ざっくざくーのにゃんにゃんにゃん  
 ざっくざくーのにゃんにゃんにゃん  
 はーやく死ねー そしていーき絶えろ はいっ  
 あなたの血ぃーが 見たーい(見たい)殺しーたーい(いぇいっ)  
 声:さっさと地獄へ落ちて、釜茹でになってしまいなさーい  
 あー わったしーはー にーんげーん屠殺! にーんー♪  
 
「うるせえええええっ!!」  
 喬生は飛び起きた。  
「誰だこんな朝っぱらから大音量で気色悪いアニソン流してんのはっ!!」  
 するといきなり飛び込んできたのは女性の姿。  
 髪はやつれてぼさぼさ、顔はきれいだが青白く、まるで病気のよう。  
 足元に跨り、クマの出来た目で、喬生を睨んでいる。恐ろしい形相。  
「…起きたのね」  
「何か知らんが足元から聴こえるそれを止めろ!」  
 彼女は言葉を理解したのか、隣に置いていたラジカセを止める。  
「はぁ…この野郎、一体何だってんだ!」  
 彼女は再び向き直ると、恐ろしいスピードで喬生の首を掴んできた。  
「うわぁあっ!?」  
 喬生はその物凄い力に悲鳴をあげるが、抵抗出来ない。  
「私の為に――死んで!」  
 かた、と音がしたかと思うと、彼女の右手がとんでもないものを持ち上げた。  
 巨大な鎌。細腕で軽々しく――容赦なく振り上げた。  
「や、やめろぉおおっ!」  
 火事場の馬鹿力発動。  
 左手を無理矢理退けて、喬生はベッドから転がり落ちる。  
 ザクッ、と枕に刃が突き刺さったのが確認出来る。  
 ――事もあろうに、狙うのが頭とか…確実に殺る気だ!!  
 
 彼女は髪を振り乱して、逃げた獲物の方を見た。  
「どうして…逃げるの? ねぇ…死んでよ…死んでったら…ねえ――!」  
 目に狂気しか感じられない。喬生は逃げる以外の選択肢が考えられなかった。  
「死ね…死ね、死ね死ね死ね死ねぇぇぇええええっ!!」  
 鎌を抜き、考えられない振りかぶりで襲い掛かってくる彼女。  
 ぶおんっ――!!  
 がしゃんっ、と派手な音を立ててタンスに激突した。  
 上手く避けた喬生はすぐさま部屋を飛び出し、玄関へと一目散に駆ける。  
「ううぃいいええあああああっっっ!!」  
 とてつもない奇声に身震いしながらも、蹴破るように飛び出す。  
 どごっ! ぐしゃっ!  
 少し離れた辺りでとても日常的ではない鈍い音が響く。  
 ――何だってんだあの女の姿をしたモンスターは!  
 と、走りながら後を確認すると、「あの女」が瓦礫と共に舞い上がった。  
「!?」  
 それは恐ろしい推進力で喬生の方へと飛び込んでくる。  
 ――走って逃げても間に合わない。捉えられている!  
 そして上空から鎌を振り上げると、落下と共に一撃を繰り出してきた。  
「――!!」  
 
 アスファルトの道に大穴が開き、彼女は体を屈めたまま動かない。  
「……あー、愛ちゃん、非常に言い難いんやけど…リスト間違っててん」  
 間を置いて地面にすとん、と着地する影。  
 女の子だった。その腕には喬生の体が抱えられている。  
 体格からは想像出来ない怪力。彼女は喬生の体を道端に横たえる。  
「……」  
 ぎろりと相手を睨む、愛――と呼ばれた女性。  
「あ…あんたら、一体?」  
 言葉を失っていた喬生が、ようやく口を開いた。  
 女の子は喬生を見て、にっこりと笑う。  
「死神代行。申し送れました、私は恋。そして彼女が愛」  
 二人一組で一帯の調査と任務遂行を請け負う、あの世からの来訪者――。  
 まるでトンデモな話を当然のように聞かされた喬生は、言葉も出ない。  
「普通は無関係の人にバレたらあかんねんけど…ま、ええか」  
 良くないだろ――と突っ込みすら入れきらないテンションだった。  
「うちは一回本部に戻るから、愛ちゃん? 後は頼んだで」  
「……」  
「そんな顔せんといてや。ほな、よろしゅう」  
 そう言うと恋は行ってしまった。  
 喬生は愛と二人、その場に残された。  
 
「え…と俺、何されるの?」  
「ぶつぶつ…ぶつぶつ…」  
 見ると、何やら俯いて独り言を口にしていた。  
「あ…あの…」  
「あの女汚い仕事だけ私に押し付けて手柄は独り占めで司様を誑かして…」  
 覗き込んだ顔は心此処に在らず、だった。  
「……殺す…皆殺してやる…そうすれば司様は私のもの…そうよ私の――」  
 突然にやりと笑う。  
「ふ、ふふ…ふふふ…あははははははは!」  
 もはや、関わり合いにすらなりたくない喬生。  
 その場を立ち去ろうとすると、突如愛が肩を鷲掴みにした。  
「――何処に行くの? せっかくだから死になさい!」  
 顔を向けると、またしても鎌が――。  
 どごんっ!  
 刃が近くの石壁を砕いた。  
 しかし喬生の体は辛うじて動き、退避していた。  
「何だよっ!? 無関係なんだろ俺は!」  
「死ね!」  
 間髪置かずに振り上げた。  
 がんっ。  
 時間が一瞬止まった。そして愛はその体勢のまま下に崩れた。  
 
 愛は目を覚ました。  
 ここはベッドの中。額には氷嚢が乗っていた。  
 そして恐る恐る、顔を近付けてくる者がいる。喬生だった。  
「……もう少し…だったのに…」  
 助けてまでこんなことを言われるとは、理不尽もここに極まれり――である。  
 愛の額に当たったのは、野球用のゴムボール。どこからかタイミング良く飛んで来たのだ。  
 しかし、こうもおかしな出来事の連続ばかりだと、物事を真面目に考えるのが馬鹿らしくなる。  
「ブツブツ…私の鎌を…何度も何度も…目障りだわ…ゴキブリの様……あ」  
 ばっ、と起き上がると、またも首を掴み――かけるが、逆に喬生に手首を掴まれる。  
「鎌はどこ」  
 それでも顔を近付けて凄んでくる。  
「隠したよ。そうでもしなきゃ、次は確実に殺される」  
「返せ…返せ…ううぉわぁああ!!」  
 常に狂気。しかし、今は何故か力が出ない。  
 暴れようとしても簡単に抑え付けられ、ベッドに突き伏せられる。  
「命の危険感じたせいで、下がどうなってると思うんだ? 責任取れよ」  
 
「うっ……んぐっ……」  
 苦しそうに唸る愛は今、衣服を剥ぎ取られ、犯されている。  
 喬生は愛の来ていた服の中を物色し、薬なる物を見つけた。  
 勿論飲ませた。精神安定剤的な物かもしれないし、とりあえず今以上に凶暴化はしまいと。  
 成功だった。愛の怪力は人間並に落ちた。  
「ああっ……ぐ…うぅ…」  
 ひたすらに嫌がる愛だが、体は喬生の愛撫によって、段々と感じ始めていた。  
 捕まえた手首には包帯が巻かれ、それを外すと無数のリストカット痕。  
 構うものか――と傷痕を舐めると、それが効いたのか一層力が抜ける。  
「はああぁ……」  
 切れた状態でない時の顔は、割と美しい。  
 体も感度は良いし、胸や体つきの感触も意外と悪くなった。  
 つまり、勢いを保つだけの刺激は充分だった。  
 また、喬生が根を挿し込んで揺らすその体は白く、暗い部屋には妖しく似合う。  
 口づけで口内を舐め回せば、ついには応じ始めるその舌。  
「ちゅぱ…ちゅ…」  
 こうして手篭めにしてしまえば、単なる女――喬生がそんなことを思っている内に下に熱が篭り、そして爆発した。  
「――っ!!」  
 果てた。  
 
 しかし、少し休むと再び体が疼き出す。  
 そして根の怒りが静まるまで、喬生は何度も手を変え形を変え、種を撒く。  
 愛もいつしか、その全てを受け入れるようになっていた。  
 一通り出しきり、横になる喬生。  
「……」  
 愛は放心状態だった。だが、そこにはモンスターの気配は一片もなく、女の表情があった。  
 と、ドアが開いて誰かが入って来るような音がした。  
 ばたん。  
「……おや、お邪魔でしたか」  
 入って来たのは見知らぬ男。  
 美形だった。そして愛や恋と同じような服を着ている。  
 驚いて反応したのは愛。  
「あ、つ…司様! これは、あの…!」  
「黙っていなさい、愛。…どうやらこの度は、大変ご迷惑をおかけしたようで」  
 喬生は何となく状況を把握した。  
「あー…すまん。おたくの女の子、俺を襲うのをやめないから逆に襲っちまった」  
 愛は涙目で喬生と、相手を見比べている。  
「彼女の自業自得です。それに元はと言えば我々の責任。どうかお許し下さい」  
 
 喬生はその後の話を、いまいちよく覚えていない。  
 ヤリ疲れていたこともあるし、元々現実味のない話だったからである。  
 鎌の場所だけは適当に教えて、そのまま寝てしまった。  
 起きた時には司も愛もそこにはおらず、壊された物は全て元通りになっていた。  
 なかったことのように、喬生に現実が戻って来たかのように思えた。  
 しかしその後、何度も住所のない恋文が送られてくるようになった。  
 司様を慕っているとは言え、あなたのことが忘れられない云々と。  
 この手の性格の女性は一度落とすと、こうなりやすい――と喬生は聞いた。  
 ――どこかに逃げようか。いや、死神からは多分、逃げられないよなぁ……。  
 ただ、会うことを禁じられてでもいるのか、直接やってくることはなかった。  
 まともに考えればこれで最低限良い……はずである。  
 それでも時折喬生はその恋文に目を通しては、あの死神のことを思い出すのであった。  
 

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