桜色の細縁メガネ。  
さらさらセミロングの黒髪は左右に緩く三編み。  
全体的にほっそりとした体。  
そして常に引き結ばれた口。  
いかにも「優等生」といった雰囲気。  
 
それが、「高橋ゆり」の第一印象だった。  
 
 ◇ ◇ ◇  
 
「直くぅん!今日はマキの買い物付き合ってぇ」  
最近付き合い始めたマキ、その子が放課後になって急に言ってきたのだ。  
「やだよ。今日は俺、タケん家でCD借りんだからさ」  
じゃーなーと手を振り、ぶすくれるマキを置いて、俺はタケシと一緒に教室を出た。  
鼻歌を歌いながら昇降口で靴に履き替えていると、タケシが可笑しそうに笑った。  
「何だよタケ、キモチワリィ」  
「いや、おまえさぁ。はは、マキの彼氏だろ?」  
「そうだよ?」  
「まじないわ、彼女よりダチ優先とかね〜」  
俺はムッとしながら立ち上がると、軽くタケシの肩を小突く。  
「いいんだよ、多分すぐ別れるし」  
「まぁたか?」  
そうなのだ。  
実は俺は最近、彼女を取っ替え引っ替えだった。  
1ヶ月もたない…。  
大抵は俺から別れを告げる。  
さらっとその場でサヨナラもあるし、なんでとシツコク聞いてくる子もいる。  
何でと聞かれても困る。  
ぶっちゃける。  
直ぐに足を開くから。  
…てのも、無くはない。  
俺としては、そもそも彼女というより、女友達の感覚なのかもしれない。  
じゃあ付き合わなければいいと思うだろうが、付き合わない理由も特にない。  
来るもの拒まず、去るもの追わず。  
これが最近の俺の気持だ。  
「ナオキ…寂しいヤツだなぁ」  
言葉とは反して、タケシは能天気な顔をした。  
 
 ◇ ◇ ◇  
 
「ほいよ」  
タケシがCDを放る。  
「うわっ、ぶね〜!」  
必死で俺はキャッチ。  
タケシは一人暮らし。  
学生の分際で生意気だ。  
「あれ…タバコ吸うんだ?」  
「まーな」  
しかもカナリ吸ってるみたいだ。  
箱が積んである。  
「不良じゃんよ」  
俺とタケシはニヤリと笑った。  
 
カラーリングを繰り返したせいで、随分と痛んでいる髪の毛。  
艶があまり無い。  
男だから気にならない?  
偶然見えたのは、多分ピアスだと思う。  
校則違反。  
それに制服のシャツ、初夏だけどまだ涼しいのに、開けすぎ。  
夏でもそこまでは開けない。  
だらしない。  
なんだか、失礼だけど軽そう。  
 
そんな印象を松下直樹から受けた。  
 
 ◆ ◆ ◆  
 
学年が上がって、最初の定期試験。  
張り出された順位表の一番端に自分の名前を見つける。  
「うわぁ!ゆり、また一番だ。すごい〜っ」  
私と一緒に表を見ていた美咲が驚きの声を上げる。  
「うん、今回も頑張っちゃった」  
努力がちゃんと結果に繋がったのが嬉しい。  
私は顔を赤らめながらも、喜びを隠せない。  
「ちなみにあたしは〜…うぅ…ん…70番台かぁ…」  
納得いかない様子の美咲だけれど、入学当初は300番台だったことを考えると物凄い上昇だった。  
 
「そろそろ朝礼が始まるみたいよ」  
「あ、そか。じゃあ私先に行くねぇ〜」  
美咲はクルリと私に背中を見せると、小走りに体育館へと向かった。  
半月に一度の学校朝礼。  
1、2年の時から務めていた風紀委会の委員長となった私は、代表で朝礼の開始後15分ほど校内を見回りする。  
もちろん、朝礼をサボっている学生を注意するため。  
 
つづく  

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