大きなドアを開けると、既に全員が集まっていた。  
 広い食事のための室内のテーブルがあり、白い布の上に乗せられた紅い薔薇がいっそう目立つ。  
 何人かのメイドがカートから食事をテーブルにおいていくのを眺めながら、既に着席している者を見る。  
   
 本来テーブルには座り方があるが、この館ではあまり重視されておらず、今日も好き勝手に座っていた。  
 と、いうより生活が違いすぎてそこまで気を回せないのだ。  
   
 いま、この部屋にいるのは館の中でも権威のある者だけだった。  
 門番隊隊長ワーウルフのたろ。同じく門番隊副長ネコマタのマオ。  
 館内の魔術図書館管理人ラーマス・ノーエン。その使い魔にして司書、サキュバスのルヴィ。  
 唯一無二の人間にして従者長夢弦朋樹。従者長補佐心得毒蛇のスピネルと毒蜘蛛のユリカ。  
 すぐ下の妹シルクと末妹でありながら現当主のディストが座っていた。  
   
「おはよー」  
「おはよーじゃないわ、兄さん。遅いったら遅すぎるのよ」  
 桃色のドレスとフリルのついた服、紅いリボンを着た幼い少女が怒る。パタパタと動く羽と鋭い牙さえなければ、普通のお嬢様にしか見えない。  
 外見は十二歳かそこらの少女の視線といえど、実際年齢は五百を超えている。  
 その眼力はなかなかのものであり、そのへんの悪魔なら視線だけで逃げ出すだろう。  
 だが、その視線を向けられた相手は自身の兄であるし、周囲の連中もその程度で一々騒ぐほどのものではない。  
 最初は怯えていたかもしれないが、既に長年過ごしているのだ。  
 だから、これがディストなりの甘え方であることは周囲の事実であった。知らぬは本人のみ。  
「悪い悪い」  
 謝りながら席に着くと、従者長が小声でささやいた。  
 門番隊から耳に入れたいことがあり、全員ずっと待っていたのですよと。  
 それは悪いことをしたと思いながら予感があたりつつあることに内心笑みを隠せずにはいられなかった。  
「えっと、じゃあはじめますね。  
 周囲警戒班からの情報で人間を見かけたとかいう話がありまして」  
 あまり露出の高くない大陸の服を着込んでいるたろが頭をかきながら言う。  
 
「人間!?  
 遊べるの? ねぇ、ねぇ!」  
 ガタガタと椅子を揺らしながら、末妹のシルクが楽しそうに笑いながら言う。吸血鬼なのだろうか?と首を傾げるほどおかしな部分がある。  
 鋭い牙に紅色のひとみ、紅と白の可愛らしい短いスカートをはいている。ここまではディストと同じだ。  
 だが、背中からは四枚の翼が生えていた。  
 四翼の天使だとかは、おとぎばなしでもあるが、四翼の吸血鬼だなんて…。見たことも聞いたこともない。  
 楽しそうに笑うシルクをなだめながら、先を促すように目で指示する。  
「たかが、人間でしょう?  
 ガタガタいわずとっとと処理なさい」  
 冷酷にディストが言い放った。  
 どうやらまだお怒りのようで、スピネルとユリカがまぁまぁと呑気になだめる。  
 しかし、彼女が思う以上に事態は大きなことであるというようにたろが言う。  
「いえ、そうしようと思ったんです。  
 でも、三方から取り囲むように着てるんですよ」  
 館は海を背にするように立っている。荒い波と深く暗く悪魔がたむろする森が、この館のもう一つの門でもあった。  
 同時に、万が一森を突破されれば館の領域でしか行動ができなくなる。  
 広さからして三方に分けられるとほとんど森へと入ることが不可能となるのだ。  
 それを危惧してか今までだまっていたマオが大変だと言う部分を伝える。  
「その上、今までのように三人だとかじゃなくって、五十人ですよ。  
 おおよそ百五十は軽くいるのではという報告です。しかもエクソシストです」  
 エクソシストという単語が出ると流石にほとんどのものがピクリと動いた。  
 動かなかったのは、テッドと従者長とラーマスの三人だけだった。シルクもまた、動かなかったがこれは単純にエクソシストがどういうものか解っていないので論外だ。  
 テッドはなんとなくの予感がこれかということを愉しんでいるし、従者長にいたっては人間なので相手は油断する。その間に殺せばいいし、退魔の術は人間に効果がないので恐れる必要などみじんもない。  
 ラーマスは今まで感情を見せないような表情でいたが、一瞬瞳に力を入れていた。  
「エクソシストということは、魔法使いもいるだろう」  
「え? ええ、いるんじゃないんですか?  
 とはいってテッドさん…じゃない、ご主人様やお嬢様方には全く通用しないレベルですが」  
 ちなみに、テッドは吸血鬼とは思えぬほどのんびりとし、上下関係をあまり気にしない上、様付けを好まないタチである。  
 そのせいか、さん付けされることが多いが、流石にこの場じゃまずいと急いでだろが訂正する。  
 この場でもついつい言ってしまうほど、そちらに慣れてしまっているが、よいだろうか?  
 
「でも、魔力を有するか…。  
 魔法使いがいたらニ〜三人コチラに回してくれないか?」  
「モルモット?」  
「魔力吸収型魔術生命体の実験に使用したいんだ」  
「そう、そうね。  
 百をこえる人間なんて、久しぶりだわ」  
 ニヤリと凶暴な笑みを浮かべるとディストは指示を出そうとするが、テッドにそれを止められた。  
「この指示だけはオレがださせてもらいたいんだけどな〜」  
「兄さん?  
 兄さんったら、私を当主にしたくせに…こういう楽しいときだけはズルイわ」  
「今度オモチャもってくるから」  
 もうと少し怒ったフリをしながらも兄に任せる。  
 なんだかんだいい、ディストはおにいちゃんっこだと周囲がこっそりと思ったのを、本人は知らない。  
「ラーマスには何人か回して。  
 ンで取りこぼした連中はほうっておいてよし。中のメイドたちが片付けるからな。  
 怪我人の救助優先、相手が出るまで手は出さない。  
 生き残った人間は好きにして、ただし十人くらい良好な人間がいたら血を抜きたいから別班にまわして」  
 従者長を呼び、何人か血液を抜く班員を作っていく。  
 一つの文句もでないのは、その指示にミスもなく、好きにしろという命令もあったからだろう。  
 最後に文句を言ったのは、シルクはディストと一緒に行動することだった。  
 遊ぶことが大好きなシルクからすれば、全員自分のオモチャにしたいらしいが、それは却下された。  
 吸血鬼という種族としてもとびぬけた身体能力を持っているシルクが好き勝手に動けば…ヘタすれば館は壊滅するだろう。  
 本来姉のはずのシルクを妹のディストがお守をするのは、なんとも不思議な光景であった。  
 シルクという吸血鬼の精神が幼いのが原因なのだろうか?  
 
   
   
 今日の夜は長くなるだろう。  
 明日の夜は短くなるだろう。  
   
 そんなことをテッドは一人考えていた。  
   
   
 

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