難儀な話。原因は自分にあると悟れる事なだけに、梢統(シャオタオ)はやり場の無い  
鬱々とした思いに駆られた。  
この国の中心、円王朝に三代仕える軍人一家で若年十六の当主が、あどけなさも  
残る捕虜を、それも異民族の娘を囲ったなど噂が流されては、  
歴史に色好きと記されかねないという封建的な理由と、論で無い  
人としての道義との間で葛藤して丸二日。  
彼女を拾った、兵と現地民の交える白刃と寒気に包まれた北辺の群落。  
遠征先と同じ地で繋がっているとは思えぬような華美な装飾の都。  
禄に不釣り合いな平素な家の前で、ようやく家に帰ってきたのだと頭が追いついた。  
護衛された馬車から未だ昏睡した娘を降ろすとき甘い香りが鼻をくすぐる。  
着飾る諸高官の妻や娘の振りまく物でなければ遊技の店から漂う  
けばけばしいそれでもない。純粋で甘く儚い。  
一瞬幻惑に捕われそうになって梢統は頭を振り少女を寝かせた。  
父の代から住んでいるために部屋は幾つかある。召使いは雇わない。家事は面倒と言うほどでもない。  
一息つこうと自室で茶を煎れる。父母が死だのが十二歳のときであったから  
家督を継いで四年になるが、こんなにも落ち着かないのは初めてのことだ。  
寝てしまおう。目を閉じる。雪原と欠けた月、敵将の顔が現れた。  
 
それから三日、出仕はなく家の仕事をした。少女が起きた。当然ながら塞ぎこんでいるようで  
部屋から、と言うより寝台からも離れる気配が無い。  
起きたら起きたで、今度はどうすれば笑うかを気にかけた。  
何のためか、もう訳がわからない。それでも、あの女には笑って欲しかった。  
馬の世話をして気を散らそうとしてみているが、あまり効果は望めない。  
「どうしたもんかな…」  
愛馬はその黒々とした毛を静かに洗われているだけ。  
食事はなんとか食べてくれた。  
それでも最初は、ひどく怯えていたが、飢えには勝てなかったようだ。  
引き下げに行ったとき、料理が少し減っていた。  
梢統にとっての幸いは、少女が生きる気力を持っていたこと。  
 
満月は、気を狂わす。  
所詮自分はこれを望んでいた俗物なのかと梢統は自分を呪った。  
すぐ横の驚いた表情の少女。燭台と月明かり。少女を押し倒した。  
ようやく、境遇を受け入れたころのこと。一言二言会話をするようになった。  
名を明花(メイファ)といった。民族の血筋で肌は白く、髪は梢統より茶色がかっている。  
とにかく喜ばれたさに女心など分からぬまま、とりあえず街で買った髪飾りを渡したとき  
、かすかに笑らい、うなずいて見せた。そのとき  
不意に抱き上げたときと同じ香りがし、そして気がつけば覆い被さっていた。  
「……!!す、すまん」  
何をしているのか理解し、弾かれたように明花から離れた。  
一体どうした?俺が何でこんなことをしている?  
顔をあわせることも出来ず、梢統は鼓動が早くなるのを悟る。  
明花は形上だけにしろ捕虜である以上このようなことは、薄々考えていたかもしれない。  
「梢様…」  
「言うな、俺は・・…俺は、お前が悲しむ真似をしたくない」  
何を今更。同族を討ったのは他でもないこの武玄王梢統だ。  
「はは、俺は一体・・とにかく失礼した」  
寝台から立ち部屋を出ようとした。あんなに見たかった彼女の元から  
一刻でも早く去ろうとしていた。  
 
「っくくくく、円王朝の誇る武玄王が、捕虜一人抱けないか。  
なるほど、北伐の事後処理が異様に丁寧なのもそれでか!」  
「…・・声が大きい」  
帰り道、鶏肉を二本。梢統が奢る事になった。  
温安(ウェンアン)字を長東(チャントン)。家絡みの付き合いで、  
昔からから互いに相談に乗った竹馬の友である。  
今も同じく朝廷に仕える身だ。家柄も高く、『中々喰えぬ若者』と  
文官たちは次世代の担い手として期待を寄せられている。  
面もよく、話も上手い。妻帯こそしないものの慕い合う女が  
居た筈。相談したのはその事もあった。  
「で?どうしたいんだよ?」  
「どうって…」  
言葉に詰まる。考えてみると明花に何を望んでいるのか全く分からない。  
ただ笑って欲しいと、幸せでいて欲しいとしか思っていなかったのだ。  
とりあえず鶏の腿肉を飲み込み一言。  
「笑って、欲しい…のか?」  
「俺が知るかよ。それに何だ笑って欲しいって」  
「よく、俺にも分からん。ただ笑って欲しいとしか考えてないな…」  
温安は少し肉を骨に残し、路の端にいた野良犬に投げた。犬は嬉しそうに  
くわえるとそそくさと夕闇に消える。  
「もう、追い出すか夜這うかした方が良い」  
「なっ!?」  
梢統が投ようとした骨は、大きく外れ河に沈んだ。  
「一回彼女にお前の本音、打ち明けてみろ。駄目なら諦めろ。  
運や巡り合せってのは、あるんだよ。・・・・・・・・そんなもんさね」  
「本音なんて、だから笑っ・・」  
「惚れてんだよ。どっかで」  
一瞬、声を落としてから温安は踵を返す。  
「どうした?」  
「どうしたって、話してるうちに結構家から過ぎたからな」  
違う。温家はまだ先。怪訝そうな梢統の顔に気がついた。  
「お前の話聞いてたら、会いたくなった。俺は抱くぜ?」  
自分より一つ年上なだけなのに、よく考えていると尊敬したが  
要は場数を多く踏んでいるようだ。最近は一人に絞っているから  
まだましなものの。  
「ところで、今まで女を抱いたことは?」  
返答はしない。出来ない。温安の小馬鹿にする笑い声が聞こえた。  
 
意は決した。  
食事は二人で卓を挟むようになっていた。梢統からそう言った訳だが、あれ以来  
言葉も少ない。髪にはその時あげた櫛をしてある。似合っている気はする。  
「……明花」  
「っはい」  
名前を呼ばれ多少動揺したように、目を大きくして返事をする。  
初々しいさまに心音が高くなりながらも梢統は続けた。  
「その、何も持たなくて良い。後で俺の部屋に来て欲しいんだが、良い・・か?」  
更に大きく目を開き、明花の顔は赤くなる。  
「しゃ、梢様の・・・・分かりました。準備させて・・・いただきます」  
深く頭を下げたまま皿を持って奥へ駆けて行った。  
梢統は一人腰掛け、気を吐く。  
あれで良かったのか?長東から教わったことは何一つ出来てないで無いか。後戻りは出来んな。  
背水の陣。実戦など比で無いほどに緊張していた。  
二刻(三十分)。来るまで、軍記をまとめた。廊下からの足音が部屋の前で止まる。  
「・・明花です」  
「入ってくれ」  
小さく音を立て扉を開ける。先ほどと同じく顔は紅潮している。  
目が合う。もう目はそらさない。  
「座ってくれ」  
寝台の自分の隣を指す。明花は小さく頷き一声礼を言うと腰掛けた。  
少し沈黙が流れてから梢統から切り出した。  
「今日、親友と帰路を同じくしてな、お前との事を相談した」  
温安が居たならばすぐさま止めているだろう。こんな無神経なやり方は  
言語道断とでも言われるだろう。明花は黙したままだ。  
「そいつは俺に明花を寝取れと言ってきた。だが、俺はそんな事はしたくない」  
「梢様・・・何を?」  
「惚れている。俺が明花にだ。俺みたいな無粋な奴はこうとしか言えん」  
言うしか術を考えられなかった。自分が恋をしているのに気づかされてから、  
そんな方法しか思いつかなかったのだ。  
「俺は、明花を愛しているがそれ以上に幸せになって欲しい。同族を斬った俺だ。  
この事が枷になるなら、忘れてしまってくれ。知り合いで養ってくれるあてもある」  
言い切った。巡り合せ。良いでないか。やれるだけは、やった。  
「梢様は…」  
今度は明花の言葉を待つ。干渉もしない、純粋な答えを待つ。  
「梢様はずるいです…確かに梢様は一族を斬りもしましたし、皆散り散りにしました。御怨み  
申上げる気も最初はありました。ですが貴方様の私どもへの配慮は勝利者のそれの度を超えています。  
……こんなにされてどうしていられましょうか」  
こんなに明花が喋るのは始めてだって。まだ、言葉を待つ。  
「お慕いしております。梢様」  
唇を寄せた。ぎこちなく触れ合い、離れる。  
「……抱くぞ」  
「・・はい、いらして下さい」  
一度強く抱きしめた。  
 
柔く、温かい。抱き合う。それだけでも幸せだった。  
押し倒しというよりは一緒に跳ぶように寝台に横になった。  
木の土台が少し軋む音を挙げてから、会話が途切れる。見つめ合い、  
頭を撫でてから上になった。何かを言おうとして明花にさえぎられる。  
「大丈夫、です。分かっています」  
流石に野暮かと苦笑して梢統は襟に手をかけた。  
明花の着物は力なく、はらりと弛んで落ちる。同時に目に入る肌。  
白く、一点の曇りも無い。引き寄せられるように見入った。  
あってないような胸に劣等感を覚えているのか、頬を中心に身体中が上気  
したように朱に染まる。もう一度口付けを。聞き覚えた限りの技法で舌を  
割り込む。受け入れるように明花から舌を差し出し、絡ませる。  
何処を如何すれば良いか分からないが、気持ちよいのは分かる。多分、明花も。  
証拠に二人は積極的に動いた。どちらのか分からない唾液は頬を伝って布に染み込む。  
「ん、ふぁあ。ん!」  
息苦しくなったのか声が漏れ出したので唇を離した。口内に残った唾液を果敢にも、飲み込んだ。  
互いに求めるように、三度目の口付けをしながら舌を唇から頬、首筋、肩のくぼみ、そして  
胸へと這わせた。その間、明花は耐えるように震えながらも  
首筋のところで一度、声を大きく挙げた。どうしようもなく興奮させる声。  
そのまま胸に吸い付く。  
「ひゃ!!」  
「す、済まん。・・・・・・・だが自分でも、止められん!」  
右の突起を舌で弄ぶ。吸い、転がし軽く噛むたびに明花が反応を示し、声を挙げるのが  
堪らなく嬉しかった。同時に左を手でつまむ。  
「し、しゃ、梢様・・・・これ以上は、きぃ!ふぃぁ!!あぁぁぁぁ!!!」  
腰を上げ、背をそらすと明花は身震いするように脱力した。  
知識が乏しい梢統でも本能的に絶頂だと感づく。それは軍人の征服者としての  
快感と似たものを覚えた。一人の女性が最もはしたない姿を自分にだけ晒しているのだ。  
そう思うと何かに勝ったような気がするのだ。  
ますます上がる気炎に身を委ねてしまいたかったが、必死で息を整える明花は少しでも  
乱暴に扱えばたちまち壊れてしまいそうだったので理性で押し止めた。  
不思議と心に余裕が出来た。  
「梢様、・・申し訳ございません。一人であられもない姿を・・・・」  
「何を。妖艶・・・と言うより可愛いものだったぞ。っと、だが俺も」  
そろそろ下がまずい。かつて無いほどに怒張しているのが触らずとも分かる。  
帯を解き、張り詰めたそれを出す。明花は言葉に詰まる。  
 
「では・・・・」  
「えっ!?」  
「どうした?やはり、嫌か?」  
「いえ、嫌ではなく・・・」  
何か言いにくそうに口篭もる。  
怖いかと尋ねても、違う。  
「その、将軍様らは、満足するために・・・・・女どもの・・く、口に挿れるのだと  
聞き習って・・・きましたので」  
笑った。これも余裕が出来たおかげだろう。  
「ははは!そうか、そう習ったか。くく、安心しろ。それはあくまで戯れだ  
無理強いはせん。したいか?」  
「いえ!あ、梢様がしたいと言われるなら・・・・」  
「いい、いい。俺も、遊んでいたらまずそうでな・・・・挿れるぞ」  
茶色がかった髪を縦に揺らした。  
初めて体験する情交。なんだかよく分からなかったが聞かされていた  
本番と言うのが、いまならよく分かる。  
小柄な明花の身体に等しく初々しい膣に当てがう。  
手を添えながら先端から、埋めてゆく。  
「くぅ、ふぁく!」  
湿った中は引き込むように梢統の侵入を受け入れる。  
壁。『初めて』の証拠に立ち止まる。  
「いいんだな?」  
聞いたきり、返事は聞こえない。ただ首筋にかけられた腕を了承ととり  
力を込めた。鈍い音は一瞬、明花の顔を歪めさせた。  
「痛いか?」  
「大丈夫です。もっと・・・貴方の、お好きな・・ようになさって下さい」  
ずぶずぶと棒を沈めこむ。全部入りきると、引き戻す。  
凹凸のある内部の壁は分身を伝って、梢統に絶え間なく快感を送りつづけた。  
「はっ!はっあん、梢様の・・・あぁぁく!」  
明らかに先ほどと違う明花の反応。  
淫核をこすったようだ。加虐心が湧く。  
「明花、ここか?」  
「そんな!梢様!!んぁん!きゃぁぁあ!」  
狙った一点に擦り付けるように腰を振ると、いとも簡単に昇天してみせた。  
脚を梢統の腹に絡め、更に密着する。口付けをし、互いに唾液を注いで、飲んだ。  
次第に動きは水音と共に大きくなり、そして  
「うっ!く!!」  
「ひゃ、ひゃおっさま!!し、梢様!!」  
一際大きな快楽の波と同時に明花の中で精を放つ。  
脚をだらんと垂らし倒れこむ。  
「明・・花」  
梢統もそのまま重なるよううに寝込んだ。  
 
 
それから一度情事はしていた。それはいつものよう終えた後、二人で  
寄り添っていた時のこと。慣れたのか、すぐに眠ることはない。  
梢統は何か小箱を取り出した。  
「なぁ、明花」  
「はい」  
「手、出してくれ」  
分からないまま差し出された、手首を握った。  
梢統は小箱から小さな指輪を取り出す。  
「・・・これは?」  
「西方では古来から伝わる伝統らしくてな」  
そこまで言うと賞等は一度大きく息をはき、続けた。  
「男から求婚する際に渡すらしい。分かるか?」  
察しがついたのか顔は緊張し赤みがかる。切れ長な眼は  
大きく開いてこちら見つめてきた。  
「明花、結婚してくれないか?」  
「・・私とで?」  
「他の明花はいないだろうに。明花。お前だ」  
混乱しているのか言葉を失う。  
「で、っでも私のような者では・・・」  
「家柄も、世間の目も気にするな。梢洪台(シャオ・ホンタイ)が  
明花という一人の女性を愛している。それだけでいい。俺はそう思う」  
梢統も言い切ると顔を赤くした。  
「まったく、貴方様は・・・私に良くし過ぎです」  
もう一度、まったくと呟くとしっかりと見つめた。  
「私でよろしければ、喜んで一生お供いたします」  
「明花で良いのではない。明花がいいのだ」  
そっと細い指に輪をいれる。何のこともない動作が  
二人には何刻も続いたように感じられた。  
何も言わずとも唇を寄せ、二人で眠りについた。  
 
後の事。車騎将軍の息子の髪が、茶がかっている理由は両親と幼馴染の  
相国しか知らない。  
 

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