ガサッガサッ  
 
その木の葉が擦れる音がするたびに私の頭が揺れた。  
その揺れのおかげで、私は意識を取り戻した。  
(わたしは・・・・ひぃっ)  
意識を取り戻した私は、目の前で起こる光景に思わず身をすくめる。  
私はなにかの肩に担がれて、木々の間を跳躍していたのだ。  
横を見ると、さっき私を犯した化け物の横顔が見えた。  
「ひぃい」  
私は小さく悲鳴をあげると、化け物はチラッとこちらを横目で見るが、  
おびえる私を無視してまた次の木へと跳躍する。  
しばらく移動していただろうか。  
 
ドスッ  
 
目的地についたのか、化け物は地面に降り立った。  
揺れのせいで気分が悪くなり、幾度か胃液を吐き出してしまった私は  
真っ青な顔でうなだれていた。  
(や・・・やっととまってくれた・・)  
この強烈な移動がやんでくれた事にホッと一息をいれる。  
 
化け物はぐったりしたセスナに構うことなく  
ドシドシと先に進んでいく。  
(あ・・暗くなった)  
自分の周りから月明かりが消え、闇の中へと移動する。顔をあげると  
洞窟の出口が見え、そこから月明かりが差し込んでいる。  
しばらく洞窟を進んでいくと、急に周りが明るくなった。  
横をみてみると、洞窟の壁の所々が淡く発光している。  
(光ゴケの一種なのかな・・・)  
 
フーーーッ!  
 
そんな事を考えていたセスナの目前に、突然化け物の顔がアップで飛び込んできた。  
「ひぃっ!」  
突然現れた化け物にセスナは緊張で身を縮こませる。  
周りを見渡すと、内部が広がってできた部屋の中で化け物が何匹も確認できた。  
その化け物は大きな荷物のようなものを抱えて移動したり、  
他の化け物と奇妙なうめき声を出し合ったりしていた。  
私を担いでいる化け物は、グァグァアと大きなうめき声を出すと、周りの化け物達もまた  
グァグウァと大きな声で叫び返してきた。  
(こいつらコミニケーションをとってる・・)  
ただの化け物だと思っていたが、どうやら彼らなりのコミニティがあるようだ。  
化け物は私を抱えたまま、部屋にあった通路の一つに入っていく。  
所々分岐があったが、担がれ後ろしか見れない私には、  
分岐の先がどうなっているかはわからなかった。  
 
化け物は急に立ち止まると、セスナを持ち上げ、自分の前に立たせる。  
目の前に相対した化け物を見上げてみる。  
(おっきぃ・・・)  
化け物の顔はトカゲを大きくしたような感じ。体は硬い表皮に覆われてるのが見える。  
手の鉤爪は今は伸びていないようだった。  
と、化け物の股間にある生殖器を見てしまい、思わず顔を赤らめる。  
(あれで、わたし・・・)  
化け物はそっと私の前に両手を突き出すとトンッと軽く押した。  
「きゃっ」  
私はバランスを崩し、後ろにしりもちをついてしまう。  
化け物はセスナに見向きもせず、部屋から出て行った。  
部屋と通路の間には、なにかの蔦のような物が出入りをはばんでいる。  
そしてこの部屋の反対側にも同じような部屋があるのがわかった。  
「セスナ?・・・」  
その声を聞いて振り向くと、見慣れた顔があった。  
「せんぱい・・?」  
部屋の中にはアイミス先輩とミアさんの他に数名の女達がいた。  
女達は一様に俯いてひざをかかえていたり、横になりうつろな目をしていた。  
「よかった・・・」  
アイミス先輩は私の頭を抱え、涙を流して抱きしめてくれた。  
「テレスさんは・・・」  
私がそう聞くと先輩は顔をこわばらせ、俯いてしまった。  
(しんじゃったんだ・・・)  
ついさっきまでパーティのリーダーとして、まだまだ未熟だったセスナに  
やさしく、時には厳しく教えてくれた兄のような存在だった。  
「テレスさん・・・」  
溢れてくる涙を手でぬぐう。先輩も悲痛な表情を浮かべながら涙を堪えていた。  
ミアさんはそんな私達の頭をそっと抱えて抱きしめてくれた。  
ミアさんはテレスさんのお姉さんで、私達の故郷で商店を営んでいた。  
今回の首都訪問はミアさんの護衛がてらに行われたものだった。  
こんな悲劇がまっているとは誰も想像もしていなかったが。  
 
「うぅっ・・・うぅ」  
私の耳に反対側にある部屋の奥からうめき声が聞こえた。  
「あれは・・・?」  
先輩に聞いてみると、先輩は私から目をそらしてしまった。  
そしてゆっくりと右手をあげ、蔦の向こう側の部屋を指差す。  
私はゆっくりと立ち上がり、蔦の牢に近寄って、反対側の部屋を覗いてみた。  
「ひぃっ!」  
その部屋には、こちらと同じように複数の女達がいた。  
ただこちらと違うのは皆大きくお腹が膨らんだ状態で、あきらかに妊娠していた。  
「たぶん、あの化け物の子供を・・・」  
私の後ろに立ったミアさんは俯きながらそう言った。  
私は今自分が置かれている現実を直視し、そして恐怖した。  
「いっ・・いやぁあ・・」  
私は力なくその場にしゃがみこみ、肩を震わせる。  
「うっうううう。うぐう・・」  
突然お腹を大きく膨らませた女の一人がうめき声をあげた。  
その股間からは何かの液体がピチャピチャっとあふれ出している。  
その声を聞いたのか、通路の奥から来た化け物がその部屋に入り、倒れた女を丁寧に抱えあげると  
通路の奥へと運んでいった。  
「う・・生まれるの・・・」  
ミアさんは呆然としながらつぶやき、化け物が消えた方角を見つめる。  
しばらくすると、  
「うっうぁぁぁぁああぁああぁあぁ。あぁぁぁぁあ」  
女の叫び声が通路内に響き渡った。思わず3人は耳をふさぐ。  
10分程続いただろうか。徐々に声は小さくなり、聞こえなくなった。  
 
それからどれくらいたったか、連れて行かれた女を抱えた化け物は  
私達が閉じ込められていた部屋の前を通り過ぎ、さらに奥へと連れられていった。  
「どこへ連れて行かれたのかしら」  
先輩は蔦の間からそっと通路を覗き込んだが、途中で入り組んでいるのか  
すぐに化け物は見えなくなった。  
「出産してしばらくは次の子が生めないから、奥の部屋で休ませるのさ・・」  
いままでずっと膝をかかえ、うつむいていた女が急に喋りだした。  
女は綺麗な顔に疲れきった表情を浮かべ、自分と同じ境遇に立った女達にたんたんと話を続けていく。  
「あいつらは私達を子袋に使うのさ。あいつらだけでは子孫を残せないらしいから」  
指で地面にのの字を描きながら話を続ける。  
「あんたたちだって、もうあいつらの卵を孕んだんだろ?」  
そういって3人の股間に目を向ける。それぞれの股間は化け物にだされた液体がこびりつき  
異様な匂いを放っている。  
その言葉を利いて3人ともうつむいてしまった。  
先ほどの陵辱が思い出されたのだ。  
ふと先輩は何かに気づいたように、顔をあげた。  
「卵?」  
その問いを聞いて、女は先輩を見て苦笑した。  
「あんた感がいいんだね。そう卵だよ。」  
3人は顔を見合わせた。  
「あんた達を犯したのは、言ってみればメスなのさ・・  
 あんた達が出されたのは子種じゃなくあの化け物の卵なんだ。」  
3人は思わず腹部に手をやる。あの時胎内に、なにかを出されたのは分かっていたが  
自分の胎内にあの化け物の卵があるとは信じられなかった。  
「私の胎内にもある。この部屋は卵が吸着するまでの間を過ごす部屋さ。  
 そしてあいつらのオスに子種を注ぎ込まれたら、あっちの部屋に移る事になる」  
そう反対側の部屋を指差した。  
「逃げることは不可能だし、死ぬまでここにいるしかないのさ・・」  
そういって女はまた膝をかかえてうつむいてしまった。  
 
「あなた・・・詳しいのね・・」  
そうミアさんが聞くと女は、  
「もう1回生んだから・・・」  
そうつぶやいた。私たちはそれを聞いて何もいえず、ただ呆然とするばかりだった。  
「あの・・名前は?」  
「サレラ」  
ミアさんが聞くと、サレラさんはぼそっと名前をつげた。  
「他の子はだめだよ・・・もう諦めてるから・・・」  
私たちは他にもいた女達を見てみる。私たちが喋ってるにもかかわらず  
まったく興味をしめそうとせず、ただぼーっと視線を漂わせている。  
「そっちの子やこの子は何度も生まされて壊れてしまったのさ」  
サレラさんの傍らにも横になった状態で、生気の感じられない目を漂わせた少女がいた。  
サレラさんはやさしくその子の髪をなでてやる。  
「この子も私が来た時はまだ大丈夫だったんだけどね・・」  
少女はなんの反応もしなかった。  
(私達もこんな風になっちゃうの・・・?)  
「やだよう・・やだよう・・・」  
私は溢れてきた涙をぬぐいもせず、ただその場で泣くしかできなかった。  
 
つづく  
 

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