勉強は人並み、運動もそれなり。ルックスは平均的な日本人顔で、趣味は眠る事。そんな、
毒にも薬にもならない男、市橋猛(いちはし・たける)が自室のベッドで惰眠を貪っている。
「ぐう、ぐう」
猛は十六歳。普通、この年頃であれば燃え滾るような情熱があっても、おかしくはない。
それなのに、彼は眠る事を何より愛していた。ちなみに猛は、過去に教師から座右の銘は?
と尋ねられた時、『三年寝太郎』と答えている。質問の意味を、まったく理解していなかった。
「猛」
眠る猛の元へ、不意に女性の声が響く。どうやら接した隣家の窓から、誰かが彼を呼んでいる
らしい。しかし、猛はいまだ夢の中で、ちっとやそっとの事じゃ、起きそうにも無かった。
「また寝てるのね、もう・・・」
声の主は業を煮やしたのか、なんと窓伝いに猛の自室へ入ってくる。カーテンの裾からにゅっ
と細い足が現れた後、まるで天使の如き軽やかさで、一人の美しい少女が舞い降りてきた。
「よくこんな真昼間から眠れるわね・・・というか、自宅で起きてる姿を、見た事が無いわ」
両手を腰に当て、呆れ顔の少女。その名を指宿翠(いぶすき・みどり)といい、ここ市橋家と
隣接する家に住まう、奇しくも猛と同じ十六歳の乙女であった。するとどうした事か、もう
一人、隣家に接する窓から翠とそっくりな──というよりは、まったく同じ顔、同じ服を着た
少女が、これまた天使の如き軽やかさで舞い降りてくるではないか。
「翠、猛はまた寝てるの?」
「うん。呆れるわ。きっとまだ、宿題だってやってないのよ」
同じ顔を持った美少女が二人、まるで鏡で姿合わせをしたかのように立ちながら、眠る猛を
見下ろしていた。そう、この二人は一卵性双生児なのである。先に入ってきた方が、姉の翠。
そして後から来た方が、妹の蛍(ほたる)。姉妹は近所でも評判の、美人双子なのであった。
「来てたのか、二人とも」
ぎっとベッドを鳴らしながら、身を起こす猛。腫れぼったいまぶたが、いかにも眠たそうである。
「起きてたの?」
これは翠。
「寝てるかと思った」
これは蛍である。二人とも今のところ、名乗ってはいない。だから、猛から見ればどちらが姉で、
どちらが妹ということは分からない──はずなのだが。
「腹が減って目が覚めた。何か食うもんないかな、翠」
猛は向かって右にいる翠に手を差し伸べ、こう言ったのである。すると、翠はやっぱりというような
顔つきで、
「どうしてあたしが翠って分かるの?パパやママだって、どっちがどっちか分からない時があるのに」
と、尋ねてみた。そして猛は質問に対し、表情も変えず答えるのだ。
「何故か分かっちゃうんだよなあ・・・俺にも理由は不明だけど・・・ふわあ・・・」
猛は股間のあたりをぼりぼりと掻きながら、大きな欠伸をしてみせた。良識ある人間が見れば、思
わず顔をしかめるような無礼さである。当然、それは美しい双子姉妹も同じ事。
「なんかムカつくわね。親ですら間違えるあたしたち姉妹を、このものぐさ男だけは区別がつくなん
て。それも、今日の今日まで、ただの一度も間違えた事がないときてる。変よね、翠」
「・・・まあね。でも、蛍。ちょっと言いすぎよ」
蛍が厳しく毒づくと、翠が優しく諌めた。この双子は妹の方が毒舌家で、姉はおしとやかな性格を
持っている。そして、寝る事が趣味というぐうたら男が、彼女たちの中心にあった。
「腹減ったなあ・・・今日、母ちゃんが出かけてて、昼飯も食ってないんだ。翠、何か作って
くれないか?」
「いいわよ。簡単なものでいいかしら?」
「うん。頼むよ」
猛と翠の息の合った遣り取りである。ただ、飯を作ってくれ──いいわよ──だけの会話だが、
阿吽の呼吸でそれらが交わされている。お互い付き合いが長く、性格を良く理解している証拠
だった。しかし、これを不満そうに見ている者が約一名居る。言うまでも無く、妹の蛍である。
「翠ばっかりに頼んで・・・」
蛍はぷうと頬を膨らませ、窓におでこをぴったりとつけて背を向けていた。これは彼女なりの
気を引くポーズである。姉、翠と猛がまるで夫婦のように言葉を交わし、気の合うところを見せ
た事が、気に入らないのである。要するに、やきもち。
「一緒に作ればいいじゃないの。ね、蛍」
「ふーんだ。猛は翠に作って貰いたいみたいよ・・・どうせ、あたしなんて」
拗ね者となった妹をなだめすかそうと、翠はご機嫌取りに奔走し始めた。双子とはいえ、その
性格には歴然とした違いがあり、こうやってみればなるほど姉妹の区別はつく。しかし、猛は
どんな状況下にあっても、決して翠と蛍を呼び間違えたりはしないのである。それが不可思議
だった。
「悪かったよ、蛍。お前と翠で飯作ってくれたら、俺はありがたいんだがな。ちょっと、言葉が
足らなかったか」
猛は蛍の背へそう言った。別段、媚び諂う訳でも無く、あくまでも自然に。すると、蛍はにや
にやと口元を緩ませ、
「まあ、そこまで言うのなら、作ってやらんでもない。でも、その前に!」
と言いざま、猛の胸へ飛び込んで行ったのである。そして、
「いつものやろうよ・・・翠、カーテンを閉めて、電気を消して・・・」
猛の唇を奪いながら、自らは着ているものを脱いでいったのであった。
「飯が先じゃダメ?俺、腹減ってるんだけど」
遮光された部屋の中は十分に暗く、寒々とした印象さえ受ける。その中で、猛は下半身を
露呈させられ、ベッドへ座らされていた。その上、何故か顔には黒いブラジャーを着けられ、
目隠しをされているも同然となっている。そして、その対面には──
「ご飯はこれが終わるまで、お預けよ。うふふ、ちょっとだけ待ってよ」
と言って笑う全裸姿の蛍。それに、
「あたし、恥ずかしいわ。こんな遊びは・・・」
と言ってうつむく翠の姿があった。こちらも、当たり前のように身に着けているものは、何
ひとつ無い。
「じゃあ、始めようか。猛、用意はいい?」
「いいよ」
蛍が開始の音頭を取ると、双子姉妹も猛も共に無言となった。まだ外の日は高いが、ここ
だけが宵の深まった夜の如く、閑静になる。
『どっちがいく?あたしから?それとも翠?』
蛍が手で輪を作り、何かをしごくような仕草をした。更には唇から舌を出し、片目を瞑って
悪戯な笑顔を作ってみせる。小声で翠へ語りかけたのは、何かたくらみの為らしい。
『じゃあ、あたしから・・・』
翠がすっと足を出した。そして、猛の前へ傅いたかと思うと同時に、垂れ下がった男根を肉厚
な唇の中へ、咥え込んでいったのである。蛍が先ほど見せた仕草は、男根への口唇愛撫を
示していたのだ。
「おっ・・・」
じゅるりと肉筒を啜られて、猛は声を漏らした。部屋が暗い上に目隠しをされているので、双子
美少女の姉、翠の口唇に男根を収めて貰っているとは分からない・・・はずなのに──
「これは翠だな」
なんと猛は、男根を咥えて貰っている相手が、双子の姉の方だと即座に分かったのである。
もちろん、姉妹のどちらも声ひとつ出してはいない。
「当たりよ。どうして分かるんだろうね」
蛍が感嘆したように呟いた。すると、翠は咥えていた男根を唇から離し、
「不思議よね」
と、妹に同調した。
「今度はどっちの胸か当ててね。猛、手を出して」
「ほい」
翠のいざないで猛は両手を前に出す。姉妹はここで猛を惑わすように部屋をうろつき、その
後、翠が右、蛍が左に立った。そして、それぞれが無言で猛の手を取り、自分の乳房へと持
っていく。
「触るからな。揉むぞ」
猛の手がやんわりと二人の乳房を揉んだ。優しい手遊びである。
『ああ・・・』
女の急所を責められると、姉妹ともにまったく同じ反応をした。声には出さなかったが、蕩ける
ような表情と、若干腰を引いた所まで寸分たがわず同じだったのだ。こうやってみると、傍目に
はまったく姉、妹の区別などつきそうにない。しかし──
「右が翠で、左が蛍」
やはり猛は間違わなかった。それも、乳房に触れてすぐ、明確な回答を出している。不思議な
事に、ここでも迷う仕草は全く無かった。
「不思議ね」
「不思議よ」
蛍と翠は、聳え立った猛の男根へ顔を寄せながら、何度も同じ事を言った。今、二人は
舌を出して、交互に男根を舐めている。その都度猛は、
「今のは蛍。今度は翠だな。おっと、フェイントか、また翠の舌だ」
と、ひと舐めして貰うたびに、どちらが唇を寄せているのかを、ぴたりと当ててしまうので
あった。もちろん、なぜそれが分かるのかは、不明である。もう、彼の天性としかいいよう
がなかった。
「もうダメ、降参。後は好きにさせてもらうわ」
何度やっても猛に不正解はない。それを認めた蛍は男根にまたがり、すっぽりと女穴へ
咥えこむ事にした。遊びはもう終わり。これからは、単に男と女の睦み合いが当たり前の
ように始まる。
「あーん・・・猛のコレ、太くてステキ・・・」
肉筒で女穴を満たされると、蛍はうっとりと目を細めた。猛をベッドに座らせ、自分がその
上で腰を使うのが、彼女が好むスタイルである。
「あっ、ずるいわ。蛍」
妹に先を越され、翠が猛の脇へ回った。そして唇を奪い、親愛の証を求めようとする。
この双子の姉妹は、まったく同じ人間を好きになってしまったのである。いや、双子ゆえに
好みを同じくしてしまったのかも知れない。
「あッ・・ああッ・・・双子云々は別にして、あたしたちと猛とのセックスのの相性って、きっと
最高なんでしょうね・・・だって、こんなに気持ちいいんだもん・・・」
騎乗位で凄まじく腰を使っている蛍が女泣きに泣く。恥ずべき事に、この少女は淫らな言葉
を何の気無しに叫ぶ性癖があった。
「猛・・・ごめん、指でいいから、あたしも可愛がって・・・」
若干、控え目に淫戯をねだるのは姉、翠の方である。男根は今、妹が占有しているので、
自分は愛しい男の指遊びで女を濡らしたいと願ったのだ。
「二人とも、困ったもんだな」
蛍を男根で、翠を指で愉しませながら、猛は呟いた。このぐうたらで何の取り得もない男が、
美人双子姉妹を篭絡している事が不思議でならないが、現に姉も妹もすでに彼の手中に
ある。
「こういう関係、ドキドキする。あたしと翠、どっちも一生可愛がってね、猛。あたしたちは二人
でひとつなの。どちらが欠けてもいけないわ」
「ああ・・・猛、あたしたち三人は、ずっと離れられないの。運命なのよ」
「分かってるさ。ホラ、二人とももうイクんだろ?どっちも膣の動きでそれが分かるよ」
蛍と翠、それに猛がひとつとなって肉塊になり、今際の時がやってきた。
「アーンッ!」
蛍も翠もそれぞれが同時に絶頂へ導かれた。叫ぶも同じ、表情も同じである。その上、膣穴
から分泌される愛液の放水までが同調しており、快楽の波に合わせて濁った粘液をピュッ、
ピュッとほとばしらせるのだった。そこへ、猛の放水も重ねられる。
「キャアーッ・・・で、出てるッ!猛のザーメンが!」
男根をねじ込まれている蛍が叫んだ。目を剥いて、背をぐっと反らせ愛しい男の子種を、ぐい
ぐいと肉穴の奥まで無意識に送り込む。すると、それと同じように指で犯されている翠もきゅう
と膣口を締め、まるで自分も子種を胎内で放出されているかのような動きを見せた。物の本に
よれば、双子は精神を同調させる事があるという。この双子姉妹もご多分に漏れず、それに
近い状態を感ずる事が度々あった。
「ふーッ・・・いい思いが出来たわね、翠」
「ええ、蛍もずいぶん気が入ってたみたいね。それが、あたしにも伝わってきたわ」
ベッドの上で、姉妹は絶頂後の余韻に浸っていた。そこへ、猛が問いかける。
「飯・・・まだ?」
空きっ腹で荒淫を果たしたので、疲労の度合いが濃いようだった。ブラジャーの目隠しは
もう外していたが、部屋が暗いために姉妹の姿がはっきりとは捉えられていない。
すると──
「さて、今、猛から見て、どっちが翠でどっちが蛍でしょう?」
薄闇の向こうから、そんな声が聞こえてきた。確かにベッドの上に二人はいるのだが、
生足が僅かに見て取れるだけで、どうやっても姉妹の区別など出来そうに無い。勿論、声で
判断する事も不可能である。しかし──
「右が翠で左が蛍。俺は気配で分かるんだよ、どっちがどっちかが」
猛はやはり、何の気無しに答えた。そして、当たり前のように正解だったのである。
おちまい