グランヴァル家本館の扉が開いて一組の男女が姿を現した時、もう既に朝日は昇りきって
いた。
二人は肩を並べて本館の建物を回りこむように歩を進め、ゆっくりと厩に向かっていった。
ミラルバ王国の貴族の中でも最も由緒ある名門の一つ、アンツォン家嫡男、レオナールは、
先日自分の銀行で起こった取り付け騒ぎの話をしていた。
「…全く庶民とは愚かな生き物だよ。やはり誰かがきちんと手綱を握っておかないと、で
たらめに走り回ったあげく、勝手に谷底に落ちてしまいかねないね。ハッハッハッ!」
と笑いながら、彼は隣を歩くほっそりした女性に目をやった。
胸元まで伸びたうっすら青みを帯びたプラチナヘアーや、常に冷静さを失わないアイスブ
ルーの瞳から、まだ若干16歳にしてすでに「青の魔女」の異名を持つアマリア・グラン
ヴァルは、やはりいつものごとく無表情だった。
レオナールは内心『やれやれ…』とため息をつきながらも、彼女の怜悧な美貌につい目が
釘付けになる。
『この取り澄ました顔が、ひとたび俺のアレを捻じ込まれるとトロトロに溶けちまうんだ
からなあ…』
レオナールは、昨晩のベッドでの彼女の激しい乱れ様を思い出し、ついニヤつきながら歩
いていると、突然「ドカン!」という大きな音とともに、彼らが向かっていた厩の入り口
から、大きな図体をした男がゴロンゴロンと転がり出てきた。
男はしばらく地面に転がったまま「痛ててて…」とうめいていたが、やがてゆっくり立ち
上がって粗末な服のホコリをパンパンと払う。その尻のど真ん中には、くっきりと馬蹄の
あとがついていた。
「何だよアドリア、昨日の餌は気に入らないみたいだから元に戻したのにさぁ…」
と言いつつのっそりと厩の中に戻っていく男の様子を見て、レオナールは思わず噴き出す。
「アハハハハ…あいかわらず君のところのデカブツ君は愉快だねえ…ハハハ…」
レオナールの爆笑にも、アマリアは眉一つ動かさない。
「…しかしなんだね、いくら奴隷とはいえもうちょっとマシなのをおかないと、魔術界の
名門、グランヴァル家の名に係わるんじゃないかな」
アマリアの眉がピクリと動いたが、花びらのごとき唇から流れ出た声は、いつものごとく
涼やかだった。
「ダグ、レオナール様がお帰りになります。馬をお出しして」
入り口から、ダグと呼ばれた男の顔がひょっこり覗いた。
岩山のような体つきだが、その田舎めいた純朴そうな顔はまだ青年のものだった。
「ありゃ、お早うございますレオナール様、お嬢様。今すぐお出しします。」
やがてダグは栗毛の見事な馬を引きながら現れ、馬を止めるとその脇にひざまずいた。
レオナールは「フン」とあざ笑いながら、その大きな背中に足を掛ける際、わざと乗馬ブ
ーツの踵をきつく食い込ませる。
だが頑丈なだけが取り柄のダグは小揺るぎもしない。レオナールはやや興ざめした表情で
馬に登り、そのままアマリアに軽く手を振って走り去っていった。
彼女は相変わらず無表情のまま彼を見送ると、やがてクルリとダグに向き直った。
「あれぇ、お嬢様、何でご機嫌斜めなんでしょう」
付き合いの長い彼には、一見判で押したように変わらぬ彼女の表情を読む事など容易い事
だった。
アマリアの青い瞳がほんのわずか細められ、次の瞬間ダグの着ていたシャツの袖口がプス
プスと燃え出した。
「あ、熱ッ!や、やめてくださいよお嬢様ぁ!」
と、ダグはあわてて袖をパタパタはたく。
「いい加減馬と馴れ合うのはやめなさい。つけあがらせるからあんな醜態を晒すのです」
氷のように冷静に聞こえる言葉にも、彼はかすかな苛立ちを感じ取っていた。
「あー、そのー、ご命令とあらば頑張りますけど…」
と言いながら彼はクルリと向きを変える。
「いいかお前達、片付かんからさっさと餌を食っちまえ!もたもたするな!」
と声を荒げながらダグが厩に入った次の瞬間、ドガガガン!という音とともに、今度は全
身に蹄の跡を5つほどつけた彼が転がり出てきた。
アマリアはほっそりした腕を組み、思わず小さなため息を漏らした。
朝食後の紅茶を飲みながら、グランヴァル家当主にしてミラルバ王国5大魔術師の一人で
あるロドルフが口を開いた。
「分かっているだろうが、今夜は『大盾』だから少し遅くなる」
「はいお父様」
とアマリアが答える。
『大盾』とは、王宮最上階に設置された、遠隔呪術等を防ぐための魔術装置で、3ヶ月に
一度、ミラルバ王国を守護する魔術師5家の代表が魔力を充填する儀式を行う。
「そういえば、お父様は幾つの時から『大盾』をされてらしたんでしたっけ?」
との彼女の問いに、昔を思い出しながら彼は目を細めて言った。
「18だったかな。だがお前は私より才能が有るからなあ、どうだ、次回あたり試しに」
「ご冗談を。私などお父様にはまだまだ遠く及ばないのはご存知のくせに」
「いやいや、そんな事はないぞぉ、ハッハッハッ!」
朝日の差し込む食堂に、朗らかなロドルフの笑い声が響き渡った。
アマリアは、王立魔術院付属学校に通っていた。
彼女が2時間目の歴史の授業を受けていると、突然事務員が教室に駆け込んできて彼女の
名を呼んだ。クラスが不穏な雰囲気にざわめいた。
はたして、事務室で聞かされた知らせは良くないものだった。
王宮に忍び込んだ暗殺者が王の命を狙い、ロドルフが身を挺してそれを防いだものの、失
敗を悟った暗殺者は自爆、ロドルフは傷を負ったらしい。
アマリアが蒼ざめて病院に駆けつけると、そこには既に王宮の関係者が多数詰め掛けてい
て、口々に彼女に声を掛けてきた。それによると、ロドルフの傷は浅くはないものの命に
別状は無いとの事。彼女は思わずその場にへたり込みそうになるが、次期当主としての矜
持がそれを許さなかった。
面会が許され、思わず小走りでベッドに駆け寄るアマリアを「おいおい」とたしなめるロ
ドルフは、包帯だらけではあったが思いのほか元気そうだった。
彼は、涙をグッと堪えて毅然と振舞う彼女の様子に満足げに頷くと、心配をかけた事を詫
び、続けて彼女に言った。
「朝の話が予言のようになってしまったが、まあ確かにお前なら大丈夫だろう」
「何の事ですかお父様」
「なんだ忘れっぽいな。今夜の『大盾』だよ」
アマリアの顔から血の気がさっと引く。
「なあに、儀式自体は本当に簡単だ。まあそれなりのオドが必要にはなるが、お前なりに
まあ、そちらの準備も出来ているようだしな…」
とロドルフはやや苦笑いを浮かべた。
ダグが鼻歌交じりに馬の水桶に水を足していると、突然アマリアが厩に駆け込んできた。
「やあお嬢様、お館様は大事無くてよかったですねぇ」
との彼の声も全く耳に入らぬげに、彼女は周囲をキョロキョロ確認すると、厩の大戸をギ
ギーッと閉じてしまった。
「ち、ちょっとお嬢様、どうしたんですか」
整った顔をキッと上げてダグを見つめたアマリアのブルーの瞳は、彼が今まで見た事がな
いほど揺らいでいた。
「これから私が言う事は、絶対人に漏らしてはなりません」
「え?あ、はい!」
とダグは思わず直立不動の姿勢をとったが、即断即決が信条のアマリアが、なぜか青い瞳
に煩悶の色を浮かべたまま、次の言葉をなかなか口にしない。
「…あのぉ…お嬢様?」
「お黙りなさい!」
「は、はいっ!」
そしてまたしばしのモジモジの後、やっと彼女が口を開いた。
「オドを…」
「はい?」
「お、お前のオドを私に提供しなさい」
「…………ええぇっ?!」
生体エネルギー「オド」は、全ての魔術の元になる力である。誰でも大なり小なり持って
はいるが、一般人のそれはあまりに量が少なく、ましてそれを魔術として使う事は不可能
だった。
しかし魔術師であっても、大きな魔法を使おうとする場合は自前のオドでは足りないのが
常で、何らかの方法でそれを補う必要がある。
いくつかの術やアイテムが存在するが、実は女性魔術師であれば、男性との肉体的接触で
直接相手からオドを得る、つまり「セックス」が一番効果的な手段だった。
それゆえ、常日頃から複数の男性と性的交渉を重ね、自分と波長のあう男性を探しつつ、
オドをどんどん体内に貯めていくのが、女性魔術師の重要な心得の一つであった。
ダグが頭をポリポリかきながら言う。
「えーとお嬢様、その為にほぼ毎晩、レオナール様とかアンドレ様とかクロード様とかジ
ョルジュ様とか…」
「お、お黙りなさいっ!グランヴァル家の大事、あれだけでは全然足りないのですっ!」
彼女が珍しく狼狽した様子を見せる。
「もしや、もしやイヤだとでもいうつもりですか!」
もちろんダグに異論のあろうはずも無い。
長年憧れ続けてきた美しい女主人を我が手に抱けるなど、命と引き換えてもまだ釣りが来
る位だ。
彼は躊躇無くアマリアのほっそりした体を抱え上げると、厩の奥の一角に連れて行く。
奴隷である彼には無論自分の部屋などない。厩の奥、干し草を積み上げ、大きな布を一枚
かぶせた物が彼のベッドだった。
彼はその脇に彼女を立たせ、そのほっそりした体を強く抱き締め唇を重ねようとする。
彼女はそっと目を閉じかけたが、途中でハッと気付いたかのように青い目を見開き、頬を
染めながらプイッ!とそっぽを向いてしまう。
「ど、奴隷の分際でどういうつもりっ?!お前はオドを補給する為のただの「道具」なの
ですっ!さっさとする事をすませなさいっ!」
「確かに」とダグは苦笑しつつも、興奮を隠しきれない様子で、しかし思いの他手際よく
自分と彼女の服を脱がせてしまう。
素裸にされた彼女は、すぐ目の前に立つ、岩から掘り出したような彼の体をなぞる様に視
線を落としていったが、突然その青い瞳が激しい驚きで見開かれる。
彼の股間から、彼女の想像をはるかに超える、雄々しく逞しいモノが反り返っていた。恐
らく彼女の小さな手では、両手でも扱えないほどだろう。
「…あ…こ、こんな…こんなのって…」
彼女は思わず後ずさろうとするが、彼の丸太のような腕にきつく抱きすくめられてしまう。
彼女の背は彼の胸元くらいまでしか無い。二人の体に挟まれた逸物が、彼女の白くなめら
かな腹部から、まだ小振りだが形よく膨らんだバストにかけ、カチカチに反り返ったまま
押し当てられ、ドクン、ドクンと激しく自己主張する。
「わ…私、お前に…こんなので犯されてしまうの…」
胸苦しげに浅い息をつく彼女の耳にダグはそっと囁いた。
「もちろんです。しかもお家の大事ですから、1度ではダメです。何度も、何度も、この
愛らしいところに…」
と、後ろから彼女の股間に手を差し入れ小さな合わせ目を指でなぞると、ヌルリとした感
触がはっきり伝わってきた。
「あ、違いますっ!これは、これはっ!」
と狼狽する彼女にかまわず、彼はぬるついた合わせ目にズブリと太い指を押し込んでしま
う。彼女はビクンと細い腰を震わせ、思わず彼にしがみ付く。
ダグは、指を締め付けてくる強い圧力や、その指を動かすと微かに聞こえる『くちゅっ、
くちゅっ』という淫らな音をしばらく楽しんだ後、彼女を干し草ベッドに横たえ、細く白
い両腿をつかんで大きく拡げてしまう。
「…あ…ぶ…無礼なっ!」
とアマリアは真っ赤な顔で抵抗を試みるが、岩山のようなこの男には薄絹のカーテン1枚
ほどの障害にさえならない。
控えめに群れる薄青い繊毛や、桃色の濡れた合わせ目、その上部の薄皮に包まれた小さな
突起や、一番下の小さな薄茶色の窄まりさえも、男の舌は隈なく念入りに蹂躙する。
彼女が恥ずかしさに思わず上げた呻き声は、いつしか甘く湿ったものに変わっていた。
ダグが既に汗まみれの彼女に体を重ね、パンパンに張った巨大な先端を彼女のぬるついた
合わせ目にグニュリと押し当てる。
彼女は思わず息を飲み、不安さを隠しきれない声で言った。
「い、いいですか…ゆっくり、ゆっくりです…私が止めろと言ったらすぐに止め…あ!あ
ああああっ!!」
彼女が不意に絶叫し、細い体を激しく仰け反らせた。
ダグがその大きな手で彼女の小ぶりな尻をギュッと掴み、濡れた小さな入り口にいきなり
巨大な先端部分を捻じ込んでしまったのだ。
彼女は気が狂うほどの激痛に一瞬気を失いかける。
「…あ…ひどい…なんで…ゆ、ゆっくりって言っ…あ!…あ!あぐううぅぅ…」
彼女のしなやかな体が、串刺しにされた魚のように激しく痙攣する。
彼の体重が十分に乗った灼熱の太杭が、狭い肉洞の抵抗など全く無視したまま、一気に彼
女の最奥まで突き刺さっていた。
実はアマリアは処女だった。
2桁に上る男達とベッドをともにしていながら、どうしても自分の体を任せる気にはなれ
ず、彼らに淫夢を見せる術をかけ、勝手に彼女のベッドの上で悶えるに任せていたのだ。
その様は、こう言っては悪いがただただ滑稽でしかなかった。
だからセックスがこれほど残酷で、激しくて、狂おしいばかりの愛情に満ち溢れたものだ
という事など知る由も無かった。
アマリアは、この男が恐らく合った瞬間からずっと深く彼女を愛し続けている事などとっくに気付いていた。
奴隷の分際で、国内有数の名家の次期当主に一方的に懸想をし、彼女と夜をともにしたき
ら星のような男達に分不相応な嫉妬を抱く。たまたま転がり込んだまさに千載一遇の機会
に野良犬のようによだれを垂らして飛びつき、思いやりや繊細さなど一片の欠片も無く、
凶悪な欲望を相手が壊れんばかりにぶち込んでくる。
別にどうでもいい事だ。
この蛮人にとってどうであろうが、彼女にとっては、これは儀式の為にオドを得るための
ただの手続きに過ぎない。
何も考える必要は無いのだ。
なぜ彼が他人から愚劣な扱いを受けると彼女が燃えるような怒りを覚えるのか。
なぜあんな汚いモノを押し当てられ、股間をいじられただけで、失禁したかと思うほど大
量の蜜を溢れさせてしまったのか。
なぜ今自分から彼の唇を求め、差し込まれた舌に夢中で自分の舌を絡めているのか。
なぜベッドの上で一人悶える男達の姿をせせら笑いながら、自分はといえば、熊のような
大男にケモノのように後ろから貫かれる妄想に浸りつつ自らの股間に指を埋めていたのか。
考える必要は無い。いや、考えるのが怖い。
激しく喘ぐ彼女の細い体を一段と強く抱き締め、彼は張り詰めた先端を彼女の最奥さえ突
き破らんばかりに押し込んでくる。
彼女は、灼熱の鉄杭が本当に心臓にまで刺さって来そうな感覚を覚え、恐怖と、脳が痺れ
るほどの快感に襲われる。
やがてその鉄杭が一段と太くなったかと思うと、ついに大量の精を噴出させた。
焼け付くようなエネルギーが、膣を、子宮を、全身を、破裂させんばかりの勢いで満たし
ていく。
彼女は、自分の腰が激しく痙攣しながらも、なお貪欲に彼を飲み込もうとしているのを感
じつつ、完全に意識を失った。
気付くと、ダグが穏やかな目で彼女を見つめていた。
いまだ彼の分身は彼女の奥深くに突き刺さったままで、ドクン、ドクンと力強いリズムを
伝えてくる。
「…大丈夫ですか」
との彼の優しげな問いかけに急速に意識が目覚めるのを感じながら
「当然です。これ位どうという事はありません」
と毅然と答えたつもりだったが、舌が甘くもつれてうまく話せない。
「そうですか、よかった」
とニッと笑いながら、彼が彼女の胎内に収まっているモノをズルリと引き出そうとした。
「あ、ああっ!」
と、彼女はあまりの喪失感に狼狽し、逃がすまいとでもするかのように思わず腰が浮いて
しまう。
ダグが目を丸くしたのに気付き彼女もハッとしたがもう遅い。
「あ…これはその…別に…あっ!ばか違う、ん、んんっ、ああっ…」
ピンと立った小さな乳首を吸われながら、また極太の肉杭が激しく突き込まれ始めたのを
感じ、彼女は「違う…違う…」とイヤイヤをしながら、男の逞しい体に夢中でしがみ付い
ていた。
あやうく彼女は『大盾』の儀式に遅刻するところだった。
何となく離れるに離れがたく二人で汗まみれの体で戯れるうち、結局あのケダモノに5度
も精を注ぎ込まれてしまったからだ。
儀式自体は大成功に終わった。というより、オドがオーバーフロウを起こしかけるほど蓄
積が進み、次回は3ヵ月後ではなく、6ヵ月後でよかろうという結論にさえなった程だ。
長老格のホルガーが「いやあ若いというのはいいのぉ、有り余ってるのぉ」とアマリアの
ほっそりした体を上から下までとっくり眺めて彼女を赤面させてしまい、ご意見番のイザ
ベル女史に杖で引っぱたかれていた。
『大盾』に供出してしまった分のオドは、当然また補充しなくてはならなかった。
『し、仕方ないわ。お父様が退院するまでの間、当主代行としての当然の勤めですもの。
でも、どうやって補おうかしら』と一応考える振りをしてはみるものの、実は補充方法は
一つしか思い浮かべていない、アマリア・グランヴァル、16歳の夏であった。
終わりざんす