(注:前作の数ヶ月前のエピソードです) 
 
『 陽華へ  
 もう駅前に来ています。  
 約束通り、北口に居ます。  
 そっちはどれ位かかりますか。  
時雨』  
 
「送信……っと」  
俺は携帯電話にメールを打ち終えると、顔に冷たいものを感じて空を見上げた。  
天気予報は一日晴れだったが、現在の雲行きは少々怪しい。  
「降らなきゃ良いけど」  
俺は溜息を吐いて、駅舎に掛けられている時計に目をやった。  
12時6分。  
約束の時間を、もう1時間以上オーバーしている。  
電車を一本乗り過ごしていたとしても、もう到着しても良い時間だ。  
携帯電話に掛けてみても、電源が切られていた。  
流石に心配になってくる。  
やはり、叔父の家まで迎えに出向いたほうがよかったのだろうか?  
陽華ももう高校生である。加えて片道4、5時間の交通費を考えると、彼女に任せた方がよいと考えていたのだが。  
普段ぼーっとして、どことなく頼りない少女の居住いを思い出すにつれ、なんだか不安になって来る。  
叔父に引き取られて、もう3年近く経つのだ、少しはしっかりしてくれているのだと思う、……きっと、願わくば。  
『だけど、陽華だからなぁ……』  
おおかた、特急で寝過ごして、終点まで流れ着いているのではないだろうか。  
彼女はどんな状況でも眠れる。寝てしまう。  
前にも幾度となく似たようなことがあった。例えば、駅前の喫茶店で寝ている間に、目的の電車が出てしまったり……。  
「……ひょっとすると」  
ふと思い立った俺は、改札口のすぐ傍にあるチェーン店のカフェへと足を向けた。  
 
「やはりそういうことか」  
店内の隅に置かれた一人がけの席で、腕を枕にすやすやと眠る少女の姿を確認し、俺は再び溜息を吐いた。  
癖っ気のある長い黒髪に白い肌、痩せ気味の体に華奢な腕、幸せそうな寝顔。  
一目で判った。  
陽華は変わっていない。  
俺はその黒い髪をそっと指で漉くと、暫し逡巡してから、彼女の肩を軽く揺すった。  
「陽華」  
返事は無い。  
「起きて、陽華」  
今度はちょっと強めに力を込める。  
やはり反応は無い。  
仕方がない。  
俺は放置され結露しているアイスコーヒーのグラスを取ると、彼女の頬に押し当てた。  
「ひゃう!」  
急激な刺激に、眠り姫は変な悲鳴を上げながら飛び起きた。  
拍子にバランスを崩し、高めの椅子から転落しそうになったので、慌てて背中からその体を支える。  
店員や客の奇異の視線が集まる中、俺と陽華は奇妙な格好で抱き合っていた。  
陽華は仰向けに倒れかけたまま、顎を上げる。  
きょとんと見開いた目と目が合う。  
「にーさん?」  
「うん」  
久方振りの再会。  
高校生になった妹は、頭を天地逆にしたまま、いまだに寝惚けた様子で、にへらと笑った。  
「おはよう、にーさん」  
 
     * * *  
 
結局、陽華は2時間前には駅に着いていて、先回りして俺を驚かせようと喫茶店から様子を伺っていたそうだ。  
それが数10分も待てずに寝オチとは、なんとも彼女らしい。  
そう笑うと『にーさんがもっと早く来ないのが悪い』と無茶を言いながら、むくれた。  
とりあえず、いつまでも店にいては落ち着かないので、さっさと家に向かう。  
バスを乗り継ぎつつ、道すがら色々なことを話した。  
近況のこと、これからの家事分担のこと、陽華が通うことになる高校のこと。  
空白の時間を埋めるように、俺たちは色々なことを話した。  
ブランクを感じさせない、軽快な会話。  
時間はあっと言う間に過ぎ去り、いつの間にか自宅の前に到着していた。  
3時間ぶりの、彼女にとっては3年ぶりの、我が家を見上げる。  
蔦に覆われたレンガの壁。ぞんざいながらも一応は手入れをしてある庭。  
梅の花が散り際だった。  
陽華は懐かしそうに目を細める。  
「変わってないね」  
「まあね」  
ふと目を下ろすと、正面玄関の前に誰かが所在無げに立ち尽くしていた。  
ショートカットで薄手のジャケットにジーンズのラフな格好。  
女は俺の姿を認めると手を振りながら歩み寄る。  
「待ってたぞ時雨ー。先週借りた本……」  
その表情が、後ろの陽華を見るや凍りついた。  
「……美幸さん」  
陽華も同様に、怯えたような顔で硬直している。  
俺はポケットから鍵を取り出すと陽華に渡した。  
「陽華、先に戻って。部屋は前使ってたのだから、判るね」  
「でも……」  
「話がややこしくなるから」  
陽華はうな垂れて、足早に美幸の横を通り過ぎた。  
と、突然踵を返し、懐から携帯電話を取り出す。  
「あの!」  
「……何?」  
美幸は若干強張った顔で応える。  
「後で、お話、しませんか。ちゃんと、二人で」  
「……いいけど」  
二人は無言でアドレスを交換する。  
用が済むと、陽華は一礼して家に駆け込んだ。  
 
「……妹さん、戻って来たんだ」  
「ああ」  
会話が途絶える。  
重苦しい空気。  
「どうするつもり?」  
何を? とは訊き返さなかった。  
「陽華次第ではあるけど、彼女の意思を受け入れるよ」  
「私が言いふらしたら?  
"あそこの兄妹は近親相姦にふけっています"って」  
美幸との付き合いは長い。彼女がそんなことをするとは思えないが。  
「もう一度叔父さんに引き取ってもらうしかないな。  
君と完全に縁を切った上で、社会人になってから家を変えて、改めて呼び寄せるよ」  
彼女は顔をしかめた。  
「本気?」  
俺は無言で彼女を見返す。  
1分はそうしていただろうか、彼女は俺から目線を外すと、大きく溜息を零した。  
「しょーがないな。  
私からはもう何も言わん。勝手にしてよ。  
今後あんたらが外でいちゃついていても、私は他人のふりをすることにする」  
頭をかきむしりながら、突き放したようにぼやく美幸。  
何時も通りのざっくばらんな様子に、俺は苦笑した。  
「まだ判らないさ。  
陽華もこの3年で、誰か別の良い人を見つけてるかもしれない。  
相手が悪くなければ、身を引くよ」  
「たぶん、それはない。  
あの娘の意志は固いよ。きっと。じゃなきゃ……」  
身を引いた私が馬鹿みたいじゃない。  
届くか届かないかぐらいの声で、美幸は呟く。  
俺は聞こえないふりをした。  
彼女は顔を赤めると、俺に持っていたハードカバーを4冊押し付ける。  
「さっさと行きなさいよ。お姫様がお待ちかねでしょ」  
そう言うが、物凄い駆け足でその場を立ち去る。  
俺は陽華の手荷物が詰まったボストンバッグと本の山を両手に、途方にくれた。  
 
     * * *  
 
引越しは滞りなく終わった。  
生活に必要なものはこちらに揃っているので、業者から陽華の私物を詰めたダンボールを受け取れば、後は彼女に任せればいい。  
俺は鼻歌交じりにお茶の用意をしていた。  
茶葉を缶からポットに移していると、軽い足音が近付いてくる。  
足音は停止せず、そのまま俺にぶつかって来た。  
「にーさんにーさん。  
終わったよ、片付け」  
俺の背中に抱きついたまま、耳元で報告して来る陽華。  
「はいはい、判ったから離れなさい。掃除はまだだろ」  
「えへへー」  
摺り付いてくる妹を見て苦笑する。  
もう高校生になると言うのに、相変わらずだ。  
一応人目をはばかる様になっただけ、ましかもしれないが。  
「変わらないな、陽華は」  
「……変わらないよ」  
じっとりとした、低い声音。  
顔を俺の背中に埋めたまま呟く陽華に、俺は思わずぞくりと背筋を凍らせた。  
「あれから何度も諦めようと思った。  
忘れようとした。ひとりで生きていこうと思った。  
些細なことと笑いとばそうとした。他の男のひとを好きになろうとした……」  
陽華は顔を上げると、俺のシャツを両手で掴み、押し倒した。  
力自体は大したことはない。  
けれど気圧されていた俺はバランスを崩し、その場に尻餅をつく。  
茶葉が床に散らばった。  
「全部ダメだった! 全部!!  
諦められなかった! 忘れることなんてできなかった!  
にーさんに逢いたくて、声が聞きたくて、でもそうしたら決意が鈍るから……」  
「知ってるよ」  
泣き喚きながら馬乗りになって詰め寄る陽華を、俺は両手で抱きしめた。  
「陽華、時々家の近くまで来てただろ。ひとりで、こっそり。  
俺に会わずに、墓参りだけして帰ってたけど」  
「知ってたんだ」  
幾分落ち着いたのか声を落とす陽華。  
「本当はお盆でも正月でも、理由をつけて逢いに行きたかったわ。  
けど、もう、にーさんまで"キモチ悪い"なんて言われるの、イヤだったから」  
「陽華、あの時言われたこと、まだ気にして……」  
陽華は小さく頷いた。  
「ほとぼりが冷めるまで、にーさんと決めた"3年"が過ぎるまで、ずっと待ってた」  
ぐず、と鼻をすすりながら、陽華は濡れた瞳で俺を見下ろした。  
 
「ごめんなさい。  
わたし、にーさんが好きです。  
どうしようもなく、好きです」  
閉じた瞼から熱い滴が零れる。  
「こんな、迷惑かけてしまって、どうしようもない妹で、ごめんなさい」  
「陽華――――」  
俺はそっと陽華の頭を抱き寄せると、その唇を自分の唇で塞いだ。  
3年ぶりのキスは、涙の味がした。  
何度か息継ぎしながら、たっぷり時間をかけ、彼女の唇を味わう。  
やがてどちらからともなく唇が離れる。  
「俺も好きだよ。  
愛してる。  
3年間、ずっと忘れられなかった。  
陽華が別の男を好きになるんじゃないかって考えると、それが良い事だと判っているのに、嫉妬で狂いそうになった。  
だから、ありがとう。  
好きでいてくれて、ありがとう」  
だから、自分を責めないで欲しい。  
悲しい顔をしないで欲しい。  
俺は彼女の頬を濡らす涙を、舌で拭いながらそう願った。  
「でも、わたしはヘンタイだよ。  
血のつながった実のにーさんに欲情できる、オカシイ人間なんだわ」  
「奇遇だね。実は俺も、実の妹に対してエロいことを考えられる変態なんだけど。  
陽華で、その、自分を慰めたことも沢山あるし」  
陽華は暫くきょとんとしていたが、意味を理解すると顔を赤らめながら笑った。  
「じゃあ、わたしたちはヘンタイさんどうしだね」  
「ああ、そうかもね」  
二人で顔を寄せ合い、ひそかに笑い合う。  
ひとしきり笑った後、俺の胸にちょこんと頭を置いて、陽華は囁いた。  
「にーさん。憶えてる?」  
「何を?」  
暫しの逡巡。  
「もし、3年経っても、ふたりの想いが変わらなかったら。  
まだ、お互いのことを一番だと思えるなら。  
えと……キ、キスの続きを……」  
それ以降は口ごもるだけでよく聞き取れなかったが、大体は判った。  
「今すぐ?」  
首肯。  
俺は苦笑して起き上がると、真っ赤になって俯く陽華を抱え上げる。  
相変わらず少女は信じられないくらい軽かった。  
 
     * * *  
 
陽華を抱えたまま自室に向かい、ベッドの上にそっと座らせる。  
そのままかがんで唇を合わせた。  
「ん」  
キスだけなら3年前も、その以前から何度も交わしている。  
だが、これから自分達がしようとしている行為のことを考えると、後ろめたさも勿論あるが、いやがおうにも興奮が高まった。  
必死に、競い合うように、お互いの唇をついばみ合う。  
舌を絡め、互いの唾液を嚥下する。  
ようやく口を離す頃には、陽華は肩で息をするほど、くたくたになっていた。  
俺もベッドに腰かけ、膝の間に陽華を座らせて、彼女の流れるような黒い髪に顔を埋める。  
彼女の匂いを、鼻腔一杯に満たす。  
「陽華は、いいにおいがするね」  
恥ずかしそうに身悶えする少女を抱きしめ、落ち着かせてから、そっとブラウスのボタンに手をかける。  
「いい?」  
「うん……。でも、自分で脱げるわ」  
「脱がせたいんだ」  
焦らないように、一つ一つ反応を愉しみながら、ボタンを解き、スカートのホックを外していく。  
布地が開き、真っ白なお腹と、ほっそりした腿が露になった。  
そっと指先を素肌に這わせる。  
すべすべしていて気持ちがいい。  
陽華は恥ずかしそうに、もどかしそうにしながらも、為されるがままだった。  
でもそれだけでは到底満足できなくて、俺は下着にも手をかける。  
ブラジャーはあっさりと外れ、小ぶりな乳房が姿を見せた。  
妹のそんな場所を目にするのは、一体何年ぶりになるだろうか。  
「凄く、きれいだ」  
「あぅ……」  
陽華が顔を更に紅潮させるが、体を一瞬震わせただけでそこを隠そうとはしない。  
薄紅色の先端を撫でながら、膨らみ全体を揉む。  
「んぅ」  
陽華は眉を寄せて、切なげな声を漏らした。  
今まで聴いたことの無い種類の声音。  
もっと聞きたくて、俺は乳頭を指で拭ったり、はさんだりしながら、薄い脂肪をこねくり回した。  
顔を上げキスを求めてくるのに応じながらも、胸を弄る手は休めない。  
やがて息が苦しくなり、酸欠と法悦とで息も絶え絶えになりながら、陽華は俺に体重を預けた。  
 
彼女が息を整えるのを待って、股間を覆う布に手をかける。  
布地を少しずらし、割れ目の周辺をそっと撫でた。  
僅かな湿り気。  
そこには流石に抵抗があるのか、陽華の体が目に見えて強張る。  
顎を引き上げてもう一度キスをしてから、再び抱きしめて落ち着くのを待つ。  
腕の中の躯がやわらかくなり、再度股間に手を伸ばす。  
腰を上げさせて下着を脱がすと、今度こそ覆うものがなくなった割れ目に直接指を這わせた。  
「〜〜〜〜っ!」  
刺激に戸惑いもがく躯を抱きしめながらも、片手では秘部を弄り続ける。  
じんわりと水気が溢れ出し、その度に指先で拭う、それを繰り返す。  
入り口が段々とほぐれ、やがて陽華の息に陶酔の色が入り始めた。  
しっかりとならしてから、少しだけ膣の内部に指を押し込む。  
ゆっくりと肉壁をかき分けながら、上部の小さく膨らんだ部分を探り当てる。  
「……ッ!!」  
指先でそこを撫でると、陽華は電流が流れたように背筋を震わせた。  
ベッドの上で仰け反ったまま、歯を食いしばって、必死に何かに耐えている。  
「いきかけた?」  
「……たぶん」  
途切れ途切れの声で答える陽華。  
俺が手を休めている間に、深く深呼吸を一つ。  
「にーさん、ほんとに初めて?」  
「勿論」  
「でも、なんか、手馴れてるわ」  
「そんな事ない。俺もいっぱいいっぱいだよ」  
やり方なんて良く判らないけれど、ただ、俺の指で感じてくれるのが嬉しい。  
小休符を挟んでから、ことを再開する。  
右手で下半身を弄りながら、身をかがめてツンと立った乳頭をついばむ。  
愛撫は事の他神経を使う作業だった。  
後ろからだと中の様子がよく見えず、手探りにならざるを得ない。  
壁を濡らしながら爪など立てぬよう慎重に、内部まで分け入る。  
ゆっくりと奥を掻き混ぜながら、左手でクリトリスに触れた。  
口と指で上下の突起を刺激する度に、微かに甘い喘ぎが少女の口から漏れる。  
熱い。  
抱きしめている躯の芯から熱が染み出してくるのがわかる。  
熱に浮かされたような表情で、陽華は振り返った。  
 
「にー、さん。だいじょう、ぶ?」  
「何が?」  
「せ、背中に、当たってるの。すごく、苦しそう」  
ズボン越しでも判るほど膨らんでいる己が下半身を見下ろして苦笑した。  
「変かな?」  
首を振る陽華。  
「わたしで興奮してくれて、嬉しい。  
けど、にーさんも気持ちよくなって欲しいから。  
もう、挿れていいよ?」  
正直、それは魅力的な提案だった。  
ガチガチに勃起した亀頭が、時折トランクスの生地と擦れて痛みが走る。  
でも、まだ早い。  
「もうちょっと、陽華のエッチなところ、見てみたい」  
「それはわたしも、――――ッ!」  
有無を言わせず、さっきよりも激しく膣内をかき回す。  
男を受け入れるのは初めての娘が、ペニスで感じられるとは思えない。  
途中で止める可能性も考えれば、彼女には今のうちに気持ち良くなっておいて欲しかった。  
「ちょっと、にーさ、さっきよりはげし……あっ!」  
ちょっと今まで傷つけることを恐れる余りマンネリになっていたかもしれない。  
きちんとオルガズムに導くべく、ペースを上げた。  
秘壺に入れた指を折り曲げて壁を押し広げ、溢れ出る愛液を小さな膨らみに擦り付ける。  
陽華は両足を閉じようとするが、既に入り込んだ指を止めることはできない。  
一気に湿り気が増し、尻をつたい落ちる滴がシーツを濡らす。  
右の乳首を歯で挟んで、噛まない程度に力を入れる。  
左手の指でクリトリスを強く挟み込んだ瞬間、膣道がきゅっと縮み、熱い水が溢れた。  
「んんんぅ――――!」  
1オクターブ高い掠れ声が少女の口から漏れる。  
時折体を震わせながら、陽華は絶頂に達した。  
喘ぎながら、力を失いぐったりともたれかかって来る体を支える。  
「きもち、よかったわ」  
「そりゃよかった」  
陽華はふらつきながら体勢を変え、俺に向き直るとキスをせがむ。  
抱き合いながら、浅いキスを何度も繰り返す。  
ふと、キスを止めた陽華は俺のシャツのボタンに手をかけ始めた。  
「陽華?」  
「早く、本番をしよう」  
「けど……」  
 
ここまでしておきながら、本当の最後の一線を越えることに未だに抵抗を覚えている自分を自覚する。  
俺は苦笑して踏ん切りをつけると、服を脱ぎ捨てて陽華を仰向けに押し倒した。  
裸のまま正面から向き合うと、何となく恥ずかしい。  
「ええと、にーさん」  
「ん?」  
「シャツ、脱ぎたい」  
彼女のブラウスは、前は全開だが腕は通されたままだった。  
「駄目」  
「皺になるわ」  
「半脱ぎというのも、中々そそるね」  
唸る陽華。  
「やっぱり、にーさんはヘンタイさんだわ」  
俺は羞恥を誤魔化すように、陽華の胸を撫でながら一度だけキスをした。  
ベッドサイドの戸棚にあるコンドームを取り出し、封を解くと、扱いに戸惑いながらも何とか装着。  
薄いビニルに包まれたそこを、陽華の入り口にあてがった。  
そのまま、暫しの逡巡。  
「にーさん?」  
「陽華、今日は"大丈夫な日"?」  
「たぶん、そうだけど……」  
本心では、問答無用で挿れてしまいたい。  
今すぐ彼女を貫いて、ぐちゃぐちゃに蹂躙してしまいたい。  
「陽華、もしものことがあったら、堕ろしてもらう。  
俺達の子供を生むことは、絶対に、ない。  
それだけは、理解して欲しい」  
俺は陽華の頬を撫でた。  
彼女と籍を入れて、子供を生んで、育てる。  
有り得ない未来。  
出来ることならば、そうしたい。  
でも、本来ならこんな行為をすることすら許されないのだ。  
でも、それ以上に、彼女と寄り添いたい。  
彼女の想いに応えたい。  
陽華は悲しそうに笑って、俺の手を握った。  
「うん、約束する。  
だから、来て」  
俺は頷くと、ペニスの表面に秘裂から溢れている愛液を塗りたくり、腰を押しやった。  
 
既に十分ほぐれていた膣道が、途中までは導いてくれる。  
それでもきつい。  
棒が壁に擦れて、電流の様に快楽が走る。  
陽華も苦しそうだ。  
ゆっくりと半ばまで挿入した所で、何かに阻まれる。  
力を入れると、陽華が快楽以外の感覚でうめき声を上げた。  
敏感な部分を圧迫され、俺も多少は痛い。  
だが、彼女の痛みはその比ではない筈だ。  
動きを止めた俺を、彼女は潤んだ目で見上げる。  
そのまま無言で頷いた。  
俺は意を決すると、一気に腰を押し進めた。  
「――――っ! ――ッ!! ――ッ!!」  
陽華は唇を噛み、シーツを握り締めながら、必死に痛みをこらえている。  
その瞼から、ぽろぽろと涙が零れた。  
それなのに、俺は襲い掛かる凄まじい射精感を耐えるのに必死でいる。  
何とか彼女を気遣えるまで踏ん張ると、陽華の頭を優しく撫でた。  
「ごめんな」  
「だい、じょーぶ。うれしい、のよ。  
うれしいから、ないてるの」  
俺に気を遣わせまいと意地を張る彼女が愛しくて。  
「動くけど、大丈夫か?」  
「うん、きもちよく、なって。  
乱暴にしてくれて、いいから」  
でも、明らかに無理をしていると判るから。  
早く終わらせてしまおう。  
俺は根元近くまで埋まっている男根を半ばまで引き抜き、再び奥に叩き付けた。  
悶える彼女の頬をさすりつつ、腰の動きは止めない。  
陽華は息を切らせつつ、声を上げた。  
「にーさんっ。ちょ、もう、ちょっと。ゆっくり」  
「ごめん。けど、すぐ終えるからっ」  
「ちがうの、わたし、また、へん、に、……ぁうっ!」  
明らかに痛み以外で濡れた声に、俺は戸惑う。  
「……感じてる?」  
「うん。たぶん」  
さっきまで処女だった彼女がこんなことになるとは、想定外だった。  
「……ひょっとして、陽華すごくエッチな子?」  
「判んない。けど、にーさんに抱かれてると思うと、あそこがきゅっとしてきて。  
だから……いっしょに、いきたい」  
大丈夫だろうか。  
正直、もう爆発寸前だった。  
それでも、俺もできれば陽華と一緒にいきたい。  
 
「……努力する」  
そう告げると、射精を我慢しながら、ゆっくりと挿入を再開。  
肉棒が擦れるたびに達しそうになるが、歯を食いしばって耐える。  
同時にはだけた胸に手を伸ばし、薄い脂肪を揉みしだく。  
「うれしい……。にーさんの手、あったかい」  
陽華は、未だに身を苛む痛みに耐えながら、自分も達するべく俺の与える快感に身を委ねてくれる。  
俺が乳首をつねる度、熱い声を上げながら身をはねる。  
ビニル越しに擦れ合う粘膜から、血の混ざった愛液が溢れ、ぐちゅぐちゅと水音を立てた。  
「にーさん、そろそろっ……!」  
「ああ!」  
もう、我慢も限界だった。  
俺は乳房から手を離し、腰を掴むと、何度も我武者羅に子宮を突き上げる。  
痙攣する肉壁が、四方から性器を圧迫した。  
「陽かっ! ようかっ!」  
「にーさ……!」  
意識を手放した瞬間、感覚が焼け落ちて力を失う。  
一拍置いて、今まで感じたこともないボルテージの快楽が、背筋を駆け巡った。  
「――! ――! ――!!」  
だくん。だくん。だくん。  
ペニスが震え、コンドームの中に大量の精液が吐き出された。  
快楽の嵐が通り過ぎた後、訪れるのは虚脱感。  
そのまま倒れこんでしまいたい誘惑に抗い、陽華からイチモツを引き抜いて、汚れたお腹を布巾で拭いてやる。  
「陽華、大丈夫?」  
陽華は、ん、と腹筋に力を入れ、身を起こして俺に寄りかかると、力なくにへらと笑った。  
「……信じられないくらい、よかったわ」  
「俺もだよ」  
経験は無いが、他の女性ではこれ程の快楽は得られないと断言できる。  
「いつか、またしたい」  
「頻繁には出来ないけどね」  
「どうして?」  
「褒められた行為ではないし、何より危険だし、それに」  
きょとんと見詰め返す陽華に笑い返しながら、俺は彼女の唇に触れた。  
「きょうだいとして、恋人として、普通の毎日を過ごすのだって、こういうことに負けないくらい、嬉しいことだから」  
「恋、人?」  
「違った?」  
「恋人……」  
暫くその言葉を吟味した後、彼女は、俺に強く抱きつきながら、笑った。  
「よろしくおねがいします。にーさん」  
 
     * * *  
 
線香の香りが漂う。  
丘の上に広がる墓地の一角。  
俺は黒ずんだ墓石に柄杓から水を落とす。  
その間に、陽華がスズランの束を花立に供えた。  
「かーさんたち、怒ってるかな」  
「どうかな」  
何を、とはお互い聞かない。  
墓石の汚れを雑巾で拭いながら、無言の時間が過ぎる。  
掃除を終えて、線香に火をともし、二人並んで合掌。  
黙祷の後、火を消して立ち上がった。  
「俺たちが考えた挙句、これしかないと決めた道なら、受け止めてくれるさ」  
「うん」  
空を見上げる。  
快晴だ。  
家族の反対がなくとも、俺達の関係の前には、問題が山積している。  
何れ社会に出れば、いつまでも結婚せず兄弟で同棲する二人は、奇異の視線で見られるだろう。  
交友関係も、いつまで誤魔化しきれるか。  
俺の不安を悟ったように、陽華は俺の手をきゅっと握った。  
その小さな手を、強く握り返す。  
「帰ろう」  
「うん」  
俺たちは連れ立って墓地を後にする。  
彼岸開けの、暖かな昼下がり。  
気の早い桜が、数輪ほころんでいた。  
 

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