人類は自らの利便性の為、他者を使役することが本能となった動物であるのだと私は思う  
病気の流行により女性人口の激減したこの時代  
キメラという発明は、人間達が一時は封じた奴隷制を再び世に解き放った  
 
一部を動物のそれと改変した人間の雌に近い遺伝子を持ち  
人に近い知性、人間以上の特殊な能力と行動力を持ちながら  
一度発情が始まれば人間の男と交わらなければ発狂死し、更に妊娠することも無い  
正に、道徳を完全に廃した理想的な奴隷たるキメラの技術は  
人間の道徳感というささやかな抵抗を振り切り  
一部の金持ちから権力者、一般客層へと浸透していった  
須くキメラは人間に使役され、ある者はいい主に仕え幸せに暮らし  
ある者は酷使に耐えきれず衰弱死し別の個体へと交換され  
ある者は捨てられ街角で男を求め痴態を晒しながら発狂死していく。  
それでもキメラは大量生産され続け、また死んでいく  
たった二人の例外を除いて…  
 
「狐、そっちはまだバレてへんな?」  
「もちろん、狸もしくじんないようにね」  
小さい声同士の会話が聞こえる、狐と呼ばれる幼い声と狸と呼ばれる大人びた声  
関西弁のミスマッチが色っぽい魅力を余計に引き立てている  
 
そこへ一人の女性が歩いてくる、頭の側面には人間の耳が無く  
代わりにハスキー犬のような色合いの髪をした頭から犬のような同じ色合いの耳が生えている、キメラだ  
この場、美術館の警備を任された警察用キメラ達の中で  
唯一帯刀と逮捕権を許されたリーダーだ  
「そこにいるのは誰ですか」  
凛とした、微かに警戒心を声で訪ねる  
しかし、ライトで照らした先に居るのは車輪で巡回中の警備ロボットと、彼女の主人である人間の警察官だった  
「あっ、すいませんご主人様…」  
慌ててリーダーは頭を下げる  
「おまえの任務は人間を警戒することだったか47番?  
…まぁいい、私は展示品の視察に行く」  
警察官がそういっている間、リーダーは鼻をクン、と鳴らす  
「47番!!」  
「ぃっ…っ、すいません。」  
匂いは間違いなく主人のものだった  
この人間は誰もが知る怠け者で、視察さえ普段はキメラに任せきりだった  
しかし問題は既にそこではない、恐怖感ではなく悪寒に震えるリーダーの頬に手を添える警察官  
「謝るのはベッドの上でだ、ぎりぎりまで苦しみながらなぁ」  
「……っ!!」  
あくまで耐えるように表情は堅いが、彼女の目には涙が溜まり始めている  
 
「冗談だ。じゃあ、後で毛布でもかけてくれ」  
そういって警察官は展示室へ歩いていき  
警備ロボットもいつの間にかどこかへ自走していっていた  
 
「ふぅ、しっかし暑いなぁこの服…実質重ね着やし」  
先ほどとはまるで違う女性的な声で警察官はぼやいた  
「趣味悪いよ狸」  
軽蔑したような声を発しながら、警備ロボットが合流する  
「ええねんええねん、あの子はそれを楽しみにしとる所あるし」  
「…ちっ、犬が…」  
警備ロボットは吐き捨てるように言うと、グニャリと輪郭を変えて人型になる  
幼さの残る身体を黒いボディスーツと上着で覆い  
頭には金髪に先の黒い毛の生えた耳、狐型のキメラだ  
警察官もまた、グラマラスな女性へと姿を変えた  
警察官の服を脱ぎ捨て、豊満な身体をぴっちりとしたボディスーツと短い上着で覆った姿を晒す  
その頭には狸の尻尾のようにまとまった髪が一本と狸のような丸に近い三角形の耳が二つ生えていた  
 
「…やられた…」  
美術館の控え室を見て、犬のキメラは痛む頭を押さえた  
控え室にはワイシャツ一枚で酒をあおり大の字で寝ている本物の警察官と  
大量の幻に犯され一人よがり狂う護衛の同僚の姿があった…  
 
 
軽快なリズムを刻むように走る狐、その行く手を阻むように犬は立ち憚る  
「待て!!」と怒声をあげて腰の刀を抜刀する  
古来よりあるそれより洗練され、飾りを廃し確実に機能性を高めたものだ  
しかし狐はそれに構うことなく犬の横を走り去ろうとする  
当然、犬は狐を迷うことなく刺し貫いた  
同じキメラだという同情はない、寧ろ大量消費物であるキメラだからこそ自分もまたこの仕事に生死を賭けているからだ  
しかし刺し貫かれた狐の姿は水面に映った虚像のように消え去り、犬の頭上を飛び越える  
「犬に待てといわれて待つ奴はいないよ!!」  
狐は軽く舌を出して犬にあかんべえをする、その仕草に腹を立てたのか犬は人間のそれとは違う獣のような遠吠えをあげる  
美術館内にはまだ自分の同僚が数十人単位で巡回している、仲間を呼び確実に仕留める為犬は狐に匹敵する速さで駆け出した  
しかし、誰も来ない…異常事態に内心で動揺しつつも狐に追いついた犬は刀を振り下ろした  
その瞬間に、狐の姿が同僚のものと入れ替わる  
「!!!?」犬は慌てて刀をビタリと止める、すべての動きを静止したのは間違いだった  
振り下ろした相手は確実に狐だった、自分の姿に同僚の幻を被せたに過ぎない  
では幻の元である同僚の姿を狐は何処から得たのか、それは地面を見てすぐに判った  
ただ一人を認識したことをきっかけに、地面に倒れ付し幻に隠された同僚たちが一斉に姿を晒した  
その隙に狐は窓を割って美術館の外へ飛び出し、姿をくらました  
犬は諦めたように立ち止まり、周囲を見回る  
倒れた同僚たちは、どれもが悪夢に苛まれるように苦しみ悶えている  
恐らくは一度見ては脳に停滞するほどの非常に高度な幻を見せられているのだろう  
「…たった一人であのスペック、いや…共犯がいるのか?」  
犬は犯人の詳細とともに、失敗の弁解を考え始めた…  
 
次の日の夜、買い物袋を下げた人間の男性が廃屋の中唯一形を残している部屋のドアをノックする  
「こん」「きゅい」傍から見れば意味不明な合言葉?を交わして、ドアが開く  
同時に男の姿が狸のキメラのそれに変わる、人間たちに顔を見られるわけにはいかない為狸は外出する際人間に化けているのだ  
狸自身が盗みを働く姿は、彼女らが怪盗として巷を騒がせて後にも誰にも見られていないのだが…それは狸個人の事情なのだという  
「ただいま、狐。今回のブローカーは結構気前がええ奴やったよ。」  
「おかえり…」  
狸に背を向けて抱き枕を抱きながら、狐は気だるげに狸に返す  
狸はやれやれと困った笑みを浮かべながら、狐に後ろから抱きついた  
一定の間隔を置いて、定期的に狐は気だるげになることがある…それは狸にとって日常となっていた  
「なんや、欲しくなってもうたんか?」  
狸はそう言いながら狐の下腹部に手を摺り寄せる、狐はそれに気づくとピクリと股を寄せた  
キメラである以上、本能として脳に刻まれた発情機能は時限爆弾のように彼女たちを縛り付ける  
男性を受け入れなければ本来生きていけないはずのキメラが、誰もいない廃屋で二人だけ  
それはとてつもなく奇妙な状況とも言える  
キメラの発情を知らせるものはもう一つ、尻尾が生えることだが…彼女たちに視覚情報など無意味に等しい  
「…狸はいいよね、男がいなくても生きていけるんだから」  
狐はため息をつくように言った、狸はまた困ったような笑みを浮かべ狐の股間をまさぐる  
「ん…きゅ……ぅぅっ」  
「今日はどんなのをお望みかいな?頑張った狐へウチのご褒美や。」  
息を荒くしながら狐は後ろ手で狸の下腹部を撫で、何か形をなぞるように手を動かす  
「はいはい、ほならこっち向いて…なぁ」  
「……ん」  
狐は観念したように抱き枕を放し狸のほうを向く  
幻をといたのか、その後ろからフサフサと振られる尻尾が見えた  
もっとも後ろから抱きついた時点で、狐に尻尾が生えていたのは判っていたのだが  
狸はそんな意地っ張りの狐がたまらなく愛おしいのだろう、狸は狐の頬を撫でて口付けをする  
 
「ん…ちゅ…」「んくっ…ふむぅ……」  
互いの舌を交わらせ、狸は狐の敏感になった口膣を蹂躙する  
交わりを求める狐の腕が、狸の背中に絡みつき  
狸の尻尾のように纏まった髪の紐を解く  
ふさりと解けた狸の長い後ろ髪の隙間から微かに後頭部の傷跡が覗くが、二人は構うことなく口付けを続ける  
「ふっ…」「ふはっ…ぁ……」狸が口を離すと狐は名残惜しそうに舌を伸ばす  
「…ふふ、待ってな。今もっと良くしてあげるさかい…」  
体重をかけないように、狐に馬乗りする形で胸元からスーツのファスナーを下ろしていく  
豊満な胸、少しばかりぽっちゃりとした体系だが、それでも狸の身体は女性的な色気を持っていた  
それに反して、股間には狐がなぞったような大きさの剛直が聳え立っている…狐にはそう見えている  
狸の幻は、狐の作れるそれよりもはるかに精巧でリアルだ  
その上、脳に直接作用するため触れれば触覚と五感さえも支配する  
狐の胸元に手をやり、狸はスーツのファスナーを下ろす  
狐の身体は狸のそれに比べれば可愛げなものだ、狐は恥ずかしそうに目をそらす  
「……ふふっ、意地っ張り…。」  
狸はそう言うと、狐の股間に膝を摺り寄せてクチュリと水音を立てさせる  
「あっ…!!ふぁ…たぬ…きぃ……」  
「ん、全て委ねてぇな…」  
狸はゆっくりと互いの股間を重ねていく、狐は進む度に弓なりになって歓喜の悲鳴を上げる  
「うぁ…ぁ…あぁっ…入って…くるよぉ……」  
事実狐の性器には何も挿入されていない、狐の感覚が狸に操られているだけだ  
しかしそれは発情をやり過ごすには最も効率的な手段だった、こうして狐は主に仕え媚びることなく生きていける  
狸はゆっくりとスピードを速めて狐に腰を打ち付けていく、狸も少なからず興奮しているのだろう、その尻からは狸の尻尾が生えていた  
「んっ…きゅぅっ!!…はっ…きゃいっ!!!」  
狐は膣内を蹂躙する幻と、腰を打ち付けられる衝撃に耐え切れず動物的な悲鳴を上げる  
肩甲骨ほどまである金色の長髪を振り乱して狐は乱れ上り詰めていった  
それは狸にも言えた事だった、幻のリアリティを上げる為、狸もまた幻を自分の感覚に連動しているからだ  
 
「あっ、は…きゃいぃっ!!」  
「狐、ええか!?そろそろ…っく…イくで!?」  
狸が狐を組み伏せる形で押さえ込む、イヌ科の動物が獲物を押さえ込むように  
「はっ!!ぁ…やっ…あ…くあぁ!!」  
「狐…きつねぇ……っ!!」  
狐は身体の奥で熱いものが弾けたのを感じ、拒むように腰を跳ねさせて抵抗した  
ドクン ドクン…   
「や……っ…やああぁっ!!!」  
涙を流し、汚れなくてはいけない我が身を呪いながら…狐は絶頂に達した  
 
「ウチな、ウチな、ご主人様のお嫁さんになるねん  
ご主人様の子供産んで、家族になるねん」  
絵本を読んで、そんな夢を見たのは何時だったか…  
その時あの男は、確かに笑い返してくれたはずだった…  
「何時か生きている内に無くしてしまうものよ、いつか自分が無くなる側に回るその日までね」  
死んだ女の声が、延々と私の狂った頭の中を廻っている  
延々と…目が覚めても…  
 
狸はいつの間にか眠っていた、連日幻を作り続けたからか披露が溜まっていたらしい  
一足先に目が覚めた狐がソファに座って考え込んでいる  
狐は、先程の熱を思い出しながら腹をさすった  
「狸ってさ…子供ができたらなんて考えたことある?」  
「…ふっ、あっはっは…何考えとるんよ?」  
狸は笑う…それもそうだ、キメラは妊娠することがない、だからこそ奴隷としても理想的とされ  
発情を何時でも抑制できるのである  
狐はむっとして狸に言う  
「でも…もし子供ができたら、キメラが道具じゃなく、せめて生き物なんだって思ってもらえるかも…しれないじゃない…」  
途中から自信が無くなったように声が小さくなっていく  
「…子供は、そんな風に『使う』ものやないんよ…」  
 
狐は嘗て、研究用に作られ…そして捨てられたキメラだ  
そこは掃溜めと呼ばれる清掃局さえ見捨てた一帯…熱と飢えが支配する地獄だった  
時限発情に苦しみ死んでいく仲間たちの中で、悶え苦しみながらも狐だけが偶々生き長らえ狸に助けられた  
狸が何故発情しないのかは分からない、もしかしたら何処かに主がいて定期的に会いに行っているのかもしれないし  
彼女も自分の幻で事を済ませているのかもしれない  
つい最近まで生きることだけに必死だった狐にはどうでもいい事だったが、最近になっては考える余裕ができたこと自体が狐の中にフラストレーションを生んだ  
狸が人間に化けてブローカー(依頼者)に会いに行き、狐が盗んで金を得る…  
これは狸が考えた自分たちの仕事の内容だった  
長時間人間に化けることができる狸は普通に人間として働くことができる、狐に会うまではそうしていた  
ということは、こんな事を始めたのは自分のためではないのだろうか  
狐はそう考えると自分に対して腹立たしさを覚える、唯でさえ狸には世話になっているのに自分は狸の生活を壊してしまっているのではないか  
そう思うことはできる、しかし人間に長時間化けることもリアルな幻も作ることすらできない…ただの捨てキメラでしかない自分には  
この世の中でできることなど何もないのだ…せめてキメラの社会的な地位が少しでも上がるなら…  
「狐…そう頑なにならへんでもええねん。」  
ふわりと、被さるように狸は後ろから狐に抱きついた  
「ウチは狐が好きなだけや、せやから何も心配せんで…」  
「……っ!!」  
狐はバッと狸の腕を振り払い、服を着始める  
「……感謝してる、助けてもらってることも…でも、私はアンタの愛玩動物じゃない!!」  
そう言うと狐は人間の少年の姿に化けて、ドアを開けるとバタンと閉めて出て行った…いずれにせよ帰る場所はここしかないのだが…  
やれやれと、狸はベッドに再び寝転んだ  
「……まったく、ウチって奴は…」  
ズキリと、後頭部の傷跡が痛んだ  
 
狸に比べれば、狐は幻の精度も維持できる時間も少ない  
しかし狐はできるだけ遠くに行こうと走る  
しかしやがて疲労は来る、少し疲れただけでも幻の仮面はすぐに取れてしまうから止まって辺りを見回した  
コンクリートと排気ガスで彩られた灰色の景色、唯一色彩を持つのは行き交う人間の服か買出しに出されているキメラ達の体毛のみ  
一つの流れのようになっていて、狐ひとりが立ち止まっても構わないと嘲笑うかのように流れは続いている  
壁には自分の姿が映された指名手配所が張られており、慌てて狐は一通りの少ないところに行こうとする  
ポン、と肩をたたかれた  
ビクリと肩が強張り、目立たないように逃げようとするが方に手を回されて防がれる  
「ちょっと、貴女…怪盗狐でしょ?」  
そう問いかけられて絶望を顔に貼り付けながら振り向くと、そこには自分と同じ金色の毛と耳があった  
 
「同じ狐同士で見破られるって、あの狐がどれだけ油断してた訳?」  
ケタケタ笑う同型の質問に応えることはできない、ただ単に恥ずかしいから  
狐と言うのはあくまで呼び名であって、名前のない狐を狸が勝手に狐と呼んでいるのをそのまま公的に呼ばせている  
狐型や狸型のキメラは生物としての狐や狸が本来持つ幻術能力を自覚し自分の意思で使用できる  
故に一部の物好きに夢見せ役として変われるのが彼女達だ、もっとも一般の狐キメラは夢を見せる程度の能力しか持たないが  
油断すれば同属に幻を見破られるのは当然のことなのだ、狐は幻に集中しつつ警戒しつつも同型の話を聞く  
「…今度はどう見ても人間だぁ、わぁ…すごいなぁ…流石、怪盗さんとなると違うんだなぁ…」  
同型は目を輝かせながら少年姿の狐をジロジロと見る、どうやらこの同型は純粋に感心しているようだ  
「……通報したりしないの?」  
「してほしいの?」  
狐は恐る恐る尋ねるが、スパリと聞き返され首を横に振る  
どうやら本当に通報する気はないらしい、彼女が言うには  
キメラとして人間を化かし脅かす怪盗狐の存在は自分にとって『面白い』のだそうだ  
「ただ、狐型だからってご主人様もろとも検問に引っ掛けられたりするのは不便だけどね  
でも、なんで君みたいな子が怪盗なんてやってんの?やっぱ主の命令とか?」  
「お、お願いだからもう少し静かに聞いて…」  
詰め寄って聞いてくる同型に、狐は押しとどめるように手をやる  
嘘をつこうとも考えた…しかし狐は今、そんな心境ではなかった  
少なくともこの同型は言いふらす必要性を感じることはないだろうし  
「…自分で生きるため、だよ。」と言う  
同型は不思議そうに首を傾けて狐に問う  
「でも、主人は居るんでしょ?」  
「発情しそうになっても幻を使って助けてくれるキメラはいる、でも…  
そのキメラみたいに一人で生きていけるようになりたいんだ」  
同型はうーんと唸って、ピンと閃いたように狐に言う  
「…つまりレズって奴!?」  
同型の発した単語の意味がわからず、今度は狐が首を捻る  
「私もご主人様にねぇ、キメラ同士でそういうの強要されるんだよ  
まぁ結局、終わった後ヤってもらうんだけど…」  
同型の言葉に、狐は眉をひそめる  
「でも…一人で生きてるキメラなんて聞いたことないなぁ…」  
「現に居るから、私は目指して…」  
わずかに苛立ちながら、答えようとする狐の言葉を遮って同属は言う  
 
「だって、そんな高度な幻使うキメラだったら…普通人間は手放そうとしないよ?」  
 
…薄々判っていることだった、狸は何でも幻を使ってやってのける  
現に自分が生きているのも、自分に合うまで狸が生きてきていた事実もそうだ  
しかし、キメラは根本として人間に逆らうことは出来ないし  
普通のキメラならその能力を活かし、人間に媚を売り、少しでも長く生きようとする  
実験体として捨てられた自分はともかく、狸が一人で隠れて生きる必要は何処にもない  
 
同属のその言葉の意味することに、狐は言い知れぬ不安を心に落とした  
 
「きゃいんっ!?」  
一方で警視庁のとある一室、盗難課の寮  
47番というナンバリングのされた犬キメラリーダーは、主人である刑事の張り手を喰らい無抵抗に倒れこむ  
「今何て言った…もう一度言ってみろ雌犬がぁ!!」  
二日酔いに痛む頭を抑え、刑事は犬に罵声を浴びせる  
「…複数犯の可能性があります、人員の強化と…充実した装備がなければ対抗はできません…」  
「俺だけじゃ逮捕できないってか…あぁ!!?」  
構わず端的に述べる犬の襟首を刑事は掴み上げ、壁に押さえ込む  
「手前、少し調子に乗ってるんじゃねぇだろうなぁ?  
3年ちょっと生き残っていようが、いつでも俺は手前を捨てる事はできるし手前の変わりなんざ幾らでも居るんだぜ?」  
「………すみません…」  
刑事の脅しに屈服するように、犬は頭を垂れる  
「…ちょっと来やがれ!!」  
犬の襟首を掴んだまま、刑事は隣の自室へずしずしと歩いていく  
犬は抵抗せず、ただたどたどしく刑事の歩幅に合わせて歩こうとする  
その瞳には自分としての意思などない  
警察犬の代わりとして導入された犬キメラである彼女たちは  
凶悪犯の追跡や犯罪組織との抗争等に確かに大きく貢献している  
だが、犬キメラは犬(生物)に劣る『物』であり  
大量消費物として、囮や盾として、事件に借り出される度死亡するものが後を絶たない  
この犬キメラリーダーは、他の同僚たちに比べて長い時間を生きているが…それでも製造されて3年目だ  
長く生きてきたのはあくまで奇跡に他ならない、それと単なる運の問題である  
この刑事がどう思っていようと、キメラの面倒見が他の刑事キメラ関係者よりいいこと−それもあくまで自分の保身のためなのだが−  
事件の度偶然に出会い…助けてくれた狸のキメラとの出会いと縁…  
そして、どれだけ苦しかろうと逆らう事を諦める、そういった心構えもあるのかもしれない…  
 
47番を引きずって刑事が開けたのは、犬小屋と呼ばれる部署の扉だった  
キメラには生まれつきに能力と知能が電子的に教育されるが  
警察や軍隊など、特殊な環境につくキメラはそうというわけにはいかない  
本来は彼女らを教育、そして躾ける為の施設なのだが  
犬キメラを大量消費物として扱う体制が確立している今となっては唯、『躾』か『発散』をするための個室が揃うのみとなっている  
個室の壁に叩きつけられた47番は、小さく咳き込むだけで抵抗しようとしない、そう躾けられているからだ  
「おら、脱げよ!!」  
刑事にそう促され、47番は何も言わずスカートを下ろし、制服を脱ぐ  
やがてほかのキメラよりも多くの部分を体毛に覆われた肢体が見えるようになった  
犬キメラのような短命を基準に製造された個体は、長く生きると稀に本来の生き物としての外見を現すようになってくる  
しかし、その後ろから見える尻尾の存在が意味することはほかのキメラと変わることはない  
「あぁ?何期待してやがるんだよ、この雌犬が!!」  
「…キャイっ…!」  
赤く染まる顔を背けようとするが、刑事に髪を引っ張られ  
今度は47番も小さく悲鳴を上げる  
「何期待してやがるって聞いてるんだよ!!てめぇ、その為に反発したんじゃねぇだろうなぁ?」  
「…違います……」  
47番は震えながら、刑事が自分の首に首輪をかける事を受け入れる  
事実47番も犬である以上鼻が利くのだ、此処を利用するのはこの刑事だけではない  
警視庁でキメラを引き連れる者の殆どがこの部署を使用するといっても過言ではない  
個室に入る前も、幾つかの個室の扉は閉まっていた  
詰まるところ、この部署には絶えず濃密な雌の匂いが充満しているのである  
バチィ!!「ギャン!!」  
耳に聞こえるほどの音が鳴り、47番の全身が痙攣する  
刑事の手には躾用のスイッチ、首輪とセットとしてこの部署に配給されている道具である  
「反発する暇があったらとっとと脱いで見せてみろよおい!!」  
「ギャウッ!!…は、はい…ご主人…様……」  
まだ首に残る激痛に震えながら、47番はショーツを脱いだ  
躾けられた身体は、既にそれを行為として受け付けてしまっているのだろう  
その秘所からは既に、蜜が垂れ始めていた  
刑事はそれを指に絡ませ、47番の下腹部を攻めながら問う  
「もう垂れてるじゃねえかよ、さすが雌犬か?」  
「ひ…くぅ、ぁ…あはっ…や……」  
痛みからも感じ始めてしまう身体に反してしまう羞恥心を、早くどこかへ飛ばそうと  
47番は正直に弄られる快楽を受け入れようと包み隠さずあられもない声をあげる  
 
「ふぁ…ぁ……ぎゃいん!!?」  
しかし、再び首に電流が走り47番の意識は現実に戻された  
「浸ってんじゃねぇよこらぁ!!」  
「す…すいませんご主人様…すいません……」  
そういって47番は刑事のズボンのファスナーを下ろし、彼の男根を出す  
そして舌を出し、ゆっくりと咥えた  
「…けっ、口の使い方だけ旨くなりやがる」  
そういって刑事は47番の頭を押さえつけ、腰を振る  
「ん……く、んぶ…んはぅ…」  
刑事のペースに呼吸が追いつかず、苦しそうに眉をひそめるが  
歯は決して立てず、舌の動きだけは刑事の動きにあわせ巻かせ、蠢かす  
やがて刑事の男根から大量の欲望が吐き出され、47番の喉を犯した  
「ん……っ……ぐっ……んく…ぷは……」  
刑事の両腕から解放され、47番は雌の匂いの充満した空気を再び大きく取り込んだ  
「ぁ……う…ご主人さ、まぁ…」  
本格的に発情の始まった47番は、熱に浮かされるような表情で刑事に続きをねだろうとせがむ  
しかし刑事はファスナーを上げ、個室の扉を上げようとする  
「ご主人様・・・待っ…ぎゃん!!」  
再び電撃が走り、47番は個室の床に崩れ落ちる  
「あぁ?口の聞き方を躾けに来たんだぜ俺は。  
まだ何か用事でもあったかよ?」  
刑事はわざと惚けるようにスイッチを弄りながら扉の前に立っている  
「ぁくっ、そ、それは…」  
「言ってみろよ、おい?」  
刑事はスイッチをカチカチ鳴らす  
「ギャヒっ!!あ゙っ、か…ギャイン!!」  
47番の身体は激しい痛みに襲われ倒れ付しながらも陸に打ち上げられた魚のように跳ねた  
「くっ!!くださっ!!犯してくださいぃっ!!キャァンッ!!」  
必死で刑事に訴え終えた後、47番は跳ねる体力をも失ったようにぴくぴくと痙攣しながら手足から力を抜いた  
「…よく言えたな、この雌犬」  
スイッチから手を離さないまま、刑事はズボンを下ろし、47番の片足を持ち上げ、一気に突き入れた  
「ひゃあぁぁっ!!」  
入れただけで達したのだろう、47番の身体が弓なりになるが  
刑事は構うことなく腰を動かし始める  
「やっ、は…イッた…ばかりで…すっ…から…ヒギッ!!」  
電流を流されまた前人が硬直し、胎内の剛直を締め上げる  
「うるせえよ、よがってろ。」  
刑事はスイッチを定期的に押しながら、47番に腰を打ち付ける  
「ギャウッ!!…あ!!…やギャゥッ!!…らめ…ひぃあっ!!」  
激痛さえも快楽と受け入れるようになってしまい、発情による快楽に支配された47番は  
汗とよだれを撒き散らし、達し続ける  
「おらぁ…出すぞぉ!!!」  
「ひあ、あああああああぁっ!!!!」  
刑事が強く腰を叩きつけ、47番はひときわ大きく腰を曲げて絶頂の快楽に振るえた  
 
「はぁっ…はぁ……はぁ…」  
「…ちっ、満足そうにイキやがって…」  
朦朧としながら、行為の余韻に浸る47番を背に刑事は舌打ちしながら首輪を外し、個室の端に置く  
冷静になって考えてみると、47番の言うことも尤もなのである  
認めたくないのは自分が原因だということ、それも昨晩の件は特にそうだ  
酒気が抜けると、この男はとたんに冷静になるのは  
こんな男でも刑事にである唯一の証拠である  
「酔いも覚めちまった…増援のこと、考えといてやるよ…」  
刑事はそういって個室を後にした  
「…はぁ…ん……ご主人…様…」  
47番もまた、それを聞いて安心したのかそのまま眠ってしまった  
 
数分後、47番が次の使用者に電気ショックで起こされたのはまた別の話  

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