辺りに響き渡った悲鳴に驚き、囀っていた小鳥達は枝から一斉に飛び立った。  
少女は草の上に押し倒され、背を強か打ち呼吸を詰まらせる。  
非の打ちどころの無い男性美を備えた迫力ある巨躯が、彼女の上に影を落とした。  
覆い被さられ逃げ場を塞がれた少女は、全身が粟立ち背筋が凍り付く。  
「うぅ……お父さん、お母さん。今まで育ててくれてありがとう。  
とうとうお別れの日がやって来ました……先立つ不幸をお許し下さい……ひくっ。  
これから私は魔物の慰み者にされ、バリバリ食べられお腹の中に納まって……それから、ぐすっ」  
魔王の下で嗚咽を漏らしながら、誰に聞かせるでもなく、さめざめと遺言を口にする少女。  
涙の筋を拭いつつブツブツと呟く彼女を、魔王は不思議そうに見下ろした。  
「何故、泣く。……ひょっとして余の所為か? お前を泣かせているのは余か」  
首を傾げながらとぼけたことを言う彼を、少女はキッと睨み返した。  
悔しそうに下唇を噛み、わなわなと震わせている。  
「けだもの! どうせ説明したって分からないでしょ、貴方なんかには……!」  
恐ろしい魔物相手にも物怖じしない。  
おっとりとした外見によらず、少女は気が強く根性が据わっていた。  
「怒りに染まった顔も愛くるしい」  
「ばっ、馬っ鹿じゃないの!」  
魔王の屈託無い笑顔と手放しの称賛に調子を狂わされる。  
彼からは悪意や敵意、況して殺意などは全く感じないのだ。その目許は思いがけず優しく、眼差しは柔らかい。  
「あ、やだっ、何するの……! 人の胸、勝手に触らないでっ」  
許可も得ず、ゴツゴツした骨張った手が、弾力あるまろやかな乳房を掬い上げた。  
少女は耳まで真っ赤に染め、慌てて無遠慮な手をパチン、と叩き落とす。礼節も何もあったものでは無い。  
「これはいい、申し分無い手触りだ。これだけの大きさがあれば子を育てる時にも問題無いし……  
ああ、それはそうと、あまり暴れるでない。然もなくば、余の自慢の爪がお前の柔肌を傷付けてしまう」  
ゾッとして、少女は彼の爪に視線を移した。良く研がれた見事なそれは妖しく光を反射する。  
魔王は事実を述べたまでで他意は無かったのだが、当然ながら少女は恫喝と受け取った。  
「よいか、この爪はかつて魔界での大戦において、余が1000匹の人間どもを屠った――」  
その上あろうことか、彼は血生臭い武勇伝まで語り始めてしまった。  
眷属相手のいつもの調子で、自分がいかに勇敢に戦ったか、身振り手振りを交え臨場感たっぷりに説明する。  
本人は自身の強さをアピールして惚れた女を口説いているつもりだったが、言うまでも無く逆効果。  
少女の小さな顔からはみるみる血の気が引いてゆく。  
「……貴方の怖さは、もう分かったから……人殺しの話なんてやめて……聞きたくない」  
弱々しい涙声が魔王の自慢話を遮る。  
「言うこと聞くから殺さないで……乱暴は、よして……」  
「……脅すつもりで言ったのでは無いのだぞ。勘違いするな」  
流石の魔王にも僅かな戸惑いの色が現れる。  
今更ながら自分と彼女との感覚の違い、種族間の壁に気が付いたのだ。  
震えながら泣き濡れる少女を宥める様に、滑らかな頬にそっと触れると。  
「んっ……痛い!」  
触れた箇所に意図せず赤く爪痕が残る。痛々しく引き攣った表情に狼狽して、魔王は手を引っ込めた。  
「すまぬ、すまなかった」  
彼は魔族の女の扱い方は知っていても、人間の女の扱い方は知らない。まだ力の加減を掴めないのだ。  
「――我々魔族に比べ、人間が脆く壊れ易い体をしていることは知っていたが……。  
人間の女がこれ程までにか弱い存在だったとは、思わなんだ。少し待っていろ。今、爪を折る」  
パキッという乾いた音が鳴り、それが数回続く。よく手入れされた長い爪を摘み次々と器用に折ってゆく。  
仕上げに歯を使って形を整え、手際良く作業を終えると、魔王の爪はすっかり丸くなっていた。  
迷いの無い大胆な行動に、少女は呆気にとられる。  
 
「いいの? 折ってしまって……自慢の爪じゃなかったの」  
問い掛けると穏やかな笑みが返って来た。  
「ああ、構わぬ。可愛いお前に触れたいからな」  
赤面した少女は、長い睫毛を伏せて目を逸らした。魔王の愛情表現は率直に過ぎる。  
「さぁ、今度は痛くない」  
言うが早いか、彼は少女の衣服に手を掛けた。手っ取り早く裸に剥こうと、力任せに引き裂こうとする。  
「ま、待って、服が破けちゃう。あまり沢山持ってないから、困るの。  
もう抵抗しないからやめて……自分で脱ぐわ」  
少女は覚悟を決めていた。『殺されるより強姦された方がまだマシだ』と。生きてさえいれば、どうにでもなる。  
相手は油断ならない異形の者。いつ豹変して襲い掛かって来られてもおかしくない。  
爪を折るパフォーマンスだけでは到底信用ならないのだ。  
下手に逆らうよりは、今は従順なフリをして逃げ出す機会を窺うのが賢明。  
そう考え、この場は観念した演技をすることにした。  
「どうして見てるの。……恥ずかしいんだから、あっち向いてて!」  
「ん? 一体何を恥じることがある。お前はせっかく美しく生まれ付いたのだ。  
思う存分、雄に見せびらかしてやろうとは思わぬのか」   
「……もういい」  
魔王から不躾な視線を受けながら、少女は震える指先で釦を外し始めた。  
元々大して着込んではいない。直ぐに女性特有の曲線美が現れる。血色の良い肌はきめ細やかで瑞々しい。  
先刻の攻防で乱れてしまった三つ編みをほどき、緩く波を打つ亜麻色の髪を肩に落とす。  
それが童顔を縁取った途端、彼女の印象がぐっと大人びた。髪を下ろしたことで女の色香が増した様だ。  
遂に身体を守る布が下着だけとなってしまった。  
少女はその場に座り込むと、脱ぎ捨てた衣服を几帳面に畳んで脇に置く。  
そして、肉付きの良い胸部と陰部を覆う最後の砦を外しに掛かる。  
肩の上で結んだ吊り紐をスルスルと解く。するとたわわな乳房がプルン、と飛び出した。  
二つの膨らみを片腕で抱き寄せて隠しながら、下半身も同様に外気に曝す。  
人外とはいえ異性に裸身を見られている状況。  
木漏れ日に照らされた華奢な肢体は、羞恥心によって既に赤みを差していた。  
「まさか、しょ、触手とか出て来るのかしら」  
俯いたまま、蚊の鳴く様な声で呟く。  
魔王がどんな表情で自分を視姦しているのか知りたくなくて、顔を上げられない。  
「触手か。まぁ、お前が所望するなら出せないことも無いが……どうする?」  
声を弾ませた楽しそうな返答。  
「いらない」  
柳眉を顰め少女はぷいっとそっぽを向く。  
「――時に我が妃よ。余の愚息は利口でな、お前の蠱惑的な姿態を眺めていたら……ほらこの通り」  
ゆったりとした下穿きの前を解く気配があって、少女は慌てて顔を背けた。  
魔王が堂々と登場した時から、ずっと視界に入れまいと努めていた下半身の膨らみ。  
父親や兄弟の男性器すら殆ど見たことが無いのに、正視に堪えるはずもない。  
「さぁ、どうだ!」  
全裸になった魔王は胸を反らし、腰に手を当てて仁王立ちになる。  
「こちらを向け。……なんだ、見ないのか? つまらぬな」  
驚くなり褒めるなりして欲しかったのか、無反応に落胆の色を隠さない。  
パンツはそこら辺に適当に放り投げる。少女に近付くと、彼も草の上に腰を下ろした。  
鼻腔に届く蒸れた雌の匂いが魔王を誘惑する。一方少女は慌てて身体を回し、彼に背を向け距離を取った。  
細く頼りなげな肩に魔王が手を置くと、少女はビクンと身を跳ねさせる。  
先程の追い駆けっこで彼女の肌はしっとりと汗に濡れ、掌に心地良く吸い付いてくる。  
「あっ……」  
少女の肩口に魔王の口付けが落ちた。  
ゆっくりと背骨の列をなぞり脇腹を撫でると、短く悲鳴が上がる。  
こんな風に、性的な意味を込めて男に触れられるのは初めてなのだ。  
また彼の熱い呼吸が首許を掠める度、少女は肝が冷える。  
薄い唇から覗く獰猛な牙を、いつ突き立てられるか分からないのだから。  
 
「余の妃となれば、お前には」  
汗ばんだ襟首に舌を這わせ、耳朶を甘噛みしながら、魔王は低い声で畳み掛ける。  
「不老不死の命を与えてやることも出来る。つまり、その美貌は永遠にお前のもの。魅力的な提案だとは思わぬか」  
魔王は腋の下から手を差し入れ、ずっしりと量感のある乳白色の双丘を揉みしだく。  
淡く色付いた乳頭を指の腹で円を描く様に擦ると、少女は顎を仰け反らせた。  
「ぁ、そんなの……興味、無いわ……あ、ふぁ……やっ」  
くびれた腰を捩って彼の愛撫から逃れようとする少女。  
魔王が軽く体重を掛けて少女を倒すと、二人は縺れ合って横に転がった。  
「では、何か欲しいものは無いのか。衣装、宝石、奴隷、宮殿、領地……何でもいい。  
遠慮せずに言ってみろ、いくらでも用意する。好きなだけ贅沢させよう」  
魔王は少女の身体を気に入ったらしい。  
むちむちした白い太腿を卑猥な動きで執拗にさすり、彼女を煩悶させる。  
もじもじと内腿を擦り合わせる様子が可愛らしい。  
また、少女の下半身の熱気からは生温かい粘液が漏れ始めていた。  
「何もいらない……ぁ……はぁ、家族と一緒に……んっ、仲良く暮らせれば、いい」  
「欲の無い娘だな」  
会話が成立したのはそこまで。魔王は少女の足を無理矢理に広げさせた。  
蛙が引っくり返った様な、あられもない恰好になる。  
「あっ、やだ……嫌ぁ」  
魔王は恥丘に密集する黒い繁みに手を伸ばし、陰毛をくるくると指に絡めて遊んだ。  
そして陰唇を掻き分け、包皮の上から優しくクリトリスをなぶる。  
「そこ、は……、んっ、む」  
少女が何か言う前に、魔王は小さな唇に噛み付いた。  
ザラつく舌を割り入れ、歯列をなぞり相手の舌の裏筋まで舐め上げる。  
「ん、んっ、ぷぁ……ちゅ、ぁ……」  
透明な涎が赤い口の端から止めど無く零れ落ちた。  
「もっとお前を喜ばせてやりたい」  
場違いな程にこやかに言ってから、魔王は次第に指の動きを速めてゆく。  
パンパンに膨らんだ肉芽を小刻みに弾くと、少女の股間は見る間に水浸しになった。  
「あっ、ああぁ、ん、やぁ、はぁ、はぁ……」  
鼻から抜ける様な悩ましい淫声。  
膣が充分に潤ったのを認め、魔王の中指が割れ目に滑り込み、中を探り出す。  
関節を手前に折ると手応えがあり、そこを重点的に責めながら激しい抽送を始めた。  
溢れる愛液が白く泡立つ。少女は爪先と踵を突っ張らせ、気持ち良さそうに尻を浮かせた。  
「性感帯は人間も魔族も同じだな」  
喉の奥で低く嗤うと魔王は舌舐めずりした。  
指ではクチャクチャと粘つく愛液の糸を引かせながら、少女の乳房に顔を埋め唾液を含んだ舌で乳首をつつく。  
唾に濡れて凝った乳首にしゃぶり付き、赤ん坊の様に吸い上げた。  
「やんっ、あ、おっぱいだめぇ……指やめてぇ……まおうっ、おねがいだ、から……」  
意識が混濁して来たのか、彼女の呂律は怪しい。  
胸の突起とクリトリスを同時に刺激され、少女は臍の下にもどかしい疼痛を抱えていた。  
やがて強い尿意が込み上げ、くねくねと尻を回してもがく。  
「本当に止めて欲しいのか。そうでは無かろう?」  
言いながら指の往復を加速させ、あどけない少女を絶頂へと導く。  
「ん、あっあぁ、へ、変なのが……、あ、あっ、は、まおう、だめ、だめぇ、変になっちゃう……!   
はぁ、は、やだぁ……いや、変なのが、くる、ああぁあ、いやぁっ! ああぁあぁ」  
えも言われぬ浮遊感が押し寄せる。全身を痙攣させながら達してしまい、プシャ、と淫水が噴き出した。  
それは魔王の指を濡らし、草の上に滴り落ちる。許容を超えた快感に暫し放心する少女。  
「……我が妃はとんだ淫乱だな。余は嬉しいぞ」  
「……っ!」  
羞恥を煽る露骨な言葉を聞いて、少女は両手で顔を覆い隠し、遂にはぐすぐすと泣き出してしまう。  
その様子を面白そうに見遣りながら、湿った華奢な身体を魔王は愛しげに抱き寄せた。  
 
続く。  
 

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