島津豊久はため息をついた。命令はこうだ。  
 「秋月家の武将である秋月緑に内応の誘いをして来い。」  
 (出来るわけねえだろ…。)  
 秋月緑は当主種実の実の娘だ。それが応じるわけが無い。おまけに豊久は  
元服したと言っても、内応やら偵察やらこの手の仕事が苦手で経験が無い。  
 (でも言われた以上はやらなくちゃな。)  
 とぼとぼと豊久は秋月領へ進んでいった。  
   
 秋月種実。九州で知らない者はいない。武勇に優れたが機会に恵まれず外  
交通商と領地経営に人生の殆どを捧げた先代当主の文種の後を継いだ種実は  
、当時九州北部の殆どを手中に収め秋月領を完全包囲して多数の軍勢を擁する  
大友宗麟相手に、手遅れになる前にと全てを賭けた戦争をしかけ、打ち破っ  
てしまった。更に周辺の小大名も攻略し、今では九州は最北端と最南端のわ  
ずかな地域を除いて秋月領となっている。その最南端が我らが島津領だった。  
優秀な家臣団がいると言っても秋月家には更に多くの優秀な家臣団がある。  
滅亡は時間の問題だった。  
 
 秋月緑は古処山城の近辺にいるらしい。古処山城は山奥にある。まるで追  
い詰められた弱小大名が立て篭もっているような不便で辺鄙な場所だった。に  
も拘らず先代と家臣団の頑張りあって農業収入も商業収入も意外な高さになっ  
ている。  
 「緑様か…、緑様は只者じゃないぞ。」  
 「まだ若いが凄い才能があるそうだぞ。」  
 「種実様がそれはそれは大事になさってるんだと。」  
 (こりゃますますもって無理そうだな…。)  
 豊久は緑の噂話を聞いて更に気が重くなった。  
 
 当主の種実が緑を連れて鉄砲を撃ちに行くと言う。豊久は忍び込む事にした。  
 
 「これでまた一歩鉄砲隊の指揮が上手くなったと思う。隆信の指南は悪くな  
いな。うむ褒めてつかわす。」  
 忍者の様な仕事が苦手な豊久でも潜り込めたのは運がよかった。当主種実も  
また豊久ほどではないにしても潜入や偵察の様な事に詳しくなかったのも、関係  
があるのかもしれない。  
 「そっちはどうだ…さすがは緑だな。鎮信の言う事をよく聞いてる。」  
 (うわ…あ…。)  
 不敵な笑みを浮かべていた緑は真剣な顔になると様々な撃ち方で次々に命中  
させている。手馴れた動きで鉄砲を構えて、また構えて、余裕を持ってすばや  
く戻した。そしてまた口元が微かに上を向いている。  
 (ありゃうちの叔父貴たち並みじゃねぇか。それにしても…。)  
 豊久は恐れ入ると同時に、緑に惚れ込んでしまった。  
   
 「あの姫様はな、こないだの深水氏攻めの時も鉄砲隊率いて大活躍したんだ  
ってな。幾ら相手が小勢力だって言っても凄い活躍だったぞ。」  
 「鉄砲が得意だが、取っ組み合いでも先代の文種様に勝るとも劣らない才能  
がありそうだ。今はまだ完全には花開いてはいないがな。」  
 日を置いてまた潜り込む機会に恵まれた豊久は噂話を反芻していた。  
 (うむむ。)  
 豊久は熱い視線で緑を見ていた。  
 「父上、たまにはもっと変わった物を撃ってみたいです。」  
 えっ、と皆が驚く中、緑がこっちを向いて、しかし一瞬で元に向き直って撃  
った。やはり命中だった。  
 「曲撃ちでございますか。緑様の技がこれほどまでに上達したかと思うと…。」  
 鎮信が顔をほころばせている。豊久はより正面に近い緑の顔を見れて、そし  
て緑の自信に満ちた声聞けて胸が高鳴ったが、その後我に返って気が気ではな  
かった。  
 (見つかったのか!?)  
 結局その後も松浦親子と秋月親子は鉄砲をたくさん撃って、何事も無かった  
ように帰った。  
 
 「さて…、うわっ。」  
 豊久はさらわれた。  
 
 「あなた誰?」  
 「それより帰ったんじゃ…。」  
 「従者が傘持ってて見えなかっただろうけど、あれ家来ね。」  
 人を馬鹿にしたような顔で緑が言う。豊久をさらったのは、緑だった。  
 「僕は、島津家の家臣島津豊久と申します。緑様の数々の功名はかねてより  
聞いております。しかし…、…、…。」  
 言葉が見つからなくなった。  
 「で、寝返れ、と。九州探題に就くのも時間の問題の父上を裏切って、滅亡寸  
前のあんた達に寝返れと。無理だね。」  
 (冷たい目だ。)  
 こうなるのはわかっていた。最初からわかっていた。  
 「こんな内応の誘いまでするだなんて、いよいよ悪あがきもなりふりかまわ  
なくなってきたみたい。それもこんな使者で。まあ、帰っても追放だの切腹だ  
のになることはないと思うよ。最初から期待されてなさそうだし。さあさあ。」  
 「あ、あの、ありがとうございました。」  
 
 「で、成果は?」  
 「残念ながら秋月緑の心を動かす事は出来ませんでした。出来ればもう一度…。」  
 「馬鹿言うなよ。奇跡の為にお前も特訓だ。いつ攻められてもおかしくない  
からな。次の季節は稽古がいっぱい待ってるぞ。」  
 
 稽古は厳しかった。そして、秋月家が攻め込んできて、奇跡は起きず、お家  
騒動で疲弊した軍はロクに抵抗できず、大名島津家は滅亡した。家臣は殆どが  
捕虜になり豊久も捕虜になった。  
 
 「ふむ、お前はうちで働く気があるか。そうか。第二軍団に入れてやる。人  
手が足りないからな。ふむ、お前は…おお、いや、第一軍団の家来にしてやろ  
う。お前は…。」  
 捕虜の運命を秋月家当主種実が次々に決めていった。天下取りを目指す種実  
は島津家の優秀な家臣団を気に入ったらしく大勢が登用された。  
 「島津家の足軽頭の島津豊久です。」  
 「ふむ、悪いけど追放ね。」  
 豊久は雷に打たれたような衝撃を受けた。  
 「父上」「どうした緑、ん?うんうん?うん?わかった。取り消し。やっぱ  
り第一軍団に入れてやる。しっかり励めよ。」  
 秋月家に勝手に住み着いてる野良猫がどこかでないた。種実の妻がタカジア  
スターゼを飲めと言い、アレは効かないと種実が言った。だが妻は飲み続けな  
いから効く物も効かないと言い、胃痛に苦しむ種実は飲んだ。住み着いてる野  
良猫を女中が邪険に扱っているのが聞こえてくる。  
 
 九州南部をついに手中におさめた秋月家では様々な式が行われた。式典が終  
わるとあちこちで稽古が始まった。豊久もまた、秋月家屈指の強豪木下昌直に  
武術の稽古をつけられていた。  
 「老いたとは言え…、まだまだお前に遅れをとる程じゃない…。」  
 (この人無茶苦茶強いな…。あ!!)  
 昌直の次々に繰り出す攻めに立つのがやっとの豊久は、偶然発見した。緑が  
いた。緑の武術の稽古相手は、なんと秋月家の一二を争う戦上手の立花宗茂だ  
った。  
 「緑様の技のキレ、きっとお父上もお喜びになりますな。」  
 「ありがとう。」  
 あの宗茂を相手に緑は圧倒されていない。勝負になっている。  
 「豊久…、油断してるぞ…。」  
 
 豊久が休憩に入り、しばらくして緑もまた休憩に入った。  
 「豊久ちょっと。」「ここに。」「特別に教えてやるから来なさい。」  
 緑は豊久を連れて歩き始めた。  
 
 (こんなに近くで見るの、初めてだな。やっぱりそそるもんがあるぜ…。)  
 緑は古処山城で見た時のように微笑んだ。この世の全てを玩具にしているよう  
に静かに微笑んだ。  
 「豊久…、あなたはもうすぐ…、わたしの家来になる…。」  
 「光栄です。」  
 二人ともおし黙った。豊久にはしまってあった疑問をぶつけるチャンスだった。  
だが、緑を前にして質問どころではなかった。至福の興奮が余裕を奪っている。  
よりによって、家来にされた。一緒に歩いてもいる。  
 「そうです。光栄に思いなさい。」  
 だが、ここで聞けなかったら、もう聞くことが出来ないと、豊久は決断した。  
 「緑様、なぜ、捕虜の戦後処理の時救って下さったのでしょうか。」  
 「それは…。」  
 緑の顔が緊張した。滅多に見ない顔だった。あの鉄砲を撃っていた時も、さ  
っきの稽古でも、豊久をさらった時も助けた時も見せなかった顔だった。緊張  
した顔が、膨らみ始めた。  
 「緑様?」  
 いきなり、緑が脚払いをかけた。疲れきっていた豊久は崩れ落ち、緑が胸倉  
をつかんだ。  
   
 「み、緑様…。く、苦しい…。」  
 「わたしは…、実は…、好きになってた。あなたの事が。年が近い奴は他に  
もいっぱいいる。あなたより優秀なのもいっぱいいる。でも、あなたをさらっ  
て解放した後、とにかくわたしはあなたを好きになった。不器用な所を守って  
やりたくなったと言うか…。」  
 顔が近い。だから、姫の荒くなった吐息もかかっている。輝いてる目も見える。  
 (緑様も、こんな目をするんだ…。)  
 「豊久聞いてる?だから、下手に死なないで…。最後までわたしについてきて  
…。豊久ならきっと出来る…。」  
 「は…、い…。」  
 現実と夢が一緒になったような気分で返事をしていた。  
 「じゃあ、この口付けに誓って。」  
 幼稚で、その割りに深い口付けだった。  
 
 「どうしよう…、豊久大丈夫?ねえ!!」  
 稽古でつかれ切っていた所に口付けまでされて、豊久は気絶していた。緑がう  
ろたえていた。豊久には見えなかったが。緑が本当に今まで豊久に見せた事が無  
かった顔だった。  
 「緑様…、豊久は…。」  
 「昌直…、実はぁああ…、稽古つけていたらやり過ぎて。」  
 「情けない上に緑様の手を煩わせるとは無礼な…。私が…。」  
 「いや…、もうすぐ側近につけられる者だし、わたしが介抱してやる。もう後  
はいいから。」  
 
 「あれ?おおっわっ!!」  
 「気がついたみたいね。」  
 豊久は驚いた。何故なら、緑が添い寝していたから。  
 「今日はすごく疲れたでしょ?ご褒美。」  
 そう言うと、緑が豊久の両手を導いて胸に触らせる。  
 (母ちゃんより小さい…。けど、おっぱいだ…。)  
 「やさしく、軽く、そう。できるじゃない…。そう。そう…。」  
 緑の顔が赤らんでいくのが見える。  
 「あぁ…。はぁ…。たまらない…。」  
 緑の手が緑自身の股間へと伸びていく。何をしているかは、見えない。  
 「うぁっ。豊久…あっ…はぁ…。」  
 豊久は気になった。女の子が、見た事も無い事をしてる。豊久も息が荒く  
なってきている。  
 「何…はぁはぁ…してるの…はぁはぁ…?」  
 「き気持ちいいこと…うっ…。」  
 意味不明な、理解不能な、不可思議な光景だった。豊久は唾を飲んだ。  
 (すごい…色っぽい…。)  
 そう思った時、緑が顔いっぱいに笑っていった。  
 「これから頑張ったら、わたしの機嫌がよかったらこう言うご褒美出すね。  
そして、関東まで進撃したら、もっとエッチな事するよっ。」  
 「はは…かしこまりました…。」  
 
 それから豊久と緑が歩んだ道は、論文を読めばわかる。秋月幕府が日本を統  
一した後、その大偉業に大きく貢献した二人は九州に帰って、表向き主人と家  
来のまま、熱々で暮らしたと言う。  
(終わり)  
 

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