「―― というわけで、エルフのぱんてぃーを、貰い受けに来た!」
「ここは一ついや一枚、頼む!…ブルセラに売ったとでも思って…」
大木から横に伸びる太枝の上に腰掛ながら、呆れ顔で見下ろすエルフの女の子に、
俺は、膝をついて頭を下げ、その姿勢のまま頭上で両手ほ「ぱんっ!」と合わせ、
息の詰まった声でお願いをした。
見ろこの最大限に誠意のこもった俺のお願いスタイル。3回繰り返すと効果てきめん。
対するエルフは、呆れ顔にさらに口までポカンと開いている。
しかし流石に長寿のエルフ、見た目は可愛い女の子だが数百年は生きて人生経験も長いのだろう、
すぐに呆れ顔から表情を戻し、冷静な口調で聞き返してきた。
「あのねぇ…」
―― まぁ、ため息交じりなのは仕方がないか。
「私、貴方の言ってること、ほとんど意味がわからないんだけど?」
端々の単語が理解できないという意味か、なんで最初からいきなりパンツなのか、
そもそもなんでパンティーってカタカナで言わないのかはさておいて、
「第一、人がそう言ったからって、なんで貴方がそれを取りに来るのよ?おかしくない?」
もっともな疑問を投げかけてきたがそれは即時解決だ。
「いや、俺も興味ある!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ミもフタもない答えに言葉を失ったエルフの女の子に、俺は言葉を続けた。
「人間みたいにフリルつきの飾りっ気あるものや、大人っぽいエロティックな下着を穿いているのか、
純白なのか、女の子下着といえば妄想定番な白地に水色の縞パンなのか、
むしろ倫理的に見えても放送0Kなカボチャパンツなのか、俺はそれを確かめたい」
もう一度ため息をつきながらエルフは首を横に振って、言った。
「貴方の妄想の半分もわからないけど…それをあげるのは無理よ。確かめることも無理」
「なんでよ!っつーか見せてくれたっていいじゃん!」
「―― 急に慣れ慣れしくならないでよ!」
俺が怒りんぼマークと効果音をプカプカ出しながら激しく抗議し始めると、
エルフは素早くツッコミ調で返してきた。
もともとその素質があるのかもしれない。
「…とにかく無理よ。見せられるもなにも…ないもの」
「ナヌ!?」
エルフは、まずいことを言ったかな、と心の中で思った。
俺が最後の言葉に喰いついてきたからだ。
「ないって、穿いてないのか…!?そんなバカなー!!」
俺は自分の妄想を全否定されて、それを信じられずに思わず彼女の座る枝の下へと駆け出した。
「わっバカッ!来るなっっっ!」
今まで不用意に接近してくる人間には魔法を見舞ってきてやったが、
それ以前にエルフis神聖、股間見られちゃいけないだろとかそういう貞操の危機。
慌てて木の枝に両手をついて、バッと短い腰巻の中央を両手で抑えて立ち上がると、
すぐ下に駆け寄る人間に向かって怒鳴り散らす。
「見るなーっ!スケベ人間!変態!」
「誰がオランダの地名だ!おまえこそ隠すな!自分で言ったんだろ!」
手に押されて、下から見えるのは可愛らしく白い肌の太股と押し込まれる若草色の腰巻だけだ。
「もうちょっと…こっちか?」
俺が、手で押し込まれていない後ろの部分を覗き込もうと、
枝の真下より奥の位置へ、見上げながら移動すると、
「見ないで!ダメー!」
エルフは枝の上でしゃがんで、ぎゅっと膝を抱えた。と――
「あ… おい、危ないぞ…?」
夢中の動作だった為か、下で見てる俺が目でわかるぐらいにエルフの女の子がよろめいて、
「きゃ!」
慌てて枝を掴もうとしたが間に合わず、クルリと足裏の土踏まずで枝を回転するように回ると、
そのまま落ちてきた。
「落ち…危ない!」
女の子で小柄だったというのもあるが、無意識のうちに俺は真下について両腕を広げ胸をそらして、
落ちてくるエルフを待ち受ける。
もう一度「きゃっ!」というエルフの声と同時に、胸元へ衝撃を感じて、
それに耐えるよう折り曲げた膝がギシッとうなるのが判りながら、どうにか下へ落とさずに受け止めた。
俺が衝撃から気を取り直してエルフの顔を覗き込むと、彼女はまだ何が起こったかわからない様子で呆然としている。
「おい…大丈夫か?」
「―― うん」
しばらく間をおいて返事があったが、その間にエルフは状況を把握したのか、
真っ赤な顔をしながら俺の肩に頭を預け、こくっと頷いた。
エルフは、どうしていいのかわからなかった。
自分が失敗してバランスを崩したまま地面に落下…するのを瞬間的に覚悟していたところを、
地面より柔らかくて暖かいものがそれを受け止めてくれて、全然痛くなかった。
いつの間にか人間の声が、それもすぐ近くで話しかけられて、
人間に抱き止められているのを理解したけど、
普段人間となんて滅多に会わないし話なんてしないし、
触られるのも初めてで、ましてや抱かれるなんて――
「そんなに慌てるとは思わなかったんだ、ゴメンな?」
すぐ近くで聞くと、なんだか優しそうな男の声。
落ちた恥ずかしさよりも別の何かの恥ずかしさで、頭がかーっと熱くなってくる。
「いいよ。それより私…その…」
どう言っていいのか判らない、恥ずかしくて人間の顔を見れない。
とにかく、お礼を言わなきゃ――
「ありがと…」
エルフなのに落ちたことが恥ずかしいのか、肩に顔を埋めながら消えそうなくらい細い声でお礼を言われる。
その様子に、腕の中で縮こまるエルフの女の子が途端に可愛く感じて、
出来るだけ気を使って優しく声をかけてやる。
「ああ、もういいよ。変なコト聞いちゃって俺が悪かった。
エルフが穿いているかいないかはこのままずっと謎、これぞファンタジー、OK?」
もう安心させるように言ってから、
エルフをそっと降ろそうと、しゃがもうとすると、
「…ないよ」
ぼそっと、聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で、エルフが言いながら腕に首を回してきた。
降ろして体重が掛かるはずの腕が軽くなり、代わりに首からぶら下がった細腕に重さが掛かる。
どういうわけか降りたくないようだ。
落ちかけたショックがまだ残っているのだろうか…それならば無理に降ろすこともない、
こちらの腕も放すのをやめて、彼女の半身を支え続ける。
それよりも驚いたのはエルフの素直な言葉で、
「穿いて、ないよ。…私たちエルフは…みんな」
もう一度、今度はハッキリした声で、恥ずかしそうに顔を上げて言うと、
エルフは俺の首にぶら下がるような体勢で胸元に再び顔を埋めた。
相当恥ずかしいのだろう、無理して言っているのが彼女の額から伝わる熱で判る。
「そうだったのか…ああ、わかった。ぱんてぃ欲しがってた奴にはそう伝えとくから―― 」
「ダメ!」
痛ッた!…巻きついた手の細指で首をつねられた。
「こんなこと言うの貴方にだけなんだから。秘密だよ?」
気がつくと、むっと怒って見せた様子の、エルフの女の子の顔がこちらを見上げている。
驚くほどに可愛い。
というかこんな顔でお願いされたら流石に、約束を破れそうにない。
「う…そうする。じゃぁ秘密だ。可愛いエルフの女の子の…」
目の前にあるエルフの横顔に、まるで本能で吸い寄せられるように顔を近づけて、
忠誠を誓う騎士がお姫様の手にキスするように、
約束を守るよという気持ちを込めて、彼女の長い耳に口づけする。
「…ひゃ! ……ん」
ピクン、とエルフの耳が動いて、唇に跳ね返ってきた。
なんて可愛い反応なんだ、もう我慢できない…と思って彼女の顔を見ると、
少しビックリが残っていた表情をクスッと綻ばせて、いいよ、というふうに目を閉じてくれた。
恐る恐る顔を近づけて、彼女の柔らかい唇と合わさる。
同時に、ぎゅっと首に巻きつく腕に力が込められて彼女の唇が押し付けられて来る。
小さく柔らかい、エルフの唇に吸い付くように、時には一度唇を離して吸い直すようにしながら、
ゆっくりしゃがむと、首にすがり付いたままの彼女の背中を地面に預けて、
自由になった手で、どんどん愛しくなっていくその細い身体を、布地の上からまさぐっていく。
「あ…っ ん…」
まだ幼さの残る身体つきなのに、俺の掌が通過していく途中に感じる所があるのか、
エルフは、時々小さな声を上げて反応してくれている。
「んっ…俺だけ、確かめ、て…いいかい?」
ちゅっ、ちゅっ、と唇を吸いながら、俺のまさぐる手が内股を撫で回して、その先を尋ねるように止まると、
彼女はよりいっそう恥ずかしそうに顔を赤らめ、もう一度頷いた。