アバロン暦701年。  
 上に立つ者は肥え、下に敷かれる者は痩せ細る。汚れた治安と略奪に、人々はただ恐怖と暴力に犯された。  
 フランス、オルレアン。血に染まるこの国は神に見放され、民は飢えと病いに倒れ、抗う術さえ失われて、終わらない戦の戦火に消え行くだけ。  
 されど、影と光は表裏一体。闇が強くなればなる程、それに対する強い光が誕生する。  
 
「神の名において……私は今、ここに誓う!!」  
 
 風が吹き荒れる荒野に立ち、空を見上げる少女が一人。  
 小さな胸に十字を切り、腰の位置まで伸びた銀髪をなびかせる。聖少女、ジャンヌダルク。  
 左手に旗を、右手に大剣クロスクレイモアを、背中に何千何万の兵を携え、血で血を洗う最前線に立ち続けた勇騎。  
 集いし兵達は、少女の中に女神と希望を見出だし、友の死を乗り越えてオルレアンを目指した。  
 そしてついに、神の声を辿りながら、小さな胸に十字を切りながら、涙を剣で拭いながら、少女はこの国を解放に導く。  
 少女は、ジハード(聖戦)により勝利と栄光をもたらしたのだ。  
 
 救世主……彼女は奇跡とされて、争いに終止符を打つ。  
 
 しかし、争いが終幕を迎えると、支配者はすぐに手の平を返す。  
 利用価値が無くなれば消すのは現代も同じで、時のフランス王シャルルは、神のお告げが聞こえるジャンヌに魔女の烙印を押した。  
 死刑囚の牢獄に繋がれるのは、かつては聖女(ラピュセル)と讃えられ、今では魔女扱いの少女。  
 
「神よ……何を、正義とすればいいのですか?」  
 
 神と詐称した罪に問われて処刑場に向かい、誓いを祈りに変えて神に問う。  
 救世主……彼女は奇跡とされて、その身も血に染めながら、長き争いに終止符を打つ。  
 果ての無い、絶望と後悔を繰り返して。  
 
 
 
 
    『Romancing Dullahan』  
      〜プロローグ〜  
 
 
 
 
 太陽が湖を唐揚げる真夏日。街広場の中央で、再びジャンヌは視線を浴びていた。  
 纏う物は白銀の鎧からボロ一枚に、握り締める物は剣から遺書一枚に、地面へと打ち込まれた杭に両手を縛り付けられて。  
「神よ、私にはもう……貴方の声が聞こえない」  
 足元に敷き詰められた薪が燃え、ジャンヌの身体は炎に包まれる。  
 ボロも、遺書も、皮膚もさえも焼け爛れて、雨が降って鎮火した時には、美しい少女の面影は全く無くなっていた。  
 
 
 更には自らの愛剣クロスクレイモアで首を切り落とされ、魔女の死、平和の象徴として晒し首に。  
 だが、身体を焼かれ、首を切り落とされてなお、ジャンヌは死んでいなかった。  
 死刑の日から三日後の夜、誰も居ない広場の中央、月明かりのシャワーに照らされて、一人の少女は蘇る。  
 ボロボロと表面の消し炭が崩れて、中からは生前の白い肌が覗く。  
 そしてゆっくり腰を起こすと、横に転がる頭部を左手で拾い上げた。その瞳は開かれ、その銀髪は夜風にサラサラと揺れている。  
 右手で拾い上げるのはクロスクレイモア。刀身が黒く変色し、担い手の怨恨で凶々しくリバースした生きる大剣。  
 そう。少女は間違いなく神の代行者で、神はこんな最後を遂げたジャンヌの事を不憫に思い、たった一つだけ願いを叶えたのだ。  
 満足できる死を迎えるまで、何度でも生を授かると言う願いを。  
 
 勇騎は幽鬼に、人外に。頭部を抱えるモンスターに。  
 一歩……前へ出る度に衣服すらも再生し、再構築されて白銀の鎧に生まれ変わる。  
 胸当て、腰当て、篭手、足具、その全てが輝きを取り戻し、月光を乱反射させて夜の闇を暴き照らす。  
 屍王デュラハンの誕生した瞬間で有った。  
 翌日、街は消えた死体騒動でパニックに陥ったが、それも半年すると忘れ去られ、三年後にはジャンヌダルクの名さえ語る者は居なくなる。  
 民は余裕が無かったのだ。ジャンヌによりイングランドの制圧から解放されたものの、フランス王シャルル・オウガイの独裁は、イングランドと何ら変わらない。  
 極星十字宮殿に仕える人間だけが肥え、その他の人間は飢えて倒れる。  
 
「ふむっ、今日のは口に合わぬ」  
 
 直訴に来た町民の目前で、テーブルに置かれた料理が全て床へと弾き落とされた。  
 皿が割れ、肉も、魚も、スープも。貧しい町民達は決して口にできない食材を、たった一口でゴミにする。  
「良いか!? 貴様等は飢えても、シャルル様は飢えぬっ!! 税の引き下げなど叶うと思ったか!!?」  
 側近の台詞に、代表者で在る町長は顔を青くするばかり。  
 この国は、何も変わらなかったのだ。そんな現状が身に染みて、初めて民達は自らの愚かさを呪う。  
 ジャンヌが処刑される時、何故止めなかったのか?  
 ジャンヌが生きていれば、こんな国にはならなかったのでは無いか?  
 そうして思い出す。ジャンヌの死体が消えていた事を。  
 ジャンヌは生きている。必ず助けに来てくれる。救い出してくれる。都合の良い考えで人々は心から願い、願い続けて一年が経ち、奇跡は再び舞い戻った。  
 早朝、宮殿の王室で、腰の位置から上下に二分された亡きがらが横たわる。  
 ベッドごと切り裂かれ、静かにシャルルは絶命した。  
 
 死んだのは、シャルルと側近の数名で、他の兵達は気絶していただけ。  
 そして目覚めた者は、口々にこう言った。  
 
「頭部の無い騎士が王を殺した」  
 
 ……と。屍王(しかばねおう)恐怖伝説の始まりである。  
 腐敗した国々を解放へと導くのは、首無き乱世覇者、屍王デュラハン。  
 独裁体制を取る国王と側近を次々に殺し、天多の弱き民達を救って行った。  
 額に螺旋状の一角が生えた巨大な白馬、アハ=イシェケに跨がり、ついには僅か三年で、フランス全土を平和な国へと浄化し終える。  
 そして七英雄と呼ばれた七人の勇者を返り討ちにし、その直後、屍王デュラハンは、ジャンヌダルクは、この世から完全に姿を消した。  
 
 アバロン暦707年。  
 七英雄は自らの力に溺れて暗黒面に堕ち、新たな勇者に伐たれて終わる。  
 クジンシー、ボクオーン、ワグナス、ノエル、ロックブーケ、スービエ、ダンターグ。  
 その七人を一年も経たぬ間に滅したのは、若干十六歳の少年で在ったと言う。  
 名はソウマ、ソウマ=ダルク。ジャンヌの本名、サラ=ダルクと性を同じくする、親戚で、隣人で、六歳違いの幼馴染み。  
 
 
 
 
     『Romancing Dullahan』  
      〜プロローグ〜  
 
 
 
 おしまい。  
 
 

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