〜〜第二話 即位と試練〜〜 
 
「へいほはひふ?」 
「飲み下してから言え、はしたない」 
 呆れた顔でサーラ様が俺をたしなめる。 
 あの衝撃的な未知との遭遇から三日。岩と砂の荒野を自転車で進み、やっとたどり着いた大きな街。サーラ様も俺も疲れ果てていて、観光するような余裕もなくすぐ宿を取り風呂を浴びて、今は卓上にならんだ肉にかじりつきながらやっと人心地ついた所だった。 
 っていうか、乾いてない食事がこんな美味いもんだったとは。羊のスペアリブうまー!エールうまー!スイカうまー!うう、荒野じゃあ塩漬け肉とかしかなかったもんなあ・・・・・・。 
 まあそんな至福をかみしめてながら、今後の大体の方策を話始めていたところにサーラ様から「兵を借りる」と言う話が出たわけで。 
「んっ、ゴク・・・・・・んなもん簡単に貸してくれるんですか?」 
「一応ここの王家とは姻戚関係があってな。む、そこの豆パンとってくれ」 
「はい、サーラ様。いや、利益もなしに軍をあげる為政者はいないでしょう。あ、ジョッキ空いてますよ」 
「いやエールはもういい。属国が一つ手にはいるとなれば充分な利益だと思うが?」 
 はい?属国?唐突に何を言うかな。と、おれが言葉を失ってる間にサーラ様は給仕のおねーちゃんを捕まえて、蜂蜜酒を頼んでいた。・・・って、何でそんな平然とっ!? 
「いや先方はともかく、サーラ様はそれでいいんですか?」 
「仕方なかろう、乱世では負けた方が悪いのだ。取り返そうとする事自体が逆恨みのような物だかからな」 
 しれっと、本当に平然と語れるなあ・・・・・・。これが戦国って奴なのか?さばさばしているって言うか、あまりにも冷酷すぎる様な気が・・・・・・。 
「・・・・・・だが、それでも恨みは恨みだ。必ず晴らす」 
 
 ざわ・・・・・・ 
 
 ぼそっと小声で、酒場の喧噪にかき消されず俺の耳に届いたのが奇跡のような小声でつぶやいたその時。酒場の声が静まった。俺も含めた全ての客が感じたのだろう。鈍色の感情を。 
 『蛇に睨まれた蛙』 
 このことわざ、大嘘だ。睨まれなくても充分息が止まる。 
 少しずつ酒場に音が戻り始めた。何が原因だったのか探し始めて・・・って、やばくないか!? 
「すんませーん!エール追加ー!!」 
 とっさにことさら明るい大声で注文を入れた。その声を皮切りに酒場にまた喧噪が戻る。死を覚悟したことを錯覚だと思いこみたいのか、さっきより騒がしくなったかもしれない。 
 視線を前に戻すとサーラ様がため息をついた。 
「すまんな、気を使わせた」 
「いや、いいですよ。・・・・・・むしろ今更の話ですけど、ここでこんな事話してる事自体まずくないっすか?」 
「なに、隣のテーブルの話など気にする奴はおらんよ。・・・・・・先ほどのような悪目立ちしなければな。・・・・・・と、蜂蜜酒は私だ。エールはそっちのヒトだ」 
 顔だけは平然とサーラ様が酒を受け取る。自戒しているようにも平静を装うとしているようにも見えたけど。考えてみれば、つい先日に家族を失ったばっかりのはずだよなあ。冷静な方がおかしいか。 
 
 必死に我慢してるのか。 
 
「いや、しかしこのリブうまいっすね」 
 あからさまな話題の変え方だったが、サーラ様は乗ってきてくれた。 
「そうか?少し胡椒が利きすぎだと思うが」 
「いやいや、ぴりっと来た所でこう・・・酒をあおるのがいいんですよ」 
「そんな物か?」 
 二人同時にスペアリブに手を伸ばす。二人の指先が重なった。 
 皿の上に残った最後の一本の上で。 
 視線が絡みあう。・・・かなり別の意味で。 
「・・・・・・主人は奴隷をちゃんと喰わせてやるものですよね?」 
 出来うる限り理性的に主張する。 
「こう言う時は奴隷が主人に譲るものだろう?」 
 努めて平静な口調でサーラ様がそう言う。 
「サーラ様、胡椒利き過ぎとか言ってませんでしたっけ?」 
 ド ド ド ド と書き文字を背負って立つ。テーブルが揺れた。 
「いや、お前のおかげで味に目覚めた。礼を言うぞ」 
 ゴ ゴ ゴ ゴ と書き文字を背負ってサーラ様が立つ。椅子が倒れた。 
 もう、二人の間に言葉はいらない。二人とも一撃で決める覚悟を右手に込めて、腰だめに構える。 
 そして、全てを初めて終えるための合図が二人から同時に放たれた。 
 
 『最初はグー!』 
 
 ん・・・ここどこだ・・・確か・・・。ああ、飯の後、部屋に戻ったらそのまま二人とも倒れ込むように寝ちゃったんだっけか。恐るべしまともなベッド。つか、恐るべし疲労。まあ、一人旅のときのアメリカのモーテルでも似たような寝方だったけども。 
 簡素な木の板の窓は空いている。まだ空は暗く、仄白い月の光が窓から差し込んでいた。・・・・・・閉めずに寝ちゃったか。3階だし泥棒とか大丈夫だよな。 
 あ、そうだサーラ様も一緒だったはず・・・右半身の重いのって・・・ああ、やっぱり。 
 サーラ様はそこにいた。俺の大して厚くもない胸板にすがるような形で寝ている。・・・・・・その姿勢でよだれ垂らすの止めてくれません?うう、でも、起こすのも気が引けるし、無防備な寝顔はかなり可愛いし。なんだろう、子猫が膝の上で寝てしまって動けない気分な感じが。 
「・・・ん、父上、母上、姉様方・・・・・・」 
 寝言・・・・・・か? 
「・・・・・・必ず、仇は・・・・・・」 
 俺の胸に添えられた手が軽く爪を立てた。痛い、だいぶ痛い。つか、力がだんだん強くなってくるんだけども・・・・・・涙目って反則だよな、くそ。 
 サーラ様の頭を左腕で軽く抱え込んで、右手で背中をなで下ろす。 
 多分、聞いてあげる事は出来ないんだろう。彼女は意地っ張りだから。できるはせいぜい・・・・・・八当たられるぐらいか。 
 それでもいいか。 
 諦観と、他の何かを噛みしめながら背中をなでる。胸に突き立てられた爪からはだんだん力が抜けてきている。服越しに少し血が滲んできたけど・・・・・・まぁ、いいか。 
 サーラ様の背中を服越しに撫でる。飯の前に風呂(と言ってもお湯の入った桶だったが)に入った後ゆったりとした麻の貫頭衣に着替えているので素肌には触れられないが、指先にはざらざらとした鱗の感触が布越しに感じられた。 
 やっぱ、体温が人間より低いんだよな。サーラ様だけなのか、それともヘビ全てなのかどうかは知らないけど。まあ、不快になるほど低くはない。ちと顔色悪い奴ぐらいの感じか。冷えて固くなってるって事もないし、むしろ触れている所から感じるサーラ様の身体は弾力を残しつつ柔らかく・・・・・・柔らかく・・・・・・。 
 いかんな、自分でも珍しいぐらいにメロディアス且つハードボイルドな感じでいたのに。「美少女とぴったりとくっついている」事態を思い出したとたんに暴れん坊将軍ですか、我が愚息よ。初めての日以来ちゃんと我慢できていたのに、何で今・・・・・・。 
 今だからか。昼は焼け付く太陽から避難してじっと堪え忍び、夜は冷たい風の中走り続ける。んな状況じゃあ、そっちの方まで余裕がまわらねえよなあ。いや、確か「疲れ魔羅」というものがあった様な気もするな。・・・・・・でも、それで体力使ってたら多分死んでたよーな。生存本能が種族維持本能を押さえ込んだのか?いや、種族維持は生命の本義であるからして自らのジーンを残そうとする行為がより上位に来るはず。つまり、生存<種族維持の不等式が成り立つはずだが。まて?そもそも人間は行動の動機にミームが大きく関わる生き物のはずだ。ゆえに「フェティシズム」という後天的な情報が必要な性的興奮の形態が存在するわけで。 
 ・・・・・・本格的にやばいなー。なるたけ学術的な論理的思考をしてるのに、その思考のBGMがあんときのサーラ様の声なんだもんなー。おまけに思い出そうとしてないのに彼女の裸の姿が浮かんでくるのはなー。つうか、サーラ様、色々反則過ぎだろ。たとえばこのぷりぷりと引き締まったお尻とか・・・・・・。 
 いかん、まるっきり意識しないで手がお尻まで伸びてる。力の限り揉み回すなんてことはしてないけど、さわさわとその感触を楽しむように撫でてる。・・・・・・満員電車の痴漢のよーないたずらを意識しないでやってる俺ってば、人としてかなりどうなんだ。凹む。 
 ・・・・・・つーか、サーラ様、まだ目を覚まさないのか?少しずつ息が荒くなっているような気も・・・。でも、もう少しぐらい大丈夫だよな・・・・・・あ、背筋撫でると少しぴくってする・・・・・・感じてるみたいだ・・・・・・お尻の方、もっと奥の方触ったら起きるかな。 
 体温が上がってる。俺のかサーラ様のかは解らないけど。両方・・・だよな、多分。 
 熱い、様な気がする。触れた所が服越しでもすごく熱い。サーラ様の表情も熱に浮かされたようになってくる。寝息から、吐息に、熱い息が俺の胸にかかる。 
「ん・・・・・・サト・・・ル」 
 寝ぼけた声でサーラ様が目をうすく開けた。焦点の合わない瞳で俺を見ると腕の首に回してきた。 
「・・・・・・・・・・・・き・・・・・・・・・・・・」 
 え?ん!気付くとサーラ様の顔が眼前まで来ている。唇に柔らかい感触。サーラ様からキス!?うわ、あまい。サーラ様の唾液が甘い、唇が甘い。舌を入れるとおずおずと舌が迎えてくれる。ぎこちなく絡んでこようとする舌もあまい。サーラ様が甘い。 
 たっぷり一分ぐらいかけてキスをしてから離れる。唇の間に白い糸が名残惜しそうに残って消えた。サーラ様の瞳はだんだんと開いてきて・・・・・・。 
「きゃああああっ!?」 
 おぶっ!?は、肺に痛撃が・・・・・・。な、何でいきなりここで俺を突き飛ばすかぁ!? 
「ちょ、ちょっとまて!!どこだ、どこら辺からどこまでが夢だったんだ!?」 
 こ、呼吸が戻るまでちょっと待って・・・・・・。 
「早く言え〜〜〜!全部夢だと言え〜〜〜!」 
 ゆ、揺さぶるな〜〜〜〜! 
 
 三分ぐらいかけて、やっと呼吸とかいろいろそう言った物が落ち着き話せる状態に・・・・・・刀の柄にさりげなーく手を伸ばすのは止めていただけませんか?サーラ様。 
「で、夢なんだな?」 
「はいっ!?な、なにがでしょう!?」 
「私が・・・・・・そのなんだ・・・・・・お前に・・・その・・・きすしたとか・・・・・・す・・・って言ったとか」 
 急に語尾が小さくなるサーラ様。っていうか、その恥ずかしがる姿は無駄に萌えるんで何とかなりませんか?・・・・・・つか、今なんて言った?す? 
「どうなんだっ!?」 
「はひっ!そ、それはですねえ・・・・・・」 
 逆ギレたサーラ様をなんとか刺激しない言い訳を考えないと・・・・・・ええと、 
「サ、サーラ様からはしておりません!確かです!」 
「から『は』?」 
 ・・・・・・はっ!?なんすか、そのジト目は?しまった!もしかして、俺、他人の爆弾で自爆した!?い、いかん、どうしよう。・・・・・・ええい、引いてダメなら押してみろ!ただし、正面じゃなくて搦め手から!出来る限り真剣な表情つくって・・・と。 
「はい・・・・・・サーラ様があまりにも綺麗だったので」 
「えっ?」 
 虚をつかれたような表情をしたサーラ様の手に、さりげなく手を重ねる。自分でもすごい恥ずかしい台詞を言ってるなーと思いつつ、顔を寄せる。互いの吐息を感じる距離まで。 
「その肌が」 
 そう言って重ねた手から腕をなで上げていく。さっきまで重なっていたせいか、サーラ様の体温はいつもより少し高い。・・・・・・柔らかい。・・・・・・ああそうだ、台詞の続きを。 
「その瞳が」 
 小さい身体を抱き寄せて、瞳をのぞき込む。少し潤んだ縦割れの瞳に俺の顔が写っている。・・・・・・なんで、俺、こんな熱っぽい顔してるんだ?演技だろ?あれ?何の演技だっけ? 
「サーラ様が、あまりにも可愛かったので」 
「あ・・・・・・」 
 ゆっくりと顔を近づけていく。そしてそのまま、軽いキス。舌を入れたりはせずに、唇の柔らかさだけを伝えあう。ああ、すごい。こんな軽いキスなのに、なんでこんな興奮するんだ。あれ?何でキスしたんだっけ?まあいいか、どうでも。幸せだし。 
 ふと、二人示し合わせたように唇を離す。視線が絡む。視線で熱が伝わる。 
「こ・・・・・・こんな・・・無礼を働いて・・・いいと思っているのか・・・・・・」 
 熱い吐息混じりにサーラ様が叱責する。 
「ダメです・・・・・・けど・・・どうでもいいです」 
 意識しないで言葉が口から滑り出てくる。頭のどっかに残っていた冷静な部分がそれを止めようともせずに見ていた。 
「・・・・・・私に・・・背けば・・・・・・首を刎ねるぞ・・・・・・」 
 熱い。身体の中が・・・いや、もっと奥が熱い。性衝動と感情が魔女の大釜のごとくに煮立ってる。 
「首なんかどうでも良いです。サーラ様と・・・・・・繋がりたい」 
 押し倒す。力の抜けた肢体を柔らかいベッドが受け止める。 
「あ・・・や・・・」 
 微かな抗議の声を上げるサーラ様を無視して服を剥いでいく。簡素な服をはぎ取れば、サーラ様の細くしなやかな肉体があらわになる。視線をそらして胸を隠す仕草が可愛い。 
 恥ずかしがるサーラ様を膝立ちで見下ろしながら、俺も服を脱ぐ。ずっと勃ったままだったそれが勢いよく外に出る。あまり大きさには自信がないが(アメリカを旅して思ったが白人と黒人の大きさはいろいろ反則だと思う)今はびきびきに固くなってる。 
「サーラ様、ほら」 
「え・・・・・・。っ・・・・・・・・・・・・!!」 
 腕を隠していた両腕から左手をとって、俺のに導く。少しひやりとしてごつごつとした手のひらの感触が、理性をえぐるかのように伝わってきた。 
 サーラ様はまるで静電気にでも触れたように慌てて一度は手を引っ込めたが、もう一度誘導すると今度はおずおずと軽い力で握った。 
「こ、こんなものが・・・私の中に・・・わ、熱い・・・・・・」 
 うわずった声を漏らしながら、感触を確かめるようにさわさわと触り始める。うぉ・・・気持ちいい。 
「あっ!・・・うう・・・・・・サ、サーラ様」 
「なっ!?あ、だ、大丈夫か?痛かったのか?」 
 俺の出した声にびっくりしてサーラ様が手を離す。う、ちと残念。・・・・・・でも、あのままだと出てしまったかもしれないし、これでいいか。 
「大丈夫です。思ったより気持ちよかっただけなんで」 
「そ、そうか。なら良かった、うん」 
 そう言ってまた俺の股間に手を伸ばそうとする。・・・・・・って、まて! 
「うわ!ち、ちょっと、サー・・・・・・うっ!うあっ!」 
「す、すごい。固くて、火傷しそう」 
 サーラ様が先ほどより力を込めて俺を握り半身を起しかける。ああ、つい最近まで処女だった娘に手コキさせてる。ぎこちないけど、それがまたランダムに当たって。 
「こんな、形をしてる・・・おおきい・・・・・・」 
 いつの間にか俺と差し向かいで膝立ちになっているサーラ様。取り憑かれたような瞳の色で俺をしごきあげる。もう、尖端からは先走りが漏れ始め、手の動きにあわせて粘った水音がしていた。い、いかん!このままだとマジにいかされる!それで良いのか?俺!『別にいいけどー、彼女のも触ってあげないとー、かなり不公平じゃーん?』。心の声よ、ナイス回答! 
「ひゃあぁあんっ!?」 
 そっと、股間に手を入れるとサーラ様の口から高い声が上がる。そこはまだ閉じていたけど、指を引っかけて開くと堰を切ったように愛液が垂れて俺の手を濡らした。 
「いっあああ!?」 
 けど、それと同時にぎゅっとサーラ様が俺を掴む。痛みと快楽がないまぜになって脊椎を通り、口から声になって出てきた。 
「サトルっ!やんっ!ひゃ!そっ!そこっ!らめっ!」 
「サ、サーラ様、それっ!つ、強すぎ!うあっ!」 
 俺の手がサーラ様を感じさせて、サーラ様が俺を感じさせる。手と性器で繋がった、閉じた連環の中で快感がどこまでも高まっていく。限界はすぐに来た。 
「うわああっ!出るっ!出ちまう!」 
「やああっ!あついっ!あついよおっ!」 
 
 びゅるびゅるっ!どぴゅっ! 
 
 耐えきれなかった俺の尖端から自分でも信じられないような量の白濁が飛び出る。向かい合っていたサーラ様の顔まで届く勢いで。目の前で黒い肌がどんどん白く染まっていく。サーラ様は目をつむってそれをよけようともせずに受け止めた。 
 いや、よけなかったんじゃない。よけられなかったんだろう。うわごとのように浴びた液体の熱さを訴えるサーラ様の股間からは潮が噴き出して互いの膝まで濡らしていたんだから。 
 しばし呆然と、互いを見つめ合う。一度達して落ち着いた訳じゃない。そうでない証拠に俺はまだ勃っていたし、サーラ様はまだ濡れていた。まだ足りない。 
 唐突に膝の力が抜ける。そのままあぐらをかいた俺はサーラ様を抱き寄せて、肉棒の上にまで導いた。対面座位の格好だ。目でサーラ様に問いかける。サーラ様は二人が触れそうになっている所を凝視したまま一度だけうなずいた。 
 そのままゆっくりとサーラ様の腰を引き下ろす。入っていく光景が丸見えだ。二人とも息を呑んでそれを見ている。やがて、全部が入る。処女を失ったばかりのそこはきつきつで、でも、一生懸命俺のに絡みついてきて。 
「は、ああああぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・・」 
 熱いものを飲み下したような長いため息を聞いた。俺の意志に関係なく、腰が少しずつ動き始めた。サーラ様がそれに翻弄される。 
 まだ、朝日が昇るまでには時間がありそうだった。 
 
「ああっ!あ・・・ああぁぁ・・・・・・」 
 窓から朝の光が差し込んできた。と同時に、多分三度目の膣内出しを放つ。やっと、落ち着いたというか収まったというか。ベッドの上で抱き合ったまま荒い息をつく。・・・・・・疲れたー。ああでも、幸せー。このまま眠れたら・・・・・・あのー、肩痛いんですけど、かなり本気で噛むの止めてくれません?サーラ様。 
「ひょくひょこおわたひにょめひにしょむひひゃな」 
「噛みついたまましゃべるのやめましょうよ。てゆうか、痛!痛!ちぎれるから!ちぎれるから!」 
 かなり必死に許しを請うと、流石にすぐ離してくれる。 
「ふん、主人に欲情して押し倒すなど、本来なら首を7回刎ねる所だが特別にこの程度で許してやる」 
 そう言って、俺から身体を離す。力を失った俺のものが抜けると、そこから白い粘液がどろぉっと流れ出た。うあ、溜まってたとは言え、自己ベスト更新確実かも。 
「まったく、妊娠しないからといっても限度があるだろう」 
「は、あの、いや、すいません」 
 怒ったような呆れたような照れたような拗ねたようなそんな表情でサーラ様が文句を言う。おれは条件反射で謝って、とりあえず、拭うタオルを差し出した。 
 
 頭に出来たこぶをさすりながら、ぽつぽつと人が・・・・・・ヘビか・・・・・・出始めた大通りを歩く。 
 ・・・・・・宿屋を出る時に宿の主人が「昨日はお楽しみでしたね」などと余計な事を言わなければ、鞘入りの刀でどつかれる事もなかったろうに。くそ、おっさんめ余計な事を。 
 俺を殴ってまだ足りないのか(足りないのだろうが)サーラ様は不機嫌そうに先を歩く。少しはこっちに合わせてくれないっすかねえ。俺は大荷物乗せた自転車押してるのに。つーか、元はと言えば二人して同じベッドに寝てる所からして問題あるわけで。何で俺だけ殴られなきゃならないんだ。いや、心当たりはたくさんあるけど。 
 ・・・・・・にしても、こう、ヘビの人たち(この言い方もアレだが)が町並みを闊歩する光景ってのは。・・・・・・やっぱりここは異世界なんだなあ。今更だとは思うが、サーラ様とだけの時はいまいち実感がなかったし、昨日はそんな余裕無かったし。 
 街の家はどうやら日干し煉瓦か何かのようだ。大通りは舗装されてはいないが、踏み固められかなり平らにはなっている。その道を、駱駝を連れたキャラバンとか、水桶を担いだ少年のヘビとか、なにやら農機具のような物を担いだおっさん(と予測する。正直外見で年齢が解りづらい)のヘビとか、目だけを出した服を着ているムリスムの女性とかが・・・・・・。ムリスム? 
「あの〜、サーラ様」 
 不機嫌なのは解っているが、質問できる相手はサーラ様しかいないしなあ。それに、何か話してた方が早く機嫌が直るだろうし。・・・・・・このまま沈黙が続くの怖いし。 
「・・・・・・なんだ?」 
 うう、明らかに不機嫌そうだ。でも、会話してくれる程度には余裕があるか。 
「あの、目だけ出した人たちってのは何者なんですか」 
「ん?ああそうか、そう言えばこちらに来て日が浅いからな」 
 お、乗ってきた。・・・・・・もしかして、それほど機嫌が悪いわけでもない? 
「あれはセト教の女性だな」 
「セト教?」 
「ああ、私も良くは知らんがなんでも『唯一にして絶対の竜神セト』のみを崇める教えで、それに帰依する女性は自分の夫にしか目以外の肌を見せないらしい」 
「・・・・・・うわあ」 
「なんだ、その感想は?」 
「いや、似たような宗教が俺の世界にもあるんですよ」 
「そうなのか?それは奇遇だな」 
「奇遇・・・・・・なんですかねえ?」 
「そう言う事もあるだろう。それはそれとして、最近南の方から流行りだしたそうで我が国にも改宗するものがいたなあ」 
「改宗ってことは、他の宗教もあるんですか?」 
「他のというか、普通は祖先の霊を祀るな。特に王家や貴族は龍神の末裔なので、始祖を特に重要視する」 
「龍神?龍ってドラゴンとかの?」 
「ああ、偉大なる龍神の血を引きそれを家名とする。例えば我が王家の始祖たる双頭の龍がアンフェスバエナで、我が王家はその偉大なる名を家名として崇めるといった次第だ」 
「なるほど〜〜」 
 ぶっちゃけ、あまり理解は出来なかったがとりあえず頷いておく。 
「で、これから会う人もやっぱ龍神の末裔だったりするんですか」 
「察しが良いな。如何にも天地を生む巨竜ティアマトーの末裔、エラーヘフ・ティアマトー。この国の女王だ」 
「どんな方なんです?」 
「賢く、利に聡く、長い目でものを見る。欲望のままに動く事が欲望を満たすことにならないことをよく知っている蛇物(へびぶつ)だ。名君と言っていいだろうな」 
「べた褒めですねぇ」 
「まあ、『千年に一度の大器』と呼ばれた私には適わないが」 
「うぬぼれですねぇ」 
 
   ひゅごっ!! 
 
 いきなり生じた風切り音が耳を打つ。・・・・・・今、銀色の何かが見えたよーな。 
「・・・・・・前髪、伸び過ぎじゃないか?」 
 不穏当に優しい声音でサーラ様が声をかけると、はらりと前髪の毛先が落ちた。・・・・・・って、斬ったのっ!?今の一瞬で!?つか、抜く手どころか納める動きすら見えませんでしたよっ!? 
「いっ、いえっ!後で床屋にいきますんでっ!」 
「いやいや、こうみえて私は『血化粧美容師』『乱れ斬蛇鋏』『抜刀姫』と呼ばれた事があってだなあ」 
「いやマジすんませんっ!ってか、三番目散髪と関係ないしっ!?」 
「大丈夫だ、安心しろ。私は良識があるから街中でだんびら振り回したりはしない。・・・・・・見えないようにやるから大丈夫だ」 
「どの辺が大丈夫で安心できるんですかあぁぁぁぁ!!」 
「なーに、どうせ髪の毛なんぞと無縁のヘビの国だ。ヒト用の床屋なんぞあるわけもなし。いずれ私が斬ってやることになるから・・・・・・」 
「ちょっ、まっ、あ!アレなんですか!アレ!」 
 とっさに適当な方向を指さし、声を上げる。いや、悪あがきだとはわかってるんだ。しかし!ここで屈したら俺の頭髪がっ!!なんとしても時間を稼ぎ・・・・・・。 
「ふっふっふ、せめて指さした先を見るぐらいの手間はかけたほうがいいぞ・・・・・・?」 
 
   どぉん!! 
 
 爆発音!!しかも、指さした先からっ!?な、何があった!? 
 振り向くとそこには・・・・・・何だアレ。いやマジで。地面に焦げた後。これがさっきの爆発音の原因だってのはわかる。その爆破地点の周辺に長い棒を持ったヘビが数人倒れてる。同じ服を着ているって事は兵隊か警察か。何にしろ、まだ立っている倒れた奴らの仲間達はビビって手を出せない様だった。 
 真っ赤に輝く女性が宙に浮いていた。いや?違う!?よく見ると、耳は横方向に尖って伸びていて、髪の毛に見えるのは、紅蓮の炎。いや、髪の毛だけじゃない。まとうドレスらしき物も、いや、肉体そのものが炎なんだ。炎が女の姿をしているんだ! 
 その女の姿をした炎は周りを取り囲むヘビたちににらみを利かせていた。おそらく、その背に庇うヘビ・・・派手な色の縞模様・・・に手を出させないように牽制しているのだろう。 
「ジン使い!?こんな街中で、正気か?」 
「・・・・・・へっ?」 
「話は後だ。とりあえず、奴を叩く」 
 言うが早いが、サーラ様が飛び出した!うお!はええ!あの時10人を切り伏せた動きとは全く違う直線的な動き。つか見えねえ!? 
 
 ジン使い。危険な相手だ。間合いが計れるような手合いではないし、熟練者は手足より器用にジンを使ってみせる。火精霊は他の事ならともかく攻撃力にかけては四大精霊の中で最強だ。あの大きさの火精霊の攻撃を喰らえば運が悪ければ即死。 
 つまり、間合いも攻撃力も役に立たせなければ良いだけだ。 
 全速。下半身のバネを全て速度につぎ込み、全速のみを考える。 
 こちらの間合いまであと十歩。 
 ジン使いがこちらを向いた。 
 あと九歩。 
 ジンがこちらを向き、指先に火球を作る。剣に手をかけた。 
 あと八歩。 
 ジンが火球を撃ち放つ。迷わず剣を投げて、火球に当てる。 
 あと七歩。 
 剣が当たった火球が爆ぜる。体を低くして、爆炎をくぐり抜ける。 
 あと六歩。 
 攻撃が相殺された事にすぐ対応してくる。次弾を作り始めた。反応が早い。手練れだ。 
 あと五歩。 
 剣を抜き、構える。ジンが前に出る。相殺できない至近距離で爆ぜさせるつもりだろう。 
 あと四歩。 
 火で、火のジンが傷つく事はない。自分を巻き込んで爆ぜても問題ないという作戦だ。 
 あと三歩。 
 ジンが間合いに入る。迷わず剣を突き込んだ。地面に。 
 あと二歩。 
 地面に突き立てた剣に足をかけ、跳ぶ。剣で高さを稼いで突っ込んできたジンを飛び越える。 
 あと一歩。 
 背中で火球が弾ける音を聞く。眼下で、ジン使いが驚愕した。 
 零。 
 落下の勢いを加え、鉄の鞘でジン使いを叩き伏せた。 
 
「ふっ、他愛もない。この『無敵弾丸娘』と言われたサラディンの敵ではなかったようだな」 
 まあほぼ不意打ちなのだが、はったりをかけておく事は重要だ。これからの交渉を有利に進めるためにも衛兵達に強さを見せつけておいて、損はない。 
 踏台にした剣を引き抜きながら、呆然とした周りの兵士に声をかける。どうやら主導権を握れそうだ。 
「早く縛り上げたらどうだ?殺さない程度には手加減したから今の内だぞ?」 
 言われて初めて気がついたようにわたわたと動き出す。それを確認して・・・・・・あれ?先に投げた剣はどこに行った? 
「あの・・・・・・ご協力あり・・・」 
「ああ、ちょうど良かった。貴様、私が投げた剣がどこに行ったかわかるか?」 
「へ?あ、あれだったらあっちの方に飛んでいきましたが」 
 そう言って声をかけてきた兵士が指を差す。顔を向けると、真剣白刃取りの形で私の剣を受け止め、硬直したサトルがいた。目を見開いて、陸にあげられた魚のように口を開閉している。どうやら火球の爆発で『あっちの方に飛んでいった』らしい。 
 ・・・・・・とりあえず、思いついた事だけ口にする事にした。 
「意外と反射神経がいいのだな」 
「言いたい事はそれだけかああああっ!!」 
 半泣きの声と表情でサトルが叫ぶ。 
 気持ちはわかるが、言葉遣いがなってないので教育する事にした。 
 
 こぶになった所をもう一度殴る事はないんじゃないか。そう思いながら、自転車を押して兵士の群れについて行く。サーラ様は前の方でなにやら兵士と話しながら歩いている。漏れ聞こえている単語を拾うと、自分の身分を明かした上で女王との面会を求めているらしい。 
 話はすぐにまとまったようで、サーラ様が俺の方まで来た。並んで歩く。サーラ様が囁く。 
「どうやら、問題なく会えそうだ。国の話はまだ伝わってないらしい」 
 あ、なるほど。そこら辺も探ってきてたのね。確かに大臣の使者が先に来てたりしたらやばいわ。 
「偶然だが、良い感じに派手に印象づける事が出来たな。どうやら私は運が良いらしい」 
 サーラ様、ずいぶんご機嫌っすね。まあ、基本的に見栄っ張りなヘビだからアレをやっつけて派手に・・・・・・。 
「そういや、サーラ様」 
「ん?なんだ?」 
「あの、めらめら燃えてたのは何だったんです?なんか、いつの間にか消えてますけど」 
「ああ、アレはジン。精霊だ」 
「いや、その精霊ってのがよくわからないんですが」 
「精霊というのは制御用仮想人格を有する術式群のことだ。かみ砕いて言えば『生きている魔法』だ」 
「・・・・・・魔法で火に命を与えたという事ですか?」 
「違う。火を扱う魔法に命を与えたものだ」 
 ・・・・・・はい?魔法『に』命を与える? 
「昔々ある所に」 
 昔話っ? 
「魔法使いがいました。魔法使い達は考えました。『我々は魔力を術という手段を通して魔法という形に顕現させる。しかし、この術というのはとても面倒だ。どうにかもっと使いやすくならないものだろうか』」 
「まあ、当然の考えでしょうけど・・・・・・」 
「ある魔法使いは術を簡単にしようとしました。また別の魔法使いは術を補佐する道具を作ろうとしました。そんな魔法使い達の中にこう考えるものが出てきました『術そのものに判断能力を与えれば、命令するだけであとは勝手に魔法を使ってくれるのでは?』」 
 なるほど、術をツールとしてとらえ、ツールを自動化する訳か!自分で運転する車じゃなくて、目的地を言えばそこまで連れて行ってくれる車を作ろうって発想だな! 
 ・・・・・・すげえ無茶な話なんじゃねえか、それ。 
「そして、術に命が与えられました。彼はそれを精霊(ジン)と呼び、ジンの大軍団を作ってヘビの国を統一し、皇帝と呼ばれるようになりましたとさ。おしまい。・・・・・・というわけだ」 
「そりゃまた・・・・・・すごい話ですね」 
「まあな、魔法使い個人の力量で砂漠を統一したのは後にも先にもザッハーク帝だけだ。その後、帝は500年帝国を支配して・・・・・・」 
「500年っ!?」 
 ありえねえだろ、それっ!?・・・・・・って、何故怪訝な顔しますか、サーラ様。 
「?ああ、そうか。確かに普通は150年。長く生きても200が限界だが、帝はその魔力で寿命を延ばしていたらしい。まあ、その秘法も今は『帝都消失事変』により失伝したわけだが」 
 ・・・・・・当然のよーに語られましても。一体どこら辺から突っ込んで良いのやら。つーか、一般のヘビさん達の寿命が150年っても初耳だ。 
「ま、そんな事が出来たのも帝個人の魔力が桁外れだというのもあるのだが」 
「そうなんですか?」 
「ああ。ジンは生きているとはいえ『術』でしかないので術者の魔力がなければ存在すら出来ないし、その指令がなければ動く事は先ず無い。そして、ジンが使う力も結局は術者の魔力だ。帝は1000体のジンを操ったと伝説では言われるが、それが本当だとすれば1000人分の魔術師並の魔力をたった一人で有していたと言う事になるからな」 
「うわあ」 
 ぶっちゃけ呻くことしかできねえ。脚色で10倍修正がついたとしても100人力ですか。何ですかそれは。アホですか、アホなナマモノですかその皇帝は。 
「話がそれたな。ジンが『術』でしかない以上、術者からの魔力が途絶えれば存在できないし命令が途絶えれば行動できない。と言うわけで、術者を気絶させればかように消えてしまうと。ま、例外はあるが」 
「例外?」 
「ああ、『帝都消失事変』以降、ジンの作成技術は四大精霊以外を残して全て失伝した。今作れるジンは四大の・・・・・・土・水・火・風のジンだけだ。が、それ以前、帝国が存在していたときには様々なジンが存在していた。その中には術者の魔力を勝手に吸い取って自発行動する物もあったらしい。そのようなジンは『帝都消失事変』後も存在し続け、自分を使える素質のある術者を待ち望んでいるらしい。ま、そんな精霊を使う術者に出会うなんて滅多にあるものじゃあないが」 
「な、何でそんな危ないモンが。目ぇ離しても勝手に動くって危険きわまりないでしょ?」 
「なんでも、就寝時の警護用とか囚人の強制労働用とからしいが。まあ私が知っているのはこの程度だ。あとは学者にでも聞け」 
「はあ・・・・・・」 
 なんつーか。今更だけどホントに異世界に来たんだなあ。まほーですよ?せーれーですよ?ありえねえっての。まあ、ヘビ人がふつーに街中を歩いてる時点で全て受け入れるべきなんだろうが。 
 ・・・・・・当分、なじめなさそう。 
 
 すげえ建物だなあ。と言うのが最初の感想。『なんちゃらモスク』って感じのタマネギ型の屋根の立派な館。女王様ともなるとやっぱ住む所からして違うんだなあ。逃亡中の亡国のお姫様とはやっぱ生活のレベルが違うんだなあ。 
「いま、何を考えた?」 
 心の声まで聞こえてるっ!? 
「お前はすぐ顔に出るからなあ?」 
 薄笑い浮かべてさりげなーく、鯉口切ろうとせんで下さい。 
「まあいい。城門前で躾るわけにもいかん。後できっちりやっておこう」 
 あとでやるのは確定ですか。 
 そんなやりとりをしつつ(やりとりできてるのかどうか、議論の余地はあると思うが)大きな城門をくぐる。・・・・・・中も綺麗なもんね。きっちりと敷かれた白い石畳と、計算され尽くした配置で置かれた(多分)神像。綺麗な身なりのヘビ人が従者や部下を連れて歩いてたり、宮廷付きの女官が仕事してたりする。 
 しかし、みんな通るたびにこっちを見るのはどうしてだろう。・・・・・・あ、俺が珍しいのか。確か、ヒトは高級奴隷だもんなあ。それが見慣れない荷車っぽいもの(自転車)牽いてりゃ目立つわな。 
 でも、斜め後ろの柱の影からくる女官(だと思う)達のあの「獲物を狙うケモノの目」はなんとかなんないんでしょーか。目ぇ合わせたら襲われそうなんでそっち向くの怖いんですが。うう、女同士で何の相談してるのか・・・・・・。 
「あのこちらの・・・・・・」 
 ん?いつの間にやら案内役の衛兵がなんか役人っぽいヘビと何か話してる・・・・・・。 
「え?・・・・・・はあ、はい」 
 何か驚いた。 
「わかりました、そのように・・・・・・」 
 あ、終わった。なんか役人っぽいのに案内が変わったっぽい。 
「これはこれはサラディン殿下、お久しゅうございます」 
「おお、アブール殿か!久しいな、2年ぶりぐらいか。息災のようで何よりだ」 
「もったいないお言葉、ありがとうございます。先ほどは我が国の兵の窮地を助けて頂いたそうで、彼らに代わりお礼を申し上げます」 
「いやなに、横から出てきて手柄をかっさらった様な物だ。本当の功労者は彼らだろう」 
 そう言ってサーラ様は肩をすくめ・・・・・・。 
 おお?そんな?ありえない!サーラ様が謙虚だなんて! 
「それに『漆黒の閃光』と呼ばれた私にかかれば、あの程度は敵にもならん。指一本動かしただけで礼を言われるのは流石の私でもこそばゆい」 
 あ〜、よかった。やっぱりサーラ様だ。そうでなくっちゃ!・・・・・・それもどうよと言う気がするな。 
「ははは、相変わらずですな、殿下。・・・・・・ところで、此度の突然のご来訪は一体どのような御用向きで・・・・・・」 
 アブールさんは苦笑したあと、声のトーンを落して聞いてくる。それに合わせて、サーラ様も真剣な表情になった。 
「うむ、そのことなのだが。陛下ご自身の御前で直接話したい。お目通り願えるかな?」 
「今は・・・謁見の時間ですので、謁見室で陳情を聞いているはずですが。お急ぎでしょうか?」 
「できれば早いほうが良い。頼めるか?」 
 そのヘビの役人は数秒ほど迷ったらしい。が、すぐに決めると行動に移す。 
「わかりました。それではそのように手配しますので、少々お待ち頂けますかな?」 
 
 通された小さな部屋。どうやら待合い室の様な物らしい。(自転車は建物の入り口の脇に置いてきた)サーラ様は慣れた感じで籐製の椅子に座り、水差しから水をコップに注いでいた。 
「アブールさんって、何者なんですか?なんか親し気でしたが」 
 俺はテーブルを挟んで差し向かいに座る。 
「アディーナの大臣殿だ。この国には良く来ていたからな。色々世話になった」 
「外交使節かなんかで?」 
「みたいな物か。父様の帰郷に付合って何度か来ている」 
 サーラ様の父君・・・・・・。たしか、元女王様の夫で将軍職を務めてたんだっけか。元はこっちのヘビだったのか。 
 前に頭の中でサーラ様から聞いた話を反芻していると、何気ない様子でサーラ様が話を続ける。 
「で、私の父様の兄君がエラーヘフ陛下の父親だったりするんだな」 
「はいっ!?」 
「つまり、この国の女王陛下は私の従姉に当たるわけだ」 
 なるほど、それであんなにべた褒めだったのか! 
「まあそんな理由もあってここを頼る事にしたわけだが・・・・・・」 
 言いかけたところで、扉越しに声がした。 
「サラディン殿下。準備の方が出来ました」 
「わかった、すぐにいく。サトル、いくぞ」 
「あ、は、はい。・・・・・・はい?」 
 すぐに部屋を出ようと立上がるサーラ様に追いすがるようについて行く。 
 思わず反射的に返事しちゃったけども、俺も行くの? 
「あのー、サーラ様」 
「なんだ?」 
「礼儀作法とか全然わからないんですが・・・・・・」 
「一言も喋るな。あとは私の真似を途中までしてろ」 
「いいんですか?そんなんで?」 
「なに、かまわん」 
 サーラ様がかまわなくても向こうがかまうんじゃあ・・・・・・そんな事を考えながらをしている内に謁見室の扉が近づいてきた。 
 
 玉座まで継ぎ目無く続く赤絨毯に居並ぶ兵士達。何てのを想像していたけど、意外とそうでもない。広さは学校の教室ぐらいか、天井から明かりを採っているので暗い雰囲気はない。窓とかは無いけど狭い印象を与えない設計になっている。うまいもんだ。兵士の代わりというわけでもないだろうけど、さっきのアブールさんを含めた数名がそこにはいた。そして部屋の奥、一段高くなっている所に黄金色の玉座があり、そこに座って・・・・・・座って?じゃなくて、巻き付いて。でもない、ええとなんだ、ああそうだ!とぐろを巻いて、だ!ともかく、上半身に美女の身体を持つ全長10m(目測)にもなろうかという大蛇が、そこで俺たちを睥睨していた。 
「お久しゅうございます、エラーヘフ陛下」 
 そう言って、サーラ様が膝をつく。意識せずに俺もそれに従う。てゆーか、俺自身が何か半自動的に動いてて、それを俺が冷めた目で見てるというかなんというか。え?アレが従姉?何?ジョーク?てゆーか、アレが女王様?アレ足とか無いじゃん!ヘビじゃん!・・・・・・いや、ヘビの国だから良いのか。良いのか? 
「そうかしこまらずとも良いぞえ。妾と従妹殿のなかではないかえ」 
 平安公家口調でその・・・化けも、いや違う、エラーヘフ陛下がサーラ様に語りかける。プライベートでも仲良いのか?何かわかる気もするけど。 
「そう言うわけにもまいりません。何故ならば今日の私は陛下の従妹としてではなく、アンフェスバエナ王家の王女として参りましたからです」 
 膝をついたままサーラ様が答える。謁見室にとまどいの空気が混じる。女王様の顔を盗み見ても動揺は見えないけど、周りの臣下達はこちらの真意を測りあぐねているようだ。・・・しかし、サーラ様・・・なんかこう、口調の割りには背中から「やってやるぜオーラ」が出てるんですけども。大丈夫なんだろうな。ここで、二人とも捕まってさらし首なんてーのは考えたくもないぞ。 
「ほう?その姫君が単身護衛も付けず従者のみを連れて来たと申すのかえ?」 
「はい、その通りでございます。事前に使者をたてませなんだ事も、従者のみを連れたことも、やむを得ぬ事情あっての事でございます」 
「ほう、而してその事情とやらは聞かれてもらえるのじゃろうな?」 
 興味が注がれた、というよりはサーラ様が焦らしているのが面倒くさくなったという面持ちでエラーヘフ陛下が問いかける。サーラ様は沈痛な面持ち(多分造りだろうけど)で頷いた。 
「謀反が起きました」 
 騒然となる謁見室。大声を上げる奴はいないけど、一様に驚いた顔で何事かと囁きあう。数人ほどが慌てて、しかし静かに出て行くのも見えた。 
 その中でただ一人、エラーヘフ陛下だけが平然とした表情をたもっている。・・・・・・何考えてんだろ。驚いてないなら凄い事だし、驚いた上で隠してるならそれも凄いな。やはり、これが王の貫禄って奴なのか。 
 そして、エラーヘフ陛下はその表情のままサーラ様の後を促した。 
「謀反とな?」 
「はい、内務大臣ラフシャドがその魔道の業を持って突如宮廷内で精霊を放ち、それに呼応する形で侵入していた私兵が蜂起いたしました。父上も母君も精霊の不意打ちを受け無念の最期を。私は親衛騎士団団長として仇であるラフシャドを討ち、そのまま謀反人共と斬り死ぬ覚悟でありましたが、王族としての義務を果たせと父の今際の際に命ぜられこうして生き恥を晒しております」 
「なんと、叔父上殿が。それは惜しい方を亡くしたものじゃ・・・・・・」 
 陛下が悲しげに面を伏せて呻き出すように呟く。その目にはうっすらと涙が。う、もしかして本当に悲しんでる? 
「陛下にそうおっしゃって頂けるとは、父も少しは浮かばれるでしょう」 
 そう言って、サーラ様が立上がる。 
「ですが!父と母の霊と魂に本当の安らぎを与えるためには言葉ではない何かが必要なのではないでしょうか!そして、その為に陛下にお願いしたい儀がございます!」 
 少々芝居がかった声でサーラ様が朗々と語る。 
「ほう?それはなにかのう、言うてみるがいい」 
「陛下!どうか私にこの国で義兵を募るお許しをいただけないでしょうか?父と母を殺め、その地位を簒奪し、王を詐称する彼の悪臣にせめて一矢を報いなければ、このサラディン恥を忍んで生き残った甲斐がございません!!」 
 言い切ったサラディン様の請願に場は一層騒然となる。・・・・・・って、なんだこの気配。「本気か?」とか「やられた」とか聞こえるんですけど、感動したとかそう言うんじゃない空気が・・・・・・。あれ?そう言えば兵を借りるはずじゃなかったか?え?どーいうこと? 
「それは王女としての発言ですかな?サラディン様」 
 横合いから大臣風のヘビ・・・・・・あ、さっきのアブールさんだ。が詰問するような口調で聞いてくる。え?なんすか?なんでそんなきついの? 
「アンフェスバエナ王家第15王女の言葉としては僭越でしたかな?アブール殿」 
「僭越などとは。ですが、いまだ第一王位継承者の消息が知れない今の状況で貴方が勝手に兵を挙げるのは・・・・・・」 
「なるほど、確かに王位継承権第20位の小娘が兵を起こすとは僭越至極!ならば!」 
 アブールさんの言葉を途中で遮ってサーラ様が叫ぶ。突然の大声にぎょっとする観衆を尻目にサーラ様は懐から金色の何かを取り出し、頭に載せた。 
「今この場でアンフェスバエナ王に即位しよう!この王権の象徴たる王冠を持って!たった今から私がアンフェスバエナ王だ!そして改めてアンフェスバエナ現王サラディンからティアマトー現王エラーヘフ『殿』に領内で義兵を募る許可を要請する!!」 
『なっ・・・・・・』 
 陛下とサーラ様以外のその場にいるみんながハモって、そしてそこで止まる。 
 二の句が継げない。え?なに?この場で即位?そーゆーのってアリなの?それとも蟻なの?むしろモハメド=アリなの?ふろーと らいく あ ばたふらい、すとらいく らいく あ びーなの? 
 混乱する思考を切り離して意識の片隅で空回りさせときつつ周りの様子をうかがうと、驚いている者、呆れてる者、怒りを隠そうともしない者、そういった連中が何か言い出すきっかけを掴めずに止まらされている。・・・・・・逆に、きっかけさえあればいかようにも暴発するという事だけど・・・・・・。 
「それには及ばぬ」 
 ぴしゃりと陛下の声が動揺した空気を叩き伏せる。うわ、この雰囲気を一気に呑み込みやがった。 
「サラディン殿の心意気、確かに見せてもらった。その即位、妾がティアマトー王家の名にかけて承認しようではないか」 
『ええええええええっ!?』 
「おや?妾の決定に不服かえ?」 
 まさしく爬虫類的な冷たさのこもったその一言に逆らえる、いや、何か言う事のできる者はいない。俺も含めて。いや、いた。一人だけ、それと同格の存在が。 
「承認頂きありがとうございます。して、エラーヘフ殿。義兵の件ですが・・・・・・」 
 さも当然のような顔でしれっとサーラ様が話を継ぐ。驚異、怒気、敵意、などの混じった視線を浴びつつ顔色一つ変えない。まさしく蛙の面に小便か。 
「それも、心配には及ばぬ。妾が兵を貸してやろうほどに」 
 え?マジデスカ?それやりすぎじゃない? 
「なんと!そこまでのご厚意をいただけるとは・・・・・・」 
「ただし、条件がある」 
 サーラ様の礼を遮って、陛下が口を挟む。予想していなかったのか、サーラ様が怪訝そうな顔になる。 
「条件、ですか?」 
「うむ、そうじゃ。確かに貴殿をアンフェスバエナ王と承認はしたが、未だ年若い貴殿に兵を率いる器と技量があるかどうか判らぬ」 
「なるほど、つまり私の将器を試したいと」 
「サラディン殿は聡くて助かるのう。しかし、将器を試すといってもそうそう都合の良い方法が思いつかぬ。どうであろう、今日の所はここで休んでいかれては。明日の会見までに条件を考えるがゆえに」 
「いえ、エラーヘフ殿のおっしゃる事、いちいちもっともでございます。されば、また明日という事で」 
「うむ、では妾は他にも執務があるがゆえに本日の会合はここまでじゃ」 
 そうして謁見(?)がおわり、サーラ様が退室する。・・・・・・いかん、ついて行かんと。 
 
 ばたん 
 
 後ろでドアが閉まる音が聞こえた瞬間に、胸の中の物が全部ため息と共に吐き出される。うっわ〜。なんかもう、なんもかんもが唐突でむちゃくちゃでわけわかんね〜!! 
「どうしたサトル」 
 ええと、ちょっと整理しよう。まずどっから突っ込むかだ。一番、玉座に座ってたのは何て生き物ですか?うん、これは問題ないな。 
「・・・・・・おい、サトル」 
 んで、二番、その謎生物が何で女王様なのか?ん〜、これは一番の答えを聞けば分かりそうな気もするな〜。むしろ突っ込むべきは 
 
 がこっ!! 
 
 あれ?なんで、目の前がちかちかして頭のこぶの痛みが再発してるんだ?そういえば首筋に慣れた冷たい感触が・・・・・・。 
「はいっ!何でありましょうか、サーラ様」 
 はっ!?おお、何か気がつくとサーラ様に剣を突きつけられた状態で敬礼してるぞ俺! 
「今後の為にもちゃんと言っておこうと思うのだが・・・・・・無視されるのは嫌いだぞ」 
「はいっ!偉大なる御主人様のお言葉、しかと受け止めさせて頂く所存です!」 
 ・・・・・・えーと、7割方脊椎反射で動いてたから気がつかなかったみたいだけど、どうやらサーラ様の呼びかけが聞こえてなかったみたいだな、うん。で、サーラ様はそれを怒っていると。・・・・・・だとすると、まだ剣が下ろされてないのはどう解釈すべきですかね? 
「よーし、反省の言葉は受け取った。で、まだ他に言うべき事があるのではないか?」 
「へ?」 
 他に言うべき事?なんだ、何を言ってない・・・・・・あ。 
「無視してしまった事を謝ってないとかですか?」 
「それもあったな。だが違う」 
 違う上にやぶへび?そんじゃ、え〜と。 
「何で女王様の下半身があんな事になってるかってことですか?」 
「全然違う。というか、それはお前の疑問点だろう。そうじゃなくて、私に言うべき事があるんじゃないかと聞いているんだ」 
 え?言うべき事?なんだ?さっきの一連の流れの中から考えられる事だろ?えと、軽く挨拶して、国の事を話して、兵士募集の許可をもらおうとして・・・・・・あ! 
「此度はご即位おめでとうございます。このような目出度き慶事に立ち会えるとは、この身に余る幸せにございます?」 
「なんでそんなすらすら喋っておいて最期が疑問形なんだ。正解だが」 
 そういってサーラ様が剣を納める。どうやら、正解か・・・・・・。いや、つーか。 
「何か全然わかんないんですけども」 
「何がだ?」 
 怪訝な表情をつくり、サーラ様が椅子に腰掛ける。何がってあーた。 
「謁見室に入ったあたりから何もかんもさっぱりです。なにがどーなってあーなったのかとかも、全然さっぱりです」 
「そのあたりからか?・・・・・・まあいい、説明してやろう」 
 どこか疲れたような声音でサーラ様が言う。やっぱり緊張してたのか? 
「で、何から聞きたい?」 
「順に行きましょう。まず、エラーヘフ陛下の下半身ですけども」 
「ああ、従姉殿はラミアだからな」 
「ラミア?」 
「ヘビの女にたまに生まれるのだ。ああいうのが。親近婚の多い王族には出やすいとかいう俗説もあるが、真偽は知らん。龍の血が先祖返りを起こさせるとか言う話もあるな」 
「・・・・・・あれ、スカートの中身はどうなってるんですか?」 
「太腿の半ばまでは普通に、そこから先は足が繋がって一本の大きな尾になっている。一度見せてもらったんで間違いない」 
「え゙?スカートの中身をですか?」 
 な、なんでそんなもの見せてもらえるんだ?もしかして百合なのか? 
「子供の頃だ子供の頃!妙な想像するなっ!!」 
 こっちの想像している事に感付いたらしいサーラ様が顔を赤くして否定した。あ〜、そりゃそうだよなぁ、びっくりしたぁ。 
「いや、びっくりしましたよ。サーラ様が百合だったらどうしようかと」 
「冗談でも止めろ。二度と言うな」 
 ・・・・・・マジで青い顔して二本とも剣を突きつけて言うって、何かトラウマでもあるのか?まあいいや、ヤブヘビ嫌だし。 
「じゃ、次行きましょ。義兵の募集の許可ってのはどういう事です?兵を借りるために会いに来たんじゃないんですか?」 
「それか。要は面子の問題だ」 
「面子?」 
「そうだ。例えばだ、お前の親戚がお前の家の前で乞食をしていたらどうする?」 
「え?それは世間体もありますし、家に入ってもらいますよ」 
「だな。それと同じだ。『自分の従妹にあたる王女が仇討ちのために兵を募っているのに、この国の王様は何もしないのか』となると、他の国に嘗められるからな」 
「それは言わせとけば良いだけの話じゃないですか」 
「いや、『この国はちょっとやそっとじゃ怒らない』と思われれば他の国やら不心得者から喧嘩をふっかけられる。そして、喧嘩は勝ったとしても消耗する物だからな」 
「『俺に恥をかかせた奴は容赦しねえ』と思わせとけば喧嘩うられないで済むと?」 
「その通り。まるっきりヤクザの理屈だが、国なんてものはそういうものだ」 
 自分でヤクザの理屈というか。ぶっちゃけるにもほどがあると思うが。でも、それで理解できた。 
「つまり、兵を貸すように仕向けたと。・・・・・・悪いヘビですね、サーラ様」 
「はっはっは、そう誉めるな」 
 うわあ、ちっとは悪びれろよ。 
「じゃあ、次の質問。勢いに任せて王位継承しちゃっていいんですか?」 
 多分一番致命的な質問だと思う・・・・・・のに、どうして笑うンスか、サーラ様。 
「はっはっは、何を言う。あんな物『継承』とは言わん。どちらかと言えば『簒奪』だ」 
「余計悪くなってるじゃないですかっ!?つか、全然ダメなんじゃないですかっ!!」 
「全く持ってその通りだ。が、この手の話はその場の連中に認めさせれば勝ちだからな。兄様方が王位を主張しようとも、その場合従姉殿を敵にまわさなければならなくなる。それ以上の後ろ盾と、この王冠以上の正当性を持ってこない限りは無理だろう」 
「・・・・・・もしかして、『ゴネ得で兵と王位を一石二鳥作戦』ってことですか?」 
「いや、この王位でゴネを強化してるので二石二鳥だな」 
 しれっと、ゴネたと認めるなや。人として。いやヘビとして。 
「んじゃ、最後の質問。条件って奴の中身は予想ついてますか?」 
「何をやるかはさっぱりだが、何をさせたいかは想像できるな」 
「?」 
「『おのれやっかい事を持込みやがって、この際だからこっちの抱えてるやっかい事を押しつけてやる』と言った所か。試練とかいって、いろいろと面倒事を押しつける気なんだろうよ。山賊退治とか密偵掃討とか」 
「面倒事って言ってもサーラ様個人に出来る事なんて限られてるんじゃ」 
「その範囲で出来るギリギリの事を押しつけるという事だ。と言うわけで、サトル君」 
「・・・・・・何スか?急に改まって」 
 神妙な顔で向き直るサーラ様に対して、心持ち引いて身構える。その心境を察したか、サーラ様は思い切り意地の悪い笑顔を浮かべた。 
「我が忠実なる臣下にして従卒にして召使いにして臣民にして部下にして下僕にして子分にして兵卒にして奴隷にして所有物のサトル君。君が仕える女王にして主にして上司にして親分にして将軍にして騎士にして支配者にして所有者の私の苦難は自動的に君の苦難でもあるので覚悟しておくといいぞ」 
「ちょっとおおおおおおおっ!?」 
「はっはっは、第二次アンフェスバエナ王朝はこの部屋で我々二人きりから始まるのだ。人手が足りないのでしっかり働いてもらうぞ♪」 
「ああああああああああああ」 
 肩に軽く手を置かれると同時に、頭を抱えてくずおれる。え、えらいことになりそうだ。つか、奴隷商人に捕まった方がまだしも平穏だったかもしれん・・・・・・。 
「そんなに悲観する事も無かろう。王朝復興の暁には寝て暮らせると保証してやるぞ?」 
 その時まで俺は生きてるのでせうか?サーラ様の声がうつろに頭蓋に響いた。 
 
 ん・・・・・・あれ?まだ暗いのに目が覚めたな。見覚えない広い部屋をぼんやりと照らすのは揺れるランプの明かりだけ。体中に巻き付いた冷たい感触。・・・・・・巻き付いた? 
「あーそうか。ゆめだぁ。ぼく、ゆめをみてるんだね、ままん。またねてめざめたらあめりかのこうやにもどってるよね。じゃあおやすみー」 
「ほほほ、御主、ずいぶんと嘘が下手じゃのう」 
 眠りに就こうとしていた俺の耳に聞き覚えのある声が聞こえた。つか・・・・・・。 
「現実逃避してただけだあああああああっ!!つうか、たすけくうぇてえええええっ!?」 
 なななな、なんでサーラ様と同じベッドで寝たはずなのに天蓋付きの豪奢なベッドでエラーヘフ陛下に巻きつかれてるんだっ!?しかもいつの間にやら全裸でっ!? 
「ほほほ、従妹殿が手に入れたヒト奴隷がどのような物か少し味見してみようと思うてな」 
「そ、そんな理由で。てか、どーやってサーラ様に気付かれずに俺だけ・・・・・・」 
「なあに、どうと言う事はない。夕餉に一服盛っただけじゃ」 
「うわあ罪悪感の欠片も感じねえ。てか、ホントは従姉妹じゃなくて姉妹だったりしませんか、血の繋がりが濃すぎです貴女達」 
「うむ、そなたの賞賛確かに受け取った」 
「誉めてないですよ」 
 心の底から出来うる限りの冷たい言葉を吐く。だがそんな言葉など全く気にせずに陛下は余裕綽々の顔で俺を見下ろす。・・・・・・いかん、なんか本来の意味で食べられそうだ。 
「照れるな照れるな。まあ、そんな口もじきに聞けなくなるじゃろうが」 
「は?あひゃああぁああなああああ!?」 
 な、なんだ?巻きついた陛下の蛇身がぞわぞわうごめいてっ!皮膚の上を微妙に擦ったり揉んだり、なんだこれ気持ちいいっ!? 
「ほう、意外に感度が良いのじゃな?ではこれはどうだ?」 
 ひっ!ひいっ!脇の下とか足の先とか首筋とかしっぽの先がぞわぞわってぞわぞわって!?男でもこんな感じる物なのか? 
「ほう、あまり期待はしていなかったのじゃが、勃起ってみるまでわからぬものよな」 
 ひへっ!?うあああっ!勃起ってる?触られてないのに巻きつかれただけで!?何でこんな・・・・・・。ひゃああああっ!!背筋つーってなで下ろすなぁあああ!? 
「ほほほ、良い声で啼くのう。しかし、まだこれからじゃぞ?」 
 そう言って陛下は上着を脱・・・・・・うを!すげえ!川口隊長Gカップは実在しました!(錯乱中)。こ、こんな教育上よろしくない物をどこに隠してらっしゃったのくわっ!たゆんってかんじですよ、奥さん!しかもあれだけの大きさでかたくずれ無しとは一体いかなるドナルドマジックを使っているのやら? 
 そしてその爆乳を・・・・・・おおおおおおおお!?そ、そんな柔らかい物で俺の暴れん坊を挟み込むなんてっ!これが業界用語で言う所のパイズリなのか!そーかー、こんな物がAV以外に実在したとなわー。うわああぁぁぁあああ!!!すご、柔らかくて絶妙の力加減で、そんな動かしたら辛抱溜まらん事にいいいいいぃぃぃぃいいいひっ!!?時折腰のあたりに擦れる尖った乳首の感触がこれまたエロ過ぎるうううううぅぅぅぅう!! 
「んんっ。ふふ、どうじゃ?そしてこのままな・・・・・・ちゅる」 
「んなっ、そればぁはおっ!」 
 自分でも何を言い損なったのか判然としない。って考える余裕すらない!ひいいぃ、乳で挟んだまま亀頭が銜えられっ、舌が薄くて長い舌が舐めて絡んで巻きついて吸われるぅ!?うわうわ、鈴口いじくるなんてもうっ!ダメだ出る出る出る出るっ!! 
「ならんぞ」 
 んぎっ!?で、出かけてたのが、ひんやりとした指に根本を抑えつけられて止められて、があっ!!き、金玉の裏のとこが痛い・・・・・・。 
「ほほほ、こんなに早く果てようとするとは躾がなっておらんのぉ」 
 陛下はそう言って余裕綽々の表情で俺を見てにたにたと笑う。な、なってなくてもいいから出させて欲しい・・・・・・。って、何ですかその小さい革ひもは・・・・・・ま・さ・か? 
「そんな、悪い奴隷はこうやってきちんと首輪をつけておかんとなあ?」 
「ぎぃやああああっ!やっぱりかあああああっ!!」 
 陛下はその革ひもを俺の根本にきつく縛り付けた。 
 いたいいたいいたいっ!出せない苦しい死ぬ死ぬ死ぬ死ぬっ!? 
「む、少し萎えたな。妾がこうして躾てやっているというのに不満かえ?」 
「こーゆーのは躾じゃなく強姦と言うんだっ!つーか俺は被虐趣味はねえっ!!」 
「本当に躾がなっとらんな。ヒト風情がヘビに対等な口が聞けると思うか?」 
 陛下が冷たくそう言い放ち、俺のモノの雁首を撫で上げる。んぐううっ!?気持ちいいけど感じて大きくなるとひもが痛ええええ!! 
「す、すいませんねえ!!こっち来てから三日しか経ってないもんで!!」 
「なんと!それはそれは・・・・・・」 
 この答えは意外だったのか、驚いた後少し考え込む。・・・・・・俺の急所は握ったまま。うう、見もしないで萎えずいかずの状態に保ち続けるなんて、Lv高すぎだこのモンスターめ。 
「ふむ・・・・・・これそなた、妾に仕えんか?」 
「は、はいっ?いきなり何を?」 
「何、道理も分からぬヒトを一からてなづけるも一興かとおもうてな」 
 そういってまさしくヘビのように笑う。・・・・・・屈服させる気満々だ。 
「そ、そー言われましても私はサーラ様の奴隷なわけで。所有権に関して私の意思など関係ないでしょう?」 
「なに、所有権などどうと言う事もないぞえ。明日『兵を貸すから奴隷をよこせ』と言えば良いだけじゃ。そなたが妾の奴隷になりたいと言えばそのように取りはからってやっても良いぞえ?」 
 確かにサーラ様はその条件を飲むだろう。というか、飲まない理由がない。あの殺気、あの怒りがサーラ様の行動原理なら一人の奴隷に拘泥する理由はない。 
 ・・・・・・俺はどうなんだろうな? 
 もし仮にこのままサーラ様の奴隷を続けたとする。するとサーラ様とHできるけど、毎日殴られたりする上に陛下の出す『条件』に無理矢理付合わされてその上で兵を借りられなかったりするかもしれない。そうなれば、また屋根無しの旅ガラスの生活に戻って毎日自転車こぎ続けになるかもしれない。 
 今度は逆に陛下の奴隷になったとする。陛下の嗜虐趣味に付合わされる事になるだろうが爆乳美女とHができる。その上生活はめっちゃ安定。少なくとも謀反を起こした大臣の追っ手に追われる事はない。 
 並べてみると選択肢がほぼないな。 
「大変ありがたいお言葉ですが、お断りします」 
 なのに何で断るのかな、俺。 
「ほう?・・・・・・今の内に『エラーヘフ陛下の奴隷にして下さい』と懇願すべきだと思うがの」 
 んぎがっ!!俺の返答に目を細めた陛下が絶妙のテクニックで俺をしごきたてる。あっぎゃああああああっ!!! 
「ほほほ。うむ、耳に心地よいのう。どうじゃ?妾の物になるかえ?」 
「ご、断る!んぎぎぎゃあああ!!」 
 ひいっ!手が冷たくて柔らくてぎゅっと締めたり触れるか触れないかで擦ったり?気持ちいいけど締まっていてえええええええっ!! 
「ふふふ、ではそろそろ妾も楽しませてもらおうかの」 
 ようやく魔の手から解放されたけど、俺のはびんびんに突っ張って萎えようとしない。うあ・・・・・・青紫色になってる。あんな状態になったのみたことねえ。 
 陛下は身体をずらしながら俺の身体を這いずる様に昇ってくる。その間に爆乳を押しつけたり肌で俺の欲棒を擦りあげる。今までで最高の快楽とそれによる最悪の苦痛でまともに頭が働かない。 
 俺の顔まで来た陛下は叫びすぎて声が枯れ果てよだれを流して開けっぱなしになった口に舌を差し込み中をかき回す。反射行動の様に俺も舌を絡めて迎えた。 
 
 くちゃり 
 
 俺の欲棒に陛下の濡れた秘唇が触れる。ああ、これに銜えられたら、多分俺は発狂するんだろうなあ。あ、ああ、あああああああ喰われるぅ! 
 なんだこれ!?ひだひだが巻きついて、しごきあげてくる。まるで中に細い生き物がたくさんいるみたいに!み、ミミズ千匹ってやつか?ひっ!か、カリのくびれに絡みついてっ!ずるずるとっ!あああ濡れて熱いのがたくさんまるで俺の感じる所を理解してるかのようにっ! 
 ぜんぜん腰は動いてないのにっ!膣内の動きだけで責めるなんてぇっ!?いくいくでないだせないくるしきもちしぬしぬしぬ!! 
 
「ほほほ、どうじゃ妾の中は?」 
 淫靡なる妖女に捕らえられた哀れな獲物は白目を剥きびくんびくんと跳ねる。が、その四肢は40cmもありそうな巨大なヘビの胴体に捕らえられそれ以上には動かせずもがくだけに終わる。 
「さあ、どうじゃ?妾に仕えるなら精を出させてやってもよかろうぞ?」 
 エラーヘフは自身の捕らえた獲物にとどめを刺すかのように降伏勧告をした。が、サトルは口を陸に打ち上げたれた魚のように開閉させるだけで返事を返さない。あまりの快楽と苦痛で言葉が届いてない。ただ、かれた喉であえぐだけだった。 
「なんじゃ、躾ていないヒトはこの程度で壊れるのか?」 
 女王としてヒト奴隷を使った事がないわけではない。が、エラーヘフとしても奴隷としての教育を受ける前のヒトと交わるのは初めてなのでどこまでやって良いのかの加減は分からなかった。 
(よもや壊してしまったか?) 
 やっかい事の種とはいえ、客人、しかも自分の比較的親しい親戚の奴隷である。勝手につまみ食いして壊してしまったとなればいささか外聞が悪い。どうしたものかと少し思案したすえ、確かめる事にした。 
 
 ん・・・・・・あ、ここは?俺、犯されて死んだんじゃないのか?何も見えない・・・・・・何も感じない・・・・・・。 
「犯されたぐらいで死ぬわけがないじゃろう」 
 うお?へへへ陛下?何でいきなり?俺、喋ってた?てか何で見えないの? 
「喋ったわけではない。精神で会話をしておるのじゃ」 
 え?精神で会話? 
「ここまで喋れるという事は、壊れてはないようじゃな」 
 あのー勝手に納得されても困るんですが。 
「妾は困らん」 
 ・・・・・・ええっと。 
「とはいえ、そなたにも分かってもらわぬ事には話がすすまぬ様じゃな。順を追って話そう。先ずそなたは妾に夜伽を努めておる最中じゃ」 
 あのままが続いているって事ならそれは夜伽と言わずに強姦と言うべきでは。 
「そう言う見方もあるのう」 
 いやあの、 
「そのそなたがどうしてこうして話していられるかと言えば、それは妾の精霊の力なのじゃ」 
 シカトかい。ていうか、精霊? 
「うむ、妾の古精霊、『会話精霊』ウォフ・マナフの力。ウォフ・マナフの力を持ってすればあらゆる物と望むように会話ができる。今は『そなたの壊れてない部分』と『精神の声だけ』で『記憶に残らない』ように会話しているといった次第じゃ」 
 そんな概念に対しても精霊が存在するのか。・・・・・・あれ?すると今でもズコバコやってる最中って事スか? 
「うむ。だが、そなたに問いたいのでこうして会話しておるのじゃ」 
 問いたい? 
「うむ。妾に仕える気になったか?」 
 それだったら、既に答えたと思いますが。 
「今の心境を聞きたいのじゃ。貴様はこのまま妾の責めで壊されるのと妾に仕えるのとどちらがいいのじゃ?」 
 仕えるのは嫌ですね。 
「・・・・・・ほう?」 
 ぎゃ、ぎゃああああっ!?ち、ちんちんが痛いちぎれるっ!?中から、中から爆発するっ!? 
「これでもか?」 
 こ、断るっ! 
「ふむ」 
 ・・・・・・っあ、収まった。ああ、きっつー。いつでも『こう』することができるって事ですか。 
「そう言う事じゃ。だが、何故じゃ。妾に仕える事に不都合があるわけではあるまい?むしろ、そなたにとっては好条件のはずじゃが?」 
 サーラ様を裏切る事になりますから。 
「忠義か?出会ってたった三日の主人に対して己が存在をかけると?」 
 ・・・・・・忠義ではないですね、多分。それほど義理堅い質じゃあないです。 
「それとも愛か?」 
 それとは微妙に違う気もしますね。 
「では何故じゃ?妾の誘いを断って、壊されるほどの責めを覚悟させるほどの理由とは」 
 俺にもよく分かりませんけど。多分、サーラ様が俺を信じたからです。 
「そんなもので命までかけるのか?」 
 ・・・・・・上手くは言えないですけど、今まで生きてきて大切な『なにか』はたくさんあるんですよ。想い出の詰まった宝物とか、趣味とか、流儀とか、親とか、友達とか、恋人とか。 
「・・・・・・それで?」 
 でもですね、大切な『誰か』ってのはサーラ様が初めてなんです。あの見栄っ張りで意地っ張りで恥ずかしがり屋でヒト使いがあらくて暴力的でけっこう甘えん坊なサーラ様が、俺にとってどうしようもなく大切なんです。 
 だから、俺からは裏切りたくありません。 
 ・・・・・・おかしいですかね? 
「何故そこまで大切に思える?」 
 何ででしょうね・・・・・・。大した理由はないんですが・・・・・・。 
 実はですね、俺、サーラ様の初めてをいただいたんです。しかも、出会った日に。あの見栄っ張りで意地っ張りで恥ずかしがり屋のサーラ様から。 
「・・・・・・ほう」 
 その出会った日なんですけどね、俺、嘘の突き通しだったんです。サーラ様に刃物で脅されてって言うのもありますけども。でも、何から何まで薄っぺらい事を言い続けたその日に言った『優しくする』という俺の言葉を、根拠もなく信じてくれたんです。 
 だから、俺からサーラ様を裏切りたくないんです。たとえ、全く意味のない事でも。 
「妾は明日そなたの返事に関わりなく交換を申し出る腹が決まったのじゃが、それでもか?」 
 はい。 
「・・・・・・ふん」 
 
 ばちんっ! 
 
 俺の根本を締め上げていた革ひもが突然切れた。忘我の淵で射精感と快感だけが脳を埋め尽くす。俺の身体に絡みついた何かも、それを受け止めて痙攣する。呼吸困難になりかけていた俺はただただ酸素を求めて荒い呼吸を繰り返すのが精一杯だった。 
 そのずたぼろ状態のおれからエラーヘフ陛下がゆっくりと離れていく。 
「つまらん、ここまでしておいてのろけ話を聞かされるとはのう」 
 ひ、ひとを狂い死にさせかけといてそれかい!あ、あかん。声とかでない。てかのろけって何。 
「まあいい、ゆっくりと屈服させてやろうぞ。楽しみにしておれよ」 
 な、なんでそんな悪役台詞なんすか。つーか話の前後が見えない・・・・・・。 
 ・・・・・・俺このまま置いてけぼり?へ、部屋に戻らないとサーラ様に何言われるか・・・・・・いかん、足腰が全然・・・・・・眠気が・・・・・・眠・・・・・・。 
 
「とっとと起きろ」 
 いだっ!?あ、あれ、ここは・・・・・・あれ?何で俺サーラ様の部屋に? 
「何をしている。主人より遅く起きる召使いがいるか」 
(あ、はい!今すぐ起きます・・・・・・あれ?) 
 飛び起きて返事をしたけど声が何かがらがらになってる。なんかやたら身体がだるいし、一体なんで・・・・・・夢じゃないってことか、昨日のあれが。 
「どうした?風邪か?」 
 頭を抱える俺の顔をサーラ様がのぞき込んできた。う、浮気した訳じゃないけど罪悪感が・・・・・・。 
(あ〜風邪かもしれないですね。やっぱり、その、慣れない気候ですし) 
「・・・・・・なにか、隠し事をしていないか?」 
(ななななな、何を根拠にそんな事げほっ!?) 
 つ、つい反射的に大声出したから喉が・・・・・・。あ、サーラ様ありがとうございます!ん、ぐっぐっぐっ・・・・・・ふぅ〜〜やっと落ち着いた〜。 
「どうやら、本格的に喉がダメらしいな」 
 本気で心配してくれているようで俺の背中をさすってくれる。ああ、こんな優しいサーラ様初めてかもしれない。あ、おもわず涙が。 
「声が出ないなら仕方がない。・・・・・・隠し事については喉が治った後にゆっくりと聞こうではないか。なあ、サトル君?」 
 前・言・撤・回!!ヘビらしい執念深い目でそんな睨まんといて下さい。ああああ、肩に置かれた手が凄い握力、いたいいたいいたい〜〜!! 
 
 とりあえず、追及は後回しになってくれた。とはいえ、喉もそんな長くはもってくれないだろうし(何か変な表現だな、これ)今の内に言い訳を・・・・・・無駄かなあ・・・・・・。何言ってもばれるようなきがする・・・・・・。 
 そんなことをぐるぐる考えつつ服を着たり朝食を食べたりしていると、宮廷の召使いの方がサーラ様を呼びに来た。なんでも、朝の謁見だそうな。・・・・・・昨日言っていた『条件』って奴か。そうか、サーラ様とももうすぐお別れか・・・・・・。あれ?なんで、お別れなんだ?俺、何か忘れてる? 
「どうした?早くついてこい」 
 あ、はい。 
 
「お待たせしましたなエラーヘフ殿」 
 謁見室に入るなり開口一番タメ口敬語ですか、サーラ様。周りの方々微妙に剣呑な雰囲気なんですけども。 
「いやいや待たせてしまったのは妾の方じゃ。将器を量るとはいったが、なにしろ戦のことは将軍任せなものでのう」 
「優秀な臣に恵まれるとものぐさになっていけませんな。いや、羨ましいものです」 
「うむ、条件というのはそのことじゃ」 
 この話の流れは意外だったのか、サーラ様は少し怪訝な顔で問い返す。 
「と、いいますと?」 
「うむ、将とは部下を率い戦うものじゃ。故に将は部下に忠誠を誓わせる蛇格的魅力が必要じゃ。そして、その点に置いてはサラディン殿の将器を疑ってはおらん」 
「エラーヘフ殿にそう言ってただけるとは。お褒めにあずかり光栄ですな」 
「しかし、それは同時に自らの部下を死地に追いやるという事でもある。故に、将としては自らに忠を尽くす部下を斬り捨てる非常さも必要となろう。そこでじゃ、サラディン殿。そこのヒトを妾に差し出せい。それができれば兵を挙げようではないか」 
 場が騒然となる。そりゃそうだ。いくらヒト奴隷が高価だからって、戦争起こすほどのもんじゃないはずだ。どう考えても破格の取引。でも、俺にとっては全く別の驚き。なんで?昨日断ったじゃないか!?それなのに、なんで明らかに陛下にとって不利な条件を提示するんだ?そんなに俺を屈服させたいのか?そこまでサドなのか? 
 混乱する場の空気をよそに、サーラ様はためらうことなく答えた。 
「お断りします」 
『ええええええええええっ!?』 
 その場の二人以外の全員がハモって驚きの叫びをあげる。な、なんで?どうして?大臣とかからは安堵のため息とかもきこえるけども、それによりも驚きの声が大きい。てえか、俺の聞き間違えじゃないよね? 
「ほう、そうか。して理由を聞かせてもらえるかのう?」 
 な、なんで陛下も驚いてないんだ?まるでこう答えるのが分かっていたかのように冷静な・・・・・・。 
「確かに将とは即ち部下を殺すものである。このご高説いちいちもっともですな。その点に関しては私も異存ありません」 
「ふむ、それで?」 
「しかし、私に忠誠を尽くすものに私以外に忠誠を捧げよとは言えません。忠誠を尽くすという事は、即ちその生も死も主君の為に捧げるという誓いなのですから。このサトルはヒトの身でありながら私のために忠誠を尽くすと誓いました。その気持ちをを裏切っては将とは言えないでしょう」 
 謁見の間に沈黙が降りる。感心した者と呆れた者、半々ぐらいか? 
 衆目の視線を浴びて、サーラ様は微塵の未練も後悔も見せずに凛としてそこに立っていた。 
 ・・・・・・ところで。すっごい良い台詞だとは思うんですけども、サーラ様。俺、忠誠を尽くすとまで言いました?堂々と誇張してません? 
「見事じゃ、サラディン殿。よくぞ第一の試練を乗り切った」 
 なにぃッ!?第一の試練だとう!? 
「実はのう、ここでもし兵のために部下を差し出そうとしたら即座に斬り捨てるように将軍に命じておったのじゃ」 
 ええっ!?ってか、そこの豪奢な鎧着たヘビも驚いているみたいなんですが!? 
「そうじゃな?マフムード将軍」 
「は?はっはい!!まったくもって、その通りでありますな陛下。いや、第一の試練を見事乗り越えるとはサラディン様の度量に感服いたしましたぞ」 
 突然話を振られた将軍は一瞬戸惑ったものの、すぐに調子を合わせてサーラ様に祝辞を送る。 
 ・・・・・・なんだろう、この親近感。なんかマフムード将軍とは仲良く慣れそうな気がする。 
「して、エラーヘフ殿。第一の試練という事は、第二の試練があるという事ですな?」 
「うむ、サラディン殿にはこれから十の試練をくぐり抜けてもらおうと思っておるのじゃ」 
 なんで、何事もなかったかのよーに話を進められるんだ、あんた等。つうか後9個も何やらせるつもりなんだ。 
「第二の試練は近年この国を騒がす盗賊団『毒牙の顎』を退治する事じゃ。どうじゃ?うけるかの?」 
 と、盗賊団?それの退治?たった二人で?いやそれは無理でしょ・・・・・・。 
「面白い!その試練、見事くぐり抜けて見せましょうぞ!!」 
 嘘だあっ!?つか、やめて、サーラ様。いかん、まだ声が出ないしっ!? 
「その意気や良し。では、試練に挑むためにじっくりと英気を養うがよろしかろう」 
 な、なんでだああああああっ!? 
 
 そのあと謁見の時間は終わり、部屋に戻された。な、なんで盗賊団退治なんてことに・・・・・・。 
「むう、してやられたな。条件を増やされる事になるとは・・・・・・」 
 なんでそんなに冷静なんですかっ?い、いかん、まだ喉が。 
「まだ、喉がなおらんのか?」 
 そんな呆れられましても。そう答えようとした時、部屋のドアがノックされる。サーラ様が促すとお茶の道具のような物をお盆に乗せたヘビの召使いが入ってきた。 
「頼まれていたものですが・・・・・・」 
「おお、すまないな」 
 そういって、俺を目で促す。取りにいけって事ね、はいはい。どうもありがとう、と意味を込めて軽く会釈する。そのヘビも軽く会釈して出て行った。もどってそれをテーブルに置くとサーラ様は手慣れた手つきでお茶を煎れ始める。苦笑して、一人ごちるように言う。 
「ま、ヘビの薬だからヒトにどこまで効くかはわからんがな」 
 ・・・・・・あ、これって俺の喉の薬。頼んでおいてくれたのか。 
「ほれ、熱いから気を付けろよ」 
 どうもありがとうございます。うけとったそれはどうにも薬臭いけど味は甘い。蜂蜜か何かかな?喉に熱さと一緒にじんわりと染み渡るようで・・・・・・。 
「〜〜んん、効きますねえ、これ」 
 まだ完全にはほど遠いけども、小さい声を出すぐらいにはごまかせる。すごいね、異世界の薬。 
「どうもありがとうございます。頼んでおいてくれたんですね」 
「ん、まあしゃべれないのは不便だしな。それにこれからの事も相談しなければならんしな」 
「それより先に聞きたい事があるんですけど」 
 現実逃避という意味もあるけれど、それよりも何よりも、聞いておきたい事があった。俺のその気配を察したか、サーラ様も俺に向き直る。 
「なんだ?」 
「どうして交換しなかったんですか?」 
「・・・・・・何をだ?」 
「俺の身柄ですよ」 
「うむ、そのことか。なに、エラーヘフ殿の真意を読み取ったので・・・・・・」 
「嘘ですね。マフムード将軍でしたっけ?あらかじめ打ち合わせしているようにはとても見えませんでしたよ。」 
 言い終わる前に言葉を差し込む。少しかすれてはいたけど二人だけの部屋なら充分に聞こえる。 
「無論あの言葉に裏はなく、忠誠を尽くす臣下に対して・・・・・・」 
「俺の忠誠心なんて俺が一番信じてませんよ。サーラ様が俺に何度剣を突きつけたかなんて、数える気にもなりませんしね」 
 少し長く喋ったので薬湯をまた少しすする。薬が喉に染み渡る感触が伝わって収まるほどの時間、サーラ様は考え込んでいるようだった。が、ついに意を決したか口を開いた。 
「言ったはずだぞ?」 
 え?何を? 
「第二次アンフェスバエナ王朝はこの部屋で我々二人きりから始まる、と。それをいきなり終わらせる訳にはいかん」 
「あ・・・・・・」 
「王朝復興の暁には寝て暮らせると保証してやるぞ、とも言ったな。私はサトルと違って嘘はつかん。だから、手放さん。それだけだ」 
 どこか言い訳めいた説明をしてそっぽを向く。・・・・・・あんだけ芝居めいた台詞はすらすら出てくるのにどうしてこう言う時だけ照れるかな。 
 こーゆーとこ可愛いよな。 
「でも、そのせいで十の試練を受ける事になったンでしょ?いいんですか?」 
「良くはない。が、お前のせいなのだからしっかり働いてもらうからな」 
「う、覚悟します・・・・・・」 
 そう言えばいきなり盗賊団退治なんだよなあ・・・・・・大丈夫か、俺。 
「さて、私の話が終わった所で」 
「はい?」 
「『隠し事』についてしっかり聞かせてもらおうではないか。なあ?」 
「ぶっ!!」 
 い、いかん。それがあったんだ!うわやべえ何も思いつかねえ!なんか言い訳!未来テクノロジーな奴をっ!?そ、そうだド○えも〜〜ん!! 
「ふふふふ、もう喉がどうこうと言い訳はできんからなあ?」 
「ちょっ、まっ!なんで剣を抜くんですかっ!?まってまって、ごめんなさい言うから髪の毛はやめて〜〜〜!!」 
 
「殴りすぎですよ」 
 晩飯のパンを咬み下しながら、ぼこぼこの顔で俺がぼやく。口の中が切れているせいで血の味しかしない。 
 あのあと、全部白状させられた上『不貞の罪』でぼこぼこに殴られた。喉が良くなってもこれじゃあなあ・・・・・・。 
「ふん、もごまごみえむぁもまめむぁまむみ」 
「飲み下してから喋りましょうよ、はしたない」 
 一通り俺をリンチにかけてもサーラ様はまだ不機嫌らしい。 
「てゆうか、俺から襲ったのならともかく俺は襲われた方ですよ?何でこんな殴られなきゃいかんのですか。しかもグーで」 
「やかましい。力ずくで逃げるなりなんなりすれば良かったではないか」 
「できないのわかってるくせに・・・・・・あああ、ごめんなさいレモンかけないで下さい。マジでそれ染みるんですから」 
「ふん」 
 そんなに、陛下に襲われたのが気に入らないのか?(多々異論はあろうが、個人的にはあれをセックスとは呼びたくない)それにしたって、・・・・・・いや、もしかして? 
「もしかして嫉妬で・・・・・・」 
 
 タン 
 
「・・・・・・手が滑ったな」 
 こ、こめかみをかすめて後ろの壁に深々と突き刺さったシシカバブの串が「手が滑った」で済まされて良い物かっ!? 
「で、何か言ったか?」 
「いえ何も・・・・・・」 
 これ以上何か言ったらヤブヘビか?・・・・・・いやでも、サーラ様は一つだけ誤解してる。それだけは言っておかないと。・・・・・・俺、なんかこのパターンでどんどん深みにはまってる気がするな。まあ、いいか。 
「ただ、言いたい事が一つだけ」 
「なんだ?」 
「美しいとか偉いとか強いとかって理由でサーラ様の奴隷になると決めた訳じゃありませんから」 
 一瞬の空白。微妙な沈黙。・・・・・・しまった、えらく解釈の仕方が微妙な表現になってしまった気がする。 
「こ、この鳥は美味いな」 
「ちょ、ちょっと揚げすぎじゃないですかね?」 
 とりあえず、話に乗っかっておく。あのままいったら勢いのまま何言ってたかわからんな。 
「いや、このパリパリの所が葡萄酒に良く合うのだ」 
「そんなもんですかねえ」 
 そう言って二人同時に鳥の腿揚げに手を伸ばす。二人の指先が重なった。 
 皿の上に残った最後の一本の上で。 
 視線が絡みあう。・・・かなり別の意味で。 
「奴隷としては分をわきまえるべきだな?」 
 努めて平静な口調でサーラ様がそう言う。 
「サーラ様さっきから食べすぎですよ?お腹壊しますよ?」 
 出来うる限り理性的に主張する。 
「揚げすぎとか言ってなかったか?」 
 ド ド ド ド と書き文字を背負ってサーラ様が立つ。テーブルが揺れた。 
「ええ、だから身体に悪い物は奴隷が片づけないと」 
 ゴ ゴ ゴ ゴ と書き文字を背負って俺が立つ。椅子が倒れた。 
 もう、二人の間に言葉はいらない。二人とも一撃で決める覚悟を右手に込めて、腰だめに構える。 
 そして、全てを初めて終えるための合図が二人から同時に放たれた。 
 
 『最初はグー!』 
 
〜〜第二話 終〜〜 
 

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