トランクス1枚の格好で頭をがしがしと拭きながら冷蔵庫から缶ビールを2本取り出し、あたしに  
1本寄越すと隣に座った。  
 2人でちびちびとそれに口をつけしばらく無言で過ごした。  
「なあ」  
「何?」  
「……やめるなら今だぞ?」  
 こんな格好で今更何を言うのか。あたしは黙って首を振って側にあるむき出しの胸におでこをつけた。  
「聞こえません」  
 両手を耳に当てた状態で俯いた。引き延ばさないで、これ以上。  
 彼の手が頭に置かれ、それから肩に降りてくる。それと同時にさっきの手のひらとは別の暖かな重みが  
頭のてっぺんに乗っかっている。  
 端から見たら抱き寄せられた格好になってるんだろうか。多分乗っかってるのは顎だろうな。動くと  
危ないよねとか言い訳しながらそれに甘えた。  
「葵」  
 なに?と言おうとした唇はその前に濡れた彼のそれで塞がれた。柔らかく、冷たく苦い。剃ったばかりの  
髭の跡にはへんに甘い香りがして何だかおかしかった。  
 ファーストキスは幾つの時だったっけ。  
 そういうことを最中に考える程の余裕があるくせに、巻いてあったバスタオルにかかった手を反射的に  
掴んでしまった。  
「あ……やっぱりやめようか?」  
「え、や、あの」  
 裸を見せるのってこんなに勇気のいるもんだったっけ?  
「だって、震えてる」  
「……」  
 見せた経験はあるのだから多分平気だとたかをくくっていた。だが実際はどうだ。確かにその回数  
だけ言えばかなりのもんになるんじゃないかと思うのだが、人数にすれば……。  
 同じ相手に延々と見せ続けてきたわけだから、慣れるといってもその人間に対してだけだ。完全に  
経験不足。何人も相手にしてきていれば、もう少し余裕が持てたのだろうか?  
 自分の躰が変なのかそうでないのかわからない。だから恥ずかしい。何よりもがっかりされるのは怖い。  
 
 片手にまだ持ったままの缶を枕元に置こうとしているのを見て、押し止めていたほうの手を離した。  
 あたしの足元に置いてあった飲みかけの缶もそっちへ片付けると、タオルを引きながら布団の上に  
押し倒された。  
 えっ!?なんて言う間もなくのしかかった躰はまた唇を奪い、はだけた布から零れた胸を躊躇なく弄る。  
 さっきはそっと重ねただけのキスは最初はそんなふうだったのが徐々に圧を増し、軽く啄み始めた  
と思いきや今度はあたしの唇の隙間を彼の舌先でつーっと滑らかに押し開いてくる。  
「んふっ……」  
 それを受け入れるためにほんの少し開いたためについ洩れてしまった声に肩がぴくんと跳ねた。  
 同時にそれを嗅ぎ取ってねだるまでもなく胸の中心を指が的確に捕らえる。  
 押し込まれるようにくりくりと摘んでは転がされる。きっとそれだけ硬く尖ってしまっているのだろうと  
思い浮かんで、恥ずかしさに腰元にあるタオルのきれをみつけて掴んだ。  
「で、電気……っ」  
 部屋は彼が風呂に行く前につけた明かりが灯ったままだった。  
「お願い、あの……っ」  
 首筋に当たる唇の感触にぞくぞくしながら天井の蛍光灯の眩しさに目を細め、彼がふいと顔を上げて  
目が合ってしまった恥ずかしさにぎょっとして開けかけた目をまた閉じた。  
「男と女になるんだろう?」  
「え?」  
「女になった葵を……見ときたい」  
 腕を伸ばして見下ろしてくる。  
 いわゆる舐め回すようなゲスなものではないが、それでもしげしげと今まで触っていた胸やらお腹、  
はだけて丸見えのその先まで確認するような視線はじゅうぶんいやらしい。そして恥ずかしい。  
「俺も男なんだよ」  
 肩をするりと撫でられる。ただそれだけなのにぞわっとして声が出た。  
「……っぁ」  
「だから止めないから、悪いけど……ごめんな」  
 ちゅ、と濡れた音を立てて唇が重なり、肩をさする指は首筋を這ってまた肩へ戻る。  
 
「ん……ひっぁ」  
 少しの間隙間から忍び込んであたしの口内を弄んだ舌は、耳朶を伝って首筋を舐めた。  
「イイのか?」  
「……んっ」  
 さっきよりももっと熱くてねっとりと吸い付くように感じる。  
 唇が当たる度にのげぞって、余計に強くそこにキスが降り注ぐ。  
「そんな声出すんだ……」  
「っやぁっ!?」  
 鎖骨まで降りていった唇が胸の上を滑るように動いていきなり先に吸いついた。  
 軽くくわえながらコロコロと転がす。わざとなのかどうだが、半開きの口からちらちらと舌先のその  
様が見えて余計に息が上がってしまった。  
「ふ……う、ん、ふっ……ぁ」  
 片方の手でもう一方の胸を揉みながら時折上目遣いにあたしを見て、せわしなく唇を動かしては揉む  
手を指先の愛撫に変えてあたしの動きを確かめている。  
「はぁ……あ……」  
 両胸の愛撫それぞれ舌と指を入れ替えてもあたしを見上げるのは変わらない。それをわかっているから  
何度も目が合って、声を出す度に苦笑される。  
 見たいってのは本当に言葉通り「見る」という事だったんだ。  
「我慢してない?」  
「え?」  
「さっきから声出すの我慢してるだろう?それか不満な事でもある?」  
 ない。けどぉ……。何となく首を振りながら胸元と下腹に手をやった。  
「……そんな不安そうな顔しなくても、お前が本当に嫌がる事はしないから。大丈夫?」  
「うん」  
 じゃあ、とあたしの両手を掴むとそれぞれ腕を伸ばした状態で引っ張られ、がっちりと腰元で押さえられる。  
「えっ!?」  
 これって真上から見ればまるで仁王立ち?さっきまではがっちり閉じたあたしの脚を跨ぐように乗って  
いた躰は、今はやや強引?とも思える力で脚を割り入り胸元に頬をすり寄せる。  
 左右それぞれの胸に何度も少しずつ場所を変えながら、キスをし時々吸って舌を這わせる。  
 その度にふっと洩らしてしまいそうになる声を、抑えるための手が使えない事を思い出して辛うじて  
唇を噛んで我慢する。  
 だが必死のそれもいつまでも保たない。  
 
「あんっ……あ……やあっ」  
 すっかり硬くなってぴんと立った先っぽをずるりと舌で撫でるように舐められて我慢出来ずに声が出た。  
「やっ、いや、だめっ。だめ、だ、あ……やっ」  
 弱く吸われたり、いきなり大きくくわえられて舐め回されたり、くわえたままついと引っ張られたり、  
手を変え攻められる度に背中が浮いて胸が跳ね上がる。  
「ああ……やっ、それ、あっ……」  
 片手が浮き上がった背中と布団の隙間に滑り込んでそろりと撫で上げる動きに、ぞくんと電気が走った。  
 何本もの指でこしょこしょと背骨に沿って撫でられると、胸との同時の愛撫に前も後ろもむずむずと  
くすぐったいのとジンジンするのとで逃げ場が無くなる。  
 熱くなるばかりの吐息が胸に浴びせられるのに自由の利かない躰がもどかしくなって、喉元をくすぐる  
髪を撫でそのまま頭を抱え込んでくしゅくしゅに掻き回し声を上げた。  
 少しして、顔を上げた彼に唇にキスされ落ち着いてから片手が自由になっていた事に気がついた。  
「……やだ」  
 やだやだやだ!  
 慌てて今更に口元を押さえようとしてその手をまた掴まれ、唇を咬まれるような少し痛いキスをした。  
「いっ……ちょっ」  
「可愛いから食べてやった」  
 ぺろりと咬んだ跡を舐め、軽く吸うとまたその上からくわえるようなキスをする。  
「可愛いよ。葵は可愛い」  
 うわぁ恥ずかしい!  
「だから困ってる」  
「何を……ひゃっ!?」  
 ぱっと手を離すと脇を抱かれて、そのままひっくり返された。  
 えっと思う間もなくまた両手をそれぞれ押さえられ、うなじに熱い息が掛かる。  
「背中、好き?」  
「あ……う、ん」  
 すうと暖かいものが背筋を走り、軽くのけぞった。  
「んあっ!?……あ、あ、やあんっ!」  
 上から下に快感が走る。のけぞった拍子に勃ちきった乳首が布団に擦れて少しだけ痛い……。  
 ふと唇と舌が離れた。ほっとする間もなくまた下から上までそれが戻ってきて、今度は逆に背中を  
くの字に折り曲げて膝を立てた。  
 
 その拍子にまたふっと両手が自由になった。あたしの手首から離れた2本の腕は後ろから回されて  
今度は胸を揉みしだく。  
 実際胸ってのは揉まれて気持ちいいもんじゃない。視覚的には良さげだが、少なくともあたしはそう  
感じた事はなかった。  
 なのに、今うつ伏せのせいで普段よりも数割増しに豊かであろう膨らみをたゆたゆと下から掬い上げる  
ようにされるだけで胸の奥が熱くなる。  
 大きな暖かい手のひらの熱にそのままうかされてしまったみたいに頭がくらくらする。  
 普通の事をされてるだけだと思うのに、その手の感触がたまらなく愛おしい。  
「ん……」  
 ぼうっとそれに酔っていた。何も考えず彼からの愛撫に流され身を任せて。  
「葵」  
「ん……えっ!?」  
 片手を胸に残して、もう一方の手はお尻の膨らみを撫でていた。その手が割れ目に指を這わせ、つんと  
した感触がそこに止まった。  
 嫌な予感がして慌てて振り返ると、そこを押し広げる感覚に喉が詰まった。  
「!……嫌っ!!」  
 くっとそれぞれの丸みを圧され、多分彼が体を離して後ろに立てば丸見えになっているだろう事は察しがついた。  
「やだ……」  
 セックスした事があるのなら当然それも見られてしまった経験があるのは否定しない。だが実際に  
そこを弄られるのは別だ。あたしはまだそこまでは踏み込んだ事はないのだ。  
「やあ、嫌、怖いっ……」  
 窄みの周りをくすぐるように指が蠢いている。  
「き、汚いよ?」  
 つうと縦に撫でてくいくいと圧力が掛かる。  
「!!……いや……っ」  
 初めてそこに物が入り込もうとしている。あたしは至ってノーマルだ。だからそんなの想像だにした  
事がないのに。  
「痛……」  
 多分、ほんの少しだけつついた程度のものなのだろう。だが恐怖に固まった躰はガチガチに力が入って  
それを拒む。  
「嫌って言ったら止めてくれるって……」  
 答えがない。  
「やだ。怖い……お願い」  
 でも動きは止まったみたい。  
「……やぁ、抜いてぇ」  
 だけど返事もなくそこからなかなか進まない動作に、顔が見えない分不安と恐怖がピークに達した。  
 
「そこは嫌なの……っ。本当に嫌。怖い……」  
 泣きそうになるのを堪えて訴えるとやっと指が離れたっぽい。  
 思わずほっとして膝の力が抜けそうになった。だがそれはお腹まわりをがっしりと抱え込んだ腕に  
よって崩れ落ちる事はなかった。  
「もう終わるから」  
 立て直してしっかと四つん這いになった膝の間に背後から躰を密着させて割り込んでくる。  
「えっ……あ!?」  
 下からというよりも後ろからねじ込まれるように栓をされ、杭を打ち込まれるような痛みが襲った。  
「ぐっ……あ……うっ」  
 ずるりと言う感触と共に一旦それは引かれた。だがまたすぐ狭い入り口を押し開くようにして入ってくる。  
 さっきの感触からすれば、もうあたしの準備は整ってはいるらしかった。だが軽く1年以上もの間  
何も受け入れることの無かったそこは、それが出入りする度に苦痛をもたらした。  
「……ふっ……」  
 息を吐いて力を抜こうと試みる。  
「……初めてじゃないんだよな?」  
「うん」  
 ごめんなさい。こういう格好もした事ある。……あんまり好きじゃないけど。  
「でも痛いのか?」  
「……平気。すぐ慣れるよ」  
 本音を言えばこの体勢は元々合っていないのか、いつも少し痛いと思ったけど我慢してた。だから  
久しぶりの受け入れは正直辛かった。  
 でも止めて欲しくなかった。さっきのお詫びに貴方の好きにして少しでも満足して貰えたらそれで  
いいと思って。  
 だけど、  
「ごめん。葵、ごめん」  
そう言って彼はあたしの中から消えた。  
 突然苦しいほど満たされた痛みが楽になったのも束の間、とてつもない寂しさがあたしを襲った。  
「に……」  
「頭冷やしてくる。も、止めよう」  
 1度も振り向かず風呂場へ消えた。  
 
 過去に相手を拒んだ事で怒らせ、泣きながら縋った事があった。  
 その時の惨めな自分を思い出して、突き放される恐怖に慌てて後を追った。  
 
 トイレと1つになったタイプの風呂場に行くとバスタブに引かれてあったカーテンを捲った。  
「ど……したの?」  
 流しっぱなしのシャワーに打たれながら、バスタブの真ん中でしゃがんで膝を抱えていた。  
「しないの?あ、あのあたし大丈夫だから、いいよ」  
「……いや、いいよ」  
「ほんとにいいから!」  
「もういいって」  
 くしゃくしゃと濡れ鼠になりながら頭をかきむしって消え入りそうな声で言われた返事に、胸が詰まる。  
「……くそっ」  
「怒ってるの?」  
 ぎゅうと自らの頭を掴むように彼は自分の指に力を込めていた。  
 怒らせて機嫌を損ねたのだろうか?もしそうなら。  
「ごめんなさい」  
「……なんで謝るんだ?」  
「だって……」  
 こういう時あたしはどうしていいのかわからない。嫌われて独りになるのが死ぬほど怖かったから、  
いつでも必死だった。  
 要らないと言われるのが本当に辛かったから。  
「謝るな。悪くないのにごめんって言わないでくれ。簡単に自分を卑下するな」  
「でも……」  
「それに俺はお前に怒ってるんじゃない。腹が立つのは俺自身にだ」  
 少しだけ顔を上げたけど、それでもこっちを向いてくれない。  
「……止めるね。よく聞こえないから」  
 思い切ってバスタブに足を入れ、僅かな隙間に立つとシャワーを止めた。栓の抜けた排水口からお湯が  
ゴボゴボと流れて抜けてゆく。そのまま振り返ると、しばらくじっとしていた彼は僅かに後ろに躰を  
動かした。  
 ぴったりと縁によせてくれたお陰でできた僅かな隙間に、無理やり膝を抱えて真似して座った。丁度  
向かい合わせになっているから、普通なら大事な箇所は丸見えというとんでもない事態になるだろうが、  
ぴったり膝同士がぶつかる程近いと却って安心。灯台下暗し?  
 だってやっぱり恥ずかしいのには変わりがないから。自分でもここまでしといて何だとは思わなくもないけど。  
 
「少し脅かして、嫌がらせてやろうかと思ったんだよ。それでお前が怖じ気づいてやめるって言えば  
 いいと考えて。だけど」  
 鼻声になってる。  
「お前の声も、最中の顔も、実際は思ってたよりずっと大人で本当に可愛くて計算外だった。我慢が  
 利かなくなりそうでやばかった。困った。だから絶対嫌がりそうな事してみようとしたんだけど、  
 ……出来なかったよ。我慢して泣くのを堪えたお前はちっこい時の葵のまんまで、壊れそうで、やっぱり  
 可哀想で出来なかった」  
 あたしを抱くのにこの人は相当な勇気を振り絞ったのだろう。ごめんと何度も繰り返すけど、悪い  
のはあたしのような気がしてきた。  
「あたし大丈夫だよ。だからいいよ。顔上げてよ」  
「馬鹿。お前にこんな顔見せらんないよ」  
 だからずっとあんなふうに顔を見ないやり方であたしをいたぶったのか。  
 可哀想なのはこの人のほうなんじゃないだろうか。  
 でもだめ。許さない。  
「顔上げて。だめなら……」  
 むぎゅっとあたしよりも大きな躰を抱えるようにして抱きつく。  
「あお……」  
 驚いて顔を上げた拍子にあたしから狙ってキスをした。離されないようにしがみついて舌を強引に  
ねじ込んだ。  
 初めは怯んだ様子を見せたものの、やがて攻守は逆転されていつの間にかあたしの方が彼の腕の中に  
抱え込まれていた。  
「……ねぇ」  
「ん?」  
「ちゃんとして、最後まで」  
 唇を離したあと耳元で呟いた。  
「可哀想だとか思わないで」  
 あたしは妹じゃない。  
 貴方は兄じゃない。  
 だけど貴方は優しすぎる。それが辛い。  
「俺だって男ってゆったじゃん」  
「ん……」  
「あたしも女だよ?」  
 だからそれを忘れるの。  
   
 
 
 
 
 
 ――貴方の「葵」をそこから消して。  
 
 
「……おいで」  
 後ろ向きになり、あたしの背中に彼の胸がくるような形で座った。両膝の間に挟まれて抱っこされる。  
「膝が邪魔だったからね」  
 脇の下から手をまわして両胸を持ち上げてくる。  
「……こういう事できないから」  
「……ぅ」  
「いい。柔らかい。大きくなったな本当に」  
 むにむにと揉みまわして左右同時に乳首を擦りあげる。  
「あ……あああ、や……ん」  
「昔はつるぺただったのになぁ」  
 すっと片手が離れておへその下を探る。  
「こんな風に生えてなんか無かったし。……最後に風呂入ったのいつだっけ?」  
「え……やだ……忘れた!」  
 嘘。覚えてる。  
 兄ちゃんが中学に入った歳までは入ってた。あたしは自分で出来なかったから、頭、洗ってくれた。  
 くすくすと思い出し笑いでもしてるのか愉しげにそこを探りくすぐる。  
「……っ」  
 くすぐったい感触がもどかしくて焦れったくて、でも熱くなって息が上がる。  
 お尻を浮かすように言われ、さっきとは逆に彼が脚を閉じ、跨ぐようにあたしの脚が開かれる。  
「え……」  
「さっきはしてやらなかったから」  
 片手で胸をいじりながら片手がそこに差し込まれる。  
 ぬるんとした指の感触が伝わって、ちゃんと濡れていた事に何となく安堵した。  
「やらしくなっちゃったんだな」  
「え……」  
 どう取っていいのか解らずに困惑して俯いたあたしに  
「褒めてるんだよ。いい女になったな、と」  
と言って首筋に吸い付いた。  
「やっ」  
 首を竦めてぴくっと震えた。その隙に入り込んだ指は粘膜を濡らす露をからめ取ると、一番敏感な  
部分をつついた。  
「あっ!!……あ……ああ……っ」  
 待っていたと言わんばかりにあっという間に熱く痺れて、ほんの少し擦るだけで我慢出来ずに悲鳴の  
ような声がでた。  
「う……う……ぁ……いやぁ……ぁ……」  
 ぐりぐりと押し付けるように撫でられ、膝が跳ねる。  
 
「気持ちいいの?葵」  
 こくこくと頷く。  
「だったらもっとしようね」  
 つんとつつきながら指が離れて、焦らすように周囲をゆっくりと撫でる。それから時々思い出した  
ように肝心のものをちゅくちゅくといたぶっては離れる。  
「くぅ……」  
 指先がゆっくり沈んでゆく。  
「凄いね。これだけ溢れてるからすっと入るよ。痛い?」  
 ふるふると首を振る。  
「そう。だよな、これ、お湯でも汗でもないぞ?」  
 滑り具合が滑らかに動く指から嫌でも伝わってくる。中でついついと動かされる度に場合によっては  
「やあんっ!」  
甲高く甘い声が出る。  
「可愛く跳ねるなぁ……」  
「あっあっ」  
 割れ目を滑って再びそれに専念される。  
 やだ、と思う間も無く。  
「ひっ……ひぁっ……あぁぁっ!!」  
 押し当て擦り付けられた指の腹の強さを味わう余裕無く、恥ずかしい位躰をくねらせてイってしまった。  
 
「ちゃんと感じた?」  
「……ん」  
 くたっともたれた躰を優しく丁寧に撫でてくれる。  
「……葵」  
「ん?」  
「お前でイかせてもらっていいかな?」  
 あたしを抱く手に力がこもる。  
 解ってるくせに。  
 お尻に当たる彼自身がさっきからひっきりなしに主張しているのに気づかないわけがなかった。  
「あたしどうしたらいい?」  
「こっち向いて」  
 狭いので一旦立ち上がり、跨るように促された。  
「良かったぁ」  
「何が?」  
「今度は顔見れるもん」  
「……辛かったら言うんだぞ?」  
 ぬるぬると滑るように動き、数回確認するように周囲をつつくとずるりとまた押し広げるように割り  
込んであたしの中を満たした。  
「……っあっ」  
 一旦奥まで突き刺さるとぐりぐりとかき回すように動いて、そのたびにぶつかるあたしと彼の皮膚が  
びちゃびちゃと擦れる。  
 おまけに押し上げられる度に入り口がぐうっと広がる感じがして痛苦しい。でも気持ちいい。  
 
 バスタブの底にぺったりと座った窮屈な躰を前後左右に揺する度に、あたしの中に嵌ったものがぐいと  
かき回されてお腹いっぱいきゅんとなる。  
 さっき一度挿れられたせいで久々の貫通でも痛みはそれ程でもない。逆に待ちわびたと言っていい  
程心も躰も悦びを隠しきれないでいた。  
「ああっあっあっ!」  
「葵……葵っ」  
 木に登るみたいに両手両脚をしっかりと回して絡み付くようにしがみつくと、あたしの背中と腰を  
ぎゅっと力を込めて抱き締められる。  
 水に濡れた場所だけに躰も雫が流れてびちゃびちゃと跳ねた音がする。でも多分それだけのせいでは  
ないだろう。  
「んぁっ……や、あ、だめっ。あ、ああっあ……ぁ」  
 響く。部屋よりも狭い上にすぐ四方は壁だらけのここはちょっとした声がダイレクトに跳ね返る。  
 それがさすがにマズい事に気がついて、彼の首筋に押し当て堪えた声も半開きの唇から洩れる。  
「んむっ……ふっ」  
「苦しいか?」  
 動きを止めた彼もしんどいのか息が少し上がっていた。  
「……キスしようか」  
 その言葉に唇を離すと肩にうすら朱い跡が付いてしまっていた。  
 頬が擦れ合って鼻とおでこがぶつかる。目を閉じる間もなくキスされる。  
「ん……んっ!ん、ぁ、むぅ……ん」  
 またぐいぐい動き出した腰の揺れでついた唇がずれて、せっかく我慢した声がまた洩れてしまう。  
「ん……んんー」  
 力いっぱいしがみついて脳天まで突き抜けそうな衝動にひたすら耐えた。  
 離れたくない。  
 このまま死んでもいい。  
 彼の胸板に押し潰されてつぶれた胸が擦れて圧されて痛い。  
「出しちゃえ」  
 押し当てるように続けていたキスをやめて耳元で呟かれる。  
「声出せ。大丈夫だから我慢するな」  
「でも……やっ!?やああぁぁっ!!」  
 両腕で腰を押さえ込むようにして激しく突き上げてくる。慌ててしがみついたせいで我慢を忘れて  
開いたままの口から思いっ切り声があがった。  
 
「やあんっ!あっ!!あ……だめだって……ば!聞こえるっ」  
「いいよ」  
「よくな……」  
「すぐ居なくなるんだから、いい」  
 ずきんと胸が痛んだ。  
 居なくなる。  
「兄ちゃ……」  
「兄ちゃんはよせっ……」  
「……ぁ」  
「……将希でいい」  
「まさ……」  
「うん」  
「まさき……ま……さ……」  
 初めて“兄ちゃん”以外の呼び方で呼んだ。  
「将希……っ。ま、まさっ」  
 涙がこみ上げて零れ落ちる。だめ、喉が詰まってうまく呼べない。  
 やっぱりこのまま死んでもいい。  
「葵……っ葵!!」  
「あ……あっああっ!!」  
 くうっと絞り出すように呻くとあたしを抱く手に力が入った。きつく、きつく掴まれてこれでもかと  
いうふうに奥まで突かれてかき回される。  
「――――っぁ……!!」  
 ぐいと圧された瞬間、あたしの中で暴れながら熱い何かを満たして何度か跳ねてそれはやっと鎮まった。  
「あ……おい……」  
「……まさき……ぃ」  
 かすれた声を絞り出すように互いの名を呼んで、そのまましばらくキスばかりしながら抱き合った。  
 
 
 
* * *  
 
 互いの躰を流してシャワーから出ると布団に並んで寝転んだ。  
「狭いからもっとおいで」  
と言われたのでそれに従いぴったりと寄り添った。  
「暑い。狭い」  
「仕方がないだろう。でも夏で良かったな。冬だったらたまらん。絶対寒い」  
「だよね〜」  
 くすくすと笑いながら裸のままの体にタオルケットをかけた。それを押さえるように乗せたあたしの手を  
彼の手が包んだ。  
「……明日の始発で帰るね。仕事あるから」  
「え?……あ、ああそうか。じゃあ一緒に起こして。駅まで行くから」  
「うん」  
 おやすみ、と目を閉じれば、握られた手の温もりが消えてしまう事をふと考えて少し寂しい気がした。  
「……葵」  
「ん?」  
「俺、もうお前の兄ちゃんじゃないから」  
 ぐうっと痛い位に手に力がこもった。  
「兄ちゃんは終わりだ」  
「……はい」  
 その手を負けずに握り返して目を瞑った。  
 
* * *  
 
 始発にはまだ時間がある。  
 ぐっすり眠る愛おしい寝息を背にゆっくりとドアを閉めた。  
 
 8つという歳の差はアメリカと日本との距離位遠くて、決して埋まる事などないと諦めていた。  
大人になって――男と女になってしまえはそれ程大差ないものなのに。  
 
 だがあたしの心はその頃のままに止まっていた。  
 美化されてゆく想い出の中でも、手に入らないものなら尚更に眩しく心の奥にいつまでもつきまとって  
離さない。  
 だからそれを棄てるのだ。  
 前に進むために。  
 これ以上叶わぬ夢に惑わされないように。  
 
 俯いて歩くと涙がこぼれてしまいそうになる。  
 だから真っすぐ前を見て空を仰いで進むのだ。  
 ただひとつだけの満ち足りた想いに鍵を掛けてしまおう。  
 例え望まれる事が無かろうとも、命がある限りあたしは生きていくのだから。  
 
 まだ暗い早朝の空にもう泣かないと決めながら、頬を拭って駅まで歩いた。  
 
 
 ――20歳、初恋の想い出と共に夏は終わり、やがて来る秋にあたしは強くまっすぐ独りきりで生きると決めた。  
 
 
 だけど。  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 神様はなぜ戯れにそんな決意を嘲笑うように意地悪をするのだろう――。  
 
 

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