目が覚めたのは、正午を少しまわったころだった。  
 蒸し暑く、びっしょりと汗をかいている。血圧が低いせいか、寝起きはいつも調子が悪い。  
一度ベッドの端に腰掛けてから、チクチクと痛む頭をおさえて、彼女はふらふらと立ち上がった。  
 女性としては、長身の部類に入るだろう。短めの黒髪に、すらりとした体躯。いつもの気の強そ  
うなまなざしには、今はぼんやりともやがかかっている。なんとなく猫を思わせる整った造作を目  
一杯緩ませて欠伸を一つ。綾瀬瑞樹は、そんな仕草の似合う人間だ。  
 薄めのコーヒーを入れて、頭がはっきりするまでしばしぼうっとする。学生時代から欠かしたこ  
とのない日課だ。手早く作ったアイスコーヒーのグラスに口をつけて、彼女は壁にかかった鳩時計  
を見つめた――今日は来客がある。そろそろ準備したほうがいいだろう。  
「さて……今日はなに着てこっかなぁ…」  
 彼女は椅子をきしませてゆっくりと伸びをした。目尻ににじんだ涙をぬぐって椅子を立つ。  
「大事な大事なお客さんだものね。丁重にお迎えしないとね……」  
 そう言って、瑞樹はにやりと微笑んだ。  
 
 彼女が自分を家に呼ぶこと自体はさして珍しいことではない。だが、そのほとんどは  
「仕事」の依頼や打ち合わせなどだ。食事に誘われることもあるが、今日のように強引  
に来いとだけ告げられるようなことはなかったとこだ。  
 樋村勇はため息をついた。あまり気が進まない。よほど重要な用事なのだろうか?  
ただの気まぐれということもありうる。彼女の思いつきに付き合って、ろくなことにな  
ったためしがない。できることなら今すぐ引き返したいところだったが、彼女の報復を  
考えるとそうもいかない。  
 勇は重い足取りでアパートの階段を上っていった。瑞樹の部屋はアパートの二階、狭  
い通路の最も奥まったところにある。ドアの前に立ち呼び鈴を鳴らすと、ほとんど間を  
置かずに扉は開いた。  
「あ、勇〜? 早かったね。ま、とりあえず入って入って」  
 瑞樹は勇の手を取ると、玄関の中に引き込んだ。  
「適当に座っててよ。いま、お茶いれるから」  
 てきぱきとお茶の準備を始める瑞樹に、勇はため息混じりに問いかける。  
「――で、用ってなに? いきなり電話かけてきたと思ったら、『明日来い』とだけ言って一方的に切っちゃうしさ」  
 瑞樹は振りかえると、こちらを非難がましく見つめる勇にさらりと告げる。  
「お・か・い・も・の。服、選んであげるよ。あんた、放っとくと同じようなものしか着ないから。もう見てらんないわよ」  
 言われて勇は、自分の服装を見下ろした。黒のカジュアル・シャツに同色のスラックス。腕時計とくすんだ銀の指輪以外は、  
アクセサリーらしいものは何もない。  
「……どこか、変?」  
「夏に長袖に黒ずくめなんて格好しといて、まさか本気で言ってるんじゃないでしょうね?」  
 
 確かに、服の組み合わせや着こなし方自体は悪くない。勇自身の風采と合わさって、むしろ魅力的でさえある。  
だが、私服がほとんど黒を基調としたものしか無いというのは――  
「はっきりいって、正気じゃないわよ。とにかく、今日は黙ってわたしに付き合う。いいわね?」  
 勇は反論しようと口を開きかけて――あきらめた。あまり長い付き合いではないが、この友人に口論でかなわな  
いことは重々承知している。  
「……わかったよ」  
「よし。じゃあちょっと待ってて。すぐに仕度しちゃうから」  
 しぶしぶうなずく勇に、瑞樹はにっこりとうなずく。奥の部屋に引っ込む瑞樹の背中を見送って、勇はこの日  
幾度目かのため息をついた。  
 
 
「もうやだ」  
 ぐったりとテーブルに突っ伏す勇を眺めて、瑞樹はくすりと笑った。  
「なんだよ。薄情者」  
「いや、なんかかわいいなって……」  
 勇は仏頂面のまま顔を紅潮させて、ふいとそっぽを向く。かわいい。素直にそう思う。  
まだ十四かそこらのくせに妙に大人びていて、そのくせ猫みたいな反応がとても新鮮で  
――学校ではどうなのだろう? 同級生にからかわれ、うつむいて赤面する勇を思い浮  
かべて、瑞樹は顔がにやけるのを押さえられなかった。  
 アパートを離れて勇と瑞樹はまず、瑞樹の友人が経営しているブティックに寄った。  
――その友人は勇を見るなり「すばらしい」とつぶやいて、着せ替え人形の如く服を勧  
め始めた。元々着ていた服を取り上げられ試着室に閉じ込められた勇は、目を輝かせて  
服を選ぶ店員と、なにもせずくすくすと笑いこちらを眺めるだけの瑞樹を、口汚く罵る  
ことしかできなかった。どちらにも、軽くあしらわれるだけだったが。  
「そうだ。服、着てみてよ」  
「やだよ。店で散々見ただろ」  
「わたしはわたしで買い物してたから全部見てたわけじゃないし、なに買ったのかも教  
えてくれなかったじゃない。少しだけでいいからさ」  
ふてくされたままの勇に、瑞樹は甘えた声を出す。勇はちょっと困ったような顔をして、  
しばし考え込むと、「少し……だけだよ」と小さく首を縦に振った。  
「やた。それじゃあ、はやくはやく。そっちの部屋使っていいから」  
 勇は瑞樹に追い立てられ奥の部屋に入った。がさごそという物音が、なんとなく不謹  
慎な想像をかきたてる。しばしして戸が開き、聞き耳を立てていた瑞樹は部屋の中へとつんのめった。  
 
「……なにしてんの?」  
「あ…はは。ま、いいじゃん。それより――」  
 瑞樹は小さくため息をついた。  
 キャラクターがプリントされた赤いTシャツ。その上に着ているジージャンはサイズ  
が大きいのかそれともそういうデザインなのか、手のひらが半分隠れている。下着が見  
えそうなジーンズ生地のミニスカートから伸びるほっそりとした足は、やましい気持ち  
が無くとも顔をうずめたくなるような魅力がある。  
「……どうかな」  
 少年のような顔を紅潮させ、尋ねてくる。こちらを上目遣いに見上げ応えを待つさま  
は、見るものの理性をごっそりと奪っていく。  
「あんた、黒服禁止。なんてもったいないことするかな、ほんと」  
「……で、でも明るい色の服って落ち着かないし、それに……や、やっぱり似合わないよっ!」  
 あたふたと部屋に引き返そうとする勇を、瑞樹はやんわりと引き止めた。  
「あんたちょっと落ち着きなさいよ。なんか顔もやけに赤いし、熱でもあるの?」  
 そう言って勇の額に手を当てる。  
「うん…すこしぼーっとするような……変な感じ。なんだろ」  
――そろそろか。  
「うーん、どうだろ。ちょっと、こっちに顔向けて」  
「? こう――」  
 
 勇がこちらに顔を寄せると同時に、華奢な体を腕ごと抱きしめる。勇はわけが分からずじたばたともがくが、  
耳元に息を吹きかけてやると、びくりと体を震わせておとなしくなる。  
「な…なんなの? 瑞樹…なにするの…やめてよ……」  
いまだ状況がつかめないらしく、身を硬くしてこちらをじっと見上げている。たまらずに腕に力をこめると、  
「――――ぁ」と小さく吐息を漏らす。  
「なんでだろ? わたしは基本的にノーマルなんだけどね。もう、我慢できないや」  
「瑞樹? なに…いって……」  
苦しそうに言葉をつむぐ勇の首筋に、そっと唇をつたわせる。  
「本当に、わからない?」   
先ほどよりも大きく体を震わせる勇の耳元でささやく。勇は、顔を真っ赤にして窮屈そうに首を振る。  
「さっき飲んだ紅茶にね、ちょっと薬を入れたんだ」  
「くす…り? なんの?」  
「そうね…たとえば――」  
 片方の腕をはずし、勇の腰にゆっくりと掌を這わせる。スカートを捲り上げ、下着の上から割れ目に  
指を食い込ませると、じゅくっと粘り気のある液体がにじむ感触がした。  
「ひゃ…やあああっ!」  
「わかったかな? こういう薬。勇ってなかなかやらせてくれなそうだからさ。いきなり無理にやって  
も気持ちよくないし。やるからには感じてくれないとね」  
「そ…んなぁ…んくぅぅぅっ」  
 くちゃくちゃと音を立てて割れ目を弄ると、足元をがくがくと震わせて過敏に反応する。もう片方の  
腕もはずすと、勇は瑞樹にもたれかかるようにしてくずおれてしまう。  
「あれ? 刺激が強すぎたかな? あんなあやしい薬でも結構効くのね」  
 瑞樹は勇の前にひざまづいて、やんわりと抱き着つき仰向けに押し倒す。それなりに大きな瑞樹の胸  
の下で、勇の未発達なふくらみがふにゃりとつぶれる。  
 
「優しくするからさ。そんなに硬くならないで…」  
 鎖骨のくぼみに舌を這わせ、肩に軽く歯を立てると、勇は切なそうに吐息を漏らす。わずかに開いた  
唇を舌でこじ開け、逃げようとする勇の舌に絡ませる。唾液を舌伝いに移してやると、勇は少しためらって  
からこくこくと飲み干していく。  
「そうそう。そうやって素直に、おとなしくしてればいいのよ」  
 再び唇を塞ぐと、今度は勇のほうから舌を絡めてくる。お互いの唾液を交換し、口腔をくすぐり合う。  
あまり上手なキスとはいえないが、こちらの背中に手を回し、必死で離すまいとしがみつくさまは、こちらの体の芯をじんと熱くさせる。  
「そんなにキスが気に入ったの? さっきまであんなに嫌がってたのに」  
 唇を離すと、未練がましくこちらを見つめてくる。めちゃくちゃに弄りたくなるのを我慢して、シャツをめくり上げてブラジャーを剥ぐ。  
細い肩と鎖骨から続く小ぶりなふくらみが、ふるんとピンク色の先端を揺らす。軽く絞るように揉みしだいて、焦らすように乳首を舌で転がす。  
「ふうぅ…やぁ…はぅぅぅぅっ」  
 こちらの頭を押しのけようとしてくるが、かまわずに続ける。指先で擦りたて、もう片方に甘噛みする。勇は刻々と増していく快感から  
逃げようと身をよじるが、巧みに重心を移して身動きを取れなくする。  
「やだ……やだぁぁ…そんなに急に強くされると……おかしくなっちゃうよぉ」  
「そう? それじゃあここを可愛がられたら、どうなっちゃうのかな」  
 そう言って、腰へと手を伸ばす。やはり激しく抵抗するが、割れ目をなぞられたとたんにびくりと痙攣して硬直する。  
「いやぁ…ほんとにだめ。おねがい。やめてよ……ゆるして」  
 ぽろぽろと涙を流して哀願する。こちらの腕を握る手に力がぎゅっとこもる。  
「大丈夫だって。痛くないから」  
 下着越しに固くしこった陰核を擦りたててやる。指を往復させる度に、嬌声を上げて腰をひょこひょことはねさせる。  
 
「あはぁ…うぐ…うぅぅぅぅ…」  
「ほら、勇だって喜んでるじゃない」  
 下着の隙間から指を侵入させ、穴の入り口をなぞる。  
「優しくするからさ。ね?」  
「違うよ…そうじゃなくて…今はまだ、待ってほしいの」  
「待つ?」  
 奇妙な言い方をする。荒い呼吸のまま、勇は途切れ途切れに続ける。  
「準備ができてないから…準備ができたら、わたしからちゃんと言うから…今はおねがい…待って……」  
 潤んだ瞳に見つめられて、意気を挫かれてしまう。それに勇自らの口で「してほしい」と言わせてみたいような  
気もする。しばし考えてから、瑞樹は告げた。  
「……じゃあ。ゲームをしない?」  
「ゲーム?」  
「そ。本番無しの、前戯みたいなもん。最後まで我慢できたら、今後勇がしたいって言うまでなにも無し。でも我  
慢できなかったら、わたしがしたいって言ったときにまたゲームをする。これがだめなら、今すぐ無理やりにでも  
最後までいっちゃうからね」  
「う……ん。わかった」  
 勇がためらいがちにうなずくと、瑞樹は勇の両足を持って立ちあがった。じっとりと濡れた割れ目に足を這わせ  
ると、勇はきゅっと目を瞑る。  
「それじゃあ……いくよ」  
 ゆるゆると足を振るわせ、反応を見る。勇が小さく吐息をもらし、気が緩んだところを見て一気に振動を加速させる。  
 
「うああああああっ! そん…なぁ。いやぁ…そんなとこに食い込ませないでぇぇぇっ!」  
 勇は背中を反り返らせ、必死で耐えようとする。腰を突き出したことできゅっとしまったお尻の谷間に  
つま先を刺しこみ、肛門を抉るようにして振動を続ける。  
「やあぁぁぁっ! お尻だめえっ! それ、強すぎるよぉっ!」  
 ぴたりと動きをとめてやると、痛いほどにつま先を食い締めていたお尻の肉も緩む。そこを踵で想いき  
り踏みつけてやると、勇は声も出せずにビクビクと痙攣し、失禁してしまう。  
「は……あ…そん…な……」  
「勇っていくつだけ? 中二にもなっておもらししちゃうなんてはずかしー…」  
 呆然としたように目の光を曇らせる勇に、確認させるようにわざとくちゃくちゃと音を立てる。ソック  
スにまとわりつく暖かい液体の感触と、鼻をつくような微かな甘い臭気。それらが、攻めているこちらが  
イってしまいそうなほどの性感をかきたててくる。  
「やだ…言わないで…」  
 涙をためてこちらを見つめる。その仕草に、瑞樹は理性の糸を切ってしまいそうになる。先ほどの約束  
を破って、メチャクチャに犯したくなる衝動に耐えて、瑞樹は動きを再開する。  
「あああああっ! そこぉ、敏感になってるのにぃ!」  
 発散できない情欲のはけ口とばかりに、先ほどにも増して激しく局部を突きたてる。痛いほどに膨らん  
だ陰核をつま先で激しく摩擦させ、とろとろと愛液を溢れさせる貝口を、すぼめたつま先でこじ開けるよ  
うにして突いてやる。  
「やううううっ! だ、だめぇ…もうわたし……壊れちゃう…壊れちゃうよ……」  
 勇の痙攣が小刻みになっていく。呼吸さえうまくできないようで、ひくひくとしゃくりあげるような  
形になっている。  
「も……いく…や、だめぇ」  
 勇はうわごとの様に繰り返す。絶頂が近いのか、痙攣の間隔がどんどん短くなっていく。それに合わ  
せて秘部を思いきり蹴りつけてやる。  
「ひっ…ぐ……やあああああああっ」  
 息を詰まらせ、一瞬均衡を保ったように見えたが、すぐに勢いよく失禁し、勇は意識を暗転させていった――  
 
 
「ん……あれ?」  
 勇は目を覚ますと、馴染みのないベッドの中にいた。だぶだぶの寝巻きを着ていて、  
髪や体からは、微かにトリートメントやソープの香りがする。  
 かちゃり、と扉の開く音がして、瑞樹が部屋に入ってきた。ティーセットを乗せた  
盆を持っていて、そこからふわりと柔らかい香りが漂ってくる。  
「あ、お目覚め〜? ちょっと待ってて。いま、お茶いれるからさ」  
 あっけらかんと接してくる。自分はどういう顔をしたらいいのか困っているというのに。  
 顔を赤くしてまごまごとする勇に、瑞樹は続ける。  
「で、わたしの勝ちなわけですが。約束のほうはどうしましょう」  
 むしろ嬉々として言ってくる。この友人に恥じらいとか節操とかいったものを期待するの  
はどうも無駄らしい。  
「あれって、わたしの負けだったの……?」  
「なに言ってんのよ。完敗じゃない。我慢できなかったんだから」  
「そもそも、いつまで我慢するとか決めてなかったような」  
「わたしの中では決まってたの。それにあんた聞いてこなかったし」  
 
「…………。ま、いいよ」  
 このまま口論を続けても意味がない。彼女との賭け事や勝負事には勝ったためしがないのだから。  
「で、約束は?」  
「……わかってるよ。ただ、もうちょっと待ってほしいな」  
「ふうん。わかった」  
 意外とあっさり引き下がられて、勇はなんとなく肩透かしを食らった気になった。そもそも、約  
束なんて守る気無いんじゃないだろうか……?  
「今日は泊まっていきなさいよ。明日学校休みでしょ?」  
「うん、そうするよ」  
「ただ、夜這いはするつもりなんでよろしく。もちろん本番寸前で止めるけど」  
「う…それは」  
「うそうそ。その代わり勇からキスしてほしいなぁ。こっちはさんざ我慢してるんだから」  
 勇は少し考えるふりをして、  
「それじゃあ、目を瞑って……」  
――それはさっきのまでのキスとは違って、性感を伴わないのに気持ち良い、なんだか不思議な感触で――  
 
 
――――――fin  
 

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