暗い森と紅い館を満月の光が照らす。柔らかな月の光、そして悪魔が最も活気付く満月。  
 こんな夜に外を出る人間などいない。いるとすればこの館の従者くらいだろう。  
 さて、従者は外に出て花を摘んでいた。  
 満月の夜にだけ咲く、可憐な白い小さな花と紅い薔薇。  
「あら。 ソレイユじゃない」  
 ソレイユは今メイド服ではなく、新しくあつらえた体のラインを強調した黒い衣服。たらしていた髪はアップにし色香を漂わせていた。  
「あ、朋樹さん」  
「こんばんわ。良い月夜ね」  
「はい、とても」  
「?ああ。この花はね。ご主人さまとお嬢様が好んでいる花なのよ」  
「きれいですね」  
 ええと朋樹が返事を返す。  
「そういえばティアはどうしたの?」  
 あの後ティアの居る牢獄に連れられ、その後は普通に暮らしているようにしか朋樹には見えず、意味もなくたずねただけだった。  
 ソレイユは微笑みながら自分の部屋にいるということだけを告げた。  
 
 朋樹は興味のなさそうな返事を返し、花を一つだけくれた。紅い薔薇。  
 どうやら形が悪くディストのお気に召さないだろうということで、ソレイユに渡したのだ。  
 なんでも形が悪い花や少し元気のない花は、あまり人目につかぬところに飾っているという。それだけでも部屋が華やかになるし、花の悪いところを隠すのも朋樹にはできるようだ。  
 多才、いや器用というのだろうか? なんでもこなしてしまうからメイドになっているのだろうか?  
 
 部屋にもどる途中にメイドから花瓶はどうかと聞かれるが、ソレイユは断る。  
 ソレイユの部屋は三人部屋だったものだが、日当たりも悪いため倉庫にしようかと思っていたところをもらったのだ。  
 日当たりが悪くともソレイユはかまわない。月の光があまり届かぬともソレイユには関係なかった。  
「ただいまティア。みて紅い薔薇」  
 ほらとティアに差し出す。ティアは白いネグリジェを着けたままベッドに座っている。いや、朝から晩までずっとだろうか。  
 どこかうつろなような目でティアは微笑みながら薔薇を受け取った。  
 綺麗よねと微笑み髪をすいてやる。綺麗とはどちらに言ったのか。  
 紅い薔薇が美しく咲き、それを見ていた。  
 END…?  
 

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