「魔王:全てに於いて、魔を携え、魔の頂点に君臨する王の総称。  
 ……簡単に書いてくれる。」  
ぱたん。と、本を閉じる音がやけに、耳に残る。  
その音は、一つの物語を読み終え、感服した際に聞く音に、良く似ていた。  
しかし、どこか諦め、苛立ち、不快な音が混じっているように聞こえるのは、読み手の意思が表れている他ならない。  
 
「どうせ、歴史書に残すんだったら、魔王本人に書かせろよ…。  
 俺なら、こう書くね。  
   
 腐ってしまうほどの、寿命があり、特になにをするわけでもないのに、  
 ありとあらゆる力がデカイ。本性の図体もデカイ。ついでに、ち○こもデカイ。  
 その割に、あっさり封印されたりするしな。頂点に君臨するとか、どんな大言壮語だよ…  
 おまけに、ぐーたらが多い。代表格は俺だ。  
 あー、そうだ!寝るのが好きだな。数百年とか、普通に眠ってる馬鹿も一人や二人じゃない。」  
 
本を指先でくるくると回しながら、一人言をぶつぶつと喋り始める。  
 
「やること…ねぇな。」  
 
で、一人言を、締めくくる最後の台詞はコレ。誰もが、一度は思ったり呟いたりしたことがあるだろう。  
一人言を喋り始める状態というのは、どういうときなのだろうか?  
動悸?息切れ?湿疹?  
どれも違う。そう、要するに暇な時なのだ。  
言葉、物腰、息遣いで分かるように、まさにこの人物に当てはまる。  
暇でも少しはやることがあるだろう?そう思って読み始めた、歴史書も、途中は面白かったが  
自分の種族の項目に差し掛かった所で、気分を害し、閉じてしまう。  
 
 
      そう。 この人物は魔王。 幾百幾千を生き、膨大な魔力と力を持ち、そして暇なのである。  
 
 
              相変わらず、魔王様は暇だった。  
 
「ふぅぅぅ…。またしてもやることが、ない。勘違いな勇者とか、盗賊でも、忍び込んでこればいいのによ。」  
漆黒のベッドに仰向けになり、頭の後ろに腕を組みながらそう呟く。  
目に入るのは、曇りの無い夜空と、森。耳に入るは、虫の鳴き声、獣の遠吠え、風の音を合わせた交響楽。  
最高の風流の中で目を瞑り、先ほど呟いた事を頭の中で思い出す。  
「勇者…か。あいつは良い暇つぶしだった。」  
 
勇者が攻めて込んできたのは3年前。  
「なんで魔王がこんな所でベッドに寝ているんだ!」  
という勇者の怒号がはっきりと思い出せる。あんぐりと口を開けた勇者の仲間もなかなか見ごたえがあった。  
森の中にベッド一つ。その上に魔王。攻め込んできたというよりは、ばったり会ってしまった!というのが適切ではなかろうか。  
まさに、     
                   「 まおうが あらわれた ! 」である  
 
「なかなか強かったが、何が失敗だったんろーな…もうこないだろうなぁ。」  
これはいい暇つぶしの相手が現れたな!と喜んでいたのだが、もうここ20年顔をみない。  
楽しくて楽しくて、倒れてからも、仲間に回復魔法をわざとかけるタイミングを与え、何度も何度も転がしたのが不味かったのか。  
聖剣の一撃を受けてみろ!なんていう勇者に対して、歯の頑丈さを見せたのが悪かったのか…  
魔族の王たる所存を見せてやる為に、尻尾をぶん回して、4人とも吹き飛ばしてやったのが致命傷だったのか?あれは良い音がしたからな。  
 
「んーむぅ…だって勇者だろう?だったらこっちも魔王らしい所を見せないと失礼だしよ。」  
またもごちりながら、勇者のパーティをなぎ払った尻尾を顔の前でふりふりと動かす。  
普段は羽も尻尾も角も使わない為隠してあるが、勇者との戦闘を思い出して動かしてみる。  
戦闘が終わった後に、仲間に連れられて帰っていった勇者の顔が脳裏に浮かんだ。まるでサキュバスに精気を吸われた少年だったと。  
 
「礼節に非はない、よな。ちゃんと最初に頭を下げたし、寝ている所に不意打ちも寛大な心で許したぞ俺は!  
 とすると、褒美か!褒美が足らなかったのか!魔王を倒したら、褒美が出るものだものな。  
 そりゃあ、ベッド一つしかない無い所を見たら、やる気を無くすのも無理はない」  
 
盛大な勘違いである。  
 
「闘争にしても、代わりばんこに攻撃するとか、何かあったはずだ!むおお…俺としたことがっ!  
 全力を出さなかったのもいけなかったんだな!ちょっとでも、長く戦舞に興じていたいというのは俺の我侭だもんな。  
 ようし、次のイベントは全力でこなすとしよう。おっと、真摯と誇りも忘れてはいかんな。魔王たるもの…」  
 
分かった!と無邪気な子供がクイズの答えを発見したかのように、本当に嬉しそうな顔をしながら壮大にレベルアップした勘違いをまた呟く。  
しかし近いうちにこの言葉の変なプライドが、自身の暇を、女体と、闘争と、政治と、宇宙を覆う愛で塗りつぶしていくのを彼は知らない。  
 
 
          「   〜逢魔ヶ時の夜魔の森〜  
           入るは穴の如し、出るは牢のごとし  
            巡り巡って迎えるは夜魔の寝所  
            夜の帳が落ち、目覚めるは王  
          立ち入ってはならぬ、立ち入っては…  」  
 
「ならぬ〜っと♪こんな唄を知ってるかい、嬢ちゃん?。  
 おおっと、唄ばかりじゃなく注文も聞いてもらわないと」  
「あはっお上手な唄ですね。これと、この赤いのと黄色いのを。ああっこちらの果物も綺麗」  
「かぁーっ!分かるねー。そいじゃあこいつもおまけだ!果汁が溢れて食べごろよ!  
 王宮の物にだって負けやしないよ!オペラの町の果物屋さんはよ!」  
「まあ!ふふふ。」  
よくある客商売のやり取り。それが行われているここ、オペラの町。  
人口2000。町としては小さな規模ではあるが、町の上に立つ、城と王宮、そう、城下町なのである  
北西に位置するこの場所は、寒気が多いものの、冬でも特有の温暖風が吹き、果物がよく育つ。  
 
「いつもありがとうございます。」  
「なぁに、いいってことよ!さぁさぁ日が暮れないうちに、お姫様に届けてやんな!。」  
「はい。姫様もお喜びになられます!。」  
他愛ない会話と共に袋に果物を入れ、お札を受け取り、袋を手渡す果物屋。  
不意に果物屋が不安げな顔をして城を見上げながら少女へ尋ねる。  
「なぁ嬢ちゃん。一応国民として聞くぜ?  
 次期オルガノ国王は、まだ決まらないのかい?。」  
「それは…まだ決まっておりません。私は侍女ですので詳しい事は話せませんが、この国は必ず立ち直ると信じております。」  
「俺も含めてよ、結構民衆も不安になってきてやがるんだ。そこのところ、大臣に伝えちゃくれないかい?」  
「分かりました。必ずお伝えいたしますね。」  
「ありがとうよ。湿っぽい気分にさせて悪かった。それとなさっきの唄だが、ただの唄じゃないんだ。  
 お嬢ちゃん、町と城の間にある、あの森。いつもあの森を通ってくるだろう?。」  
「はい。これといった獣もいませんし、真っ直ぐオペラへ向かえます。どちらかといえば並木道みたいで歩きやすいんです。」  
「確かにそうだけどよ、あの森に夕刻以降は入っちゃいけねーぜ。  
 なんでも、三年前ほどにどっかの勇者様が仲間を引き連れて、日が沈むか沈まないかくらいあの森に入っていったんだが、  
 次の日ボロボロになった勇者が、「魔王がっ魔王がっ」って何度も呟やきながら床に伏せっちまったらしい。  
 この唄が指してるのはあの森で、こんな逸話がある以上危ないってことは確かだからな。」  
「分かりました。とても親切にありがとうございますね。」  
「おう。さー森を通るなら日が暮れる前に通りな!。」  
少女は一礼すると、帰り道の方へと歩き始めた。毎度ありという暖かい言葉を背中に受けながらも、  
頭の中で城の様子、国王相続の事がめぐり始め、顔が陰り、歩く速度も遅くなっていった。  
 
「はぁ…。」  
果物屋で買い物を終え、俯きながら帰路を歩いていく少女から心底落胆したため息が漏れた。  
その原因は国王相続である。オルガノ国の王、ターマス前国王。  
元大貴族の出であり、その財を巧みに操り、貿易などを潤わせ、オルガノの平定を守ってきた王。  
普通に考えれば、知性に富み、貿易などを発展させ、オルガノの国を潤してきたように思える。  
だが、城の中を知る少女に取ってはそんなもの、聞こえが良いだけにしか聞こえない。  
実際は、口が上手く、私財を持ってさまざまな貿易を取り付けたり、意味もない徴兵をしてその数に満足したり、  
あろうことか、敵対国である南の帝国ロウディアの姫姉妹二人を莫大な金でもって娶り、南の帝国は力をつけ、宣戦布告をされるという始末。  
大臣達の言われるがままに、その私財と国財を動かし、後先考えず政治という名の豪遊を嗜んでいたにすぎない。  
そのおかげで不安を覚えた兵士、忠誠心無い家臣が、国財を持ち出し夜逃げ。兵も財も、一国どころか、町単位しか残っていないのだ。  
おまけにその国王本人は、貿易を結んだ国、主に南の帝国ロウディアからのプレッシャーで床に伏せり、病死。  
侍女の私にだって、分かるくらいの悪政。町へ噂が届かないのは一緒になって楽しんでいた大臣達の口止めによるものだろう。  
こんな滅びそうな国を、誰が継ぐのであろうか。  
 
酷い国政を考えると頭が痛くなり、予想できる未来に恐怖を覚える。侍女の私でさえこうなのだ。  
ふいに、自分が仕えて世話をさせて頂いている南からこられた美しい姉妹の翳った顔を想像し、ぴしゃりと頬を叩く。  
 
「ん。しっかりしなくちゃ!。美味しい果物を姫様に召し上がって頂くのよ!」  
 
そう思い顔をあげた少女が、さっきまでの不安をかき消す新たな不安に襲われる  
考え込んでた為に、歩くスピードが遅く、いつの間にか辺りは薄暗くなっていた。  
なんとか、目の前の道は視覚できるものの、来たときとは違う感じがする森に、果物屋の唄を思い出し震える。  
そうだ、町まで出ればと、後ろを振り返ってみる。しかし、ずっと真っ直ぐ歩いていたはずなのに!道が――――――無いのだ。  
言い知れない恐怖。不気味な何かを感じて肌が粟立っているのを明確に感じとってしまう。  
「きっと、少し外れて歩いていたのね、そうだわ!きっと。」  
自分を奮い立たせると、もう一度前を振り向きなおす。  
「どういう…こと…?。」  
振り向いた先には、樹木の壁。人一人通れる道さえもないのが分かる。  
周りを見回してみると、どこにも道がない所か、囲まれるように、樹木が立っている。  
――――――もう自分がどこにいるのかすら分からない。  
       足が竦む。声が震える。息が出来ない。そして聞こえてくる風と虫と獣の遠吠えと、さらにもう一声。  
 
                    「ん?おい、そこのお前。」  
 
             びくっと一度震えて振り返るとと少女は思いっきり叫んだ。  
         「きゃあああああああああああああ!食べないで!呑まないで!連れて行かないで!」  
         「うおおおおっマンドラゴラでも、踏んでしまったのか、俺は!」  
少女と声をかけた黒い影は同時に叫びながら飛びのく。少女の目には今まで写ってなかったはずの黒いベッドを境界線のようにして。  
「「はぁっ…はぁっ…」」  
何故か両者荒い息。少女は自分がどこにいるのか分からないが、行ける所まで後ろに飛びのいた。  
背中に当たる冷たい樹木の温度が夢ではないと告げていた。落ち着け、落ち着いて!私は侍女なのよ!  
木を背に落ち着いて目を凝らしてみる。目の前にはよく分からないけど、黒い影と黒いベッド。周りは樹木の壁。  
普通の状況なら失神して倒れるくらいのこの状況を、落ち着いて捉えているのは、王宮のごたごたに揉まれた精神なのはいうまでも無い。  
サクッサクッと草を踏みしめながら黒い影が近づいてくる。良く見ると、赤い目が暗闇の中でギラギラと光っている。これは怖い。  
ああ、私食べられてしまうのね、姫様ごめんなさいと、覚悟してしまうのも無理はなかった。  
ぴたっと、黒い影の歩みが止まる。赤い眼が上から下まで舐めるように行き来する。そしてまた下から上まで目線が戻り、  
少女の視線とかち合う。震える少女の耳に自分の心臓の音がこだまする。ここで、食べられてしまう…逃げろと告げているように。  
そして…黒い影が、行動を起こした―――  
                     「お前、町娘か?それにしては気品があるよな」  
 
と、低く通る声で黒い影から訪ねられる。眼が点になるとはこの事だろう。  
オマエマチムスメドコカキヒンアルカ? 答えは はい…?だ。  
森に迷い込み、退路を絶たれ、黒く赤い眼をした影に少しづつ近寄られたら誰だって襲われる覚悟を決める。  
だが、その覚悟をあざ笑うかのように、起きたのは問いかけ。一瞬だが安堵してしまい、少女はずるずると木を擦りながら地面にぺたんと  
腰を下ろしてしまった。  
 
 
魔王様は相変わらず暇だった。と始まるこの物語も今回ばかりは違うようだ。  
 
―――――何かがいる。俺の張った結界の前に背を向けて。  
 
そう、魔王が感じたのは、勇者の持て成し方を飽きて考察し終わった後だった。  
本当は、辺りが薄暗くなる頃から気配があったはずなのだが、あまりに魔力が小さいせいか、読書や考察をしていたせいか、  
はたまた魔王が間抜けなだけか、気づくのが遅れ、今に至る。  
どうして?なんの目的で?どうやって入った?等を考える前に、魔王は結界を解いて、小さき者へと声をかけた。  
電話派?メール派?と聞かれたら、直接会う派だな、と漢らしく答えそうなこの魔王の行動のおかげで、  
「きゃあああああああああああああ!食べないで!呑まないで!連れて行かないで!」 と悲鳴を上げる事になる。  
 
ぺたりと、寝所の隅で腰を下ろす少女を不思議そうに見つめる魔王。一度、上から下までじっくり見たが、なかなかの気品のある顔だちを  
している。さすがに町娘ではあるまいと声をかけた所、ぺたんと座ってしまったのだ。  
長年生きてきた魔王もこればっかりは、どういう意味を持った行動なのか最初分からなかったが、今日の俺は冴えてる!  
といわんばかりに、ベッドに腰をかける。座って話しをしたかったのだな、と。  
思えば、客人をいつまでも立たせて置くのは、魔王の威厳としてどーなのか。むぅぅ…やはり城くらいは持っておくべきだったかと  
途方もない勘違いをしていると、前方から綺麗なソプラノに、震えでビブラートがかかった声が響く。  
「あの…貴方は誰なのですか?ここは一体どこなのですか?」  
もっともすぎる質問に、しまった、先に名を聞かれ礼を欠いてしまった。と思っているのはきっとこの魔王だけ。  
 
「名はブレヌ・ミィ・マリギュラ。長いし、マリギュラでも、ブレミィでも好きに呼んだらいいぞ。  
 どこかと言われれば、森だ。  
 俺の寝所でもあるが、ここだけだしな。  
 ところで、そういうお前は誰なんだ?。」  
 
周りを見渡しながらそう答える魔王。なんてことはないただの森に、結界を張ってベッドを置いただけの、魔王の巣。  
「わ…私は、オルガノの城の王宮で、侍女をしております。ステラ・シェル・オールドダッドと申します。  
 お初にお眼にかかります、マリギュラ様。」  
混乱と緊張の渦に巻かれているはずの、少女の口がすらすらと動いていく。舞踏会などでの礼節と長年王宮に勤めてきた証を物語る。  
「その丁寧な挨拶。町娘にはない気品。そして艶のある栗色髪。やはり宮廷の者だったのか。俺の眼も捨てたものではないな。」  
その心が分かるのか、うんうんと、腕を組みながら頷く魔王。それを見ながら少女はあっけに取られる。  
喰われるでもなく、殺されるでもなく、普通に会話しているこの状況。最初は死を覚悟していたはずの少女だが、  
何故だか今はそれがない。混乱はしているが、恐怖というものが会話するたびにそぎ落ちていく。  
姿は薄暗くて見えないが、人語を喋れるというのが、決め手だったのだろう。  
恐怖は薄れ、冷や汗は引き、心には余裕が生まれ、そして頭には疑問が浮かぶ。  
 
「あの、マリギュラ様。失礼を承知で申し上げるのですが、名はお聞きしました。ですが貴方様は何者なのでしょう?。」  
 
名は名乗ってもらった。だが、何者なのか?についてはまだ聞いていない。そう思っていたら不思議と口に出てしまったのだろう。  
返ってくる言葉を知っていたなら、質問などしなかっただろうか?  
                  その言葉が、「魔王だ。」と知っていたなら。  
 
「魔王…。」  
魔王と口に出された瞬間、出した瞬間、ステラはピリピリと、空気が変わったように思えた。大気が震えているようなそんな感覚。  
驚いたりしなかったのは、その空気に気おされていたのと、果物屋の唄を魔王といわれた瞬間に、はっと思い出したから。  
震えるような空気の中でその空気をつんざく、低い声がマリギュラから放たれる。  
 
「我ら魔王の理で語るのなら、統べる種は夜魔。統べる力は静眠と氷寂。狩猟と闘争を称え、交わりを赦し、月を祝す魔王、だそうだ。」  
 
その声は静かに響き、胸の奥まで沈んでいく。人間の王と似て、非なる厳格さを持った声に、ああ、本当に魔王なのだと、頷いてしまう。  
さらに言葉どおりの月の祝福だといわんばかりの月明かりが、マリギュラの寝所を照らす。  
月明かりで少しずつ象るマリギュラの姿形に、ステラは眼を驚愕に見開き、自分が唾と息を呑むのを感じた。  
黒曜石が露に包まれ煌きを帯びているようなその黒髪。赤い眼と言われれば畏怖の対象でしかないが、紅玉と冠せば何よりも輝きそうな眼  
黒と白を基準にした外套から漏れる蒼白い肌で作られた逞しい胸板。どこか危険な匂いを漂わせる魔の美を前に、ステラの眼は捉えられていた。  
なんて美しい、と。王宮で会った美男子、美しい宝石、そのどれもが、目の前に広がる光景に勝てないだろう。  
永遠にも感じられそうな美しいこの光景。誰にも邪魔できない魔王の作るこの光景。だからこそそれを台無しにできるのもやはり魔王だけなのだ。  
 
「とまぁ、偉そうに語ってみた所で、実際は何もやることがなくて、退屈している魔王って所だ。  
 そこに丁度お前のような来客が来たから、助かったもんだ。  
 隣に座って話しでもしてくれないか?いいだろ?いいだろっ?」  
 
ぶち壊し。まるでブチ壊しである。情事の際に、愛しているか?と聞かれ、あ、その前にトイレ行って良い?と答えんばかりのブチ壊し。  
魔が差したと言っても良い。しかして、その台無しが、ステラとの距離を縮めるものであり、人間と魔王の談笑会の口火を切ったのである。  
マリギュラの厳格な雰囲気もどこへやら。ぽんぽんとベッドの隣を叩く、その姿にステラは微笑をもらす。  
「くすっ…今、参りますから。」  
ベッドの前まで行くと淡いピンク色で染まったショートドレスの裾を両手でちょこんと持ち上げ、一礼して、ぽふっとマリギュラの隣に座った。  
「おお、なかなか堂に入ってるな。さすがは王宮の侍女。佇まいからして1・2年の貫禄ではあるまい?」  
「はい。15の時から南のロウディア2年、オルガノで2年と、姫様の侍女を変わらず4年勤めさせていただいております。」  
「4年もやってりゃ、堂にも入るわな。ロウディアっつーと、帝国か?あそこは暮らしにくいだろう?暑くてたまらねぇよ。」  
「ふふっマリギュラ様は、暑いのは苦手でいらっしゃるのですか?。」  
「あーダメダメ。大体暑いと喉が渇くし、汗もでる。ベタベタしたのは嫌いなんだ。」  
ベッドに座った所までは、まだ緊張も恐怖もなかったといえば嘘になる。だがこういいながら、  
ぱたぱたと手を振るマリギュラを見て、ステラの恐怖感や緊張はどっかにすっとんでいってしまった。  
「魔王様であっても、苦手な物もございますのね。」  
「そりゃそうだ。基本的にはお前たち人間と変らんからな。無駄な力と寿命と生態系くらいなんじゃあないか?」  
「そうなのですか?古来より魔王はあらゆるものを超越した  
 畏怖の存在であり、逆らえば、7代に渡って災厄を振りまかれると聞きました。」  
「どこの教典だよそれは!7代に渡ってとか、あらゆるものを超越したとか。大きく書きすぎなんだ。  
 大体畏怖の象徴だとかなんとか言うが、怖いか?」  
どさっと後ろのベッドに倒れ込みながらマリギュラがごちる。  
「あ、いえマリギュラ様は話もしてくれますし、なんだか心地良い感じがします。」  
そうだろ、そうだろと猫のように笑いながら話かける魔王に、ステラは愛らしさのようなものを覚え、また少しずつ近づいていった。  
 
相変わらず楽しそうに話す二人を月は祝福し、穏やかな風が頬を撫で、悠久の心地よさを育む。  
その心地良さからか、ついにステラは胸に秘めていた想いの棘を外へと抜き捨ててしまう。  
オルガノ前王の悪政に始まり、王宮での様子、溜まっていた全ての想いをぶちまけてしまった。  
「私の国は、もう滅んでしまうかもしれないのです、何がいけなかったのでしょうか」と。  
ぽつぽつと語り始める、ステラの話を体に染み込ませる為、眼を瞑り聴くマリギュラ。  
ステラの真剣な姿勢に答えるように、緩んでいた頬をきっと締め、ベッドに倒れていた体も起こした。  
 
「王…か。我々魔王にも理がある。魔王とは、知を持って、力を持って、魔を持って王とし、誇りをかかげ、轟然と立つと。  
 どんな魔王にもこれが当てはまらぬことはない。逆に当てはまらないのであれば、魔王になる資格なし、とな。  
 最初からその前王には国王の資格がなかったのだろう。」  
 
慰めるようとも、悟らせるようにも取れる言葉に侍女は目頭が熱くなるのを覚えた。  
「無論、理を全て備えている魔王の存在など稀だ。力無く膨大な魔を持つ魔王も存在する。  
 しかしその魔は理を、覆い尽くし、新たな理を作る。魔族の中でも無二の魔を持つ、稀なる存在と、な。  
 それを他が認め、賛美されるのならば、それもまた魔王となるに相応しい。」  
マリギュラという一つの存在ではなく、魔王として奮う荘厳な雰囲気と言葉をステラは甘んじて飲み込む。  
「膨大な財を持ち、口上に長け、その財を振るったとしても、多くがそれを認めなければ、ただの道化よ。」  
ふっと笑いながら、ステラの頭に手をあてゆっくりと髪を梳く。  
ステラはもう止められなかった。胸にささっていた棘は涙に変わり、頬を伝う。  
相手が畏怖たる誇り高き魔王だというのも忘れ、胸板に飛びつき、胸のうちをすべてぶつけていた。  
マリギュラは自分の子供をあやすかのように、静かに頭を撫で、思いついたように羽を広げ、ステラを包む。  
まるで、邪魔する者も、見られる事もない。安心して鳴けばいいと言いたげなその行動にステラはまた火を灯され、  
嗚咽としてその苦渋の残滓を吐き出す。ステラの震えが止まるまで、マリギュラは微動だにしなかった。  
「落ち着いたか?。」  
「あ…はい。申し訳ありませんでした。はしたなく泣き崩れてしまい、お恥ずかしいです。」  
「魔王の前で泣きじゃくる人間というのも、珍しくていいな。こいつは貴重な体験をした。」  
くくっと魔王らしくない含み笑いをするマリギュラに、ステラは顔を染めて、拗ねた声を出す。  
「いじわるをなさらないでくださ…。私も女なのですから、その…羞恥も感じます…。」  
そーかそーかと、お決まりの猫っぽい笑顔を作りながらくしゃくしゃと栗色の髪を撫でる。  
ステラはそれだけでもう、どうしようもなくなってしまい、淑女、侍女としての振る舞いも忘れて  
それに夢中になり、身を委ねてしまう。その行為で、その心地よさで一度空になった胸の中に、新たな想いが募る。  
もしもこの方が王になってくれたのならば、と。付き従う姫に罪悪を覚えながらも、もしも私がこの方の侍女となれたのなら、と。  
そして、想いは誰にも止められず、ステラの胸の想いは、意思となり覚悟となり行動となり、マリギュラの前で示される。  
 
「どうした?。」と声をかける暇がなかった。それほどにその動きは洗練され、  
見入ってしまっていた。仮にも魔王たるこのブレヌ・ミィ・マリギュラが、だ。  
隣にいたステラが真正面へ移動しドレスの裾を広げ、屈するように座り、胸に手を沿え、祈るように眼を瞑り、  
「ブレヌ・ミィ・マリギュラ様。どうかお聞き届け下さい。オルガノの王として君臨してはいただけませんか?。」  
という口上を述べるその行為に。  
見入ったのも確かだが、困ったのも確かだ。魔王が人間の王になるなんて話、1300年ほど生きているが、聞いたことがない。  
正気か?ぐーたらな俺だから良いものの、気性の荒い魔王だったら首跳ねられてるぞ。  
ステラは俺の言葉をじっと待つかのように、微動だにしない。どうするんだこの状況。  
落ち着け。真意を問いただすのだマリギュラよ。人間の言葉は幾重にも意味が重なっていることがあると爺から聞いた。  
「本気でいっているのか?魔王だぞ。魔王。お前たち人間が畏怖する象徴であり、なんだっけか…えーと7代まで祭られるんだぞ?。」  
何喋ってるのか良く分からなくなってきた。格好良く魔王らしさを見せて、悩みを聞き、持て成した所までは良かったはずだ!  
「マリギュラ様はそんな方ではないと、自分でも仰られたではないですか。」  
真剣な眼で俺の眼を見てステラがそう言う。そんな眼で見るなよ…ああ。言った、言ったさ。確かにそんな事を言ったような気がする。  
「しかし、我には魔王としての矜持があり、人間に傅く事などできぬ。そもそも何の義理があって人間に力を貸さねばならない?  
 贄も、利も、俺に届けぬ人間の、願いを聞くことは理に背く!」  
決まった!これは決まったな。魔王らしい言葉遣いと威厳に乗っけて  
よくこんな口からでまかせが出たもんだ。やればできる子だという爺の感は正しかったぞ。  
理に背くとか笑っちゃうね、マジで。どこの三流キザ魔王だよ。そんなことを考えながらステラを見る。  
やべぇ。なんか震えだしたぞ。この女。  
眼を潤ませてこっちを見てるし、ちょっと顔も赤い。人間の女も捨てたもんじゃないな。庇護欲ってやつをそそるって言うのか。  
これはフォローが大事だな。サキュバスやインキュバスが、アメとムチが共存に達する道だと言っていた。  
「ま、まぁ。膨大な力を持つ魔王が、少しの力も分け与えぬのも、理に反するのかもしれ…「私が贄では…いけ…ませんか?。」  
待て。今なんつった侍女。ステラを見るとドレスの胸元を手でぎゅっと握り  
何かを決意したような涙目でこちらを見ている。これは正直そそる、エロい。いやいやいや。落ち着け。  
基本に戻るんだ。魔王の礼節は威厳、尊重、誇りに満ち溢れていなくてはならない。  
「今なんと申した?。」  
「私が生贄では、不足なのでしょうか?覚悟は決めております。」  
生贄の意味が分かって言ってるのか?命とか、体とか、一生を捧げちまう事だぞ?生贄ってのは。  
まだ19だろ?これからこう、ああ、王子様なんて素敵なのかしら…?とか言って、私を愛してくださいましとかそういうのが  
やってくる年頃だろ!?誰だよこいつの父親は!どういう教育してんだ。出て来いブッ殺してやる!  
「不足〜とか、覚悟〜とかどうでもいいとして、  
 お前、意味分かって言ってる?生贄っつーのはだな、そのなんだ。命を捧げたり、体を捧げたり、生涯を賭したりして  
 あと戻りとかできねー事いうんだぞ?。」  
とりあえずゆっくりと考えさせる。どうも、この女、暴走すぎなのは確かだ。なんでこうなったかは良く分からないが  
落ち着いて考えさせれば多分大丈夫だ。ちょっと怖気づいたような様子を見ても、もう馬鹿な事も言わないだろ。  
「マリギュラ様!ステラは足も震えて!体も震えてしまっております!ですから逃げ出さないうちに、  
 私を奪ってください!  
 お捧げ致します。身も心もマリギュラ様の為、国の為、お捧げ致します…。」  
 
据え膳食わぬは男の恥!今この状況がまさにそれだった。  
俺の前に、佇む少女。侍女ステラ。少し震えながらも、両手で体を抱きしめ、顔は朱に染まっており目は潤んでいる。  
しかも、目は俺から離さず、おまけに身も心も捧げますときた。これに欲情しないほど俺は無粋な魔王じゃない。  
捧げますとか馬鹿な言葉で契りやがって。ここだけの話…かなりぐっときた。これはもう、捧げさせてもいいんじゃないか的な。  
どすっと、ベッドに寝そべると上半身だけ起して、ステラを呼ぶ。  
「どうした?俺の為に身も心も捧げるんだろ?。」  
ステラは、蚊の鳴くような声ではい…と呟くとベッドにそろそろと近づいてくる。  
ステラが靴を丁寧におき、ベッドに乗るとぎぃっとベッドの軋む音が聞こえた。まるで交わりの開始を知らせるように。  
 
ひざ立ちで、ゆっくりと俺の方に近づいてくるステラ。その目は少しだけまだ迷いがあるように見えた。  
俺はそれが少し気に食わなかった。身も心も捧げるとかいったくせに、その眼はどーなのよ、と。  
ステラの位置が俺の腕の届く範囲まで来るのを見計らって、俺は考えていた事を実行に移す。  
素早くステラの手をとり引き寄せ、唇を多少強引に奪う。そして勿論舌をねじ込む  
「…マリギュラ様?きゃあっ!…あっ…んむぅ…ふ、むぅ?んむぅっ…はあっあっ舌がっ…はあっ」  
なんて犯しやすい口唇だ。小さく、それでいて中は狭く、舌だったら3度も動かせば中を蹂躙してしまいそうだ。  
1・2・3と本当に三度でステラの口内を蹂躙できるか試す。ぴちゃぴちゃという唾液の音がなまめかしい。  
「はぁぁ…マリギュラ…さまぁ。」  
一旦口を離すと、ステラの眼を見る。もう迷いはなくとろんとした、女の媚びた眼に変わっているのに少し口を吊り上げながら  
俺の口とステラの口で、できた銀の橋が壊れる前にもう一度唇を奪う。  
「ふむぅっ!?…むぁん、んっんっんっ…。」唾液をステラに送り込み、嚥下したのを確認すると俺はぴたりと動きを止める。  
さぁ?どうするんだ?身も心も捧げるはずのお前は俺に対してどうするんだ?と視線を投げかける。  
ステラはきゅっと一度だけ眼を瞑ると、俺の首に両手を回し、唇を押し付けてきた。  
「んっ。ちゅ…は、ぁ…んんっ…んふっんちゅ…んはぁ…ふぅんむ…ちゅ…あぁむ…。」  
たどたどしく、舌を一生懸命に、俺の口内に這わせる。俺の口はでかいからな、やりがいがあるだろう?  
ぬろぬろと動く舌にちょっとした悪戯をしたくなり、動きが少しとまったところで、俺の舌で思いっきり巻き取りしごく。  
そのたびにびくんと跳ねる体が愛らしい。  
ゆっくりと一度頬を撫でた後、唇を離し、耳を甘噛みしながら、ステラのドレスを脱がしていく。  
甘噛みされるのがくすぐったいのか、首に回している両手をさらに巻きつかせ、俺の体にぴったりとくっつける。  
「くっついたままじゃお前の体が見えないだろう?これから捧げるお前のその体をきちんと俺に見せろ。余すとこなくな。」  
ステラは首に回していた両手を俺の肩に置くと、肘を伸ばし、俺との距離をあける。  
露になったステラの体が月の光で俺に晒される。形の整った乳房と、くびれたウエスト。少し朱に染まった白い肌が美しさを強調する  
恥ずかしさからか、顔を横に向けているステラ。  
「恥ずかしい…です。マリギュラ様。どこかおかしい所は、その、ございませんか?」  
「ないな。顔をこちらに向けて、俺の目を見ろ。」  
ゆっくりと視線がかち合う。またも羞恥の感覚を覚え、そっぽを向こうとするステラを視線で逃がさないようにする。  
はぁぁ…と荒い息を付くのを頃合と見て、本格的な交わりを告げる言葉を口にする。  
「さぁ、可愛がってやるからな。何度も鳴き、果て、全て俺に捧げるがいい。」  
 
リラックスさせ存分に火のついたステラの体を、本気で愛撫しにかかる。  
目の前にさらされた乳房を感触を確かつつ、もみしだく。  
「あっ…やぁっああっ駄目ですっ…そんなに揉まないでください…形が…ひゃん、あぁっうくっ…」  
柔らかい。すべすべとした肌が、手に吸い付いてくる。これはココも期待できそうだ。  
「そこは…引っ張らないでっ!ああっいやぁっ!くぁっふぅ」  
二つの丘の上に立つ桃色のでっぱりを引っ張り、こりこりと親指と一指し指の先でこねる。  
「はああっ…ああっ…駄目ぇ…駄目ぇ…先が痺れて、取れちゃう…あぐっ」  
「駄目、じゃないだろう?少し触っただけで、ぷっくり立たせやがって。どれ?味の方はどうだ?」  
俺はわき腹と首に手を置き、ピンク色の乳首にむしゃぶりつく。  
「ふぁ…あぁっあ!舌がんぅあっ!ぬるぬるして、ひああぁぁぁ…んうぅっ!巻きつかれてるっ…。」  
静寂な夜に響き渡る、嬌声。さらにそれとは違った、歯ごたえのあるものを噛んだ音が確かにステラに響き渡る。  
こりっっ!  
「ああああっー!噛んだっ…噛んだぁ…はぁっ…あんっ…」  
「大分良い顔になってきたな。こりこりされるのと舐められるのと噛まれるのとどちらがいい?。」  
右だけでは不公平だなと、左の乳首を弄りながらステラに問いかける。  
「ひぅっ…そんなあっ…どれも、強すぎてぅ…選べなぁくぅあっ!」  
「全部がいいのか。欲張りなやつだな。侍女が聞いてあきれるぞステラ。」  
くくっと含み笑いをすると、乳房を二つ寄せて乳首をくっつける。親指で頂点を4・5度擦ったあと、おもいっきり乳首を舐めまわし  
噛み、吸い上げる。  
じゅるっ!ちゅるるっ!こりこりっ!ずーっ!ぢゅっ!ぢゅっ!  
「ああっ待ってぇっ…両方なんて…あふぁああっ!ああーっ!はっふっ…きゃああーっ!いひぃっ!ひぅっ!あうぅっー」  
たまらず、俺の頭を両手で抱きしめ、嬌声をあげながら髪を振り回すステラ。  
さて、どうやってトドメを刺そうか。やはりこういうときは予想外の刺激に限るよな。  
嬌声を上げているステラに気づかれないよう、首においた手をゆっくりとステラの秘所に向ける。  
手のひらを下から上へ、ステラの秘所に密着させながら擦り上げる。  
ぴちゃり!ちゅにっ!にゅぐぐっ!  
「ひっ!?うああっあっあっあっ!ひあああああああああああああああああああ―っ!。」  
突然の下腹部から感じる快楽に、ステラは背をのけぞらせる。  
途中こりっとした感触がしたのはクリトリスだろう。胸の愛撫で極みに達していたステラは秘所を手のひらで擦り上げられ昇天した。  
「はあっ…はあっ…ああっ…マリギュラ様ぁ…マリギュラ様…もう少し…あっはぁ…加減をしてください。」  
息も絶え絶えになり、頭に回してる両手がかろうじて指先で組まれ留まっている。そんなになるほど乱れた状態でステラは俺の名前を呼ぶ。  
なんて可愛いやつなのだろう。これはもっと乱して、鳴かしてやらないとな。  
「可愛い鳴き声をあげたな。良い子だ。さぁ今度はもっとしっかり、しがみついていろよ?。」  
俺はそう言うと、秘所を擦りあげた手のひらでそのままふとももをゆっくりと撫ではじめる。  
「お待ちになって…ください。お願いです。ステラはもう達してしまって…。」  
「            ダメだ。                  」  
ふとももをゆっくり撫でていた、手をステラの眼前に晒す。ぬらぬらと光った手がいやらしい。  
その手をゆっくりと折って行き、握りこぶしを作る。にちゃあっと愛液が絡まった音にステラは、顔を真っ赤にした。  
握りこぶしから、跳ねるように人差し指と薬指を立たせる。意味を理解したのか、ステラが泣きそうな力のない講義の声をあげる。  
「マリギュラさまぁっマリギュラさまぁ…お願いです…ステラはそんなことをされたら死んでしまいます…あぁやめてぇ…。」  
「そんなことってどんなことだ?」俺は意地悪く聞き返しながらゆっくりとステラの視線を絡み付けたまま指を下に降ろして行った。  
 
「ひぃっあっ!やぁっ…。」  
「おーおー、だだ濡れだ。すんなり指が入るどころか、逆に吸い付いてくるな。離さねー。」  
森の中で行わていれるマリギュラとステラの情事。淫靡な水温が樹木を音叉にして響き渡る。  
「そ、それはマリっぁぅっ…ギュラ様ぁがあぁっ!。」  
ぢゅっ…ちゅくっ!にゅくにゅくっ!くちゃり…  
秘所に指を突っ込み、何度か指を折り曲げて弄んでいると、嬌声で講義をあげるステラ。  
「ほーぉ。ステラは俺が悪いっていうんだな?俺が。」そういいながら、指を秘所から出し入れしてやる。  
断続的な水音と嬌声が重なり、鼓膜に響く。指を一度出し入れするたびに、跳ね上がるステラ。  
「ひぅぅぅっ!やああっ!ふあっ…くひぃっ…んぐっくあっ!」  
「おおっと危ねぇ!」  
首に回された両手から力が抜けるのが分かり、慌てて翼をステラの背中で交差し、包み支える。  
バサァっと翼のはためく音が、アクセントのように、情事を彩る。  
情事を行っているのは、魔王と人間。そう、知らせるこの翼。  
「あっ…ふ。羽?これが…マリギュラ様の羽。」  
翼といえ翼と。コンチクショウ。1980円の安物みてーじゃねぇーか。  
確かめるように声を出して俺の翼に触る女を表す細い指。汗ばんだ指がちょっとくすぐったい。  
「そういや、意識して触るのは今が初めてか。ほれほれ、どんどん触っていいぞ。」  
そういいながら、翼を背中に添って、するすると撫でるように動かす。  
「ふぅっ!もぉ、悪戯なさらないで、ちゃんと触らせてください。」  
そう言いながら俺の翼をなぞる様にして触れていく。「艶やかで、柔らかくて、滑らかです。ずっと触っていたい…」  
はぁと、感嘆にも似た溜息を漏らすステラ。最近全然使ってないが、ここまで褒められると翼生えてて良かったーと思ってしまう。  
さすが侍女。褒め上手だな。これは、俺も負けていられない。  
 
「夢中で触っちゃって。これは俺もお返し、しなくちゃな。  
 ピンク色で、指を突き刺せば飲み込んで、動かせばうねうね形を変えて、本当にやらしいなー。」  
 
秘所に入れたままの指を再度動かして行く。手に伝わる熱い感触とぬめりが気持ち良い。  
ぢゅぐっ!にっちゃにっちゃ!にゅるる…っちゅぶっ!  
「え?あ?ひぃやぁあ!んふぁぁぁ…ひぃぃああっあっあっ!。」  
「声もいい。澄んだ声でひぃひぃ言っちゃって。私もう盛大でぐっちゃぐっちゃで飛んじゃってますー、みたいなよ。」  
「そんな、恥ずかしい事…あうっうっ言わない…でぇ。ああっ!。」  
「よぅし。もっと飛べるように。ココも触ってやらないとなー。」  
いつの間にか、指で擦れていたのか包皮が剥けて、むき出しになっている突起に親指を当てると、ぐりぐりとこねまわす。  
「そこはぁっ!あっひぃ!あーっ!あーっ!あああっ?来るっ来ちゃう…いやあっ!。」  
イキそうになってるのか、ふとももがぷるぷると震えだし、綺麗な腹部がつんっと張る。  
「よーし、良い子だ。そのままイけっ!よがりくるって踊れっ!。」  
秘所をむちゃくちゃにこねくり回しながら、突起をはさんで引っ張る。  
「んああああああああああああああーっ!やああっあっあーーーーーーーーー!。」  
だらしなく涎を垂らしながら盛大にイくステラ。栗色の髪を振り回しながら、俺の足の上で、文字通り踊る。  
「はあっ…はあっ…あっふぅ。」荒い息を付きながら、俺の胸板に倒れ込むステラ。  
顔は赤く蒸気し、黒いくりくりした目は涙目だ。こいつはたまらんね。  
 
「さて、と。」  
ステラがはぁはぁ言って、胸板に倒れてる間に、いそいそと服を脱ぎ出す。  
しまった。ステラが足にいるこの体制だとズボンが脱げないな。かといって、退かすのも気が引ける。  
ちょっと考え込んだ後に、翼と同じように普段使ってない部分が頭の中に再生されたので、それを利用することにする。  
ずるっと、背中とケツの間から黒い尻尾を引きずり出すと、ステラを巻くようにして絡みつかせ持ち上げる。  
「きゃっ!?ふぅふぅ…な、なん…ですか?尻尾?」  
なんて便利なんだっ…!尻尾ってやつは。魔王やってて良かった!  
ズボンを膝まで降ろすと、足を少し引き抜き、今度は足を勢いよく戻す。すっぽーんと飛んでいくズボン。  
そして露になる俺の肉棒。そう、履いてないってやつだ。パンツ?なんてものは窮屈でしょうがないからなっ!  
「え?え?きゃあああああああっ!。」  
尻尾に巻かれて、目の前には剛直。予想外の出来事に、ステラが悲鳴をあげる。  
魔王様、傷ついたぞ、マジで。  
「悲鳴はないだろ、今から大事な大事な儀式を行使する為の神聖なブツに悲鳴は。」  
「あ、い、いえ。申し訳ありません。ただ…その…。」  
ちらちらと俺の肉棒に視線を感じる。  
「色、とか…大きさ…とか…えっと。その…ですね」  
もじもじとしながら答えるステラ。そう言われ俺もつられて、自分のブツを見る。  
黒い。亀頭は紫で、大きいのか小さいのかは分からないが、結構不気味かもしれない。  
でもよーそこは、まぁご立派!ってのが侍女なんじゃねーの?  
「んー細かい事は気にするな。色なんざ白でも黒でも赤でも一緒だ!。  
 翼や尻尾があるんだ!ち○こが黒で紫だとしても不思議じゃないだろ!。」  
「は、はぃぃ!。」  
俺の迫力に怯えたのか、必死に頷きながら、はい、と答えるステラ。  
「さー優しくしてやるからな。何も心配しなくていいぞ。  
 すぐに何も考えれなくなるほど感じるから。」  
「ちょ…ちょっとお待ちください。マリギュラ様覚悟はできていますが、その、誓いの言葉とか、心の準備とかが…。」  
「もー!ぐだぐだ言うな!心の準備はヤってる間にすればいいし、誓いの言葉は終わってから聞くからいい。  
 さ、気持ちよくなろうな。」  
尻尾で巻き取ったステラをそのまま尻尾で引き寄せる。俺の肉棒とステラの秘所がぴたっと合わさる位置まで。  
「あ、あの…優しくして愛してください。その…初めてではございませんが、ご無沙汰というか…なんというか…。」  
愛い愛い。皆まで言うな。どっぷり浸かってもらうからな。  
尻尾を手前に引くようにして、ステラの秘所と肉棒を照らし合わせ、そのまま沈める。  
づぷっ…ぬぶぶぶぶっ!  
「はああああっ…入って…くるぅ…。」  
「くおっ…久々、だな。こいつは気持ち良い。」  
そういえば、俺、女と交わったのっていつだっけな。酒池肉林サキュバス30匹切り以来なんじゃないか?  
肉棒を包むようなぬめりとした感触に満足しながら、徐々に動いていく。  
 
 
――――人間と交わる。その行為がここまで良いとは俺とて予想しなかった。著ブレヌ・ミィ・マリギュラ  
 
 
「奥まで入って…ああっ!あああああああああっ!。」  
一番奥まで俺の肉棒が突き刺さったのか、嬌声をあげながら、ふぅふぅと苦しげな息を漏らすステラ。  
狭い…な。んでもってきゅうきゅうと締め付けてくる。  
「どうだ?ステラ。魔王と交わってる気分は?。」  
「くあああっ!あんっ…あっ!擦れるっ…だめぇっ!ぐりぐりってああっ!。」  
…聞いちゃいねぇ。メインは俺なのに、なんだ、この扱いは!  
ちょいと腹正しさを覚えたので、フリーになってる両手を乳首に当て、そのまま尻尾でステラを上下させる。  
「ひぃぃっ!?乳首が擦れっ…ひぃあぅっ!取れちゃうっ!ぎゅりぎゅりってうああっ!。」  
あられもない嬌声を上げながら感じまくるステラ。それが楽しくてどんどんと尻尾を上下させていく。  
「すげぇ乱れ方。侍女って称号は撤回だな。どー見ても娼婦にしか思えないぞ?ステラ。」  
「そんなあっ!そんなああああっ!だってっ!奥にこつこつってっ!当ってますぅ…当てられてますぅっ!。」  
いい。きゅうきゅうと締めてくる秘所が、今度はギチギチと搾り取るような締め方に変わる。  
人間相手が、ここまでいいとは誰が思うよ?  
たまらなくなった俺は、ステラの腰を掴み、尻尾を解き、その先を口にくわえさせる。そしてそのままがつんがつんと腰を振る。  
「むぅ?むぅあっ!あむっ…あっ!んっんっあっ!むふぅ…。」  
尻尾の先と口の先から、悩ましげな声が漏れる。俺自身、尻尾に性感はないのだが、その口から尻尾に当たる苦しげな吐息に興奮する。  
尻尾を伝ってくる唾液のくすぐったさが、また俺の征服欲を刺激する。  
あられもなく俺の体で、喘ぎ、淀を垂らし、目を見開いて髪を振り乱す。細い体を蹂躙され、体を朱に染めるそれ。  
こいつは…こいつは俺の物だ。快感に当てられ、体温が高まり、魔王としての人間にない絶対欲が鎌首を擡げる。  
征服欲。何かを掌握する、征服する、自分だけの領地、従者、それらがなければ我慢ならない暴虐な魔王の欲。  
魔王の中でも俺は、その欲がかなり薄めな方だが、こんなに美味そうなモノを見て我慢が効くほどタマなしでもない。  
ステラと目が合う。黒い目に爛々と燃える欲望の火を確認した後、一度に肉棒を引き抜きステラを押し倒す。  
「ふっうあ…マリ、ギュラ様?。」  
不安げな呟きを他所に、正常位の状態で両足を掴み、逃げられなくする。そして、俺は腰を浮かし、押しつぶすようにして  
ステラの秘所に肉棒を突っ込む。  
どすっという音がしそうな挿入に、何度目か分からない悲鳴が、丁度真上にある月に向かって放たれる。  
「いっあああああああああああああああああっ!深ぃぃぃっ!くっはあっ!あがっ!かっ…はあっ。」  
「お前を、俺のモノにする。俺でしか反応しないように、俺を求めなければ気が狂ってしまうように。」  
覆いかぶさり、そんな囁きを耳に入れさせる。ぶるっと一度体を振るわせるこの女が、  
―――愛おしい。愛おしい。愛おシイ。イトオシイ―――  
ぐあっと頭を上げ、牙を伸ばし、ステラの首に凶牙を振り下ろす。  
ずぶっと肉に牙が埋まる感触。口内を潤す甘美な甘い液体。かはっと息を吐く、俺のモノ。  
甘い。滑らかで。さらさらとしていて、美味い以外の感覚で表すのが失礼なくらいに。  
ごくごくと、ステラの血を、喉を震わせながら、舌で味わいながら嚥下していく。  
 
月明かりに照らされる二つの裸体と、鮮血、てらてらと光る愛液と汗。  
「くああっ!吸われてっ!血が血が出てるっ…いいっ…いいのぉっ!どうしてっ!どうしてえぇぇっ!。」  
ステラが俺の口から垂れる血と自身をぬらす血液の感覚に怯え、戸惑い、そして狂っていく。  
教えてやろうか?と流し目でステラを上から舐め、腰を振っていく。  
ヴァンパイアのような、生命活動を維持するでもない吸血行為は、すべからく快楽があるんだよ。  
勿論、それは小さく、痛みの方が普通は大きい。  
だが、夜魔の魔王、となれば話は別だ。サキュバスやインキュバスなどの色魔。シルフやフェアリーなどの妖精。  
どれも特殊なフェロモン、体液、鱗粉を持っている。それらを統べる王が、何も持っていないわけがない。  
俺の意思で、牙から分泌されるこの唾液は、どんな痛みでも快楽へと導く。  
人間に使うのは初めてだがなっ!  
どすどすと腰を振り、ステラの中を蹂躙していく。行き届いてない場所などないように  
「あっはっぁっ!あううーっ!ひっ、はっ、あっっ!奪われて…るっ。」  
そう。お前は奪われてる。魔王に。この俺に。マリギュラに。  
だんだんと思考も失われていく。なんのことはなく、ただ集中しているだけなのだが、  
強大すぎる力は、どの行為にでも強大に働く。忌々しい魔王の性。ただ集中する行為にしても多大なのだ。  
目の前の女がどんな状態なのか、自分がどんな状態なのか、周りがどんな状態なのか。それらが一瞬にして頭に入ってくる  
上で、さらに快楽を感じ、どこか冷静な防衛本能さえも頭に残す。驚異的な情報処理能力。  
それを今、全てといかないまでも大きな範囲を一人の少女に割いている。  
「ステラっ!ステラッ!。」  
所有権は俺だ。そんな意味合いを心の中から乗せ、ステラの名前を呼ぶ。。  
「くふぁああっ!マリギュラ様!あああっ!もうっ!もっとっ!吸って!奪って!何も考えられなぃっ!。」  
これが答えですと。もっと血を吸ってと俺の頭を抱きしめ、もっと突いてと腰を密着させはしたなく叫ぶステラ。  
その言葉に、行為に、新たな感覚がこみ上げる。射精感。子を作り、幸せな家庭を作り上げるような純白な感覚ではなく、  
一人の少女を染め上げ、汚し、奪う、どす黒く生ぬるい感覚。  
「ぐっ。出すぞステラっ!受け止めて見せろ!全て受け止めろ!逃げることは許さんっ!。」  
逃げられない姿勢を強いた上でさらに強引に言葉で意識を押し倒す。  
「あああ…っ…ひゃあぁんっ!はひっ!らへっ!もぉ飛ぅっ!子宮がらめぇっ!」  
もはや呂律も言葉の意味も無い言葉を聞きながら、ステラの体内へと精液をぶちまける。  
体の全てから染み込んでくる逃れない快楽が俺もステラもを覆う。どくどくと煮えたぎる俺の欲望がステラを汚していく。  
「あうあああっ!あっ!ひぅうううううううううううううううっ!。」  
押し倒していたはずのステラがびくびくと跳ねる。びたんびたんとステラの子宮口を精液が叩いて戻り、俺の肉棒をも叩く。  
さらに首筋に当てている牙から、どくんどくんと流れ込んでくる血液を喉で受け止める。  
ステラを奪い、奪った分だけ俺を染み込ませるような感覚に酔いしれる。  
しばらくして、一度火のついた征服欲が収まり、ふうぅと息を大きく吐いて余韻を振りほどく。良い気持ちだった。  
ふと、はふっと小さな息が俺の胸に当たる。くったり、という表現がぴったりなステラが微笑を携えこっちを見ている。  
といっても目の焦点はあってなく、呼吸は小さい。そりゃ血を吸われ、魔王の雰囲気に当てられ、快楽があれだけ押し寄せれば  
これだけの疲弊は予想の範囲、と頭が気分を害する答えをはじき出すのを無視して、ゆっくりと介抱することにした。  
 
さぁぁと、風に撫でられていく草と木りんりんと、上質な鐘の音に似た虫の声。  
いつもの荘厳な夜魔の森、その静かな光景に不釣合いな黒いベッド。その上でじゃれ合う二人が魔王と人間だなんて  
誰が信じるんであろうか。寝そべるマリギュラと、それに抱かれるステラ。  
「調子に乗ってちょっと激しくしすぎたな。」「…優しくしてくださると仰いました。」  
そういってぽりぽりと頭を欠くマリギュラ。ふいと、顔を背け胸板を抓っているステラ。  
とてもあの魔物染みた行為に浸っていたとは思えない穏やかな二人の顔を月が優しく見下ろしていた。  
「大体お前、慣れすぎじゃねぇか?侍女ってのが嘘かと思うほど乱れてやがった癖に。」  
「む。失礼です。私はちゃんと誠意精神、身も心も捧げる覚悟で抱かれたのですから、あれくらいは…。」  
先ほどの行為を思い出しているのか、ぽっと赤く顔を染め上げるステラ。  
「肝が据わっているっつーかなんつーか。魔王に抱かれてヨがり狂って、あまつさえ文句を言い出す侍女をはじめてみたぞ俺は。」  
「それは、その…快楽に溺れてしまう、侍女だって王宮では少なくないのですよ?。」  
「ホントかよ…。まぁ俺も調子に乗って血とか吸ったりしたから、何も言えないが…。」  
「そうですよ。マリギュラ様が優しくしてくださらなかったのがいけないのです。」  
マリギュラの胸板に頭を擦り付けて、拗ねるその表情は侍女ではなく、一人の熱に浮かされた女のそれだった。  
「それより、ひょっとして私もう太陽の下を歩けないとか、そんなことになってたりしますか?。」  
首に飽いた二つの小さな穴を撫でながら、ステラは心配そうな上目遣いでマリギュラを見る。  
「あー心配ないない。別に血を吸う自体に悪影響とか、俺の流し込んだ唾液に何かあるとかそういうのは心配するな。  
 吸血鬼みたいな劣等種と違って、魔王は都合よくできてるんだよ。」  
マリギュラはそういいながらステラの頭を撫でる。くすぐったげな微笑をもらしてステラはかけられたシーツを腕で抱く。  
「退屈が埋まるな…。」  
ぼそっともらしたマリギュラの呟きに、ステラが訪ねる。  
「退屈、ですか?。」  
「そうそう。生まれてからこの方、大きなコトは起したことがねーんだが、今日起しちまったからな。  
 魔王が人間の王になる。歴史書に載るな、こいつは。」  
ステラに指を向けながら、意地悪くマリギュラは笑っておかしそうに語る。  
「その、やっぱりマリギュラ様が人の王になるというのは大変なことなのですか?  
 先ほどの事は、えと、忘れないでいてくだされば私は…。」  
くっくっくと含み笑いをし始めるマリギュラに訝しげな視線を送り、少し睨むステラ。  
どーでもいーだろ。そんなことはと、そういいながらステラを抱きしめる。  
「魔王が人の上に立つってのが別に禁止されてるわけでもねぇし、思ってみれば一番適任なのは俺なのかもな。  
 夜魔は人間共と、結構近い位置にあるからな。サキュバスが美少年に絆されて、一生を尽くすなんて話だってよくあることだ。  
 そう思えば、不思議でもなんでもないだろ。」  
「ですが、そのやっぱり…。」  
「ここまで来て、ひっくり返すのはナシだ。それにだな、こう、何かを手に入れ、それに愛され、愛でるのもそう悪くないと感じた。  
 お前のいる城で俺の庭を作り、人間共の世話をするのもまた一興なのかもしれないと、そう思ったわけだ。」  
「マリギュラ様…。」  
「そんなことを心配する前に、どうやってお前の城の王になるかを考えてくれ。一人落すだけでもこの労力なんだ。  
 お前も侍女なら俺に楽をさせてくれよ。」  
そういって笑うマリギュラと釣られて笑うステラ。ステラがあれこれ考え、入れ知恵をし、マリギュラは王になるはずだったのだが、  
「俺が魔王マリギュラだ!お前らの王になりに来た!いいか!」  
と剛速球を放ちながら、正面突破するのはまた別のお話である。  
 
 
 

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