は?何でここであいつが出てくる?まさか、あいつ――
「でね、その後私もみんなに推される形で立候補してね。多数決になった。」
「黒田さん、それって。」
黒田さんはコクンと頷いた。
「そう。皆に推されたってのは嘘。元々勧められてはいたけどね。それで渋々って感じ。でもほんとは。」
黒田さんはここで一旦言葉をとめて、強く俺の眼を見据え、言い放った。
「小野寺 唯をこれ以上、私の好きな大谷 陸に近づかせないためだった。」
「・・・。」
彼女の告白に俺は何て返せばいいか分からない。話は理解できる。
俺だって、唯か黒田さんかどちらを部長に選ぶかといえば、黒田さんだ。黒田さんはそれを自覚していた。
「私の言いたいこと分かってくれた?」
「あ、うん。」
「じゃ、大谷君の気持ちきかせてくれる?」
「え、いや、その、俺は。」
部長にふさわしいと思ったのは黒田さんだった。でも、どっちが俺の好きな女の子なのか。
「俺は・・・。」
いや、もうすでに答えは出てる。俺は、真正面から向き合わなければならない。さっきの黒田さんはそれを俺に伝えたかったんだ。
「ごめん、黒田さん。俺、黒田さんの気持ちには応えられない。俺が好きな奴は他にいるから。」
黒田さんは精一杯の笑顔で答えてくれた。
「うん。分かってた。気持ち、ちゃんと言わなきゃだめだよ?」
「わかってる。」
「うん・・・。じゃあね。」
「あ、ちょっと待って!」
屋上のドアに向かおうとした黒田さんを呼び止める。
「何で・・・わざわざ、こんなこと。」
うまく言えない俺の気持ちを察してくれたのか、黒田さんは自嘲気味にこたえた。
「言ったでしょ。私、中途半端だって。そこまでひどい女にはなれないよ。」
「でも、俺がもっと早く自分に素直になれてたら・・・ごめん。」
結局、黒田さんを傷つけてしまったかもしれない。そう思うといたたまれない気持ちになって俺は頭を下げた。俺の謝罪に対し黒田さんは笑って答えた。
「別にいいよ。大谷君が今日のこと誰にも言わないって約束してくれるなら。」
当たり前だ。俺も笑って答えた。
「もちろんだよ。」
「それに――」
黒田さんはくすっとからかい気味に付け加えた。
「ファーストキスもらっちゃったしね。」
「――――」
「図星でしょ?」
「・・・はい。」
黒田さん、俺の中でイメージが変わったよ。彼女には一生かなわない気がした。
「私も、はじめてだったよ。」
「え?」
「これからもよろしくねー!。」
黒田さんは元気な声で走り去っていった。俺は屋上を降りていく黒田さんに感謝しつつ、妙にすっきりとした気分でこれからのことを考え始めていた。
しばらく経って。さて、と。これからどうしたものか。さらに少し時間を置いて屋上から降りながら考えに耽る。
何はともあれまずは唯に謝らなければ。昨日言い過ぎたこと、それから――
「あ・・・。」
下駄箱まで来た時に見知った顔が俺を見て、軽く声を上げる。
「唯か。何だ今日はやけに遅いな。」
「委員会の仕事やってて・・・。」
あぁ、と軽く返事しつつ、靴を履き替える俺を唯は少し寂しげ目で見ている。唯が俺にそんな視線を送ってくるなんてこの17年間で初めてかもしれない。
いつも一緒だった二人。
その時の俺がその目を、その表情を愛しく思えたのは、慣れ親しんだ幼馴染に感じた新鮮さのせいだけじゃなかった。
でも――
「唯、俺と一緒に帰ろう。」
やっぱりお前には笑っていてほしい。
「話が、あるんだ。」
唯は少しだけ、頷いた。
俺と唯は少し距離を置いて並んで歩いた後、二人の家の近くの公園のベンチに座っていた。昔、唯とよくこの公園で無邪気に遊んだものだ。
「俺らも、少しは成長したみたいだな。」
あの頃は、単純だった。毎日楽しくて、いつも隣には唯がいて。
「うん。そだね。」
唯も座ってしばらくして、顔がほぐれてきた。少し感慨深いような、切ないようなそんな目をしている唯の横顔に思わず見入ってしまう。
「黒田さんと、話してきた。」
唯の目にさっと悲しい影がよぎる。
「やっぱり、付き合えないって言ってきた。」
「え・・・。」
唯が驚いた目で俺を見る。
「どうして。」
「俺の好きな奴は他にいるから。」
「何、それ、誰?」
「お前なぁ・・・。」
俺はくしゃっと自分の頭を掻いた。
「私、なの?」
唯の目が迫ってくる。今にもこぼれだしそうな涙が浮かんでいた。俺は顔を背ける。
「ねぇ!ちゃんと答えて!好きな奴って誰?」
必死な唯の問いかけに俺の心が騒ぐ。ここまで言っといて、まだ逃げ道を探そうとする弱い気持ちが湧き出てくる。
「陸・・・お願い・・・。」
間近にある潤んだ唯の瞳。俺の頭が混乱する。
耐えろ。耐えるんだ。俺の理性。何に?感情に溺れるなってことだよ!自分勝手だな。唯の気持ちは?それは、その。お前自身の気持ちは?
「陸・・・。」
ああ――くそ。いや、俺は怖いだけなんだ。唯に溺れてしまうことが。こんなに誰かを好きになってしまう気持ちを認めてしまうことが難しいなんて。
でも。
「好きだ、唯。ずっと好きだった。」
「陸・・・!」
俺は唯を抱きしめた。それまで心にあった弱い気持ちは嘘のように霧散した。
ちゃんと言えたのは黒田さんとの約束があったから。全くどうかしてる。女の子に背中を押してもらうなんて、俺ってヘタレだったのか。
「陸、やっと言ってくれた。」
「すまん。ずいぶん待たせたな。えっと、いつから待ってた?」
胸に顔をうずめる唯がはにかむのがわかる。
「産まれたときからに決まってんじゃん。17年だよ。バカ。」
「長いな。ずいぶん。」
「なによー。そうゆう陸はいつから私のこと好きだったのよ?」
「あー、いやまぁ、なんと言うか。」
「おい。」
下から制服のネクタイをひっぱる唯。待て待て、マジで苦しい。
「ちゃんと答えなさい。私だけ答えさせておいてそれはないわよね?」
「わ、分かったから、ひっぱるのやめろ・・・。」
唯は力を緩めたものの、依然、ネクタイに手をかけている。
「何故にネクタイを離さない?」
唯は下からにやりと笑う。
「言いにくいことなんでしょ?」
おのれ、やはり見透かされたか。こうゆう時、幼馴染みって厄介だとしみじみ思う。
「ちゃんと言うまで離さないから。」
「はいはい。言いますよ。」
どのみちこのことを話せば一緒な気がするが。
「あー、あれは、小6のときだったか。お前が俺んちに来たときだ。いつものようにお前は漫画を読んでて、それで、だな。」
さすがに言いよどむ。男って全くどうしてバカなんだ。
「それでお前さ、はじめてブラ着けたのって小6のときだろ?」
「・・・は?」
「いや、だからそれでさ。透けて見えてしまってだな。お前も女だったんだなってはじめて思って。」
見上げる唯の顔がみるみる内に赤く染まる。
「ああ、うん。まぁ、なんだ。その――ギョッ!?」
魚!?変な声出たぞ、今。いや、それより。
「お、お・・・。」
「ひ、人のこと散々待たしといて、私を意識したのがそれ!?」
真っ赤になった顔でネクタイをひっぱりあげる。痛い、息が苦しい前に首の皮が挟まってて痛い。
「あ、か、すま、ん・・・。」
俺のやっとの思いでしぼり出した謝罪にネクタイから手を離す唯。そのまま、鼻を大きく鳴らしてそっぽをむく。
「あ、あのな・・・。」
「最低。結局、そんなとこしか見てなかったなんてさ。」
「ちがうちがう。待て待て。」
俺は息を整えて
「きっかけがそれだったってだけで、本当はもっと前から好きだったのかもしれんけど、俺って色恋方面、鈍いからな。」
「だから、人の下着見て欲情しちゃったと。」
「あいや。」
「きっかけとしては人として最悪よねー。しかもこんな状況で普通言える?」
「お、男なんてみんなこうなんだよ。」
苦しい言い訳。というかやっぱり唯に口げんかでは勝てない。
「まぁこれ以上、陸をいじめるのはかわいそうだから、と。」
すくっと立ち上がる唯に
「・・・それが好きな男に対する態度かよ。」
ぼそっとぼやく。
「なっ!?」
あ、勝ったと思った瞬間、頭にゴツンとパンチが飛んできた。
「ってぇ・・・。」
「ほんっとデリカシーがないんだから!ほら、さっさと行くわよ。」
「どこいくんだよ?」
「陸の家。何かご馳走してよね。人を待たせた罰。」
にべもない。俺は一生尻にひかれんのかな、なんて思いつつスタスタと歩いていく唯の背中を追いかけた。
「ホントこのプリン、おいしー!」
「あぁ、さいですか。」
部屋に二人。俺はふてくされてベッドで寝転んで雑誌を読む。唯はさきほど発見した洋菓子を食ってやがる。
まったく。親がいないと分かるやいなや人の家の冷蔵庫をあさりやがって。
しかもそれ、駅前のケーキ屋でめったに手に入らない代物だぞ。奥の隅に隠しておいたのに、こいつは
「あ、ここにあるってことはそれなりのもんよね?」
なんて納得顔で頷いていた。
「昔から変わんないわねー陸も。隠し場所も。」
こいつは・・・さっき人が告白したと思ったら図に乗りやがって。なんかもう嫌になってきた気がする。
「ごちそうさま。ちょっと陸、いつまですねてんの。起きなさい。」
俺はうるさいと言わんばかりに雑誌を顔にかぶせる。
「こら、いい加減にしろ。」
唯が近づく気配。ぎしりとベッドが軋んだ思うと雑誌が顔面から勢いよく飛んでいく。
「おま、なにしやがる――。」
と俺が上体を起こそうとしたところに唯の顔がアップで映った。とっさに体を止める。
「唯・・・お前、なぁ・・・。」
言いかけて、俺は何も言えなくなる。目の前にある唯の真っ黒な瞳。整った鼻筋、薄い眉。綺麗に切り揃った前髪はさらさらして、ガラスの繊維を思わせた。
そのまま黙って見つめあう。唯の頬がかすかに染まる。唇の隙間から吐息が漏れる。
ここで俺は自分たちがベッドの上にいるのに気付く。加えてこの体勢、唯は上で馬乗りになっていて、俺は半身を起こしかけたところで止まっている。
「・・・。」
胸が熱くなる。次第にその熱が頭に上ってきてクラクラした。俺はふと目線を下げると、ほどよい大きさの胸があり、制服の隙間からは水色の下着が見える――
「陸・・・。」
「う、うん?」
やばい、視線を悟られた。あわてて目を唯にむける。
「したい?」
「な、なにを。」
反射的に聞き返す。何を言うんだ突然。いや、なにってそりゃ。
「わたしは、いいよ。」
唯の言葉に、衝撃をうける。意味が理解できたと同時に視界が一瞬ぼやけた。
「本当に、いいのか?」
意外と冷静な声が出た。いや、決して冷静なわけじゃない。理性が崩れる一歩手前。
「うん・・・。ここで、して。」
体がはじけた。俺は唯の肩を掴むとそのまま強引に押し倒し、その唇を奪う。
「ん・・・ちゅ、んん・・・。」
唇を押し付けるだけの幼稚なキス。柔らかい唇の感触を存分に味わいつつ、俺は胸のふくらみに手を伸ばし、制服の上から揉みしだく。
「むぅ・・・ぷはっ。り、陸、まっ・・・んあっ。」
今度はうなじを舌で舐めあげる。俺の頭の中には獣のような欲望しかない。
布で覆われていないところからのぞく唯のきめこまやかな肌。乱れているとは言え、驚くほど指どおりのいい髪、花のような甘い匂い。
その全てが自分を誘惑し、求めているかのように見えた。
「陸っ!だめっ!」
日常の俺の性格とはあまりにかけ離れた獣性に、唯は固く身を縮めた。
「だめ・・・そんなの、陸じゃないよ。」
怯えたような唯の悲しげな声に俺はハッとした。烈火のようにたぎった情欲の炎が、理性の氷のような自制を浴びる。
俺は唯の上から離れた。
「ご、ごめん。俺・・・。」
途端に気まずくなる。俺は俯いて胸に渦巻いている自分への恥ずかしさと、侮辱にも似た憤りをかみ殺した。
「こ、こっちこそごめん。急だったから、驚いちゃって。」
制服の乱れを直しつつ、唯が声をかけてくる。あぁ、終わったな。最悪だ。そして俺は最低だ。
しばしの沈黙の後、唯が口を開いた。
「それに、するんなら、ちゃんと服脱いでからじゃないと汚れちゃうじゃない。」
「え?」
俺は顔を上げた。今なんて?
「ち、ちょっと。今から服脱ぐからむこう向いてて。陸も脱いでよね。」
「つ、続けてくれるのか?」
先ほどの醜態を目の当たりにして。
「今さら止めるなんてできないわよ。わたしも・・・陸と、その、したいし。」
目をそらしつつ、唯はそんなことを言った。今度は胸に愛おしさがわいてくる。
「唯、ありがとう。」
俺はそう言いつつ、唯を強く抱きしめた。
「ごめんな。俺、ちゃんとする。唯のこと、大事にするから。」
「ん。わかった。」
健気な唯の返事。愛おしさが溢れてくる。俺は、唯の頬に手を添え、キスしようとするが――
「待って。」
唇に唯の白魚のようなひとさし指が当てられた。
「服、脱いでから。」
「あ、はい。」
そんな間の抜けたやり取りの後、お互い背を向けた俺と唯は、裸に近づいてゆく。さっきの欲情とはうってかわって、唯の裸を見るのが何か、いけないことのように思えて、少し怖かった。
俺が全裸になってしばらくしてから
「いいよ。」
唯が言った。緊張した俺が振り向いてみると、胸と股間を手で隠してベッドに座った、裸の唯がいた。
「あ、あんまり見ないで・・・って言うか、うわ・・・。」
唯が俺のを見て、目を丸くする。俺のは、呆れるほど立派に起立していた。
「こっちだって恥ずかしいんだぞ。」
「だ、大丈夫なのかな・・・。」
「まぁ、多分な。」
まずは、俺は唯を優しく横たえ、手をそっとどかして程よい大きさの二つの果実を見る。薄いピンクの頂点は既に立っていた。
「陸・・・。」
唯の声に促されるように、俺は右の乳首を口に含み下で転がしつつ、左の胸を下からゆっくりと揉んでゆく。
「んっ・・・。」
唯の体がピクリと反応する。興奮してるものの、俺はいくらか冷静だった。さっきみたいにはしない、と唯の体を丹念にほぐす。
「・・・!・・・ふくぅっ・・・。」
口の中で唯の乳首が硬くなってゆく。乳輪の形もはっきりしてきた。
「はぁっ・・・あっ、ううっ。」
俺は完全に硬くなった乳首を吸ってみた。
「んああああぁぁぁ!」
唯の喘ぎ声が高い。そろそろ、と俺は唯の下半身に手を伸ばそうとする――が、先客がいた。
唖然。唯は股間を隠していたほうの手で自らを弄っていた。
割れ目からはこんこんと愛液がわき出て、既に出来上がっているように見える。
「あっ・・・だって・・・もう、んっ・・・我慢、できなくて・・・。」
視線に気付き、羞恥とはちがう要素で目を潤ませる唯。その指先は割れ目を辿り、秘芽を撫で上げる。
長い間ずっと一緒にいた俺が初めて見る唯の姿、その表情に背筋が泡立つ。
「お前、けっこうエッチだったんだな。」
「っ!だ、だって・・・ずっと・・・ほ、欲しくて・・・。」
狂おしげに語る唯。もう大丈夫だな。
「あ・・・陸。」
俺は弄っていた唯の手をどかし、ペニスをあてがう。
「俺も、唯が欲しい。」
俺の言葉に、唯は
「うん・・・きて・・・。」
最高の笑顔で答えてくれた。
まぶたの上に光が差しているのを感じ、私は静かに目を開けた。
朝いつも目覚めるときとは違う天井だが見覚えがある。
私はすぐ隣で寝息を立てている幼馴染の安らかな顔を見て
(昔はよく一緒にここで寝てたのにね。)と思った。
昨日、空が夕焼けから夜に変わる時間。私は小さい頃、何度も遊んだ思い出がたくさん詰まった部屋で陸と体を重ねた。
その事実を反芻して、少し顔が赤くなるのが分かる。
あんなに気持ちよかったのは初めてだった。陸の手、唇に触れられるだけで、あんなになってしまうなんて。
最後なんか、自分から足を絡めて、中に出してなんて言ってしまった。全くどうかしてる。安全日だったっけ?昨日。
でも、後悔はしてない。交わるとき、最初は優しくしてくれてた陸も、私が求めたら陸も私を求めてくれた。
二人で何度も何度も交わった後、帰ってきた陸の両親と一緒にご飯を食べて、私が泊まりたいと言ったら、陸と親御さんたちは
「なんか昔を思い出すなぁ。」と笑ってくれた。
そして本当に昔のように二人は寄り添って眠った。昨日ほど、満ち足りた気分で眠ったことないと思った。
しかし、何でも昔と変わらないわけじゃない。晩御飯の時、陸がいった言葉。
「最近気付いたんだけどさ。俺、唯が俺のそばで寂しそうだったり悲しそうだったりするとこ見ると、綺麗だなって思ってしまうみたい。」
そりゃあ、今まで恋で寂しいとか感じたなかったし。17年間。でもそれがなぜ綺麗と感じるのか。
「今まで唯がしたことないからな。さっきのエロい表情とか――」
陸が言いかけたところでテーブルの下から脛を蹴飛ばしてやった。
痛がる陸を尻目に、私は鼻を鳴らして、にやけそうになる口元をコップの水を飲んで隠した。
まぁ、関係の変化に伴い色々新鮮なことも出てくるということか。楽しみといえば楽しみだ。
そして今。陸の目が覚めるのでの時間をどんな風に過ごそうか、これから二人でどんなことをしようか。
私は透き通るような朝日の中で考えを巡らせた――