一週間に渡る修学旅行の最終日、全ての日程を終えた夕方。
高速道路を走る帰りのバス内で、クラスメイトはカーテンを閉めて静かに寝息を立てている。
光を遮断された薄暗い闇の中。起きているのは、運転手と僅かに二人だけ。最後尾に座る俺と、隣で寄り添う幼馴染みの姫咲 姉百合(ひめさき しゆり)。
二人はシートの中央位置に並んで座り、両サイドにはクラスメイトの荷物が山積みになっている。
「ねぇ、ゆー君……みんな、寝ちゃったかな?」
しゅりは大きくクリクリとしたツリ目を輝かせ、俯いて視線を床に落とす俺の横顔を見詰めてる。
シャギーが入ったブルーブラックのショートヘアに、産まれた時から変わらない天然で金色の瞳。
日焼けを知らない白く柔らかな肌に、実年齢の十七には見えない典型的な幼児体型。
それを夏用の制服と、キワどいラインまで短くしたスカートで覆っている。
「そう、だな」
俺は下を向いたまま、そう答えるのが精一杯。
姫咲 姉百合……俺と、綾波 勇人(あやなみ ゆうと)と同じ日に産まれ、同じ病院で産まれ、隣のベッドで泣き声を上げて、隣の家に住んでる。
俺は姉百合を『しゅり』と呼び、クラスのみんなは『ヒメ』と呼ぶ。馬鹿なお姫様って意味で……けなしてるんだ。
強気な態度に、ズケズケと本音を述べる言動、まさしく唯我独尊。
いや、それだけなら良かった。俺がフォローして回れば治まってた。だけど、致命的だったのは小六の秋。しゅりが教えてくれた秘密。
わたし、不思議な力が使えるのよ。
強気な態度に、ズケズケと本音を述べる言動、まさしく唯我独尊……だった性格はその日まで。
見せてくれた不思議な力。触れずに俺を転ばせたり、掌から炎を出してみせたり。
俺は驚いて、興奮して、感動して、みんなにも教えたくて……
みんなには、秘密だからね?
そう言われたのに、うんって言ったのに、次の日、教室でバラしてしまった。俺は子供だったから、そんな言い訳も通用しない。
幼馴染みを自慢したい為だけに、しゅりの気持ちを無視して、
しゅりは魔法使いなんだぜ!!
得意気に息巻いた。みんな俺達二人の周りに集まり、しゅりは狼狽えてキョロキョロするだけ。
結局、不思議な力は使わなかった、見せなかった。『嘘つきヒメ!!』。みんなから罵られて泣いて、放課後まで泣いて、嘘つき……俺を罵って泣き続けた。
その日から少しずつ、少しずつだけど、しゅりの性格は反転して行く。
ボーっとする事が多くなり、喋り方もゆったりとゆっくりと内向的に。嘘つきヒメだって語り継がれる。
でも、中学、高校に進学する頃には色褪せて、省略された『ヒメ』だけが残った。
意味も成さなくなり、トロくて、何を考えてるのか分からない姫咲 姉百合に対する通称。
だけど、俺は知ってる。俺だけが知ってる。あの日しゅりが見せてくれた不思議な力は、事実確かに存在したのだ。
今だってそう。今だって姫咲 姉百合は不思議な力を使える。
しかしそれは、俺にしか見えなくて、俺にしか効果が出ない不良品。自分でも理解してて、理解してたから俺に口止めした。
それなのに、馬鹿な幼馴染みのせいで全部台無し。
だから俺は、昔のしゅりに戻って欲しくて、責任を取りたくて、唯々、ひたすらに、されるがまま……
「こっちを見て、ゆー君? 私ね、お腹空いちゃったの……だから、ねっ? ゆび、おしゃぶりしても良いかなぁ?」
見上げる視線が突き刺さり、顔は自然と方向を変える。天然の金色、俺だけに効果を発揮する凝視眼光。
その目に見詰められるとジエンドで、命令されればどんなムチャでも身体は動くし、心臓を止めろと言われれば血流は働きをヤメるだろう。
中世とかの時代、どっかの国と同じ。絶対服従。本当の意味で、しゅりは俺にとってのお姫様なのだ。
「腹が減ったのか? ポッキー、なら有るけど?」
夕暮れのバス内。陽射しも入り込まず、クーラーも効いてて涼しく快適な空間……の筈なのに、俺の背中は冷や汗で濡れ、ワイシャツが張り付いて気持ち悪い。
しゅりが何をしようとしているのか伝わるから。寝てるとは言え、クラスメイト全員が乗ってる場所で、何をしようとしてるのか伝わるから。
驚きと、怯えと、ほんのちょっとの期待に、俺の身体は迷わず反応した。
「ふえっ? うーんとね、ポッキーなんて細いのじゃ物足りないの。
しゅりはね? シイタケみたいにカサばっててぇ、バナナみたいに太いぃっ……へっへぇ〜っ♪ お肉の棒をっ、おクチいーっぱいに頬ばりたいなー♪♪」
嬉しそうに、楽しそうに、無邪気な笑顔なのに。吐き出す台詞は、全く真逆の卑猥で娼婦。
見下ろす視線の先、右手を開いてこちらに向け、その人差し指の根元を、左手の中指と親指で挟み持つ。
「ぐぅっ!?」
俺は急いで目をつむり、歯を噛み締めて備えるだけ。
「ダメっ、だよ……ゆーくん。ちゃんと見て? しゅりの、この指が、おちんちんね?」
無理矢理に目を開けさせられる。
そして添えていた指を、カタツムリでも這うぐらいのスピードで、力加減を微妙に変化させて、ゆっくりと上下に動かし始めた。
「みんな起きちゃうんだから、バレちゃえんだからぁっ、声……出しちゃダメだよ?」
上目使いで俺を見ながら、口元を吊り上げて微笑みながら、時折吸い付き、唾液を垂らして、まるでペニスで在るかのようにクニュクニュと扱く。
すると本物だって負けちゃいない。ズボンの中で限界まで膨張し、ファスナーを押し上げて、痛みを感じる程に金具を食い込ませる。
視覚的な興奮じゃなくて、俺のペニスと、しゅりの指の感覚を繋げられたからこうなった。
授業中だって、電車の中だって、気まぐれに感覚を繋げられ、気まぐれに勃起させられる。
俺は声を噛み殺して、突然訪れる快楽を堪えるしかない。
どうせ無理だけど……長く堪えても、その指でオナニーされて終わり。膣内に挿れて、思いっきり締め付けて、それでフィニッシュ。
最後は決まってパンツに射精するけど、そこまでの過程、苦しむ俺を見て、しゅりが優越感に浸ってるって分かるから、どんな時でも、ギリギリまで我慢する。
みんなからヒメと馬鹿にされ、そんなヒメが唯一見下せる俺だから、俺はお姫様を楽しませなくちゃいけない。
「んー、そろそろかなっ?」
指への摩擦はイク寸前で止められ、その指は盛り上がるジッパーを戸惑い無く下げおろす。
そのまま大きく口を拡げて上体を前傾させると、真っ直ぐにペニスへ向けて近付き、愛おしそうにほお擦りをする。
「ゆーくん、今日は、しゅりが飲んであげるねっ? あ〜〜〜んっ♪♪」
そして、ぢゅぷぢゅぷと粘着質な音を鳴らしながら深く咥え込み、幸せそうに、美味しそうに、股ぐらに顔をうずめた。
溶けて無くなりそうなほど、熱くて柔らかな口の中。
「ん、ん、んっ、んっ♪ ゆーくん、ゆーくん、ゆーくん! ゆーくん!!」
挿入感を与える為に顔を前後させ、ノドの奥まで使ったディープスロート。
カリ首を執拗に攻め立てて精液を誘い出し、俺の名前を連呼して本当にセックスしてると幻惑させる。
しゅりは声を抑えようともせず、もしかすると誰か起きて聞いてるかも知れない。
でも、そんなの関係無いんだ。しゅりが堕ちるなら、俺も一緒に堕ちよう。
だって、やっぱり俺は、幼馴染みが、姫咲 姉百合が好きだから……
二日後。体調を崩し、熱が37度を越えたけど学校に来た。
遅くなって、登校したのは昼休みになってからだけど、俺は休めない。休まない。
教室の入口から中を眺めれば、中央の席、ポツンと一人で弁当を食べる幼馴染みの姿。
「よぉっ!」
声を掛けると、
「あっ……おねぼーゆー君おはよー♪♪ もぅ、おそいぞぉっ」
明るい笑顔を返してくれる。
「ははっ、ちょっとばかし調子悪くてさ」
幼馴染みが元に戻るまで。俺を許してくれるその日まで。
しゅりの願いは何だって叶えてやるさ。
「んー、ムリしちゃダメですよぉ? 保健室で休憩して、帰ったらゆー君?」
この願いだけは叶えられないけどな。
だってさ、俺が学校を休んだら、俺が学校を早退したら……
このお姫様は、一人ぼっちだから。
おしまい。