私は今、幼馴染みの家でメイドとして働いています。
自分で会社を立ち上げた彼は今では経済誌で持て囃される程の若手イケメン社長として活躍されています。
実際、私がメイドとして働きに来るまでは、かなり色々な所に行っていたようで、何度か雑誌でその手の記事を目にした事がありますが
私が住み込みで働きに来てからと言うもの、全く浮わついた話が出てくる事がなくなりました。
仕事で帰りが遅くなる事はあっても、泊まりで家を空けたり、どこかで遊んで帰りが遅くなるという事がありません。
私が住み込みで働いているのが問題なのかな?彼女さんが居ても、部屋に連れてくることもできないだろうし、
夜遊びしたくても、以前私がお鍋を炎上させた事を心配して、家が火事になっていないか心配で真っ直ぐ帰ってくるしかないのかな?
はぁ、情けない…。篤守さんが帰って来たら言ってみようかな。
「家の事は心配しなくても大丈夫だから、泊まりでどこか行ってゆっくりして下さい」
って。そしたら、篤守さん喜んでくれるかな?私に気兼ねする事なく……。
篤守さんが知らない綺麗な女性の肩を抱いて何処かのホテルに入って行く姿を想像したら、
何となくモヤモヤしてしまい私は頭をブンブン振った。
そんな事を考えていたら篤守さんが帰ってきた。夕食の時にでも言ってみようかな。
「篤守さんお帰りなさい」
「ただいま都。風呂の後に夕食を食べるよ」
篤守さんは上機嫌でお風呂場に向かっていった。
「篤守さん?機嫌が良さそうですが、何かあったのですか?」
私の声に篤守さんは振り返って「後で教えてあげるよ」と言って、そのままお風呂場に消えていった。
それから数十分後、パジャマ姿の篤守さんが台所に姿を現した。篤守さんが椅子に腰かけると、
何品かの料理を食卓に並べて、いつも通り篤守さんお気に入りのグラスにビールを注ぎ、話しかける。
「先程の続きです。何か良い事があったのですか?」そう質問した私の顔を見ながら、篤守さんは口を開いた。
「取引先の社長さんが新しいホテルをオープンするらしくて、ペアで招待してくれたんだ。だから今度の連休に行こうと思う」
「へ〜良かったですね。どなたと行かれるんですか?」
「何を言ってるんだい?君以外に居るわけないじゃないか」
……え?何かの聞き間違い?私と行くって聞こえた気がしたような?え?私と?
「急ですまないが、来週だからちゃんと準備をしておいてくれよ」
「わ…わたしでいいのですか?他の方と行かなくて宜しいのですか?」
思ってもいなかった回答に驚きのあまり、私はアワアワしてしまった。そんな私の姿が可笑しかったのか
「そんなに驚いてどうしたんだい?僕と旅行に行くのが嬉しすぎて動揺したとか?」
更に恥ずかしい台詞を言われて、私は顔が真っ赤になってしまった。酔ってる。篤守さん絶対酔ってる。
普段は酔う程飲まないのに、今日に限っていつもの3倍も飲んでいるせいだ。
「はい。篤守さんと2人きりで旅行に行けるのが嬉しくて舞い上がってしまいました」
酔っ払いに何を言っても無駄だと思い、私はサラッと言って、席をたった。チラっと篤守さんの顔を見たら
耳まで真っ赤だった。はぁ、そんなになるまで飲まなければいいのに…。私はお水を用意する為に冷蔵庫に向かった。
明日にはこの話しは忘れて別の人と行くって言うよね。だって私はただのメイドだもん。
…モヤモヤした気持ちを隠すようにネラルウォーターをコップに注ぎながら急いで篤守さんの元に戻った。