「シモンさん……わたし、シモンさんと……実をつけたいです……」  
 
 実をつけたい、とは、人間で言うなら、子供が欲しい、というところだろうか。  
 ドライアドは人間と交わって子を生す。  
 シルヴィアがその相手に僕を選んでくれたことが、たまらなく嬉しかった。  
 
「わかった……シルヴィア、優しくするよ……」  
「シモンさん……」  
 
 僕の言葉に小さく頷いて応えるシルヴィアに、深く口付けをする。  
 
「ん……ふ……ちゅ……」  
 
 小さく息を漏らしながら、シルヴィアが口付けに応えてくれる。その唇は、本当の意味  
で甘酸っぱい。口付けに味がするのは、何度してみても不思議な感覚だ。  
 その味を十分の味わった後、くたっとなったシルヴィアの身体を、草でできたベッドの  
上にそっと横たえた。  
 そして、目をつぶって恥らうシルヴィアの身体に手を這わせていく。  
 腰から背中、そして胸へ……シルヴィアが身にまとう葉っぱをより集めたような服は、  
見た目とは裏腹に手触りは滑らかで、シルヴィアの柔らかな身体の感触を損なうことなく  
伝えてくる。  
 そのことに満足を覚えながら、いよいよ本格的に両手でシルヴィアの胸を触ろうとした  
その時、  
 
「ままま待ってくださいっ!?」  
 
 突如あがったシルヴィアの声に、その手が止まる。  
 
「そそそそんなところっ! なっ、なんで触るんですかっ!?」  
「なんでって……え? え? なんで?」  
 
 叫ぶように抗議しながら、両手で胸をガードするシルヴィア。  
 その姿に、なにかまずいことをしてしまったか、とうろたえるが、考えてみても思い当  
たることは何もない。  
 抱きしめて、キスして、そして胸に……いたって普通の流れだと思うのだが……  
 
「あのあのっ! そそそそんなところ触らないでも良いですよっ! そっ、それより、早  
くして欲しいですっ!」  
 
 だが、シルヴィアはお気に召さない様子。  
 いや、そう言われても、物事には順序ってものが……うーむ、触られるのがそんなに恥  
ずかしいのだろうか?  
 ……胸が小さいからとか?  
 いや、服の上から触った感じでは、思っていたのよりは大きいかったし、むしろ大きす  
ぎず小さすぎず、手のひらに収まるくらいの程よい大きさだった。  
 やはり良く分からない……だが、これほどまでに嫌がっているのを、無理に触るわけに  
もいかないだろう。  
 
「分かったよ、シルヴィア……」  
 
 仕方が無い、次のステップへ移行しよう……  
 少し残念に思いながら、胸に伸ばした手を下のほうへと持っていく。  
 おそるおそる太ももに触れてみるが、シルヴィアは一瞬身体を震わせただけで、拒む気  
配は感じられない。  
 そのことに安堵しつつ、脚の外側の方から手のひらを少しずつ上へを這わせていく。  
 
「それにしても……」  
 
 シルヴィアに聞こえないように小さく呟く。  
 初めてなのに、いきなりこっちの方から触るのはどうなんだろうか?  
 嫌がっているから仕方が無いのだが、シルヴィアをいい加減に扱っているように思えて悪  
い気がしてくる。  
 そんなことを思いながら、腰の辺りにたどり着いた手を動かして、服の上からシルヴィ  
アの大事なあたりに触れた瞬間、  
 
「ひゃあっ!?」  
 
 シルヴィアが悲鳴を上げて飛び起きた。  
 
「シシシシモンさんっ!? こっ、今度はどこに触ってるんですかっ!?」  
 
 顔を真っ赤にしながら、泣きそうな目でこっちを睨んでくるシルヴィア。  
 そんな顔で睨まれても、怖いどころか可愛くて仕方ないのだが。  
 
 それにしても、困ったな……恥ずかしがり屋だとは思っていたが、こうまで恥ずかしが  
られるとは……正直、予想外だ。  
 
「シルヴィア、恥ずかしいのは分かる。だけど、ちゃんと準備してからじゃないと、シル  
ヴィアがものすごい痛い思いをすることになるんだ。僕は君にそんな思いをさせたくない」  
 
 だから、少しの間だけ恥ずかしいのはがまんして……  
 そう続けようとした僕の言葉を、シルヴィアの声が遮った。  
 
「準備とか、痛いとか……シモンさんが何を言ってるか分かりませんよっ! わたしはし  
てくれるだけで良いって、さっきから何度も言ってるじゃないですかっ!」  
 
 怒ったような口調でまくし立てるシルヴィア。  
 
「してくれるだけって……」  
 
 子を生すために、行為だけして欲しい、と言うことか……?  
 だが、その言葉を「はいそうですか」と聞けるはずが無い。  
 そんなことをすれば、シルヴィアにどれほどの痛みを与えるか。  
 そして、例えシルヴィアの目的がそれだけなのだとしても、僕はちゃんとした形で愛し  
合いたかった。シルヴィアもそのはずだと思っていたから……  
 ……いや、待て。  
 この状況はどうにもかみ合わない部分がある……もしかすると僕は、とんでもない勘違  
いをしているのではないだろうか?  
 
「シルヴィア……教えてくれ。してくれる、っていうのは、そんなにすぐに終わるような  
ことなのか?」  
「そっ、そうですよ。おしべがめしべにちょんっ、て……なっ、なんで頭をかかえるんで  
すかっ、シモンさん!?」  
 
 ……ああ、やっぱりそうだった。  
 頭を抱えて呻く。なんなんだ、この植物は。  
 
「……参考までに聞くが」  
「はっ、はい、なんでしょう……?」  
 
 力なく呟いた僕の言葉に、怪訝そうな声で答えるシルヴィア。  
 
「シルヴィア……おしべとめしべは、どこにある?」  
「え……?」  
 
 聞き様によっては、とんでもなく変態的な質問。  
 いや、聞き様とかなんとか関係なしにオヤジくさい。  
 
「えっ、あのあの、えっと……こっ、ここら辺……でしょうか?」  
 
 しばし首をかしげた後、唇の辺りを指差すシルヴィア。  
 だが、自信なさげに答えるその言葉は、尻すぼみに小さくなっていく。  
 
「…………」  
 
 まいった。  
 それが正直な感想だった。  
 同時に、笑い出したい気持ちと怒りたい気持ち、シルヴィアを滅茶苦茶に抱きしめたく  
なる気持ちで一杯になる。  
 まったくこのドライアドの少女は、本当に僕のことを驚かせる。  
 
「し、シモンさ……」  
「シルヴィア」  
 
 黙り込んでしまった僕を怪訝に思ったのか、呼びかけようとするシルヴィアの声を遮っ  
てその名を呼ぶ。  
 
「は、はい?」  
「シルヴィア、好きだよ……だから、僕のことを信じてくれるかな?」  
 
 止めるか続けるか、迷いは一瞬だった。  
 もちろん、止めるなんて選択、あるはずは無い。  
 ただ……多少強引に行かないと、いつまでたっても最後までたどり着かない……それだ  
けが問題だった。  
 
「えっ!? はっ、はい……信じます、けど。……シモンさん?」  
 
 何故僕がいきなりこんなことを聞いたのか、良く分かってないのだろうが、それでも信  
じると答えてくれたシルヴィアを、ぎゅっと抱きしめ囁く。  
 
「ありがとう、シルヴィア。それじゃ……僕に任せて。ちょっと強引になるかも知れない  
けど、我慢してね」  
「はっ、はい! あ、でもでも、強引って……」  
 
 信じるとは答えたものの、おそるおそるといった様子で聞き返してくるのは、何をされ  
るか不安だからだろうか。  
 だが……この時の僕は困るのと同時に、何故だろう、酷く楽しい気持ちで一杯になって  
いた。  
 その気分に導かれるまま、僕はにこやかにシルヴィアに答える、  
 
「大丈夫、痛くはしないから。シルヴィアには、ちょっと恥ずかしいかもしれないけど」  
 
 言葉だけは優しく、しかし疑問には答えることなく、あたかもシルヴィアの不安を煽る  
かのように。  
 
「えっ!? あのあの、しっ、してくれるだけで良いんですけどっ!」  
「分かってるよ、シルヴィア。だから、僕を信じて」  
 
 そう、分かってないことを分かっている。  
 そして、それを分かってもらわなければ、シルヴィアの望みには届かない。  
 だからつまり、これからやることは、シルヴィアにとって必要なことなのだ!  
 ……自分でも分かっている、こんなのはただのお題目でしかないと。  
 白状しよう。僕はこの状況を楽しんでいた。  
 
「しっ、信じますけどっ! し、シモンさん、なんでそんなに楽しそうなんですかっ!?」  
 
 さて、何故だろうね、シルヴィア。  
 僕が思うに、君が可愛すぎるせいなんじゃないかな?  
 心の中でそんなことを呟きながら、うろたえるシルヴィアに構わず手を伸ばす。  
 肩から羽織っていたショールを外し、身体に纏うチュニックに手を伸ばしたところで、  
 
「まままままって、まってくださいっ、シモンさん!? だっ、ダメです、ふふふ服を脱  
がせちゃダメですよっ!」  
 
 何をされようとしているのか、ようやく気付いたシルヴィアが、抗議の声を上げた。  
 
「そのお願いは聞けません。先に聞いたお願いを実行中です」  
 
 だがシルヴィアの抗議の声も、今の僕を止める役には立たない。  
 構うことなく、身体の前をガードする、シルヴィアの両手を絡め取る。  
 
「そそそそんなっ!? わたっ、わたしは、ははははだかにしろなんてひと言もっ!」  
 
 展開についていけないのか、あうあう…とうろたえるシルヴィアの抵抗は鈍い。  
 これ幸いと、掴んだ両手を脇に退け、再びシルヴィアの服に手を伸ばすが、  
 
「あれ? シルヴィア、これはどうやって脱がせれば良いのかな?」  
 
 シルヴィアのチュニックは、葉っぱが幾重にも重なり合ったような不思議な素材ででき  
ていて、どうにも脱がせ方が分からない。  
 まさか破くわけにも行かず、シルヴィアに尋ねると、  
 
「あ、それは楓の葉っぱが重なってくっついてるから、ずらしてやれば……って、あっ!  
だ、だから、脱がせちゃだめですってばぁ!」  
 
 答えてから過ちに気付くのは、人が良いのかなんなのか、まったくもってシルヴィアら  
しい。  
 そうこうしているうちに、シルヴィアが身に着けた服は一枚、また一枚と数を減らし、  
 
「ままま待ってくださいっ!? みっ、見ちゃダメですよぉ……」  
「…………」  
 
 やがて最後の一枚を脱がし終え、あらわになったシルヴィアの一糸纏わぬ姿に、僕は言  
葉も無くしばし見惚れていた。  
 傷一つ無い滑らかな白い肌。  
 身体は細いのにその線はあくまで柔らかく繊細で、そのくせ出るべき所にはちゃんと肉  
がついていて、儚げな印象ながらしっかりとした生命力とほのかな色気とを感じさせる。  
 
「綺麗だ……」  
「ははは恥ずかしいです……」  
 
 思わずこぼれてしまった僕の言葉に、シルヴィアは真っ赤になって両手で顔を隠すと、  
恥ずかしそうにいやいやをする。  
 シルヴィアの裸身を見つめる僕の視線は、美しい曲線を描く双丘を辿り、真っ白なおな  
かと可愛らしいおへそを経て、シルヴィアの脚の付け根へ。  
 若草色の薄い草むらに囲まれたそこは、可憐な薄紅色をしたたてすじが刻まれていた。  
 
「ここも人間のと変わらないな……」  
 
 良かった……本当に花が咲いてたりしたらどうしようかと思っていたのだが、どうやら  
普通にすれば大丈夫なようだ。  
 そのことにほっとため息を吐いたところで、  
 
「だっ、だめだめだめですっ!? そそそそんなところ、見ちゃダメですよぉっ!?」  
 
 どこを見られているのかようやく気付いたシルヴィアが、慌ててそこを隠そうとする。  
 
「ほら、手で隠さない。君のことをちゃんと見たいんだ、シルヴィア」  
「そっ、そんなぁっ!? はっ、離して下さいっ! ははは恥ずかしいですよぉ」  
 
 隠そうとする手を絡め取り、視線を遮ろうと伸ばされた手をそっと払いのけ……そうや  
ってしばらく、じゃれあうような攻防が続いただろうか、  
 
「だだだ大体っ!」  
「ん?」  
 
 僕に手をゆるめるつもりが無いことを悟ったのだろう、もがくのをやめたシルヴィアが、  
今度は大きな声で文句を言ってきた。  
 
「しっ、シモンさんは服を着ているのにっ! 何で私だけ、ははは裸なんですかっ!?」  
 
 シルヴィアなりに考えたであろう、精一杯の抗議。  
 なるほど、確かにその通りだ。  
 
「言われてみればそうだね……」  
「そそそそうですよっ! だからもうっ……」  
 
 そう呟いた僕の言葉に、服を着させてください、と続けたかったのだろうが、今の変な  
スイッチが入ってしまった僕が、この程度のことで止まるはずが無い。  
 
「わかった、それじゃ僕も服を脱ぐよ。それで一緒だね」  
「えええええっ!? そっ、そんなことは一言も……」  
 
 まさかそう返されるとは思ってもいなかったのだろう、シルヴィアが抗議の叫びをあげ  
るが、  
 
「わわっ!? しっ、シモンさぁん!? こっ、こっち向いて脱がないでくださいっ!」  
 
 構わず僕が服を脱ぎ始めると、真っ赤になって慌てて視線を逸らした。  
 
「あっ、ああ……す、すまんシルヴィア……。わ、悪いけど、少し向こうを向いててくれ  
るかな……」  
 
 真っ赤になって顔を背けたシルヴィアを見た途端、いきなり羞恥心がこみ上げてくる。  
 似合わないことをしている自覚はあったが、さすがに今のはやりすぎだった。  
 
「それにしても、まいったなぁ……」  
 
 心の中で呟く。  
 正直、勢い任せでできるのもここまでだ。  
 これ以上続ければ、強引どころか無理矢理になってしまうし、シルヴィアに泣かれでも  
したら、とてもじゃないが続ける自信は無い。  
 これからどうするか……考えながら振り向こうとしたその時、  
 
「きっ、ききききのこっ!? なっ、なんですか、それっ!?」  
 
 シルヴィアの素っ頓狂な声が、僕の動きを止めた。  
 
「し、シルヴィア……?」  
 
 ぎぎぎぎぎ……と、首だけでシルヴィアの方に振り向く。  
 振り向いた先には、顔を真っ赤にしたまま、両手で瞳を覆い隠したシルヴィアの……い  
や、よくよく見れば、その手の指の間からこちらを凝視するシルヴィアの姿。  
 その視線の先には……と、そこでシルヴィアと目が合った。  
 
「みっ、見てないですよっ!?」  
 
 一瞬の沈黙の後、弾かれたように背を向けたシルヴィアが、大声でまくし立ててくる。  
 
「みっ、見たとしてもっ! しっ、シモンさんも私のを見たからおあいこですっ!」  
 
 馬脚を現すとはこのことか。  
 誤魔化そうとするあまり、言わなくても良いことまで口にするシルヴィア。  
 
「それは、僕の身体を見せれば、シルヴィアの裸を見ても良いってことかな?」  
「ええっ!? そそそそれはっ……」  
 
 そんなことだから、からかうように冗談を返しただけで、面白いほどにうろたえまくる。  
 まったくもって、からかい甲斐のある相手だ……だが、いつまでもこうしているわけに  
もいくまい。  
 
「冗談だよ、シルヴィア」  
「あ……」  
 
 うろたえるシルヴィアの横に少し向きを変えて腰を降ろし、そちらを見ないようにしな  
がら、優しく右手を頭の上に乗せる。  
 シルヴィアはまだうろたえていた様子であったが、少しずつ落ち着いてきたのか、身体  
から力が抜けていった。  
 そんな妖精の少女に、できるだけ優しく聞こえるように声をかける。  
 
「ごめんね、シルヴィア……まだ恥ずかしい?」  
「はっ、恥ずかしいですよぉ……シモンさんは酷いですっ!」  
 
 拗ねたようなシルヴィアの声。  
 ああ、これは怒らせてしまったなぁ……そう思って、再度謝ろうとしたそのとき、  
 
「でも……」  
 
 囁くようなシルヴィアの声と共に、右の肩に温かな重みを感じた。  
 
「いっ、いやじゃ……ないです。ははは、恥ずかしいですけどっ!」  
 
 シルヴィアが僕の肩に頭を持たれかけながら、囁くように……いや、最後は叫ぶような  
声になっていたが、そう告げてくる。  
 
「シルヴィア……」  
 
 そっとシルヴィアの裸の肩を抱き寄せると、一瞬硬直したものの、シルヴィアは身体の  
力を抜いてその身をゆだねてくれた。  
 
「シモンさんの……男の人の身体ってがっしりしてるんですね……びっくりしました」  
 
 囁くようなシルヴィアの声。  
 どうやら、少しは落ち着いてくれたようだ。  
 
「旅でそれなりに鍛えられてるからね。でも、僕なんてまだ華奢な方だよ?」  
「そっ、そうなんですか? それじゃ、身体とかもっと……あっ、あのあの、大きかった  
り……」  
 
 大きかったり?  
 シルヴィアの言葉に違和感を感じ、視線を戻す。  
 そこには、恥ずかしそうに顔をそらしながら、しかし時折ちらちらと、とある方向に視  
線を向けるシルヴィアの姿。  
 その視線の先には……  
 
「…………」  
 
 ま、まあ、なんだ。  
 興味を持ってくれるなら、色々やりやすくなるし、それに越したことは無い。  
 だが、うーん、なんだろう……やはりドライアドだけに、植物っぽいものには興味を引  
かれるのだろうか?  
 完璧に臨戦態勢になったそれを隠したくなる気持ちを抑えながら、そんなことを考えて  
いるうちに……ふとシルヴィアと視線が合った。  
 
「…………」  
「…………」  
 
 一瞬の沈黙。  
 そののち、壊れたオルゴールみたいな様子で、シルヴィアが喋りだす。  
 
「あっ、あのあのっ! にっ、人間の男の人って、わたしと全然違うんだなぁ、って……  
ななな、なんなんですかっ、それっ!?」  
「え? え、えーと、それは……」  
 
 う、まさかストレートに聞かれるとは。  
 思わぬ問いかけに、しどろもどろになりかけたところで気付く。  
 これは、先に進めるための絶好のチャンスだと。  
 ごほん、と一つ咳払い。  
 そして意を決すると、僕は話を始めた……ドライアドの少女に、性教育を施すために。  
 
「シルヴィア、いいかい? これはね……」  
 
 ……何故こんなところで性教育をしなければならないのか……考えても無駄なことを考  
えるのはもう止めた。  
 さて。  
 シルヴィアに施した説明をかいつまんで話すと、こうなる。  
 
 ♂おしべと、♀めしべ。おしべをめしべに押し込んで、ちょんっ、ってします。  
 
「……という感じなんだけど」  
 
 僕のかなりぼやかした説明に、少し考え込んでいたシルヴィアだったが、  
 
「おしべを……めしべに……って、えええええっ!? むりむり無理ですよぉっ!?」  
 
 説明の意味するところに気付いたのか、泣き出しそうな声をあげた。  
 ああ、やっぱりこういう反応になるよなぁ……そう思いながら、シルヴィアを落ち着か  
せようと声をかける。  
 
「落ち着いて、シルヴィア……大丈夫、ちゃんとできるようになってるから」  
「でででも、でもっ! しっ、死んじゃったりしませんかっ!?」  
 
 涙目になりながら、必死な様子で聞いてくるシルヴィア。  
 
「よ、良く分からないけど……死んじゃったりは、しっ、しないんじゃないかなぁ……」  
 
 シルヴィアのその姿のあまりの可愛らしさに、悪いとは思いつつも思わず吹き出しそう  
になってしまった。  
 それを隠そうと必死になって堪えようとするが、  
 
「ななな、なんで笑ってるんですかぁっ!? ひっ、酷いですよぉ、シモンさん!」  
「ああ、ごめん。ただシルヴィアが可愛いなぁと思ったらつい……ごめんね、シルヴィア」  
 
 ああ、やっぱり気付かれたか……いや、吹き出しそうになっていたんじゃ、隠すも何も  
あったものじゃないか。  
 そんなことを思いながら、宥めるようにシルヴィアの頭を撫でてやると、シルヴィアは  
まだ怒った様子ではあったが、大人しくされるがままにしてくれた。  
 そうして。  
 しばらくたって笑いの衝動が収まったところで、シルヴィアに話しかける。  
 
「笑ってごめんね、シルヴィア……そうだね、女の子なら怖いよね」  
 
 宥めるように、優しく言葉をかける。  
 今の状態で、これ以上先を強引に進めるつもりはない。だから、まずはシルヴィアの恐  
怖心を取り除くところから始めないと……  
 そう思って言葉を続けようとするが、  
 
「う〜……こっ、怖くは無いですよっ! ただっ!」  
「ただ……?」  
 
 その言葉をシルヴィアが遮った。  
 
「ただ……あのあの、わっ、わたしもしたいんですっ! でもでも、わたし、なっ、なん  
にも知らないしっ! それで変なことしちゃって、シモンさんを困らせちゃったらいやだ  
なぁって……」  
「…………」  
 
 まったく。  
 怖いし恥ずかしいだろうに……僕のことを心配する余裕なんてないくらい、いっぱいい  
っぱいだろうに。  
 どこまで人が良いのかと、ちょっと呆れてしまう。  
 
「シルヴィア……優しくするから怖がらないで。それに、僕のことなら気にしなくても良  
いから」  
「えっ!? でもでも……」  
 
 おろおろと不安そうな瞳で、シルヴィアが僕のことを見つめてくる。  
 だが、その不安自体無用なもの、むしろ、逆に気を使わせてしまって悪い気がしてくる。  
 
「まあ、なんていうか……男の方は気持ち良いだけだからね。なるべく優しくするつもり  
だけど、初めてだと女の子はやっぱり痛いと思うし……」  
「そっ、そうなんですか? でも、それって……なんだかずるいです……」  
 
 そうかもしれないね、と苦笑を浮かべながら同意する。  
 それでもシルヴィアの不安が薄れたのは確かなようで、そのことに少しだけ安堵する。  
 これであとは、シルヴィア自身の緊張さえ取り除ければ……  
 
「ちゃんと準備すれば、痛みも少しはましになると思う。それに、僕もシルヴィアには気  
持ちよくなって欲しい……だから、恥ずかしくてもちょっと我慢してくれるかな?」  
「あっ、あうあう……」  
 
 真っ赤になって顔をうつむかせるシルヴィア。  
 その身体をそっと抱き寄せ、囁くように重ねて問いかける。  
 
「良いかな……シルヴィア?」  
「あっ、あのあのっ! やっ、優しく……して、ください……」  
 
 尻すぼみに小さくなるシルヴィアの言葉に頷いて答えると、そっとその身体をベッドに  
横たえる。  
 
「こっ、怖いことはしませんかっ!? だだだ大丈夫ですよねっ!?」  
 
 大人しくされるがままになったものの、それでもまだ覚悟が決まらないのか、シルヴィ  
アがわたわたとした様子で尋ねてくる。  
 
「だいじょうぶ、シルヴィア。僕を信じて」  
 
 そう、シルヴィアを怖がらせるつもりなど微塵も無い。  
 やはりまだ緊張しているのだろう、シルヴィアの少し潤んだ瞳を、安心させるように見  
つめながらそう答える。  
 
「ははは、恥ずかしいのはいやですよっ! イヤだって言ったら、やっ、やめてくれます  
かっ!?」  
「うっ…………」  
 
 もちろん、と答えるはずだった。  
 だが、実際には言葉は出ることなく、逆に言葉に詰まってしまった。  
どうにも、僕は嘘を受けない体質らしい。  
 
「…………ど、努力する」  
 
 それだけを何とか搾り出す。  
 答えはもちろん本心からのものだが、最後まで理性を保っていられるかどうか、魔法使  
いにあるまじき事ながら、自信が無いというのが正直なところだった。  
 
「なっ……なんで視線をそらすんですかぁっ!? ちゃんと目を見て言って……んうっ!?」  
 
 だが、そんな言葉がシルヴィアに通じるはずも無く。  
 叫ぶような声で抗議してくるシルヴィアの言葉を、キスでふさいで黙らせる。  
 シルヴィアは抗議するかのようにじたばたと暴れていたが、キスを続けているうちに次  
第に動きは弱まり、程なくしてその身体から力が抜けていった。  
 
「シルヴィア……」  
 
 くたっとしてしまったシルヴィアから唇を離し名前を呼ぶ。  
 シルヴィアは涙目で僕のことを睨んでは来たものの、先ほどの抗議を続ける気力は無い  
のか、そっぽを向いて話し始めた。  
 
「もっ、もう……良いですっ、分かりましたっ! すすす、好きにすれば良いですよっ!  
わっ、わたしはシモンさんを信じてますからっ!」  
 
 信じてますからねっ! と声を上げながら、再び半分涙目な視線で見つめてくるシルヴ  
ィア。  
 その言葉に頷き返しながらも、僕は理性を保つ自信が薄れていくのを、なおさら強く感  
じるのだった……  
 

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