腕がふっ飛ぶというのは何時だって唐突だ、そんなのが日常茶飯事。それが俺の住んでる世界だ―――。
沼地をずるずると這いながら、片腕、両足を使い必死に逃げている青年を見ながら、本当にどうしようもない世界だと思う。
青年が何から逃げているのか?何に追われてるのか?そいつは青年の後ろにぞろぞろ並ぶ7匹程のリザードマンにでも聞いてくれ。
ついでに追われている方は、
「頼む、僕を助けてくれぇ!君だって、このリザードマンの退治を頼まれた人間だろうっ!?」
だとさ。同じ依頼だから助けるのか。傭兵稼業はいつからママゴトになった?
「ついさっきまでの威勢どーした?大層な事言って、舞い上がっていただろう?
僕は、貴方達のような善良な村人からはお金は頂けません。どーしてもと言うのなら、向こうの方に差し上げてください。
必ずリザードマンどもを一網打尽にして見せますよ!、だったか?」
生憎と俺は今日に限って物覚えがいいらしい。一字一句間違わずに覚えてるぞ、お前のキメ台詞。
この青年、何を勘違いしたのか、南の辺境の村で俺と同じリザードマン退治の依頼を受け、報酬はお前にやるから見てろと言い出した。
大人しく見ていることにしたら、3匹目の死体が前に倒れ込んでくるのを避けた所を捕まって、腕をふっ飛ばされたって寸法だ。
…実は腕を吹っ飛ばした隙に逃げる高度な逃げな選択だったりしたのか?どちらにしても哀れな子羊と言うほか無い。
その子羊が、沼地のぬかるみから浮かぶ大き目の岩に座り、まるで助ける気のない俺に向かって必死に叫ぶ。
「そ、そんなっ!?そうだっ!報酬だって譲っただろう!2000メドっ!僕らは一時でも仲間!そう仲間だ。だから助けてくれ!」
仲間なら後ろに沢山いるじゃないか。8対1だぞ。どうみてもお前の勝ちだ、良かったな。
「お前がタダで奮闘するって言うから、見に来てやったんだろう。……ところでそんな事喋ってる余裕はあるのか?
ほら、先頭の奴が走ってきたぞ?すっげぇ舌なめずり。腹減ってるんだな」
沼地の芝生にある石を、適当に青年の方に投げながら、ちょっと脅してやる。
「ひぃぃぃぃっ!」
おお、感心にも青年の這いずるスピードが上がった。人間、死ぬ気になればなんでもできる。
だが、ズルズルという這いずりの音と、ぐっちゃぐっちゃと沼を踏みしめて走ってくる音。
どちらが、テンポが速いかなんて簡単に想像がつく。這いずる青年の姿を、大きな影が覆っていく。
あー…追いつかれた。リザードマンが思いっきり振りかぶって、青年の頭に狙いを定める。
人間の頭がリザードマンの持っている、農民から奪ったであろう錆びた斧でカチ割られる、よくある話だ。
「うわああああああああっ!」縮こまって人生最大の悲鳴をあげる、青年。顔つきからするに享年21歳ってところか。
「グギャアアオ!?」ん?何故かリザードマンも、小さな悲鳴を上げて目を押さえてやがる。
ああ…つい退屈で石投げて遊んでた俺の石が当たっちまったワケだな。
手元を見ながら、何故リザードマンが悲鳴を上げたのかに納得する。
これはすまない、続けてくれという俺の心とは裏腹に、リザードマンはお楽しみの瞬間を奪われたせいか、俺の方を見て
フシュルルルルルと舌を出しながら威嚇し始める。そんな顔するなよ、わざとじゃあない。
「ひっ!助かった?助かったああああ!うわああああ!」
リザードマンに隙ができたのを本能で感じ取ったのか、ガクガクとおぼつかない足で立ち上がり逃げ出す青年。
演技が上手いな、腕も一本飛んだし、体も張ってる。でも笑えない。立ち上がって逃げれるならハナからやれ。
やれやれ、と岩から腰を上げ立ち上がる俺。腰と背中の間にストッパーで止めていた武器を引き抜き、
リザードマンに指差すように向ける。
「やれやれ…一匹残らず皮剥いで干物にしてやるから、元気一杯かかってこい。トカゲ諸君」
いきすぎた芸術に、絵だと分かっていてもこんなものは絵ではないと叫ぶ凡人の感覚。
それが沼地でリザードマンに相対している男の抜いた武器にそのまま当てはまる。
形は剣である…形は。
エクスキューショナーソードに酷似したソレ。両刃であり、厚みはmm単位、幅は3cmくらいなはずなのに、右左ともにほぼ刃はなく、
刀身1メートル、厚みは5cm、幅に至っては20cmもある。ほぼ、刃がないと表現したのは厳密に言えばある、ということに他ならない。
刀身の90cmくらいの位置から終わりまでに渡って、日本刀の切っ先を巨大化させそのまま取ってつけたように刃がある。
これが果たして剣であるのか?どのような武器であるか?は、この物語の主人公である男に体を持って語っていただこう―――
「キシャアアアアアア!!」奇声をあげながら走ってくるリザードマン。
青年から完全に俺を標的にうつした先頭の一匹だ。息を荒くしながら俺に向かってくる。
斧を振りかぶりながら突進してくる様は実にシュールだ。
「落とし穴でも、しかけて落けば良かった…確実に爆笑できる。くっくっく。」
俺は口元を吊り上げ笑い、剣をリザードマンに向けていた最初の姿勢から後ろに剣ごと腕を引く。そこからぐんっと腰に力を入れると、
腕を引き絞った上体からブーメランでも投げるかのような気楽さで剣を投げつける。
ドスっと鈍い音がして、走りよってきたリザードマンの心臓あたりに剣の切っ先が易々と突き刺さり、リザードマンが絶命し倒れる。
後続にいたゆっくりと忍び寄ってくる6匹のリザードマンは、一体何が起こったのか分からず、足が止まる。
武器を離してハンデをやったつもりなのに、なんという知恵遅れ。
まぁいいか、と。足に力を溜め、跳躍し絶命したリザードマンの死体まで近づく。
着地と同時に倒れてる死体の顔を蹴り上げ、無理矢理上体を起し、剣のグリップを掴み、胴体に前蹴り。
ズドォ!!と突き抜ける音と蹴りぬいた感触が足に気持ちいい。
掴んだ剣を前蹴りの反動と後方に飛んでいく死体の勢いを利用し引き抜く。
死体が勢いをつけて後続のリザードマンへと飛んでいく。横に広がっているリザードマンのうち、2体ほどに飛んでいった死体がヒット。
死体がぶつかり怯んでいる2匹。その機を見逃さず、疾駆し、死体が当たった2匹の首を剣の切っ先でなぞる。
ぱっくりと、首に切り口が施され、首から噴出する紫の血液、倒れる死体。
スッと軽いステップで死体の下敷きにならないようにバックステップする。
俺の動きと倒れる死体に、ようやく自分達の置かれている状況が分かったのか、4匹のリザードマンが金切り声を上げながら
ぞろぞろと俺に近づいてくる。
突っ込んでこないのは最初の一匹が、走っている途中で絶命したからなのか、取り囲みたいのかどっちかだろう。
しっかし、いちいち奇声をあげないと動けないのか。
とりあえずうんざりするほど不協和音な奇声を掻き消しててやるため、
横に広がっているリザードマンのうち、一番左側のやつまで横飛びで移動し、わき腹を狙い、剣をフルスイング。
メッキャッバキィ!剣の刃のない部分がリザードマンをくの時に曲げる。骨の折れる音と内臓の潰れる感触が手のひらを叩く。
コレは痛そうだ。だらんと緑色の巨躯が、力なく剣にひっかかり、ずるっと地面に落ちる。
地面に落ちた死体を合図にゴウッ!っと風切り音を鳴らし、俺の顔面に飛んでくる、どいつかの尻尾。
それに対して剣を横にし、広い刀身で受け止め、逃げられないように尻尾を掴む。
盾にも剣にも鈍器にもできる。便利だろう?三倍美味しい俺の武器。
尻尾を掴んだやつの頭に剣の切っ先を向け、尻尾を俺の方に思いっきり引く。バランスを崩し倒れ込んでくるリザードマンの頭に
突き刺さる剣の切っ先。
初めて見たぞ、トカゲの串刺し。心なしか、コイツ…顔が気持ちよさそうだ。美術館には飾れそうもない
さて、串刺しをやったはいいが、とっても突き刺さってる死体が邪魔。その隙をチャンスとでも思ったのか、
残りの2体が、豪腕を振り上げ、攻撃してくる。なるほど、低脳な頭で考えたのか?死体が邪魔だから逃げられないとでも。
トカゲの浅知恵が人間様に通用すると思うな、ド阿呆がっ!
ドッゴォォン!リザードマンの豪腕が轟音と共に地面に突き刺さる。動きを止めるリザードマン。
「振り下ろしが遅いな。そんなだから腕を飛ばした哀れなカエルにも逃げられるんだ」
腕が振り下ろされる瞬間、武器から手を離し背後のリザードマンの股をくぐり抜け、俺は攻撃を回避した。
トンっとそいつの肩に乗り、左腕を頭を抱くようにして手をあごにひっかけ、左腕を思いっきり引っ張る。
ゴキゴキゴキィっ!決して曲がってはいけない方向にリザードマンの頭が曲がる。
「おめでとうおめでとう!お前が最後の一体だ、思い残すことはあるか?」
一瞬にして首が曲がった為、倒れることのない変死体の肩に乗ったまま、リザードマンに話しかける。
「クッキュルアアアギュー!」さすがの怪物でも一匹になれば恐怖を覚えるのか、舌を巻き込んだような悲鳴をあげながら突進してくる。
ドガッと変死体に体ごと突っ込んでくる最後の一匹。
「残念だった。今度は頑張ってもっと繁殖しておくんだな。地獄で子作りにでも、励め。」
土下座して、平謝りしてきたらちょっと許してやろうと思ったが、しなかったのでお仕置きすることにした。
変死体の肩を始点に飛び上がり、突進してきた奴の頭に拳を上からめり込ませ拳ごと地面に叩きつける。ぐちゃりっ!
ドサッと倒れ込む二つの物言わぬ抜け殻。
ぬちゃりという音を立てながら拳を頭から引き抜く。あたりに匂い渡る生臭さに軽く顔をしかめる。
奇声、斬撃、打撃音がコーラスを奏でていたときとは打って変わり沼地に不気味な静寂が訪れ、それが戦闘の終わりを告げる。
拳を沼の水でさっと洗い、死体に刺さっていた剣を回収し、一度素振りをして紫色の血を払った後背中のストッパーに剣を差し入れる。
ハッと息を一つ吐いて、周囲を見渡す。紫色に染まった大地と転がっている10匹のリザードマンの死体。
化け物をたった10匹殺せば金が手に入るような、腐った世の中。
失敗すれば腕一本吹っ飛んだりする。頭の痛い事にこれが俺の住んでいる世界だ。お分かり頂けただろうか
太古の世界には、こんなトカゲ野郎どもなんぞ、いなかったらしいのだが、この星と他の星が衝突し、全ての生物が死滅した後、
星と星が合体し、挙句生態系が変わり、恐ろしい怪物が生まれるようになったらしい。
偉そうな貴族やら王族やらが、帝国作ったり戦争したりと実に平和だが、
モンスターは黙っててくれないから、こんな依頼があり、傭兵稼業が増え、腕が飛ばされるというわけだ。
南の首都ロウディアでも、北の首都オルガノでもそれは変わりない。
ちなみに、土下座して平謝りするリザードマンはまだ見たことがない。いつか見れると信じている。
「リザードマン…ね。皮でも剥いで持っていけばアイツに売れるだろうか。」
沼地でリザードマンを刺身にし、依頼を終えた俺が向かった先は、南の首都、帝国ロウディアからやや離れた街、テレパだ。
帝国から近いだけあって、人口は4000、結構ある。
リザードマンの血やら臭いやらを落す為に、依頼を受けた辺境の村で入浴して涼んできたが、
南の地、特有の気候の為かなり暑い。ちょっとずつにじんでくる汗と、がやがやと群がる人ごみを
うっとおしく思いながら、大袋を担いで街を歩く。馬車でも借りて行けば良かったなと本気で思う。
小一時間ほど歩くと、見慣れた看板がついた店が目に入ってくる。
その店のドアを開け、大またでカウンターらしき所まで歩いて行き、ドサっと無人のカウンターに大袋を載せる。
一息ついて防具や武器が所かまわず配置してある店内を見回す。
「アルチェ!素材を持ってきた。」と多少大きめの声をあげる。その声にカウンターの下から返事が返ってくる。
「いらっしゃーい?あっ!旦那じゃない!元気、してた?。」
ハスキーな声と共に、カウンターの下からひょっこりと女の顔が飛び出す。
髪はコバルトブルーに染まっており、ゆるめのウェーブとふわふわとした髪つき。目は茶色。
シャツとミニスカートの上にエプロンを着ている奇抜なファッション、背は150くらいと小さいがグラマーな体のライン。
何度見ても武器、防具屋の店主には見えない。おまけにカウンターの下で居眠りの職務怠慢つきだ。
「今なんか失礼な事考えてたでしょ?もしかしてアタシのおっきなおっぱいでも触りたくなった?」
胸を両腕で持ち上げながら、うふ、と流し目で俺を見つめるアルチェ。
まぁ…確かにお前の胸はデカイ。90は鉄版だ。その分、脳に栄養が回ってないようだ。
「相変わらず脳みそが足りてないようで、安心した。利益はちゃんと計算しろよ?」
「むー…冷たい!でも、今日は蒸し暑いからいっか!それじゃ見せてもらうね。」
アルチェはそういうと、ピンク色の皮手を両手にはめ、俺の持ってきた大袋を開け、中身を手に取り、真剣な目で吟味する。
唯一俺の利用する武器、防具屋だけあり、格好や態度はアレだが、コイツの腕と目はかなりのものだ。
「ふぅん、リザードマンの皮かぁ…厚さは…鎧にするには十分。鱗のないタイプなのがいいね。
なめし易そうだし、手間がかからない点を大きく加味して一匹分、300でどう?」
「200でいいぞ。但し即金でな。」
「ホントぉ?もーぉっ!だから旦那ってスキっ!どんな客より話が早いんだからぁっ!」
そういいながらアルチェが抱きついてくる。ふにゅんと形を変える胸が俺の頭に当たる。
「どうでもいいから、さっさと金をくれ。領収書はいらんぞ。というか離せ、暑苦しい。」
「いけずぅ。抱きしめ返してくれたってイイのに。あどけない顔してる癖に、超ドS。」
ブツブツと俺に文句を言いながら、金庫の鍵を開け、2000メドを取り出しカウンターの上に置くアルチェ。
「ありがとよ。遠慮なく頂く。商売繁盛を願ってるぜ。」
俺は少し微笑をもらして、テーブルの上の札束に手を伸ばす。札束に手を触れた所で、ぽんとアルチェの手が重ねられる。
「んふふ〜ぅ。す・き・あ・り♪」
「なんだ?まだなにかあるのか?」
不機嫌さを隠そうともしないまま、アルチェの方を見る。なにかなー?といった表情で首をかしげ空いている手の小指を唇に当てている。
「腕でも切り落とされたいのか?」
なんとなく展開は読めている物の、するっとこういう言葉が出てくるのが俺の性分。
「んもぉ、そういうドSな所を見せるから発情しちゃうの。さっきの会計の差額1000円分、水浴びでもしていかない?
汗かいてるでしょ?旦那。」
何度目か分からない誘い方に、ふぅ、と下を向きながら、わざとらしく溜息を吐き、空いてる方の手でアルチェの首を
掴み引き寄せ、キスをする。俺の受け方も毎度毎度同じ。人の事は言えないな。
「んんっ!?ぷっはぁ…いつも通りイキナリ、だね旦那。やる気になった?」
「少なくとも、さっきのリザードマン退治よりは幾らかは。」
「たっぷりサービスしなきゃ、ね。」
俺だって男だ。売られた喧嘩は買わねばなるまい。
「なにもお前、脱衣所まで一緒に入ることはない、と思うんだが?」
「雰囲気ないなぁ…そゆトコがまたいいんだけど…
今日は何から何まで、あたしがするのっ!旦那は黙っててくれるだけでいいんだから、ね。」
というわけで脱衣所。ドアを背に背伸びしながら俺の服を徐々に脱がしていく下着姿のアルチェ。
純白の下着が肌を控えめに浮き上がらせ、髪を際立たせ、レースガーターがコケティッシュな色気を醸し出している。
店に来る少年傭兵どもが知ったら、フル勃起に違いない。
「ん〜。あたしの作った装備にぃ、この胸板〜。旦那、あたしもう堪らないんだけど。」
そのアルチェは俺の胸板に頬擦りしながら、すんすんと匂いを嗅ぎ、涙目でこっちを見ている。
「堪らないのはいいから、とっとと脱がせ。押し倒すぞ。」
「はいはーい。我ながら、複雑な着脱式の装備作っちゃった。あ、剣はそこに立てかけておいてね。」
言われたとおり、武器をストッパーから抜き洗面台に立てかけておく。そうしている間にも
俺の装備に文句を言いながらパチパチとボタンやベルトを丁寧に外していくアルチェ。
「そういえば、全部、お前がやるんじゃあなかったのか?」
意地悪そうに笑って、アルチェを見ると、いじわる…と少しこちらを睨みながら見上げている。
「だってそれ、重すぎてあたしの腕じゃ持ち上げられないよ。広くて太くて硬くて、でも切っ先は物凄く鋭い。
…なんか旦那に似てる?えっち。」
「何がえっちだ。下を脱がしながら、視線を股間に一点集中して言うのは止めろ。」
「あは、ゴメンゴメン。そんなこと言ってる間にもう脱がし終わっちゃったね、ちょっと残念。」
てへっと舌を出したいたづらっぽい顔をこちらに向けたまま、両手で純白のブラジャーを外し、下に落す。
豊かな胸が、ブラジャーから開放された弾みでぶるんっと揺れる。
「何度も見てるが、お前の体の方がよっぽどやらしい。」
「それは胸?唇?それとも…アルチェの大事なトコ?」
「全部だ。わざと見せ付けている癖に、艶っぽさが滲み出てくる時点で、お前は反則だ。」
変な欲を出さず上から下まで見てみる。
実際、かなりイイ女だ。武器防具なんざ作らずに玉の輿でも狙えば、いい所までいくだろうに。
「ふふ〜っ、嬉しいなっ!旦那に褒められちゃった!ねね、早く入ろっ?」
くぅ〜っと左手の握りこぶしを口もとに当てながら、後ろ手で風呂場のドアをガラガラとあけ中に入っていく。
風呂場は、目の冴えるような一面ピンク色だ。浴槽も、風呂桶も、椅子も全てピンク。
「ここに入った時の第一声は目が痛い、これに限る。お前の頭の中もこんな感じか」
「勿論そーよぉ?女のコはね、いつでもどこか、お姫様気分で、お花畑に囲まれていたいって思ってるの。
防具や武器を扱っていたってあたしも、そういう夢みる乙女の一人だから、ピンク色なの。」
意味不明な脳みそピンク色お花畑理論を、嬉しそうに喋りながら、風呂場の真ん中の椅子の後ろに回り、
正座しながら両手を広げこちらを見る。
「はーい。いらっしゃぁい〜旦那っ。さっ、お背中流してあげるっ!座って座って?」
「成る程な。お前の脳みそピンク色理論も、たまには悪くないかもしれない、
そのコバルトブルーの髪色が、華やいで見えるし、な」アルチェの髪を一度撫で、どかっと椅子に座る。
どうやら、俺の脳みそもこの一面ピンク色に犯され始めたようだ。
「ふふふふ〜♪だーは旦那のだー♪ふふふーん♪」
意味不明な唄を歌いながら、自分の体に掛け湯をし、石鹸を風呂桶に溜めたお湯で泡だたせ始める。
「あわあわ♪うん。これくらいでいーかな。」
十分に泡だった泡を見て、満足そうに頷くとその泡を手に取り、自らの胸に塗りたくる。
「んっ…本当はぁ、旦那にこうやってもらうのがいいんだけど、してあげるって決めちゃったものね。」
大量の泡がぬるぬると胸をデコレーションしていく。ふるふると揺れる乳房。
「完成!旦那専用マシュマロたわし♪うふっ、綺麗にしちゃうんだからっ。」
俺の脇に腕を回して抱きつくアルチェ。背中にずっしりと潰れ、それでいて柔らかい乳房の感触が背中を染めていく。
「どぉ?柔らかいでしょ?アルチェのおっぱい。」
「いつもどおりだ。たぷたぷとした感触がちゃんと伝わってくる。」
「えへへー、でしょ?いいでしょ?さ、もっと頑張るから、楽にしててね。」
そういうと、ずりずりと滑らかな肢体を俺の背中にこすり付けていく。時折、首筋に軽いキスや、腕に乳房を乗せて滑ったり
至れり尽くせりだ。にゅるにゅるとした乳房の滑る感触と、時折当たる乳首が過激ではないが、穏やかな快感を奏でる。
「確かに為すがままのいつもと違ってサービス精神旺盛だな。気持ちいいぞ。」
素直な感想を述べる。正直な所、これで喜ばないやつがいたらそいつは種無しだ。
「当たり前、でしょ?んふぅ…んん…はぁ。背中広いから結構大変。時々乳首も擦れて、あたしだって気持ち良いもの。」
「このサービスなら、そこらへんの、娼婦なんざ相手にならないだろうな。」
俺がそう言った瞬間、アルチェの動きがピタっと止まる。同時に背中から物凄い寒気が。
「そこらへんの娼婦って、だぁれ?」と囁かれた耳がかじかじと、アルチェに甘噛みされる。
なんとなく、ヤバイ匂いがする。空気の流れが何故か重い。なんでだ?
「そこらへんっていえば、そこらへんだろ。そこらの騎士様が、場末の遊郭に入っていくのをよく見るだろ。」
「ふぅ〜ん。旦那もそういう所行ったりするの?」
「金取られてまで、ヤリたいほど、落ちてはない。ヤリたい相手はヤリたい相手で選ぶさ。」
そう言って答えると、何故だか空気が軽くなった気がした。さっきのは気のせいか。
「んー♪そうだよねぇ!旦那の体を一番知ってるのはあたし、なんだから相手くらい選ぶわよねぇ〜。」
何故か満足した様子で耳から離した口を、肩に置き、ちゅーっと音すらしそうなくらいに吸い付かせて、また体を
動かし始める。しばらくして、
「うんっ!背中は綺麗になったよ、旦那。今度はこっち向いて?。」
わき腹から腕がするりと抜けていき、後ろからそんなことを言われる。
言われたとおりに後ろのアルチェの方に振り向くと、アルチェがとんっと俺の膝の上に体ごと乗っかってきて、
首に腕を回し思い切り抱きついてくる。
「はぁ…っん〜、やっぱり顔が見えないと寂しい。後ろからだと密着感薄れちゃう。」
さらに密着感を増やしたいのか、うねうねと肢体をくねらせながら、はふぅと首を肩の上に置く。
「今日はやたらと甘えるな。そういう日なのか?」
「うん、そーいう日よ。旦那こそ、いつもより勃起のが早いよ?
ギンギンのが太もも撫でたりして、誘ってるんだからぁ。一発、先に抜いちゃおっか?。」
さて…どうするかな?