彼女は向かいのマンションの真向かいの部屋に住んでいる、清楚な人だった。  
ことあるごとに目が合い、その度に彼女は微笑んでくれたりと、僕は舞い上がっていた。  
 
 
 
その日は、バイトから帰ってきた時に、なんとなしに彼女の部屋の方を見た。  
――ヤバいっ  
彼女の部屋はカーテンが開いていて、それで着替えの途中だったのか、下着姿の彼女と目が合ってしまった。  
「すみませんっ!!」  
こんな離れた場所で聞こえるはずないのに謝り、視線を外そうとした。  
……なのに目があったまま動けないでいた。  
『悪気があったわけじゃないんでしょう?謝らなくていいのよ』  
「いやっ、見てしまったものは……え…?」  
彼女は、もちろん向かいの部屋にいる。普通なら僕が謝った声も、彼女の声も聞こえないのに…  
『かわいい』  
彼女はそう言うと窓を開け、ベランダの手摺に手をかけ身を乗り出した。  
「あぶな…」  
言いかけた時、彼女の身体がぐるんと回り、マンションの壁に張り付いた。  
 
 
 
彼女がマンションの壁から道路を這い、僕の部屋に来るまでの時間が、少しだったのか長い間だったのかは解らない  
けど僕は物凄く長い時間、彼女から目が離せないでいたと感じていた。  
 
 
 
「こんばんは」  
そして、目の前には憧れだった彼女の姿がある。  
いつも見とれていた綺麗な黒髪、整った顔立ち、白い肌、大きく張りのある胸、どれも全部一流のモデルと比べても遜色の無いものだった。  
だけど、それだけ。  
下の方に視線を移すと、腰のラインから物凄い力で引き千切られたように下半身が無かった。  
 
もう全てが理解の限界を超えていた。  
憧れだった女性が目の前にあられもない姿でいて、普通なら嬉しいはずなのに…  
 
異常すぎる光景  
上半身だけで浮かんでいる彼女、ただ立ち尽くす僕  
彼女は僕の戸惑いなど気にする様子もなく、ゆっくりと近付いて来て僕を抱き締めた。  
「っっ!!」  
柔らかい膨みに顔が埋まり、目の前が真っ白になる。  
――ごとん  
気付けば、彼女にされるがまま押し倒されていた。  
「ねぇ、私としない?」  
そう言いながら彼女の手はカチャカチャと僕のズボンを脱がそうとしていた。  
「す、するって何をですか…」  
そう聞く僕に、彼女はいつもの笑顔で答える。  
「わかってるくせにぃ、……ここは硬くなってるわよ」  
「あっ………、う……」  
彼女の手の動きは、とても気持ちよく、膝がガクガクと震えだし  
「まだダメっ」  
すんでのところで止められた。  
「出すなら。私の中で出してよ」  
「中でって……」  
「お腹の中にきまってるじゃない」  
ふふふ、と彼女は小悪魔的な笑みを浮かべ  
「下半身なんて飾りよ、か・ざ・り」  
そう言って彼女は、僕の股間に胴体を被せてきた。  
初めての感覚  
彼女が身体を上下させる度に、ヌチャリヌチャリと生温かい肉がまとわりつく感触  
内臓を犯している。という背徳感  
そんな未知の体験による快感で限界に達した僕は、彼女のはらわたに射精した。  
「もう出しちゃったの?」  
「ひゅ、ひゅみません」  
息も絶え絶えな僕に容赦ない言葉がかけられる。  
「いいわ、もっと私のこと気持ちよくしてくれたら許してあげる」  
そう言って彼女は、また身体を上下しはじめた。  
前言撤回、彼女は僕の戸惑いを楽しんでいる。そう確信した。  
 
 
「……朝?」  
窓から差し込む光で目が覚めた僕は、昨夜のことを思い返した。  
「あんなこと現実にあるわけなんてない、疲れてるから夢でも見たんだろ」  
そうして、いつもの様に起きようと手をついたら  
――べしゃっ  
と水溜まりにでも手を突っ込んだような感触  
ようやくハッキリしてきた頭で周りを見てみると、よく解らない液体や白いもので水溜まりのようになっていた。  
 
――トントントン  
――コトコトコト  
そんな音に混じり、誰かの鼻歌が聞こえてくる。  
聞こえてくる方を見ると、音の主が僕の視線に気付いたのか、手を止め振り返った。  
「おはよう」  
そんな笑顔を見て、昨夜のことは夢じゃなかったんだと理解出来た。  
 
―これからどうなるんだろう僕  
 

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