朝の依頼を遂行し、私たちはギルドに帰還した。  
 今日は暑いので午後からは休みを取ることにする。  
 しっかし何だ、熱膨張したスライム退治とはまた暑苦しい仕事で嫌になってしまう。  
 ま、それが傭兵の仕事なので仕方ないか。不景気の今、仕事を取れるだけでもありがたいと思わねば。  
「そう言いつつ休みはきっちり取るんですね、リーダー?」  
 私の隣で軽装の魔法使いが言った。  
 尖った耳に、アイボリーの長髪。やや釣り目で気の強そうな顔は端整で、妖精らしい美貌の持ち主だ。  
「今日は二人パーティだったのに、どうしてそう堅っ苦しい呼び方するの?」  
「私なりのメリハリです。他に誰もいなくても、仕事の時はリーダー」  
 彼女の名前はウノナ。エルフ族。  
 
「じゃ、これで解散だ」  
「そしたら、今からはオリビエ」  
 そう、それが私の名前――オリビエ・ザナム。一応人間族だ。  
「ねえオリビエ、午後の予定は?」  
 笑顔で訊いてくるウノナ。  
「まだ何も。折角なので涼みたいかな。ただ、ボーガンは装備の錬成に忙しいみたいだし、ペネロペはこの暑さじゃ参ってそうだ」  
「”雪女”ですし――あ、だったら…その…」  
 ウノナがこういう態度は取る時は、大抵気を紛らわせたいのか、胸元で手遊びをする。  
「そういえばプライベートだと、ここしばらく二人ってのはなかったな。二人で何処か、出かける?」  
 満面の笑み。どうやら当たりだったらしい。  
 
「この時期だと、海とかどうだ?」  
「ごめんなさい。日差しの強い所はちょっと……」  
 その透き通るような肌を見ると確かに分かる。エルフは基本的に森に住む種族だ。  
「公衆プールも同様か。人も多いだろうし、じゃ――」  
「そうだ。少し距離あるけど、アチココの森に行ってみます?」  
 アチココの森か。狭くてエルフが根城にするには不向きと聞いたことがある。  
「森の奥に泉があるの。小さいけど、水浴びにはちょうど良い所ですよ?」  
 ――なるほど。森に精通するエルフを侮ってはいけないな。  
「じゃ、簡単に用意をして来る。三十分後に、またこの場所で」  
 はい――と一言。ウノナは小さく手を振った。  
 
 そういえば、ウノナと泳ぎに行ったことは一度もなかった。  
 ジムには行かないみたいだし、私から誘わないせいもあると思う。  
「随分早いですね」  
 振り返ると、ウノナが立っていた。キャミソールのワンピースはパステルグリーン。  
 肩にかかる別の紐は、水着のそれだろうか。  
「似合うな」  
「わあっ――嬉しいです。でも、ちょっと照れるな…」  
 恥ずかしげに視線を落とす仕草が、どこか初心で愛らしい。  
「ここに立っていても暑いだけだ。行こう」  
 出発前からこれ以上アツくなるのは御免。  
 
 二人並んで歩くことは、普段からよくあること。  
 が、目的が違うと空気も違ってくる。緊張しているのか、口数の少ないウノナ。  
「仕事の間と違って、静かだな」  
「…そっちの私の方が、好きですか?」  
 慣れてしまったのだろう――二人の時間が取れない状態に。  
「悪かった。私がもっと――」  
「良いの。私はどちらのオリビエも好きです。今、こうして一緒にいられるだけでも幸せ」  
 私はウノナの手を取って、甲にキスをした。  
「独り占めはずるいな。私だって、どんなウノナも好きだ」  
「もうっ、恥ずかしい…」  
 
 明るくお喋りな普段の顔と、大人しく、しかし情熱的な顔――両方を見せるのは、恐らく私にだけ。  
 顔を赤くして俯くウノナは、今すぐにでも抱き締めてやりたいほど、可愛い。  
 そんな感情を押し殺し、適当に声をかけながら歩く。  
 仕事の話を出すのは野暮かもしれないが、その方が彼女はやっぱりよく喋った。  
「あなたのこと、尊敬してます。強くて、格好良くて…付き合っていること、たまに忘れちゃう」  
「大きく見過ぎ。お前がいるから、私はリーダーでいられるんだ」  
 段々と褒め合いになってきた。どうも自然とこういうムードを作り上げてしまう気がする。  
「あー、ウィキド退治の時は辛かったな。お前のレベルが上がってなければ撤退するところだった」  
「ゴーストに物理が効かないことはよくあるけど、半端な火もダメ――ですからね」  
 ウノナは頼れるパートナー。そして、恋人。  
 
 森に入り、途中で道を外れしばらく歩くと、やや開けた場所に自然の泉が湧いていた。  
「お前が推すのも頷ける場所だな」  
 確かにこじんまりとはしているが、水気が涼しく居心地が良い。そして、誰もいない。  
「本当ですか? じゃあ、あの…」  
「分かっている。ほら、おいで……なでなで」  
「はわ〜」  
 感嘆の声。そしてその長い耳はぱたりと倒れ、顔もとろんと緩んでいく。  
 ウノナにはこういう犬みたいな一面があり、和まされる。  
 そして掌に触れる髪は絹のようにさらさらで、撫でているこちらまで幸せな気分になってしまう。  
 彼女はやっぱり、少しだけ人間とは違う。勿論、良い意味で。  
 
「じゃ、泳ぐか」  
「はいっ」  
 そう言うと、ウノナはキャミソールの肩紐を下ろし、腕からそっと抜いた。  
 膝丈のワンピースがぱさり、と下に落ちる。  
「……魅惑的だな」  
 中に来ていたのは、キャミソールと同じ色のビキニだった。これほど素肌を露出したウノナを見るのは久しぶりだ。  
 形の良い胸の谷間、無駄な弛みのない腹部に、締まった太腿――と惜しげのない自己主張。  
 そしてどこか神秘的でさえある肌の白さが、言葉通り私を釘付けにする。  
 その視線に、思わず赤面する彼女。やがて耳の先まで真っ赤にして顔を覆う。  
「――うう、そんなに見ないで下さいっ…!」  
 
 私も服を脱ぎ、水着姿でウノナと向かい合った。  
「これで一緒」  
 エルフは基本、森に隠れ住むような習性から、羞恥心が強いと聞く。  
 実際は個々異なるのだろうが、ウノナを見ていると強ち嘘とも言えないな。  
「オリビエ……」  
 凝視していた分、されるのもまた良しとする。別にMなどではないが。  
 それに狙ってブーメランな訳ではない。普段ジムでしか水着を使わない結果、これしかないのだ。  
 ウノナのうっとりとした視線が、私を違う意味で釘付けにする。  
「どうした?」  
 ハッと我に返るウノナ。そして、頭から湯気が出そうな慌て様。  
 
 上気した頭を冷ますように、体から水に浸かる。  
「冷たい」  
 確かに水温は少し低めか。それでも火照った体には気持ちが良い。  
 小さな泉を、私は泳いでみた。確かに、広くはなかった。水深も浅く、本格的な泳ぎ応えはない。  
 だが、こういう場所も良いものだと思う。何より――。  
「泳ぐの上手ですね。羨ましいな」  
「教えてやるから、泳いでみないか?」  
 ウノナはにこりとしながらも、首を横に振った。  
「私は水浴びで充分です」  
 その髪は既にしっとりと濡れ、水面に花のように開いていた。  
 
「私一人で泳いでいたら、お前は暇じゃないか? ほら」  
 そう言って、水の中からその手を引く。と、ウノナはそれより先に、私に近付いてきた。  
 冷たい体に、温かい腕が巻きついてくる。体をぴたりと寄せ、私を見上げる彼女。  
 密着した胸からは心臓が早く強く、鼓動を打っているのが分かる。  
「――っ!」  
 言葉にならず、表情はまるで求めるかのようだ。体は僅かに震え、目は潤むように瞬く。  
「……ウノナ」  
 私もウノナを抱き締め返した。ただ切ないと、全身から訴えかけてくる。  
 やがて彼女が小さく、息を吐いた。気持ちの落とし所をようやく見つけたらしい。  
「お願いです…変なこと言っても、嫌いにならないで」  
 
「…少し冷たいし、まず上がろうか?」  
 腕を軽く解放すると、ウノナは再び私を見上げた。  
「――して、下さい」  
 それは可愛さ、色っぽさ、美しさ、可憐さ――と様々な愛しさが凝縮された、神をも魅了する顔。  
 変に感情を形容するより、率直な答を態度で表そう。私はウノナの唇に、キスをする。  
 目を瞑りながらも、彼女の両手は私の両手を、それぞれしっかりと握っている。  
 程無く、唇を離す。  
「ウノナ、好きだ」  
 するとウノナは、眉をひそめた。  
「……私が先に言うつもりだったのに」  
 
 しかし、すぐにその顔は明るい笑みに変わった。  
「じゃあ私は――大好き、大好きですオリビエ」  
 そう言って、今度はウノナからのキス。  
 絡めた手はいつの間にか解かれ、また背中に回されていた。私は彼女の二の腕に手を添え、温かい唇の、そして体全体の感触を受け止める。  
 唇が離れた時には、彼女の顔はすっかり甘く溶け込んでいた。  
 そして三度目のキス。どちらからともなく、口づけ合う。感情が高ぶり出す。  
「ん…ちゅう…ちゅっ…」  
 段々と舌を入れ、絡ませる。手や体もじっとしていられずに、相手を求めて動く。それは実に艶かしい。  
「ちゅば…れろ…くちゅ…」  
 今日のウノナは、とても積極的だ。  
 
「ん…ぱあっ……」  
 やっと離した唇と舌。白く細い糸が引き、間に落ちる。  
「――上がろう」  
 もう言葉すらなく、こくりとだけ頷くウノナ。  
 私が先に上がり、今度は彼女の手を取り引き上げる。ざば、と水しぶきを上げ、軽い体が浮く。  
「きゃっ――!」  
 引きが強過ぎたのか、勢い余ってウノナの体は、私を押し倒すようにして倒れ込んだ。  
「――悪い」  
「わざと、ですか?」  
 鼻の先同士が当たるほどの近さで、ウノナが目を細める。  
 
 つい悪戯心が芽生え、私は耳にふっと息を吹きかけた。  
「はひゃあっ!?」  
 気の抜けたような声を上げ、全身の力が抜けたように、私の上から転がり落ちる。  
 そしてすかさず自分のマウントポジションにすると、涙目のウノナに笑って見せる。  
「……耳は、嫌です…」  
 指で筋を、そして中をなぞるように右耳を、そして左耳は自分の舌で、愛撫する。  
「ふ…ああっ…やめ、てっ…!」  
 しかし止めない。長く、そして感度の良い耳はエルフ特有だ。逃げないよう覆い被さるようにして、その反応を楽しむ。  
「いじ、わる――っ!」  
 潤んだ瞳で悶えながらも、確かに感じている。  
 
「――っ!!」  
 耳だけで軽く達したようだ。一瞬力が入ったかと思うと、すぐへなりと抜けていく。  
 一段落したところで、私は下に手をやった。  
「うくうっ…!」  
 ぴくりと反応する体。そこには吸着した水とは違う、じっとりとしたものが染みている。  
 顔を見ると、涙ながら怒ったような表情――やり過ぎたか。  
 私はそっとウノナの上から退き、隣からその体を起こしてやる。  
「悪かった。お前が可愛くて、つい調子に乗ってしまった」  
 ウノナは少しの間、俯いて黙っていた。が、耐え切れなくなったか、目を向ける。  
「止めないで…オリビエ――」  
 
 お互い座ったままでキス。ウノナはそのまま私の肩に手を置いてくる。  
 そして体を向き変え、膝を曲げて私の間に捻じ込んできた。  
 私も同様。彼女の下に左膝がしっかりと当たる距離で、少し前のめりのせいか、当たる胸の感触まで強い。  
「んっ…!」  
 手がすぐ真下にある胸へと、自然に伸びていた。弾力のあるそれは、手に実によくフィットする。  
 湿った布地。その少し上は、まだ水滴の付いた肌。顔や鎖骨に、張り付く髪。改めて、刺激的だと言わざるを得ない。  
「あ、ん…」  
 体を捩らせながらも、耳の時とは違い、気持ち良さそうに声を出す。  
 私は手を止め、腕を回すようにして、背中に触れる。  
 小さく息を吐くウノナ。私も逸る気持ちを抑えながら、それを手で探り当て、解く。  
 
 首も同じように紐を引くと、上がはらりと膝元に落ちる。  
 覆う物を無くした胸に、そして恥ずかしげに目を逸らす様子に性欲を掻き立てられる。  
「あふぅ、んっ…!」  
 水着越しよりも直に感じるのか、切なくも悩ましげな声を出す。  
 思わずもう片方の乳房に、私は口付けた。そしてピンクの先端にキスをし、舌を伸ばす。  
「ああっ――!」  
 後に倒れんばかりに仰け反るウノナ。またイキかねないので、セーブしながら先を、周囲を、優しく舐めていく。手も弄ぶことも忘れない。  
 彼女は、そんな私の体をまた抱き締めてきた。まるで母性を感じさせるように。  
 顔と手をゆっくりと離すと、彼女もその力を緩めると思っていた――だが違った。  
 一層力を込められ、私の顔は胸の谷間に埋まった。柔らかく、滑らかな感触。  
 
「はあっ…!」  
 やっと解放され、私は息を吐く。  
「さっきのお仕置きです。それに……不思議な感じです。オリビエをこんなに大事に思えるなんて」  
 そしてまた、抱擁。きつく抱き締められ、抱き締める。  
「私はエルフですが、あなたが欲しい。体の繋がりだけじゃなくて、心から――」  
 首元で囁くウノナには、これまでの行為とは違う決意を感じた。回された腕の強さで分かる。  
「……結婚しよう」  
 無言。そして、嗚咽。痛いほどの思いが、胸を締め付ける。なのに、どこか心強い。  
 しばらくそのまま、抱き合っていた。これほどウノナが愛おしいと思ったのは初めてだった。  
 ずっと一緒にいたい。片時も離れたくない。そう、心まで繋がりたいと願う互いの心――。  
 
 体をそっと離し、涙で汚れたウノナの顔を見る。私は、彼女の涙にキスをする。  
 拭き取るように、何度も。味なんて分からない。ただその肩に手を置き、一心に。  
「――もう泣かないで良い。私がずっと、お前を守っていく」  
 また泣きそうになるウノナに、今度は唇にしっかりとキスをする。頬に一滴だけ、冷たいものが触れる。だが、それ以上はなかった。  
 唇を離し、顔を確かめた。そこには笑顔が戻っていた。  
「――はい」  
 そして本日何度目のキスだろうか。頭は既におかしくなっている。何を思考しているか、分かったものじゃない。  
 体が疼く。キス以上、胸以上の繋がりを欲している。ぐちゃぐちゃにしてしまいたい、率直な欲望。  
 だが、ウノナの体と心は壊れそうなほど脆い。大切に、愛すること――それは私が感じた責任。  
「……優しくするから」  
 
 
 〜インターミッション〜  
 
「何だ? ボーガンの部屋すっげぇ暑いぞ!?」  
 雪女は家に入るなり、そう叫んだ。  
 下手すれば外温より酷い――彼女はすかさずアイスバリアを体に張る。  
「ん? あーペネロペか。今は錬成が高じて鍛冶やってるところだ。熱い鉄の塊に気を付けろ」  
「おバカ! こんな蒸し暑い日に…サウナかここは!」  
 煩そうに耳を塞ぐボーガン。仕事でよくつるむ二人が宜しくやっている頃、彼は暑さも忘れて武器作りに没頭していた。  
「ったく、熱射病で倒れちまうだろーが。なぁ、お前ん家の魔法アンプ、借りてっからな」  
「何に使う? 高いんだがそれは」  
「冷気を拡張させて夏を乗り切るんだよ! 俺に使って貰えりゃ本望だろ――てか、バリアしてても熱いわやめろ!」  
 ランシャツ一丁で汗を拭いながら、ボーガンは不憫な眼差しを向ける。  
 
「おおっ? やんのかコラ」  
「いや、雪女――もとい雪山出身のプリチー魔女っ子ペネロペ。あんたの気持ちもよく分かる」  
 酷い棒読みにいきり立ったペネロペも絶句する。  
「が、道具音痴に気安く持って行かれたらこっちが困るのよ。奥に来い、そこで涼んで済むならその方がマシ」  
 見た目ほど気は強くないウノナに対して、ペネロペは本格的な不良気質。割と小柄で怖くないのが難点だが。  
 対してボーガンはとことん我が道を行く皮肉家。ある意味相性は良い。  
「どうした? ぼーっと突っ立ってないで、さっさと来い。溶けるぞ」  
 わなわなと拳を震わせるペネロペだが、温度には勝てそうもない。渋々ボーガンの後に付いて行く。  
「――!」  
 すっと肌を撫でる微風。部屋の中には、そんな心地良い風が絶えず吹き抜けていた。  
 
「でっけー風車と拡張送風機で夏も室内まで快適、か…。あ、何だこれ」  
「簾だ。こういう知恵がないから他所者はバテる」  
 食って掛かるペネロペを右手一つで押さえるボーガン。  
「そして水は冷たい地下水だ。少し浴びてくるから、大人しく待ってろ。良いか? 壊れるから物に触るな」  
 部屋を出て行くボーガン。  
「ボーガンの野郎…そうだ、何か使って困らせてやる」  
 悪戯心に沸くペネロペ。すぐに周囲を物色し始める。  
「……!? 何? ”ここから倉庫に下りられます”? 何だろ?」  
 床が開き、比較的大きめの穴が現れた。中からは部屋よりもひんやりとした空気が漏れてくる。  
 興味が湧いたペネロペは、その梯子を伝って下りてみることにした。  
 
「うわああぁぁーっ!!」  
 ペネロペの体は真っ逆様に落下していた。体が完全に中に入った瞬間、床が閉じ梯子が引き上がったのだ。  
 そして、ぼちゃん――と冷たい水の中に落ちる。  
「うくっ…お、溺れちまうぜ畜生っ!」  
 深い。そして流れが速い。何かに捕まらねば――泳げないペネロペは懸命にもがきながら、やがて篭のような物にしがみ付くことに成功した。  
「な、何だ? うわわ、これ動く!?」  
 ゆっくりと上に、それは引き上げられて行く。見れば、ロープのようなものが見えて――。  
「……で、汲み上がったのは水ではなくあんたか。そのまま流されないで良かったな」  
「こ、このおバカ!! 死ぬかと思ったじゃねーか!」  
「泥棒用に愉快な仕掛け作ってたんだが、すっかり忘れてた。ま、人の言うこと聞かないからこうなる」  
 
「あんたもついでに水浴びすれば?」  
「何だよ、人を女だとすら思ってない目だな。こんな場所で脱げるか!」  
「どうせびしょ濡れ。目の届かない所にやると、この上何しでかすか分からん。着替えくらい嫌々ながら貸してはやるが――それともそのままお帰り?」  
「ちっ、素っ裸であっけらかんとしやがって。変態野郎っ!」  
「変態で結構。何なら脱がせてやろうか?」  
「わっ、止めろコラ! 離せ…畜生、ぶっ殺す!」  
「煩いな、少し黙ってろ」  
「――んんっ…!? …う、む……」  
「……ふう…ん? あーあ、何? もうスイッチ入っちゃったの? ――仕方無い。罰ゲームがてら、弄るか」  
「……おバカ」  
 
 
 〜本編復帰〜  
 
 何だろうか、今ふとボーガンとペネロペのことを思い出した。あの二人、ああ見えて仲が良い。  
「オリビエ?」  
 ――いかん。感情を吐き出したせいか、本番前に気が抜けたか?  
「悪い。しかし、安心ってのは…こういうことなんだな」  
「…ふふ」  
 今度は場違いにも和んでしまった。全くもって、しっかりしないといけない。  
「――良いのか?」  
「もう、今になって何言ってるんですか! 良いに、決まってます――でも…そんなオリビエも好き」  
 ありがとう、ウノナ――そう心で呟いて、気持ちを入れ替える。  
 彼女の体を抱き寄せ、キスをする。舌を入れながら、段々と意識を快楽の深みに紛れさせていく。  
 
 深いキスですっかり蕩けるような表情になったウノナの下に、私はそっと触れる。  
「やっ…!」  
 擦るように指を這わせ、捏ねるように膨らみに力を加える。  
「あぁっ…んっ…!」  
 元々濡れてきていたそこは、瞬く間に愛液の感触で溢れ始めた。  
 焦れったいような感情を抑え、なるべく時間をかけて、優しく愛撫する。  
 そして先に我慢の限界に達したのはウノナの方だった。  
「はぁっ…直接、触って…?」  
 その言葉に私も頷き、体をゆっくりと倒していく。そして、今やじとじとに濡れた最後の一枚に、手をかける。  
 自分がそれを脱がすことに、言いようのない征服感と、幸福感が入り混じる。  
 
 下が淫らに糸を引きながら、彼女の水着は徐々に足を抜けて行く。  
 曲げた膝を通り、すらりと伸びた足を潜り、爪先から抜き取られる。  
 そして、全身を見下ろす。  
「……綺麗だ」  
 美しかった。初めて見る訳ではないが、暗がりよりもはっきりと、その良さが分かる。  
 しなやかで艶かしい肢体は、私の下をはちきれんばかりに奮い立たせる。  
 しかし、いつまでも見惚れている訳にもいかない。私はウノナの下に指で触れ、掌全体で触れた。  
「オリ、ビエ…はうっ…!」  
 緊張からか、手が震える。抑えなければ――しかし、段々と強くなる水音に、理性が奪われる。  
 手が中へ中へと入り、内側からウノナの敏感な部分を、刺激していく。  
 
「う、んんっ――!!」  
 指、そして手に溢れ出す、愛液。濡れた体が脈打つように、ぴくり…ぴくりと動く。  
「大丈夫か? ウノナ」  
「……はぁ…はい、気持ち…良かった、です。手を、貸して下さい…」  
 ウノナは手首に捕まると、弱々しく起き上がった。  
「!?」  
 と、何をするかと思えば、手首を掴んだまま引き寄せて、私の指を舐め始めたのだ。  
 ぞくりとするほど、巧みな舌遣い。  
「う…」  
 やがて五指を綺麗に舐め終えると、私の手首を解放するウノナ。だが、息吐く暇はなかった。  
 
 その手が、私の下に宛がわれる。そして揉み解すような愛撫を始めると、すぐに快感が収まらなくなる。  
「あっ…くっ…!」  
 手だけでもかなりの刺激だが、その上に舌が加わった。体を屈め、張り裂けそうな下の先端を、掬うように舐める。  
 これまでで相当来てはいたが、我慢の代償が既に水着に広く染みを作っている。これ以上は、抑えが利かなくなる――。  
 突然彼女の舌が、止まった。  
「脱がせて…良い、ですか?」  
 私は頼む、とだけ言って、下半身に神経を集中させる。まだ、ダメだ。  
 ウノナの手が、水着を引き下げる。熱を持っていた下が、心地良い空気に触れる。  
 そして半脱ぎにして止めると、彼女もそっと手を触れてきた。痛い。痛いほど気持ち良い。  
 撫でられ、擦られ、そしてキス。舌まで触れる。荒々しい吐息。何も考えることが出来なくなる。  
 
「今にも溢れ、そう…ねえ…下さい」  
「ああっ、もうヤバい――っ!!」  
 私のが、壊れた。  
「――っ!?」  
 ウノナは口を開き、先端からの放出を受け止めた。しかし夥しい量の精液は、その小さな口には収まりきれない。  
 顔に、体に白い物がべったりと付着していく。そして、ようやく止まった。  
「んく……凄、い…」  
 何と飲んだ上で、悦に浸るウノナ。  
「大丈夫か? 何も飲まなくたって……」  
「オリビエの、こうして…嬉しい」  
 
 ウノナの片手は、自分の器にあった。ぽたり、ぽたりと愛液を滴らせながら。  
 私のを愛撫しながら、自慰をしていたのか。上目遣いの切ない表情が、愛くるしい。  
「ウノナ…横になって」  
 黙って従うウノナ。私は泉の水を掬うと、彼女の顔を濡らし、足元に置いていたタオルで拭う。  
 目を瞑り、気持ち良さそうな彼女。しかし気分まで冷めないよう、間は置かない。  
 私はそっと乗りかかった――逆向きに。  
「はんっ…!」  
 私も大概淫なる本能に飲まれてしまっているらしい。器に手を置き、そっと舌を伸ばしていた。  
「こんなに濡れていたんだ――うっ…!」  
 こういう体位だ、当然ウノナから何もない訳がない。ましてや、今の彼女は大胆そのもの。  
 
 今度は口全体が、私の感度の塊を嫌というほど刺激してくる。  
 段々と私を意識出来なくなり始めた。自分がやっていることが、分からなくなる。  
 それでも、ウノナの器を可能な限り優しく愛撫し、刺激する。呼応するように、彼女も勢いを付けてくる。  
「あ、ちょっ…」  
 同時にイキそうな直前で、今度は止める。  
「――挿れたい…良いか?」  
「……はい」  
 もう充分濡らしたし、濡れた。前戯が長くなったせいか、既に体という体がどうかしている状況。  
 今、しっかりと繋がりたい。次の瞬間には、私は単なる獣になっているかもしれないのだから。  
 私は体位を入れ替え、ウノナと向かい合った。  
 
「オリビエ……来て」  
 その手に誘い込まれるように、私は下を挿れた。  
「…んっ…はぁっ…」  
 体を重ねながら、徐々に奥へと突き進む。その感触だけで、昇天しそうになるほどの快感。  
 そしてキス。既にウノナの口内は、私で溢れている。しかしそれ以上のキスを、今なら出来る。  
 滑らかな肌、まだ濡れた髪、柔らかな弾力の胸が、一度に体に押し付けられる。  
 いや、今触れている部分全てに、妖艶な力がある。足の先まで、孔が開いたようにしっかりと感じる。  
 私は返すかのように、感情を込めたキスを繰り返し、舌を、そして歯の一本一本まで愛していく。  
 彼女の唾液が、甘い。唇を離すのが惜しいほど濃厚で、中毒性のある味。  
 下が更に大きく張り詰め、また彼女の締め付けも、確実に強くなる。  
 
「じゅぷ…ちゅ……ぷはっ…!」  
「――はぁ…動かす、から…!」  
 涙で滲む笑顔。それだけで、言葉は必要ない。  
 ウノナは、私のものだ。そして、私はウノナのもの。誰にも、介入させない。  
「ん……やっ、あっ…!」  
 漏れる吐息と、喘ぐ声。段々と力が、下半身へと集まり始める。  
「はっ…ふう…ぅんっ…!」  
 心の中で何度も呟く――ウノナが可愛くて、美しくて、愛しくて、そして好きだと。  
 お前の全てが好きだと。何よりも大切で、一つとして欠かすことが出来ない。  
 口に出すのなんて、恥ずかしくて野暮だが、私はずっとお前のことを――。  
 
「出す…ぞ?」  
「…おね…が、い…っ!」  
 ――愛している。  
『――っ!!』  
 ……声が出なかった。   
 心まで、弾けるかと思った。これが最初じゃないのに、比較にならないほどだった。  
 私はそのまま気絶しそうなところを何とか堪え、ウノナの顔を見た。  
「……愛しています…オリビエ」  
 何だ? これは……涙?  
「ずっと…うう…離さないで…オリビエ…くすん」  
 
「……」  
 感極まって、止まらない涙。声すら出ない。ただ、溢れて滴っては、ウノナの顔に落ちる。  
 気持ちと力を込め過ぎた反動か、体が動かない。  
 力の限り抱き締めたいのに、彼女の顔を見るのが精一杯だった。  
「オリ…ビエ…?」  
 我ながら情けないとは正にこのこと。ウノナもそれを求めているはずなのに。  
 嫌われたかも知れない――そう思うと、益々目が霞んでくる。  
「――!?」  
 腕が、私の体を包み込んだ。信じられないほど、安らかな感触。  
 まるで、女神の抱擁だった。  
 
 ウノナに抱き締められたまま、時間が流れた。  
 走馬灯ではないが、今までの記憶が頭に浮かんでは消えていく。  
 もっと強くなりたいと思った。彼女を、絶対に失うことのないように。  
 彼女を失えば……私は……。  
「オリビエ…?」  
 体が動いた。全く意識がなかったが、私はウノナの体を…しっかりと、抱き締めた。  
「……っ」  
 吐息。  
「……い、痛い…オリビエ…」  
 その言葉に、はっとする。  
 
 私の震える手が、ゆっくりと背を離れて、肩に行き着く。  
 弱まった力に、ウノナはまた吐息する。そして、私の顔は胸元に寄せられる。  
「オリビエの気持ち……嬉しい。だから、お願いです…痛まないで」  
 ウノナの胸が、私の涙で濡れる。ぼろぼろ状態の私の気持ちを、彼女は受け止めてくれている。  
 嬉しかった。何も言えなくとも、伝わっていたこと。そして、彼女の存在を、確かに感じられることが――。  
 恐らく、感情が落ち着けば何はなくとも、普段の私に戻るだろう。  
 そして彼女も、それを受け入れるように元通りになっていくのだろう。  
 ――こうしていられるのは、今だけだ。  
「……ウノナ……ありがとう……」  
 言葉を紡いで、そして目を閉じた。  
 
 泉で体を洗い流し、着替えてから私たちは帰路についた。  
 涼む目的のはずが、全く別の方向に行ってしまった。私も大した軟派男だ。  
 ウノナの機嫌といったら、これまでで一番かと言うほど良かった。  
「――ウノナ」  
「何ですか、オリビエ?」  
 あのことは、口に出すべきなのだろうか。まともな思考が出来ていなかったと考えると、確かにそうとも思える。  
 今また、気持ちが揺らぎそうになる。ぽんぽんあんな風に感情を出して、本当に良かったのだろうかと。  
「……責任は取る」  
 するとウノナはきょとん、とした顔で私を見た。そして、首を横に振った。  
「…熱くなっちゃったんです。私も分かっているから、気にしないで下さい」  
 
「……」  
「さあ、行きましょうっ」  
 その笑顔に、私は思わず全てを置いて行きそうになってしまった。だが――。  
「――違う。確かにそうだったかもしれないが、それでもあれは全部本音だ。お前はどう考えているか知らないが、私は…」  
「――っ」  
「私は、今日のことは忘れない。行き当たりの秘密にもしない」  
 夢心地で片付けてしまえば、もう二度と、戻って来られなくなるかもしれない。あそこにも、そしてあの感情にも。  
「私だって…でも、嫌じゃ…」  
「そんなはずないだろう! …私は、ウノナを愛している。そうじゃなかった時なんて、一瞬もない」  
 ……しまった。あまりの分別のなさに、呆れられたかもしれない。  
 
 ウノナは真顔で、無言のまま私を見ている。  
「……ねえ」  
 目を逸らす態度が、冷めているように見えた。  
「悪い。調子に乗って、馬鹿なことを……許してくれ。嫌われたく…ない」  
 動揺が、言葉に出る。私は馬鹿な上に、惨めだ。  
「私は――」  
「こんなに……こんなに幸せで、良いんですか?」  
 何を言われたのか、分からなかった。  
 ただ、分かることは、ウノナが私に近寄って来て、抱き締めてくれたこと。  
 気持ちは変わらない。ずっと彼女と、一緒にいたい。  
   
 私たちは婚約を交わした。  
 急ぐ必要はないと、日取りは随分と先にしたが、その方が良い。  
 私はウノナと考えなければいけないことがあった。  
「――ファイア・ストライク!!」  
 一瞬にして消し炭と化す、魔物の大群。  
「よくやった、ウノナ」  
「はい、ありがとうございます、リーダー」  
 あれ以降益々強くなったウノナは、様々な仕事で主力の働きを見せる。  
 他所から、パーティを組んでくれ――という話も持ち込まれるほどだが、本人は断っている。  
「オリビエと一緒じゃねーと嫌だ、ってか。うわー、熱くて火傷しそっ」  
 
 …今日のパーティ、ペネロペだ。勿論、ボーガンもいる。  
「嫉妬で煽るな。ま、彼女なりの祝辞だ。俺からも一言、おめでとうと言っておく」  
 二人とも、相変わらずそうだ。  
「ありがとう。隠していて悪かった」  
「何、こちらもこちらで口の悪い女を手懐けていたところだ」  
 すると、それを聞きつけたペネロペが、頭に角を生やして怒る。  
「あ? だーれが口悪いだこの性悪野郎!」  
「変態よりは的確な表現かもしれんね」  
 そしてボーガンの落ち着きっぷりも、前と変わった風には見えないが…。  
「私を除け者にして、何話しているんですか?」  
 
「世間話だ。いつの間にかウノナは頼れる魔法使いになった――と」  
「え? ちょっと、恥ずかしいです…」  
 いつでも本気の仕事は、プライベートの時間を増やす為。そして……。  
「……魔女っ子、席を外すぞ」  
「誰が魔女っ子だ! てか、何でだよ――ってコラ、抱え上げんじゃねーよっ!」  
 仲が良い二人は、歩いて行った。そして私は、ウノナと二人きり。  
「…あー、今こんなことを訊くのも何だが、ウノナ――お前は、引退するのか? 傭兵を続けていたら、危険な仕事にも出くわす。家庭に入るかどうかも……訊いておきたかった」  
「……しませんよ。だから、いつでも傍にいて、私を守って下さい」  
「分かった。私がずっと、お前を守っていく――改めて、約束する」  
 
 
おしまい  
 

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