「…マサト君、また怖い夢みちゃった…一緒に寝てもいい?…」
そう言って枕を抱きしめながらパジャマ姿の唯は俺のベッドに潜り込んで来た
あお向けで寝ている俺の腕に唯は絡まるように抱き付き
「はぁ…安心する…」
と言って更にきつく体を密着させた
俺の肩には唯の柔らかい唇が、二の腕にはまだ膨らみかけの乳房が、手の甲には弾力のあるふとももが押し当てられている
…ああ、また今夜も眠れそうにないな…そう冷静に考えながらどうにか理性の糸が途切れないよう意識を集中させる
唯がこんなふうに夜中俺の部屋にやってくるのはなにもこれが初めての事ではない
そう、あの事件が起こってからはじまったのだ
俺と唯は幼なじみだった
俺が三つの時、唯が生まれ家が隣りどうしだったため兄妹同然に育って来たのだ
それなのにこんな気持ちになるなんて…俺はどこかおかしいのだろうか?
ある日俺の父と唯の母が結婚した
俺が中学三年、唯が小学六年の時だった
俺の母親は遠い昔男と出て行ってしまい、唯の父は唯がまだ幼いころ病気で亡くなったのだ
唯と本当の兄妹になるのは複雑だったが、唯はお兄ちゃんが出来たと単純に喜んだ
何かというとお兄ちゃんお兄ちゃん…
次第に俺の名前を呼んでくれなくなっていった
俺は唯のお兄ちゃんになりたい訳ではない、俺は唯の…唯の……
ある日俺は唯のお兄ちゃん攻撃にたえかね、ついにこう言ってしまった
「別に俺、唯の事妹なんて思って見てないから」
自分でも驚いた
遠回しにこんな形で告白してしまうなんて
恐る恐る唯の方を見てみると、唯は少し泣きそうな顔になりながらも
「…ごめん…もう言わない」
そう言って、自分の部屋に入って行ってしまった
その日の夕食、唯は姿を現さなかった
昼間の事が心配になり唯の部屋を訪ねる
「唯、夜ご飯食べないのか?」
返事がない…
「唯、開けるぞ…」
唯の部屋に入ると唯はベッドの上で布団を頭まで被り眠っているようだった
「唯、どこか具合いでも悪いのか?唯?」
かすれた声で唯がやっとこたえる
「…ごめんなさい」
「…え?」
「…ごめんなさい、怒ってる?嫌いにならないで…もうマサト君の事お兄ちゃんなんて馴れ馴れしく呼ばないから…嫌いにならないで…」
…ああ…違う…そうじゃない…そうじゃないんだ…あの言葉は間違って唯に伝わってしまった
ようするに唯は俺を男としてなんて今まで一度だって見ていなかったんだ…一度だって
こうして俺は唯に気持ちを伝える事なく静かにフラれてしまった
それきり唯は俺をお兄ちゃんとは呼ばなくなり、しばらくの間二人の関係はぎくしゃくしていた。
そして俺は唯に嫌われないよう細心の注意を払った。
脱衣所のかごの中に脱ぎ捨てられたうすピンク色の下着(唯がさっきまで着けていたものだ)を横目で眺めながら思う。
今まで何度唯を押し倒そうとしたか。
何度そんな乱暴な衝動を押し殺してきたか。
好きな娘と一緒に住むのがこんなに辛い事なんて…
唯は中学二年になり日に日に女の体に近づいて行った。
学校で変な虫がついて居ないか心配するくらいに最近の唯は妙に綺麗だ。
それとなく彼氏でも出来たんじゃないか?なんて自虐的に問いただすも、
「変な事聞かないでよ〜セクハラおじさん」
そう言っては笑ってごまかされる。
唯に俺以外の男なんて…そう考えただけで嫉妬で気が狂いそうになった。
しかし、夏休み直前の蒸し暑い夜事件は起こってしまった。
唯が学校から帰って来ない。
いつもなら部活のない日は授業が終わればすぐにでも帰ってくるのに、もう夜の8時を回っている。
友達と遊んでいたにしても中学生がこんな時間まで外をうろついているなんて…今までこんな事は一度もなかった。
急に綺麗になった唯……
嫌な予感が胸をかすめ、居てもたっても居られなくなり俺は家を飛び出した。
すでに何度も携帯に電話をしているがつながらない。
気持ちがあせる。
唯、唯、どこへ行ってしまったんだ、唯、、
唯の行きそうな所…どこだ?本屋?ゲームセンター?カラオケ?
馬鹿…落ち着け…やみくもに捜し回るより、まずは学校へ行って見よう。
俺は全速力で中学校への近道となる公園を走った。
が、途中で見覚えのあるバッグが目に入る。
中学校の通学用指定バッグ、猫のキャラクターのキーホルダーがつけられている、唯が二年生に進級する時俺があげた物だった。
それが公園のベンチの下に落とされたように転がっている。
一瞬にしてさっきまで興奮していた血の気が引いていくのを感じた。
まさか…まさか…
俺はゆっくりとベンチの後ろのしげみの奥へと入って行った。
「…ゆ…い?…唯?…居るのか?…居るんなら返事してくれ…唯」
辺りはしんと静まり返っている。
「あ…マサ…ト君…だめ…来ないで…見ないで…やだ…」
唯の声だ。震えておびえているが確かに唯の声だった…歩を進めるごとに公園のライトに照らされた唯の姿が浮かび上がってきた
ああ……唯……………
唯は草の上で横向きに倒れ両手はネクタイで縛られていた。ワイシャツのボタンは全部外されブラジャーのカップはたくし上げられている。その中から見える小さくて真っ白な丸い胸。
アダルトビデオでよく見るような光景だった…
唯の体を起こし服を直す。両手のネクタイをほどいてやる。
俺は生まれて初めて唯を抱きしめた。
そっと…優しく…
弱くて壊れそうな体。
唯は少しびくっとしたがそれから肩を震わせ小さく泣いた。
どうしてもっと早く唯を探しに行かなかったんだろう。
後悔の念が押し寄せる。
俺は唯を守れなかった。何もかも終わった後にやって来た、ただのでくのぼうだ。
「お願い誰にも言わないで…」
後日、唯はそう言ったが、唯の両手を縛っていたネクタイは唯の通っている中学の男子制服の物だった。
俺も昔していたネクタイだからわかっている。
どいつだ、探して殺してやる。
「唯、これは犯罪なんだぞ。犯人の顔見なかったのか?」
さえぎるように唯は言った。
「私の付き合ってる人なの」
ワタシノツキアッテルヒト?
「だからそういうんじゃないの、なんでもないの、私がいけなかったの」
俺の唯はそんな事しない、そんなそんな…
それからだった。
唯が毎晩俺と一緒に寝るようになったのは。
「これからは気をつけるんだぞ、世の中には馬鹿な男が沢山居るんだから」
横で眠る唯は言う。
「うん、でもあの人はそんな人じゃないから」
あんな目にあっておいて何を言っているんだ。
「別れた方がいいんじゃないのか?」
「…そうかも」
現に唯は眠って居る時うなされている。「怖い夢」を見ているんだろう。ツキアッテルヒトに犯される。
ふと思った。唯はどこまでそいつとしたのだろう。下世話な話、唯の下半身に服の乱れはなかった。
もしかすると唯はまだ…
あの日見た白い胸がちらついた。
しかし寝不足だ。
こう毎晩泊まりに来られたら身が持たない。
今が夏休みで良かった。俺は唯が寝付くとそっとベッドを抜け出し街を徘徊し昼間になんとか睡眠をとった。
俺も「怖い夢」を毎晩見ていたのだ。
泣いて嫌がる唯を犯す「怖い夢」を。
このままでは駄目だ。こんな生活が続いたら「怖い夢」は現実になってしまう。
俺はいつ起きていつ眠っているのかわからなくなっていった。
オレモユイニサワリタイ、ズットキツクユイヲダキシメテイタイ、ユイノツキアッテルヒトにナリタイ、ユイノ、ユイノ、
「あのね、やっぱり好きなの、忘れられないんだ」
ダレヲ?
「学年一カッコいい人だったの、最初はすごく優しかったんだけど」
ズットオレハガマンシテキタ
「でも新しい彼女できたみたい、女子大生なんだって」
カンタンニオトコニツイテイキヤガッテ
「やっぱり私じゃ駄目だよね…」
オレハズットダイジニシテキタコレカラモズット
最近俺の夢の中では俺と唯は恋人同士で、やっぱりこうして一緒に寝ているのだ。
俺が唯の髪を撫でると唯は喜んで抱き付いてくる、そっと唇に触れると「やだぁ」と恥ずかしがって顔をそらす。
俺は両手で唯の頬を固定して無理矢理キスをする。夢の中でもすごく柔らかい。
本当に唯は恥ずかしがり屋だ。嫌がる振りをして手で俺の顔をはねのけようとするので唯の手首を強く握りしめ枕の上で押さえ付ける。
唯は結構、力が強い。しっかりと手首をつかんでいなくては。
手の抵抗がなくなり俺は唯の体にのしかかると、そのまま首筋に吸い付いた。甘い匂いがする。
更に身体が沈み込む。パジャマの上から胸をまさぐると唯は小さく悲鳴をあげた。
「嫌っ!やめて…」
パジャマのボタンを外しながら唯の胸元に唇を這わせる。こんなにも唯は柔らかいのか。
あらわになった、かわいらしい白い胸を俺は両手で揉みしだく。
突起したピンクの部分を口に含ませると唯は身体を軽くのけ反らせた。
唯の身体がビクンと反応する。
「やっ…やめ…」
止めない。
俺は唯の突起をしつこく舌先で舐め回す。片手ではもう一方の胸の突起を人差し指と親指でいじめるように弄んでいた。
「嫌ぁ………」
唯の可愛い声がもれる。
「…うっ…うぅ……」
俺も思わず声をあげる。
本能を剥きだしにした動物的な声だ。
唯の手はもう抵抗するのをやめていた。俺が強く手首を握りしめていたため唯の両手は鬱血し赤く染まっていた。
かわいそうに、そう思って唯の二の腕から指先に向かって俺は唇を滑らせた。唯の細長く折れそうな震える指を一本一本無心でしゃぶる。
熱い、身体が熱い。早く早く楽になりたい。ずっと我慢してきたんだ。おかしくなりそうだった。早く。早く。
唯にまたがった時から唯のふとももには俺の固くなった部分が押し当てられていた。
唯のふとももにに擦れる度に、甘い刺激が脳に走る。ああ、早く、もう、もういいんだろ?唯。
好きで好きで堪らない。「唯、好きだよ、愛してる。ずっとこうしたかっんだ、唯」
「唯、好きだ、愛してる」
俺は呪文のように唱えていた。
「やだ…どいて…離して…重いよ…手ぇ痛い…」
唯の痛々しい訴えを聞きいれたくなかったからだ。
本当はもう途中から気付いていたんだ。
これは夢でもなんでもない。
俺も結局馬鹿な男の一人なんだ。
違う!嫌だ、俺と唯は恋人同士だ。夢の世界の俺は言う。
やめとけ、これ以上いくと、取り返しのつかない事になる。現実の俺だ。
唯、好きだ。一番俺がお前を大切に想っている。
そう想っているんならやめろ。
もう一生唯に嫌われたままだぞ。
嫌だ。好きだ。
わずかに夢の世界の声が俺を支配していった。
唯のショーツに手を入れる。少し湿った唯の表面を俺は丁寧に掻き回した。
唯の下の突起を見つける。指で軽く弾くと唯は腰をくねらせて叫んだ。慌てて唯の口を塞ぐ。唯は足をじたばたさせ暴れた。静かにしてくれ、唯。
まだ間に合う、ここでやめておけ。
現実の声を振りはらい俺は唯の中にゆっくりと人差し指を進ませていった。
温かい、唯とひとつになりたい。
その瞬間、唯は子供のような大声で泣き出してしまった。
赤ん坊のように。
俺は完全に我にかえった。
俺はぐずついた子をあやすかのように唯を抱き寄せた。
「ごめん、ごめんな、もうしない、もうこんな事しないから」
泣きじゃくる唯。
よしよし怖かったな、と何度も唯の頭を撫ぜる。
俺が唯を泣かせたんだろう。
心底情けなくなった。
唯にパジャマを着せて何度も謝る。
「ずっと好きだった」
言い訳がましく繰り返した。
だからといって今回のような事が許される訳ではない。
唯は何も喋らなかった。
夜が明けてきた。
窓から陽射しがさす。
見ると唯の首筋から胸元にかけて無数のキスマークがあった。
もう一度、もう一度だけキスがしたい。
唯が逃げないようにきつく抱きしめる。
最後のキス。
唯は何も言わず部屋を出て行ってしまった。
何も言わなかったが、唯の目は明らかに俺を軽蔑していた。
全くの他人を見るような冷たい視線。
俺はこんな目で唯から見られた事は一度もない。
いっそ何もかも全部夢だったらよかったのに…
俺はぐったりと天井にあお向けになり久しぶりに眠った。
いつまでも唇にだけ唯の感触が残っていた。