顔を掠める矢の音を聞いたときのような−  
あるいは、峡谷を進軍中に奇襲を受けたときのような−  
つまりは、日常では経験するとは思っていなかった緊張感であった。  
「食欲がないのか?」  
ない。現在、梢楓の食欲は全くと言って良いほどなかった。  
「食べなければ、治る怪我も治らんぞ」  
「あ、あぁ…」  
対面する雪李妹は驚くほど怒りを抑えている。それゆえに、声音の張り具合や  
微妙な手先の仕種に表れる度に梢楓は恐れた。  
「…シェリー」  
「どうした?」  
「………………あの医者のことだが」  
一瞬、こちらを見つめた後、雪李妹は羹を啜り目を伏せた。ろくに聞く気がな  
いのかも知れなかったが、梢楓は続けた。  
「隠しても何にもならん。俺はあの女と寝た。一晩だが、紛れも無い事実だ」  
目を合わせられず、沈黙が続いた。しばらくして、静寂を破ったのは雪李妹だ  
った。  
「秋応程にもなれば、妾を囲うのも当然だ。そのくらい大したことでもあるま  
い」  
この言葉が嘘でないことが梢楓には分かった。というよりも雪李妹は嘘をつけ  
ない。生来その手のことが頗る苦手らしく、すぐに声音が乱れるのだ。  
「ただ、私はあの女が気に入らん。それだけだ。秋応は悪くない。私が狭量な  
だけだ」  
 
 
悔しかった。戦場から帰って真っ先に、自分を見てほしかった。  
「ふふ、浅ましいな私は…」  
自室に戻った雪李妹は、臥床に腰掛けて窓から外を眺めていた。雨。梢楓と出  
会ったのも雨の日だった。五年も前のことだが、忘れなどしない。  
(変わってしまったのか…?)  
自分は梢楓を第一に想って生きてきた。そこに一切の疑いはない。ならば変わ  
ったのは梢楓のほうか。  
(秋応を疑うなど、変わったのは私か−)  
「情けない」  
寝よう。燭台に息を吹き掛けようとしたその時、扉をこつこつと打つ音がした。  
 
「秋応か?」  
「あ〜。雪李妹ちゃん、だったかしら?ちょっと今から良い?」  
「なっ…」  
あの医者の声だ。いま一番会いたくない人間、瑤耶のものだ。  
「貴女が私に怒ってるのは分かってるわ。ただ、阿し…っとぉ、貴女の旦那か  
ら頼まれてるの」  
意外な事だった。自分が怒っていることは承知の上で、梢楓は瑤耶を差し向け  
たと言うのか。  
「で、これは私も早めに済ませておきたいから…えっと〜駄目かしら?」  
ここで通さなければ雪李妹が梢楓の命すら聞かぬ不出来な女と言われるかも知  
れぬ。  
(考えたものだな…)  
そういえばこいつは姦狐と呼ばれているらしい。なるほど抜目ない狐だ。雪李  
妹は入れねばならぬと悟って苦笑した。  
「分かった…」  
「ごめんなさいね。でもこれも契約だから」  
女は苦笑い浮かべ、わざとらしく頭を下げながら入って来た。手には何か入っ  
た麻袋が握られている。  
契約と言うのが気になったが、極力口をききたくなかった。こちらから話し掛  
けるなど論外だ。  
「でね、旦那さんから頼まれたの。ちょっと口開けて下さる?」  
声の事か。大体察しはついた。しばらくの間、この家に上がり込む代価として  
雪李妹の治療も入れてあったのだろう。考えてみれば、梢楓のやりそうな事だ。  
恐らく瑤耶からしてみたら驚くほどすんなりと口を開いた。東の方では『良薬  
口に苦し』という言葉があるとか。雪李妹はふと思い出して、よく出来たもの  
だと感心した。  
「火傷ね…奥が……なるほど…」  
ぶつぶつと呟きながら、瑤耶は口の中を観察している。金属の棒を舌に当て、  
奥まで丹念に診察した。  
「うん。喉をやったのは昔の事?原因は?」  
「…十五年前、灼けた空気を吸った」  
「そう…。痛んだり血が出たりしたことはある?」  
「血は出ない。ただ痛む事は稀に」  
「な、る、ほ、ど…」  
少しの間考え、瑤耶は上を向いて眉を顰めた。また何かを呟いてから、麻袋か  
ら小瓶を取り出した。  
「飲み薬よ。甘苦くて気持ち悪いかも知れないけど、我慢して飲んでね」  
気味の悪い液体だった。瓶の中で揺れる青く濁ったそれは、薬草に造詣のある  
雪李妹も見たことがない。  
 
「怖い?」  
「なに?」  
「毒だったら?邪魔な妻を殺すために、姦通した女医が…って考え始めたら止  
まらなくなるでしょう?」  
「どういうつもりだ」  
瑤耶が意味深にクツクツと笑う。異様なまでに冷めた目だ。  
「見たこともないでしょ?それ。飲むかどうかは貴女が決めて」  
「…」  
どういった意図があるのかは分からない。だが、雪李妹の気持ちは固まってい  
る。蓋を開けると、一気に全て飲み下した。  
「あらあら勇敢ねぇ。完全に致死量ね。自棄かしら?」  
口元を拭った雪李妹は言う。まだ何も異変はない。  
「秋応が考えたことでないなら、私がいなくなってもお前を選ばんだろう。画  
策していると言うなら考える余地はない。秋応の隣にない生に意味などない。  
私は秋応に従う。それだけだ」  
雪李妹は瑤耶を見つめた。不敵な笑みを浮かべていた瑤耶が、呆れたように両  
手を振った。  
「負けね…貴女には勝てそうにないわ。ごめんなさい。毒っていうのは嘘」  
「何故こんな事を?」  
「治療よ。貴女の感情を振れさせる必要があるの。血の巡りを良くするために  
ね」  
「本当にこれで良くなるのか?」  
「それだけじゃ無理。まぁ、そのうち来るわ」  
「『来る』?…!?」  
体の異変に気づくまでにそう時間は要さなかった。熱い。体の奥が燃やされて  
いるような感覚に、雪李妹は耐えられず寝台に倒れた。  
「貴様…!!」  
「本当に毒じゃないわ、毒ではね。ただちょっと…ふふ、媚薬でもあるの」  
「は…ぅ」  
瑤耶の手が雪李妹の着物の合わせ目に割って入る。明らかに異常なことをされ  
ていると言うのに、熱を持った体は、脱がされる事を喜んでいた。  
「本当に肌綺麗ね。ふふふ、ほんのり紅くなっちゃって…その苦しそうな表情  
も…可愛い…」  
 
「ほぉら、口開けて」  
「ふ…は…」  
(どうかしている…止められぬ…それどころか…)  
欲している。夢中になって瑤耶の唇を求める自分を、異常だと理解するのが精  
一杯だった。瑤耶の舌に、歯茎をなぞってもらうと胸が高鳴る。頬に手を当て  
てもらうと恍惚としてしまう。口が離れると、辛くて泣きたくなった。  
「まだ…」  
「んふ…本当に可愛いのね。でもね、治療は私だけじゃ出来ないのよ。そろそ  
ろ頼んだ時間だから」  
足音がする。雪李妹には誰の足音か分かった。そもそも今この屋敷には雪李妹  
と瑤耶の他に、一人しかいない。  
「シェリー、入るぞ…!?」  
「…だ…駄目…」  
梢楓だ。見られてしまった。だらし無く服がはだけ、口の周りを涎まみれにし  
ながら息を乱している自分の姿。それでも、布団で身を隠すことも出来ない。  
「シェリー!っ瑤耶…!」  
「怒らないでよね。治療よ。貴方が必要なのも本当よ…」  
この時、瑤耶は初めて梢楓を恐れた。戦争中の武器を振るう時よりも、徒手の  
今の方が恐ろしかった。  
(やっぱり『梢』…)  
瑤耶はこの怒れる猛獣をどう抑えるか、冷静を装って思案した。  
 
 
「秋応…待っ…て」  
全身の熱を吐き出すように息をしながら、雪李妹は梢楓に呼び掛ける。  
「済まん…苦しかったろ」  
苦しくなとなかった。むしろ気持ち良かった。気持ち良くて仕方がなかった。  
梢楓以外を相手にして。それが何より辛かった。  
「済まん…こんな痴態を…」  
「気にするな」  
梢楓は躊躇いなく抱きしめてくれる。雪李妹は胸が詰まりむせび泣いた。  
「あ〜…良いかしら?」  
「瑤耶…これから一片でも偽れば首が飛ぶぞ」  
「分かってるわよ。治療と言うのは本当、シェリーちゃんに飲んでもらったの  
は『妖葛根』っていう薬。体の気の循環を高めることで喉にも気を循環させら  
るようにしたわ。ただこの薬、勿論全身に気を送るから、性も高ぶっちゃうの  
よ」  
一拍置いて瑤耶が再び口を開く。  
「あと貴方を呼んだのも意味があるわ。妖葛根だけじゃ足りない物があるの」  
 
抑えられなくなった雪李妹が、必死に梢楓のモノをくわえる。五年と二月−雪  
李妹と出会ってから肌を重ねたことは何度もあったが、口淫は初めてであった。  
それは偏に雪李妹の喉を労っての事だったが、精を飲むのが治療になるとは思  
いもよらなかった。技術こそ瑤耶には劣るものの、雪李妹がしているという事  
実が何倍も興奮させた。  
「私の時より気持ちよさそうじゃない」  
「…っ」  
瑤耶がからかうように先日の夜の出来事を明かすが、雪李妹には届いていない。  
一心不乱に愛しい人のものを奉仕する姿に、瑤耶も根負けしたように息を吐く。  
「っシェリー…もう出すぞ…!!」  
「気をつけなさい!一滴も零さないつもりで飲んで!」  
可能な限り奥までモノを納め、雪李妹が射精に備える。見たことが無いくらい  
だらしなくいやらしい顔が梢楓への決定打となった。  
「ぐっ!!」  
「ん!?うんぅぅ…!!んばっは!!ぶぅ…!」  
幸か不幸かいつもより吐精量が多い。雪李妹は苦しそうにそれを受け止め飲み  
下す。  
「っはぁ…はぁ…本当にこれで治るのか?」  
「医者は絶対と言わない。けれど約束するわ、この子は私が治してみせる」  
「らしくないな。俺が言うのも変な話だが、そんなに思い入れが?」  
いつになく真剣な表情で瑤耶が雪李妹を見つめる。悪戯っぽさが影を潜めてい  
る。  
「約束よ。昔のね……」  
「……!?ぐぅっ」  
「シェリー!?」  
「来た!?」  
瑤耶は予め用意していた盆を雪李妹の口許に出す。そこに雪李妹が勢いよく赤  
い物を吐いた。血だ。咳込みながら雪李妹が何度も血を吐き出す。  
調練や戦場でいやというほと血を見ている梢楓だったが、この時ほど血で動揺  
したのは、生涯の中で他にない。  
「シェリー!」  
「焦らないで!ここからよ…。お願い、出して…!!」  
祈るように、耐えるように瑤耶はその時を待った。咳込み続けた雪李妹が喉に  
何かを詰まらせたように息を止める。苦しさに顔を歪める様を、梢楓は自分の  
事のように辛そうな表情で見た。  
「あご………っがふ…!!」  
血に混じり、黒い塊が吐き出された。瑤耶が待っていたものはこれのようだ。  
目に涙を浮かべてそれを受け止めた。  
「瑤耶…」  
「もう大丈夫…あとは、しばらくゆっくりと治していくから」  
 
 
あれから十一日、梢楓は雪李妹と会っていない。  
何でも「感情を高ぶらせる刺激は入れてはいけない」らしく、ひたすらに部屋  
に篭っている。その間の雪李妹の世話は、瑤耶が驚くほど献身的に行った。梢  
楓が知る限りでも朝餉の薬膳を運び、診察か何かをし、昼には前日の服を洗い、  
夜に雪李妹が寝付くのを確認してから部屋を出た。  
あの涙を見てから、梢楓の中の瑤耶への猜疑心はすっかり溶けてなくなってい  
たから、もう何も言うこともなかった。  
「三日後の夜、夕餉の後に会わせられそうよ」  
廊下ですれ違ったとき瑤耶は言った。とても姦狐などと呼ぶには相応しくない  
爽やかな笑顔に、思わず梢楓は頭を下げた。  
「礼を言うと共に謝らねばならぬ」  
「いいの。私は報酬分働いてるだけ」  
嘘だ。瑤耶は明らかに雪李妹に何かを抱いている。それが何かは分からないが、  
その何かによって瑤耶はよく働いている。  
「一体…」  
尋ねようとした梢楓の口を、瑤耶が立てた人差し指で止める。  
「まだ駄目。頃合いをみて教えてあげるわよ阿梢」  
少しだけ妖しさを帯びた笑みを浮かべながら、瑤耶は過ぎ去った。梢楓が振り  
返った時にはもう姿はなく、ただ生薬の混じった彼女の匂いだけが残されてい  
た。  
 
 
「ようやく貴方に会える、って嬉しそうにしてたわ」  
「この十余日で愛想尽かされなくて良かったよ」  
「嬉しいくせに、もう照れちゃってぇ」  
「ふん…!」  
クツクツと笑いながら、瑤耶は梢楓を部屋に連れていった。当然梢楓の方が熟  
知している屋敷なだけに、何やら妙な気分だ。  
「シェリーちゃん、入るわよ」  
ゆっくりと開いた戸の先に、彼女はいた。  
「ほら、なんかないの?」  
「少し…痩せたかな?まぁ、元気そうで良かった」  
浅葱色の服に身を包み、寝台の上に静かに佇む雪李妹はわずかに窶れているよ  
うにも見えた。口許を布で隠しているのが、厭世的な性質を持つ道術士の装束  
によく似ているせいかも知れぬ。  
目で柔らかな笑みを作ると、雪李妹はそっとその布の結び目を解いた。そして  
ゆっくりと口を開けると息を大きく吸った。雪李妹の細かな仕種まで梢楓はじ  
っと見守る。  
「……随分と待たせてしまったな秋応」  
初めて聞く、しかし確かに雪李妹のだと分かる。はっきりと、声が出た。  
 
中性的なその声音は、梢楓にはどこか神秘的なものすら感じさせた。  
「よく、頑張ったな……」  
十五年−火傷を思い出してかうなされたこともあった。梢家の若妻は挨拶も出  
来ぬとあらぬ誤解を受けたこともあった。その度に鬱屈した思いを抱え込み、泣いた。そんな日々と別れを告げられるこ  
の声、梢楓はそれに思わず涙した。  
「今まで、要らぬ苦労をかけてしまった」  
「お前が気にすることなんて何もないさ…!シェリー…!!」  
強く、ただ強く抱擁した。雪李妹の肩が濡れる。梢楓の肩にも一滴、二滴と涙  
が落ちて染みを作った。  
「瑤耶…お前にはいくらしても礼が足りぬな」  
「言ったでしょ?気にしなくて良いわよ。私は報酬貰うのだから。そうね、ち  
ょうど良いわ。二人、そのまままぐわって頂戴」  
「!?お、お前はいつも…!!」  
「今更恥ずかしがることもないでしょう?あんな可愛い顔見せたんだしね」  
確かに雪李妹とも瑤耶とも臥床を共にした。だからといって、情交など他人に  
晒すものではない。少なくとも梢楓はそう考える。  
「報酬よ報酬。ちゃんと私はしたわよ。今度は貴方達の番ってこと」  
「…分かりました」  
「シェリー!?」  
「いつも通りで良いんですね?」  
「そ。ほらほら〜シェリーちゃんのほうがよっぽど物分かりが良いわよ」  
どんなことをしてきたのか知らないが、雪李妹はこの十数日の間で瑤耶のこと  
を完全に信用したようだ。確かに喉のことを秤にかけたなら大きく傾くだろう  
が、雪李妹はそれ以上に瑤耶を慕っている節すらある。  
「もう早くしてよね〜男でしょ。それともシェリーちゃんとは嫌なの?」  
「そうなのか?」  
(本当に懐いたな…)  
「…分かったよ。シェリー」  
腹を括って雪李妹の唇を奪った。美しい声音を愛でる気持ちと、自分以外に従  
順になった事への独占欲から来る小さな嫉妬。その二つが混ざり合い、口づけ  
を激しくさせた。  
「あぅ…!!っっ〜んん!」  
首筋を舐めると雪李妹が艶やかな声を出した。今までよりもなまめかしく、淫  
靡な色がある。  
 
そのまま鼻先で重ね目を割って胸を吸った。またも雪李妹が色っぽく鳴き、梢  
楓を喜ばせた。  
「シェリー、ほら脚こんなんだから今日は上行ってくれ」  
「うん…」  
「あら本番?じゃあその前にあれやってみる?」  
「アレってなんだよ?」  
「先生から、習ったんだ。秋応、寝てくれるか」  
(先生と来たか…)  
改めて会っていない間に何があったのか気になった。  
「包むように…小指から……」  
何かを呟きながら雪李妹は梢楓の帯を解く。漲ったモノが現れたとき、瑤耶が  
小さく歓喜の声を上げた。  
「じゃ、やってみましょ?」  
「はい…!」  
愛する人のほっそりとした手が、自分の剛直を根元から柔らかく握る。  
「秋応、どうだ?初めてで下手だろうけれど…」  
ゆっくりと手を動かす。型こそ自慰に酷似しているが、生じる快感は段違いだ  
った。  
「っは…!これ凄いな…シェリー、ありがとな。気持ち良くよ」  
「そ、そうか!良かった!」  
「ね、シェリーちゃんにしてもらっちゃったら阿梢はもう虜って言った通りで  
しょ?」  
手の動きが徐々に早くなり、快感も刺激的なものへと変質する。  
「シェリー離れ…!」  
「!?」  
忠告を言い終える前に、勢いよく精を放ってしまった。手は勿論、雪李妹の顔  
にまでかかる。  
「す、すまん!!」  
「こんなに出して…嬉しいな、やはり」  
頬に飛んだ白濁を指で掬って舐めた雪李妹が苦々しい顔をした。  
「ただこれは…好きになれそうにない…」  
「ならなくていい」  
「ねぇ、ちゃんとまだやれるんでしょうね?これで限界なんて言わないでよ」  
どういう訳だか瑤耶は一人で脱ぎはじめる。その意図が薄々と読めてしまうだ  
けに、二人は動揺した。  
「あえて聞くが、何をする気だ?」  
「分かってるんでしょ?ちょっと混ぜてもらうだけよ。大丈夫可愛い教え子に  
良いモノは譲ってあげるから」  
そういうと女狐は雪李妹に飛びついて唇を奪った。  
 
(まったく、なんでこうなるかな…)  
仰向けになった自分の上で雪李妹が乱れている。それはいい。問題はその雪李  
妹の乳房に女狐−瑤耶がしゃぶりついていることだ。  
「っあぁ!!ひぅ…!先生…強すぎます…うぁぁ!!」  
「んちゅ…ほぉらちゃんと腰動かす」  
「は、はい…いぃ!駄目…!!体…動かせ…んん!!秋応…済まない…あん!」  
瑤耶の前に成す術もなく、雪李妹はただなされるがままに感じていた。女同士  
の交わり。そこに子は成せるはずもなく、不貞とも取れる情事であるが、これ  
程までに淫猥な光景だとは思わなかった。  
「秋応…んあぁん!ああっあぅっあっあっ!!」  
瑤耶に体をまさぐられ、梢楓に下から突き上げられる。逃れられない二人の責  
めに、雪李妹は鳴くほかなかった。  
(も〜突かれてこんなに感じちゃって、シェリーちゃん可愛すぎ!!)  
「っうぁあ!!…そろそろ…来る…!」  
絶頂は愛しい梢楓によって迎えるべきだ、とて瑤耶はそっと離れる。少しだけ  
嫉妬に似たものを感じたが、毎日梢楓と出会ってからの日々を語っていた雪李  
妹の姿を思い返せば、瑤耶の入る隙など元より無かったようにも思えてくる。  
「っあぁあ!はぁあああ!!!」  
確かな絶頂。梢楓は自分にぐったりと覆いかぶさる雪李妹の頭を優しく撫でた。  
「お疲れ様…二人とも」  
「あ、あぁ…」  
「睦言まではお邪魔しないわよ。じゃあね」  
瑤耶が心なしか寂しそうな顔をした気がしたが、すぐに背を向けて出ていって  
しまったので梢楓は永遠に真実を知る機会を失った。  
「ん…秋応…」  
体を擦り寄せて雪李妹が口づけをせがむので、それもすぐに忘れた。ゆっくり  
と深く舌を絡ませる。二人の境界を溶かすようにじっくりと慈しむようにまさぐ  
りあった。  
 
 
「なぁ、秋応…」  
「うん?」  
「ありがとう…それ以外に今は言葉が見つからぬ」  
雪李妹がぎゅっと顔を胸に押し付けてくる。願わくばこんな関係がいつまでも  
続くと良い。梢楓はそう願って優しく背をさすった。  
 
瑤耶が姿を消したのは、三月あとの事だった。忽然と、まさに忽然と、それま  
での同棲が嘘であったかのように、一切の痕跡が消えていた。ただ、使ってい  
た部屋に残された手紙を除いて。梢楓が気づいた時には既に姿がなく、仕方な  
く雪李妹と共に残された手紙を広げた。  
 
梢楓の父、梢統の計らいで従軍した。その言動がよく似ていたことに驚きすら  
感じた。梢統とは目の治療で知り、梢楓の母である明花とも勿論面識がある。  
実は梢楓の事は前から知っていた。というのも、出産で取り上げたのは自分な  
のだから。  
 
手紙の中で瑤耶が語ったことは、大体このようなことであった。話してもいな  
い両親の名を記している事を考慮すると、事実であろう。だが、それが事実だ  
とするならば…  
「一体いくつなんだあの女は?」  
年齢の疑問が残る。二十三、四あたりか。梢楓はそう踏んでいたが、この話か  
らするにどれだけ若くとも三十の後半、むしろ四十半ばと考えた方が話が通る。  
「ふむ…」  
もう何度も読んだ手紙を今一度開ながら梢楓は首を捻った。そのうち、ふと部  
下のから聞いた言葉を思い出す。  
『銀果通りの姦狐』  
全て化かされていた。そんな気がしなくもない。あるいは夢でも見ていたので  
はとも思える。狐が化けたというなら、一晩の間に誰にも気付かれずに消えた  
のも納得がいく。  
「案外、本当に狐なのかもな…」  
「そう言う割に随分楽しそうじゃないか」  
「それでも良いという気がしているのだ、今はな」  
「あぁ、私もだ…」  
たとえ狐であれなんであれ、雪李妹は声を取り戻し、笑っている。梢楓はそれ  
で充分だった。  
「!秋応、包み紙の裏に…」  
文は続いていた。わざわざ見つけづらいところに書く悪戯が、実に瑤耶らしい。  
「なんと書いてあるのだ?」  
「…あぁ、いや」  
読み終えると、梢楓の口許が自然と綻んだ。字が読めぬ雪李妹にはそれがひど  
く気持ち悪かった。  
「秋応!」  
「んっ!?あ、あぁ…そうだな。うん、シェリー…大事に育てような」  
それしか言葉が出てこなかった。喜びが込み上がってきて、雪李妹を強く抱き  
しめた。  
 
 

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