ザッザッと規則正しい足音が夜の森に響く。  
 後ろからジッと息を潜め幾つかの生き物がソレらを見ていた。  
 ソレらは集団であり男女入り交えており、若々しいのも入れば、年をそれなりに取ったものも居た。  
 生き物から見れば良い獲物であるにも関らず、どの生き物達も襲い掛かろうとはしなかった。  
 むしろ、早く通り過ぎてはくれまいかと願っていた。  
 
 
 
 月が出ているが不完全な月であり、雲がかかっているせいで森はますます暗く見える。  
 深い深い暗い暗い森に道はない。  
 獣が通る道、時折迷い込んだ人間の足跡すらない。  
 まったく目印が無いこの地で、集団が迷わず進む目印があった。  
 いや、目印となるのは唯一つと言ったほうが正しい。  
 目印は巨大な館の時計だった。  
 館が巨大なだけありその月時計は天に届く塔かのよう。  
 時計があることを印象付けるためだけに、あせた金色で時計を縁取っている。  
 なぜ時計塔があり、なぜ巨大な館がこんな辺境にポツリと立っているのか…。  
 そして、なぜあの館の屋根は赤色…否紅色なのだろうか?  
 一体何故、こんな危ない土地に住んでいるのだろう。  
 
 
 何も知らなければ巨大で紅という強烈な色に係わらず、当たり前のように周囲を取り込む美しさにため息を付けるだろう。  
 何も知らなければ巨大な美しい時計塔にため息をつき見上げるだろう。そして、あの時計塔で月を見ながら酒を飲めばとてもよい気分になれそうだと思う。  
 深い深い森を歩く人間たちは各々武器をもち忌々しげに館を睨みつけた。  
 
 
 あの館には悪魔たちが住んでいる…  
 この森の近くには幾つかの珍しい木々が存在していた。その木の中には悪魔の持つ毒を治療する木の実や、流行り病に効く葉、応用が利く木の根と薬となる材料の宝庫であった。  
 ある日、その薬の材料を探しに屈強な戦士と薬剤師が森に入っていった。  
 一週間たち街に帰ってきたのは屈強な戦士の一人だったものだ。  
 街の人間が一人であることに驚きかけより、そしてまた驚いた。  
 帰って来た男は震えていたが、街の人間も震えた。  
 頭髪は抜け落ち、一気に二十も三十も年をとったかのように顔は老人のようにくしゃくしゃとなっていた。服は擦り切れ、筋肉隆々だった体は細々と見る影も無い。服はボロボロ、目だけがギョロリと動きうわごとのように呟いていたという。  
 『あの森には悪魔が居た。  
 あんな悪魔がいるなんて知っていたら近寄らなかった。  
 あの館には悪魔が住んでいる』  
 と。  
 帰って来た男の話を詳しく聞こうとも飛び飛びに言葉を発し、時に狂ったように泣き喚いたという。  
 ただ、最後の言葉がごめんなさいだったという。  
 自分一人生き残ってしまったことに対する謝罪だったのだろうか?  
 それとも悪魔たちに対する謝罪だったのだろうか?  
 ハッキリしているのは『森には悪魔の館がある』ということだけだった。  
 そして、何度かギルドの人間が森に派遣されたが、帰ってくることはなかった。  
 帰らずの森とはこのことだろか。  
 ついにギルドは五十人に及ぶ腕のたつ者を集め、この森へとつかわした。  
 
 この西洋と呼ばれる地では悪魔の類を退治する組織が成立している。  
 つまり、それほどにこの西洋の地には悪魔が存在しているのだ。  
 東の地には悪魔と呼ばれる存在が居ないという。  
 それを聞き東の地に逃げようとする人間も居たが、その間の海で死ぬ。結局東の地などというのは夢でしかないのだ。ほとんどの人間は西洋の地で悪魔に怯えながらも、守られている。  
 何世紀も前に作られ、後の者たちのため知識と戦う術を教え、人を守るエクソシスト達のギルド。  
 彼らはその組織の一員であり、集団の中で一番若い戦士はソレイユという名の女戦士であった。  
 ソレイユは幼いころに両親を悪魔に殺され、以来ギルドに育てられてきた。  
 その恩を帰すべ、くどんな危険な戦いにも自ら参加し戦ってきた戦士だ。  
 今回の戦いにも自ら志願し、いつもの得物を手にしこの森を歩いていた。  
 最初は皆そこそこ陽気ではあったが森の中間地点を越え時計台が見え出した辺りから、会話も少なくなった。  
 ソレイユもまた、寝食を始める。明日には目的地に突入することもあり、みなただ体を休めようとする。  
「ソレイユ〜」  
「ティア? どうしたの」  
 弓を手にしたままティアがソレイユの元へと駆け込むようにやって来た。  
 同じギルドの一つだけ年上の姉のような存在であり、ソレイユもティアを頼っていた。否、現在も頼っている。  
 今回、互いに一番歳が近いものも隊列ではまったく別の場所となってしまった。  
 なぜなら、ソレイユはロングソードで真っ先に敵を倒しに行く前列隊。逆にティアは弓を手にしているだけあり、後列におりとりこぼした敵に止めを刺していた。  
「いや〜、なんか一人で食べるのは味気なくって」  
「後列隊にはティアだけ?」  
「ううん。  
 女の子いるけど、年齢が違うしグループができてるしで」  
 やや、うつむき加減で戸惑ったように言うティアにソレイユは納得する。  
 要は入りにくい。  
 そういうことだろうかと、ストレートに聞くと笑いながらティアは頷いた。  
 少し戸惑っているのは、言ってもよいか迷った結果だろうか。  
 一緒に食べようとティアが言い、一緒に食事の準備を始めていく。  
 とはいっても簡易食であるから、味気も無ければ手間隙もかからない。だが、やはり一人で食べる食事よりもはずっと味気のあるものだ。  
 
 客観的に言わせて貰えば、ソレイユとティアの共通点なんてほとんど無い。それは事実であった。  
 前衛で戦うソレイユ、後衛で支援するティア。  
 長身でスレンダーなソレイユに対し、ティアは小さく街娘と変わらぬ体型だ。  
 共通点もなしによく仲良くなったなと周囲は時折思っていた。  
 彼女らがしりあったのはギルドの依頼で偶然同じメンバーに入ったからだ。  
 戦いを共にすることで友情が芽生える。  
 彼女らもまた、生死のかけた戦場で戦ってきたために友情を結んだのだ。  
 
 
 軽い会話と、食事を終えるとティアは後衛へと戻っていった。  
 食事時だけなのは、夜の番があるからだろう。  
 ソレイユは昨日の晩にやったばっかりのため今日はぐっすりと眠れることになっている。  
 簡易ベッドを整え、入り込むと否応無しに曇った空が見える。  
 雲の隙間から見えた月をみて、ソレイユは  
 (明日は、十六夜だわ)  
 そう思うと、徐々に夢の中へと入っていった。  
 
 
 月明かりが暗い部屋を照らしだしている。  
 高い位置にある部屋は、地上に比べ月の光が濃くなっており、薄いブルー色を帯びた光。  
 窓はきっちりと閉じられそうな鉄で作られており、広い部屋でありながら一つしかなかった。  
 今は、その鉄の扉は開けられているが、閉じれば一度暗闇に部屋は覆われることは、子供にも予測できるだろう。  
 部屋に置かれた天蓋付きのベッドは、大の大人が三人ほど十分に寝ることが可能なほど大きい。  
 ベッドのふくらんだシーツがもぞもぞと動きはじめる。  
 シーツを少しずれると、少し茶色がかかったような金髪があらわれる。  
 一切の衣服を身につけておらず白い肌が月に直に当たる。  
 その耳は尖り、見えた背中からは黒い翼が生えている。  
 目を擦りながら除々に顔を上げていくと、紅い瞳がドアを凝視した。  
「んっ……  
 ぁ〜、朋樹?」  
 欠伸とともに長い牙が見える。犬歯というには長すぎる牙だ。  
 一呼吸置きノック音が室内にきわたる。  
 寝ぼけ声で返事をするとドアが開く。  
「失礼いたします」  
 うやうやしく紺色で作られたロングスカートタイプメイド服を着た少女が一礼する。胸元の紅いリボンがその容姿に映える。  
 裸体の主人に特に気を示さずカートを引きながら入ってくる。  
 カートの上には紅茶のポッドとティーカップが一式置かれており、下段には白いタオルが篭の中に入っていた。  
 あまりにも普段と変わらぬ少女にボソリと主は呟いた。  
「お前も年ごろなんだから…男の体みて無反応はやめとけよな」  
 数秒止まり、考えるように天井を見上げ、視線を戻すと笑いながら少女は口を開いた。  
 その笑みがとても綺麗だったため、ダメージも大きかった…ように見える。  
「…着痩せしますね。ご主人様は」  
「いやいや、そういうのじゃなくって」  
 解らないのか小首をかしげる。  
 あきらめ、ティーポッドにお湯を入れていくのを眺める。  
 この少年はテッド・ルツ・トルデキム。  
 紛れもない吸血鬼であり、本来なら館の当主である。ちなみに本当に着痩せするタイプであり、普段は細く見られがちだが、実際それなり筋肉だってある。間違っても女性じゃない。  
 あまり細い細い男性に言うものではないという考えは、このメイドには備わっていないことを知り、少しテッドはショックを受ける。  
 
 
 メイドは、夢弦朋樹。この地では知られぬが、東の国の名前を持っている。  
 悪魔の類か魔法生物しか居らぬ、この館で唯一の人間である。人間でありながら、悪魔の館の従者長の職務に就いている、極めて異質な存在。  
 朋樹は慣れた手つきで血液いり紅茶を入れていく。  
 何故紅茶に血液を入れるのか?と思うだろうが、この主は紅茶を一日に何度も飲む。  
 そして血液も何度も呑む上自身が吸血鬼のため、一緒に飲んだらおいしいかなと思い試したらおいしかった。それ以来紅茶に血液入りが当たり前になっているのである。  
 
 
 
 ほほ笑みながら紅茶を手渡された。ニオイを嗅ぎながら従者をじっと見上げる。  
 その姿からは吸血鬼とも、青年を迎えようとする歳で止まったようには見えない、幼さの残った顔つき。  
 当たり前のように朋樹は紅茶の種類をすらすらと口に出していく。  
「アッサムとセイロンのブレンドティー。  
 入れた血液はO型RH+の非処女でございます」  
 ちなみにテッドはAB型RH-だったら非処女は問わない。  
 だが元々珍しいAB型。更にRH−もまた少ない。  
 AB型RH−は特別希少価値がある血液だ。滅多に呑むことが無いため、出来うる限り非処女の血を探すことが多かった。  
 吸血鬼の血を探すといえば、夜な夜な少女を襲い、少女の血を干からびるまで飲むイメージが高いだろう。  
 確かに、ほとんどの吸血鬼はそのようにして喉を潤している。  
 しかし元来、吸血鬼はそんなに血を飲まなくても大丈夫なのだ。  
 吸血行為は食事の意味合いよりも、快楽行為の方が大きい。  
 ほとんどの吸血鬼は快楽のために吸血しているといっても過言ではない。  
 テッドや、妹達には単純な食事でしかない。快楽行為のための吸血は一月に一度あるかないかというくらいだ。  
 しかし、エクソシスト達からしてみれば吸血されただけで吸血鬼化するだの、見つけたら即殺せだの…。  
 
 
 物騒なこと極まりない。  
 長い間食事をしなければ逆に吸血衝動で暴れるだろうし…。  
 と、現在の従者長が来るまで問題は山積みであった。  
 なぜなら、一度街に出ればエクソシスト連中に教われるだろう。人間は集団で行動すると強いというのが館に住む悪魔の見解である。  
 従者長朋樹以外は全員悪魔であり、街の周りには悪魔かどうか見極めるための魔方陣が敷いている場所もある。  
 それに比べ、朋樹は完全に人間であるし、見た目はかよわい(テッドいわく凶暴極まりないらしい)女の子だ。  
 普通に街に入ることが出来るし、同性相手なら道を聞くふりをするのも簡単である。  
 おかげで最近では危険を侵すことなく血液だけを採ってくることが可能となっている。  
 たまに手に入る人間は森の外を歩いている人間だったり、街から帰る朋樹がさらったり、館に入ろうとしたエクソシストくらいだ。  
 
 
 
 真っ黒な長い髪、自分とは対となるような蒼い瞳。生活が日光を嫌う吸血鬼たる自分と同じ生活をするためか白い肌。  
 衣服の上からでも十分にわかる二つの膨らみと細い体つきはややアンバランスさを作り出していた。  
「如何なされました?」  
「いや、単純に大きくなったなぁ。って」  
 くすくす笑いながら言うテッドに対して、朋樹はきょとんとし暫くしてから応えた。  
「そんなに育ちましたでしょうか?」  
 今度は先ほどより大きめに笑い、頷きながら、少し前の時間を思い出した。  
 最初に彼女を見たとき、どうすればここまでと思うほど肉がまったく存在しなかった。身長もちみっこく、人垣に埋もれてしまえば探せないと思うほどに。  
「あまり寸法変わっていないのですが…」  
「はぁ?」  
「…だから身長でしょう?」  
「いや。長い目で見て大きくなったな〜と。  
 色々と」  
 
 すると、朋樹が苦笑いをしながらおでこを押さえ、目を半開きにしながら言う。  
 その表情がすごいサディスティックと思うのは自分だけだろうか? と時折テッドは真剣に悩む。  
「ああ、こういうところに違いを感じますね〜。  
 色々ってなんですか?」  
「お前もこういう暮らし長いんだから慣れろよ」  
「無理ですよ。  
 私はどこにでもいるかよわい人間なんですから。  
 人間に吸血鬼…悪魔のような暮らしに慣れろといっても無理だろう。  
 第一寿命からして全く違うのだ。百年も生きたらいいほうの人間の朋樹。すでに千五百は生きてるテッド。  
 無茶にもほどがある。  
 かよわいという単語に反応しテッドが笑った。  
「どこにでもいないくらい、人間とは思えぬくらい、凶暴極まりない人間の間違いじゃないのか?」  
 言葉をゆっくりと区切りながらテッドは朋樹に問いかける。  
 怒りもせず笑いながら、朋樹は反論する。心外という形容詞を当てはめ、言うべき言葉に心外などみじんもない。  
「女性にそれはないですわ」  
「事実は言わなきゃならないときがあるって、エライ人が言ってたらしいぞ」  
「そんなの無視です」  
「切り裂きジャックと言われんだから、認めなさい」  
「それは世間の風潮ですわ。  
 ジャックと名乗った覚えはゼロです」  
 やや物騒で言葉遊びのような会話を笑いながら進めていく。  
 すぐに、紅茶が無くなりおかわりを要求する。  
 起きてすぐなのに珍しいと思いながら、朋樹はティーカップを受け取りポッドから紅茶を入れていく。  
「今日は随分ご機嫌がよろしいようで」  
「ちょっと言葉おかしくないか」  
「そうですか?」  
 うんと返事を返しながら、差し出されたティーカップを受け取り口に運ぶ。  
「んっ…機嫌がよろしいようなのは、もうすぐ良いことが起こるからだよ」  
「はあ、左様で」  
 良いことといっても、思いつくことは何もなく気の抜けた返事を朋樹は返し  
 
 クスクス笑い始める主人に一瞬戸惑ったが、よく考えればいつものことのような気もするので、クローゼットを開く。  
 いい加減裸体では問題があるだろう。  
「お召し物はいかがなさいます?  
 一通りそろっておりますが…」  
 ピシッという薄く張った氷を割ったような音が、朋樹の脳内では響き渡っていた。  
 一度深呼吸をしても変わりなくあった。  
 ベッドに座ったまま手だけを広げている主人の姿があった。  
 その手は自分に向かっており、ニコニコと楽しそうにしている。  
「なにしてやが…  
 いかがなさいました?」  
 一瞬出てしまった本性を抑え、冷静を努める。  
 だが、噴出しつつある汗は止まることをしらない。  
 ついでに、そんな従者の思い知らず主人はマイペースに質問を質問でかえす。  
「なんに見える?」  
「…おお、友よ我が胸に!  
 というように見えますわ」  
 どこか芝居の掛かったセリフを苦笑しつつ朋樹は言う。  
 テッドはつられるように苦笑し、何の小説だか聞いた。しかし、タイトルは教えてくれなかった。  
 実在しない、適当に出てきた言葉かもしれないしよく聞くようなセリフ。  
「で?  
 なにをなさっているんですか?」  
 悪魔にも熱があるのだろうかと思いつつ、主人のそばへ寄り一応頭を触る。  
 熱はないなら、頭が本当におかしくなったのかと非常に失礼なことを考え始めた時だった。  
「ハグ」  
「あ?」  
 本性が出ているのも気にせず朋樹は問うように声を出す。  
「ハグハグ」  
 パタパタと腕を降りつつ言う主に対し、冷静さを取り戻したのか普段の口調で朋樹は拒否する。  
「やですよ〜。  
 いいとししてみっともない」  
 
「ぶーぶー、いいじゃん」  
 と言いつつテッドは朋樹の首に手をかけた。  
 かけた手に力を少しいれ自分の方へとすこし引っ張った。  
 悲鳴を上げるわけでもなく、不適に微笑んだまま朋樹は見上げる形なった。  
 黒い髪が白いシーツに舞うのはなんとも扇情的だと、毎回テッドは思わずに居られなかった。  
「人に見られたどうするおつもりで」  
 どこか自虐的な笑いを朋樹は言う。  
 これで何度目だろうか、本人たちですら覚えていないのだから、誰にもわかるわけがない。  
「今更なこといつも言うよな〜」  
「今更でしょうか?」  
 返事を返し、口付けする。  
 どちらともなく、舌を出し絡め合う。  
 互いの唾液を飲むように飲ますように、絡めて行く。  
 徐々に粘液質な音が立ち始める。静かな空間に響き渡っていく音は、心なしか大きく聞こえるような錯覚に囚われていく。  
 一度口を外し膝の上に朋樹を座りなおさせる。  
 もう一度口を合わせていく。  
 興奮してきたのか、朋樹の白い肌が徐々に紅潮していく。  
 行為に及ぶときはいつも足首まで隠す長いスカートが邪魔なため衣服を脱がさなくてはならなかった。  
 しゅるりと音をたてながら、メイド服のエプロンを外していく。  
 
「そういえば、なんでいっつもロングなの」  
「んっ、メイド長だから…だと思う」  
 そんな会話を以前したが、やはり行為を考えると短いほうがいろいろとしやすい。  
 ただ、立場上無理だと絶対拒否された日はちょっと枕を濡らした記憶もある。  
 
 細腰をなで上げるように上へと手をあげていく。  
 時折身体を震わして小さく声を出していくのを、可愛いと思う辺りに何故か敗北感をテッドは覚えた。  
「っ…ん  
 はっ」  
 
 胸のほうへと手をやり片方の手で器用にボタンを外しながら、柔らかく大きな胸を堪能する。  
「…いや、色々と大きくなって」  
「あっ。  
 それ?」  
 手を止め、遠くを見るような目で朋樹を見ながらテッドは言う。  
 昔は本当にガリガリという形容詞しか思いつかぬほど、身体に肉がなかった。  
 かろうじて現在の身体を維持するので精一杯といわんばかりだったのだ。  
 館で暮らしはじめ、きちんとした食事を取りはじめ、ようやく歳相応の体つきになったのがつい最近。  
「…まぁ、まともな食事をしだしたのって記憶にも新しいから」  
「まぁ、やましい気持ちはあまりないってことで」  
 あまり? というヒマもなく行為が再開されていく。  
 ワンピースのようになっているメイド服がずるずると脱がされていった。  
 ガーターベルトで一部隠されているが、足と太もものすべすべした感触が気持ちいい。  
 首筋に吸い付くと気持ちよさそうに頭をあずけられる。  
 ふ、と見えた可愛らしいレース付の下着を見ると、シャツの上から透けて見える下着と同色であった。  
 黒で少ないが可愛らしいレースとポイントブーケ。  
 黒ってなんだかいやらしいなぁ。なんて考えていると朋樹が見透かしたような目で唇を尖らした。  
「ほんとっ、は、黒っていや」  
「なんで?似合ってるのに」  
「黒って…んっ  
 いやらしいし、かわ…っ…いの…ない、んあっ」  
 さわさわと胸をなであげていくと、だんだんと言葉が途切れていった。  
 シャツの上のボタンを一つ二つと開け途中で止まった。  
 全部脱がして裸体にするのも面倒でシャツに手を忍び込ませ、下着越しに胸を上から撫ぜるように何度も往復する。  
 徐々に余裕のなくなってく少女とは対照的に吸血鬼は笑う。  
「…いや、可愛いと思うんだけどなぁ」  
「あっ。  
 スケスケだとか…んんっ。おばちゃ、くさいのとか、ばっかで…下着と合わせること、ン、考えたらよけいに…」  
 あえぎ声に混じり答えた内容に素直に感心を示した。  
 別に下着が上が白でショーツが黒でもかまわないような気がする。  
 
 それは男性ならあまり気にかけないものではあるが、年頃の少女からすれば充分木に掛かることなのだ。  
「へー」  
「へーって…  
 あのね。女の子はね、可愛く見られたいの。わかります?」  
 腕を思いっきり捕まれ行為を中断させられる。が、実際吸血鬼と人間では基本的な基礎体力が違うので無理矢理に行為を続けようと思えば続けられる。しかし、テッドの目的は、陵辱ではないのだ。それ以上に感心を示さずにいたらいたで少女が激怒しそうなのもあった。  
 しかし、どうやっても女性心理を理解しろというのは難しいものだ。  
 どんな女性の扱いに手慣れた男であろうと、わからぬ部分はある。  
 わからないという前に表情から言いたいことを悟ったのか、朋樹はやや荒い口調で説明した。  
「男にだって…いや、悪魔だから男というの?まぁ、ええわ。  
 とにかく!好きな相手にほど、良い印象を与えたい〜っていう気持ち。わかりませんか?」  
 
 な〜る、と呑気な声を上げ納得する吸血鬼に思わず少女は頭を抱え込んだ。  
 そういえば、自分は何でこんなのを好き…いやいや、愛したんだっけ?  
 いや、元々を考え直せばまず、自分がここに居るということ自体…  
 いや、その元々以前に吸血鬼と人間なんて捕食者と捕食される側じゃないか。例えて言うなら鳥とミミズ…私はミミズじゃない。  
 
 混乱しつつある朋樹のことなど気にしていないような、呑気に少しだけイタズラを混ぜた声色でテッドは朋樹をゆする。  
「ねぇねぇ」  
「なんですか」  
「それでいくと、オレって朋樹の好きな相手?」  
 一瞬とはいえ確実に目が丸くなり、四肢が凍りつき、脳への情報全てが途絶えた。  
 すぐさま、回復したものも冷静を装うには時間がいささか足りないようでミエミエの態度ではぐらかそうとする。  
 言った覚えがないと、まるで何かの聞き間違いじゃないのか?といわんばかりだ。  
 このような状況でなく、ミエミエの態度でなければ、あるいはテッドは聞き間違えたのかもしれないと納得したかもしれないが…。  
「いや、言ってるって〜。  
 朋樹が好きっていってくれるの、久しぶりだな〜」  
「あ? やめろ、ばっか!  
 抱きつくな! あ〜、頭撫でるな!」  
 幼い子にするように頭を撫でられるのが、よほど嫌なのかじたばたと暴れる。  
 
 しかし、所詮は人間の腕力であり、悪魔に適うはずも無く、すっぽりと腕におさめられたままである。  
 顔を真っ赤にしてまで、否定する姿はむしろ肯定の意に見える。  
 クスクス笑いながら、謝る。  
 説得力の無い行為だが、いつもと同じようなことなので仕方なしにというように許される。  
 また、シャツの中へと手を滑り込ませていく。しかし、次は少し上の下着をずらして、胸に力を入れていく。  
 ほんの少しだけ硬く押し返すような弾力と張り、そして少しだけ触れた突起は思った以上に硬くなっていた。  
 そんなに激しく愛撫を行っていないので、まだ柔らかいかと思っていのだ。  
 そのためか、ゆっくりと弱い力で行う愛撫がもどかしいのか、朋樹は少しずつだが身体をよじらせた。  
「ふああぁ…ぅぅ。  
 ぅああん」  
 声を抑えようとするが、快楽には逆らえず甘い声が耳に届いていく。  
 それに合わせるように愛撫が激しくなる。  
 くるくる、胸の突起を転がすと、大きく喘ぎ、顔を赤らめ目をうるます。  
 小さく声を上げたのは、期待からか羞恥からか…。  
 力を強めギュッと胸の頂を弾き、片方の手を抜く。  
 そのまま体を撫でながら、太ももまで手を進めた。  
 女性の中心部を隠すショーツに指を沿わす。  
 すこし湿ったショーツごしに外郭を円のをなぞるように触れていく。  
「ああ。  
 ふぅ…ぅぅん」  
「朋樹、気持ちい?」  
「んああ、あ。  
 あう、あ、うん」  
 コクリコクリと頷きながら、肯定する。  
 素直な反応に気分をよくし、愛撫を激しくする。  
 中心たる部分の上をぐっと潰すようにこねる。  
「ひぁ!やぁああああああ!」  
 唐突すぎたのか驚き、ビクリする。  
 ショーツ手をかけながら、体中にキスを落としていく。  
 額、うなじ、頬、腕、手、指…。  
 
 届く部分であれば、全てに落としていった。  
 直に触れた女性の中心部に指を這わせていく。  
「あっ、は  
 〜〜〜っあ!」  
 軽く達したのか、朋樹はがくりとうなだれた。  
 少し腰を上げ、自身をはわしていく。  
 にちょ、にちゃ。  
 こするように動くと、粘液質の音が立ち、充分に潤っていることを教える。  
 こすりあげるたびに、ふるふると身体が震わせ嬌声をあげた。  
 ゆっくりと身体を進めると、まとわりつくように締め上げられ、思わず腰を一気に進める。  
「あ、あはあああああああ!!」  
 挿入れられた感覚に大きく鳴く少女をぎゅっと抱きしめる。  
 柔らかな感触と髪の毛のふわりとした匂いに興奮していく。  
 知らず知らずにテッドは笑う。  
 どこか、イタズラめいて、それでいて、どこかがおかしい…いや、狂ったような、紅い瞳。  
 異物に対して収縮する秘部が徐々に落ち着いてきたのか、柔らかなものに変わっていく。  
 そろそろかと頃合を見はかると太ももを持ち上げた。大きくM字型のように開かれる下半身に朋樹はいやいやと首をふるが、あっさりと無視されていた。  
「いやぁ。いやいやいや…  
 それいやぁ」  
「んっ、無茶、言うなって。  
 こうでもしないと、オレ…動けないもん」  
「ふぁぁぁ、そ、そんな…あっ  
 うぁあん。うぅ」  
 この体勢で男が動くのはつらいものである。支えがなければ動きづらいのだから、仕方ない。とはいえ少女にとっては見える位置でなくとも普段みられぬ部位を大きく広げられるのは、あまりにも恥ずかしかった。  
「ああ!あ、やだ…ふぅうぅん。ひぅ!  
 やっ、いやぁ」  
 広がる快感に抗おうとはしないが、体勢だけはどうあってもいやらしい。  
「この、っ!ひああ!?  
 かっこ、やだって…ばぁ。  
 あああ!あッあああ!!」  
 
 いやと叫ぶ姿や艶っぽく、余計に体勢を変えたくなくなっていく。  
 突き上げるたびに、胸がゆれ、髪が舞い、嬌声が大きく響いていく。  
 少し手を伸ばし花芯を撫ぜると、走るような快楽が朋樹の身体を駆け巡ってく。  
 女性の一番、最も弱い部分。  
 そして、体内をこすられる感覚に、意識がかすむような快楽が襲ってくる。  
「ん、くちゅ、ああ、てっどぉ」  
 短い間だが舌をからませ、恍惚とした表情で見上げられる。  
 それが非常に可愛らしく、愛しくなって、深く強く腰を打ちつける。  
「んあ!?  
 ああ!!あぁぁぁぁぁ!っう、きもち!  
 ああうぅぅうううう!」  
 限界が近付いているのか、言葉にならない悦楽の声をあげて、首を振るう。  
 自身もそろそろ我慢の限界を迎えようとしていた。  
「あうぅ、ひん!  
 あ、くぅぅぅううんん!!」  
「んっ…」  
 最後に深く深く最奥へと届かんとばかりに、打ちつけ同時に花芯をぎゅっと擦りながらつまんだ。  
 白濁とした液が大量に体内へと入り込んでいくのを感じながら、朋樹はうなだれる。  
 腰を高く持ち上げると、ドロリと白濁した液が流れ落ちる。  
 人間の男にはありえない量である白濁液は、太ももをつたいガーターベルトを汚していった。  
   
   
   
 膝に乗せた朋樹は、こてんと寝るように倒れる。  
 やりすぎた?という心配という感情はまったくない。むしろ今宵なんて思いっきり優しいほうだ。  
 奪いたい気持ち、好きなようにしたい気持ち…支配欲が他の生物に比べ格段と高い生き物が吸血鬼なのだから。  
 やっぱり優しいほうだ。  
 それでも、受ける側からすればたまったもんではないのだが…。  
 むくりと起き上がり、気だるそうに目を開け乱れた髪を手で整えていく。  
「あの。朋樹さん、わたくしなにかいたしましたでしょうか」  
 そんな中突然むすりと朋樹の表情が機嫌の悪そうなものになっていたのだ。  
 先ほどの吸血鬼らしいというか、攻め立てていたときの瞳と表所はどこへやら?  
 
 
 なぜ、ここまでテッドが怯えているか。  
 朋樹は『どこにでもいないくらい、人間とは思えぬくらい、凶暴極まりない人間』なのだ。  
 吸血鬼という種族上不老かつほぼ不死。それを利用するかのように、怒ればナイフ(純銀製)切りかかってくるわ、トラップをしかけるわ…。  
 とにかく凶暴極まりない部分が夢弦朋樹という少女にはある。  
 こういうときは出来る限り刺激しない、早めに謝るをテッドは心がけ、被害を最小限におさめようとしている。  
「…中出した」  
「あ?  
 あ〜。ハイ」  
「…」  
「…」  
 このまま、沈黙になるのだろうかと思い始めた頃に朋樹が口を開いた。  
「…前するなって言った」  
「…ハイ、おっしゃるとおりで」  
「いや、この前の前も」  
「そうでしたっけ…」  
 失言。  
   
   
 空気がひんやりとしだしてくる。  
 もちろん暗くて涼しいこの部屋が更に冷たくなるなんてこと有得ない。  
 だが、心理というのは複雑だ。  
 思えばそうなる、それは身体すら反応させる。  
 人間も悪魔もその辺りは皆同じなのだ。  
   
   
 ヒュン。  
 カッ  
 壁にはナイフが一本深々と突き刺さっている。  
 どこからともなくナイフを取り出し…いや、落ちたメイド服をあさるとナイフが大量に出てきたのだ。  
 一体どうやって隠しているのだろうか。  
 続いて朋樹は二本目・三本目・四本目と投げていく。  
 すれすれでかわして行くエモノに腹を立て、ついには両手を使い出し計八本のナイフを投げる。  
 どれもバラバラの軌道であるソレをかわしていく。  
 はらいのけたほうが楽なのだが、あいにくとそのナイフは純銀製。  
 吸血鬼は流水・日光・純銀にとても弱い。ついでに家具をあまり壊したくない。  
 そして相手は夢弦朋樹もとい切り裂き魔にしてトラップ好き。  
 絶対何か仕掛けてある。  
 と、考えていたら姿勢を低くして襲い掛かってきた朋樹は片手のナイフ全てを頭に投手していた。  
「死にさらせや!!」  
 最後に聞いたのは怒声だった。  
 
 テッドがおきたのは二時間たってからのことである。  
 いつの間にか服を着ていたが、何も考えず、とりあえず妹達に会いに行こうと扉を開けて出て行った。  
 

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