「な…ななな…」
いきなりの出来事に私は動揺のあまり、言葉が出ず口をパクパクさせていた。
「都可愛い」
そう言うと篤守さんが再度、唇に軽くキスをしてくる。
「あ…あのあのあの…」
冷静に現状を把握できない私は顔を真っ赤にして、またしても鯉のように口をパクパクさせていた。
篤守さんは硬直したままの私を意にも介さず、抱きしめながら背中を何度か撫でてくる。
「都が欲しい…」
そう言うが早いかメイド服の背中のチャックに手を掛け、下ろしかける。そこでやっと私は我に返った。
「だ…ダメです篤守さん!!」
そう言うと篤守さんを押しのけイスから立ち上がり、彼と距離を取る。
「何がダメなの?」
ムスッとしたまま篤守さんが言葉を返す。
「わ…私はただのメイドですよ?日本国で言う家政婦なんです!!篤守さんは雇い主なんです」
我ながら良く分からない事を言い放つと、案の定篤守さんが
「だから?」
と、身も蓋もない切り返しをしてくる。いくら動揺してるからって、もっと言いようがあるだろう自分!!
自分の返しの下手さとボキャブラリーの貧困具合に涙が少し出てきた。
「だ…だから例えて言うなら社長が部下に手を出しちゃダメって事なんですセクハラです!!」
全然上手くない例えを出しながら、私は少しずつドアの方に近づいて行く。
「じゃあ、好き合ってたらいいの?」
篤守さんはククッと笑い、部屋から逃げ出そうとする私に余裕で近づいてくる。
ドアまで後一歩という所で篤守さんが私の目の前に立っていた。
「そ…そうです…」
相手はただの酔っ払いのはずなのに蛇に睨まれた蛙のように、私は逃げ出せずにいた。
「都、好きだよ」
耳元にアルコールを含んだ吐息がかかり、私は足の力が抜けそうになる。
「ず…るい…です」
酔ってる時にそんな事言わないで下さい…信じそうになる。
篤守さんの顔が近づいてきた時、自然と私は目を閉じていた。
何度も角度を変えて重ねられる唇に、息苦しくなり私は空気を求めて口を開く。
「…苦し…」
酸素を求めて一旦離れようとすると、篤守さんの舌が咥内に侵入してくる。
「ん…ふぁ」
息苦しさと咥内を蹂躙する舌、ピチャピチャという水音に私は思考が働かなくなっていった。
そして、気がついたら私も自分の舌を篤守さんの舌に絡ませていた。
彼の首に腕を絡ませて、自ら歯列を舐め、互いの唾液を飲み下す。
どれ位キスをしていただろう、やっと互いの唇が離れた時には私の下半身は濡れすぎて下着はその役目を果たさなくなっていた。
「しよっか…?」
いつの間にか、メイド服の中に手を入れて篤守さんが私の胸を揉みながら囁く。
「…はぁ…あ…やぁ」
ブラジャーの中に手を入れられ、直に胸の先端を弄られ、私は声にならない喘ぎを上げてしまう。
こんな技術どこで学んだんですか?などとツッコミたいのに、気持ち良すぎて言葉を発せられない。
だいたい、いつもと全然キャラが違うじゃないですか!?「しよっか?」「はい」って答えちゃうじゃないですか!!
上手い切り返しも見つからないまま、何度も胸を揉まれ首筋に唇を落とされる。
すると篤守さんが言ってはならない台詞を口走った。
「汗臭い?」
篤守さんの一言に、急激に冷めた私は、
「離せ…酔っ払い」
そう言い残し、呆然とする雇い主の部屋を出て行った。 もうクビでもいいや…。