リュウ&キャスリー編へ戻る  
ポール編へ戻る  
リック&レイナ編へ戻る  
 
「これ…は?」 
「何、昔俺が旅をしていた時に見つけた物だ。俺はもう使うことはない。持っていけ」  
昼、食事のために起きだしたリュウに、宿屋の主人がカードを手渡す。  
そのカードには見たこともない怪物が描かれている。  
 
「何でも、己の命が危うくなったとき、一度だけ持ち主の身を守ってくれるらしい。  
まあ、本当かどうかは使ったことがないから知らないがな。それでもお守り代わりには 
なるだろうよ」  
肩をすくめながら言葉を続ける主人。  
 
「でも…何故、これを僕に?」 
「ああ。同郷のよしみと、その絵柄の怪物の名は龍、お前さんと同じ名前だから、さ」  
主人の言葉にリュウは、自分の名前と同じ怪物、龍の絵柄をじっと見つめていた。  
 
「うわぁぁぁ!! ば、化け物!!」  
と、突然の声に思わずリュウとキャスリーは振り返った。  
そこには震えながら尻餅をつき、一人の女性を指差す男がいた。  
指を指された女性は、訳が分からずにきょとんとしている。  
 
「ど、どうしたというのですか、一体?」  
一番近くの場所に座っていたキャスリーが、男の手を取って問いかける。  
男はまだ幼さをどこかに残している、少年と言っても差しさわりが無かった。  
 
「失礼なヤツだな。顔を見た途端に化け物なんてよ。何だって言うんだ?」 
「ま、まあ落ち着いてくださいよ」  
指を指された女性の連れの男性が、少年に詰め寄る。リュウはカードをしまいながら、男 
を押しとどめた。  
憮然とした表情で男は自分の席に座りなおす。  
 
「だ…だって…だって……」 
「さ、あなたも落ち着いて。…すみません、何か温かい飲み物、ありますか?」  
キャスリーに勧められ、椅子に座った少年はガクガク震えたまま、女性の方を見ようとも 
しない。  
そんな少年の肩を優しく抱きながら、給仕娘に話しかけるキャスリーだった。  
 
「さ、これを飲んで」 
「あ……ありがとうございます」  
給仕娘が運んできた温めたミルクを両手で受け取り、そのままゆっくりと飲み干す少年。  
すべてを飲み干し、コップをテーブルに置き、ふう、と少年は息をついた。周りの全員が 
少年をじっと見つめている。  
 
「あ…どうも…ご迷惑、お掛けしました……」 
「ご迷惑、と言うのなら、何故あんな悲鳴をあげ出したのか説明してもらわんとな」  
ぺこりと一礼する少年に、腕組みした男が話しかける。少年は恐縮してさらに視線を落と 
してしまう。  
 
「リック…そんな尋問するようにしても仕方がないでしょう」 
「しかし、レイナ…」  
最初に指を指された女性がそっと男をたしなめる。  
リックと呼ばれた男は不満げな表情をするが、溜め息をつきながら足を組みなおす。  
 
「すみません。私、あなたにお会いしたのは初めてなのですが、何があったのか、差し支 
えなければお話し願えませんか?」  
「その…それが…えっと……」  
リックに、レイナと呼ばれていた女性は優しく少年に語り掛ける。少年はビクンと体を強 
張らせ、何事かつぶやこうとしていた。  
 
「あ〜あ〜。ここでああでもない、こうでもないとしてたら店が辛気臭くなって堪らん。  
部屋を貸すから、そこでゆっくり話し合うってのはどうだ?」  
「あ…申し訳ありません。丁度、今日はこちらに泊まらせて頂こうと思ってましたし、そ 
うさせて頂きます」  
手を振りながら割って入る酒場の親父に、レイナはそう返事をした。  
 
 
「えっと…その、すみませんでした。いきなり化け物呼ばわりしてしまって…」  
部屋に入り、テーブルを囲む男女。  
全員の視線が少年に集まる中、少年がレイナに向かって詫びの言葉を述べ、頭を下げた。  
 
「実は…あなたと同じ顔を…ある場所で見掛けまして……」  
 
少年は途切れ途切れに語りだす。自分がある国の諜報専門の組織に属していること、  
ある都市の、魔法学院の最深部の禁忌の部屋にて、怪しい実験が行なわれているらしいこ 
と、  
そこに兄貴分の男と共に忍び込むが、あえなく捕まってしまい、兄貴分が殺されてしまっ 
たこと、  
兄貴分を殺した相手は、普段は美しい女性の姿をしているが、下半身が蛇になることもあ 
り、  
殺害方法はそのまま食べてしまったこと、――その顔は、レイナそっくりだったというこ 
と――を  
 
リュウとキャスリーは何も言えずに固まっている。リックとレイナは顔を見合わせ、頷き 
あっている。  
特に、魔法学院の名前が出てきたときの、レイナの動揺ぶりは尋常ではなかった。  
 
「えっと…。何だかあなたたちも、心当たりがありそうに見受けられるのですが、何かあ 
ったのですか?」  
リュウが、リックとレイナに話しかける。二人はしばらく逡巡していたが、  
やがてレイナが覚悟を決めたように顔をあげ、静かに語りだした。  
 
レイナ自身が魔法学院の出身であるということ、実験に利用される可能性があるために、 
二人で逃げ出したことを。  
 
――真実は一部違うがな。リックは口に出さずに心の中でつぶやいた。  
レイナが、いにしえの時代の魔道士であり、研究材料そのものであったこと、  
魔道の力を得るために、擬似生命体・ホムンクルスと交わる必要があること、  
そして、自分自身が人間を元に作られたホムンクルスだったいうことを。  
いやいや、今更自分が何者か、何て考える気はない。俺はレイナを愛しているんだ。それ 
が、オレの信じる道なんだ。  
 
それにしても……この二人組…信用できるのか?  
リックは頭を振り払いながら、現実の世界――冒険者としての思考に戻り、リュウとキャ 
スリーを見るとは無しに見ていた。  
確かに、害意は無さそうに見える。だが、悪人が最初から悪人ですという顔をするはずが 
ない。  
さらに怪しいのは、キャスリーだった。彼女の肌の色は人よりも浅黒く、部屋の中だとい 
うのにフードを被ったままだからだ。  
まさか、彼女が噂のダークエルフなのか? リックの頭の中に不安が影を落とす。  
だが、さっき自分が感じた”悪人が最初から悪人ですという顔をするはずがない”という 
考えとの矛盾に気がつき、苦笑いしながら再び首を振った。  
まあいい、今そんなことを考えても始まらない。何かあってから考えればいいんだ。そう 
思いなおして。  
 
「リックさん」 
「あ…ああ」 
「どうしたんですか? ぼうっとしちゃって」 
「いや……。な、何でもない」  
レイナに話しかけられ、現実に引き戻されるリック。  
ま、いずれにしろ、彼らに正体を晒すこともあるまい。そう考えながら多少慌てたふうに 
返事をしていた。  
 
「それで…あなた、お名前は何ていうのですか?」 
「は、はい……ポールって言います」  
レイナの問いかけに少年――ポールは答えた。もう、その目にレイナに対する怯えの色は 
消えている。  
 
「リックさん…。あの…」 
「ああ、皆まで言うな。分かってるさ」  
ひと安心したレイナはふうと溜め息をつき、リックに何事か問いかけようとするが、  
リックはレイナの言葉を途中で遮って頷いていた。  
 
「ポール…。私たち、そこへ行きたいの。案内…できる?」 
「え!? で…でも……それは…」  
レイナが真正面からポールを見据えて語りかける。ポールは心底驚いた顔を見せ、逡巡し 
顔を曇らせる。  
 
「ま、オマエがそこに戻りたくない気持ちはよく分かるから、あえて無理強いはしないさ。  
できる限りの情報が欲しいだけだ。例えばそこまで上手く潜り込むルートとか、な」  
 
「えっと…。戻りたくない、ってことは無いんです。ただ、その潜り込むルートが問題な 
んですよ。  
魔道を研究しているだけあって、警固もまた魔法を使用しています。  
一箇所だけ、警固が甘い箇所があると情報を仕入れて、そこから侵入したんだけれど…  
待ち伏せにあって、あっさり捕まってしまったんです…」  
 
リックの問いかけに、首を振りながら答えるポール。そこまで答え、当時を思い出したの 
か身震いしている。  
 
「う〜ん。侵入者を捕まえるのに一番効率のいい罠ですね。  
下手に全ての警固を強固にしてしまうと、逆にどこから侵入されるか分からなくなります 
から。  
でも、それでも侵入なさるわけですよね?」  
感心したようにリュウが頷いて、レイナたちに問いかけた。それにレイナたちは無言で頷 
いている。  
 
「…ただ、ポールくん達と同じ方法で入り込むのは無理だし、危険ですよね。  
かと言って、堂々と侵入するわけにはいかないでしょうし……」  
 
「ちょ、ちょっと待て。まさかあんたらも来る、とか言い出すんじゃないだろうな?」  
天井を見上げながらつぶやいているキャスリーを見て、リックが慌てて話しかけてきた。  
 
「まさかも何も無いですよ。正直言って危険すぎるから、あなた方を止めたいのですが、  
言っても聞かないでしょうから、だったらお手伝いした方がいいかな、と思っただけですよ」  
如何にも当然と言う顔でリュウが答える。その顔には確固とした意思の光が見える。  
 
「ま、命知らず、って点はお互いさまだから、人のことは言えないやな。  
気に入ったよ。遅くなったが、オレの名はリック。よろしくな」  
 
「いえ…こちらこそ遅くなりました。僕の名はリュウです。よろしくお願いいたします」  
苦笑いしながらリックがリュウに向かって腕を伸ばし、リュウもまた笑顔で拳を握り返した。  
 
 
「でも…これから、どうしましょうか?」  
挨拶を終え、席に改めて座りなおしながらレイナが言う。その顔は戸惑いの表情が浮かんでいる。  
そう、リュウやキャスリーを信用すると言っても、それで情報が増えたわけではない、のだから。  
 
「そうですね…。とりあえず、失敗した方法を検討し直すのはいい方法です。  
学院の間取りと、ポールさんの侵入経路を再確認するというのはどうでしょうか?」  
リュウの提案に一同が賛成しかけるが、ポールが渋い顔をする。  
 
「えっと……さっきも言ったように、思い出したくない、とかってことは無いんですが、  
今の状態で、正確な間取りとかを確認できるわけではありませんよね?  
そんな中途半端な情報で作戦を練ったとしても、失敗に終わってしまうのが関の山ですよ。  
だったらいっそのこと、都市に潜り込んで情報を集めてから対策を練る方が効率的です」  
 
「そうか……じゃあ、今日の所は顔合わせってことで宴会でいいな?」  
「もうっ、リックさん!」  
ポールの提案を受け、リックが発言して席を立つ。すでに体は扉を開け、酒場に向かおうとしている。  
そんなリックの言動に一堂大笑いしていたが、レイナだけが頬をぷくっと膨らませる。  
だが彼女もまた本気では怒ってないようで、リックを追うように席を立っていた。  
 
 
それから数週間後、一同は魔法学院のある都市、シグナに辿り着いていた。  
すっかり打ち解けあった一同は、今はとある宿屋の一室で、  
ポールが入手した学院の間取り図と、シグナの地図を見て相談している。  
 
「…で、ボク達が侵入した経路ってのが、ここをこう通って、こう通っていったんです。  
……そして捕まったのが、この場所ですね」  
一瞬、ポールの顔が暗くなる。やはり、彼の心の中に影を落としている出来事であるには違いないのだ 
ろう。  
だがすぐに、冷静な顔に戻っていた。  
 
「なるほど…。で、魔法を使用した警固ってのはどういうものなんだ? さっぱり分からん」  
リックが肩をすくめながら問いかける。  
 
「何て言えばいいのかな…? 鳴子みたいに侵入者がそこにいる、って感知するものと、  
侵入者の身動きを取れなくさせるものとの2種類があるらしいです」  
こめかみに人差し指を立てながら、ポールが説明する。  
2種類目は身をもって体験したんだけれどね。と、心の中で付け足すのを忘れずに。  
 
「”侵入検知”と”魔力の縄”…か。それなら…元から無理矢理にも解除することが一番……ね」  
レイナはそうつぶやきながら、布キレを取り出し、それをナイフで細かく切り裂く。  
一同の視線がレイナに集まるが、レイナは意に介するわけでもなく、淡々と小皿に切り裂いた布キレを 
重ねる。  
 
「そ、それが出来れば誰も苦労を………あっ」  
事も無げに言い出したレイナに、意見しようとするポールが思わず声をあげる。  
レイナは自らのてのひらに、ナイフを突き立てたからだ。  
真っ白い透き通るような肌から真っ赤な血が滴り、みるみるうちに下に置いた小皿に入った布キレを赤 
く染め上げていく。  
 
「な、何をしているのですか…?」  
思わずキャスリーが立ち上がり、レイナのそばに駆け寄る。だが、レイナは片方の手をあげてキャスリ 
ーの動きを制した。  
 
「結界をつくることにより、その中で魔法を一切利用できなくさせるのです。多分、今では失われた秘 
術扱い、でしょうが」  
顔をしかめながらレイナがつぶやいている。一同は何も言えずにひたすらレイナの手元をじっと見つめ 
ていた。  
 
「さて…と。コレだけあれば十分、かな」  
小皿が鮮血で満たされた頃、レイナがつぶやく。血を流したせいか、心なしか顔色が青ざめている。  
 
「と、とりあえず、手当てをしないと…………γφωεзιψ」  
レイナよりも、はっきりと青ざめた顔のキャスリーが、レイナの手を取り、何事かつぶやく。  
すると、まばゆい暖かい光が煌いたかと思うと、レイナの手の傷が見る見る塞がっていった。  
それを見て、今度はレイナが目を丸くしていた。  
 
「何も、あなただけが魔法の使い手、というわけではありません。エルフ族も魔法は使えるのですよ。  
おそらく、あなたたち人間が利用している魔法とは、系列が違うかもしれませんですがね。  
でも、気をつけてくださいね。完全に塞がったわけではないので、少し無理が来ると、すぐ傷口が開い 
てしまいますから」  
にっこりと微笑みながらキャスリーが言った。レイナは素直に礼を述べ、街の地図を広げた。  
 
「あとは一晩かけて、魔力を注入させます。その後円を描くように、こんな風に五ヶ所の位置にこれを 
置きます」  
「あ、あれ? そうすると、ここが足りなくならない?」  
そう言いながら、レイナは地図に五ヶ所の位置をペンで印をつける。が、その位置を見てポールが指摘 
する。  
 
「そう……ですね。そこには…私がいなければ、ならないのです…」  
顔を曇らせながら、ポールの指摘に答えるレイナ。  
それは学院に潜入するとき、魔道士である彼女が参加できないということを意味していた。  
 
「それならそれで仕方ないでしょう。残った僕たちでなんとかするしか、ね」  
「………じゃあ、私も残ったほうがいいのかしら?」  
リュウが拳をパンと打ち鳴らしながら答えると同時に、考え事をしていたキャスリーが言った。  
途端に、全員の視線がキャスリーに注がれる。  
 
「あ…も、もちろん怖い、ってわけじゃないよ。ただ、レイナを一人で残しておくと、心配だし……」  
「うん…そうね。それはまた、あとでゆっくり考えるとして、まだこれに魔力を注入させる儀式が残っ 
ているから、  
今日のところはここまで、ってことにしない?」  
口篭るキャスリーに助け舟を出すように、レイナが小皿を手にとって言った。  
 
「そうか。また明日ってことだな。それじゃそうしよう。集合は明日の朝、下の酒場でってことでいい 
な?」  
「あ…リックさんは……手伝ってもらうことがあるのですが…いいですか?」  
「ん? ああ、分かった」  
伸びをしながらリックが解散を促す。と、レイナがリックの肩を掴んで言った。  
 
「じゃ、じゃあ、ボクは帰るところがあるから、一旦帰っていい? 明日の朝に下の酒場に集合、だよ 
ね?」  
「ああ。道案内のあんたが一番重要なんだ。時間には遅れるなよ」  
「う、うん。分かった。ありがとう」  
「それじゃ、僕たちもこれで」  
ポールがおずおずと手を挙げながら言う。リックは軽く手を振りながら答えた。  
その答えにポールが礼を言って部屋をあとにする。  
さらに、リュウとキャスリーが挨拶をして部屋を出て行き、部屋にはリックとレイナの二人が残った――  
 
 
「う…ん……んんっ…」  
強く抱きしめあい、くちづけを交わし続けるリックとレイナ。すでにお互い一糸纏わぬ姿だった。  
 
「んっ…はあ…はあ……。お願い…リックさん…」  
「何を手伝うのかと思えばこれだものな…。まったく、いやらしい娘だよ、レイナは」  
「そんな! い、言わないで! そ、それに……あ、あんっ!」  
長いくちづけが終わると、目を潤ませながらレイナがリックにささやいた。  
リックは大袈裟に肩をすくめ、呆れたようにつぶやく。  
その言葉を聞いて、レイナは顔を真っ赤にさせてくちごもるが、リックが下腹部に手を伸ばすと突然嬌 
声をあげた。  
 
「なあ、こんなにしてるのが、いやらしくないとでも言えるのか? まったく……」  
「あ…あっ、あん…ああっ……。そ…そんな…ああんっ!」  
リックはレイナの割れ目をなぞる。それだけでリックの指は、割れ目から溢れる蜜で濡れそぼっている。  
それを指摘しながら、さらにリックは指を激しく動かし、レイナの耳元でささやいた。  
レイナの下腹部から、くちゅくちゅという湿った音が響き渡り、レイナが艶やかな声をあげる。  
その嬌声に自分でも気がつかないうちに、興奮が昂まっているリックは、さらに指の動きを早める。  
指の動きが早まると、湿った音もペースが早くなり、それにあわせてレイナの嬌声も段々間隔が短くな 
る。  
それはまるで、リックの指を指揮者とする、淫らな演奏会のようだった。  
 
「あ、ああ、ああっ! あ! ああ! あああ!!」  
レイナの全身が小刻みに震えだし、嬌声は半ば叫び声に変わりだしている。  
淫らな演奏会も終局が近づいているようだった。  
 
「ああ…き、気持ちイイ…気持ちイイよ! リック! リックゥーーー!!」  
シーツを強く握り締め、下半身を痙攣させながら絶叫するレイナ。その声が快感の強さを端的に示して 
いた。  
 
「はあ…はあ……はあ…はあ…。リックさん…愛してる…愛してる…よ……」  
「レイナ…。俺も…愛してる………。んっ…」  
天井を見上げ、うつろな目でつぶやくレイナ。リックは優しく答えながらレイナに覆いかぶさり、くち 
びるを奪う。  
リックの舌が、レイナの口中に入り込む。レイナは無意識のうちにくちびるをすぼめて、リックの舌を 
吸い込もうとしていた。  
 
「んん…っ…。あ、あんっ…あん…ああんっ」  
長い長いくちづけが終わり、リックはレイナの耳たぶに舌を這わせると同時に、  
膨れ上がったモノをレイナの太股に擦りつけ、腰を前後に動かし始める。  
レイナはピクンと体を震わせながら、甘い声を出す。その声がもっと聞きたくて、リックはひたすら舌 
と腰を動かし続けた。  
 
「リックさん…お願い…お願い…キテ……」  
レイナが我慢できないという風に、両手でリックの頬を抱えてつぶやく。  
リックがレイナの顔を見たとき、全身に電流を流し込まれたような感覚を覚え、両手でゆっくりとレイ 
ナの足を広げた。  
もうレイナを焦らして楽しもうという余裕は無い。早くレイナと繋がりたい。ただそれしか、考えられ 
なかった。  
 
「ああ…レイナ……愛している…愛している……」  
自分が、魔道士の精を求めるホムンクルスだと告げられた真実。  
そのときレイナを抱きたいのは愛情ではなく、習性だと言われた。その言葉がリックの頭を駆け巡る。  
リックはその言葉を打ち消すように、ひたすら「愛してる」と口走りながら、モノをレイナの割れ目に 
あてがった。  
 
「あっ! リックさん……! リックさん…リック……」  
魔道の力を開放するためにはホムンクルスを媒体とする。かつて自分を研究していた魔道士にそう言わ 
れた。  
抱かれれば抱かれるほど、魔力が増大する。明日、結界を作るために魔力をできるだけ増大させる必要 
がある。  
今夜、リックに抱かれたのはその目的もあった。  
 
――だが、それだけじゃない。レイナは快感の波に溺れかけている中、ほんのわずかに残った理性がそ 
う告げた。  
この世界で始めて自分を人間扱いしてくれたリック。  
それは、鳥のヒナが始めて見たものを親と認識する、刷り込みに近いものかもしれない。  
でも、それでもいい。私は…私はリックを人間として愛しているんだ。それが、私が信じた道なのだか 
ら――  
 
「あ…あんっ!」  
突然、レイナの思考が中断される。リックがレイナの中に侵入してきたからだ。思わず口を突いて出る 
喘ぎ声。  
その瞬間、今までの葛藤は消えうせ、リックと繋がっていたいという欲望がすべてを支配していた。  
 
レイナが無意識のうちに両手を伸ばし、リックの両手と絡ませる。  
お互いの手を握り合いながら、リックは無言でひたすら腰を動かし続け、レイナは嬌声をあげ続ける。  
部屋には、リックが腰を打ちつけるたびに、パン、パンという音が響き渡っている。  
だが、そんなことも気にならないくらいに、二人はお互いを求め合っていた。  
 
「くっ…レイナ…イク…イクぞ……」  
「キテ…キテください……リックさん…私と…私と…」  
レイナの耳元でリックが絞りだすような声をあげる。その声に答えるように、レイナが微笑みながらつ 
ぶやきかえす。  
もはや二人の快感は、最高潮に達しようとしていた。  
 
「レイナ…レイナ…レイナッ!!」  
「リッ…ク…リックッ!」  
それからほどなくして、二人はお互いの名前を呼び合いながら絶頂に達した。  
だが、リックはモノをレイナから抜こうとはせず、ゆっくりと体を入れ替え、今度はレイナが上になっ 
た。  
レイナはとろんとした目つきでゆっくりと体を上下に動かす。二人にとって、まだまだ夜は始まったば 
かりだった――  
 
 
キャスリーはベッドに腰掛け、リュウの動きをじっと見つめていた。  
その姿は、まるで踊っているかのように流麗で、すでに見慣れているはずのキャスリーだが、その度に 
見とれていた。  
 
「フゥーーーーーッ」  
リュウの動きが止まり、長く息を吐く。どうやらそれで終わったようで、キャスリーはゆっくりとリュ 
ウに近寄った。  
 
「ん…っ……」  
キャスリーは、リュウが振り向き様に抱きつき、くちづけを交わす。手を回すリュウの腕は心なしか震 
えていた。  
無理もない。数週間前、リックたちと出会う前夜、リュウとキャスリーは結ばれた。  
彼にとってはこれが始めての女性体験だったのだ。それからわずか数週間しか経っていない。  
 
「うふふっ。まだ慣れてないんだ。かっわいいっ」  
「え…えっと、その…」  
くちびるを離し、悪戯っぽい目で笑うキャスリー。顔を赤くさせ、しどろもどろになるリュウを見てさ 
らにコロコロ笑いだす。  
一方のキャスリーは肌の黒いエルフということで、忌み嫌われる存在として、  
幼い頃から迫害されて育てられ、住んでた村を追い出された。だが、人間とて彼女を喜んで迎えるわけ 
ではない。  
そんな彼女が、人間の社会で一人で生き残る術はと言えば、おのずと手段は限られていた。  
 
「さ。汗かいてるんだから、脱がなくちゃ」  
「い!? い、いいよ、自分で脱ぐから!」  
「もうっ……。本当に鈍いんだからっ。…分かるでしょ?」  
シャツの裾に手を掛けるキャスリーに慌てて答えるリュウ。  
だがキャスリーがリュウの股間を優しく撫で回しながらささやくと、覚悟を決めたようにリュウはおと 
なしく身を任せた。  
 
バサッ  
 
リュウのシャツが床に落ち、上半身が露わになる。鍛え上げた、無駄な脂肪のない体――  
 
「んっ…れろっ…」  
「あ…っ…」  
リュウの胸の頂に、キャスリーが舌を伸ばす。途端に体をピクンと震わせ、声をあげるリュウ。  
その声を聞いたキャスリーは、舌を這わせながら上目遣いにリュウを見つめる。  
リュウはその目を見たとき、全身から力が抜けていく錯覚を覚えていた。  
 
「うふふっ」  
そんなリュウを、キャスリーは如何にも面白そう、という顔でじっと見つめながら、リュウのズボンに 
手を掛ける。  
依然として、リュウは無抵抗で立ち尽くしたままだった。  
 
カチャカチャ…スル…バササッ  
 
キャスリーは器用にリュウのズボンを脱がす。もちろん、視線はリュウの顔を見たままで、だ。  
ズボンが床に落ちたと同時に、キャスリーの舌がリュウの乳首から離れ、ゆっくりと下におりていく。  
 
「あう…っ。…っ…」  
舌先がリュウの臍でとまり、中に入り込もうとする。その微妙な刺激に耐えられず、リュウは身悶えし 
ている。  
 
「ん…っ。んっ………」  
「わ…。ま、待って!」  
舌を這わせながらキャスリーの手はリュウの下着に掛かる。それを見て、リュウは慌ててキャスリーの 
手を押さえた。  
 
「どうしたの…? もう、こんなにしているのに……」  
「あの…その……さ。灯りを…消してくれないかな…と思ってさ…」  
怪訝そうな顔でリュウを見つめながら、キャスリーが問いかける。その手は優しく、下着の中央の膨ら 
みを撫でながら。  
下腹部から伝わる刺激をどうにかこらえ、途切れ途切れにリュウがつぶやいた。  
 
「大丈夫、別に見られて減るものじゃないし。結構立派なんだから、もし見られても見せつけちゃいな 
さいよ♪」  
「や、やめっ!」  
思わず、リュウのつぶやきにキャスリーは軽く吹きだすが、事も無げに答えながら下着をずり下ろした。  
リュウが悲鳴に近い声をあげたと同時に、下着の上からリュウのモノが飛び出す。  
モノは、直接刺激を受けたわけでもないのに、すでに完全に天を向き、先端からは先走りの液があふれ 
ていた。  
 
「あははっ。このコは我慢できなかったみたいだねっ。んっ…れろっ…れろ…はむ…っ……んっ」  
キャスリーは、ちょんちょんとモノの先端を突っつきながら、リュウを見つめて言った。  
リュウは羞恥からか快感からか、顔を真っ赤にさせて、目を硬く閉じ合わせている。  
そんなリュウを見つめながら、キャスリーはリュウのモノを口に含んだ。  
 
「あう…キャ……スリー」  
「ん…ふ…く…んっ……んふ…ぐう…」  
途端にリュウの口から声が漏れる。委細構わずキャスリーはモノを口にしたまま、顔をゆっくりと動か 
し始める。  
リュウの体がビクンと震え、膝から崩れ落ちそうになる。だが、キャスリーがリュウの腰に手を回し、 
どうにか持ちこたえる。  
 
「はぁうっ!」  
「ぐっ…ん……んっ…ちゅくっ……」  
リュウの体に新たな刺激。腰に手を回したキャスリーの手が、いきなりモノの下の袋に伸びたからだ。  
目の前の相手に、袋を後ろから握られるような奇妙な感覚。それ以上に袋を襲う快感。  
さらに、その状態でもキャスリーは、リュウのモノを頬張りながら顔を動かし続け、モノに快感を与え 
続ける。  
こらえられなくなったリュウは、思わず両手でキャスリーの頭を抱えていた。  
 
「も、もうダメ! イッちゃう! イッちゃうよ! キャスリー! ……あ、ああっ!!」  
リュウは、目の前が真っ暗になるような錯覚を感じ始めていた。腰がガクガクと震え、思わず腰を引い 
てしまう。  
モノがキャスリーの口から飛び出すとき、彼女の歯がモノの先端を刺激した。  
その微妙な刺激がとどめの一撃となり、ビクンと震えたモノから精液が噴き出して、キャスリーの顔に 
降りかかった。  
 
「ん…んっ…。一杯、出たね。…気持ちよかった…?」  
「う…うん……。ゴ…ゴメン…………」  
キャスリーは、自分の顔が汚れるのを意に介するでもなく、リュウのモノを優しくしごきあげ、語りか 
ける。  
リュウは震える声で答え、詫びながら目を開けた。  
 
「………………!」  
「?? どうしたの? リュウ?」  
目を開けたとき、リュウは思わず息を呑む。  
そんなリュウを見てキャスリーが問いかけるが、リュウは答えることができなかった。  
何故なら、リュウはその健康的な褐色の肌に白い液体で汚れたキャスリーの顔を見て、  
なんともいえない艶やかさを感じていたからだった。  
 
「くすっ……。まだまだ元気だね。もうこんなにしちゃって…………ホントかわいい、…ちゅっ」  
沈黙するリュウのモノをしごき続けていたキャスリーは、再び勃ちあがり始めたモノを見て、その先端 
にくちづけをした。  
それを見たリュウは、頭の中が真っ白になっていた。  
 
「む……むぐ…っ…? んっ……」  
突然、リュウがキャスリーのくちびるを奪ったかと思うと、そのままキャスリーを軽々と抱えあげた。  
キャスリーは一瞬の出来事に目を丸くしている。  
 
ギシッギシッ……  
 
「きゃっ」  
リュウはキャスリーからくちびるを離したかと思うと、優しくベッドにおろした。そのときバネが古い 
のか、軋んだ音が響く。  
ベッドにおろされたキャスリーは、上半身を起こした状態で思わず声をあげていた。その目はじっとリ 
ュウを見つめている。  
 
「キャスリー…僕…僕は……んっ…」  
一方のリュウは、自分もベッドに座り込んだかと思うと、じっとしているキャスリーのくちびるを再び 
奪い、  
そのままゆっくりと押し倒す。キャスリーもリュウの背中に手を回し、ぎゅっと強く抱きしめあう。  
 
「んっ…何か…当たってる…よ…」  
「え…? あ…」  
くちびるを離したキャスリーが、とろんとした目でリュウを見つめながらつぶやく。  
リュウもまた、恍惚とした表情でキャスリーを見つめ返す。その目は焦点が定まっておらず、声もおぼ 
ろげだ。  
密着したおかげで、下着越しにキャスリーの豊かな胸の感触を覚えたリュウは、  
気がつけば興奮のあまり、無意識のうちに腰を動かし始め、キャスリーの恥丘を擦り続けていたのだ。  
モノと恥丘のヘアが擦れあい、シャリ…シャリ…という音が聞こえてくるような錯覚を覚えていた。  
キャスリーは経験豊かにも関わらず、何だか無性に恥ずかしくなり、思わず両手で耳を塞いでいた。  
 
「あ! ああんっ!」  
キャスリーが悲鳴をあげる。リュウが下着をめくりあげ、その豊かな胸にむしゃぶりついたからだ。  
胸の先端を舌でちろちろと突っつく。かと思うと軽く歯を立てながら、ちゅうちゅうと音を立てて吸い 
込もうとする。  
その一方で、反対側の胸は下着越しに荒々しく揉みしだいている。  
 
「く…あんっ…んっ…あはあっ…。いい…いいよ…リュウ……ああんっ!」  
うわごとのようにつぶやくキャスリー。興奮のあまり、いつの間にか胸の先端は勃ちあがっている。  
リュウがそれを軽く摘みあげた途端、ひときわ大きな声をあげていた。  
 
リュウは無言で、時々左右を入れ替えながら、ひたすらキャスリーの胸を愛撫し続ける。  
もちろん、その間も腰は無意識に動き続けていた。  
 
「くっ…リュ…リュウ…。私…私…もう…くはあっ…んっ! お…お願い…ちょ…ちょうだ…いい」  
とうとうこらえきれなくなったキャスリーは、自ら両足を広げ、リュウに懇願する。  
彼女の腰もまた、無意識に動き出していた。  
リュウはまるで、その言葉を待っていたかのように、顔をあげ、モノの先端を彼女の割れ目に潜り込ま 
せた。  
 
「あ! あん! き…気持ち…イイ…!」  
嬌声をあげながら自ら腰を動かして、リュウのモノを潜り込ませようとするキャスリー。  
リュウは再びキャスリーの胸に顔を埋め、腰をゆっくりと動かし始めた。  
 
「あっ! あんっ! …はあっ! く…うっ!」  
ギシ、ギシとベッドが軋み音をあげる中、キャスリーの喘ぎ声が部屋に響き渡る。  
それとは対照的に、リュウはひとことも発せずに、ただひたすらに彼女の胸を愛撫しながら、腰を動か 
し続ける。  
 
部屋の中では、リュウが腰を動かすたびに、ベッドの軋み音、キャスリーの喘ぎ声、  
そして、二人の結合部からの湿った音が重なり合って響き渡っていた。  
 
「キャスリー…僕…僕、もう…もう…イッちゃう…よ…」  
不意にリュウが顔をあげてつぶやく。その目は相変わらず視線が定まっていない。  
が、腰の動きは今までよりもピッチがあがってきている。  
 
「リュ…リュウ…いい…よ……もっと…もっと激しく…キテ…」  
途切れ途切れに声を絞り出すキャスリー。その声を受けて、リュウはさらに腰の動きを早める。  
それにともなってベッドの軋み音と、湿った音もまた激しさを増していた。  
 
「くっ…キャス…リー、イク…イッちゃう! イッちゃうっ! イッちゃううっ!」  
「リュウ…いいよ! 私の! 私の中に…キテッ!!」  
リュウの声が悲鳴に近いものになる。同時にキャスリーの甲高い声が響き渡り、リュウはキャスリーの 
中で果てていた。  
 
「ああ……あっ…。私も…私も……イク…イク…イッちゃう! イッちゃう! ああ! ああんっ!!  
………」  
一方、キャスリーは自分の中に、熱いものが入り込んでくるのを感じた瞬間、叫び声をあげながら絶頂 
に達する。  
その直後、彼女は意識を失っていた――  
 
「…リー? キャスリー? ああ、よかった」  
「リュウ? 私…いったい……?」  
目を覚ましたキャスリーの前に、心配そうな表情のリュウの顔があった。  
キャスリーは、今ひとつ状況が飲み込めないようで、ぼうっとしている。  
 
「えっと…しばらく、気を失ってたんだけど……」  
顔を真っ赤にさせながらリュウがポツリとつぶやく。と、知らず知らずのうちに自分のお腹を撫でるキ 
ャスリー。  
お腹を撫でているうちに、はっきりとさっきまでのコトを思い出してきた。  
 
そうか…私、失神しちゃったんだ…。  
今まで…色々な相手に抱かれたけれど、こんなに簡単に失神したのは初めてだった、かも。  
やっぱり……私はリュウのことが……。  
 
「ど、どうしたの?」  
「ん。いいえ何でもない、何でもないよ」  
考え事をしているキャスリーに、リュウが心配そうに尋ねる。そのひとことでキャスリーは現実に帰っ 
てきた。  
一瞬、自分の心を見透かされたような気持ちになって、恥ずかしくなった彼女は、  
誤魔化すように首を振りながら、リュウの胸に頭を埋めながら心の中でリュウに語りかけた。  
 
リュウ…ごめんなさい。迷惑をかけるかもしれないけれど、私のこと……ずっとそばに置いていてね…。  
 
 
 
「アニ…キ」  
真っ暗な部屋の床に座り込んだポールは、ぽつりとつぶやく。手には、兄貴分の男の形見であるダガー。  
いつも彼は、仕事時にはお守り代わりにと、このダガーを持ち歩いていた。  
あの日はたまたま、このダガーを持っていなかった。そして、あんなことがあった。  
おかげで、彼がポールに遺したものは、このダガーだけだった。  
 
現実には、このダガーを持っていても持っていなくても、結果は同じだったかもしれない。  
だが、理性はそう思っていても、感情が邪魔をする。このお守りさえ持っていれば……!  
 
しかし……ポールの心は揺れていた。兄貴分の男を食い殺した化け物は、自分にはとても優しくしてく 
れた。  
さらに、ポールが逃げだしたときに、彼女が叫んだひとことが耳に焼きついていた。  
 
『待って! …置いていかないで! ……一人にしないで!!』  
 
確かに彼女はそう言った。遥か昔、幼い頃に自分も同じ言葉を口走った記憶がある。  
それも実の親に向かって、だ。  
どうしても、彼女の姿を幼い頃の自分と重ね合わせてしまう自分がいた。  
 
揺れる理由はまだあった。彼女の姿は、仲間であるレイナに瓜二つだった。  
知り合って数週間しか経っていないが、レイナはとても優しく、明るく、まるで姉が出来たみたいだっ 
た。  
そんなレイナの姿そっくりな彼女を、ボクは殺すことができるのか?  
 
いや、僕が手をかけるわけではない。手をかけるのは、仲間の誰か、だ。  
そう思うようにしたときもあった。だが、それは詭弁にすぎない。  
仲間の誰が殺めたとしても、自分が手を貸していることに変わりはない。  
 
いや、殺めるとは限らない。彼女だって会話ができるんだ。話し合えば、分かってくれる。  
そう思うようにしたときもあった。  
――だが、何を話し合う? 何を分かってもらう? その答えはとうとう出てこなかった。  
と、いうよりも、最初から答えは出なかった。それを認めるのが怖かっただけだ。  
 
「…………!」  
ポールは自らの腕に、ダガーを突き立てた。たちまち、腕に鈍い痛みが走り、鮮血がほとばしる。  
 
彼女は、自分の兄貴分を食い殺した憎むべき敵だ。しかも人間ではない。  
だがしかし、日に日に彼女に対する怒り・憎しみが薄れ、親しみ・哀れみが濃くなっていく自分が怖か 
った。許せなかった。  
怒り・憎しみを思い出さんとすべく、ポールは痛みをこらえながら、じっと腕の傷をながめていた――  
 
 
「何だか…遅いですね、皆さん。いったいどうしたんでしょう?」  
翌朝、朝食を摂りながらキャスリーが言う。リックとレイナは部屋から出てくる気配はない。  
ポールは昨夜は『帰る場所がある』と言いながら去っていった。  
 
「う〜ん。そうですね…でも、そんなに慌てることもないと思うよ。……それより…」  
「あ、おはようございま〜す。昨日は休めましたか?」  
リュウは首を振りながら軽く受け流し、キャスリーに話しかけようとした。  
が、そのときポールが入ってきて会話が中断される。同時に二人の視線はポールの左腕に注がれる。  
何故なら、ポールの左腕には包帯が巻かれ、赤黒く染まっていたからだった。  
 
「ど、どうしたんですか、その左腕? 昨日、何かあったんですか?」  
陽気に挨拶するポールの左腕を取って質問するキャスリー。  
だが、ポールはそっとキャスリーの手を払いのけ、椅子に座りながら言った。  
 
「ああ、これですか。何ともないですよ。あまり気にしないでください。  
…それより、お腹が空きました。あ、お姉さ〜ん、朝食ひとつくださ〜い」  
あくまで陽気に振舞うポールだが、かえってその態度がリュウたちに疑念を持たせていた。  
が、本人が「何ともない」と答える以上、何も言うことはできなかった。  
 
「でもですね…リックさんたちはどうしたんですか?」  
「ん…それが、まだ来てないんですね。別に何かあった、とか言うわけではないとは思うんですがね」  
朝食に口を付けながら、ポールはリュウたちに問いかけ、リュウも肩をすくめて答える。  
 
「あ、もう皆集まっていたんですね。これは失礼しました。リックさん、私たちも急いで食事を済ませ 
ないと」  
「あ、ああ、分かったよ。すまないな、遅くなって。とりあえず、食べるもの食べたら部屋に集合して 
くれ」  
と、そこにレイナが現れて、皆に詫びながら、背後にいるリックに向かって語りかけた。  
リックはバツの悪そうな顔をしながら椅子に座り、食事を摂りはじめた。  
 
 
「さて…と」  
朝食後、一同は部屋に戻ってテーブルを囲む。そこでリックが話しだした。  
 
「とりあえず、結界を作動させる。…それが上手く効くかどうかは、実際に潜入してからのお楽しみっ 
てところだが…。  
あとは誰が中に入って、誰が残るのか、を決めようかってところで昨日は終わったんだよな」  
「あ…それなんですけれど…。結界を作動させたまま、全員が行動を共にすることは可能でした…」  
リックの言葉にレイナが答え、一同は目を丸くさせている。  
 
「へ? 確か昨日は無理だって…」  
「はい…確かにそう言いました。でも、すっかり忘れていたんです。  
方法があること、というよりも、最初からそういう手順だった、ということを」  
ポールの言葉に優しく微笑みながら、ゆっくりと席を立ち、部屋の中央に向かって歩き出すレイナ。  
立ち止まり、床に何やら模様を書き込み、その傍らに立つ。その手には昨日と同じくナイフが光ってい 
る。  
 
「γεχψαβλμξ……かりそめの姿を持って、我にその存在を示せ…」  
一同が固唾をのんで見守る中、レイナは何やら唱えていたかと思うと、手の甲をナイフで切りつけた。  
 
ジュウウ… ジジジジジ…      パンッ  
 
レイナの血が、床の模様に触れたと同時に、何かが焦げたような音と電撃が走るような音とが混ざり合 
い、しばらくして、何かが弾けたような音がしたと思うと、模様の中央に子供が現れた。  
 
「我、盟約に従い、汝に存在を示す者なり…我を求めし者、我に道を示せ……」  
「εψαβχακ……汝に我に従う道を与える。如何なる時も、我の命に従え…」  
「……心得た、主レイナよ。我は汝の命に従い、この世に現れる………」  
「…ふう、ご苦労様。それじゃ、この魔法陣から出てもいいですよ」  
「…仰せのままに、主レイナ…」  
 
「さて、皆さん。お待たせしました。結界の残った一ヶ所には、彼女にいてもらいます」  
やり取りが終わった後、やっと一同を振り返るレイナと、子供を見て、一同は声を失った。  
何故なら、目の前の子供は大きさは違えど、寸分違わずレイナと姿形がそっくりだったからだ。  
 
「あ……あの、質問しても…いい? 彼女…何者?」  
キャスリーが恐る恐る手をあげながら、もう片方の手で小さいほうのレイナを指差し、大きいほうのレ 
イナに質問する。  
疑問に思っているのはキャスリーだけではなく、全員が同じ表情をしていた。  
 
「あ、彼女ですか。彼女はいわゆる異界の住人です。ま、今の世界では悪魔、とも言われますが…  
彼女はこちらの世界では実体を持たないので、召喚した私の姿でいる、というわけです」  
事も無げに答えるレイナを見て、多少引いた目で見ているリック以外の3人。それを見て、リックが口 
を開いた。  
 
「……ここまできたら隠すこともない、か。実はレイナ自身、今現在の世界の住人では無くて、  
いわゆる魔法の時代の魔道士だったんだ。だから魔術に関しては、下手な学院の導師以上の力を持って 
いるのさ」  
「なるほど…そういうことだったのですか。いや、それで何となく分かりました。  
それでは、レイナさんも一緒に行動できるということは、向こうが魔法は使うことはできないけれど、  
レイナさんは魔法が使える、という状況になるわけですか?」  
「え…あ、いやその…。あくまで魔法に対する結界、ですので私も魔法を使用することはできません… 
ですが…」  
リックの説明に、意外なまでにあっさりと答えるリュウがレイナに質問した。  
レイナは視線を落として返事をする。このままでは彼女は戦力外だった。いや、むしろ足手まといにし 
かならない。  
 
「ねえねえ、この小レイナさんとレイナさんってさ、離れていても意思の疎通ってできるの?」  
「そう…ですね。遠くなればなるほど、その力は薄れていきますが…この街の隅から隅くらいなら、可 
能です」  
「ふうん。そしたらさ、ボクたちが中に入ってから結界を解けばいいんでないの?  
そしたら、向こうも魔法が使えるようになるかもしれないけれど、レイナさんも魔法を使えるようにな 
るでしょ?」  
「あ…」  
「よし、そうと決まれば早速結界の準備をしようか。地図のこの場所に、昨日の布キレを配置すればい 
いんだな?」  
ポールの言葉に一同が頷きあい、リックが結論を出した。  
 
 

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル