「おいおい、だとしても、どうやって盗み出すってんだ。第一、それと新聞の話がどう繋がってるってんだ?」
「さあ? それは調べないと分からないわよ。あくまで他にもやり方があるんじゃないって話でしょ」
……本当にこの女とはやりづらい。
しかし青山は、手を顎にあて、何か考えているようだ。
「一般にはで手に入れられない…盗っ人…情報の隠蔽…」
……なんなんだ、一体。
青山は深く考え出すと、人の呼びかけにも反応しなくなる癖があったようだった。
俺が何度も呼びかけても、反応しなかったからだ。
しばらく一人考えていた青山が、ふいに俺に話しかけてきた。
「九鬼くん。綾子ちゃんがストーカーされるようになったのっていつ頃から?」
「俺も詳しくは知らないな。それと何か関係があるのか?」
「ちょっと調べてみようと思って。帰ったら綾子ちゃんに聞いてみてくれない?」
「……何だかわからんが、聞いておいてみよう」
「ありがとう、大体でいいから。とりあえず分かったら連絡してほしい」
「分かった」
真紀は何か気付いているのか、ほくそ笑んでおり、青山は青山で、何を考えてるのかさっぱりだった。
俺一人だけ理解していないのは、なぜこんなにまで疎外感を感じるのだろう……。
青山達と話しているうちに、時刻はすでに16時を大きく回っており、中学校に着く頃には、17時を過ぎそうだった。
「もしもし、沙弥佳? 悪い。今からそっちに行くから、もうしばらく待っててくれ」
『もうお兄ちゃん遅いよー』
「悪かったって。そん代わり、帰りにうまいもん奢ってやっから」
『本当!? だったらキシマイ堂のパフェがいいな〜』
「よりによってあそこのかよ……あそこ美味いけど、高いんだよな……」
『でもお兄ちゃん、おいしいの奢ってくれるって言ったよね?』
「い、いや、そうじゃなくて、別にあそこのじゃぁなくても良くないかって意味だ」
『私と綾子ちゃんはキシマイ堂のパフェが食べたいのです』
「綾子ちゃんもって……絶対口からでまかせだろ……」
『それはどうかな〜? はい』
『あ、あの……わ、私もキシマイ堂のパフェ食べたいです……』
なんということだ。君もか、綾子ちゃん……。
『へっへっへ〜。2対1だね〜お兄ちゃん!』
「くっ……後で覚えてろよ」
俺は妙な敗北感を覚えながら、電話を切った。
現在17時半を回ったところだ。
俺達は今、キシマイ堂というカフェにいる。
この店は、カップル達の間で有名な店で、なぜか特定のカップルがここで特定の物を頼むと、
既成事実を作ることができるらしいのだが、何の既成事実であるかは、俺は知らない。
まぁ、良くあるジンクスというやつなんだろう。
そして、なんとあの青山の姉貴がここでバイトしていたのには、驚いた。
接客の際、ありがとう、あなたのおかげです、なんて意味深なことを言われたら、なおさらだ。
本能が深く追及するなと告げていたので、何も言わないでおいたが。
「えへへ〜いただきま〜す♪」
「あの、九鬼さん、いただきます」
「どうぞ。いただいちゃってくれ」
二人は、特大パフェを二人で食べるつもりらしい。
はっきり言って、俺には例え二人でだとしても食べ切れる自信はない。
まぁ、それくらい大きい。 まさに特大である。
目の前の美少女二人は、そんなのどこ吹く風と言わんばかりであったが……。
とはいえ、これで聞きにくいことも、聞きやすくなると言うものだ。
「なぁ、綾子ちゃん。ちょいと聞きたいことがあるんだが」
「はい?」
綾子ちゃんは手を止め、体ごとこちらに向けた。
当然一旦スプーンを置き、口を拭いている様は、とても優雅で一分の隙もない。
「綾子ちゃん、ストーカーされているように気付いたのっていつくらいか覚えてるか?」
「え? ……そうですね。3、4ヶ月程前からでしょうか……」
「4ヶ月前か……すまん、ちょっと電話してくる。すぐに戻るよ」
「はーい。いってらっしゃーい♪」
……妹よ。もう少し、綾子ちゃんを見習ってくれ。
俺は、携帯を取り出しながら店内を出る。
『……もしもし』
「よぉ。今聞いてみたんだが、気付いたのは4ヶ月くらい前かららしい」
『4ヶ月前か……』
「なぁ、お前さん、さっきもそんなだったが、一体何を考えてるんだ?」
『うん、ちょっとね。まだ確信できていないし、なんとも言えないけど、ストーカー正体が掴めるかも』
「ストーカーされてるのに気付いた時期がそれに必要だってのか?」
『うん。正確には、その期間前後に、ニュースで何か起こってないか調べたくて。
それに今回の事件は、結構根が深いような気がしてね……』
正直、そいつは考えすぎなんじゃないかと思うが、口にはしなかった。
「分かった。後何か聞いておかなくちゃならないことはないな?」
『特にないよ。結果はすぐにでると思うから、明日にでも学校で』
「相変わらず、仕事が早くて助かる」
むしろ、早すぎのような気もするが、それは本当だ。
「それじゃぁ、明日、詳しく聞かせてくれ」
『分かったよ。それじゃあまた明日』
俺は電話を切って、店内に戻って行った。
「よぉ青山。調べついたか?」
翌日の放課後、俺は青山を技術棟の屋上に呼び出した。
不本意ながら、藤原真紀も一緒だ。
「うん。やっぱり持つべきは友だね。かなり面白いことがわかったよ」
青山が、持つべきは友だなんて言うと、笑えてしまうのはなぜだろう。
「ふむ。どんなことが分かった?」
「まず、もう5ヶ月くらい前の話なんだけど、K県Y市でトラックによる交通事故があったんだ。それも単独事故」
「単独事故?」
「もちろん、事故そのものは決して珍しいものではないんだけど……中身がね」
「なんだったんだ?」
「うん……当時の記事には、デジタル機器としか書かれていなかったんだけどね……ここからが、
友達に頼んで調べてもらったんだけど、どうもただのデジタル機器ではなくて……」
「あのカメラだって言うのか?」
つい力んでしまい、凄んでしまった。
青山は、ややためらいがちに頷く。
「確証はないよ。でも、最新のカメラであったことは間違いないみたい。
それもかなり小型のね。話を聞く限り、それしか考えられないんだよ」
青山が続ける。
「そして、そのトラックの運転手が謎の失踪をとげてる」
「行方不明?」
「おかしいでしょ? しかも大した記事にはなってないんだよ。テレビにもなっていないし、当時の記事も、
扱いがすごく小さかったし。事故ってだけで、少なくともその日のニュースくらいにはなるはずなのに」
言われてみれば確かにそうだ。
「確かにおかしな話だ。おまけに運転手が行方知れずときたら、普通ならワイドショーのいいネタになるはずだしな」
「ワイドショーどころか、翌日のトップニュースだってありうるよ」
青山の言葉に、俺は頷いた。
なぜかその時、漠然と俺に不安がよぎった。
「それにね、事故の対応も凄く不審なんだよ」
「どういうことだ?」
「普通事故があれば、必ず警察が来るよね?」
「ああ。昔、自転車に乗ってるときに原付きにぶつけられたことがあったが、その時にだって来た」
「そう、よほど小さなものじゃない限り、警察は来るものなんだけど、この時は、
警察の前に別の人達が来て、対応したらしいんだ」
「別の人達だと? なんなんだ、その別の人間ってのは」
「残念だけど、そこまでは……ただ、トラックの中身と運転手を探してたのは、間違いないみたい。
その人達が帰って、警察が来たみたいなんだけど、どうもその人達が警察に連絡させなかったみたいなんだ」
それは珍妙な話ではないか。
まるで警察が来る前に、撤収しなければならない理由でもあったのか?
「その事故のあった近辺に住んでる人達に、友達がわざわざ聞いてくれたみたいでね、
この辺の話は、信憑性を持っていいと思う。
おまけに、そのトラック、どうもタイヤが破裂したみたいになってたって話だよ」
「なるほどな。でもな青山。そいつと今回のストーカーとどう結び付くというんだ?」
「うん……実はね、九鬼くんからもらったカメラから指紋が出てきたんだ」
「まさか本当に、指紋まで特定したのか?」
「あ……ま、まずかったかな、やっぱり」
「いや、そんなことはない。ただ、あまり乗り気じゃぁなかったろう? だからな……」
そう、まさかこの青山が、そこまでのことをしてくれるとは思わなかったのだ。
「……で、データベースにアクセスしてみたんだけど」
「何かひっかかったのか?」
「………うん」
青山が、妙な間をおいて肯定するが、何かが納得いかないといった風だ。
「……その、はっきり言うと……その指紋の人物はすでに、死んでる………みたいなんだ」
「………なんだって?」
多分、この時の俺は、間抜けな顔をしていたことだろう。
青山が口にしたことは、それほどに予想だにしなかったことだった。
その男の名は、蒲生義則(がもう よしのり)というらしい。
「おいおい、まさかお前は幽霊がストーカーしているとでも言いたいのか?」
「まさか。僕は幽霊は信じているけど、それとこれは全く別と思ってるよ」
だとしたら、最近やつが現れないのももしや死んだからなのか?
しかし、こうも都合良くこのストーカー野郎が死ぬだろうか。
「そいつが死んだのはいつかは分かるか?」
「もちろん。すでに1年以上前に死んでるよ」
もしやとは思ったが、やはり違ったようだ。
だが、この蒲生という男が何かしら関わったと思われる代物が、こんな犯罪に使われていたのだ、
こいつは、色々と調べてみる価値はあるようだ。
「………確か、指紋というのは3〜4年なら、残ると聞いたことがある。
そいつが最後に触ったのが1年前だとしたら、何か関わった可能性は?」
「ないとも言えないね。でも結局は、なんの打開にもならないかもしれない……」
「……そうだな、お前の言う通りだ」
結局は、直にあの野郎を捕まえないとなんの意味もないのか。
ここで今まで黙っていた真紀が、口を開いた。
「……あなたたち、さっきからすごく面白いこと言っているけど、
単純にその人が関わった人を調べれば良いと思わないの?」
「「あ………」」
俺と青山は、そんな単純なことにも気付かないほど、冷静ではなかったようだ。