暗く冷たい石で作られた部屋でティアは目を覚ました。
あたりを見回すと石造りの部屋で、捕縛するものはなかったが硬い鉄格子が脱出を拒んでいる。
何度か魔法で壊そうと試みたが、魔法がまったく使えない。
それは未だティアの中にあるスライムくんの影響である。
それを知らぬティアは何事かと少し取り乱したが今では落ち着いている。
鉄格子を破壊することが不可能、魔法も使えない、武器も持たない。
脱出なぞ到底不可能としか思えない。
誰かが何らかの事情で鉄格子を開ける、それを突破し逃げる。
できたとしても、地上には悪魔だらけだ。
生還の確率は…限りなくゼロ。
ありとあらゆる幸運と偶然が重なり合わなければ…不可能。
それに、また捕まれば、また妙な実験代にされるのではという恐怖もある。
それに応えるようにコツ、コツと足音が響き渡った。
小さな足音と少し大きい足音二つ…いや、三つ。
しかしティアは足音というだけで酷くおびえる。
自分の体を抱きしめ、恐怖と戦いながら、目だけはやってくるであろう者を見据えようと。
「どうかしら我が家の牢獄は」
幼い少女が笑う。
はじめて見るディストにティアは戸惑った。
少女の外見をした大人のような表情をした悪魔。
そして横には自らを辱めた生き物を作り出したラーマスとルヴィが立っている。
「最低よ」
強がりなのは自らも分かっている。
そして目の前の少女はそれを理解している。
だからこそ笑ったのだ。
「いえ、貴女にプレゼントをと思ってね」
「プレゼント? なにかしら。下らないものでしょうけど」
「下らなくなんかないわ、貴女は実験動物なのよ」
「…」
怒りの目をいくら向けようと悪意をいくら込めど目の前の少女には伝わらない。通り抜けていく。
「魔力吸収の実験は聞いたわ。
いやでしょう? 得体の知れない生命体に犯されるなんて。
だから」
ディストは階段の方へ目を向けて、おいでおいでするような動作をした。
カツン、コツンと現れたのはメイドだ。
「!?」
メイドの服を着たソレイユだった。
「ソ、ソレイユ!?」
「あはぁ、ティアぁ」
「ソレイユ!? あ、アンタたちソレイユに何をしたの!」
「別に、彼女が望んだことをしてあげただけ」
「な。何を」
ティアはハッとした。
突然のことでソレイユの無事に喜び、ソレイユの様子がおかしいことに驚き見えていなかったが…。
頭の横にちょんと生えた角と飾りのような小さな翼…。
悪魔の姿になっていた。
「あ。あああ。そ、ソレイユ」
親友の、戦友の姿に、言い知れぬ衝撃を受ける。
あんなに悪魔を嫌っていたのにと。
どうして、なぜと叫びたかったがそれ以上の言葉はでない。
出せなかった。
「うふふ、これからはこの子が貴女の面倒と実験を行ってくれるわ」
それじゃあと牢獄のカギを開け、ソレイユに入るよう促す。
逃げれるはずなのに…動けない。
「ソレイユ…」
「ティア」
怯え裏切られたような声で親友の名前を呼ぶ。
そんなティアからすれば、狂ったように熱っぽい声で親友は自分の名前を呼ぶ。
こつこつと石の音が立ち、だんだんとティアの耳に大きな音となっていく。
影が色濃くティアに覆いかぶさった。
ソレイユが微笑んでいる。
いつもの快活そうな太陽のような笑い方じゃなかった。
暗い黒い、太陽みたいじゃない、快活なんて似合わない、いやらしい笑み。
少女の笑みじゃない、大人の笑み。やさしい大人じゃない。
幼いころにティアが偶然に出会った娼婦と似ていた。
よく迷子になっていた自分を保護して家に帰してくれたが、香水の甘い匂いと周囲の人間とは異質の女の香りにティアは内心怯えた。
捕って食われないかと怯えていた。
その幼いときの記憶を思い出す。
今と過去が同じ。
違うのは女は親友で捕って食おうとしないかではなく、捕って食おうとしている。
覆いかぶさったソレイユはティアの髪に手を触れた。
髪を手にすくいあげる。徐々に手を傾けていくとサラサラと髪が元の位置にもどっていく美しい様をティアは微笑みながら見ていた。
ソレイユと口に出したつもりが、口はパクパクと小さく魚が水面から顔を出したようにしかならない。
背後の石の感触が冷たくあるのが当たり前なのにぬるく感じられる。
いや、ぬるいなんて気のせいだとティアはどこか思っていたが、脳内に霞がかかったように思ったことをうまく体が受け取らない。
そのくせ目の前の女性の行動はキチンと目が追い、頭脳が理解し、触れる手を感じ取っている。
自分の体がおかしいとティアは思った。
気付けば冷たかったはずの体が熱く火照っている。そんな錯覚にとらわれていた。
「ぅぁ」
ソレイユが艶やかにティアの胸に両手を伸ばしていた。
五本の指が別の生き物のように動いた。それは先ほどのスライムくんとは違った、温かみのある相手の出方を伺うようなものだ。
ソレイユは痛みを与えぬように弱く弱く指を動かす。
だがティアに痛みがないと分かると徐々に強さを加えていった。少し痛みを感じるか感じないかの力にとどまり揉んでいく。
年相応よりもやや下程度の胸はソレイユの手にはちょうど良かった。
よく分からぬうめき声を上げるティアと一心不乱に胸を揉んでいるソレイユ。
その二人を見ながらディストは楽しそうに笑う。
それは悪戯を成功させた子供、もしくは子供に玩具を与えた大人の笑み。
正反対の風貌をあわせ持つ少女にティアの思考が正常なら驚いただろう。
しかしソレイユの行為はどんどん激しくなっていった。
「ん、ティアァ」
「ソレイユ…」
火照った体に思考は完全に鈍り始める。
もうどうでもよい、一瞬その考えがティアの脳を満たし、その感情に任せたくなった。
しかしティアの良心か背徳感か親友を思う友情なのか…どの感情かは分からなかったがそれを思いとどまらせた。
本当に受け入れてよいのか、ソレイユをこのままでよいのか。
思考にかかった霞を手で払うように頭を振り瞳に意思を戻しソレイユを見直した。
どこかとろけたようなおぼつかないような。いや、うまい表現がティアには見当たらなかった。
だが、知る人が見れば今のソレイユは悪魔の誘惑に乗り悪魔となった人間だったものとして見られるだろう。
残念ながらティアは、悪魔に堕ちた人間だったものをじっくりと直視したことがない。見たとしても、チラリと見た程度でこの悪魔は元人間だと冷静に解析する暇すらないのだ。
知らなくて当然といえよう。
知らないティアはソレイユに必死に呼びかける。
このような行為はおかしい。
このような行動はソレイユらしくない。
それらの言葉はソレイユの聞きたくない言葉だった。
女性でありながら女性を愛した自分をどこか嫌い、それから逃れるためにディストの誘いに乗った。
そんな自分の気持ちを知らぬ相手に怒り悲しんだ。
だが、もう自分はそれに悩む人間ではないのだ。
それをティアにも分からせなくてはならない。
狂ったような瞳でソレイユはティアを見つめた。
じっと見つめるソレイユにティアは正気を取り戻したのかと一瞬喜んだ。しかしすぐさまその喜びは壊された。
体中の力が入らない。それでいて思考は透明感を持つようにハッキリとしている。
ピクとルヴィが反応を示した。まだまだ未熟で辺り中に撒き散らしているだけのサキュバスの能力。
チャームと呼ばれる性的興奮を高める術。術のせいで今やティアはソレイユに欲情を覚えているだろう。
本来なら辺り中に放ち周囲の人間すらトリコにしてしまうが、あいにく此処にいる周囲の者は悪魔。高位吸血鬼に魔術士に同じ種族でも高位にあたるルヴィ。
効果があるはずもなくティアだけがトリコにされていた。
「ソレイユ! 一緒ににげ」
弱弱しい声だがハッキリとティアは言う。しかしそれ以上を口に出すことは許されなかった。
強引に唇に舌を差し入れ絡ませる。
突然のことにティアは驚き抵抗することすら忘れる。いや、もしかしたらチャームの効果で抵抗できないのかもしれない。
動かぬ舌とうごめく舌。
裏筋を撫ぜ舌を吸い垂れた涎を口で拭う。その仕草は紛う事なき『オンナ』のするものである。
呆然とティアはする。
誰だって一番の親友と思い強い信頼と深い確かな友情を持っている。お互いに持っている。
そう信じた相手が自らにキスをしたとすれば。そしてそれが同性とすれば。
衝撃は計り知れない。
驚いたような悲鳴をティアは上げた。
下腹部に手の感触。
ティアの両手は地をつき体重を支える以外の役割は果たしていないし、観客が手を伸ばすわけもない。
ソレイユの手はティアの下着に入り込み、うごめき始めていた。それでいて片手はしっかりと乳房を刺激する。
夢魔になったとはいえ此処まで巧みにできることに驚く。
くちゅくちゅと湿った小さな音は、石造りの室内では大きく反響した。
かぁと頬を赤らめ拒絶の言葉を吐くが逆にソレイユはそれに悦ぶように言葉をつむぐ。
「ティア? 気持ちい。気持ちいの
うふふ、うれしい。ティアかわいい」
嬉々としながら耳元で囁く。
ぐちゅ、ぐちゅ
中指がティアに進入していった。
「ひっ、うぁあ、あああ」
ぬるぬるとした熱い感触が中指にまとわりつく。
ほんの少し動かすだけでティアは達したのかと思うほどに大きく喉を仰け反らした。
「ふぅむ」
「どうしましたお嬢様」
「いや、ね。
とっとと進まないわね」
「仕方ないぜ、お嬢様。
ちょっと本来とは違う思考回路になってるようだぜ」
どういうことと口に出さずディストはルヴィを見上げた。
それに了解の意を唱えるようにルヴィがソレイユについて語る。
同性愛に苦しまれていた。それが夢魔になることにより解消された。ここまではいい。
しかし長きにわたり溜め込んでいた愛情が屈折してしまった。屈折した愛情の方向は屈折した行動を生み出す。
言葉で嬲るという行動がそれだ。
いくら夢魔にされた存在とはいえ、呆けた目がその証拠と力説した。
どうすればそれが分かるのかディストにはさっぱり理解できなかった。
夢魔だからだぜと笑いながらルヴィは付け加えるが、それでもやっぱりさっぱり分からない。
だが、言葉ぜめという何時終わるか分からぬ行いを見ているのも飽きる。
あれは、せめる側受ける側しか面白みのない行動だとディストは考えている。自分が楽しくないことを何時までもやらせておくような、考えを持たない。
こういうとディストがかなりの自己中心的に聞こえるが、本来吸血鬼とは例に漏れず自己中心的なのだ。生まれながらに殆んどの種族から恐れられる力を持つ。
それが原因なのか、種族上の能力のように先天性なのかは分からないのだが。
ちなみに例外となるのは彼女の兄と姉であった。
兄はひょうひょうとしており、天寿を全うしようとする老人のようだ。姉にいたっては純粋、子供のような心を何時までも持っていた。それは仕方ないことなのだが、省く。
やれやれと肩をすくめ、ディストが牢獄の中へ入る。
まったくこの私がわざわざ…とぶつくさ文句を言いながらだ。
きぃという鉄の音に気付きソレイユが入り口を見る。
「お嬢様?」
「ソレイユ、とっとと貴女アレを見せてあげなさい」
はいと言いながらソレイユはティアから手を放した。
終わったのかと先程の会話が耳に入っていないティアは瞬時に思った。
しかし半立ちになり膝上のスカートを捲し上げていた。
太ももが露出していき、下着を着用してあるはずの部位は外気にさらされることとなる。
ティアは驚く。
あるはずのないモノが存在していた。
どうして今まで気付かなかったのだろう。
天井に向かってぐっと首をもげるソレ。
「え? え?」
見たというのに理解しているのに、感情が理解できない。
何度似たようなことを経験すればよいのだろうか。
そんなティアの心を知る由もないディストが冷酷に言い放った。
いや、正しくは楽しそうにだがティアには冷酷としか言いようのない言葉だ。
「ソレイユ、ソレで…分かってるわね」
「はい」
ソレイユがティアに覆いかぶさる。
こんなの理解できた。
何度か耳年増な女友達と話したことがある。
そんなの自分にあるわけないと思い込んでいた。ティアは戦う人間だ。
いつ命を失うか分からないという覚悟の下、戦いに出ていた。
だからこんなことありえないと思っていた。
それが現実にありえようとしている。
頭が殴られたみたいにぐわんぐわんと思考が回る。
時間がとまるはずもなくソレイユのソレがあてがわれていた。
気付き悲鳴を上げようとしたと同じ頃に、粘着質な音と共に腰が進んでいる。
「ひっ、いた! 痛い!いやっ、やめ、ぅぅう」
涙目になり懇願するが聞きうけてもらえず腰は進んでいく。
零れた涙は痛みからなのか、それとも精神的ショックが原因となり零れたのか。ティア自身にも分からなかった。
先程のスライムくんとは違い痛みを与えるということは、自分が大切なモノを失ったということを否応なしに自覚させられた。
血がタラーと床石に零れ落ちていた。
キツイのかソレイユは眉を潜めながら、暴れる腕を押さえつけた。
身をよじらす以外の抵抗を封じ込められ、それでもティアは痛みを訴えやめるように懇願する。
しかし、だんだんその言葉にも別の声がいり混じり始める。
「いたっうぅん。やあぁ」
「ティア? 気持ちい?」
「そんなわけ…あぅん」
あはっとソレイユが笑い、唇を奪う。
無理やり舌を絡め捕られ唸るが、上の歯並びを舐めとられ体がビクンと跳ね唸りを止める。
少し収縮が収まり慣れたと考え、ゆっくりと腰を前後に動かしていく。
からまった血液と愛液がまた石床をぬらした。
くぐもった声と体が打ち合う音が時折聞こえた。
「あっ、うぐぅ、んあ、あっ」
「はぁぁ、あぁ、ああぅ」
荒い呼吸で顔に汗の玉がソレイユの顔にはりついていた。
確かな快感がティアの中に広がっていく。それは体内のスライムくんのせいやもしれぬが、本当にスライムくんだけのせいなのか。
誰にも分かるわけがない。
ましてティアは特にである。
ティアは己の体が快楽を受け入れたようにしか感じられなかった。
スイラムに犯されたときと同じように。
「ああっ、ティア、ティア!」
徐々に腰を打ち付けるスピードが上がっていき、二人の体の汗が飛び散っていく。
徐々にティアのくぐもった声が悦楽に変わっていく。
「はっ、ああぅ、んんぅ! いっ、ああん!」
私は何をしているのだろう。
親友は私に何をしているのだろう。
そんなのもうどうだっていい。
今、私は、とってもとっても、気持良いだから。
どこかで何かを落としたような音。
…振り返るよりも気持ち良いほうがいい。
私は暗がりに一歩足を踏み入れた。
暗がりは広がって広がって、真っ暗闇になった。
「あ、あっあっああ!
あぁあ!もっとぉ、うあん、もっともっとぉ!」
「ティア、ティアぁ」
なみだ目に懇願するティアに興奮したのかますますスピードがあがっていった。
抑えていた声を解放し頬を染め上げ手を天井へとつうきのばした。
「壊れたのかしら?」
「堕ちたってヤツじゃないのか」
「元々堕ちている夢魔にわかるの?」
「夢魔だからこそ。だぜ」
痴態にずっと興味を示さないラーマスをチラリと見てルヴィは言う。
ふぅんと言っただけで終わる。
終わったとラーマスが言い席を立った。
去り際にディストに一言言い階段を上がっていくのに気付いた頃にはルヴィもいなかった。
クスクス笑いながら痴態を楽しそうに見ながらディストは独り呟いた。
「もっと遊びなさいな。
私の新しい玩具さん」
二人の声が大きく重なり、地下室に響いた。