* * *  
 
 それは突然の事だった。  
『葵?……元気か』  
「兄ちゃん……?」  
 休日のだらけた頭で時計が昼になろうとしているのを寝床で確かめながら、必死で今の状況を受け  
入れようと頭を巡らす。  
 
 父の葬儀から2年。  
 突然の電話は、沈んだ泥のような澱んだあたしの日々を何の躊躇いもなくかき回していった。  
 
 
 電話を切ってから急いで化粧をし、着替えて電車に飛び乗った。  
 待ち合わせた駅に着いて懐かしい顔を見ても、まだどこか現実ではない所にいるような気がして不安だった。  
「元気そうだな」  
「……どうして?なんで急に……」  
 本物だ。本物の兄ちゃんだ。けど、なんで此処にいるのかとか番号はとか、何用だとか頭の中には  
疑問符が飛び交っていた。  
 
「仕事でこっちに1ヶ月間出張する事になってな。挨拶しようと伯母さんとこに連絡入れたら、お前  
 ずっと帰ってないって聞いたから。……ま、久しぶりだし、どうしてるかなって」  
「今寮出てアパート借りて一人でいる」  
「そうか……ちゃんとやってけてるか?」  
「うん。大丈夫だよ」  
 あれからも実家(と呼べるのかは疑問だが)にはほとんど寄り付いていない。  
 母は相変わらず今の家族に気兼ねしてあたしの存在は隅に追いやっているし、あたしも向こうの人間  
も未だに空気が馴染まない。  
 無理に仲良くなろうとしても亀裂が埋まるわけでもないので、本当に険悪になる前に避けた方が互い  
の為なのだ。結局のところは。  
 とりあえず入った喫茶店でお茶しながらそんな話をする。空白の時間を埋めるには近況報告から入らねば  
仕方ないのだ。  
「そんなんでいいのか?ケーキとか頼んでもいいんだぞ」  
「いい、そんなの」  
「女の子ってそういうの好きなんじゃないの?遠慮すんな」  
「もーいいってば」  
 あまり気を遣って欲しくなくて、つい意地になって断ってしまった。  
 
「そうか……」  
 目の前に出されていたメニューを引っ込められる。  
「ごめんな。つい子供扱いしちゃうよ」  
「……あたしはもうハタチだよ」  
「だよなー。ついこの前までと比べたら、随分でっかくなって驚いたばっかりなのに。すまんすまん。  
 あんまり好きじゃないのか?悪かったな」  
「そうだよ。立派なオトナですよあたしは」  
 いつまでも子供じゃないんだ。  
 そう言おうとして合わさった視線は、ほんの少し眩しそうな、それでいて寂しげに見えたのはあたしの  
思い込みだろうか。  
 何となく悪い事をしてしまったような気がして、黙って氷の溶けたアイスコーヒーをかき回した。  
 苦い。意地張ってないでシロップ位入れたら良かった。  
 そんな事を思いながらあたしはある事に気付いていた。  
 視線を落とすと目に飛び込んでくる兄ちゃんの薬指――怖々と盗み見たそこにあるべき物が見当たらない。  
「兄ちゃん」  
「何だ」  
 よせばいいのに。もう1人のあたしが高ぶる好奇心を抑えにかかる。  
「……奥さん、いるって聞いたけど」  
 それは間に合わなかった。  
 兄ちゃんはふと指を見下ろして  
「うん」  
と呟いた。  
 ――あたしは何を期待していたのだろう。  
 止せば良かったと考え無しの言葉遣いにいつも後悔する。  
 別れてしまえば楽になるのに、謝られると赦してしまう。縋られればその場は払っても、後で必ず  
逆に縋りに行ってしまう。  
 それで立場は逆転し、結果――棄てられる。  
 一言相手を突き詰めただけで全てが音を立てて壊れてゆくのだ。  
 知らないふりをしていればある意味幸せなのかもしれないのに。  
 あたしは自分から不幸になりに行ってるようなものだ。  
「葵?」  
「……あ。うん、ごめんぼーっとしてた」  
 何事もなかったようにストローに口をつける。  
「そっかー。じゃ、1ヶ月寂しいねー」  
 出来る限りの明るい声で冷やかすように笑って答えた。  
「……大人をからかうなよ」  
「あたしだってオトナですよ?」  
 取り繕った笑いはどう届いたのかは解らないけれど、兄ちゃんは笑ってくれた。  
 大好きだったあの笑顔で。  
 
「これからどうする?久しぶりだし飯でもと思ってたんだけど、夕飯にはまだ早いしな」  
 どこか気の利いた所を案内出来れば良かったのだろうけど、あたしは生憎そういったものを知らない。  
 家を出てから、経済的にも精神的にもいっぱいいっぱいで余裕がほとんど無かった。だから友人も  
少ないし、遊びに出掛けるような誘いにあった事も無かったからだ。  
 そんなあたしにも不満を洩らす事もなく、じゃあと適当にぶらつくかと決めて兄ちゃんは初めての  
土地を珍しそうに眺めながら歩いた。  
 
 何気に立ち寄ったショッピングモールの店でふと足を止めた。  
 これ可愛いな。  
 何となく表に飾ってあった淡いクリーム色のチュニックを手にして見ていると、  
「それ欲しいのか?」  
と横から覗き込んでくる。  
「……あ、ううん。見てただけ」  
 ちょんと触れた肩と屈んできたすぐ側にある横顔に思わずドキドキして、慌てて服から手を離した。  
「兄ちゃんが買ってやろうか?」  
「えっ!?」  
 いいよ、と首を振った。高いし、第一あたしにこんな可愛い系の服なんか着る機会はない。今だって  
デニムのカプリに安物のTシャツというスタイルだ。久しぶりに大事な人に会うというのに、お洒落  
一つするのもままならない。  
 若い女の子とあろうものが幻滅されたのだろうか、と少し悲しくなった。  
 ――少しでいい。大人になって綺麗になった、と思って欲しかったのだ、多分あたしは。  
 まごまごしてるうちにすっ飛んできた店員に『今のパンツにも合いますよー』とか何とか言われ、  
「サイズこれでいい?」  
それ以上断れない空気に  
「うん」  
と答えると、兄ちゃんはさっさとそれをレジに持って行ってしまった。  
「これ位させてくれ。頑張る葵にご褒美。たまには兄ちゃんらしい事してやりたいんだよ。」  
 子供に玩具を買ってあげるのを楽しみにしているという上司がいる。  
「……ありがとう。兄ちゃん」  
 きっとそれと同じような気持ちなのだろう、この人は。  
 
 ――そう思って、笑ってそれを受け取った。  
 
 それから翌週の休日も一緒にご飯でも食べようと約束した。  
 せっかく買ってもらったのだから、とあの服を着て待ち合わせ場所に向かう。  
 先に来て待っていた兄ちゃんは、あたしの姿に気付くと軽く手を上げて合図し、声を出そうとした  
ように見えたのにそのまま口を閉じて少しだけ笑った。  
「……なに?へ、変かな」  
 もしかして似合わなかったのか。せっかく買ってやったのに、とがっかりさせたのかもしれない。  
そう思って申し訳なさを感じていた。  
「……いや、似合う。可愛いじゃない」  
「……ほんと?」  
「ああ。全然変なもんか。女の子に見えるよ」  
「ちょっ!?酷いなー」  
 はは、と悪戯っぽく笑う頬を思い切ってつまんでやった。  
「ごめんごめん!いや、可愛い可愛い。本当だってば」  
 子供の頃よくこうやってからかわれては仕返ししてやったっけ。  
 怒って真っ赤に見えたであろう顔は、本当は違う理由で熱かった。  
 
 
 兄ちゃんの借りているウイークリーマンションが近くにあるので、そこでご飯を食べる事になっていた。  
「寮に空き部屋が無かったんだよ。ビジネスホテルも1ヶ月だとばかにならないからね」  
 外よりゆっくり気兼ねなく長話も出来るし、何より安上がりだ。あたしも別に不満はなかった。  
  近くのスーパーで食材を買うことにする。  
 カートを押しながら歩いていると、時々  
「奥さん安くするよ、どう?」  
なんて販売員から声が掛かる事もあって、世間の見る目なんて適当なもんだと苦笑してしまった。  
「いや、でもそんなもんかもしれないよ?」  
 いりません、と手を振りながら兄ちゃんがボソッとつぶやいた。  
「この前これ買った所でもさ、『彼女さんによく似合うと思いますよ』とか言われたもんな。見える  
 人にはそう見えるんだよ」  
「そうなんだ……」  
 少し前なら、あたし達は歳の離れた兄妹のようなものにしか見えなかっただろう。……実際、それ  
以上でもそれ以下でも無かったのだけれど。  
 
「そうだね。一歩間違えば援交だよ」  
「え……!?ちょっ、お前いくら何でもそれは無いだろう!そんなに親父臭いかなぁ俺」  
「あはは」  
 
 この時あたしは、少しずつズレ始めたこれまでの距離感と立ち位置に、変わらない筈の絆の強さを  
信じる心が揺らいでいる事実をどう受け止めればいいのか、密かにその想いを胸に秘め始めていた。  
 
「ほら、危ないぞ」  
 通りを歩きながら考えに耽っていたせいで、すぐ側を横切った車に気付かずにいた。  
 兄ちゃんが引っ張ってくれなかったら転んでいたかもしれない。  
「うわ……ご、ごめ」  
「もうー危ないなあ。考え事しながら歩く癖直ってないんだな」  
 そのまま掴んだ手を繋ぎ直して通りを歩く。  
「ちょっ……大丈夫だよ」  
「ダメだ。危なっかしいんだよ葵は」  
「あたしもう子供じゃないよ」  
「子供だよ」  
 何気ない一言だったろうに、あたしにはずきんときた。  
「……子供じゃないよ」  
「子供だ」  
 言い切られてしまって返す言葉を失くし、沈黙したまま歩いた。  
「手離してよ」  
「だめ。お前は見ててハラハラするの。昔から結構しっかりしてるくせして……そういうとこ、変わってない」  
 ビールの入った少し重い買い物袋を見ながら口を尖らす。  
「お酒だって飲めるし」  
「はいはい」  
 ……結局あたしはいつまで経っても、危なっかしい歳の離れた従兄妹から終われないのだろうか?  
反対側をすれ違う小さな子供の手を引く父親という親子連れと自分達を重ね合わせる事に、この人は  
何の躊躇いも無いのか。  
「ね、ねえ。知らない人から見たらさっきみたいに新婚さんに見えちゃうよ?」  
「ああ、そうか?あ……もしかしたら嫌か?」  
「……そうじゃないけど」  
「……ごめん。そうだな。もう子供じゃないのにな。おじさんが相手じゃ悪かったな」  
 笑って、でも寂しそうに手を解かれた。  
「嫌じゃないよ」  
「……」  
 
 嫌なのは、そんなふうに構われるのが辛いだけ。あたしはもう“女の子”ではないのに。  
 少しばかり気まずい空気の中、部屋まで歩いた。  
 
 短期間の滞在だというのに意外と生活感のある部屋だった。その辺りに散らばっている服や小物、  
家具も家電も備え付けてあるせいかとも思っていたが何かピンと来ない。  
 だが狭めのキッチンに立ってみてその理由がわかった。妙に調理器具が揃っているのだ。  
 包丁やまな板以外にも皮むき器に始まり、ボウルから何から一通り必要なものがしまい込まれてあった。  
「兄ちゃん自炊すんの?なんか慣れてそう」  
「ああ、まあな」  
「奥さん幸せだねー」  
「……そうかねぇ」  
 それ以上喋らずに野菜を洗い始めた背中を見て、あたしは聞いてはまずい事を聞いてしまったような  
気になった。  
 せっかく入れ替わりかけた空気がまた澱んでいく。  
 もう何かを口に出すのもはばかられて、後について黙々と皮むきを始めた。  
 いいとこ見せようと思ったのになあ、なんてばかな事を考えながら、たどたどしい手付きで炊事を始めた。  
 
 独り暮らしをする女の子なら料理がうまいだろうと思われがちだが、金銭的にも時間的にも余裕が  
なければ案外腕は磨かれないものである。  
 使えるだけのお金でそれなりの量と材料、器具(流行りのレンジ料理だってそれが買えなければ覚え  
ようがない)で乗り切ろうと思うと、結局それなりの繰り返しになってしまう。  
「期待外れでごめんね」  
 ほとんど兄ちゃんが作ったご飯を食べながら情けなくうなだれる。  
「いや、大丈夫。最初からしてない」  
「はあっ!?」  
 意地悪く笑いながら注いでくれたビールをヤケクソで飲み干してやった。  
「まあ、まだ若いんだし。……結婚でもするような相手が見つかれば頑張ればいいさ」  
 その言葉に胸がチクンと痛む。同時にやり場のない絶望がそこへ被さってくる。  
「……しないよ」  
「ん?」  
「あたしは結婚なんてする気ないもん。幸せな人にはわかんないだろうけどさ」  
 複雑な困ったような顔を向けられて少し後悔したけど、それがあたしの本音だった。  
 不幸になるくらいなら最初から独りで構わない。  
 あたしはここ数年で誰かに期待する事を止めてしまった。  
 
 暫く外を走る車の音だけが響く。  
 そんな中、兄ちゃんが口を開いた。  
「俺な、こっちの社に移って来るかもしれないんだわ」  
 1ヶ月の予定だった出張はそれで終わるわけではなくなるかもしれないらしい。  
「へ、へぇ。ああ、そう。じゃあ奥さんも来るよね?……今度は寂しくなくなるじゃん。良かったね!  
 あ、でもそしたらあたしとはもう遊んでくれなくなるかー、残念」  
 ここにきて現実に打ちのめされる。本来なら、ここでこうしているのはあたしではないのだ。従兄妹  
という免罪符が無ければ――妹というフィルターがあればこそなのだから。  
「いや、彼女は来ない」  
「えっ!?まさか単身赴任?」  
「いや」  
 はあ、と息を吐くと箸を置き、ビールを一口飲んでこっちを見直した。  
「……離婚する事になると思う」  
「嘘」  
 思わず指輪の無い薬指に目を向けた。  
 日焼けしたその跡の白さに、彼の決意のあとを今更に垣間見た。  
「どうして……?」  
「冷めたとか、これといって不満は無いんだ。だけど、気がついたら互いに必要なものが決して自分達  
 ではない……何て言うか、別に独りでいる時と変わりないような気がして来たんだ。一緒に居るこ  
 との意義が感じられないというか」  
 言ってることがよく解らなくて首を傾げた。  
「俺はいつも相手を幸せにしたいと思ってきた。だけどそれは俺の独り善がりな傲りで、向こうはそれを  
 望んではいないんだ。俺に縋らなくても生きていける……。それは素晴らしい事なのに、俺は何となく  
 必要とされてない気がして、気がついたら色んな事が解らなくなった。虚しくなった」  
 もしかしたらこのまま戻らないつもりで居るのかもしれないと、僅かな期間なのに生活感の漂う部屋  
を見回して思った。  
「我が儘だよ」  
 同時にすうっと何かが醒めて、慰めでも叱咤でもない言葉が口をついて出た。  
 
「葵」  
「我が儘だね。自分がいなきゃ幸せになれないと思ってたんだ。自力で幸せになろうとする人間じゃ  
 兄ちゃんは価値を見いだす事が出来ないと思ってるんだ。そんなの……思い上がりだよ」  
 本当に縋りたい時にそれを許されなかったあたしは、誰かに不幸の淵から救い出して貰う事を諦めた。  
そのかわりに、誰にも期待しない分、誰かのせいにする事も、誰かを頼る事も止めた。  
 だけども、心の隅にはいつもお守りのようにたったひとつ。  
 ひとつだけ寄りどころにしていた大切なものがあった。  
「兄ちゃんは、どうしてあたしに優しかったの?」  
「どうして……って」  
「あたしが不幸で可哀想だったから?力のない幼い弱い子供だったから?」  
 冬の日の、寒さに凍えた手を温めてくれた優しさを思い出す。  
「――だから守ろうと思った?」  
 どんな時も、ひとつだけ、あたしを支えてくれたあの時の優しさはそうだったのだろうか。  
「同情なんかいらない」  
 自己満足な優しさならいらない。  
「葵……」  
「……兄ちゃんが好きだった。多分あたしの初恋だった。気付いた時には、もう離れちゃった後だったけど」  
 それを聞いた兄ちゃんの顔は複雑に崩れて、そして言葉が見つからないのか口を開きかけたまま何も  
いうこと無くあたしをただ見つめていた。  
「……がっかりだよ」  
 言い捨てた途端涙が零れた。  
 あたしを本当に妹だったらと言った事も、優しい子と慰めてくれた事も、それは兄ちゃんなりの精一杯  
嘘のない優しさだったのだろう。  
 だからこそ悲しかった。  
 プレゼントされた服も、繋いでくれた手も――あたしはこの人にとって棄てられた子犬のような危なっかしい  
小さな子供でしかないのだという事が。  
 存分に優しさを発揮出来るだけの存在でしかないのだろうという事が。  
 
 優しさは時には罪だ。  
 
「ごめん葵……」  
 重苦しい空気の中、更に苦しげに声を絞り出して呟いた。  
「ごめんな。兄ちゃん、お前の事は本当に大事に想ってた。だけど、そうやってしらないうちに傷つけて  
 たんだな。これまでもそうしてきた事あったんだろうな、他にも。俺は……嫌な奴だな。幻滅させたな」  
 ――情けない兄ちゃんでごめんな――  
 テーブルの隅にぽとぽとと垂れる涙の粒を眺めるあたしの髪を優しい手が撫でる。だがそれはすぐ  
はっとした様に引っ込められる。  
 子供扱いするなと再三に渡って言ったあたしに対する、それなりの謝りの気持ちだったのだろうか。  
 
 この人は本当に優しい人なのだろう。  
 だけどその優しさを素直に受け入れて貰えなければ、自分自身納得いかない人なのかもしれない。  
 それが時には偽善に見えるのかもしれない。……今のあたしのように。  
「兄ちゃん」  
「ん?」  
「あたしの事怒ってる?」  
「いや……。むしろ悪かったって思ってるよ。お前の事可愛がってるつもりが、逆に辛い思いさせて」  
「……それはないよ」  
 それだけ言うと、あたしは玄関に立った。  
「帰る」  
「え!?……あ、じゃ、送るか」  
「いい。まだ明るいし、駅から一本道だったから。いくらあたしでも大丈夫だよ」  
 努めて明るく言ったつもりだったけど兄ちゃんは沈んだままだった。  
 そんな顔を見るのがふいに辛くなって、あたしは自分でも気がふれたのかと思いたくなる様な言葉を  
吐いてしまった。  
「兄ちゃん……。いっそただの男と女なら良かったね、あたし達」  
「え?」  
「あたし兄ちゃんが思うほど子供じゃないよ」  
 靴を履いてドアを開ける。  
 
「……とっくに女になっちゃった。ごめんね」  
 可哀想可愛いままの妹じゃなくて。  
 
 本当は傷ついたのはあたしじゃなくて、あたしが貴方を傷つけた。  
 
 名前を呼ぶ声を背にそのまま部屋を飛び出した。  
 
 視界に行く道を滲ませながら、醒めた筈の想い出は、まだ現実の中でリアルに痛みを伴っている事を  
嫌と言うほど思い知らされた。  
 
 
 ――あたしと兄ちゃん20歳と28歳の夏の夜――  
 
 

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