どぶんっ  
 
俺の視界内の世界が反転し、稜線に入道雲を被った青い夏空に鈍い音が響き、  
そして、その音を追うように、  
「ボクは男だよっ!!」  
と鈴を転がしたような、高い可愛らしい声が大きく響く。  
声の主は小学3、4年の美少女……と見違える程の美少年。  
彼を少女と勘違いした上、  
その可愛らしさについ理性が吹っ飛び軟派してしまった俺は、  
信じられない事にその少年の細い腕に今、俺は柔道か合気道のように簡単に田圃に投げ飛ばされた。  
「お兄さん、子供が好きならそこに居(お)る子と遊んど  
りゃあせ」  
そして、少年は妙な事を言うと走り去ってしまう。  
 
「……はぁ…いつかはやってしうまうと思ってたけど…」  
稲を幾らか潰し、泥に半身埋めたままの姿勢で俺は青い空を見上げ、自己嫌悪にため息を吐きながら呟く。  
高校に入ったばかりの俺だが、  
いつの頃からか、大人はおろか、同年代の女子にも興味が湧かず小学生低学年程度の子供にしか関心が無くなっていた……  
自分でもまずい、まずいとは思って自分を抑えては居たけど今日、夏休みの課題の為に図書館に行った帰りに、あの少年を見かけ、少女と勘違いした上、  
今までの反動かついに理性崩壊してしまった……  
と言っても、別に犯罪行為に走るつもりとかじゃなく、話とかしたかっただけなんだけど……  
「…まあ……」  
あの少年は、あんなに目立つ容姿なのに初めて見かけたし、  
おそらく夏休みに田舎の親戚の家に遊びにきただけで、三日も俺が外に出なければもう二度と会わないだろう。  
 
俺は少々感じる未練と自分を信じられない不安を、そう自分を納得させる事で断ち切り、  
立ち上がる為に、ふと視線を上げた。  
 
その時、  
「くすくす…」  
俺は俺のすぐ横で口を押さえて笑っている少女に気づいた。  
今まで、泥遊びでもしていたのだろうか?  
泥まみれだ。  
そこまで考えて、俺は違和感を感じた。  
泥まみれのその少女は……  
……浴衣?  
泥で汚れているが、白い浴衣に身を包んでいる。  
夏祭りはまだ……だよな?  
そもそも、……さっきまでこの少女は居なかった…と思う。  
 
その違和感が気になったせいだろうか?  
それとも、悪い性癖のせいだろうか?  
俺は、気づいた時には彼女に声を掛けていた。  
「……あの…さ」  
もっとも、どう声をかけるべきか、とっさに出てこなかった俺は声をかけたは良いが、その次の言葉が出てこない。  
…が、  
自分が声を掛けられたと気づいた少女は、笑いを止めるときょとんとした表情で、  
「……私の事、見えるの?」  
と妙な事を聞き返してくる。  
「見える?」  
俺はそのよく解らない返事に、思わず戸惑いオウム返しで答えてしまう。  
「見えるんですねっ!!  
 本当に見えるんですねっ!!」  
俺の言葉を聞いた、少女は泥を跳ね上げながら嬉しそうに俺に駆けより、  
俺の手を泥まみれの両手を包むと、同じく泥まみれの顔を嬉しそうにほころばせ繰り返す。  
 
「あっ…御免なさい。  
 私、つい嬉しくって……」  
彼女が握った俺の手を慌てて離すと、ぬるりとした泥が滑るようにぬめり、彼女の柔らかい感触が俺の手から離れ、  
その手の主である彼女は、田圃に腰まで浸かったままの俺に視線を合わせるように、田圃の泥の中に正座し、  
「えっと…私、米(よね)と言います。  
 貴方はなんて名前なんですか?」  
と話を続ける。  
「高倉……高倉(たかくら)秀雄(ひでお)…」  
やや圧倒されながら、俺は目の前で正座する少女に自分の名前を名乗る。  
「名字っ!?  
 があるのですかっ!?  
 …う〜ん……まあ良いや」  
俺の名前を聞いた彼女は、驚いたような顔をするが、直ぐに元に戻り、  
「では……高倉様」  
彼女は俺を真っ直ぐ向き直すと、  
「田圃を返して下さい」  
はぁ?  
突然、わけの解らない言葉に俺は戸惑いつつも、答える。  
「いや…返せと言われても俺、田圃なんて持ってないし」  
それを聞いた彼女はすっきりとした表情で、  
「それでも良いんです。  
 私の言葉を聞いてくれただけで……」  
と微笑みながら答え、話を続ける。  
 
「実は私、泥田坊なんです」  
「どろたぼう?」  
聞き慣れない単語に俺を彼女に聞き返す。  
「ああ……お武家様には解りませんよね?  
 えっと、簡単に言うと幽霊なんですけど……」  
おぶけさま?  
って単語も気になるけど……  
一番、気になるのは……  
「幽霊っ!!  
 ちょっと待ってっ!!  
 君が?」  
幽霊……  
確かに会った時から違和感があったけど……  
にわかには信じられない俺は彼女に確認する。  
「はい」  
俺の質問に彼女はあっさり肯定する。  
「正確には、妖怪なんですけど……  
 ……田圃を取られた恨みで、その田圃で地縛霊になって 
しまったんです。  
 でも、恨みを幾ら募らせても、今まで私の事、見える人居なくて……」  
「恨み?」  
しまったっ!  
聞き返してしまってから、気づいた。  
彼女が幽霊なら、幽霊になる程に恨みに思うような事を聞いて思い出させるなんて最低じゃないか……  
「ご…御免、  
 無神経なこと聞いてしまって……」  
やはり思い出してしまったのだろうか、  
一瞬、哀しい顔をした彼女の目がじわりと涙とまで行かない程だが、潤む。  
 
その表情は、まるで俺の心臓を鷲掴みにし握りつぶすかのような圧迫を与える。  
…が、  
「いえ…良いんです。  
 貴方が恨み言を聞いてくれたお蔭でもう逝けますから……」  
すぐに彼女は表情を戻すと、俺に微笑みながらそう言ってくれる。  
それが俺には余計に辛い……  
それに…恨み言ってさっきの田圃を返してって一言?  
それだけで良いのか……?  
他人事なのに、釈然と納得出来ない俺は思わず彼女の手を握り、叫んでいた。  
「俺が取り返すっ!!」  
「えっ?」  
彼女が意外そうな顔で、身を乗り出し自分の手を握る俺を見上げる。  
そりゃ、そうだろう……  
自分でだって、何を言ってんだって気がしている。  
しかし、理屈じゃなく、俺は彼女のために田圃を取り返したいと思った……  
もちろん、哀しい顔をした彼女に対する同情もあるだろう……  
けど、それは一番の理由じゃない。  
一番の理由は  
 
この子、よく見ると可愛いんだもんっ!!  
 
泥に塗れてはいるが、  
年齢は10くらいで小っちゃな体に、黒目勝ちな可愛い目、やわらかそうな頬……  
まさに俺の理想っ!!  
そんな子が哀しい顔をしたのだ、放っておけるわけないじゃないかっ!!  
俺は、しっかりと彼女の手を握り締めると、  
「俺が君の田圃を買い戻してやるよ」  
ともう一度、意志表明をする。  
 
「そ…そんな…高倉様には関係ないのに………」  
彼女は俺を見つめる目をぱちくりとさせ、戸惑いながら漸くそれだけ言うが、  
俺の決意は固い。  
「俺がそうしたいんだ」  
俺はしっかりと意志をこめて彼女を諭す。  
「本当に…良いのですか…?」  
その俺の言葉におそるおそるといった感じで、確認する彼女に、  
「うん…もちろん、今直ぐってわけには行かないから、俺が働いて金が貯まるまで何年か待ってもらうことになるけど、それで良いなら……」  
俺は、ここまで言って難だけど、  
落ち着いて考えるとさすがに今直ぐとは無理だと気づき、  
俺はその事を付け足して彼女の問いに答える。  
しかし、その答えに彼女が落胆するんじゃないかという不安から、俺の声は最後の方は少し小さくなってしまう。  
……が、  
「有り難う御座いますっ!!」  
そう言って俺に握られた手を解くとそのまま、抱きついてくる。  
 
ま…まずい……  
そんな風に抱きつかれたら……  
と頭の片隅で考えるも、  
体は思わず彼女を抱き締め返しそのまま冷たい泥の中に押し倒してしまった。  
「きゃっ」  
小さな彼女の悲鳴が聞こえ、  
俺は取り返しのつかないをしてしまった事に気づき、彼女を見つめたまま固まってしまう。  
……これじゃあ、まるっきり変質者の犯罪だ……  
俺が自分の情けなさに震える唇からようやく、  
「ご…ごめん……」  
と絞り出し、彼女から体を離そうとした。  
しかし、  
「良い……ですよ。  
 嘘でもお父さんの田圃を取り返してくれるって…言ってくれた高倉様なら……」  
彼女は目をつぶり明らかに不安な様子だが、  
良いよなんて、この状況で言われたら今の俺は止まれない。  
 
「嘘じゃないっ!!俺はきっと…」  
興奮にかられるまま俺は夢中になって押し倒し、下に組み敷いたままになっていた彼女の浴衣のような着物をはだける。  
まだふくらみかけにも達しない、凹凸の少ない彼女の胸が濡らした泥の、ぬらぬらとした照かりがなめかましい。  
 
俺は引き寄せられるようにその胸に手を伸ばし、平坦な体の線を手のひらで撫でてなぞっていく。  
「っ!!」  
その手の動きに反応し、彼女が更にきつく目を閉じ眉間にしわが寄る。  
俺はその彼女の様子に罪悪感を感じながらも、  
ただでさえ滑らかであろう彼女の肌が、更に泥に濡れ心地よく俺の手を滑らせる感触に手を離せず、  
その手は彼女の帯を乗り越え、着物の腰布の裾をまくり上げる。  
下着をつけていなかった彼女は、それだけで下半身を露出することになる。  
 
彼女の下半身は泥の中に真っ白く浮かび上がった幼く、まだ産毛も生えていないつるりとしたそこにぴったりと閉じられた亀裂うっすらと浮かんでいる。  
「……ごくり」  
俺はその彼女の下半身から目を離せないまま、沸騰しそうな頭にのぼった熱に乾いた喉を落ち着けるように生唾を飲み込む。  
自分の息が荒くなっているのが判る。  
心臓が激しく波打っている。  
俺は抑えられない興奮に衝き動かされるままにズボンのチャックを下げ、  
すでにこの上ない程に硬くなった俺自身を取り出し、  
それに添えられた手は待ち切れない興奮に指先でこねるようにさすり、全体に先走りの液を伸ばし撫でくる。  
 
泥と混ざりぬめるそれを俺は、彼女の腰を持ち上げ高さを併せると割れ目に擦りつけ、それに沿って腰を前後にスライド運動させる。  
潤滑油になっている泥が二人の体の間で弾け、ぴちゃぴちゃと音を立てて二人の体を濡らしていく。  
 
やがて  
「きゃっ…あっ」  
俺のモノが往復する度に、こすれ押し付けられた彼女の割れ目のが序々に開き、  
彼女は俺のモノという異物による感触に、短く押し殺した悲鳴に近い声を上げる。  
……が、  
俺は、全べての神経をモノに集める事でその声に耳を塞ぎ、動きに集中し押し付ける力を強く、速さを加速てゆく。  
「ふっ…はぁ…はぁ……」  
興奮と運動で荒くなった俺の呼吸音に、  
「…くぅう……あぅん」  
少しづつ感じることに慣れ、甘い声の混じりはじめた彼女の声が重なり夏の青空に響く。  
 
俺自身を挟むように包む彼女の割れ目は完全に押し開かれ、温かい肉と泥よりも粘土の高い液体の感触が混じり、  
俺自身の全体に暖かな心地よさを与え、  
更に、かりの部分から先端の裏部分を堅く充血した彼女の小さな突起が刺激し、  
それらの快感が俺の体全体に広がる。  
 
「あっ…あっ…あんっ」  
彼女の方も刺激が強くなっているらしい、  
押さえようとしていた声が押さえ切れずに溢れてきている。  
俺は目をつぶり、彼女の声と温かさだけを感じながら、  
「…くっうっ」  
達した。  
 
 
ー・ー・ー・エピローグ・ー・ー・ー  
 
あれから7年たった。  
晴れ渡った春の空は、青く晴れ渡っていた。  
 
しかし…  
「……自分が情けない」  
俺の心は晴れてはいない。  
けっこう子供が遊ぶ、けっこう広い庭を持つ家を俺はまだアスファルト舗装されていない砂利道から遠目に眺めながら呟く。  
「そんな事無いですよ」  
そんな俺の斜め上に浮いたまま、彼女……米ちゃんが慰めてくれる。  
 
……が、それが余計に辛い。  
あれから二年ほどで例の田圃に、次男坊が結婚するとかで住宅が立ち、  
農地だった時も金銭以外に交渉があったのに、宅地になり資産価値も上がり、  
金銭、交渉の両面でほとんど買い取ることが不可能になった……  
 
それでもなんとかと思い、資金のために俺は高校を出てすぐ就職し働いていたのは良いんだけど、  
今度は給料を上げるために取った資格のお蔭で、転勤…栄転なんどけど……  
この土地から離れ都会に出ることになってしまったのは辛い。  
 
「はぁ…」  
…俺って裏目裏目だなぁ…  
俺は鞄を抱えため息をつく。  
「そんな顔しないで下さい。  
 未練が無くなってしまったら、私、高倉様と一緒に居られなくなるんですから、良かったじゃないですか……  
 それとも、私…邪魔ですか?」  
彼女は少し寂しそうに呟く。  
出会った時、あんな酷いことをした俺に、地縛霊だったはずの彼女が、いつの間にか気づくといつも俺の横に居てくれる。  
今度の転勤もついてきてくれると言う。  
他人からは彼女は見えないらしく、一時は独り言を周りに心配されたりもしたが、  
 
「……邪魔どころか、嬉しい」  
俺は、正直に答える。  
「じゃあ、良いじゃないですか。  
 気長に頑張りましょうよ」  
彼女は俺の答えに嬉しそうに笑って俺の手をひく。  
俺はそんな彼女の笑顔に、ここに戻ってくると心の中で誓い直し歩き出した。  
 
 

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