★ヴァリオキュレの森 四話 「アベル=レヴィアタン T」  
 
 退屈な授業だ…………  
 黒板に書かれた蘇生術の方程式を眺めながら、そう呟きそうになった。  
 こんなもの、百二十三と六百五十四を合わせたら幾つになるか? と聞かれるのと大して変わらない。  
 自明の理だと思うんだけど、周りの連中にとってはそうはいかないらしい。  
 みんな机の上の数式と睨めっこしながら、必死に頭を回転させている。……ように見える。  
 まあ、仕方がないのかもしれない。  
 何を隠そう、僕は天才なので――  
「こらー! アベルッ、起きなさぁ、いっっ!!」  
「――痛てっ!」  
 幼いくせに艶めいた声、それと霊木の杖が飛んできて、僕の頭に直撃してゴッという鈍い濁音が鳴った。  
 まわりの男子生徒の一部が失笑を洩らす。   
「ってて……」  
 頭頂部を両手で押さえながら呻くも、今の事柄をしっかり反省材料に入れておいた。  
 人間、されても嫌じゃないことには何も意識しないが、嫌なことには過敏に反応して修正するものである。  
 僕の場合、嫌だと思ったら絶対に二の轍を踏まない。  
 周りの人間は、解っていても何度も同じ失態を犯すものが大多数らしいから、なんというか、複雑な気持ちだ。  
前述はまだましな方で、酷いとその失態を人になすりつけて自分のものでは無いと、現実から眼を逸らす奴のおおいこと。  
 そういう輩を目撃すると思わず吹き出したくなる(けど堪えるのが僕だ)。  
「アベルッ! 机に突っ伏してる暇があるなら、あの方程式の応用問題を解いてみなさい!」  
 僕の机まで歩んできて、霊木の杖を拾い上げたタマル先生。  
 こういう時、いつも彼女の童顔だけを見すえるようにしている。  
 身体の部分は、眼に映してしまうと危険だからだ。  
「わかりました」  
 気だるそうに即答する僕に、先生は何げなく微笑みかけてくる。あからさまな贔屓的目線だ。  
 でも、かわいいなあ……なんて思いつつも、表情一つ変えない。  
 ‘そういう奴じゃない’からだ。  
 周りの生徒は僕をどう見ているかといえば……  
 今は十六だが、齢十四の頃すでに知識・実技・精神と、主要三教科で学院頂点に立った神童。  
 というのは先生方にいわれるもので、生徒からは化物だの異端児だの、良い呼ばれ方をした記憶が無い。  
 まあ実際には、先生の中にも僕を蔑称で呪ってる人も多いのだろうけど。  
 全然、関係ない――  
 と、教室中から感嘆のため息がもれ始めた。  
 一分足らずで、超難解な(といわれている)蘇生術の応用方程式を解いてしまったからだ。  
 
 嫉妬、羨望、畏敬、はたまた猜疑、憎悪……様々な感情が、男子生徒の眼を通してぶつかってくる。  
「……さすがね、アベル!」  
 先生に褒められたのは嬉しいが、残念ながら大した高揚感はない。  
 最初の方はあったけど、それも慣れてくればどうってこと無くなってしまっていた。  
 つまらないな……気が付いたら、それが僕の口癖になっていた。  
 学院は退屈なだけだし、家族にも嫌われている。この環境のなかでは、特にやりたいことがあるわけでもない。  
 唯一理解してくれるのが、この回復術専任のタマル先生だけど……  
 とにかく、一刻も早く学院を卒業し(待つしかないけど)、独り立ちしたくてしょうがない。  
 過剰に縛りつける父上の元にいては、僕はなにも成すことはできない。  
 さすがに魔法士の資格は欲しいから今は大人しくしてるけども、取ったらはっきりと決別してやるつもりだ。  
 
 ―――  
 
 黄昏に包まれた魔法学院フェリクス。  
 放課後とあって、生徒や教師は九割方帰路につく時間帯だ。  
 僕は…………誰もいない教室に独り残っている。  
 といっても、ここに誰かが来るのを待っているわけじゃない。  
 魔気の流れを探って、ある人達がある場所に足を運ぶのを待っているのだ。  
「………………」  
 双眸を閉ざして集中し、その人や場所特有の魔気を読みとる。  
 図書室……………………タマル先生……………………ノア……………………  
 この三つの魔気が、段々と重なろうとしている。  
 図書室には当然……だれも居ない。  
 この事柄から導き出されるのは、大半が色めいた想像だろう。  
 そうではない場合ももちろんあるが、結論から言えば、これはこの二人の交会なのである。  
 生徒と先生。  
 この二人の関係でこのような事が学院に割れてしまえば、ただで済むわけがない。   
 なのに…………先生は平気で次々と男子生徒を喰ってしまう。  
 ただ、理由は多くあるのだ。  
「………………よし」  
 三つの魔気が交わったのを確認し、椅子を立ち上がる。  
 これは僕のささやかな、そして密かな愉しみだ。  
 先生と生徒の情事を覗く。  
 
 ただそれだけで、注視しながら自慰にふけるわけでもない。  
 なのに、僕はその行為に、何ゆえか確かな高揚感を覚える事ができている。それが嬉しい。  
 図書室は、僕が在籍している教室から歩いて五、六分程度かかる。  
 つまり、結構遠かったりする。  
 早くしないと前戯を見逃してしまうかもしれない。  
 とはいえ、今日はいかにも童貞そうなノアが相手だ。  
 先生は経験の少ない奴ほど時間をかける傾向があるから大丈夫だろう。  
 僕も人のことは言えないが、彼は身体の線が細く、女の子みたいな顔つきなのだ。  
 実力はそこそこなんだけど、性格もお人よしで純粋(そう)なので、他の男子生徒にからかわれている場面をよく目撃する。  
 ……魔法を行使可能な女にとって(僕は先生と‘雌銀狼’しか知らないが)、童貞の男は危険な果実だ。  
 人は、性交を重ねることで魔気を高めることができる。  
 それも、相手方の貞操の度合いが強いほど、お互いに奔流する魔気の疼きは強烈なものとなるのだ。  
 そのため、魔法士を志す者はとにかく経験が早い。  
 この大陸では……女剣士の森を除いてだが、女というものは剣で男に劣り、魔法は行使すらできないことから、女は一部で‘家畜’扱いされている。  
 正直、馬鹿げた考えだ。  
 女がいなければ、男は生まれることすらできない。  
 女がいなければ、愛の意味を知ることもない。  
 父上に奴隷のような奉仕を強要されていた母上は、僕が五つの時に亡くなった。  
 僕は、父上に………………  
「…………………………ノアくん……」  
 甘やかな声をきいて、我に帰る。  
 無意識のうちに目的地にたどり着いていたらしい。  
 図書室の扉ごしに、これから情事にふけようとしている男女の話し声が響いてくる。  
 図書室には透いた窓や壁がないので、室内を覗うことはできない。  
「せ……せん、せぇ…………」  
「あらあら……こんなに固くなっちゃってるじゃなぁい。……可愛い顔に似合わず、いやらしい子なのね。……ノアくんったら♪」  
「ひうっ! ……ぁ…………そん、な…………に、触っちゃあぁぅっ!!」  
 ノアの、十六の少年とは思いがたい甲高い喘ぎ声。  
 どうやらもう始まっているみたいだ。  
 それにしても……僕の魔気を察する力、消す巧さは、この学院では希有のものとあらためて思う。  
 タマル先生ですら全く感づく事ができないとは……恐らく、僕より上なのは学院長のみだろう。  
「ほーら、もう先っぽからお汁が出てきてるわよ。気持ち良いの? もっとしごいて欲しい?」  
「ふあぁぁ……き、気持ち、いはぁん! だ、だ、駄目ですっ……そ、そんあに……っ!!」  
 
 ……残念ながら(?)僕は男がされているところを見る趣味はない。  
 できれば彼にはさっさと、いさぎよく、早急に、射精してほしい。  
 《透過》を行使するのはそれからだ。  
「はぁ! はぁん! せ、せんせぇっ、もぅ出ちゃ……!!」  
「いいわ、遠慮なくお口の中にぶちまけなさい♪」  
 ちゅぷ、ちゅぷ、と男にしゃぶりつく淫音が発されてきた。  
 間もなく終わるだろう。性急したくなる。  
「せんせぇ……………………くっ――――ごめんなさぁあぁぅ!! はぅ!! あぁぁあぁあんっっ!!」  
 ……十六のくせに女の子みたいな声。  
 先生は未だノアのそれに吸い付いているらしく、じゅぷじゅぷと鳴る水濁音は留まるところをしらない。  
 よっぽど好きなんだなあと思う。  
 というか、ノアの奴盛大に喘ぎすぎだ。  
 いくら先生が魔気察知に優れてるとはいえ(僕と学院長除外)、あんまり声が大きいとばれるぞ。  
 まあ、そんな事になりそうだったら僕が阻止するけど。  
「はぁ……はぁ…………ふぅ………………」  
「うふふ……きもちよかった?」  
「…………はい。…………その、僕も……先生を……」  
「犯したい?」  
「…………………………」  
「そう……………………」  
 ……っと、黙ってる間に何をしてるのか、大体の想像はつくけどこれじゃあ分からない。  
 左眼をふさいで右眼はあけ、右手で右眼を覆い隠して詠唱を行う。  
 《透過》の出番だ――  
「《透かせ。彼の物を透かせ。我が眼から失くせ……透過!!》」  
 右手をふり払い、左眼をあけて魔言語を叫ぶ。  
 ――図書室の扉が消失した。  
 しかし‘扉本体’は存在している。  
「…………ノアくん、どうしたの? 触っていいのに……」  
「………………」  
 夕日の射していた図書室は、淡い橙空間と化していた。  
 木床にあお向けに横たわる小さな先生に、ノアのさらに小さな裸身が覆い被さっている。  
 まるで子供同士の交合と見られてもおかしくない構図だ。  
 タマル先生はよくて十八にしか見えないほどの童顔、少女体形な肢体で、ノアもよくて十四にしか見えない。  
「……ノアくん、女の子をあんまり焦らし過ぎると、嫌われちゃうわよ♪」  
 
「………………」  
 ノアは真っ赤な顔で先生にのっかりながら、何もできないでいる。  
 華奢な身体にまとった純白の法衣は、思春期の少女の体線をそのままなぞっているように見える。  
 あどけなくも程よく膨らんだ胸、細くくびれた腰、ほっそりしている下半身……  
 少し憂いたのは、自分は幼女趣味なのかということだ。  
 先生が幾つなのかは別として、外見的には僕(十六)と同年代かそれ未満にしかみえない。  
 その先生に対して欲情しているのは自覚しているものの……  
 ――と、ノアがようやく控え目な双丘に右手をのばした。  
 しかし、なんという無造作且つ無作法な挙動。これが童貞なのか(僕もだが……)。  
「んっ……!」  
 左胸を揉まれた瞬間先生はなまめかしく途息したけど、なんとなく演技くさい。  
 ノアは顔を真っ赤にしながらも、本能のままに先生の胸を法衣のうえから歪ませる。  
「は……あっ…………ひ、あ……ふぅ…………」  
 青い眼を閉じて、小さな口からあどけない嬌声を発し、青い双尾髪をゆらして首を振る。  
 どこからどうみても気持ち良さそう。  
「せんせぇ…………き、気持ちぃ?」  
 激しい息遣いと興奮の極地に達したかのような紅顔で先生に問うノア。  
「うん……気持ち良いわ、ノアくん」  
「じゃ、じゃぁ後ろから揉んでいい?」  
 急に何を言い出すんだろう。  
「……いいわよ♪」  
 先生も、なんでにっこりしながら即答してるんだろう……  
 ノアは、上半身を起こして座した先生の後ろに回り込み、しゃがみ込む。  
 おずおずとした両手の動きで先生を抱くようにして、大きさがくっきり判る白衣を覆った胸もとを鷲掴んだ。  
「あぁ…………あん……」  
 もうノアに遠慮は無い。  
 服の上から何度も何度も、ひたすら胸を揉みしだく。  
「あふっ……ん、あく…………あぅん……!」  
 先生は快感を満面にして色っぽく鳴きあげる。  
 本当に気持ちよさそう。でも、僕だったら直に触りたくなるな。  
 ……ふと思った。  
 ノアって本当に童貞か?  
 僕は正真正銘の童貞だけど、ノアは創見的にそうなんじゃないかと思っていた。  
 いや、実際どうかわからないが……仮に自分がタマル先生と床をともにすることになったとしたら、ああまで積極的にいける自信がない。  
 
 もし彼がいま演技しているんだとしたら……  
「せ、せんせぇ…………そ、その…………」  
「……………………」  
 先生は、どぎまぎしながら喋るノアの右手を無言でつかみ、自らの秘唇へもっていく。  
 はっとするノアにかまわず、先生は少年のか細い手で法衣ごしに陰部をなでさせる。  
「せっ………………」  
「ここ……? …………ここが欲しいんでしょ? ……私も、欲しい…………」  
「せんせぇ………………これを……入れたいです……」  
 さっき出したばかりなのにずいぶん元気ね――と続くのかと思ってたけど、外した。  
 事実、ノアのそれは先刻からずっと膨張している。  
 あどけない面立ちや引っ込み思案な性格に似あわず、彼のものは極めて立派な剛直だった。  
「じゃあ、ちょっと待っててね……」  
 裸でしゃがみこんできょとんとしているノアを置いて、立ち上がった先生はぬぎぬぎ(……)し始めた。  
 上下一体の法衣だから、脱ぐのには手間がかかる。着るのはさらに面倒で、五分は掛かるんじゃないだろうか?  
「………………」  
 徐々に露にされる少女――じゃなく、女性(のはず)の裸体を、ノアは手に汗にぎる面持ちで見入っている。  
 僕は見慣れているからあれだけど……最初に見た時は、それはもうあまりの衝撃に興奮して早鐘を打ったものだった。  
 今は逆に落ちつき払いすぎてて、我ながらかわいげが無い。  
「……わぁぁっ…………!!」  
 感動すら覚れる声色のノアだった。  
 一矢纏わぬ姿の先生は、まさに幼い悩ましさを体現していてすごく扇情的なものだ。  
 体にぴったりな服の所為で脱いでも大して細くならないのは、もはやご愛嬌というしかない。  
「はぁはぁ……せ、せせせせんせぇえっ…………」  
 いきりたつ欲火を堪えて立ち上がり、今にも先生を押し倒さんばかりのノア。  
「かわいいわ、ノアくん…………挿入れたくて挿入れたくて、しょうがないって感じね♪」  
「ひぃんっ!!!」  
 先っぽを突っつかれかわいく高い声で鳴く姿は、十六の少年ということを忘れさせる。  
「でも、待って。ノアくんの手で、ここを濡らしてもらえる?」  
 大胆な発言だ。  
 言われたノアといえば、頬を紅く染めながら生唾を飲み込んでいた。  
「焦らさないで、ね? ノアくん……」  
 両手を合わせて、おねだりするように青い眼をきらきら輝かせて懇願する先生。  
 正直ワザとらしいけど、どうやら効果は抜群だったらしい。  
「せっ……せんせぇっ!!」ノアの右手が秘処を捉える。  
 
「あっ……あぁぁんっ!!」先生がいきおいよく嬌声を上げる。  
 さらにノアは跪いて先生の下半身に顔をもっていき、舌をいやらしく繰りながら最も敏感な部位へと這わせた。  
「はぁあンっ!!! ノアく、そこはあぁんっ! やぁ! ダメっ、気持ちい……ひゃぅンッ!!」  
 ちゅぷ、ちゅぷ、と淫核を吸いつく猥音が先生から発されてくる。  
 更には二本指で膣内を行ったり来たりで、だんだんと具合がよくなりそうな感じの水音がでてきている。  
「あん! あんっ!! も、もう出ちゃ……ふぁああぁっ!!!」  
 嘘だろう……?  
 しゃがんでいるノアに立ったままあそこを舐められている先生の顔は、確かにいっぱいいっぱいに顔をひずませている。  
 びくびくと一定の間隔でわななきながら天を仰ぎ、愉悦の嬌声が図書室の外にいる僕にもはっきりと聞こえてくる。  
「イっちゃ…………――はンっ!! イく!!!」  
 合図の声を出すと、先生はその場所から透明の液体をびしゃびしゃと放り始めた。  
「ああぁん!! やぁあん!! あんっでるっ、でるでるでちゃぅよぉぉッ!! あぁっあぁっ、くぁんぁあぁあッ!!!」  
 自分の花弁が穢されているのを見つめながら、首をぶんぶん振って双尾髪をふりしだき、至高の快楽を味わう先生。  
 無秩序に、欲望のままに漏らしてあえいで、こんな先生はなかなか拝めない。  
 時期尚早かもしれないが、やっぱり彼は童貞じゃないと思わざるを得ない。  
 ……なんかすごい恍惚としたノアの表情が、先生の愛液にまみれてるけど。  
「はぁ、はぁ、はぁ……す、すごひのっね、ノアく……はぁ、はぁ……」  
「ううん……せんせぇ、ありがと。ボク、はじめてだったからもう必死で……でもせんせぇ、すごくかわいかったなぁ……」  
「そお? ……うふふ、嬉しい♪ ありがと、ノアくん」  
 ……もうノアが童貞か否かはどうでもいい。  
 それより二人とも、早く本来の作業に取り掛かるんだ。  
 あんまり遅いと副院長が見回りにきてしまう。  
「じゃあ、ノアくん……いきましょうか?」  
「うん…………でも、心配ですぅ。使いものになるかなぁ……」  
 ……思わず顔を覆ってしまう。  
 彼は本当に十六なのだろうか?  
 稚さすぎる見た目もだが、中身もかなり遅れている気がする。  
「大丈夫よ。ほら、まだこんなに元気じゃない」  
 自己主張がはげしいノアのそれを指差す先生。  
「あ、いや…………その……途中で折れたりとか、すぐに出しちゃったりとか、あとちゃんと動けるかなぁとか……」  
 恥ずかしそうに不安の数々を口にする少女……というのは、股にへんなの付いてなければ説得力あるんだけど、流石に無理があったか。  
「安心なさい、そういうところは先生がちゃんと補ってあげるわ♪」  
「…………うん」  
 まだ自信なさげなノア。見てるこっちまで心配になってくる。  
 
「さ、早くしましょ♪」  
「………………」  
 ことさらに明るくいう先生に、僅かに不安げな表情をむけながら頷くノア。  
 先生ははだかのまま、木床へあお向けに横たわった。  
 ノアもつられるように腰を落とし、先生の両脚を拡げる。  
 盗み見されているのをよもや知っているわけじゃないだろうが、彼らの顔が両方見えるのがたいへんよろしい。  
 僕からみてノアが右、先生が左にいて、結合部もうまい具合に濡れているのがわかる。  
「……せんせぇ、気をつけてね」  
「……え?」と先生。  
 僕も同じように疑問符を発したくなった。  
「ボク、童貞だから、すごいのがくると思うんだ」  
「………………」  
 自意識過剰だよ。先生も当惑してる。  
 確かに、童貞と一回でも経験した男とは、流れてくる魔気量に倍近くの差がでる。  
 でもノア、もとの魔気が少なければ童貞だろうが大したこと無いんだよ。  
 おまえの魔気なんか中の下程度だろうに、何をうぬぼれているんだろう?  
 ‘上の上のさらに上の僕’相手だったら、それはもう悶死するくらいの快楽だろうけど……  
「だから……その、いっぱい声だしていいよ」  
 声出して欲しいの間違いじゃないのか。  
「うん、ありがとうね♪ 心配してくれて」  
「ううん、どういたしまして♪」  
 ふたりでにっこり笑みを交わす。  
 密かに見てる側としては、もどかしさと気恥ずかしさに煩悶とするばかりだ。  
「じゃあ…………挿入れるよ、せんせぇ」  
「いいわ。ゆっくり、間違えないようにね」  
 思わず小さく吹き出してしまった。  
 今まで何十回と先生の交合を目にしてきたけど、こんなこと相手に言うのは初めてだった気がする。  
 というより、そんな(入れるところを間違える?)ことが実際にあるんだろうか?  
「せ、せんせぇ! いくらボクでもそこまでドジじゃないよ!」  
 ほら、ノアも憤ってるし。いや、いつもの根拠のない自信かもだけど。  
「ノアくん……そんなこと言わないで、早く挿入れてほしいわ。ね?」  
 間違えないように――ってホントは言いたかったんだろうな。  
 そういうのを表に出さない先生の意識は好きだけど。  
「……うん、わかった。気持ちよくしてあげるね」  
 
 紅葉を散らした顔で、努めて明るく言うノア。  
 ようやく始まる。  
 彼は自らの男を軽くにぎり、先生の秘底に照準を合わせる。  
 あれだけ言っといて場所を違えたら恥だ。  
 正しい箇所に入れなよ……  
「――んっ!」  
 おお……先生は良い感じにおもてを歪ませて、それからノアに嬌笑をおくった。  
「……当たりよ、ノアくん♪」  
「よかった……」  
 失態を犯さずに済んだ安堵からか、一応は胸を撫で下ろしたらしい。  
 それにしても……いつものことだけど……結合部は実際正視すると、大していやらしく感じない。  
 先生の性交を目撃するまでは、そこはもっと不明瞭で、ぐしょ濡れな想像をしていた。  
 だからというわけじゃないけど、視る側としての合体はあまり好きじゃない(実戦経験無い僕の台詞じゃないけど……)。  
「うごくよ……先生……」  
「いいわ、ノアくん。思いっきり、遠慮なくきて……」  
 短いやりとりを終え、事が開始した。  
「……んんっ!」  
 先ず一度。円滑に奥まで差し込まれた陰茎の刺激に、先生が色っぽい途息をつく。  
 ノアの表情が見もので、両目はぎゅっと閉じて開いた口からよだれを垂らす様は、まるで先刻の絶頂を迎えた先生の姿を見ているようだ。  
 その必死な形相のまま自らの男を中途まで抜き、それから再び奥に捻じ込む。  
「……んふっ!」  
 またも押し殺したような先生の艶声。  
 ノアは女の子みたいな顔が快感にはっきりと染まっているが、あえぎ声一つあげないのが不憫だ。  
 意外と言っては失礼だけど、彼もそういう自尊心を持ち合わせていたということだ。  
「んっ……ふ…………はぁ…………あん……」  
 ノアが頑張って腰を振りはじめると、先生も具合よさげに嬌声を発しだした。  
 先生の両掌はまだ木床に縫い付けられているから、そこまで無理はしていないのだと思う。  
 けど、ノアの方は時間の問題だ。  
 歯噛みして涎をたらして、一心不乱に腰を動かし続けている。  
 いつ果ててもおかしくない状態だろう。  
「ふくっ、あんっ、あんっ! いいわっノアくん……ふあっ! 巧い、じゃない……!」  
「だめ……せんせぇ、だめだぁ! 気持ち良すぎてイっちゃう! 出ちゃうぅぅ!!」  
 褒められてたがが緩んだのか、なんとはなしに本音を洩らしたくさい。  
 突き込む感覚がどんどん短くなってきている。  
 
「いいわ……はぁ、はぁ、来て。来てノアくんっ!!」  
 先生は一度両手をひろげ、次いでその両手を額の辺りに持っていった。  
 完全に受け入れる体勢だろう。  
 ――ノアの碧眼が見開かれた。  
「ごめんなさあぁあん!! あっあっああぁぅ!! やぁああぁ!!!」  
 ノアの、少女のようにあどけない絶頂の快声がひびき渡る。  
 そして間もなく、膣内に放精された先生の表情もひずみを帯びていった。  
「あっ…………ああぁ…………あぁぁああっ!!」  
 貞操の度合いが高ければ高いほど、有している魔気が強ければ強いほど、わき上がる快楽も増す。  
 ノアの魔気量は大したことないはずだが、やはり童貞の潜在力は凄いのか、先生の反応は予想を遥かにこえていた。  
「んっっ……やぁんっっ!!!」  
「いたっ!」  
 なんと、陶然としているノアを突きとばした。  
 そして、展開されたのは見た事がない先生の悶えかただった。  
「だめだめあぁん!! あっあっあっ……いくっいくっ、いっちゃあん!! あぁん!! あっ、はぁあぁん……!!!」  
 弓なりに反り返った躰の中央――秘弦から、あっという間に雨の矢が連射される。  
 それも、留まる様子が全くない。  
「あぁん!! だめ気持ちいっ、あっあっあん!! あんっ!! やだぁぁあぁ…………」  
 両手の爪が木床に食い込むんじゃないかと憂慮したくなるほど、先生の腕には力が入ってきしんでいる。  
 未だに愛液が吹き出ている先生を見て、さしものノアも余韻を貪っている場合じゃないといった様子だった。  
 だけど、どうすればいいのか計りかねている挙動……僕が行くしかないか。  
 いや、今まで密かにしていたのをそう易く無下にするわけにもいかない。  
 もう少し様子を見れるか、な……ん?  
「はぁ…………あ……………………っ――――」  
「「え…………?」」  
 僕も、ノアも、先生が倒れ伏すのを茫然と見守っていただけだった。 四話・おわり  
 
 

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