小さく火を吹いた。龍の血は、薄くない。
文。それも祝いの文章。
一月に梢統が、祝言を挙げた。続いて触発されたように温安も
同じ月のうちに、娶ったらしい。
友として祝うべく会いに行きたかったが、無理である。
アル=フロイセンは遠く西の地にいた。龍の血を引き継ぐ少し赤みがかった髪と
整った目鼻立ち。歳は十七と梢統より上だが、背丈は高くない。そもそも梢統と知り合ったのは
数奇な運命かもしれない。今と変わらずエラサレス王朝の『龍槍隊隊長』、友好関係を保つため
増援として参戦した先で、知り合った。指揮が巧い。特に
歩兵隊を見事に動かせて見せた。同じほどの歳であるだけにライバル意識が生まれた。
「馴染めたか?」
夜、アルの幕舎に訪れて最初に聞いてきた言葉。それが精一杯覚えた言葉だったらしく
あとは、酒を頼りに手振り身振りで話した。
結局、東西連合は戦争に圧勝。かなりの余裕が出来るはずだったが
今後の二国の協同に話が長くかかり、予定以上に異国の地で過ごすこととなった。
その間、梢統と語る時間が出来た。一ヶ月もすればお互いの言葉に支障はない。
始めて見る類だが、好きな人間だった。美味い店があるのだ、とわざわざ貧相な食堂にも行き
名もない民と酌み交わす。大抵初見では気味を悪がる龍の血も、格好が良いと
憧れてきたときは思わず声を出して、笑った。
そんな梢統の事だ、惚れた女なら仮に異民族であっても厭わないだろうと小さく笑う。
「だったら俺とは真逆だな・・・・」
龍族。そういうものが、いるのだ。幾代も前のこと。龍の血を啜った一族の者が稀になるらしい
火を吹き、尾が生えている。腕は鱗の名残か硬くなり、流れに合わせれば矢程度ならはじける。
腕力だけで石を砕くのも難くない。
異質であった。
魔族だと忌み嫌う者もいる。世間など、そんなもんだ。アルは宿命だと割り切っている。
今一緒に紅茶を楽しむ少女。彼女は受け入れてくれる一人。
理解されるのはほんの一握りで十分だった。
背の半分まで伸びたブロンドの髪。屈託のない穏やかな美貌。
リファ=エーゲナー改めリファ=フロイセン。妻である。どちらかと言えば
恋人や馴染みと言ったほうが似合いそうな気もする。
上官の計らいで娶ることになったが。情けないことに、未だに
話すと心音が高鳴ることがある。結婚してから、惚れた。
「クッキー」
「ん?」
「焼いてみたの。どう?」
仮にトカゲの炭焼きが入っていても不味いなどはアルには言えまい。そもそも不味くない。
「美味しいと想うぞ」
リファが屈託なく笑って見せるとアルは顔を赤くした。
「あっ、と。そういえばリファ・・・」
毎回これは、心臓に悪い。龍族で最も難儀な所だ。
「『そろそろ』なんだが、あ〜」
「分かってる。大丈夫・・だよ?」
リファまで赤くなり、恥ずかしさごまかしにクッキーに手を伸ばした。
優雅、ともいえないが微笑ましい朝食を済ませて、仕事に向かう。
今日は毎月行なう調練で十人の将校と刃を交える日。一種デモンストレーションだが、こうすると
向上精神からか団結力も士気も上がるのだ。内で競り合う隊。アルの理想の組織が出来る。
木剣。それに尾。一人目が渾身の力で薙いできた。肘で、空いた脇を打つ。将校は息がままならず
倒れこむ。
「同時で構わん!」
アルの叫び声と同時に一人、飛び掛る。一人の手首を叩き、得物を落とさせた。
棒を顔の前に突きつける。その間に背後から跳んできた、二人がアルの尾で叩き落とされる。
雄たけび。駆けて来る四人にすれ違いざまに、鳩尾を突く。汗。見守る兵の額は濡れている。
一人の脚を払い、崩す。最後に、尾を
気がついたときには将校十人全員が倒れていた。
龍槍隊と名乗るだけに、隊員は全員が龍族だ。アルは中でも、異常だった。汗も少ない。
木の棒を三度小気味よく音を立てながら地を突き、自慢げに笑って見せた。
「終わり!!明日は・・・・・休み!」
はちきれんばかりの兵の声。その中心で笑うアル。
それは怪物じみた王国最強の将軍ではなく、言うなれば悪餓鬼どもの大将格のような顔だ。
酒を持ち出して、階級問わず専用調練場で騒ぐのは龍槍隊の恒例行事。
激しいときは、アルが頭から酒をかけられることすらあった。
そんな不良でも実戦では並み軍隊では一刻と持たない。
常人と比べ圧倒的に強く、好戦的。種族的に有利な龍族。その龍族の最大の欠点。
欲求が定期的に理性を勝る日がくるのだ。
下手に抑えようとすると、気が狂う。はたまたなりふり構わず、犯すしかなくなる。
そうなった者を何人か都市の牢獄で見たこともある。
アルが初めてそれに襲われたのは四年前。まだリファが嫁いでくる前
のこと。押さえきれぬ肉欲を娼婦が喋らなくなっても続け、晴らした。
死んでいた。いつ死んだのか分からぬほど狂ったように抱いたのだった。
二人を壊してしまってようやく、『対策』を見つけるに至った。
『来る』前に情交で晴らす。それしかなかった。
だからリファとは定期的に体を重ねることで、発狂するのと、何より
リファを殺してしまうのを防いでいた。今回はこれで五度目。毎度申し訳ないと想う。
自分が愛すれば、愛する程リファを苦しめている気すらした。
が、だからと言って結局どうする術もなく、結局家に帰りリファの部屋を訪れた次第だった。
やはり、気まずいものがあるのかリファはベットの中で赤くなっている。
「スマンな。本当は・・・・・」
「いいの。アルちゃんは謝らなくて」
「アルちゃん、か慣れな・・・」
バスローブのアルの手を、そのまま体をリファがベットに引き込む。
地上最強の龍族もたった一人の女性に敵わなかった。
アルが倒れたことでベットが少し弾んだのを楽しむように笑う。
「分かってるから」
「何を?」
「私を、本当に大切に想っていてくれてるんだって。
国でも最高峰の軍人なのに、奇人の学者の娘でも愛してくれてる」
瞳が潤んでいた。溢れそう溜まったのを、知らぬ間にアルの指が拭う。
「アルちゃんと居る。それが本当に幸せなこと。だから
私の全てを貴方に捧げるの」
そこまで言うと言葉を失った。
もう言葉は必要なかった。
俺のものだ。アルの意志とは別に体が叫んでいた。
「アルちゃん・・・・」
服は既に剥ぎ取られ、床に散乱している。ベットの上で二人は
腰掛けるようにして向き合った。最愛の夫であっても怯えている。
分かっていても、止めがたかった。まだ『来ていない』
とは言え、いざとなると体がひとりでに動くのだ。
「済まん」
短く、それしか言えなかった。目の前の柔肌。血が疼く。
「ひゃは!アルちゃん。んく!!キ、キスして・・・」
いきなり胸のふくらみを揉むアルに、小さく嘆願した。
応えるようにアルが唇に吸い付く。舌を絡めると、少し口を離す。
互いの間で、舌と舌交わらせているのがありありと見える。少し
意地悪になるのが好きだった。唾液が二人の間で垂れ落ちる。
アルの思惑通り、次第に顔を赤くするリファ。舌に集中しながらも
羞恥心で瞳が潤む。やりすぎると泣き出しかねないと、一度、唇をつけてから離れた。
「っ・・・」
「やりすぎたな・・・ごめんな」
一度鼻をすする音を聞きつつも、再び柔らかな胸に手を伸ばす。
リファはアルと同年、つまり十七であるが発育は良い。
アルの手が動くたびに、その乳房は自由に動いた。
「やっく!ふ・・・・ん!」
しなやかに体をくねらせ、合わせるように艶やかな声を漏らす。
顔をうずめ、吸い付き、渇いた獣のように暴れた。
「ひぐっ、っちあ!!んんん!!」
弓なりに躯をよじると、ぐったりとアルに体重をかける。
じわりと、秘部からシーツへ、愛液が伝う。鼻先にまで迫る髪を撫で、強く抱きしめた。
「リファ・・・・・」
まだ、浮ついたままのリファを寝かし、重なるようになってから秘所に手を伸ばした。
手を掴まれる。
「だぁ・・め。はぁ。アルちゃんが気持ちよくならなきゃ・・・・・ね?」
弱々しくもしっかりと握った手に従い、アルが横になった。
「私だった・・・・・出来るよ?」
大きく下にさがり、アルのに触れる。
先端に少しゆっくりと顔を近づけ最後にこちらを見た。こんなのは初めてだ。
「無理・・・・しなくていいんだぞ・・・・・」
大丈夫。と小さく呟いた息が性器に妙な感覚を引き起こさせる。
そのまま、よそよそしく先端を飲む。最初、顔をしかめてから我慢するように更に
深く咥えていく。生暖かい、ぞくりとするような快感。舌のざらついた
感触と温かい口、くちゅくちゅと卑猥な水音。何よりおぼつかない表情で
懸命にフェラチオをするリファ。それらの全てがアルを刺激した。
「っ、離れ!!」
離れるのが一瞬遅れた。思い切りリファの口内に吹きだしてしまった。
リファはどうすることも出来ず、アルのを溜め込んだまま、苦そうに
眉間にしわを寄せている。ふと、何か吹っ切ったのか一気に精を飲み下した。
「お、おい」
「っこほ!けほ!!気持ちよかった?」
上目遣いで咳き込みながら笑って見せた。彼女なりの情事での尽くし方だったのだろう。
淑女などとはかけ離れた、天真爛漫な少女だがどんなladyと呼ぶべき夫人と比べても
恥ずかしくない。
「ありがとう・・・・けど、もうそんな無理しなくて、いいから」
微笑みかける。気を良くしたかリファも屈託なく笑い返してくる。
一度、頭を撫でると眼で合図をとって、互いの性器をつけた。
「うん・・・・来て」
すでに雄を迎える準備の整ったように、秘所は濡れ、肌は上気している。
爆ぜる。アルの血が一層わめき出した。腕と尾でリファの躯を軋む音がしそうなほど
締め付け、密着しズブズブと分身を体に挿入していく。
「ん!アルちゃ・・・・・すご・・・きあ!」
一気に最深部まで入れ込むと尾を緩めた。
露に結合部が視界に入る。髪をそのまま持ってきたような、ブロンドと猩々色の毛が
卑猥にこすれあっている。悪戯に笑ってみせた。
「もう・・・・アルちゃん、うえっ、ひっぐ、意地悪・・・えぐッ!」
とうとうその嗜虐的な性癖が、少女を泣かせてしまった。
こうなった時このサディストが取るのは動くことしかなかった。忘れるほど快楽を
与えつづけ、ほとぼりが冷めてから謝るしか他ない。
今宵もそれに従い、泣き声を一瞥してからすぐに、大きく動いた。
グチャグチャと遠慮なく中で暴れる。リファはまだぐずりながらも、刺すような快感に喘ぐ。
激しくキスをしながら、尾で胸をいじる。飽きたように胸から下半身へ。
「あん!くぅ・・・・ひ!!一緒は無理だよ」
「じゃあ、こっちなら・・・・」
リファが変な顔をした。尾はリファの尻をまさぐり、後ろの穴を犯していく。
「な!!んんん!!きい!」
痛みが走り、アルの背に回していた手に力が入り、ぎりぎりと爪をたてる。
そのうちおかしな感覚に襲われた。後ろを好きなように挿入されているのが
どうしようもなく、快感に変わってきたのだ。そうなると今までと比にならない
甘い快感がリファに押し寄せてくる。
「ああああ!私ぃ!い、犬みたいに!!」
よじり、狂おしいほどの快感に身を委ねた。二人だけの世界にいる気がする。
「も、もう!!アルちゃん!!ひぎ!!くあぁあああ!」
白。薄れ行く意識でそれだけを感じた。
「ごめんな・・・」
汗ばんだ肌を寄せ合って朝を迎えた。窓から朝日が差し込む。
あの後からベットから動くのが面倒なほど、セックスをしていたらしい。
二人とも覚えていなかったのは、顔を見合わせて笑った。
「いいよ、そんなに」
リファが更に肩を寄せ来た。応じるように頭を傾ける。
「ねぇアルちゃん」
「ん?」
「龍って大きいんだね。この間初めて、見つけたよ」
宝物を見つけた童女のようにリファが話す。今や龍など
山奥でも滅多に遭遇しないだろう。相当の運か巡り合せか。龍によっては
会ってもも喰われるか分からない。
「そうか、見つけたか」
「信じてくれる?」
「だって、見たんだろ?リファが言うなら、信じるさ」
「アルちゃん」
「ん〜?」
「大好き。アルちゃんのお嫁で良かった」
「俺も」
キスをした。食卓で思いっきり笑って、時々途方もないことで悩んで、倒れるまで
抱いて、ゆっくり愛し合う。型に外れるがこれも幸せな形だろう。
アルはまぶしそうにに眼を細めた。