バラの香りの中、一人の魔族の女が佇んでいた。
スラリとした長身、どこか気だるげな雰囲気を漂わせている。
髪は肩を少し過ぎた辺りまで伸びた、しなやかな銀髪のセミロング。
美しさと、可愛らしさの混じりあった風貌。澄んだ紅い…瞳。
黒い簡素なドレスに身を包み、なにやらバラの手入れをしている。
なにやら気配を感じ、ゆっくりと振り向く。花開く満面の笑み。
男「やあ、ここにいたのか…」
魔族の女「フレデリック!!」
ドレスの裾が乱れるのも構わず、魔族の女は男の元に駆け出す。
その勢いのまま、男に飛びつく魔族の女。男の方はどうやら人間だ。
しばし戯れる安らぎのひととき、そして二人は唇を重ねた……。
バラの香りが二人を包んだ…。甘い…、香り……。
夢を観ていたわ…。遠い昔の夢…。還らない日々…。
そして私は忘れる…。そして思い出す。その繰り返し。
緩慢な動作でカーミラは椅子から立ち上がり、紅茶を煎れる。
ダージリンの香り。テーブルに戻り、暫し物思いに耽る。
向かいのドアが開き、使い魔のBBが姿を現す。
BBは無口だが良く気が利く。使い魔というよりは友人に近い。
BB「あるじ、メデゥーサ様から手紙が届いております」(念話)
カーミラ「そう…、ありがとう。下がっていいわ」
手紙に一通り目を通すと、ため息をひとつ付き、返事を書く。
暫くは退屈な日々を過さずに済みそうだ。そう思いながら……。